著者
平賀 一希
出版者
日本地方財政学会
雑誌
日本地方財政学会研究叢書 (ISSN:24367125)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.105-124, 2021 (Released:2022-03-26)
参考文献数
15

本稿では,震災や火山噴火警戒レベル上昇といった自然災害による外生的ショックが自治体の入湯税収に与える効果について,箱根町のデータを用いて実証分析を行う.箱根町においては,全国自治体でもっとも多くの入湯税収を得ているおり,具体的には,2008年1月から5地区別で月次データとして収集している.本稿においては,自然災害ショックとして,直接的な影響として箱根山の噴火警戒レベルが変化したことと,間接的な影響として,東日本大震災による全国的な自粛ムードを通じた影響について検証を行った.2つの自然災害ショックの影響を定量的かつ動学的波及効果を明らかすべく,パネルLocal Projectionという手法を用いて検証を行った.本稿の分析結果より,東日本大震災発生時のショックは大きく,発生時点では,各地域において平均約745万円(5地域計約3725万円)ほど入湯税収が減少し,箱根山噴火警戒レベルショックは約139万円(5地域計約695万円)ほどであった.一方,ショックの持続性という観点で見ると,東日本大震災の影響は2か月ほどで収束している一方,火山噴火の影響については,7か月ほど持続していることが分かった.
著者
小松 敏彦 松下 唯夫 鳴川 六司 辻 忠
出版者
大阪外国語大学
雑誌
大阪外国語大学論集 (ISSN:09166637)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.257-264, 1990-03-31

本研究は、健康な男女学生14名を対象に大学周辺の坂道(上り坂・下り坂)歩行について、エネルギー量を実測し、この値を基に運動強度、身体活動量を推定することで、日常生活での健康・体力づくりのための運動処方に役立てようとした。その結果、次のことを得た。1)各歩行での歩行速度は、男女間で平均64.9〜74.0m/分であり、上り坂は下り坂よりも小さな値を示した。2)生理的負担度を酸素需要量、RMRから捉えた。男女とも上り坂歩行において大きな値を示した。また、これらの値の男女間には統計的な有意差は認められなかった。3)身体活動量の平均値は、上り坂で男子で61.9RMR・分、女子で59.2RMR・分下り坂ではそれぞれ26.5RMR・分、25.2RMR・分を示し、往復では、男子88.4RMR・分、女子54.4RMR・分であった。4)RMRと身体活動量(RMR・分)の関係をみると、各歩行間において、男女とも有意な相関関係が得られた。また、被検者全員と全歩行とをみた場合も高い相関が得られ(r=0.98)、その回帰方程式はY^^^(RMR・分)=15.32X(RMR)-5.08であった。以上のことから、坂道歩行中のエネルギー量を測定することで、その運動強度、身体活動量を推定することができ、日常生活への身体運動をとり入れるための一つの指標を得ることができた。
著者
松岡 悟 庄司 亮 阿部 元 田村 芳一 齊藤 崇
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.70, no.5, pp.437-447, 2022 (Released:2022-02-20)
参考文献数
23

急性冠症候群(ACS)において回復期(第Ⅱ相)リハビリテーションの脂質プロファイルに対する効果と運動耐容能に対する効果との関連を明らかにするため,PCIに成功し回復期リハビリテーションを実施したスタチン服用中のACS連続104例(62±8歳,男性86例)に対し,リハビリテーション前後のCPXと同時期の脂質データについて後ろ向きに検討した。4か月間のリハビリテーションにより,予測値に対する%ATは67±11%から76±12%へ有意に増加(p<0.001),HDLCは41.5±11.8mg/dLから51.4±12.6mg/dLへ有意に増加(p<0.001),LDLC/HDLC比は2.3±0.8から1.8±0.6へ有意に低下した(p<0.001)。HDLC変化量と%AT変化量との間に正の相関を(r=0.463),HDLC変化率と%AT変化率との間にも正の相関を(r=0.485)認めた。またLDLC/HDLC比変化量と%AT変化量との間に負の相関を(r=-0.379),LDLC/HDLC比変化率と%AT変化率との間にも負の相関を(r=-0.374)認めた。重回帰分析の結果,HDL変化量およびLDLC/HDLC比変化量の関連要因として%AT変化量が,HDL変化率およびLDLC/HDLC比変化率の関連要因として%AT変化率が抽出された。以上により,ACS患者に対するスタチン服用下の回復期リハビリテーションにおいて,脂質プロファイルの改善と%ATの改善とが関連することが示された。
著者
清水 建美 植田 邦彦 山口 和男
出版者
金沢大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1994

本研究は高山植物を対象に、起源・伝播経路・分布パターンの成立過程といった生物地理学的課題をDNA情報を導入することによって解明し、DNA地理学に先鞭をつけることを目的としている。この種の研究では対象植物が常に大量に入手できるとは限らず、したがって少量の材料から効率よくDNAを抽出、増殖させる方法が求められる。まず、このような実験方法について研究、実施した。次いで、日本列島をはじめ世界各地から収集した高山植物、42種210試料について葉緑体DNAのtrnLとtrnFの遺伝子間領域、3種34試料についてtrnL遺伝子のイントロン領域の塩基配列を解析したところ、ハクサンチドリでは全分布域にわたって多型は認められず、アキノキリンソウ・コケモモ・ヤナギランなどの植物は、多型はあるものの地理的なまとまりは認められず、イワオウギ・イワツメクサ・ゴゼンタチバナ・ミヤマアズマギクなどでは北海道と本州の集団間にも多型はなく、また、ヒメクワガタやミヤマゼンコなどでは同一種内の変種間にも多型はなく、エゾウスユキソウとハヤチネウスユキソウでは異種間であっても多型は認められず、葉緑体DNAの変異の現れ方は分類群によりさまざまであることが判明した。一方、エゾコザクラ群およびヨツバシオガマ群においてはそれぞれ6および11の葉緑体DNA型が検出され、塩基配列の違いによって最節約樹を作成したところ、ともに広い分布範囲をもつ北方型、中部山岳群に細かく地域的に分化した南方型に大きくわけられるなど、生物地理学的に意義深い情報をうることができた。また、谷川岳でキタゴヨウマツ・ハッコウダゴヨウ・ハイマツの3集団間での遺伝子の動きを解析したところ、花粉はハイマツからキタゴヨウに供給されて浸透交雑が起こり、ハッコウダゴヨウが形成されることを見出した。
著者
植松 貞夫
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.52-57, 2020-02-01 (Released:2020-02-01)

単なる建築空間を図書館として性格付ける要素であることから,図書館家具は図書館建築の主役の一つである。書架や閲覧机等の形状とその配置は利用者と職員の使いやすさ,働きやすさを左右する。本論では,図書館職員に家具についての理解が深まることを目的に,はじめににおいて,家具について分類や備えるべき性能等の基本的な事項をまとめるとともに,本体工事と家具工事の違い等について概説した。続いて,主要な家具である書架と閲覧用の机と椅子,カウンターについて,寸法や素材等,既製品から選択する際や特別設計の注文に際して注意すべき点を整理した。
著者
加地 雄一
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.36, no.Suppl., pp.1-4, 2012-12-20 (Released:2016-08-09)
参考文献数
8

本研究の目的は未知漢字の記憶における書字動作の効果を検討することである.漢字の自由再生と手がかり再生について2つの学習条件(書字,目視)間で比較した.学習リストはJIS第4水準から選定した12の漢字の形態・意味ペアで構成されていた.参加者は大学生47名であった.形態,意味の自由再生成績は,学習条件間で有意な差は見られなかった.一方,手がかり再生(形態を手がかりにした意味の再生,意味を手がかりにした形態の再生)成績では,目視条件が書字条件よりも有意に高かった.これらの結果から,書字動作は未知漢字の記憶を促進させず,むしろ干渉的な効果をもたらす場合があることが示唆された.
著者
真鍋 勇一郎 衣川 哲弘 和田 隆宏 田中 聡 角山 雄一 中島 裕夫 土岐 博 坂東 昌子
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.69, no.7, pp.243-252, 2020-07-15 (Released:2020-07-15)
参考文献数
30

放射線の生体影響は様々なデータが蓄積している。しかしながらそれらの定量的,体系的な理解が不足している。我々は数理モデルによる理解を進めて来た。現在までの研究の進展と今後を展望したい。また,分野横断研究の必要性についても述べたい。
著者
佐々木 正輝
出版者
岩手大学
巻号頁・発行日
pp.1-53, 2010

現代社会はストレス社会ともいわれ,私たちには様々なストレスがのしかかっている。フラストレーション事態や葛藤に陥った時,理性的に対処して合理的解決ができず,非生産的で不適切な行動に走ってしまう人を社会不適応という。この不適応の反応様式は多岐にわたるが,二つに大別され,自己内に逃避する消極的なものを非社会性,外部に向かって攻撃的,破壊的反応をとるものを反社会性という。高度経済成長をとげ,国民生活が向上し,便利生活が享受できるようになった昨今,そういった時代に生まれた私たちは,不健全な欲望に対する自己抑制力や逆境に対する耐性が弱くなってきていることは否めない。同様に,高度情報化はそれらの問題に拍車をかけ,前述の非社会性を有した人々の逃げ場になっていると同時に,押しつぶされた反社会性の集積した場所になっている。一昨年6月の秋葉原連続殺傷事件といった凶悪犯罪が,近年たびたび日本のマスメディアを騒がせている。こういった猟奇的な殺人事件を起こす人間とは,いったいどんな人間なのだろうか。一説によると,この秋葉原連続殺傷事件の犯人は,神戸連続児童殺傷事件 (1997年) の犯人 (酒鬼薔薇聖斗・逮捕時14歳) や2000年の西鉄バスジャック事件の犯人 (ネオむぎ茶・逮捕時17歳) と,世間から注目を集めた少年犯罪と同世代 (同学年・1982年4月2日 - 1983年4月1日生まれ) であることから,「理由なき犯罪世代」として世代論について語られたこともある (産経新聞2008年6月11日) 。犯罪とパーソナリティの関係を考えると,凶悪犯罪者,重大犯罪者に多いとされるのが,サイコパスや,反社会性パーソナリティ障害 (ASPD) である。彼らは,社会規範に沿うことができない,自身の利益のために嘘をついたり人を操作したりする,衝動的で暴力行為に及ぶ傾向がある,無責任で自身の行為に自責の念をもたないといった性質をもち,集団生活において様々な不利益をもたらす場合がある。その性質上,犯罪を繰り返す人,快楽犯罪者などの意味で使われることが多い。また,サイコパスやASPDは,一般人口よりもこの障害を持つ人の生物学的第一度近親に多く,遺伝的要因を含んでいることがわかっている。一方でふつうの人々は罪を犯してしまう前に,自身の理性がブレーキをかけ,その行為を抑制する。犯罪者はそうした衝動性を止めることができずに実行に移してしまう点が一般の人々とちがうということができ,前述の遺伝のことを考えると,そこに何らかの先天的要因が存在すると予想できる。先天的なパーソナリティにおけるブレーキと考えられるのが,下記のCloninger理論における損害回避という概念である。Cloniger理論とは,気質と性格の7次元で構成され,パーソナリティと遺伝子多型との関連性の研究で,近年注目されている理論である。気質は先天的で,そのうち新奇性追求 (HA) ,損害回避 (HA) ,報酬依存 (RD) は,それぞれ,中枢神経内のdopamine,serotonin,norepinephrineの神経伝達物質の分泌と代謝に依存していると想定される (Cloninger,1987) 。中枢神経系内のserotonin分泌と関連があるとされる損害回避は,車でいえばブレーキに当たる存在であり,この傾向が強いと,不安を感じやすく,悲観傾向が強いとされる。一方で,この傾向が弱いとのん気で,危険行動を起こしやすいとされる (木島ら,1996) 。また,犯罪の生理学的研究として,犯罪者の脳波研究も古くから盛んに行われている。著者は学部時代から脳波について学ぶ機会に恵まれ,これまでも何度か測定を行ってきた。犯罪と脳波に関する研究は,従来,犯罪者に対するものがほとんどであり,犯罪行為に走る要因や,パーソナリティと脳波に関する研究は活発には行われてこなかったようである。そこで,本研究では,犯罪と深くかかわっている反社会性と損害回避の関連を明らかにすること,また,反社会性と脳波の関連を検証していくことを目的とする。
著者
前田 奎 大山卞 圭悟 尾縣 貢
出版者
日本コーチング学会
雑誌
コーチング学研究 (ISSN:21851646)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.137-148, 2021

<p>&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;This study reports a coaching case of a male athlete (abbreviated to "athlete A" after this) who had a problem that left foot lands on the "under-rotation" position during second-turn phase in the discus throw. Since athlete A is the author, this study shows processes and reflections of self-coaching. First, one of the factors which caused "underrotation" was that athlete A was too self-conscious about quick touchdown of left foot during second-turn phase. Then, "turn drill without landing left foot" and "half-turn throw" were adopted as technical training to resolve "under-rotation". Although the number of trials which left foot lands on the "under-rotation" position reduced to a certain degree after both training, the problem had not been resolved completely. However, coaching processes showed in this study can contribute accumulation of a case study to construct general theory about resolving "under-rotation" in the discus throw.</p>