著者
三尾 和弘
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

イオンチャネルやトランスポーター等の膜タンパク質の構造情報を得ることは、神経伝達や筋収縮、心拍のペースメーキング等に関する機構を理解し、関連疾病に対する画期的新薬を開発する上で不可欠である。我々は難結晶性タンパク質の構造解明に向けて、精製タンパク質の電子顕微鏡画像から情報学的に3次元構造を再構築する単粒子解析法の技術開発と構造解析を推進してきた。単粒子解析法を用いて、Ca^<2+>放出活性化Ca^<2+>(CRAC)チャネルの本体として近年同定されたOrai1陽イオンチャネルの構造解析を行った。動物細胞発現系を用いてOrai1タンパク質を発現・精製し、生化学検討から生理機能単位が四量体であることを突き止めた。電顕画像を元に三次元構造を21Å分解能で再構成し、高さ150Å、幅95Åの水滴形構造を持ち、小胞体膜上でCa^<2+>枯渇を感受するSTIM1と相互作用可能な細長い細胞質ドメインが示された。更に、細胞内で酸化ストレスセンサーとして働くKeap-1の構造解析を行い、サクランボ形の2つの房にβ・プロペラの数Å径の穴に相当する小さな貫通部分が見出された。周囲に存在するSH基で酸化ストレスを感知する機構が推察された。またタンパク質構造解析にもとづく薬物の作用機序解明も重要である。我々は喘息治療薬として開発が進められていたピラゾール化合物をリードにTRPC3チャネルを特異的に抑制する誘導体を見出し、その作用機序を電子顕微鏡を用いて検討した。光架橋と金粒子ラベルを組み合わせてTRPC3に結合したピラゾール誘導体を観察することで、単分子レベルでの薬物結合の可視化に成功し、細胞膜直下部を標的としていることを証明した。
著者
西条 寿夫 堀 悦郎 小野 武年
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.126, no.3, pp.184-188, 2005 (Released:2005-11-01)
参考文献数
8
被引用文献数
3

脳は,生体の恒常性を維持するため,視床下部を介して生体の内部環境を常に調節している.一方,ストレッサー(ストレス)は生体の恒常性(内部環境の恒常性)を乱す外乱であり,ストレッサーが生体に負荷されると最終的にその情報が視床下部に伝達され,視床下部は恒常性を回復するため自律神経系,内分泌系,および体性神経系を介してストレス反応を形成する.これらストレッサーのうち,空気中の酸素分圧低下や出血による血圧低下など,生体の内部環境に直接影響を与えるストレッサー(身体的ストレッサー)は,下位脳幹を介して直接視床下部に情報が伝達される.一方,それ自体は内部環境に直接的な影響を与えないが将来的には影響があることを予告するストレッサー(高次処理依存的ストレッサー:猛獣の姿などの感覚情報)は,まず大脳皮質や視床で処理され,さらにその情報が大脳辺縁系に伝達される.大脳辺縁系,とくに扁桃体は,これら感覚情報が自己の生存(恒常性維持)にとって有益か有害かを評価する生物学的価値評価に中心的な役割を果たし,その結果を視床下部に送っている.有益および有害な価値評価はそれぞれ快および不快情動を発現することから,情動は生物学的価値評価とほぼ同義であり,生存のための適応システムであると考えられる.視床下部には,ストレス反応を含めて生存のための様々な情動ならびに本能行動表出プログラムが存在し,視床下部に大脳辺縁系から指令が伝達されると生存のための特定のプログラムが遂行されると考えられる.本稿では,サル扁桃体における生物学的価値評価ニューロンの高次処理依存的ストレッサーに対する応答性やラット視床下部における本能行動表出ニューロンの身体的ストレッサーに対する応答性について紹介する.
著者
高橋 洋成 永井 正勝 和氣 愛仁
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
研究報告人文科学とコンピュータ(CH)
巻号頁・発行日
vol.2015, no.5, pp.1-5, 2015-01-24

近年のコンピュータとインターネットの発展に伴い,これまでコンピュータ上では転写テキストとして扱われることの多かった言語資料を,音声,動画,画像と一緒に保存・利用することが容易になった.著者らは古代エジプト神官文字文書,楔形文字粘土板資料,近代日本語文典資料などの文字資料を統一的に扱うための画像データベースと,World Wide Web 上のプラットフォームを構築している.さらに,本プラットフォームは次の 2 点を目指している.(1) 本プラットフォームの内部に格納された言語資料および研究データを,外部に保存し共有するために Text Encoding Initiative (TEI) を利用すること.(2) データの保存と共有をさらに促進させるために,言語資料と研究データに関する RDF トリプルを生成し,Linked Open Data (LOD) として提供すること.本稿はこの 2 点について,現在までの取り組みと具体例を報告する.Recent development of the internet and computer technologies makes it easier to compile various linguistic materials such as audios, videos and photos with their transliteration texts together. The authors are constructing the general-purpose image database and the platform on World Wide Web for the linguistic studies on hieratic texts of Ancient Egypt, cuneiform tablets of Ancient Orient, and Modern Japanese Grammar Textbooks. The platform aims on the following two points: (1) to use Text Encoding Initiative (TEI) for preservation and sharing of the internal data with its outer world, (2) to create sharable RDF triples from the data to provide them as Linked Open Data (LOD). The current snapshot of the developing platform will be discussed.

3 0 0 0 OA 和俗童子訓

著者
貝原益軒 編
出版者
目黒書店
巻号頁・発行日
1893
著者
西田 清一郎 土田 勝晴 佐藤 廣康
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.146, no.3, pp.140-143, 2015
被引用文献数
1

ケルセチン(quercetin)は代表的なフラボノイドのひとつで,有益なフィトケミカルとして食品では玉葱やワインに,また多数の漢方生薬に含まれている.臨床上,抗動脈硬化作用,脳血管疾患の予防,抗腫瘍効果を発揮することが知られている.ケルセチンは強い血管弛緩作用を表し,多様な作用機序が解明されているが,まだ不明な点も多く,現在議論の余地が残っている.我々はケルセチンの血管緊張調節作用を研究してきたが,ラット大動脈の実験から血管内皮依存性弛緩作用,血管平滑筋に対する複数の作用機序(Ca<sup>2+</sup>チャネル阻害作用,Ca<sup>2+</sup>依存性K<sup>+</sup>チャネル活性作用,PK-C阻害作用等)を介して,血管弛緩作用を発揮していることを明らかにしてきた.また,ラット腸間膜動脈の実験から,ギャップジャンクションを介したEDHF(血管内皮由来過分極因子)による血管弛緩作用も示すことを解明した.本稿では,ケルセチンの血管弛緩作用機序の総括と今後の研究課題をまとめた.
著者
山川 誠
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.73-78, 2016 (Released:2017-05-19)
参考文献数
5

超音波エラストグラフィは,超音波を用いて組織の硬さ分布を非侵襲的に画像化する技術であり,大きく分けて,組織 を加圧した際のひずみ分布を計測して相対的な硬さ分布を画像化する方法と組織を加振した際のせん断波の伝搬速度分布を計 測して定量的な硬さ分布を画像化する方法がある.また,これらの手法内においてもさらに加圧・加振の方法の違いにより4 つの手法に分類される.それぞれの手法ごとに原理や特徴が異なっており,本稿ではこれらの原理を説明するとともに,各手 法の特徴について述べる.また,超音波エラストグラフィを用いた応用例についても紹介する.

3 0 0 0 OA 国民生活白書

著者
経済企画庁 編
出版者
経済企画庁
巻号頁・発行日
vol.昭和52年度 暮らしを見直し,新しい豊かさを求めて, 1977
著者
神津 玲 藤島 一郎 朝井 政治 俵 祐一 千住 秀明
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.93-96, 2007-08-31 (Released:2017-04-20)
参考文献数
7
被引用文献数
1

摂食・嚥下障害例では誤嚥,特に唾液誤嚥(不顕性誤嚥)が問題になることが少なくない.その予防のために,呼吸理学療法の一手段である体位管理が臨床的に有用であることを経験する.今回,唾液誤嚥に及ぼす体位の影響について検証を行った.重度嚥下障害例を対象に,仰臥位,後傾側臥位,前傾側臥位の各体位での唾液誤嚥の動態を喉頭内視鏡を用いて観察した.その結果,仰臥位および後傾側臥位では,唾液の著明な咽頭貯留,吸気時の喉頭侵入や呼気時の吹き出しを認めたが,前傾側臥位では咽頭貯留,喉頭侵入ともに認めなかった.唾液誤嚥の予防に前傾側臥位の有用性が示され,臨床現場における患者管理の一環として積極的に導入する価値があるものと考えた.
著者
ボイクマン 総子 根本 愛子 松下 達彦
出版者
日本語教育方法研究会
雑誌
日本語教育方法研究会誌 (ISSN:18813968)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.2-3, 2019 (Released:2019-07-02)
参考文献数
5

A placement test (PT) should be administered to many test-takers simultaneously, simply, and in a short period of time. Additionally, its results should have high reliability. However, conventional speaking tests do not satisfy these conditions. To address this, we have developed STAR, Speaking Test of Active Reaction, along with two evaluation tools: a rubric and audio samples. Using these, five evaluators graded the performance of 32 test-takers. We found a high intraclass correlation coefficient and that the raters gave results consistent with one another. Time spent on evaluation was short— fewer than two minutes per test-taker. Therefore, we conclude that as a speaking test for PT, STAR has the necessary qualities of reliability, validity, and usefulness.
著者
高橋 栄一
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

2011年3月11日に発生したM9東北地方太平洋沖地震の結果、日本列島にかかる強い水平圧縮がほとんど取り去られ、一部地域は引張場に移行した。その結果地殻内のマグマ移動は容易となったと考えられるため、日本列島全体で休眠中の火山が活動を再開するなど火山活動の長期にわたる活発化が懸念される。地震と火山活動の関係としては地震発生から数時間~数か月の近接された活動例が従来注目されてきたが、地殻応力場の変化に火山が応答するメカニズムからは数年~数10年の長い時間間隔を経た相互作用を考慮する必要がある(高橋2012、連合大会)。巨大地震により広域的に且つ長期的に火山活動が活発化した例としては、17世紀の中盤に開始した北海道駒ヶ岳[1640年~]、有珠[1663年~]、樽前[1667年~]の火山活動がある。これら3火山の17世紀から現在に至る火山活動は1618年に北海道東方沖で起きたM9地震により励起された可能性が極めて高い。本セッションでは、この因果関係について中川(本セッション)と佐竹(本セッション)の講演でなされる予定である。2011年の東北地方太平洋沖地震の1100年前に起きた貞観地震(西暦869年)後の鳥海火山噴火(871年)、十和田―a噴火(915年)も巨大地震による励起噴火である可能性が考えられる。日本列島の第4紀火山の多くは噴火間隔が数100年以上あるため、火道や浅部にあるマグマだまりは冷却され結晶度が高いマッシュ状態にあるものが多い(竹内、本セッション)。地震から火山活動活発化までに要する時間は、それぞれの火山の地下マグマ供給系の熱的状態に応じて数年から数10年の幅があるものと考えられる。数千年に渡って休眠していた北海道駒ヶ岳、有珠、樽前、十和田においては、地震後から噴火が起こるまでに30~50年の時間間隔が必要だった。これはマントルから注入した玄武岩マグマが半ば固化した火道を温めたり、マグマだまりの温度を上げてマグマの粘性を下げたりするのに時間を要するからであろう。反対に鳥海火山のように玄武岩マグマがそのまま噴火した例では時間間隔は2年と短かった。3.11地震後の影響で地殻応力場が変化した日本列島においては、これまで休眠中であった火山がマントルからのマグマ注入を受けて活動に向かっている可能性がある。それぞれの火山における地下のマグマ供給系がいかなる状態にあって、今後どのような時間内にいかなる噴火を起こす可能性があるかを学際的に検討することが必要である。本セッションは2014年度から東大地震研究所特定研究課題に採択された「巨大地震が励起する火山活動の活性化過程の研究」(世話人代表:高橋栄一・栗田敬)を母体としている。この研究課題では、我が国の火山活動の予測に資するため、それぞれの火山のマグマ供給系の実態解明を目指す。火山物理、火山化学、火山地質学、岩石学、地震トモグラフィー、MT観測など多方面の研究者の参加を広く呼びかけた。日本列島の火山活動の長期的な推移を予測するためには、それぞれの火山のマグマ供給系の実態をできる限り正確に把握し、火山体深部で起きている噴火の予備的過程を正確に読み取ることが重要である。
著者
府川 昭世
出版者
学校法人 三幸学園 東京未来大学
雑誌
東京未来大学研究紀要 (ISSN:18825273)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.99-110, 2012-03-20 (Released:2019-01-19)
参考文献数
18

意識体系の中心的機能として自我を考える分析心理学の立場から、投影描画法によって現れるコンプレックスを概観した。自我の働きを乱すものがコンプレックスである。コンプレックスには中心となる二つの核がある。一つは心的外傷であり、もう一つは普遍的無意識である。投影描画法の一つである樹木画は、無意識的に深い層の自己像が表れるといわれている。樹木画に表現される陰影は、心的外傷とそれに付随する感情を表すとともに、普遍的無意識の元型の一つである影を象徴的に表している。 筆者が出合った小学生・中学生・高校生の樹木画に表現された陰影をコンプレックスの観点から質的に考察する。「健常群」にも陰影のある樹木を描いた描画者は9割いた。「臨床群」の樹木画は、その陰影の濃さと陰影がほどこされる範囲によってコンプレックスの強さを印象づけた。陰影によって象徴される影は、破壊的にも建設的にも働きうることが示された。
著者
桑江 朝比呂 三戸 勇吾 有川 太郎 石川 洋一 木所 英昭 澁谷 容子 志村 智也 清野 聡子 羽角 華奈子 茂木 博匡 山北 剛久 李 漢洙 金 洙列 久保田 真一 倉原 義之介 辻尾 大樹 二宮 順一 伴野 雅之 古市 尚基 安田 誠宏 森 信人 武若 聡
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集B2(海岸工学) (ISSN:18842399)
巻号頁・発行日
vol.77, no.1, pp.1-17, 2021 (Released:2021-02-20)
参考文献数
67

今後の我が国の沿岸分野における気候変動対応で取り組むべき課題について,どのような内容に研究者が関心を抱いているのか検討された例はない.そこで,気候変動に関連する様々な学会に対してアンケートを実施した.その結果,「気温・海水温」,「生物多様性の減少」,「海面上昇」,「極端気象・気候」,「温室効果ガス」,「生態系サービスの劣化」,「台風・低気圧」,「水産物の減少」,「国土減少・海岸侵食」,そして,「漁業管理」が優先すべき課題の上位10キーワードとして選択された.すなわち,自然現象や人間活動への影響に関する課題解決の優先度が高く,緩和・適応策の優先度は低かった.これらのキーワードの選択理由について考察するとともに,我が国における現状と今後の課題や展望について,キーワードごとにとりまとめた.