著者
道上 静香 中川 雅央
出版者
滋賀大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究の目的は,タブレット端末を用いたテニスのゲーム分析ソフトを開発すること,砂入り人工芝コートとハードコートを用いたプロテニス選手のシングルスの試合における客観的データと指導者の主観的データを獲得し,それらを比較すること,そして,得られた科学的知見に基づき,日本テニス独自の技術・戦術の指導法を構築することであった.新たに開発されたソフトウエアは,両サーフェスにおけるシングルスの試合の特徴を明らかにし,砂入り人工芝コートを用いた日本テニス独自の技術・戦術の段階的な指導方法の確立や個々のテニス選手の技術・戦術的欠点などの抽出に役立つことが明らかとなった.
著者
遠藤 剛 古荘 義雄 山田 修平
出版者
近畿大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

隣接するトリ・テトラカルボニル化合物が水およびアルコール類と可逆的に付加ー脱離反応を起こすことを利用して、これらを架橋剤として用いることで水酸基含有のポリマーであるエチレングリコールやポリビニルアルコール等の多価アルコールのネットワークポリマーを構築できた。さらに、ネットワーク化により得られたゲルに水を加えると解架橋が進行し、原料のポリマーを収率よく回収することができた。
著者
井上 誠 植田 弘師
出版者
長崎大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

全身性慢性疼痛疾患である線維筋痛症や視床痛に対する動物モデルを開発するため、本研究者が以前に見出した坐骨神経傷害性慢性疼痛の原因分子であるリゾホスファチジン酸(LPA)を、末梢知覚神経からの痛み情報の二次中継核である視床領域へ投与し、熱刺激誘発性並びに機械触覚刺激誘発性疼痛への影響を検討した。その結果、熱刺激誘発性疼痛閾値の著しい低下、すなわち痛覚過敏現象が用量依存的に観察された。さらに、機械触覚刺激応答閾値の低下、アロディニア現象も観察された。これらの現象は、投与後数日にわたって観察された。さらに、片側視床内への適用にも関わらず、両側性に過敏現象が観察され、全身性の慢性疼痛を示すことが判明した。新たに開発した電気刺激誘発性鳴啼反応試験法を用いると、線維筋痛症患者の診断基準に関連するトリガーポイントの数カ所への電気刺激により侵害性の鳴啼反応が観察されるが、この反応閾値はLPA投与後に低下した。従って、LPAの視床投与は視床痛の動物モデルになりうる可能性と線維筋痛症の動物モデルになりうる可能性が明らかになった。さらに、LPAの一つの作用点であるグリア細胞の活性化を評価し、その活性化抑制による疼痛閾値変調への関与を検討したとごろ、LPAの視床投与後、投与側でミクログリアの活性化を用量依存的に観察された。さらに、活性化グリア細胞除去剤の適用により、これらの過敏現象が著明に抑制された。従って、グリア細胞の活性化が全身性の慢性疼痛誘発の一端を担い、これを標的とした薬物の適用はその治療戦略の一つとなりうることが明らかとなった。
著者
清水 雅仁
出版者
岐阜大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

我々は本研究で、インスリン抵抗性、IGF/IGF-1受容体シグナルの過剰活性、アディポカインの不均衡、慢性炎症状態の惹起等、肥満や糖尿病に関連した様々な病態・分子異常が、大腸および肝発癌に深く関与していること(発癌高危険群のスクリーニングに有用であること)、また分岐鎖アミノ酸製剤等の薬剤投与や栄養学的介入によって、これらの分子異常を改善・制御することが、肥満や糖尿病合併患者の大腸および肝発癌予防に繋がる可能性を明らかにした。
著者
中村 匡良
出版者
奈良先端科学技術大学院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

シロイヌナズナのspiral(spr)3変異体は体軸がねじれるために、葉器官が反時計方向に回転して見え、根は寒天培地上を右方向に向かって伸長し、根の表皮細胞は右向きにねじれる。spr3の原因遺伝子はγチューブリン複合体の一構成員GCP2のホモログをコードしていた。1.AtGCP2は生存に必須の因子である。シロイヌナズナ(At)GCP2ノックアウト株は作出されなかった。atgcp2ヘテロ株の解析から、AtGCP2は雌雄配偶子の形成や発達に重要であり、生存に必須の因子であることが示唆された。2.間期表層微小管はAtGCP2を介して形成される。GFPを融合したAtGCP2コンストラクトをRFPで微小管標識した植物体に形質転換することで、微小管とAtGCP2を同時に生細胞で観察できる植物体を作製した。共焦点レーザー顕微鏡による観察を行ったところ、AtGCP2が既存の表層微小管に出現し、そして40°の角度を持って微小管が文枝形成される動態が観察された。このことから、表層微小管はAtGCP2を含む微小管重合核を介して形成されることが示唆された。3.シロイヌナズナ微小管重合核は微小管形成角度を維持することにより表層微小管構築に寄与する。表層微小管は細胞膜内側で形成されたのち、マイナス端が形成した部位から移動することが特徴的である。また、形成部位から微小管を遊離するには微小管を切断するカタニンタンパク質が関与することが考えられている。事実、シロイヌナズナカタニン変異株の間期表層微小管動態を観察したところ、微小管の形成部位からの遊離は観察できなかった。マイナス端遊離のないカタニン変異株にspr3変異を付与するとカタニン変異株の表現型にspr3の表現型である右巻きねじれが付与された。このとき、表層微小管形成角度はspr3変異株のみのときと同様変化していた。以上のことから、植物細胞の伸長方向には、AtGCP2を含む微小管重合核による40°という高等植物に特徴的な角度を持った微小管形成の維持が重要であることが示唆された。
著者
前川 和也 前田 徹 依田 泉 森 若葉 松島 英子
出版者
国士舘大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

前4千年紀末にメソポタミア南部で成立したシュメール文字記録システムが、遅くとも前3千年紀中葉にはシリア各地で受け入れられ、シリア・メソポタミア世界が一体化した(「シュメール文字」文明)。アッカド語などセム系言語を話す人々も膠着語であるシュメール語彙や音節文字を容易に利用できたのである。本研究は、「「シュメール文字」文明」の展開過程、またセム諸民族がこれを用いてどのように社会システムやイデオロギーを表現しようとしたかを考究した。
著者
平田 健治
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

指図による占有移転の方法による即時取得の要件は何か。この明瞭化が本研究の目的であった。その点については、ドイツ法、フランス法、英米法、さらにはローマ法の議論を参照することで、要件設定の際に考慮されるべき諸要素を析出したことが成果である。それを列挙すれば、日本の指図による占有移転の要件の沿革から見た欠陥の指摘、占有改定と指図による占有移転の方法が前提とする取引態様の定型的相違に着目すべきことの指摘、物権関係(所有権移転)と債権関係(賃貸借や寄託契約)の連携のあり方が絡むことの指摘、占有意思、とりわけ即時取得において占有意思変更を議論とすることの問題の指摘などである。
著者
菊池 勇夫
出版者
宮城学院女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

東北地方北部の盛岡藩・八戸藩を中心に、馬・狼・猪・焼畑・大豆生産およびその他の要素を含めた生態系・環境について相互連関的な考察を行うことが研究の大きな目的であった。まだ、研究途中にあるが、この3年間のおもな成果は、1749年(寛延2)の八戸藩における猪飢饉の実態について明らかにし、その背景や要因について考察し、報告書にまとめることができたことである。1749年の飢饉は冷害型凶作が原因であり、猪荒れはそれほどではないという批判があったが、1740年代の猪荒れがかなりの作物被害を与えており、1749年がそのピークに達していたことは事実であり、猪荒れを過小評価できないことを論証した。ではなぜ、猪が異常繁殖したのか。そこには、地域の主要な産業であった大豆生産と馬産の2つが大きくからんでいた。大豆は商品作物として、17世紀末から江戸市場向けに生産・移出されるようになり、焼畑を含む山野の開発が進み、猪に襲われやすい耕作環境になった。また、藩牧および民間における馬産も展開したが、馬産にとっての大きな障害は馬が狼に襲われることであった。マタギ(鉄炮猟師)を動員した狼狩りによって、天敵のいなくなった猪が急増したと推測される。猪飢饉は、開発による生態系の破壊が招いた典型的な災害であったと評価することができる。以上の主論文のほかに、八戸城下に居住していた安藤昌益の農本的あるいはエコロジカルな思想形成が、地域の飢饅・風土的環境と密接に関わっていたことを論じた論文、各藩が幕府に届け出た被害高である損毛高の算出根拠について検討した論文、鳥獣害の被害を食い止めるための鳥追いの労働が誰によって担われてきたのか明らかにした論文など、この間に作成し、報告書収録または別途論文として発表することができた。
著者
林 博史 小野沢 あかね 吉見 義明 兼子 歩
出版者
関東学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

日本軍「慰安婦」制度と米軍の性売買政策・性暴力の比較研究をおこなうことを目的として本研究をおこなった。米国や英国などの公文書館や図書館などにおいて、関連史料を多数収集することができた。また各国の研究者との研究交流をおこない、研究協力のネットワークも作ることができた。こうした研究活動を通じて、日本軍のケースと米軍のケースについてその相違についてかなり把握できるようになってきた。同時に、日本軍「慰安婦」制度を世界史のなかで位置づけるためには日米比較だけでは不十分であり、欧州や韓国を含めて国際比較が必要であることも強く認識するようになった。
著者
阿部 真理子 小林 雄一郎 藤原 康弘
出版者
中央大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究の目的は、高校生の英語スピーキング力を 3 年間にわたり縦断的に追跡し、その発達過程を明らかにすることである。具体的には、(1)個人レベルでの経年変化のモデル化、(2)内的・外的な学習者要因が発達に及ぼす影響の解明を行う。そのためには研究の共同基盤となるコーパスの整備が不可欠である。「Longitudinal Corpus of L2 Spoken English (LOCSE)プロジェクト」において収集している縦断的英語スピーキング力データ(約120名×8回)をもとに、今年度は学習者コーパスの構築を推進させた。またコーパスの概要を示す特徴量算出(前半3回分)と、個々人の発話に関する数値的な情報(前半3回分)を算出した。個々人の情報に関しては、学習者ごとにフィードバックも行った。さらには、書き起こしの精度と速度を向上させるために、自動書き起こしツールを用いた作業の検討を繰り返し行った。そして、自動書き起こしツールの効果を検証するためのデータ収集を開始した。高校生の英語運用能力および学習意欲の変動に影響する要因を探るためのアンケートも実施し、内的・外的な学習者要因がスピーキング力の発達にどのような影響を及ぼしているかについて論文をまとめた。国内・国外において一件ずつの研究発表を行った。そのことで、次年度(2018年夏)に共同シンポジウムを二件行うことが決定した。また国外における人的ネットワークの構築を行うのみならず、海外の大学との共同研究の開始が決定した。
著者
片井 みゆき 櫻井 晃洋 加茂 登志子 福嶋 義光
出版者
東京女子医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009 (Released:2011-00-00)

女性医師の離職防止・キャリア向上のため、男女医学生と保護者を対象に意識調査を行った。女性医師の仕事と家庭の両立に対し、医学部入学直後の男子医学生の約30%が否定的な意見を述べた。一方、女子医学生のほとんどは肯定的であったが将来への不安感が強く、男女医学生の意識に明らかな性差がみられた。女性医師のキャリア形成に関心を持つ保護者は、女子医学生の母親が最も高率だった。こうした性差をふまえ医学部でのキャリア教育を行う必要があり、ジェンダーバイアスの解消が医学における男女共同参画のためにも望まれる。
著者
岩田 洋夫 矢野 博明
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究では、全方向に動く移動機構を有する可動床が、循環することによって無限に続く歩行面を提供する、歩行感覚呈示装置を実装し、それに昇降機構を搭載することによって、階段などの凹凸面のある歩行面を模擬することを実現した。本システムが体験者に与える効果を、足圧力等の計測によって評価した。
著者
吉田 公平 三浦 秀一
出版者
東洋大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

中国近世期の宋代に朱子によって集大成された朱子学(性理学)はその後の思想界に大きな影響を与えた。科挙の基本教学になったことの為に、単に学術思想界ばかりではなく、広く中国の指導者階層の思考様式を方向づけることになった。李氏朝鮮朝では朱子学一尊体制のもとに科挙制度を採用したので中国以上に朱子学が信奉された。日本では科挙制度は実施されなかったものの、性善説を基本とする社会哲学として熱心に読まれた。近世期以降の東アジア漢字文化圏で大きな影響力を持った朱子学を学ぶ際に基本教典として学習されたのが『四書集注』である。朱子が『四書集注』の構想を持つのは四十代の事であるが陸象山との論争を経て『大学章句』『中庸章句』の序文を書き上げてひとまずの完成を見る。しかし、『四書集注』が刊行されて広く普及するのは朱子の没後である。元代にも『四書集注』の末疏が出版されたが、科挙制度が本格的に実施された明代以降にこそ受験用テキストとして数多く出版された。他方、臨床倫理学のテキストとして『四書集注』を読むものの中から朱子学に批判的な解釈を披瀝するものが登場する。その代表者が王陽明である。日本においては江戸時代初期に朱子学が本格的に学ばれるが中国輸入本朝鮮渡り本だけでは読者の需要に応えることができないために、木版印刷の波に乗って『四書集注』が刊行された。特に江戸時代後半には雄藩のみならず地方の小藩が『四書集注』を刊行している。読書する人が武士階層以外に大量に誕生して読者人口が増えたことが出版を促した要因である。中国・台湾・日本における『四書集注』の書誌・研究史をほぼ掌握できたことは大きな収穫であった。何故にこれほどまでに印刷され読まれたのか。文教政策という視点だけではなく、『四書集注』そのものの内容を解析することにより、『四書集注』を促したもものを明らかにした。ロングセラーを可能にした要因は『四書集注』の世界が、性善説を人間観の基本にした自力主義・自力救済論・自己実現論であること、それを基軸にして、人と共に幸福に暮らせる社会を建設することを目指した社会哲学であったことが、読者を魅了したのである。江戸時代は戦乱の時代が終わり明日をいかに生きるかを真剣に問いだした。そのために朱子学が着目されたのである。武官でありながら文官を兼ねた武士階層ばかりではなく、新しい読者層となった庶民階層も応分の社会的責任を担いながら、人間らしく生きることを求めたときに、『四書集注』が熱読されたのである。
著者
乾 明夫 浅川 明弘 須藤 信行 佐久間 英輔 井上 浩一
出版者
鹿児島大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2016-06-30

平成28年度に続き、こころの発達・意欲を阻む原因を解明するため、社会-脳内-体内環境相関の全人的ループのバランス破綻のメカニズムの検討を行った。鹿児島大学においては、認知機能の低下におけるfractalkine-CX3CR1シグナルの関与を明らかにする目的で、糖尿病モデルマウスの学習記憶障害について検討した。その結果、血中corticosteroneレベルの増加およびinsulin-like growth factor-1(IGF-1)の減少、さらに海馬のfractalkineおよびCX3CR1 mRNA発現の減少が認められた。正常マウスへのCX3CR1アンタゴニストの投与にて学習記憶障害が誘発されるとともに、dexamethasoneの投与にて、血中IGF-1の減少、海馬のfractalkineおよびCX3CR1 mRNA発現の減少が認められた。九州大学においては、神経性やせ症患者の腸内細菌叢を無菌マウスへ移植して作製した人工菌叢マウス(ANマウス)の特徴について、健常女性の腸内細菌叢を無菌マウスへ移植したコントロール群(HCマウス)と比較、検討した。まずANマウスの腸内細菌叢は移植したドナー患者の腸内細菌叢を反映した構成となっていた。ANマウスではHCマウスと比較し、エサの摂取量に対する体重増加率(栄養効率)が不良であった。またANマウスでは不安と関連した行動に異常が認められた。名古屋市立大学においては、自閉症、ひきこもりなどの動機付けに掛かる心身発達の障害病態脳にて、神経免疫系の病的な活性化が惹起される神経病理を紐解くことをねらいとし、自閉症などの病態モデル動物で脳内ミクログリアの毒性転化を来すニューロン・グリア相関破綻の分子基盤を解析した。その結果、母仔分離による自閉症病態モデルラットで、自閉症様行動の発現期(およそ2ヶ月齢)に脳内ミクログリアが活性化すること、また、それに先んじ、ニューロン由来の可溶性fractalkineの産生が著増することが確認された。
著者
須藤 信行 服部 正平 三上 克央 吉原 一文 高倉 修 波夛 伴和 古賀 泰裕
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

極端なやせを追求する神経性やせ症(anorexia nervosa: 以下ANと略)患者においては、体重を恒常的に増加させることが極めて困難であり、種々の治療に抵抗性を示し、重篤な感染症や肝機能障害を併発して死の転機をとることも珍しくない。ANの早期診断、治療、予防法を開発することは喫緊の課題であるが、未だその取り組みは十分な成果を上げていない。本研究では、AN患者群の糞便中腸内細菌叢を次世代シークエンサーによって解析し、健常者と比較することでその詳細な特徴を明らかにするとともにAN患者の腸内細菌叢を移植した“AN型人工菌叢マウス”を用いて、AN患者に見られる腸内細菌叢の異常が、実際の体重変動や行動特性の発現に関与しているかについて検討している。平成29年度は、AN患者の腸内細菌を無菌マウスに移植して作製した“AN型人工菌叢マウス”を用いてAN患者の腸内細菌が体重制御や行動特性の発現にどのように影響しているかについて検討した。その結果、“AN型人工菌叢マウス”では、健常女性の糞便を移植して作製した人工菌叢マウスと比較し、体重増加が不良であった。しかしながらどちらの人工菌叢マウスもエサの摂取量は同程度であった。この結果は、“AN型人工菌叢マウス”では、摂取した食事成分から栄養を抽出する効率、いわゆる栄養効率が低下していることを示唆している。次に人工菌叢マウスの行動特性について、我々のグループが開発した“アイソレーター内行動解析法”にて検討を進めている。
著者
須藤 信行 古賀 泰裕 吉原 一文 山下 真 波夛 伴和
出版者
九州大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

近年、宿主と細菌との情報伝達、いわゆる“インターキングダム・シグナリング(IKS)”が注目を集めている。本研究にて、次の事実は明らかになった。①炎症性腸疾患モデルにおいて、カテコラミン(CA)を介したIKSをブロックする化合物であるLED209は腸炎を改善した。②腸管管腔内には生理活性を有するセロトニンが存在しており、一部はグルクロン酸抱合などを受け不活化されていた。以上の結果は、CAを介したIKSが炎症性腸疾患の病態形成において重要や役割を担っている可能性を示している。また管腔内に5-HTの生成や代謝には腸内細菌が深く関わっていることが明らかとなった。
著者
須藤 信行 吉原 一文 古賀 泰裕 古川 智一
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では、オープンフィールド法とビー玉埋没テストを用いて、人工菌叢マウスの行動特性を、アイソレーター内測定法を用いて厳密に測定した。無菌マウス(GF)は、SPFマウスの糞便を移植した無菌マウス(EX-GF)と比較し、多動で不安レベルが高かった。GFマウスにBifidobacterium infantisを移植すると運動能が、Blautia coccoidesの移植によって不安関連行動が減弱した。このように腸内微生物は宿主の行動特性やストレス応答の発現に関わっていることがわかった。
著者
久保 千春 高倉 修 古賀 泰裕 須藤 信行 河合 啓介 森田 千尋 古川 智一
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では、定量的PCR法に基づいたYakult Intestinal Flora-Scanを用いて、神経性食欲不振症(AN)女性患者の腸内細菌叢を年齢を一致させた健常女性と比較した。AN患者では健常群と比較し、総細菌数、Clostridium coccoides group、Clostridium leptum subgroup、Bacteroides fragilis group、およびStreptococcusの細菌数が有意に減少していた。AN群では健常者と比べ糞便中の酢酸、プロピオン酸濃度が有意に低かった。以上の結果は、AN患者では腸内細菌叢の異常が存在することを示している。
著者
藤野 寛
出版者
麻布大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

ボルナウイルスのN遺伝子が内在化した内在性ボルナウイルス様N因子(EBLN)は多くの動物で見つかっており、特にジュウサンセンジリス由来の EBLN(itEBLN)はBDVの感染を抑制することがわかっている。そこで、本研究ではその抑制機構を解明するために欠損体を作成しBDVに対する影響を確認した。共免疫沈降法及び蛍光抗体法によりitEBLNとBDVタンパク質との結合性を確認した。その結果itEBLNはBDVのNタンパク質に結合してBDVのmRNA発現を抑制させることでウイルスの感染を阻害している可能性が示唆された。