著者
田中 みなみ 宮崎 清
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.33-40, 1993-07-25 (Released:2017-07-25)

平安時代から江戸時代にかけて描かれた絵画史料,絵巻物と屏風絵に登場する飲食器を対象として,その性状と用いられ方に着目しながら,歴史的変遷過程を観察・考察した。具体的には,絵画史料に登場する総計466件の飲食器について,(1)性状および使用状況による分類を行って量的データとして処理すること,ならびに,(2)個々の使用状況を観察し古文書の記述と合わせてその特性を考察することを行った。その結果多くの知見が得られたが,以下の3点は特筆すべき事項である。(1)高い高台を有する木椀の発生は器を手に保持して食する作法の確立に呼応しており,その時期は,およそ室町時代中期以降であると考えられる。(2)社会的階層の高低を問わず平安時代から江戸時代まで一貫してケとハレの生活の全面で広く利用されていた木椀は,いわば「飲食器を代表する生活のたの器」であったといえる。(3)「一器多用の器」として木椀が社会的身分を問わず長い時代にわたって使用されてきたのは,木椀が多様な用途に対して優れた対応力を有することを,その使用を通じ,人びとが広く認知してきたためと考えられる。
著者
中瀬 安清
出版者
日本細菌学会
雑誌
日本細菌学雑誌 (ISSN:00214930)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.637-650, 1995-07-25 (Released:2009-02-19)
参考文献数
54
被引用文献数
1

北里柴三郎が1894年(明治27年),香港のペスト流行に際し,A.J.E.Yersinとほぼ同時にペスト菌を発見してから百年になる。これを記念して,北里は当時どの様な状況下で,どの様にしてペスト菌を発見し,どの様に始末したか等に就いて述べた。先ず北里と青山胤通がペスト調査員として香港派遣に至るまでの経緯に就いて考察した。次に香港上陸後,北里が悪条件の中,ラボの設定,病原検索の確固たる方針に基づく,死体臓器と患者血液の鏡検,培養,動物試験によって,着手4日目でペスト菌を発見した経過,その公表方法,また,実験室内感染した青山と石神亨のペストへの対応と適切な処置,帰国後の始末等に就いて述べた。さらに,その5年後に始まった国内のペスト流行に際し果した,検疫,血清とワクチンの作成,接種の普及,防疫等の指導的役割,並びに,ペスト防疫での国際協力に就いて要約した。北里と門下生の論文数から見てもペストの研究は伝染病研究所設立後の北里の最重要の業績と言える。
著者
増間 弘祥 南⾥ 佑太 河端 将司 野﨑 康平 澁⾕ 真⾹ 前⽥ 拓也 代⽥ 武⼤ ⼆瓶 愛実 相川 淳 岩瀬 ⼤ ⾼野 昇太郎 福⽥ 倫也
出版者
一般社団法人 日本運動器理学療法学会
雑誌
運動器理学療法学 (ISSN:24368075)
巻号頁・発行日
pp.202213, (Released:2023-06-12)
参考文献数
26

【⽬的】⼈⼯膝関節全置換術(以下,TKA)後の患者における術後14 ⽇以内の⾃宅退院可否と術前歩⾏速度の関連を明らかにすること。【⽅法】対象は2016 年4 ⽉〜2021 年3 ⽉までにTKA を施⾏された294 例とした。対象者を術後14 ⽇の⾃宅退院を基準に早期退院群と遅延転院群の2 群に分類した。対象者に対して術前歩⾏速度を調査し,2 群間で⽐較を⾏った。さらにロジスティック回帰分析により術前歩⾏速度が術後14 ⽇以内の⾃宅退院を困難とするリスク因⼦となるか検討を⾏った。【結果】遅延転院群の術前歩⾏速度は早期退院群と⽐較して有意に低下していた。さらに,術前歩⾏速度は術後14 ⽇以内の⾃宅退院を困難とするリスク因⼦となることが分かった(オッズ⽐:0.09,95%CI:0.03–0.32)。【結論】TKA 後の患者において,術前歩⾏速度の評価は術後14 ⽇以内の⾃宅退院可否を予測する上で有⽤であることが⽰唆された。

22 0 0 0 OA 不思議累々

著者
森川 雅博
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.71, no.10, pp.661, 2016-10-05 (Released:2017-04-21)

巻頭言不思議累々
著者
貝塚 茂樹
出版者
教育思想史学会
雑誌
近代教育フォーラム (ISSN:09196560)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.56-64, 2015-09-12 (Released:2017-08-10)

日本教育史においては、教育勅語が近代教育における道徳教育の理念の中核であり、「源流」であることが自明のこととされてきた。しかし、教育勅語の評価は、近代教育を通じて決して「安定」していたわけではなく、国民道徳論や「日本的教育論」などの影響の中で、確固たる有効性を持ち得ていたわけではなかった。この点の歴史的分析を欠いた戦後の教育史研究は、教育勅語の歴史的定位を明確にすることに成功しておらず、同時にそれが道徳教育研究を妨げる要因ともなってきた。道徳教育をめぐる議論を学問的な研究対象とするためには、教育勅語を歴史研究の中に実証的に位置付ける努力が求められる。それは、道徳の「教科化」の本質的な意義と可能性を理解するためにも不可欠である。
著者
加納 寛子
出版者
日本情報教育学会
雑誌
情報教育 (ISSN:24343463)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.18-23, 2019 (Released:2019-05-20)
参考文献数
11
被引用文献数
1

SNS疲れが指摘されている一方で,「インスタ映え」が2017年の流行語大賞に選ばれるなど,ソーシャルメディアには,一定の魅力あるいは虜にさせる仕組みがあるようだ.本稿では人をソーシャルメディアの虜にさせる要因の一つと考えるリツイートや「いいね」機能と承認欲求に着目した.そして,承認欲求とソーシャルメディア使用傾向の関連性を調べることを本稿の目的とした.質問紙調査を行った結果,承認欲求の高い者はTwitterやInstagramを利用する傾向にあり,承認欲求の低い者はTwitterやInstagramを利用しない傾向が見られた. また,承認欲求の高い者は勉強をする時もそうでないときもネット検索を利用する傾向にあり,承認欲求の低い者は利用しない傾向が見られた.さらに,承認欲求の高い者はスマートフォン等に常時接触している傾向にあり,承認欲求の低い者は常時接触していない傾向が見られた.この結果より,スマホ依存を断ち切る一つの手立てとして,承認欲求をTwitterやInstagram等のソーシャルメディアで満たそうとするのではなく,自己実現や勉学,仕事など,別の方向で満たすことができるよう導くことにより,スマホ依存を克服できる可能性が示唆された.
著者
西須 大徳 落合 駿介 鳩貝 翔 佐藤 仁 臼田 頌 村岡 渡 莇生田 整治 河奈 裕正 中川 種昭 和嶋 浩一
出版者
一般社団法人 日本顎関節学会
雑誌
日本顎関節学会雑誌 (ISSN:09153004)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.15-19, 2014-04-20 (Released:2014-05-23)
参考文献数
11

ジストニアは中枢性の持続的筋緊張を特徴とする運動異常疾患である。口顎部に発症した場合,顎のずれや痛みなどの症状を訴えて歯科を受診することがある。今回,薬剤性口顎ジストニアが咬筋・外側翼突筋に発症した症例を経験したので神経学的および薬理学的考察を交えて報告する。患者は20代女性,顎関節脱臼,および顎の痛みを主訴に当院救急に搬送された。CT撮影により右側顎関節脱臼と診断され,プロポフォール鎮静下に整復するも,再度脱臼したとのことで診療要請があった。診察時,顎位は閉口,右方偏位の状態で,救急科初診時とは明らかに所見が異なっていた。咀嚼筋の触診を行ったところ左側咬筋,外側翼突筋の過緊張がみられ,開口困難を生じていた。さらに,開眼失行,眼球上転が認められたことからジストニアを疑い,改めて全身疾患や薬剤の使用について問診した。その結果,統合失調症のため抗精神病薬を2剤内服していることが明らかとなったため,薬剤性口顎ジストニアと診断した。精神・神経科と相談し,治療として抗コリン薬である乳酸ビペリデン5 mgを筋注した。投与5分後には開眼失行,眼球上転,筋過緊張,顎偏位の改善を認め,開口も容易となった。口顎ジストニアは歯科に来院することがあり,その特徴的所見を十分把握したうえで迅速に診断し,他科と連携しながら対応する必要がある。
著者
笠松 雅彦 鈴木 智大 八幡 奈緒 村松 那美
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.99-109, 2022-09-01 (Released:2023-01-01)
参考文献数
31

受診トレーニングは,動物診療において自発的な無保定状態で対象動物に検査および治療に必要な体勢を維持させる方法であり,海棲哺乳類の飼育管理に不可欠なトレーニングである。本研究では2006年から2020年の間に鳥羽水族館において7種69頭の鰭脚類を対象に行った2653件の受診トレーニングの内容を調査し,受診トレーニングの実施が海棲哺乳類医学ならびに飼育管理に与えた影響について評価することを目的とした。受診トレーニング件数は2015年以降に著増しており,調査期間を通じてセイウチに関するものが最も多かった。受診トレーニングの内容は,採血と超音波検査がそれぞれ71.1%および26.5%と大半を占め,目的別割合は定期検査と繁殖に関連するものが,それぞれ48.4%および40.0%と多かった。繁殖関連では,継続した受診トレーニングによって,オタリアの着床遅延期間が排卵後15週であることやミナミアフリカオットセイの胎子成長率(子頭大横径)が0.85 cm/月であることが明らかになった。また,眼科診療や麻酔導入においてもその有用性が認められた。受診トレーニングは目的とその評価が重要であり,受診トレーニングによって得られた生体情報を詳細に検討し,海棲哺乳類の飼育管理や動物福祉に貢献できるトレーニング方法を発展させていく必要があると考えられた。
著者
中村 大輔
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.75, no.6, pp.346-354, 2020-06-05 (Released:2020-10-14)
参考文献数
39

強磁場マグネットと聞いて多くの方が思い浮かべる装置は,研究室での運用が可能で1~10 T程度の磁場を発生できる,市販の電磁石や超伝導マグネットではないだろうか.国内では,それ以上の強磁場は東北大学金属材料研究所の31 T定常ハイブリッドマグネットや,東京大学物性研究所等の75 T非破壊パルスマグネットによって発生できる.これらはソレノイドコイルに電流を流して繰り返し磁場発生ができるマグネットである.物性研究所では,これらとは全く異なる発想で,磁場発生後にマグネットが破壊されることと引き換えに100 T以上の磁場発生が可能な「破壊型」パルスマグネットの開発に長年にわたって取り組んできた.中でも,300 T以上の磁場を発生できる電磁濃縮法を用いた装置は物性研究所でしか運用されていない世界唯一の装置である.電磁濃縮法では数mmの空間に再現性良く磁場を発生できるため,1,000 T級の磁場を用いた物性研究を目標とした技術開発が1970年代から進められてきた.その結果,1995年には550 T,2002年に620 T,2008年には730 Tの最高磁場に到達し,これまでに600 Tに至る磁場下において磁性体やナノカーボン物質を対象とした物性研究が行われた.しかし,1,000 Tを凌駕する超強磁場の発生には,磁場発生電源(コンデンサバンク)の根本的な見直しと,信頼性のある超強磁場測定法の確立という,2つの大きな壁を乗り越える必要があった.そのため,2010年度より開始された新プロジェクトでは,コンデンサバンク電源,電源からの電流が集約される集電板,主コイルのクランプ装置など電磁濃縮法装置の構成要素すべてを刷新し,1,000 T級の磁場発生が可能な総エネルギー5 MJの装置が2018年に完成した.これらの大規模な装置開発と並行して,筆者は1,000 Tを超える磁場の効率的な発生方法を提案した.最適な実験パラメータを数値計算によって探索した結果,磁束濃縮前の初期磁束を抑制することによって,磁束濃縮を行うライナーの最終的な内径がより小さくなり,発生する最大磁場が増加することが示された.しかし,磁場計測に使用されてきたピックアップコイルによる誘導起電力測定では,電磁ノイズの影響や測定リード線の絶縁破壊などにより,従来より小さい径に発生する超強磁場を計測することは困難であった.そこで,筆者は磁気光学的手法であるファラデー回転法を用いた磁場計測プローブを開発した.総エネルギー5 MJの新型電磁濃縮法装置を用いて初期磁束がある程度抑制された下での実験を行ったところ,2018年4月18日に1,200 Tの磁場発生・計測に成功し,電磁濃縮法によって1,000 Tの壁を越えるという長年の宿願が成就した.1,000 T級の超強磁場による効果は,室温の熱エネルギーや物質中でのファンデルワールス結合エネルギーを凌駕し,電子のサイクロトロン運動が原子間隔程度にまで小さくなる.そのため,超強磁場特有の新現象・新機能が現れるだけでなく,既存の強磁場物質科学研究の枠組みを超えて,化学反応や生命科学などの分野との融合的な研究が芽生えることが期待できる.
著者
田中 誠二
出版者
日本昆虫学会
雑誌
昆蟲. ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.113-121, 2013-04-05

コガネムシの1種,Lepidiota mansuetaは,インド,アッサム州を流れる大河,バラマプトラ川に形成された世界最大の中州島,マジュリ島において2008年以降に個体数を急増させ,サトウキビをはじめさまざまな作物の根茎を食害し,農作物に深刻な被害をひきおこしている.筆者は2012年11月にこの島を視察し,このコガネムシの生態と被害の状況などに関する情報を収集した.この論文は,L.mansuetaの生活史,被害の状況,防除対策,問題点,今後の計画と展望について報告する.また生活史や行動パターンが,この種に似ている日本の沖縄県宮古島におけるケブカアカチャコガネDasylepida ishigakiensisと比較し,生態や防除対策に関して論議する.
著者
雪岡 聖 田中 周平 鈴木 裕識 藤井 滋穂 清水 尚登 齋藤 憲光
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集G(環境) (ISSN:21856648)
巻号頁・発行日
vol.72, no.7, pp.III_87-III_94, 2016 (Released:2017-04-03)
参考文献数
20

本研究では,化粧品中のペルフルオロ化合物類(PFCs)の前駆体の把握を主目的とし,一定条件下で酸化分解を行うことで,種々の前駆体をPFCsに変換し,生成ポテンシャルを評価した.さらに精密質量分析により前駆体の化学構造の探索を行った.30製品中の15種のPFCsの総含有量は146~8,170 ng/g-wetであり,PFCs生成ポテンシャルは75~93,200 ng/g-wetであった.一部のファンデーションと化粧下地にPFCsの11~199倍のPFCs生成ポテンシャルが存在した.化粧品成分として「フルオロ(C9-15)アルコールリン酸」を含むファンデーションを精密質量分析した結果,7種のポリフルオロアルキルリン酸エステル類(PAPs)が検出され,それらはPFCsを生成する前駆体である可能性が示唆された.
著者
Ger Anne W. Duran Joseph Q. Basconcillo
出版者
公益社団法人 日本気象学会
雑誌
SOLA (ISSN:13496476)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.33-41, 2023 (Released:2023-02-22)
参考文献数
32
被引用文献数
1

Due to less tropical cyclone (TC) occurrences, the climatology of the quiescent TC season (i.e., March-April-May, MAM) in the western North Pacific (WNP) is less understood when compared to the more active season (i.e., June-November). Here we show observational evidence of significantly decreasing TC quiescence during MAM that can be attributed to more Central Pacific El Niño events from 2002 to 2022. A Central Pacific El Niño is related to an asymmetric sea surface temperature (SST) pattern where warm (cool) SST anomalies are concentrated in the central (western) Pacific, which consequently contributes to the overall decrease in TC quiescence in MAM. Such anomalous SST pattern prompts the western North Pacific Subtropical High to expand westward, creating a conducive large-scale environment for TC development and allowing TCs to move closer to the landmass, which ultimately leads to an increasing cost of TC-associated damages during the quiescent season. Our study provides new insights into the decreasing TC quiescence and TC climatology in the WNP during MAM, which is ultimately expected to contribute to disaster risk reduction in the region.
著者
山田 雅巳
出版者
日本環境変異原学会
雑誌
環境変異原研究 (ISSN:09100865)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.87-92, 2003 (Released:2005-08-19)
参考文献数
8

Gene disruption methods are useful to construct bacteria lacking a specific gene especially when a gene’s function is unknown. In the 1980s, complementation techniques were used as the first step in cloning a gene. With the advances made through genome projects, gene identification and cloning have allowed easier construction of deficient bacterial strains with cloned genes. In this report, I describe three methods of disrupting specific genes on chromosomes in a strain of interest, namely linear transformation, preligation and the ‘one-step’ method. Moreover, several genetic techniques which are necessary for conducting these methods are also reviewed.
著者
浅井 智久
出版者
JAPANESE PSYCHOLOGICAL REVIEW
雑誌
心理学評論 (ISSN:03861058)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.5-15, 2019 (Released:2019-11-22)
参考文献数
17
被引用文献数
1

A recent theoretical framework has formalized predictive mechanisms in the sensorimotor system. This “predictive coding,” also called the agent-centered approach, has revealed some dysfunctions of prediction in patients with mental disorders such as schizophrenia. The dynamic and hierarchical nature of prediction could be innately aberrant. Therefore, their representation as a generative model of the self and the world is unclear. The current paper discusses (1) the theoretical controversies in subjective probability in the Bayesian perspective and (2) its application for understanding psychotic symptoms or experiences such as delusions and hallucinations for future empirical work.