著者
池田 智子
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.Special_Issue, pp.59-66, 2013-10-01 (Released:2013-10-10)
参考文献数
8
被引用文献数
1

1972年に職業病予防を目的に制定された労働安全衛生法は,時代とともに私傷病(作業関連疾患)への配慮も含む内容に変わり,近年では労使の参加・協力の枠組みも示されるようになった.今後は,拡充された労働安衛衛生法の目的達成のために,労使主体による予防活動のさらなる推進が重要になるが,それには全ての労働者に対して,自主的活動を行える力をエンパワーメントする必要がある.看護とは,対象者の潜在能力を引き出し最大限に発揮できるようエンパワーメントすることであり,環境改善やポピュレーションアプローチを含む活動であることを,既に1850年代にナイチンゲールが説いた.また保健師とは,当事者が自らの健康課題を解決するプロセスへの援助を核とし,コミュニティを基盤に健康問題をとらえ,予防につながる組織的な取り組みを担い,公的責任を志向する公衆衛生専門職である.保健師や看護師(両者を総称して「看護職」)の活動基盤は「エンパワーメント」の理論と技術であり,今後,労使自主対応型の労働安全衛生を推進するにあたり,重要な役割を担える専門職である.
著者
諫早 庸一 大貫 俊夫 四日市 康博 中塚 武 宇野 伸浩 西村 陽子
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2021-04-01

本研究は、「14世紀の危機」に焦点を当てるものである。「14世紀の危機」とは、「中世温暖期」から「小氷期」への移行期にあたる14世紀に起きたユーラシア規模での、1)気候変動、2)社会動乱、3)疫病流行、これら3つの複合要素から成り、ユーラシア史を不可逆的に転換させた「危機」を意味する。本研究では、気候の変動は人間社会にとって特に対応の難しい20年から70年ほどの周期で「危機」を最大化するという仮説に基づいて議論を進める。100年単位の生態系の長期遷移と、社会や気候の短期のリズムとのあいだにある中間時間を、気候データと文献データとの組み合わせによって危機のサイクルとして析出する。
著者
阿部 亮吾
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.84, no.1, pp.1-21, 2011-01-01 (Released:2015-01-16)
参考文献数
45

旧河道の陸化過程と植物群落の発達との対応関係を示すため,旧河道の陸化過程を自然区間と河川改修区間に分けて分析し,さらに自然区間では分断後約100年間の植物群落の変化と,内部の植物群落の分布構造を明らかにした.河川改修区間では人工堤防と流路の直線化によって陸化過程が変化した.自然区間では洪水撹乱の減少と細粒物質の堆積によって,分断後45~60年を境に木本種が先駆種から湿地林の構成種に変化した.分断後100年以上経過した旧河道では植物群落が地下水位に応じて分布した.上流側陸化部分では洪水時の土砂堆積によって陸化と樹林化が進展した.下流側陸化部分では旧河道内部からの流水により陸化部分の拡大が制限され,さらに,分断初期の地表面の乾燥化により植物群落の発達が遅れていた.旧河道内部の洪水撹乱が弱い場所では分断以前に形成された地形面に従って植物群落が分布し,谷壁斜面からの土砂流入によって陸化と樹林化が進展した.
著者
小川 順子
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 (ISSN:09150900)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.73-92, 2006-10

本論の目的は、美空ひばりが銀幕で果たした役割を考察することによって、チャンバラ映画と大衆演劇の密接な関係を確認することである。戦後一九五〇年代から六〇年代にかけて、日本映画は黄金期を迎える。当時は週替わり二本立て興行が行われており、組み合わせとして、現代劇映画と時代劇映画をセットにするケースが多かった。そのように大量生産されたチャンバラ映画を中心とした時代劇映画のほとんどは、大衆娯楽映画として位置づけられ、連続上映することから「プログラム・ピクチャア」とも呼ばれている。映画産業を支え、発展させ、もっとも観客を動員したこれらの映画群を考察することには意義があると考える。そして、これらの映画群で重要なのが「スター」であった。そのようなスターの果たした役割を看過することはできないであろう。本論では、戦後のスターとして、あるいは戦後に光り輝いた女優として活躍した一人であるにもかかわらず、「映画スター」としての側面をほとんど語られることがない「美空ひばり」に焦点を当てた。そして、彼女によってどのように演劇と映画の関係が象徴されたのかを検証することを試みた。
著者
Inovasita Alifdini Teruhisa Shimada
出版者
公益社団法人 日本気象学会
雑誌
SOLA (ISSN:13496476)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.154-158, 2022 (Released:2022-07-17)
参考文献数
23
被引用文献数
2

This study investigates the diurnal variation of surface wind divergence in the seas of the Maritime Continent by using satellite scatterometer observations and atmospheric reanalysis data. This is the first study to demonstrate the distribution and seasonal variation of the diurnally varying surface winds in the Maritime Continent in terms of wind divergence. Wind divergence develops from the coasts of the islands toward the center of the seas and dominates during the afternoon and evening hours. Wind convergence dominates over the seas during the nighttime and morning hours. The offshore extensions of the wind divergence and convergence from the coast differ regionally and thus show the asymmetric patterns with respect to the center of the seas. In particular, strong wind divergence develops from the southern coasts of the Java Sea and the Arafura Sea to extend northward beyond the center of the seas. The diurnal amplitudes of wind divergence vary seasonally and reach a peak in September in most of the seas. The switching times between wind divergence and convergence are almost fixed throughout the year regardless of the monsoon reversal.
著者
Sho Kawazoe Masaru Inatsu
出版者
公益社団法人 日本気象学会
雑誌
SOLA (ISSN:13496476)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.147-153, 2022 (Released:2022-07-17)
参考文献数
23
被引用文献数
2

We investigated the sub-seasonal predictability of heavy snowfall events in Iwamizawa, Hokkaido, using the Japan Meteorological Agency's 1-month ensemble predictions. First, the self-organizing map (SOM) technique was applied to the Japanese 55-year Reanalysis sea-level pressure anomalies to identify weather patterns resulting in heavy snowfall. It revealed that heavy snowfall developed in SOM nodes (weather patterns) with low-pressure centers to the east/northeast of Hokkaido and Siberian high to the west, resulting in westerly to northwesterly monsoon winds traversing the Sea of Japan towards western Hokkaido. Next, ensemble forecasts were projected onto the SOM map to determine the predictability of weather patterns up to a month in advance. For winter 2019, there was relatively low probability of projecting a high number of ensembles in SOM nodes to those observed in the reanalysis. In contrast, much higher probability was seen in 2020 to ∼10 forecast days. When considering multiple SOM nodes that contribute to heavy snowfall in the forecast, both winters saw more ensemble members predicting heavy snowfall to ∼10 forecast days. We also saw a higher probability of heavy snowfall beyond 10-days in 2020. These results highlight the potential benefit of incorporating multiple weather patterns to forecast heavy snowfall.
著者
Jae-yong Lee Seung-Min Lee Seung-Jae Lee
出版者
公益社団法人 日本気象学会
雑誌
SOLA (ISSN:13496476)
巻号頁・発行日
pp.2022-028, (Released:2022-07-19)
被引用文献数
1

This study performed 4-day numerical integration in 1-hour intervals using the Weather Research and Forecasting (WRF) model for four major cases of heavy snowfall that occurred from 2020 to 2021. The model-predicted snow depth data were compared with the ground-observed snow depth and the satellite-observed snow cover data and then were statistically verified. The scalar verification results for ground data from the four cases showed a root–mean–square error of 2.55-16.67 cm and a correlation coefficient of 0.48-0.80, whereas the verification results with satellite data showed the correlation coefficients of 0.38-0.60. For categorical verification, using a threshold value of a snow depth exceeding 5 cm, the proportion correct was 90% or higher for ground observations of each case. In addition, in the satellite categorical verification, when the threshold value of the Snow Cover Fraction (SCF) exceeds 0.5, the proportion correct was 50% or more. These results are meaningful because the model snow depth verification methods were devised strategically for the first time using both the snow depth data of the mesoscale ground observation networks and ultra-high-resolution Sentinel-2 satellite data currently available in Korea. The findings of this study will contribute to the development of a high-resolution numerical prediction model and its verification methodology for snowfalls in the Korean Peninsula, eventually leading to increased prediction accuracy and reduced snow damage.
出版者
金城学院大学
巻号頁・発行日
2018

元資料の権利情報 : CC BY-NC-ND
著者
城戸 佐登子 林 谷秀樹 岩崎 浩司
出版者
獣医疫学会
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.77-87, 2001 (Released:2011-03-05)

1995年2月~1995年6月の5ケ月間に、関東地方1都6県の51動物病院で、ならびに1997年10月~1998年3月の6ケ月間に、関西、中国地方を中心にする1都2府10県の25動物病院で、カルテから選んだ15歳以上の犬および猫(以下、長寿犬または長寿猫とする)と、1994年4月~1995年3月の1年間ならびに1997年12月~1998年10月の11ケ月間に、それぞれ上記の51と25動物病院に来院し、5~9歳で死亡した犬および猫(以下、対照犬または対照猫)について、性、年齢などの宿主要因や食事や散歩などの飼育状況などについてアンケート調査を行い、各項目についてオッズ比を算出し、長寿に関連する要因の抽出を試み、以下の成績を得た。 1)長寿群と対照群との間で、犬では、品種、避妊の有無、飼育の目的、飼育場所、散歩の頻度、同居動物、食事内容、牛乳の給与および間食の項目で、猫では、性別、避妊の有無、飼育の目的、飼育場所、同居動物、食事内容、牛乳の給与および間食の項目で、両群間に有意差が認められた。 2)各項目ごとに長寿に関与するオッズ比を算出すると、犬では「雑種」、「毎年予防接種をした」、「毎日散歩をした」、「同居動物がいた」、「食事として手作り調理を与えた」および「牛乳を与えた」のオッズ比がそれぞれ3.36、2.40、3.21、2.44、2.46および3.75で有意に高く、「室外で飼っていた」が0.25で有意に低がった。猫では「雌」、「同居動物がいた」、「食事として手作り調理を与えた」および「牛乳を与えた」のオッズ比がそれぞれ5.16、2.32、2.34および2.00で有意に高く、「室内外で自由に飼っていた」が0.41で有意に低がった。 3)以上の結果より、長寿に関与する項目として抽出されたものは、犬猫ともに飼育者が飼育動物に対して行っている適切な健康管理や飼育管理の項目がほとんどであり、長寿な動物は飼育者から飼育や健康管理に手をかけられたものであることが明らがとなった。得られた成績は、今後のコンパニオンアニマルの飼育や健康管理を考える上で貴重な基礎知見になるものと考えられる。
著者
牧野 利明
出版者
名古屋市立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

漢方薬が引き起こす副作用のうち頻度が高いものに偽アルドステロン症がある。 本研究では、 偽アルドステロン症発症の個体差を説明するマーカーとして、甘草含有成分グリチルリチンの代謝物である 3MGA に着目し、 腎尿細管細胞内への移行性から偽アルドステロン症発症には本化合物が深く関わることを示唆する知見を得た。本研究から、 漢方薬を服用する際に血液または尿中 3MGA をモニタすることで、 副作用発症を予防できる可能性がある。
著者
濵田 毅 Tsuyoshi Hamada
出版者
同志社法學會
雑誌
同志社法學 = The Doshisha Hogaku (The Doshisha law review) (ISSN:03877612)
巻号頁・発行日
vol.74, no.1, pp.25-142, 2022-04-30

従来逮捕・勾留中の被疑者に関する取調べ受忍義務肯定説(実務)と同否定説の対立が固定化しているところ、否定説について取調べ目的論からの難点や立案経緯と整合しないとの問題点を指摘すると共に、肯定説について形式的・実質的根拠及び本質的意義を明らかにした上で、従来議論されることが希であった受忍義務の存続に関し、取調べの必要性が消失すれば黙秘権保障の趣旨から同義務も消滅する旨の新たな肯定説を説くものである。
著者
柳 淳也 川村 尚也 山田 仁一郎
出版者
特定非営利活動法人 グローバルビジネスリサーチセンター
雑誌
赤門マネジメント・レビュー (ISSN:13485504)
巻号頁・発行日
pp.0200930a, (Released:2020-12-22)
参考文献数
107
被引用文献数
1

1990年代以降、イギリスを中心にクリティカル・マネジメント研究 (Critical Management Studies:CMS) が興隆しているが、難解な理論的研究が多く対象も広範囲にわたり、日本の経営学分野では広く知られているとは言い難い。そのため本研究ではCMS とは何か、何が「クリティカル」なのか、どういった経緯で誕生したのか、さらに、どういった対象領域で研究が盛んであるかを明らかにするために系統的レビューを行った。その結果、1) 批判理論から発展したCMS は、現在では多様な理論的背景をもち、人種、環境、セクシュアリティ、ジェンダーといった様々な視座に依拠した研究がなされていること、および、2) CMS を特徴づけるものとして、非自然化・再帰性・(非) パフォーマンス志向が挙げられ、近年、パフォーマンス志向についての議論から発展した批判的行為遂行性に関する研究が多くみられること、などが明らかとなった。
著者
壇 順司 国中 優治 高濱 照
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0431, 2006 (Released:2006-04-29)

【目的】足関節の関節安定化は,内外側靱帯の自動締結作用や腓骨筋及び後方深部屈筋の内外側からの締め付け作用により行われていることは周知の通りであるが,その相互作用についてはあまり知られていない.隣り合う靱帯と腱の間では,関節運動に伴いそれぞれが干渉し合いながら何らかの相互作用があると考えられる.そこで遺体を用いて足関節内外側靱帯と腱の足関節底背屈運動における相互作用について検証したのでここに報告する.【対象】熊本大学大学院医学薬学研究部形態構築学分野の遺体で,可動性(底屈60°から背屈20°)がある右4足関節,左2足関節にて標本1から3を作製し使用した.標本1:右3足関節,左2足関節を用いて,長短腓骨筋,後脛骨筋,長母趾屈筋,長趾屈筋,内外側の靱帯,関節包を残したものを使用した.標本2:右1足関節を用いて外内果の中央付近の前額面で切断したものを使用した.【方法】1)標本1を用いて内外側の矢状面より,静的な腱と靱帯の位置関係を調べた.2)標本1を用いて底屈60°から背屈20°まで他動的に動かし,腱と靱帯の関係を調べ,距骨外側面と腓骨外果内側面が接する角度を調べた.3)標本2を用いて前額面より,静的な腱と靱帯の関係を調べた.【結果】1)外側では,前距腓靭帯,踵腓靭帯(以下,CFL),後距腓靭帯があり,後距腓靭帯とCFLの表層を長短腓骨筋腱が走行していた.内側では,三角靭帯(前脛距部,脛舟部,脛踵部,後脛距部)があり,脛踵部・後脛距部(以下,DL)の表層を後脛骨筋腱が走行していた.2)底屈32.1±2.3°で,長短腓骨筋腱がCFLを,後脛骨筋がDLを圧迫し始めた.CFLとDLはこの角度から背屈で緊張し続けた.また距骨滑車の外側面にわずかな突出部があり,底屈27.1±2.3°でその突出部と外果内側面が接し,外果が外に押し出され,下脛腓関節が広がった.3)切断面で見ると,CFLと長短腓骨筋,DLと後脛骨筋が接しており,腱を起始部の方へ牽引すると靱帯が内上方へ圧迫された.【考察】まず,CFLや三角靭帯(脛踵部)は踵骨に付着しており,この靱帯が緊張すれば,踵骨は距骨に,距骨は関節窩に押しつけられ固定されることになる.つまり背屈に伴い靱帯の緊張が高くなることと長短腓骨筋腱や後脛骨筋腱がこれらの靱帯を内上方へ圧迫することで,関節の安定性が得られると考えられる.特に靱帯損傷が多い外側で,底屈約30°では骨性の安定が乏しいため,長短腓骨腱によるCFLへの圧迫作用がなければ,関節の不安定性は増大することが推察される.次に外内果の下部でCFLや三角靭帯(脛踵部)が滑車の役目を担い,底屈運動時に腱と関節中心部の距離を保ち,関節モーメントを維持することで,長短腓骨筋や後脛骨筋が効率的に活動するようにしていると推察される.つまりCFLと長短腓骨筋,DLと後脛骨筋が相互に作用し,関節の安定化や筋の活動効率に関与しているといえる.