著者
山岸 俊男 坂上 雅道 清成 透子 高橋 伸幸 阿久津 聡 高岸 治人
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2015-05-29

平成29年度には、行動・心理・脳構造・遺伝子多型データセットの解析を進め、ゲーム行動と脳構造の関連性に関する実験を行った。その結果、以下の知見を含む複数の知見を論文化した。知見1:社会的規範の逸脱者への罰は、従来の研究では社会的公正動機に基づく利他的な行動と考えられてきた。しかし本研究の結果、規範逸脱者へ単に苦悩を与えたいという公正さとは無縁な攻撃的動機に基づく罰行使者もかなりの比率で存在することが明らかになった。さらに攻撃的罰行使者は左尾状核が大きいという脳形態的特徴があり、この尾状核は線条体に含まれることから、罰行使で何らかの満足を得ている可能性が示唆された。知見2:攻撃性と社会規範成立との関係については、学生参加者による検討から社会的地位の高さとテストステロン量の多さが、相手への支配的行動を強めることも明らかにされている。本研究の知見は、複数の罰行動の背後にある心理・神経基盤を混同してきた従来の研究へ警鐘を鳴らし、攻撃的な罰が社会的公正の達成へ正負いずれの方向に機能しうるかという観点からの研究の重要性を示唆するものである。海外の研究者と共同で信頼ゲーム実験を17カ国で実施し、ペアの相手の集団所属性について国を単位として内集団・外集団・不明集団で操作したところ、偏狭的利他性(内集団成員をより信頼・協力する)が文化・社会を超えた普遍的な心理的基盤である可能性と、そうした利他性は評判に基づいた間接互恵性によって相殺される可能性も併せて示された。これにより関係形成型独立性へと移行する社会制度設計に評判が重要な役割を果たすことが示唆された。本研究の最終目的につながる文化形成実験は、社会的ニッチ構築の観点からの心の文化差の説明を検証する世界初の本格的実験であるが、プレテストを繰り返し実施する中で適切な実験デザインを確定し、社会的ニッチ構築理論の精緻化を進めた。
著者
ドウス ピーター 細谷 正宏
出版者
同志社大学
雑誌
同志社アメリカ研究 (ISSN:04200918)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.75-85, 1993-03-25

講演, Lecture1992年6月11日、ピーター・ドウス(Peter Duus)米国スタンフォード大学歴史学部教授が、同志社大学アメリカ研究所主催の講演会のために用意した英文草稿("How Have Americans Viewed Japan since World War II?")を邦訳したものである。当日は、この邦訳原稿をもとに、少し短縮して、教授自身が日本語で講演された。したがって、ここに掲載する同教授の「講演」は、当日の講演録ではないことをお断りしておきたい。(訳者)訳:細谷正宏
著者
木下 衆
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.73-90, 2013 (Released:2014-09-10)
参考文献数
21

本稿は, 認知症を患う高齢者を介護する家族 (介護家族) から聞かれる, 「要介護者の本当の姿を知っていたのは自分だけだった」という発言を, 「特権的知識のクレイム」 (Gubrium and Holstein 1990=1997) として分析する. 介護家族による特権性の主張は, 近年の認知症理解とは一見矛盾する. 近年の医学的議論は, 認知症患者の相互行為能力を認め, その主体性を尊重することを求めている. 介護家族の発言は, 要介護者の相互行為能力を無視し, 一方的に自身の「リアリティ定義」 (天田2007) を押し付けているように見える. しかし本稿は, 介護家族のクレイムは, 「認知症」という概念を参照することで初めて成立すると指摘する. 認知症患者の病態は, 環境や周囲の人の対応によって大きく変化する. そのことはしばしば, 「要介護者の病態について, 関係者の判断が異なる」事態を招く. このとき介護家族は, 要介護者の (「昔話をする」といった) 反応を「病気の症状」として解釈することを求める. さらに介護家族は, 「家族の関係性」といった要素を織り込みながら, 自分たちの判断の正当性を主張する. つまり介護家族は, 「認知症」という概念を日常生活にどう当てはめ, 要介護者の病態を推論するかについて, 自分たちの知識の特権性を主張しているのだと読み取れる. ここには, 「新しい認知症ケア」 (井口2007) 時代の家族介護の秩序問題がみられる.
著者
上野 芳久
出版者
湘南工科大学
雑誌
相模工業大学紀要 (ISSN:02860910)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.p97-148, 1990-03

La police en tant qu'enqueteur dans le domaine de la procedure penale, exerce un role si importante que j'ai voulu traiter de son histoire dans cet article, apres mes trois articles precedents sur l'histoire du droit penal, de la procedure penale et de la juridiction. Cet article est mon dernier d'une serie de recherches sur l'histoire criminelle francaise. J'espere que tous mes articles pourront etre utilises efficacement par les chercheurs japonais en droit penal francais.
著者
渡辺 正
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.44, no.9, pp.593-596, 1996
参考文献数
2
被引用文献数
1

身近な現象にどれほどよく当てはまるか-そこに重きを置くならば, なぜか16個の元素をずらずら並べた例の「イオン化列」はまっさきに「不合格」の印を押すべき素材だろう。いかにも根拠はございますという顔つきながら, じつはあの「右へならえ」は, 理想化をとことん進めた極限, 仮想世界の中でしか成り立たないからだ。現実世界に合わせたければ, 元素の数はぐっと間引いて10個以内, できれば8個くらいにするのがまともな神経だといえる。そのへんを一緒に考えてみたい。
著者
Kazunori Kodama Kiyohiko Mabuchi Itsuzo Shigematsu
出版者
日本疫学会
雑誌
Journal of Epidemiology (ISSN:09175040)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3sup, pp.95-105, 1996 (Released:2007-11-30)
参考文献数
53
被引用文献数
27 54

The Atomic Bomb Casualty Commission (ABCC), the predecessor of the Radiation Effects Research Foundation (RERF), was established in 1947 to conduct long-term, comprehensive epidemiological and genetic studies of the atomic-bomb (A-bomb) survivors. Today this study still depends upon the voluntary cooperation of several tens of thousands of survivors of the bombings of Hiroshima and Nagasaki. An in-depth follow-up study of mortality in the study population of 120, 000 persons, including A-bomb survivors and controls, has continued since 1950. The study of tumor incidence was initiated through record linkage with a tumor registry system in Hiroshima and Nagasaki in 1958. In the same year, biennial medical examinations of 20, 000 individuals began. Follow-up studies also have been conducted on in-utero-exposed persons and first-generation offspring of the survivors. On the basis of these studies spanning nearly half a century, we know that the occurrence of leukemia and cancers associated with A- bomb radiation is higher than among the non-exposed. Among the A-bomb survivors, radiation cataracts, hyperparathyroidism, delayed growth and development, and chromosomal aberrations also occur more often. However, to date no evidence exists of genetic effects in the children of A-bomb survivors. It should be kept in mind that such study results could never be obtained without the cooperation of A-bomb survivors. J Epidemiol, 1996 ; 6 : S95-S105.
著者
笛木 美佳
出版者
昭和女子大学
雑誌
学苑 (ISSN:13480103)
巻号頁・発行日
no.807, pp.97-107, 2008-01

3 0 0 0 OA 官報

著者
大蔵省印刷局 [編]
出版者
日本マイクロ写真
巻号頁・発行日
vol.1912年11月18日, 1912-11-18
著者
団藤重光 著
出版者
団藤重光
巻号頁・発行日
vol.1, 1941
著者
保田 卓
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.94, pp.25-43, 2014-05-31 (Released:2015-06-03)
参考文献数
19

本稿の目的は,ヨッヘン・カーデがルーマン教育システム理論をどのように批判的に継承しつつ発展させてきたかを跡づけ,それを踏まえて理論的考察を行うことである。カーデによれば,現代の教育システムは学校という組織の枠を越えて普遍化した機能システムであり,全体社会に流通する知識から[媒介可能]としてフィルタリングした《知識》を,成人を含む被教育者に媒介することで知識の習得に寄与し,ライフコース形成を促す教育コミュニケーションのネットワーク型システムである。教育システムは心理システムにおける個人の習得に,これをコミュニケーション上の習得と関係づけることで間接的にアクセスしうる。また教育システムは全体社会のメディアとしての【ライフコース】の存在を前提とし,〈媒介〉と〈選抜〉の二つのコードをもち,それによって全体社会において存続・安定化する。ルーマンが教育システムの一体性を象徴するとしてきた「教育意図」もこれらのコードとの関連で理解でき,またこの両コードをそれぞれ【ライフコース】メディアの事象次元・社会次元における具体化と捉えた場合,時間次元のコードとして[展望的/回顧的]を想定できる。一方カーデは【知識】と【修了証】を教育システムのコミュニケーション・メディアとしているが,これについては疑問が残る。
著者
小口 高 早川 裕弌 桐村 喬
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2015年大会
巻号頁・発行日
2015-05-01

研究者が作成したデータを他の研究者も利用できるようにすることは科学の発展のために重要である。ただし研究者はデータ提供のボランティアではないため、自身の分析が終わるまではデータを公開しないといった選択があり得る。データを公開する場合にも、利用者がデータの出所について論文中で明記することを望んだり、データに不備が見つかったような場合に利用者に連絡できるようにしたいといった要望があり得る。ただし、そのような管理を含むデータの配付を個人の研究者が行うのは労力を要し、個人がデータの配付に利用できるウェブサイト等を運用していない場合もある。さらに、個人の対応ではデータの存在が広く知られにくく、利用が促進されない可能性もある。これらの問題を解決する方法として、第三者的なデータを配付する機関の管理下でデータを公開する形が考えられる。東京大学空間情報科学研究センターは、地理空間情報を用いた研究を行う共同利用・共同研究拠点として活動している。同センターでは「空間データの利用を伴う共同研究」を行っており、センターが入手したデータを一定の規約の下で全国あるいは海外の研究者に配付し、研究の活性化を行っている。データには行政機関や企業が作成したものと、個人研究者が作成したものが含まれる。データの配付の際には利用者の情報や使用目的が登録されるため、データの提供者はデータの使用状況を随時把握できる。また、データ配布のためのプラットフォームを個人が整備する必要がなくなる。本発表では、このような東京大学空間情報科学研究センターの活動を紹介し、個人研究者が作成したデータの公開に関する将来展望を述べる。
著者
谷 伊織
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.18-28, 2008-09-30
被引用文献数
1 23

わが国では,社会的望ましさ反応の測定についてCrowne & Marlowe (1960)の社会的望ましさ尺度が邦訳されて使用されているが(北村・鈴木,1986),社会的望ましさ反応を測定する尺度の因子構造は研究者によって異なっている。そこで本研究においてはまだ邦訳されていないPaulhus(1991)のバランス型社会的望ましさ反応尺度を邦訳し,安定した因子構造を持つ新たな社会的望ましさ反応尺度を作成することを目的とした。調査1では探索的因子分析によって自己欺瞞,印象操作の2因子構造が見出された。調査2においては他集団のサンプルを対象に確認的因子分析を行い,交差妥当性が確認された。調査3においては他の概念との関連から構成概念妥当性が示され,調査4においては基準関連妥当性が認められた。以上より,バランス型社会的望ましさ反応尺度日本語版の信頼性と妥当性が確認された。
著者
江渡 浩一郎 高林 哲 増井 俊之
雑誌
情報処理学会研究報告ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI)
巻号頁・発行日
vol.2004, no.115(2004-HI-111), pp.5-11, 2004-11-11

メーリングリストはグループ・コミュニケーションにおいて一般的であるが,送られたメールは通常はユーザが保持するだけであり共有されない.また送られたメッセージを編集してまとめることはできない.WikiWikiWeb (Wiki) はWeb 上で情報を編集・共有するための柔軟で使いやすいシステムであるが,通常は編集履歴を保持せず,また誰が編集したのかはわからない.本論文では,この両者の長所を統合した新しいグループ・コミュニケーション・システムqwikWeb を提案する.qwikWebは,メールを送信するだけで新しいメーリングリストを作ることができ,同時に対応するWiki サイトが作成される.全てのメールはWiki ページとして蓄積され,通常のWiki ページと同じように編集できる.ユーザは特別な管理を必要とせずに,メーリングリストとWiki の両方の機能を同時に活用することができる.
著者
〓〓 牧林
出版者
大手前大学・大手前短期大学
雑誌
大手前大学論集 (ISSN:1882644X)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.51-74, 2007

白居易の「日高眠」を表現した詩に注目し、この「日高眠」の詩語は彼が官僚になってから詠まれ始め、官僚世界での昇降に従って、「日高眠」の意味も変り、人生観の変化がよく伺われる。初任官である校書郎の時は閑職で「日高眠」が自然に形成された。しかし、「兼済」の志のため、県尉になってからは「日高眠」する心情が変化した。左拾遺の時、諌言が皇帝に受け入れられず、精神的に疲労して、出勤するより「日高眠」することを望んだ。下邦で三年間は官職から離れ、無駄な「日高眠」をし、無為に過す自分を悲しんだ。この考えを江州まで持ち続けた。香鐘峰の下に草堂を作り、心安らかに「日高眠」し、自己を中心とする閑適思想の人生観が生まれた。この考えは後半生を通して変わることがなかった。晩年の白居易は自由な身分、「日高眠」する安定した精神を求めて、政争から身を避け、「中隠」という人生観を持ちながら官職に勤め、七十一歳で致仕した。その後は出勤するため早起きする必要もなくなり、「日高眠」の詩語も詠まれなくなった。