著者
秋谷 進
出版者
公益社団法人 日本小児科医会
雑誌
日本小児科医会会報 (ISSN:09121781)
巻号頁・発行日
vol.60, pp.77-81, 2020 (Released:2020-10-31)
参考文献数
15

選択性緘黙(以下,場面緘黙)とは,話す能力にはほぼ問題がないのに,特定の状況では1カ月以上声を出して話すことができないことが続く状態である。米国の精神障害の診断・統計マニュアルDSM-V(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders (5th ed.))の診断基準においては,DSM IV-TR1)(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders (4th-TR ed.))の「通常,幼児期・小児期または青年期に初めて診断される障害」分類から社交不安症群/不安障害群の一つと定義された。場面緘黙と診断した女児の「幼稚園や学校などで話せない」ことを「不安が背景にある」ととらえ,緘黙を始めとした症状を周囲が受け入れることで安心感を与え,不安に寄り添った対応をすることで症状が改善し良好な自尊感情を形成できた。
著者
前園 明一
出版者
The Japan Society of Calorimetry and Thermal Analysis
雑誌
熱測定 (ISSN:03862615)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.126-132, 2005-06-15 (Released:2009-09-07)
参考文献数
12
被引用文献数
1

状態図と熱分析チャートとの関係を解説した。Al-Mg合金のDSCチャートから液相線と固相線の決定のための方法を述べた。水-エタノール系の冷却DSCには状態図からは解釈できない興味深い不思議な現象が現れることを紹介した。
著者
杉浦 郁子
出版者
和光大学現代人間学部
雑誌
和光大学現代人間学部紀要 = Bulletin of the Faculty of Human Studies (ISSN:18827292)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.159-178, 2017-03-10

本稿は、日本のレズビアンたちによる集合的な活動が発信したテクストを分析し、その主要な言説を跡づけようとするものである。1970年代から1980年代前半までのミニコミ誌が、1960年代に一般に流通した「レズビアンには男役(タチ)と女役(ネコ)がある」という言説へどのように介入したのかを中心に記述する。なお、本稿は、近代日本形成期(1910年代から1960年代まで)の「女性同性愛」の言説史を整理した拙稿(杉浦2015)の続編に位置づけられるものであり、レズビアン解放運動がさらなる盛り上がりを見せる1985年以降の言説分析へと橋渡しされるものである。
著者
齊藤 慶輔
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.73-78, 2017-12-22 (Released:2018-05-04)
参考文献数
3
被引用文献数
1

ロシア連邦のサハリン島では,サハリン開発と呼ばれる石油・天然ガス開発が進められている。鉱区であるサハリン北東の沿岸は希少種オオワシの繁殖地にあたる。2000年より実施してきたオオワシの生態調査では,潟湖周辺に約300つがいが繁殖していると推察され,1000個近い巣も確認されている。オホーツク海に接するサハリン北東の潟湖は極めて浅く,この浅瀬や沿岸の湿地帯に敷設されたパイプラインが破断した場合,石油は瞬く間に湖底まで汚染し,ワシの重要な餌資源を根絶するばかりか,周辺の生態系も壊滅してしまう。この島は凍結と解氷を繰り返す脆弱な土壌や活断層が多く,パイプラインが破断した場合,石油が河川,隣接する湿原や潟湖,さらにはオホーツク海へと広がることが危惧される。2006年2月,知床半島に5500羽以上の石油に汚染された海鳥の死体が漂着した。東樺太海流に乗ってサハリン沖から流されてきたと思われたが,汚染源は特定されていない。漂着鳥の多くは,石油が身体に付着したことで浮力を失い,溺死もしくは低体温症により死亡したと診断された。消化管に石油が確認された個体も多く,羽繕い等の際に石油を経口摂取したと推察された。海鳥が漂着した海岸で2羽のオオワシも死体として収容され,胃内から黒褐色の油に汚染された海鳥の羽毛や骨が認められた。消化器系病変の他,副腎や甲状腺の肥大など重油を経口摂取した際に認められる病理所見も確認された。
著者
冨山 清升 庄野 宏
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学総合教育機構紀要
巻号頁・発行日
no.4, pp.101-116, 2021-03

現在、AI やビックデータの処理といった新たな情報科学分野が発展しつつあり、日常生活においても急速に浸透しつつある。これらの分野を扱う基礎科学は数理データサイエンスと呼ばれており、大学においても全大学生の必須の知識として身につけることが求められている。鹿児島大学では、数理データサイエンス教育(以下DS 教育と略す)を全学必修科目として教える事が計画され、2020年度から実行に移された。鹿児島大学におけるDS 教育の全学必修化は、2019年度5月から共通教育センターにより計画立案されたが、異例の短期間で実施することができた。鹿児島大学におけるDS 教育の教育プログラム具体化の過程を、他校の事例の調査、各学部との折衝、鹿児島大学独自案の策定、各種会議の承認、などの観点からまとめた。また、DS 教育の基本プログラムとして、1年次に全学必修科目となっている「情報活用」にDS 教育の初歩的内容として組み込み、1・2年次に主に理系学部で準必修科目となっている「基礎統計学入門」をDS 教育の応用的内容として位置づけ、各学部の専門課程で行われるDS 教育の専門的内容につなげていく、積み上げ式のカリキュラム内容を示した。
著者
鈴木 将史 Masashi SUZUKI
出版者
創価大学教育学部・教職大学院
雑誌
教育学論集 (ISSN:03855031)
巻号頁・発行日
no.73, pp.171-187, 2021-03-31

筆者は2018年4 月から3 年間の計画で、「江戸期の和算における教育課程の探究を通した算数・数学教育刷新の提案」とのテーマのもと科学研究費補助金を受けて研究を続けてきた。そもそもの発想は、「江戸時代には和算と呼ばれる数学が大変発達し、日本全国で算術教育を行う塾が盛んであったことはよく知られているが、そこではどのような教育課程に従って算術が指導されていたのであろうか?」という疑問であった。教育である以上、流派や地域によって異なるとはいえども何らかのカリキュラムがあり、ある種の指針に従って算術教育が行われていたに違いないであろうと考えたのである。その上で筆者は、日本の津々浦々、農村部に至るまで、多くの人々が楽しく数学を学んでいたという江戸時代の教育のあり方が、「数学離れ」を克服できない日本の数学教育において、新たな風を呼び起こすヒントになるのではないかとも考えた。 コロナ禍で移動が大幅に制限されたこともあり、全国の算術塾の調査が進んだとは言えなかったが、2019年に訪れた長野県で見聞した江戸時代の数学研究の様子や、それ以前に知った至誠賛化流と呼ばれる和算の流派の活動状況等から、江戸時代にはある種の「常識」として、数学が広く、しかも自発的・積極的に研鑽されていたことを知ることができた。 そのような研究の一環として、筆者は昨年発表した論考「和算流による算数・数学教育改革の試み」において、和算の醍醐味が算術塾における問題作りにあったこと、そして同様な作題活動を取り入れることが算数・数学教育を活性化させること、またそれが「創造的なアクティブラーニング活動」につながり、文部科学省の目指す「主体的・対話的で深い学び」にも通じることを主張した。ただ、そこで提案した作題は、あくまでも「学習を活性化させる方法・手段としての作題」であり、紹介した例も、既存の問題をつなぎ合わせる方法のみであった。 本稿ではその考えをさらに進め、もっとたくさんの「作題」を取り入れる方法について述べるとともに、和算のレベルを飛躍的に向上させた「遺題継承」と呼ばれる方式にならい、算数・数学をより「深い学び」へと導く方策について考察したい。
著者
寺田 新 大森 一伸 中村 好男 村岡 功
出版者
The Japanese Society of Physical Fitness and Sports Medicine
雑誌
体力科学 (ISSN:0039906X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.343-352, 1999-06-01 (Released:2010-09-30)
参考文献数
34
被引用文献数
4 4

The purpose of this study was to examine the effect of fructose ingestion on maximal exercise performance capacity following prolonged steady-state exercise compared with glucose or placebo ingestion, in 7 male college students (age 23.3±0.7 yr, height 171.3±1.9 cm, weight 68.4±1.4 kg, Vo2max 3.5±0.2 L/min, mean ± SEM) . The subjects cycled constantly on an ergometer at 59± 2 % Vo2max for 100 min divided in the middle by a 5-min rest, and then performed 10 min of all-out self-paced cycling. They ingested either 8 % fructose solution (F), 8 % glucose solution (G) or artifi-cially sweetened placebo (P) before and during exercise (at 20, 40, 65, 85 mm) . Before exercise and at 50 and 100 min of exercise and 5 min after the performance ride, blood samples were collected for determination of the concentrations of blood lactate, serum glucose and serum FFA. In the G trial, the serum FFA level was significantly lower than in the P and F trials at any of the time points dur-ing and after exercise (vs. P ; p<0.01, vs. F ; p<0.05) . However, glucose ingestion maintained serum glucose at a significantly higher level during and after exercise than placebo ingestion (p< 0.01) and improved the total work output in the 10-min performance ride (G vs. P ; 135± 8 KJ vs. 128± 8 KJ, p<0.05) . Although in the F trial, the serum FFA level was elevated during exercise compared to that in the G trial and the serum glucose level was significantly higher than in the P trial (vs. P ; p<0.01), the blood lactate level after exercise was lower than in the G trial and total work output was similar to that in the P trial (123± 8 KJ, vs. G ; p<0.01) . These results indicate that fructose ingestion before and during exercise cannot improve the ability to perform high-intensity exercise late in prolonged exercise despite maintaining the serum glucose level.
著者
池ケ谷 賢次郎 シバスブラマニアム S. ペレラ M.B.A. アヤドゥライ S.
出版者
Japanese Society of Tea Science and Technology
雑誌
茶業研究報告 (ISSN:03666190)
巻号頁・発行日
vol.1981, no.54, pp.23-31, 1981-12-01 (Released:2009-07-31)
参考文献数
13
被引用文献数
1

スリランカの茶園土壌は,プレカンブリアン紀の各種結晶片岩に由来する残積,崩積,沖積に由来するポドソリック赤黄色土であった。茶園土壌のpHは未耕地土壌より低かった。未耕地土壌は茶園土壌より腐植含量が多かった。また,腐植含量は茶園,未耕地とも下層ほど少なかった。置換性のカルシウムとマグネシウム含量は,茶園土壌で極めて少なく,未耕地では明らかに少なかった。ポドソリック赤黄色土と腐植質土壌の腐植酸の示差吸光曲線を求めた。ポドソリック赤黄色土の腐植酸は日本の赤黄色土腐植酸よりもフェノール性水酸基の反応が小さかった。腐植質土壌の腐植酸は250mpにフェノール性水酸基の大きなピークがみられた。スリランカ茶園土壌では,硝酸化成がアンモニア化成より明らかに強かった。牛ふん施用(N12kg/10a)によりNO3-Nの生成が増加した。紅茶屑,モミガラを施用すると無施用区よりNO3-Nが減少し,NH4-Nが増加した。
著者
繁田 信一
出版者
「宗教と社会」学会
雑誌
宗教と社会 (ISSN:13424726)
巻号頁・発行日
pp.77-98, 1995-06-10

本稿の目的は、医療および呪術の平安貴族社会における治療手段としてのあり方、および、平安貴族の治療の場面における医療と呪術との関係を把握することにある。この目的のため、平安貴族の漢文日記(古記録)を主要史料として用いるが、考察にあたっては近年の医療人類学的研究の成果をも利用し、次に示す諸点について明らかにする。(1)平安貴族社会において、医療および呪術は一定の専門知識にもとづく技術として認識されていたのであり、また、(2)平安貴族は医療と呪術とをそれぞれ別個の技術体系に属するものとして認識していた。したがって、(3)平安貴族社会における治療手段は、医療と呪術とによる二元的なものだったのであるが、(4)医療と呪術とは相互に排除し合う関係にあったわけではなく、そのいずれもが各々の資格において有効な治療手段として認識されていた。また、(5)呪術は医療の有効性および安全性を保障・保証するものと見做されてもいたのであり(6)総合的に見るならば、平安貴族社会における医療と呪術との関係は相互補完的なものであった。
著者
山下 仁 形井 秀一
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.142-148, 2004-05-01 (Released:2011-03-18)
参考文献数
41

鍼治療後に両側性気胸を起こしたとされる症例報告文献について、臨床鍼灸学の立場から概説した。解剖所見が示されている論文から、鍼灸臨床において肺または胸膜まで鍼が到達する例が予想以上に存在しており、その中の一部が気胸を発症し、さらにその中の少数例が重篤な症状に陥ることが示唆された。文献検索では国内外で23例の両側性気胸の症例が見出された。我々はこれらの症例から教訓を学ぶだけでなく、その背景にある教育内容の再検討やフェイルセーフの発想の導入についても考えるべきである。
著者
板垣 直子
出版者
東北文化学園大学医療福祉学部保健福祉学科
雑誌
保健福祉学研究 = Journal of health and social services (ISSN:13484567)
巻号頁・発行日
no.17, pp.55-64, 2020-03-31

ソーシャルワーカー養成に欠かせない対人援助の技術習得の一つに、F.P.バイステックによる「ケースワークの原則」、通称「バイステックの7原則」があるが、介護福祉士、看護師、理学療法士、作業療法士はどのような理論を拠り所とし、どのような教材、授業実践で習得しているのだろうか。比較検討したところ、対人援助教育というより、コミュニケーション、アサーション、チームアプローチ教育に力を入れていることがわかった。しかし、5資格が対応するクライエントは共通していることも多いことから、今後、「バイステックの7原則」を含む対人援助教育を展開することの重要性が示唆された。