著者
鈴木 武幸
出版者
東海学院大学・東海女子短期大学
雑誌
東海女子大学紀要 (ISSN:02870525)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.39-53, 2006-03-31

日本の社会は二十世紀後半から二十一世紀にかけて、本格的な少子高齢化社会に突入したといえる。バブル経済によってそれまで安定していたかに見えた経済及び行政に陰りが見え、改革による建て直しが必至となってきた。そうした行政改革が行われていく中で社会福祉領域においても構造改革が進められ、今までの措置制度から契約制度へとその構造を大きく転換した。介護保険の導入、障害者への支援費制度の導入、そして今回の障害者自立支援法へと矢継ぎ早に各施策が行われつつある。中味としては、行政改革からくる三位一体の改革によって市町村へさまざまな権限の委譲がおこなわれ、国の責任が後退する中、代わって福祉分野においても民間活力による競争原理が導入された。こうした一連の改革の一つとして位置付けられた障害者自立支援法は弱者への新たな経済的負担や就労による自立強制を求めるものとして、改めて障害者の間にさまざまな波紋を投げかけている。法(案)の概要は障害者の地域生活と就労を後押しするための支援を行い、障害者基本法の基本理念を尊重しながら、今までの障害種別(身体障害者福祉法、知的障害者福祉法、および精神障害者福祉法)ごとに行われてきた福祉サービスを一元化し、サービスの提供主体を市町村で行うこととした。また、具体的な自立支援を行うため、その対象者・内容・手続き等地域生活支援事業、サービス整備のための計画書作成及び費用負担を定め、今後増えつづける福祉サービス等の費用を含めた支援を国民全員で負担しあう仕組みを作っていくこととした。こうした状況のもと、私たちが社会福祉実践として障害者自立支援に取り組む場合、まず、新たにだされた障害者自立支援法(案)の中身を検討し、今まで社会福祉実践として積み上げてきた多くの成果とのすり合わせを行うことが必要となる。特に、障害者自立支援法においては障害者の個人的な能力と自助努力の必要性を強調しており、本題とされるべき「障害者の自立とは何か」についての定義が曖昧である。いずれにしても、国際障害年以降浸透してきたノーマライゼーションの考え方は障害(者)を個人の問題として捉えるのではなく、社会との関係で捉えていく事が大事なことである。そして障害者が自立していくためには、障害者自身が社会福祉サービスを使いこなしていく主人公になることが強調されることであり、そのことが真の生存権保障につながっていくものである。
著者
蓑田胸喜 [著]
出版者
蓑田胸喜
巻号頁・発行日
vol.第1 (文献指摘), 1939
著者
柴田 愛子 曽山 典子 岡村 誠 森 徹
出版者
関西学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

我々の研究は、法や規則やモラルに反した行為、例えば、いじめが行われている状態を考える。この違反行為を知りながら傍観する傍観者達の行動を進化的非協力ゲームとしてモデル化し、実験で検証した。この理論によれば傍観者が(1)いじめを報告する(2)報告しない(3)確率p^*で報告するの3つの状況はNash均衡である。しかし、3番目の均衡は進化的不安定な均衡(evolutionarily unstable equilibrium)である。そして、日本人大学生を対象とした8回の実験結果から、いじめを排除するサービスは公共財であり、傍観者の生徒からのいじめについての報告が増える条件は、(1)いじめを報告したときの費用(仕返し等)が小さい。(2)生徒がいじめを傍観することから受ける不効用が大きい(3)教師がいじめを取り上げるのに至る必要な最小報告生徒数が少ないことなどが判明した。しかし、最も重要な結論は、(4)クラスの規模が小さくなれば、協力的行動が増え傍観者が減る結果である。この結論は学校のクラスの小人数化政策を支持する。3回の国際学会で報告され、カルフォルニア大学のDaniel Friedmanとイエール大学のShyam Sunderが高く評価した。(論文は英文で投稿中)これらの結果が、日本人に特有なものか否かを調べる為に、現在までに3回の国際混合実験が行なわれた。実験1は関西学院大学(1998.9.24)で、日本とドイツの大学生10名ずつ、実験2はドイツAugsburg大学(1999.9.6)で、日本人大学生10名、ドイツ人大学生8名日本人留学生2名、実験3が天理大学(2000.11.8)で日本、中国、台湾の大学生を40人集めて実施された。その結果、事前協議効果は同国人と外国人に関係なく存在する。また、異なる国籍のメンバーが同一グループを形成する場合、信頼感が薄くなることが判明した。
著者
阪上 紗里 浅井 健一
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.2_3-2_17, 2009-04-24 (Released:2009-06-24)

「プログラムの残りの計算」を表す継続を扱う為の基礎言語体系として,対称λ計算(Symmetric λ-calculus, SLC)がFilinskiによって提案されている.SLCにおいては項と継続が完全に対称な形をしており,項を扱うのと同じように継続を扱うことができる.そのため,項と継続を統一的に議論するのに適していると思われるが,これまでSLCについての研究はほとんどなされていない.ここでは,まずSLCをsmall step semanticsで定式化し直し,型付き言語の基本的な性質であるProgressとPreservationを満たすことを証明する.次に,SLCが継続計算を議論・表現するのに適していることを示すため,(1) FelleisenのCオペレータを含むcall-by-value言語,ΛC計算,および(2) Parigotのcall-by-name λμ計算が,どちらも自然にSLCに変換できることを示す.近年call-by-valueとcall-by-nameの双対性が項と継続の対称性と絡めて注目されているが,ここでの結果はそれに対する洞察を与えるものと期待される.
著者
保木邦仁
雑誌
研究報告アルゴリズム(AL)
巻号頁・発行日
vol.2012, no.5, pp.1-1, 2012-03-07

将棋は西洋のチェスと同じルーツを持つゲームと考えられている。そのため、将棋とチェスのルールには類似点が多い。その一方で、持ち駒ルールのように異なった性質もある。このようなルール上の違いは、人工知能及びアルゴリズム設計の難易度に大きな影響を与えた。実際、IBM ディープ・ブルーが 1997 年にチェスの世界チャンピオンを破った時でも、当時のコンピュータ将棋の棋力は通常のアマチュアプレイヤー以下であった。コンピュータ将棋が人間トップに迫るほどの棋力を獲得したのはごく最近である。2010 年はあから 2010 が清水市代女流王将に勝利し、2011 年には Ponanza が著名なインターネット対局場 (将棋倶楽部 24) の短時間対局で最高レーティングを獲得、また 2012 年にはボンクラーズが米長邦雄永世棋聖に勝利した。本公演では、最近のコンピュータ将棋の動向に加えて、強いプログラムの一つである Bonanza の思考の仕組みを紹介する。高精度評価関数の最適化や、力ずく探索の枝刈り手法について、将棋とチェスの違いを示す。
著者
山田 尚勇
出版者
国立情報学研究所
雑誌
学術情報センター紀要 (ISSN:09135022)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.199-247, 1994-03-28

発話およびそれから派生した文章を含めた聴覚的言語のほかに、最近ではコンピュータ・グラフィクスの急激な進歩に伴って、ほとんどがまだ片こと的なものではあるが、画像に訴える視覚的言語という概念が注目されている。本稿では人間科学の立場に立って、この両者を比較し、かつ実は手話などを含む視覚的言語のほうが、言語としてはずっと古い起源を持ち、それだけに人間にとっては楽で自然なコミュニケーションの媒体である可能性を探る。
著者
山下 直美 葛岡 英明 平田 圭二 工藤 喬 荒牧 英治 服部 一樹
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.981-993, 2017-05-15

本論文では,2つの調査に基づいて,うつ病患者の家族介護者を支援するための知見を述べる.1つ目の調査では,患者の気分の上下や予期せぬ振舞いなどに対処する家族介護者の介護活動の現状とニーズを把握する.その調査結果をふまえて介護記録Webアプリケーション「みまもメイト」を開発する.2つ目の調査では,家族介護者がみまもメイトを6週間にわたって利用することによって,家族介護者のうつ病患者に対する関わり方や患者との人間関係がどのような影響を受けたかを調べる.利用後のインタビュー調査から,家族介護者がみまもメイトを利用することによって,自身の介護活動を客観的に見つめ直す効果がある(第三者視点の導入)ことが分かった.さらに興味深いことに,みまもメイトは患者,病気,家族介護者の間の関係を変化させ,これによって,家族介護者とうつ病患者間のコミュニケーションを改善する効果があることも分かった.具体的には,みまもメイトを用いることによって,家族介護者単独で病気をかかえる患者に対処するという構図(家族介護者vs.患者+病気)から,患者と家族介護者が協調しながら病気に立ち向かうという構図(家族介護者+患者vs.病気)へと変化した.
著者
波戸 真治 木名瀬 栄
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会和文論文誌 (ISSN:13472879)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.146-150, 2016 (Released:2016-08-15)
参考文献数
5

It is important to accurately estimate the intake quantity for reliable internal exposure assessments. The intake quantity has been estimated by using the least-squares method. However, to use the least-squares method, the number of radioactivity measurements must be more than the number of intakes. To remedy this restriction, this study suggests an estimation method using singular value decomposition that is available regardless of the relation between the numbers of measurements and intakes. Moreover, this study introduces a procedure to calculate the intake quantity from the measurements with uncertainty.
著者
多ケ谷有子 タガヤ ユウコ Tagaya Yuko
出版者
関東学院大学[文学部]人文学会
雑誌
関東学院大学文学部紀要 (ISSN:02861216)
巻号頁・発行日
vol.117, pp.3-36,

『日本霊異記』にある「道場法師説話」の鬼退治と『ベーオウルフ』のグレンデル退治とは、類似する部分が多い。「道場法師説話」の鬼退治譚がもつモチーフは、小異を除きすべて『ベーオウルフ』にもある。島津久基著『羅生門の鬼』は、謡曲『羅生門』の原型として「道場法師説話」を引いているが、『ベーオウルフ』との直接の対比はなされていない。道場法師は柳田民俗学でいう「小さ子」の系統にあるとされ、『ベーオウルフ』にはそれに似た"Ash Lad<のモチーフがある。道場法師が退治した鬼は仏教を妨げる地主神との解釈があるが、ベーオウルフをキリスト教的英雄と見れば、グレンデルを土地伝来の地主神が零落した姿と見ることができる。「道場法師説話」はある側面では「綱伝説」より『ベーオウルフ』に似る。以上を踏まえて、『日本霊異記』の「道場法師説話」と古英詩『ベーオウルフ』とを比較検討する。
著者
徳永 哲
出版者
日本赤十字九州国際看護大学
雑誌
日本赤十字九州国際看護大学intramural research report (ISSN:13478877)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.29-61, 2005-12-25

The Potato Famine took place between 1845 and 1849. The terrible potato disease, the 'Blight', came from England to Ireland in the autumn of 1845. The potato was damaged as badly in Britain as in Ireland that autumn, but there was no famine in Britain. 'Blight' caused a terrible disaster just in Ireland. The millions of landless and destitute people poor had few or no money and they could not have any other crop except the potato. More than a million people died, and about a million people left Ireland for foreign countries for the period of five years. I wrote a paper, Relief Measures and Epidemics in the Irish Great Famine (1845-49), in 2002, and presented it to the Intramural Research Report Vol. I. When I was writing the paper, I found a lot of problems which were beyond my understanding. Why were the poor people not relieved? Why could they eat any food except the potato? Weren't there any relief activities? A lot of problems welled up in my heart. I traveled around Ireland in 2004 to solve the problems. I went to Connemara District by bus, and looked at the beautiful mountains and lakes. I was very much fascinated by them, but at the same time I felt sad. I imagined that the poor Irish people evicted from the landlord were wandering on the rocky mountains, and starved to death. The beautiful mountains I saw must have seemed to the poor Irish people to be the desperate ground. I want to make it clear in this paper how Irish people lived and died in workhouses, fever hospitals and their cottages, and what kind of disease they died of."アイルランド大飢餓(1845-49年)の救済策と疫病"(2002)を基に再構成、加筆したもの