著者
酒井 雅史
出版者
大阪大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は、西日本諸方言の敬語運用の地理的バリエーションを明らかにしようとするものである。これまでの方言敬語に関する研究では、敬語形式の地理的分布と特徴的な運用が個別に指摘されてきているという問題があった。本研究では、この問題に対して、各地に赴いて収集した会話データを分析することで、敬語形式の体系とその運用の双方に関する記述を行い、敬語運用ということばの運用に関する分布を明らかにする。さらに、どのように方言が形成されるのかという課題に取り組む方言形成論の分野では昨今議論が活発になってきているが、敬語運用の地理的分布を明らかにすることによって当該分野に新たなモデルを提示する。
著者
岸江 信介 西尾 純二 峪口 有香子
出版者
奈良大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本研究では、主に関西と関東における無敬語地域の配慮表現に注目し、無敬語地域が有敬語地域とは異なるウチ社会を基盤とした言語共同体を形成しているという仮説のもとに配慮表現の研究を進めている。関西地域においては、すでに有敬語地域である京都・大阪をはじめ、無敬語地域である熊野・新宮地方などで多人数の調査を実施し、有敬語地域における配慮表現の運用状況のみならず、無敬語地域における配慮表現の実態についても把握することにつとめてきた。現代日本語の待遇表現や配慮表現の使い分けの目安とされてきた目上/目下,ウチ/ソト,心理的・社会的距離の遠近,親疎関係,恩恵の有無といった敬語地域では成り立つが,無敬語地域にもこの軸を当てはめ,有敬語地域と比較することはできるのであろうか。無敬語地域では,地域を構成する成員間の関係が都市部と比較してより緊密であり,ウチ/ソトといった関係も,都市部とは異なり,ウチ社会のみをベースとして形成されていると考えられる。無敬語地域では一般的に敬意表現や配慮表現が有敬語地域と比較して希薄に見えるのは,このような要因が大きく関与しており,ウチ社会独特の言語行動の規範となるメカニズムが存在するという仮説を立てることができる。この仮説検証のため,本年度はおもに無敬語地域とされる北関東地域の茨城県の漁村地域を中心に調査を実施した。この調査を進めるなかで次第に明らかになったことは,無敬語地域といえども都市化が急速に進みつつあり,従来、無敬語地域とされてきた地域の有敬語化が起きており、この変化はかなり進行しているということであった。これに伴い、配慮表現の運用についても、有敬語地域とほとんど変わらない実態が明らかとなった。
著者
久岡 朋子
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

[1]発達過程、及び成獣のKirrel3欠損マウスにおいて、小脳バスケット細胞とプルキンエ細胞間(ピンスー)シナプスのバスケット細胞軸索の分枝に異常があるかを検討するために、NF200の免疫染色を行った結果、野生型マウスと比べてKirrel3欠損マウスでNF200陽性領域と輝度の有意な増加が認められた。さらに、ビルショウスキー染色を用いてバスケット細胞軸索の分枝形態を検討した結果、Kirrel3欠損マウスで過剰な分枝が見られた。[2]オープンフィールドテストにおける多動(ADHD)を伴う常同行動(ASD)の亢進により活性化、または抑制される脳部位を、神経活動依存的に発現するc-fos蛋白を指標として、野生型とKirrel3欠損マウス間で比較した結果、いくつかの領域で異常を見いだしており、現在、個体数を増やして解析中である。[3] Kirrel3欠損マウスにADHD治療薬でドーパミン伝達系の賦活薬であるメタンフェタミンを腹腔内投与し、オープンフィールドテストによりADHD様行動(多動)が改善するかを検討した結果、メタンフェタミン非投与群と比べて多動の有意な亢進が見られた。この結果から、Kirrel3欠損マウスのADHDを伴うASDの病態として、ADHDで報告されているドーパミン伝達系の低下ではなく、ドーパミン伝達系の亢進が関連している可能性が示唆された。[意義・重要性] ADHDを伴うASD様行動を示すKirrel3欠損マウスの小脳において、ピンスーシナプスの形成に異常が見られ、ADHD治療薬であるドーパミン系賦活薬の投与によりADHD様行動の増悪が見られたことから、この疾患の新たな病態を見いだした。これらの知見から、ADHDを伴うASDと小脳やドーパミン伝達神経回路との関連性をさらに解明することで、ADHD単独の病態とは異なるこの疾患の治療法の開発に役立つと考えられる。
著者
角 大輝 佐藤 譲
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

複素多様体上の正則写像のなす半群の力学系と、正則写像の族によるランダム力学系の両者の理論を、互いに交錯させながら基礎から構築し、出来上がった理論を純粋数学にとどまらず非線形物理学や数理生物学などの他分野へ思想的・哲学的に訴えかけた。ランダム力学系におけるカオスと秩序の間のグラデーションなど、新しい世界観を提供した。具体的には、「協調原理」により大概のランダム複素多項式力学系において通常の複素力学系よりカオス性が弱まり、秩序性が生まれることを発見し、カオス性が弱まった中にもカオスと秩序の間のグラデ―ションが存在していることを発見して、マルチフラクタル解析などを用いて研究を深化させている。
著者
寺田 元一
出版者
名古屋市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

初年度は7月の国際科学史学会で、「モンペリエ学派における生気論的生物観の形成と中国医学(フランス語)」という題目で報告し、その報告がArchives Internationales d'Histoire des Sciencesの最新号に掲載された。そこでは、1)中国医学(漢方を含む)のヨーロッパへの導入には二ルートがあり、中国医学は共通して西洋医学に器官の共感という問いを提起していたこと、2)中国医学の身体観の生気論的生理的機序(エコノミー・アニマル)観への同化が、被刺激性という問題系をめぐる論争を通じてのみでなく、脈学の生理学的「革命」を通じても実現されたこと、3)機械論に打ち勝つための身体観をメニュレが中国医学のうちに見出したこと、4)メニュレが中国医学の生理的機序観を同化して生気論の生理学的地平を拡大したことを明らかにした。第二年度はモンペリエ学派の脈学が生気論の成立の場として機能したことを明らかにした。論文Lasphygmologie montpellieraine : le role oublie du pouls dans l'emergence du vitalisme montpellierainによって、18世紀における中国医学と西洋医学との交流、モンペリエ学派の脈学の展開、生気論の成立という、相互に独立に研究されてきた対象について、始めて本格的に解明のメスを入れることができた。その結果、1)モンペリエ生気論が初期には未だアニミズムから自由でなかったが、関係的生理的機序観によってそれを乗り越えたこと、2)この関係的見方は、モンペリエ学派の脈学を狭い予診論的枠組みから広い生理学的地平へと転回させ、身体の表層と内部を結ぶ生理的機序の連関のうちに脈を位置づけ直すのに成功したこと、3)とりわけ、メニュレが中国医学の関係的見方を導入したことを通じてその転回は果たされ、身体全部分の競合・共鳴から生命が成立するという新たな生気論的見方に変わったことを、明らかにできた。
著者
津田 誠
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2005

正常動物の脊髄腔内ヘインターフェロンγ(IFNγ)を投与することで,脊髄ミクログリアの活性化および持続的なアロディニア(難治性疼痛様の痛み行動)が発現した.脊髄におけるIFN γ受容体(IFN γ R)の発現細胞をin situ hybridization法により検討したところ, IFN γ R mRNAはミクログリアに特異的に検出された.さらに,IFN γによるアロディニアは,ミクログリアの活性化を抑制するミノサイクリンによりほぼ完全に抑制された.したがって,IFN γはミクログリアに発現するIFN γ Rを刺激して,ミクログリアを活性化し,持続的なアロディニアを誘導することが示唆された.そこで,実際の難治性疼痛モデル(Chungモデル)におけるIFNγの役割を, IFN γ R欠損マウス(IFN γ R-KO)を用いて検討した.野生型マウスでは神経損傷後にアロディニアの発症およびミクログリア活性化が認められたが,IFNγR-KOでは両者とも著明に抑制されていた.以上の結果は,IFN γが難治性疼痛時におけるミクログリアの活性化因子として重要な役割を果たしている可能性を示唆している.P2×4受容体発現増加因子としてfibronectin(FN)を同定した.本年度は, FNによるP2×4発現増加分子メカニズムを明らかにすべく,Srcファミリーキナーゼ(SFK)に注目した.ミクログリア培養細胞において,Lynキナーゼが主なSFK分子であること,さらに脊髄における発現細胞もミクログリアに特異的であることを明らかにした.さらに,Chungモデルの脊髄では, Lynの発現がミクログリア特異的に増加した.Lynの役割を検討するため, Lyn欠損マウス(Lyn-KO)を用いた.野生型マウスでは神経損傷後にアロディニアの発症およびP2×4の発現増加が認められたがLyn-KOでは両者とも有意に抑制されていた.さらに,Lyn-KOミクログリア培養細胞では, FNによるP2×4発現増加が完全に抑制されていた.以上の結果から,Lynは難治性疼痛時のP2×4発現増加に必須な細胞内シグナル分子であることが示唆された.
著者
深澤 芳樹
出版者
独立行政法人文化財研究所奈良文化財研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

日本列島にタタキ技法が初めて現れるのは、弥生土器においてである。その技法は、すでに高い水準にあったことから、自生したとは考えられず、その由来を海外に求めざるをえない状況にあった。その候補にはこれまで、灰陶系統の瓦質・陶質土器があったが、これは本研究の3つの視点、つまり道具・製作工程・身体技法から、とても肯首できるものではないことが明らかである。最近、朝鮮半島の無文土器のうち、松菊里式土器にタタキメとおぼしき凹凸痕が、発見されることが増えてきた。本研究経費を用いて、大韓民国で忠清南道寛倉里遺跡や忠清南道古南里貝塚の資料を詳細に観察した。そしてこれらの凹凸痕に揺れや振れなどがなく、器具を圧着してできた痕跡であることを確認し、5〜6cmごとで不連続部分があり、その圧着は円弧状タタキメのパターンを描くことを確かめた。この結果、これら松菊里式土器の平行条線は、平行タタキメそのものであり、さきの3つの視点からみて、この松菊里式土器製作にかかわった技法こそが、日本列島の弥生土器が習得したそのものであるとの結論に達した。現在、このタタキメをもつ松菊里式土器は、朝鮮半島の南西部に偏在する。このタタキ技法は、楽浪土器のそれとは異系統であることから、その伝播経路は、海を越えて山東半島に求めることになる。中国大陸海洋沿岸部には、縄タタキによらない印紋硬陶文化があるので、その起源地にこれを据えることが最も蓋然性の高い理解であると考える。つまり弥生土器のタタキ技法は、大陸沿岸から朝鮮半島西南部に伝わり、これが日本列島に達したものである、との仮説を提起する。今後は、これらの技法と楽浪・三韓土器の技法を比較検討し、研究対象地域を広げたい。
著者
高橋 淑子
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2020-07-30

これまでに発生中の胚を用いることで、腸がもつ内在的な蠕動運動ポテンシャルとその遺伝プログラム制御の可能性を見出しつつある。また腸由来細胞を用いた長期培養法を可能にすることで、「腸収縮オーガノイド」の作製に世界で初めて成功した。これらの独自解析系を用いることで、特に蠕動運動のペースメーカーと考えられていたがその実体が謎であった「カハール介在細胞」の理解が一気に進み始めた。カハール介在細胞が腸平滑筋や腸神経系とネットワークを作る機構を明らかにし、蠕動運動を可能にする細胞-組織ー器官の協調的制御の全容に迫りたい。
著者
高山 穣
出版者
武蔵野美術大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究ではまず、装飾文様を手続的なアプローチによって生成することを試みた。具体的に再現するモチーフとして、メダリオンという文様を取り上げた。メダリオンは西洋のあらゆる装飾でポピュラーなモチーフであることから、汎用性が高いと考えられる。その際、二次元のメタボールを利用し、様々な回転対称の文様を自動生成するアルゴリズムを考案した。そこから得られる二次元の文様を高度マップとしてみなして利用し、高さ情報を持つ立体形状へと変換した。最終的に得られた形状は高解像度の3Dプリンタを用いて出力を行った。完成したレリーフ装飾は複数の美術展で展示を行い、一定の評価を得ることができた。
著者
渡邉 恭子
出版者
防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工学群)
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2016-04-01

太陽フレアから放射されるX線や紫外線は地球電離圏に影響を与え、デリンジャー現象という通信障害を引き起こす。現在、デリンジャー現象の予報では軟X線強度(フレアクラス)が指標として用いられているが、実際は軟X線強度と比例していないデリンジャー現象が数多く見られる。どのような特徴を持つ太陽フレア放射がデリンジャー現象を発生するのか、その特徴を見積もるために、本研究ではまず、太陽フレアの多波長スペクトル(特にデリンジャー現象に影響すると考えられている紫外線放射)を観測データから統計的に見積もった。その結果、多くの紫外線放射は軟X線放射強度変化とほぼ同様の変動を見せたが、その紫外線放射を生成しているプラズマの温度によって変動に時間差が見られた。また、軟X線放射とは全く異なる硬X線放射と似た時間変動をする紫外線放射も多くあることが分かった。太陽フレアやそれを発生した黒点の幾何学的な様相が太陽フレアスペクトル変動に与える影響についても統計的に解析した。まず、フレア発生時の黒点の面積とその種類と、太陽フレアの規模や発生率との関係を調べたが、これらの間に明確な関係性は見られなかった。次に、フレアリボンの長さとリボン間距離について調べたところ、どちらも太陽フレア放射の継続時間に影響していることが分かった。以上の観測結果をもとに、太陽フレア放射を再現する数値計算モデルを構築した。フレアループが長い場合(ループ半長:52,000km)、短い場合(ループ半長:5,200km)、一般的な長さの場合(ループ半長:26,000km)について計算したところ、フレアループが長いフレアについてのみ、観測された紫外線放射の強度と時間発展をおおむね再現することに成功した。今後は、この数値計算モデルより、個々のフレアの放射スペクトルを再現可能なパラメータを導出し、得られた放射の地球電離圏への影響を検証していく。