著者
マクヴェイ山田 久仁子
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.28-33, 2021-01-01 (Released:2021-01-01)

2020年3月にパンデミックとなった新型肺炎の影響で,ハーバード大学では3月23日から全ての授業がオンラインに切り替わり,図書館の全職員が自宅勤務となった。春学期途上の突然の移行を経て,9月の新学期はオンライン授業のみとなったが,大学図書館は,この新たな教育形態の支援を最優先として取り組んできた。本稿では,ハーバードのオンライン教育における電子資料活用の実際を,日本語資料専任ライブラリアンである筆者の職務を交えながら,報告,考察する。
著者
伊藤 操子
出版者
特定非営利活動法人 緑地雑草科学研究所
雑誌
草と緑 (ISSN:21858977)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.45-52, 2011 (Released:2017-06-30)
参考文献数
12

トクサ属(Equisetum)はシダ植物トクサ綱に属しているが(1綱1属),雑草とみなされているにはスギナとイヌスギナのみである.作物への雑草害だけでなく,家畜への障害もある.スギナの最大の生物的特徴は,他の雑草類に例を見ない地下器官系の大きさであり,発達した集団では現存量の70~90%を占める.地上部については早春に胞子茎(つくし)が発生し,続いて栄養茎(すぎな)が秋季まで(本州中部以西では4月~11月)次々発生・生長する.地下部は横走根茎とその一部の節に付着する塊茎ならびに地上茎につながる垂直根茎からなる.根茎分布はむしろ30 cm以下に多く,1 mに及ぶことも稀ではない.根茎には地上茎と同様に5~9本程度の稜と溝があり,これらと同数の維管束とともに通気孔がよく発達しており,地下深くまでの生存に適応している.シダ植物であることから,繁殖は本来有性生殖(胞子の発芽により形成された前葉体につくられた精子と卵子の受精で栄養茎ができる)もあるはずだが,野外ではめったに起こらず,栄養繁殖が主体である.繁殖体は根茎断片と塊茎であり,10℃前後の比較的低温でもよく萌芽する.定着した集団の一般的防除法は除草剤による以外になく,比較試験からはアシュラムの6月処理が最も有効であった.
著者
頼高 朝子
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.103, no.8, pp.1854-1860, 2014-08-10 (Released:2015-08-10)
参考文献数
10

Parkinson病は運動症状発症前より睡眠障害,うつ,嗅覚障害,痛み,便秘等の自律神経障害が伴っていることが多くのコホート研究から判明し,早期診断の助けになっている.一方で非専門医への受診につながり,より診断が遅れやすい.便秘は約18年前から,REM睡眠行動異常症は約10年前から,嗅覚障害は2~7年前から,過眠は数年前から3大運動症状である振戦,歯車様固縮,無動に先行する.
著者
平井 克之 岡崎 麻紀子 奥津 佐恵子 久保 琢也 矢吹 命大 渡邉 優香
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.80-86, 2021-02-01 (Released:2021-02-01)

リサーチ・アドミニストレーター(URA)による研究力分析の効率化・高度化を進めるには,実務担当者間の連携が不可欠である。近年,データ分析の現場では,プログラミング技術を用いた分析手法が,広く利用されるようになってきた。分析作業の効率化と高度化を目的に,Code for Research Administration (C4RA)が発足した。本稿では,論文書誌情報や科研費を用いた研究力分析において,PythonやR等により作業の効率化を図った事例を紹介する。最後に,C4RAの今後の活動の方向性及びURAの普及定着への貢献の可能性を探る。
著者
野村 竜也
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.211-226, 2002-10-31 (Released:2009-02-10)
参考文献数
31

本稿では、二重拘束が思弁的概念定義に留まっていることを省察し、改めて社会心理学的・社会学的モデルの観点から再構築することにより、その源であるサイバネティクスに立ち返って曖昧性を低減したシステムモデルを提供し、家族システム論において新たな含意を得ることを目的とする。そのために、二重拘束を関係システムにおけるポジティブ・ネガティブのフィードバックの安定状態として捉える長谷のアプローチ、およびHochschildの感情規則論を基に二重拘束を感情のギャップとして捉える山田の示唆を、社会心理学の三者関係における認知的斉合性の理論を用いて形式的に表現する。
著者
石黒 聡士 山田 勝雅 山北 剛久 山野 博哉 松永 恒雄
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.253, 2013 (Released:2013-09-04)

1.はじめに浅海域の生態系や水環境の動態を推し量るうえで、生物群の生息場の役割を果たす海草・海藻類をはじめとする海中基質の分布を正確に把握することが重要である。海藻・海草類をはじめとする海中基質の分布調査は潜行による直接調査のほかに、航空写真や衛星画像等の画像を用いた教師付分類手法など、リモートセンシングによる分布の傾向の把握手法が提案されている。しかし,水域の画像解析による基質の把握は,陸域のそれとは異なり、色調の変化が水深に大きく拘束されるため,色調変化の補正が必須となる。特に、船舶が侵入できない浅海域においては正確な水深を面的に効率よく計測することが困難であるため、水深による色調の補正が難しく、従来は水深による色調の変化が誤分類の大きな要因となっていた。国立環境研究所は平成24年11月から12月にかけて東北沿岸の一部において航空機搭載型ライダ(LiDAR)による測深を実施した。本研究では、航空機搭載型測深LiDARにより得られた細密な海底地形を用いて航空写真の色調を補正し、浅海底の被覆分類を試みたので報告する。本研究は平成24年度補正予算、独立行政法人産業技術総合研究所「巨大地震・津波災害に伴う複合地質リスク評価」事業の一部として実施されている。2.航空機搭載型測深LiDAR航空機搭載型測深LiDARは緑色の波長(532nm)のレーザを海面に照射して海底面からの反射をとらえることにより海底地形を計測する技術である。航空機はGPS/IMUを搭載しており、レーザ照射時刻と反射波の時間差から、反射地点の3次元座標が決定される。このときの座標系はWGS84に準拠しており、鉛直方向は楕円体高である。したがって、データ取得後にジオイド高補正し標高を算出する。これにより従来は効率的な海底地形計測が困難であった水深0m~十数mの浅海域において、面的に効率よく計測することが可能である。このシステムを固定翼機(セスナ208)に搭載し、レーザ照射による人体への影響を考慮した安全高度を維持して観測飛行を行う。このシステムは各点における反射波形を記録している。さらに、観測飛行中に毎秒1枚の8ビットRGB画像を撮影するカメラ(RedLake)を搭載している。このカメラの解像度は1600×1200画素で地上分解能は約0.4m/画素(飛行高度3000 ft時)である。なお、観測飛行は中日本航空株式会社によって実施された。3.対象地域と計測および分類手法本研究の対象地域は岩手県山田湾の小島周辺である。この地域は平成23年東日本大震災の前から現地調査が続けられている。震災により東北の多くの湾内で藻場が消失するなどの環境変化が起こった中にあって、震災後も藻場が消失することなく分布していることが確認されており、浅海域の生態系や水環境の動態を理解する上で貴重なサイトである。当該地域の観測は平成24年11月30日に実施された。観測結果(水深データによる陰影図およびRedLake画像)を図1に示す。本研究ではまず、1)RedLake画像を用いた教師付分類法による底質分類、2)細密水深データによる色調補正を施した画像を用いた教師付分類法による底質分類を実施する。2)の色調補正はdark pixel法による大気補正をした上で、Yamano and Tamura (2004)による手法を用いて水深による色調補正を行う。なお、本研究で使用した画像と水深のデータから簡易的に推定したR,G,Bの減衰パターンを図2に、また、これによって色調補正した結果を図3に示す。これらによって得られた画像を用いた分類結果を、現地調査によるグラウンドトゥルースと比較することにより評価する。現地調査は2012年10月に実施した。4.結果と今後の計画本研究では細密な浅海海底地形データを用いて航空写真の色調を補正して分類を行った。その結果、補正前の画像に比べて誤分類の確率が減少することを確認した。今後、色調補正の手法を精緻化することにより、さらに正確な分類が可能になること考えられる。また、航空写真の画像判読と現地調査結果および細密海底地形データの範読から、局所的に凹凸が激しい領域が藻場である可能性が高いことが分かった。今後、地形の凹凸度合いを指標化し、新たな画層としてRGBに追加して教師付分類や、各点で記録された反射波形を指標として考慮した分類手法を試みる予定である。参考文献Yamano, H. and Tamura, M. 2004. Detection limits of coral reef bleaching by satellite remote sensing: Simulation and data analysis. Remote Sensing of Environment 90: 86–103.
著者
Satoshi Iizuka Ryuichi Kawamura Hisashi Nakamura Toru Miyama
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
SOLA (ISSN:13496476)
巻号頁・発行日
vol.17A, no.Special_Edition, pp.21-28, 2021 (Released:2021-02-23)
参考文献数
19
被引用文献数
11

Typhoon Hagibis (2019) caused widespread flooding and damage over eastern Japan. The associated rainfall maxima were primarily observed on the windward mountain slopes along with the west of the leading edge of a low-level front. Concomitantly, a significant positive value in sea surface temperature anomalies (SSTAs) was observed in association with an ocean eddy over the Oyashio region, together with anomalous warmth over the entire western North Pacific. The present study examines the role of the SSTAs in the rainfall distribution associated with Hagibis, to deepen our understanding of the influence of the midlatitude ocean on tropical cyclones and associated rainfall. Our sensitivity experiments demonstrate that the observed warm SSTAs had the potential to displace the rainfall caused by Hagibis inland and thereby acted to increase precipitation along the Pacific coast of northeastern Japan. Our results suggest that midlatitude SSTAs on ocean-eddy scales can also influence the synoptic-scale atmospheric front and associated heavy rainfall.
著者
内閣統計局 編
出版者
東京統計協会
巻号頁・発行日
vol.第三十一, 1912
著者
金田一春彦著
出版者
東京堂出版
巻号頁・発行日
1977
著者
田 栄富 王 橋
出版者
久留米大学経済社会研究会
雑誌
経済社会研究 = The journal of the Society for Studies on Economies and Societies (ISSN:24332682)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.25-44, 2019-01-25

日本介護保険制度が実行されてから,介護費用が膨らみ,介護財政を圧迫し,第1,2号被保険者は保険料負担の増加を強いられている。今後の負担は更に重くなる。一方,介護サービス業は国民経済におけるパフォーマンスを確実に増している。投入構造で確認できた介護サービス業は粗付加価値投入であり,そのなかで雇用者所得は93.5%に達している。介護保険三施設の長期労働生産性を計測した結果,全産業平均を大きく下回っている。同部門は日本の産業部門においても有数の成長部門であり,労働・資本等の生産要素がこの部門に集約しつつある。しかし,低労働生産であり,資源配分を歪める恐れもある。また,労働生産性と賃金の間には密接な関係が確認されている。介護サービス業の低労働生産性は必然的に賃金に影響する。つまり低労働生産性から低賃金へという成り行きは従業員の高離職率,低い定着率をもたらす。結局,介護サービス業は人手不足という事態に直面する。賃金を引き上げるには,公定価格の介護報酬のもとでいかに労働生産性を上昇させるかが重要な課題である。
著者
Natsuki UENO Shoichi KOYAMA Hiroshi SARUWATARI
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
IEICE Transactions on Fundamentals of Electronics, Communications and Computer Sciences (ISSN:09168508)
巻号頁・発行日
pp.2021EAP1004, (Released:2021-02-25)

We propose a useful formulation for ill-posed inverse problems in Hilbert spaces with nonlinear clipping effects. Ill-posed inverse problems are often formulated as optimization problems, and nonlinear clipping effects may cause nonconvexity or nondifferentiability of the objective functions in the case of commonly used regularized least squares. To overcome these difficulties, we present a tractable formulation in which the objective function is convex and differentiable with respect to optimization variables, on the basis of the Bregman divergence associated with the primitive function of the clipping function. By using this formulation in combination with the representer theorem, we need only to deal with a finite-dimensional, convex, and differentiable optimization problem, which can be solved by well-established algorithms. We also show two practical examples of inverse problems where our theory can be applied, estimation of band-limited signals and time-harmonic acoustic fields, and evaluate the validity of our theory by numerical simulations.
著者
仁平 典宏
出版者
福祉社会学会
雑誌
福祉社会学研究 (ISSN:13493337)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.98-118, 2012

今回,東日本大震災で活動するボランテイアの数は,阪神淡路大震災よりも少なかったことが指摘され,その理由を,政府による市民セクターの抑圧に求める議論が多い.この議論形式は阪神淡路大震災時に作られたものだが,今回,単純にそれを反復するわけにはいかない阪神淡路大震災時が行政の過剰統治によって特徴付けられる開発主義の果てに生じたのに対し,東日本大震災は規制緩和と再分配の放棄によって特徴づけられるネオリベラリズムの果てに生じたものだからだ.ベクトルは逆を向いている.以上を踏まえてボランティアの停滞の背景を考える.阪神淡路大震災のパラダイムでは, ①行政の抑制,及び,② NPOの低い経営力が原因とされるが,実際には, ①行政の損壊と地域の疲弊,及び,②市民セクターの二重構造化と国内NPOの活動基盤の不全という1995年以降に形成された要素が,有力な原因として浮かび上がる.ボランティア・NPOの活性化やそれによる当事者中心の活動は,公的領域の単純な削減ではなく,その適切な補完・支援のもとで実現するものである.ボランティアNPOのポテンシャルは小さな政府を志向する方向ではなく,人々の社会権を普遍主義的な形で公的に保障していく方向に接続していくべきであるそのために,震災の支援活動で社会の亀裂を目の当たりにしてきた市民セクターが果たす役割は小さくないと思われる.
著者
大野 ロベルト
出版者
日本社会事業大学
雑誌
日本社会事業大学研究紀要 = Study report of Japan College of Social Work : issues in social work (ISSN:0916765X)
巻号頁・発行日
vol.66, pp.31-45, 2020-03

This paper re-evaluates the emergence of the so-called "leprosy literature" as a precursor to the thriving of outsider art in Japan. In the past studies on Hōjō Tamio, the central figure of leprosy literature, the irrepressible impact of the author's life situation on the evaluation of his works has been suggested repeatedly; but no particular attention has been paid to the discourse behind such an attitude, and its possible effects on the evaluation of the text. Along with the stories, diary entries, and essays written by Hōjō, this paper will take into consideration the texts by Kawabata Yasunari, his mentor, and other contemporary writers who submitted their opinions on magazines and newspapers, in order to clarify that many of them have viewed Hōjō as "peculiar," a sentiment fueled by what we could call the "hereticizing gaze." It is important to point out that such an attitude is almost identical to that welcomed Yamashita Kiyoshi and other outsider artists, who appeared on the scene after Hōjō's death.本稿は北条民雄を中心とする「癩文学」の出現を、日本におけるアウトサイダー・アートの受容を準備した現象として捉え直すものである。北條をめぐる先行研究では、作者の置かれた状況がその作品の評価に大きな影響を与えていることが繰り返し示唆されてきたが、その事実が何を意味するのかという点は十分に検討されてこなかった。本稿では北條の作品や日記、随筆に加えて、北條を文壇に導いた川端康成や、北條の作品が発表された『文學界』の同人たちによる時評、また新聞紙上で展開された評論などを素材に、北條への評価が〈特殊性〉の観念に集約される、いわば〈異端化〉のまなざしに束縛されがちなものであったことを明らかにする。さらにこのまなざしは、北條の没後に関心を浴びることになる山下清らによるアウトサイダー・アートに向けられたものとも相似しているのである。