著者
村井 稔幸
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

癌細胞の浸潤・転移の制御機構には不明な点が多く、癌進展を防ぐ効果的な手段の開発が望まれている。私たちは、癌細胞に発現する接着分子CD44が、腫瘍細胞外マトリックスの主要構成成分であるピアルロン酸の小断片と相互作用することにより、切断を受けることを見出した。さらに、そのシグナル伝達分子と切断酵素を同定し、癌細胞の運動性亢進への寄与を明らかにした。平成18年度は、平成17年度に引き続いて、腫瘍組織における低分子量ビアルロン酸の生成機序の解明、および、CD44の細胞外領域切断による癌細胞の浸潤性亢進の分子機構について、次の研究をおこなった。1.腫瘍組織における低分子量ビアルロン酸生成機序の解明癌細胞において、ビアルロン酸を断片化する酵素分子を同定した。そして、当該ビアルロン酸分解酵素分子について、その発現を遺伝子工学的に抑制する系、および、増強する系を構築することができた。2.CD44の細胞外領域切断による癌細胞の浸潤性亢進の分子機構癌細胞において、上皮成長因子受容体の高発現が顕著に認められる。このことに着目し、これまでのCD44と癌細胞浸潤・転移についての独自の知見を基に、上皮成長因子の癌細胞浸潤への関わりについて検討をおこなった。その結果、上皮成長因子がCD44の細胞外領域切断を惹起し、癌細胞の浸潤性亢進を引き起こしていることを明らかにした。また、その作用機序についても分子レベルで明らかにした。
著者
市川 真人 辛島 デイヴイツド
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

前年に引き続き、読書支援アプリケーションの試作にかんして、以下の活動を行った。①科学研究費の範囲ではアプリケーションの開発に十分な資金的リソースにはならないことが判明したため、本研究の範囲を試作とアプリケーションで利用する文学関連データの整理に絞り、研究を進めた。②試作に最適な文学作品とはなにかについて、分析と検討を加え、人物を焦点に中上健次・宮沢賢治の両名、場所を軸に広島を対象とすることに決定。上記のうち、中上健次の作品にかんして、(1)場所(トポス)、(2)人物、(3)出来事、をタグにデータ整理を進めた。③実証実験候補となる、多数のユーザーが参加するイベントを検討。普及が始まったウェアラブル端末を、読書支援に利用できないかの検討を進めた。④電子書籍の現状をめぐる中間報告を、早稲田大学文芸ジャーナリズム学会紀要「現代文芸研究」に発表。
著者
深井 智朗
出版者
金城学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究では、近代ドイツ宗教思想史研究に社会史的な視点を導入するために、従来の思想史研究の前提であった「著者‐読者」ではなく、「著者‐編集者(出版社)‐読者」という関係モデルを提示した。なぜなら、近代以後の世界では思想もまた市場化し、編集者、あるいは出版社の媒介なしには、思想を知的市場にもたらすことはできなくなったからである。またこのような仕組みの中では、思想を市場に届けるためには、出版社が大きな力をもつようになり、編集者や出版社の思想が、著者に大きな影響力を与えるようになるからである。そのことを近代ドイツの2つの宗教出版社の資料をサンプルに解明した。
著者
深井 智朗
出版者
東洋英和女学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、高度情報社会における宗教思想家(あるいは団体)と、それを受け取る「読者としての大衆」との関係の変化を、ドイツのヴィルヘルム期に出版社(とりわけオイゲン・ディーデリヒス出版社とクリスチャン・カイザー出版社)の歴史をサンプルに、以下の2点から考察した。その結果以下の結論を得た。すなわち、信教の自由が保障され、宗教が市場した社会では、宗教的思想家と読者との関係が逆転し、著者が読書に影響を及ぼし、知識や宗教的情報を伝達するのではなく、「読者としての大衆」の嗜好が宗教思想家の考えを形成している。
著者
野田 岳仁
出版者
立命館大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本年度は後に詳しく説明するようにコモンズの“排除性”という機能に注目し、分析を行った。前年度で検討したように、アクアツーリズムが対象とする地域の湧水や洗い場は地域の人びとのコモンズであることが観光資源としても意味を持ってきたのだが、それらを手入れしてきた管理組織は著しく弱体化しているため、アクアツーリズムに乗り出すにあたって、管理組織を強化するか、あるいは別の組織に管理を肩代わりさせる必要が生じるようになっている。すなわち、アクアツーリズムの現場では、地域のコモンズを開放することが政策的にも期待されるようになっているのである。ここで悩ましいことは、コモンズをただ開放すればよいかといえば決してそうではないことである。コモンズはある集団内で同質な構成員に限定されていたからこそ、合理的な資源管理が成り立ってきたからである。つまり、コモンズに内在する“排除性”という機能こそが資源管理能力を高めてきたのである。しかしながら、管理組織の弱体化という現実をふまえてみれば、資源管理に関心を示す異質で多様な担い手を新たに招き入れる必要があり、そうすると規範や規制の共有化は難しく、一時的であれ管理能力は低下することになってしまう。コモンズの資源管理能力を高めようとすれば、排除性を強めればよいのだが、そうすると新たな担い手を受け入れることが難しくなる。アクアツーリズムが対象とするような現代的なコモンズはこのような矛盾を抱えていることが明らかになった。そのうえで、コモンズを開放するにあたってもコモンズの排除性を損なうことなくどのように新たな担い手を受け入れることができるのか、各地の管理組織の論理の分析を行った。
著者
星野 太佑
出版者
東京大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2011

本研究では、乳酸が運動による骨格筋ミトコンドリア増殖のシグナル因子となるのか明らかにすることを目的とし、研究を行った。まず、マウスへの運動前のジクロロ酢酸摂取が、運動中の体内の乳酸濃度を低下させることを確認した。そのDCA摂取を用いて、マウスに乳酸濃度の低い運動を継続して行うトレーニングを4週間行わせた結果、同じ強度でも乳酸濃度の低い運動トレーニングを行った群では、通常のトレーニングによって引き起こされるミトコンドリアの増加が抑制されることが明らかとなった。このことは、乳酸がミトコンドリア増殖のシグナル因子になりうる可能性を示唆するものである。
著者
田中 秀佳
出版者
名古屋経済大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2013-08-30

国際人権法の、無償教育をめぐる法制原理の整理と分析を進めてきた結果、1「無償」の概念と範囲が、わが国のそれとは大きく異なること、2立法・行政による無償教育施策の実行の程度を計測する指標枠組みが提起されていること、3政府が国際人権法の規定を実行しなかった場合には、社会権であっても司法による判断がなされ得ることが明らかになった。ここから、1国際人権法と国内教育条件整備法との整合性をめぐる詳細な法的分析、2無償教育の先進国における国際人権法と教育条件整備法との整合性/コンフリクトの事例検討、3教育の権利保障の実現程度を指標化する理論研究の整理と指標の分析の必要が研究課題として析出された。
著者
廣岡 秀明
出版者
北里大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

大学進学率の上昇に伴い、学生の多様化が進み、学習時間の減少も指摘されてきている。いかに学習時間を確保するかは、単位の実質化の議論においても重要な要素となる。本研究では、マーケティングで活用されているゲーミフィケーションの手法を取り入れ、時間や場所にとらわれないウェブを利用した学習教材の開発を行い、これを利用することで学習時間の増加と学習効果の向上を目指している。この結果、アクティブ率は下がることなく推移し、大手SNSに比較しても十分に能動的なアクセスを促す機能を果たしていることがわかった。
著者
松島 俊也 内藤 順平 並河 鷹夫 前多 敬一郎
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

(1) 摂食行動における視覚弁別学習と記銘内容に関する行動学的解析生まれたばかりのヒナ鳥は「何が餌であるか」を生得的には知らない。非選択的に啄んだ後、味覚と視覚との連合によって対象選択性を絞り込む。この一回性回避学習課題は不可逆的でありかつ一回性を持つ点で、広義の「刷り込み」学習と見なされる。啄み行動の頻度に基づいて、物体の諸特徴に関する知覚地図の変化を追跡したところ、苦い物体の忌避カテゴリーが学習初期相(15分〜1時間)は色によって表現されているのに対し、長期相(〜24時間)では形および提示位置に置き換わっていくことがわかった。(2) 大脳視覚連合野における視覚記憶の細胞表現に関する単一ニューロン解析ヒナ鳥の視覚連合野(IMHV核)より、無拘束・覚醒・自由行動下にて、2つ以上の単一ニューロンから同時に数時間以上にわたる神経活動を導出する技術を確立した。上記の視覚弁別課題(一回性回避学習課題)の直前・直後の活動を解析したところ、特徴的なコヒーレント・バースト活動を記銘直後に示すニューロン群を同定した。(3)大脳基底核に共発現する長期増強と長期抑圧に関する神経生理学的解析大脳基底核(LPO核)は回避課題の記憶痕跡が保存されていると考えられている。スライス標本にパッチ電極を適用してLPOニューロンへのシナプス入力を解析した.同一のニューロン群に収束する2群の興奮性シナプスは、両者に加えたシータ・テタヌスが同期した場合に限って、一方の長期増強と他方の長期抑圧が同時に発現した。長期増強はドーパミンD1受容体の活性化を必要とすることから、回避学習の素過程と見なしうる。
著者
北田 暁大
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は「社会と名指される集合的対象を、特定化し、その集合的状態の変化・改善を、何らかの統制された方法を用いて目指す社会的実践(social practice)」としての「社会調査(social survey)」の歴史・社会的機能を、19世紀末~20世紀半ばのアメリカ社会学、行政、財団の動向に照準して分析するものである。この作業は、現代にいたる量的/質的の区分の誕生や統計的手法の採用の起源を確証し議論を活性化させると同時に、欧州と異なる”social”概念のアメリカ的用法の解明に寄与し、近年注目を集めている「社会的なもの」をめぐる議論のブラッシュアップにも繋がるであろう。
著者
井手 貴雄
出版者
佐賀大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

腹膜播種を伴う胃癌は未だ不治の病であり、その分子機構解明及び新規薬剤開発は急務である。PPLGMは、正常細胞へ低毒性でありながら胃癌においても抗腫瘍作用を充分に発揮することが期待できる。今回の研究において、小分子化合物PPLGMは胃癌細胞株においてアポトーシスを誘導し、腫瘍抑制効果を示したことより、PPLGMが新規胃癌治療薬の一つとなる可能性が示唆された。
著者
國光 洋二 徳永 澄憲 江口 允崇 花崎 直太 櫻井 玄 齋藤 勝宏 横沢 正幸
出版者
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

①水文モデルの推定と渇水・灌漑率の予測:水文に関する実績の気候及び流況データと流域地形データをもとに、全球のグリッド(1度単位)ごとの流量を予測する水文モデルの作成に着手した。特に、流出係数等のパラメータの修正(チューニング)を行って、モデルの予測精度の向上を試みた。②作物モデルの推定と作物別の単収予測:気候及び主要作物の収量に関する実績データをもとに、全球のグリッドごとに、作物別の単収を予測する作物モデルを作成した。モデルのパラメータの推定は、ベイジアン推定法を適用し、概ね現況を再現する値を得た。③世界各国を対象とする一般均衡モデルの作成:世界経済データ(GTAPデータ)、FAOの世界農業データ及びIPCCの社会経済シナリオ(SSP)を用いて、世界各国の作物収量に関する変動状況を解明し、この影響が世界の穀物市場の需給動向、食料価格の動向に及ぼす影響を分析するための世界CGEモデルの作成に着手した。④日本を対象とする一般均衡モデルの作成:日本の経済データをもとに、動学的確率的一般均衡(DSGE)モデルのパラメータをカリブレートし、モデルのプロトタイプを作成した。このモデルを用いて、2005年以降の日本経済の成長経路の再現性を検証し、モデルのパフォーマンスが高いことを確認した。特に、東日本大震災とその後の復興過程をモデルがよく再現することを明らかにした。また、日本の地域間産業連関表のデータをもとに多地域動学応用一般均衡モデルのプロトタイプを作成し、気候変動による日本の農産物に関する収量、価格への影響を試算した。
著者
長谷川 知子
出版者
国立研究開発法人国立環境研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

将来の気候変動による飢餓リスクへの影響は社会経済状況により大きく異なった。すなわち、分断された社会を表すシナリオでは飢餓リスクは現在より増加しより不確実なものとなるのに対し、なりゆきシナリオではリスクは継続的に減少し、不確実性は小さくなった。このような大きな不確実性のもとで対策を決めていくことが、政策決定者の課題となるだろう。また、100年に一度の極端現象下での必要な備蓄量を現在の備蓄と比較したところ、現在の世界の備蓄量は十分だが、影響を受ける地域では十分に備蓄されていなかった。これは、極端現象の発生時における食糧支援やそのための協力体制が飢餓リスクの軽減には重要であることを示唆している。
著者
加納 寛之
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2016-04-22

今年度の研究は大きく以下の2点からなる。第一に、国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC; Intergovernmental Panel on Climate Change)で採用されている不確実性の定義について検討した。IPCCが現在採用する不確実性の定義は、2010年に発行されたガイダンス・ノートに依拠する。その中で、用いられている術語の曖昧性については、すでにいくつかの研究があるものの、依然として、まだ手付かずの問題が残っている。本研究では、不確実性を規定する尺度のひとつ、確信度を構成する二つの測定基準、「証拠」と「専門家の見解の一致度」の関係性について明確にした。第二に、IPCCの各ワーキング・グループ(WG)の証拠の集約基準について検討した。WGIがピアレビューを経た科学的知見に基づく比較的ロバストな証拠を扱うのに対し、WGII、WGIIIでは、grey literatureと呼ばれる証拠群であったり、社会的な価値を考慮する必要がある。本研究では、各WGで採用される証拠の特徴を明確にした後、どのような証拠収集のアレンジメントの実現されるのかを描き出した。また、今年度は9月より半年間、イギリス、London School of Economics and Political ScienceのCentre for Philosophy of Natural and Social Scienceで、visiting studentとして研究に従事じた。現地の研究者との交流を通して、本研究の議論の細部に関わる論点を明確にした。この点については、研究をまとめる際に反映していく。それと同時に、政策科学やリスク研究の研究者、および、気候変動政策の実務者との接点を持ちながら研究を進めていく重要性を学んだ。この点についても、来年度以降、意識的に働きかけていきたい。
著者
石場 厚
出版者
愛知県警察本部刑事部科学捜査研究所
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

近年、脱法ハーブと呼ばれる薬物の乱用が大きな社会問題となっている。脱法ハーブとは、合成カンナビノイドと呼ばれる大麻と作用が類似した成分を添加した植物片のことで、これをタバコ状にして喫煙、もしくはお香のように焚き、気化した成分を吸引摂取する。したがって体内には合成カンナビノイドの他に、その燃焼生成物も同時に摂取しているものと考えられる。合成カンナビノイドの薬理作用や毒性または代謝を明らかにするうえでも、実際には何を吸引しているのかを明らかにする必要があるため、今回、いくつかの合成カンナビノイドの燃焼生成物の成分を明らかにすることとした。はじめに、実際の脱法ハーブ吸引を想定するべく、合成カンナビノイドを市販の紙巻きタバコに添加した模擬試料を作製し、燃焼実験を行った。実験に用いた合成カンナビノイドは10種類で、発生した煙をジクロロメタンで回収し、ガスクロマトグラフ質量分析装置で煙の成分をそれぞれ詳細に検討した。つぎに、合成カンナビノイドを、高周波熱分解装置(キューリーポイントパイロライザー)を用いて熱分解した。熱分解に用いるパイロホイルの種類については、タバコの燃焼付近の500℃から900℃の範囲のものを検討し、燃焼実験の結果と比較したところ、汎用的に用いられる590℃のパイロホイルを用いて熱分解すれば、実際の燃焼を再現できる可能性を示した。今回の研究により、多くの合成カンナビノイドは熱に対して比較的安定であったものの、ある種の骨格をもつ合成カンナビノイドについては熱に対して不安定なことがわかった。これらの合成カンナビノイドについては、薬理作用や毒性または代謝の研究の際、その燃焼生成物についても合わせて検討する必要があると考えられる。
著者
井上 和秀 齊藤 秀俊 津田 誠 増田 隆博
出版者
九州大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2013-06-28

ミクログリア特異的IRF8欠損マウスでは、社会的認識能が選択的に低下していることが認められた。また、正常では脳内の定位置で細胞突起を動かしているミクログリアが、IRF8欠損マウスでは細胞体ごと脳内を移動していることを見出した。また、時期特異的・ミクログリア特異的IRF8欠損マウスでも、同様の突起形成異常と形態変化が再現されることを見出し、IRF8がミクログリアの形態の維持に関与する転写因子であることを明らかにした。ミクログリアの形態・機能異常が脳の回路形成に影響を及ぼして高次機能の発現に混乱をもたらし、ミクログリアの正常な活動が脳の回路形成や高次機能の維持にも寄与すると考えられた。