著者
山名 仁 筒井 はる香 山名 朋子
出版者
和歌山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では、19世紀前半のウィーンにおいて、フォルテピアノのペダルが6本あるいは7本と増えその後減っていく過程と、ウィーンの連弾楽譜の出版状況の推移との間に密接な関係があることを明らかにした。またウィーン連弾文化の精華ともいえるシューベルトの全連弾作品において上記ペダルの多数の組み合わせを検討し、①ペダルの間隔が狭いのは一本の足で2つのペダルを同時に踏むことを想定していること、②6本のペダルを2本の足で操作することは困難だが、4本の足を使えばペダルの効果を最大限に活かすことができるということを、実際の演奏を通して明らかにした。
著者
岩井 敏洋
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

微分幾何学的手法で、(1) 猫の宙返りモデルのポートハミルトン形式での定式化と制御、及び計算機内での宙返りの実現、 (2) 対称性群の両側変換のもとでの線形変形体の古典及び量子力学の簡約化、(3)回転群の離散部分群のもとで不変な、2次元球面上で定義されたパラメータ付きエルミート行列に付随する固有空間バンドルのチャーン数のパラメータ依存性、 (4) 行列の特異値分解に対応するリーマン幾何学的最適化問題の解法、(5) その他の課題をそれぞれ研究した。
著者
加藤 聖 安井 裕子 菅原 清
出版者
金沢大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

セロトニンは中枢神経系における主要な神経伝達物質の1つであるが、近年神経細胞のみならず、グリア細胞にもその受容体が存在することが明らかにされた。しかし、その意義については全く不明である。私達は、クローン化C6グリオーマ細胞にグルタミン酸を添加すると遅延型の細胞死が招来することを報告してきた。更にこのin vitro実験系にセロトニン(100μM)を添加すると、この遅延型細胞死が抑制されることを見い出した。セロトニンの最小有効濃度は35μMであった。その拮抗薬・類似体の使用により、このセロトニンの抗細胞死作用は5‐HT_<1A>サブタイプに属するレセプターを介した現象であると結論された。セロトニンの抗細胞死作用に伴い、LDHの放出や細胞膜脂質過酸化がほぼ完全に抑えられていた。又、細胞内グルタチオン(GSH)の濃度はセロトニン共存下でもグルタミン酸添加により著名に減少していたことより、セロトニンの抗細胞死作用はグルタミン酸によるGSH濃度の減少に抑えるのではなく、GSH減少による酸化的ストレス自身あるいはその産物を抑制、すなわち抗酸化作用によるものであることが判明した。次いで、in vivo実験系として、神経網膜グリア細胞に対して、グリア毒であるアミノアジピン酸を用いて同様な実験を行なった所、やはりセロトニンにより脂質過酸化物の生成が有意に抑えられた。現在電気生理学的実験を施行しており、データ取得およびその分析のためデーターレコーダー、パソコンを購入して解析を行なっている所である。以上から、in vitro、in vivo両系においてもセロトニンのレセプターを介した全く新しい抗グリア細胞死作用(抗酸化作用)がほぼ確認できた。今後更にこの抗酸化作用の分子機序を明らかにしたい。
著者
津久井 宏行 冨澤 康子
出版者
東京女子医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

2-アミノエタンスルホン酸(タウリン)術前投与による開心術後急性期における有効性の検討【目的】人工心肺使用下の心臓手術に伴い、心筋内タウリン含有量が減少することが指摘されており、このことが術後急性期における心不全の原因の1つと推察される。タウリンの術前投与による開心術後急性期における効果は未だ立証されていないため、その有用性について検討した。【対象】待機的心臓外科手術患者21名を対象とした。【方法】上記患者を無作為にタウリン内服群(術前7日前より3g/日)と非内服群に分けた。心筋保護は、大動脈基部より間欠的順行性に行った。人工心肺開始前と大動脈遮断解除後30分の2点で心房筋を採取した。術後は、収縮期血圧100mmHg以上、心係数2.5/min/m^2以上、Ht25%以上を指標に強心剤・末梢拡張剤・抗不整脈薬の使用、輸血を適宜行った。術中は自己心拍出現の有無を、術後は、心拍数、血圧、肺動脈圧、中心静脈圧、尿量、心係数、Sv02を計測するとともに、血液・生化学検査を行った。術後、カテコラミン、末梢拡張剤、抗不整脈薬の使用量、不整脈の出現の有無、出血量、輸血の有無、術後挿管時間、IABP挿入時間、ペースメーカー使用の有無について検討した。術中得られた標本から心房内タウリン含有量を測定した。【結果】両群とも大動脈遮断解除後、心房内のタウリン含有量の低下傾向が認められたが、タウリン内服群においては、その傾向が小さい傾向にあった。術前のタウリン内服により必ずしも心房内含有量の上昇は認められなかったが、タウリン内服群においては、不整脈の出現、術後カテコラミン量・使用数、Ca補正目的のCa製剤使用量の減少傾向が認められた。【総括】タウリン内服群では、開心術後急性期における有用性が認められた。今後、タウリンの至摘内服量、期間を検討することによって、術前タウリン内服による術後急性期における更なる有効性が示唆された。
著者
寺田 暁彦 石崎 泰男 吉本 充宏 上木 賢太
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

土壌気体水銀(GEM)放出率測定方法を構築して,箱根火山大涌谷噴気地において観測試験を行い,有効性を確認した.この結果に基づき,草津白根火山においてGEM観測を2017年に行った.その結果,将来噴火口になり得る破砕帯に相当すると思われる,高GEM放出域を白根火砕丘の南および南西斜面に見出した.また,地質調査に基づき,白根火砕丘南側から本白根山にかけて,過去に爆発的噴火が繰り返し発生してきたことが判明した.既存の物理観測網は湯釜火口湖を取り囲むように配置されている.現状よりも南側領域における観測点の整備が,今後の草津白根火山の監視上の課題である.
著者
岩田 夏弥
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

近年、集光強度が10^<20>W/cm^2を上回る極短パルス高強度レーザーが実現され、これを用いた高エネルギー粒子加速をはじめとする様々な応用研究が進展している。本研究では平成24年度、位相空間ラグランジアンに基づく数理手法を当該分野に新しく導入し、高い非線形性・非局所性を有する高強度レーザー物質相互作用において重要な役割を果たすレーザー光の動重力の高次非局所効果を記述する方程式を導くことに成功した。また、集光強度10^<20>W/cm^2を超える輻射減衰領域でのレーザー物質相互作用がもたらす極限物質状態を再現する大規模数値実験の実現を目指し、粒子計算コードEPIC3Dの開発を行った。これらを基礎として本年度は、非局所動重力理論の重要性を明らかにする応用研究を行った。ここでは、相互作用の微細制御への有用性が期待される、ビーム軸近傍で平坦な強度分布を持つレーザーを考え、これに対し従来の局所理論と今回導いた非局所理論を比較すると、レーザー場と単一粒子の相互作用時間に1桁に及ぶ差異が現れることを見出した。さらに、本研究で開発を進めてきた計算コードEPIC3Dを用いてプラズマ及びクラスター媒質中での高強度レーザー伝播シミュレーションを行い、平坦な集光構造を持つレーザー場中では非局所動重力によるプラズマ粒子の掃出しとそれによる静電場生成の結果、レーザー場が変調を受け低エミッタンスの電子ビームが生成されることや、クラスタークーロン爆発や相対論的イオンの効果が相乗的に作用して高エネルギーイオン加速が実現することなどを明らかにした。これらの結果は学術雑誌Physical Review Lettersに掲載され、国際会議IFSA2013の口頭発表に採択された。以上の研究は、高強度場科学に新しい理論手法を提示し学術・応用研究の進展に貢献するとともに、大規模数値計算を通して計算機科学の進展に資するものである。
著者
荻野 佳代子 稲木 康一郎 北岡 和代 増田 真也
出版者
神奈川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

対人援助職のバーンアウトへの介入に向け,ワーク・ライフ・バランス(WLB)風土の測定尺度を開発し,バーンアウトとの関連を検討した.この結果, WLB風土は「上司の支援」,「スタッフのチームワーク」,「'ワーク'最優先」,「'ライフ'の尊重」の4因子から構成されていた. 4因子すべてがバーンアウトに関連していたが,とくに「上司からの支援」にバーンアウトに対するより強い関連がみられた.さらにWLB風土醸成によるバーンアウト予防プログラムを開発・実施した.
著者
花里 孝幸 柳町 晴美 平林 公男 宮原 裕一 朴 虎東 豊田 政史 山本 雅道 武居 薫
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

水質汚濁問題を抱えていた諏訪湖の水質が近年になって改善されはじめ、それに伴って生態系が大きく変化し始めた。本研究では、その生態系変化の様子とメカニズムの解明を試みた。諏訪湖では、アオコ減少、不快昆虫ユスリカの減少、水草の増加、大型ミジンコの増加がほぼ同時期に起きた。生態系のレジームシフトが起きたといえる。植物プランクトンの生産力低下が生物間相互作用を介して生態系全体に波及したと考えられた。
著者
遠藤 俊明
出版者
札幌医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

多嚢胞性卵巣症候群polycystic ovary syndrome(PCOS)の原因が、男性ホルモンの暴露によるのではないかと考えられている。今回、男性ホルモンとPCOSの関係を、男性ホルモンを投与された性同一障害のfemale to male taranssexuals(FTM)をPCOSモデルとして検討した。結果は男性ホルモン投与により、内分泌学的にも、組織学的にも部分的ではあるが2次性のPCOS状態になることが判明した。このことにより、男性ホルモンの暴露がPCOSの原因の一つであることが示唆された。
著者
三浦 恭子 坊農 秀雅 清水 厚志 大岩 祐基
出版者
北海道大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

ハダカデバネズミ(Naked mole rat, NMR)は、マウスと同等の大きさ(平均体重35 g)ながら異例の長寿動物(平均寿命28年)であり、これまで自発的な腫瘍形成が一切認められていないというがん化耐性の特徴をもつ。本研究では、NMR個体のがん化耐性を制御すると考えられる、「NMR特異的がん化抑制バリア ASIS(ARF抑制時細胞老化)」の形成機構・役割を詳細に明らかにすることを目的とした。mRNA-seqによる解析の結果、発現変動する遺伝子群、また、ASISにおけるNMR種特異的なシグナル伝達制御が明らかになった。
著者
棚沢 一郎 永田 真一 二宮 淳一
出版者
東京大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1993

本研究は、多細胞生体組織を凍結し、液体窒素温度(-196℃)で長期間保存したあと、解凍して蘇生させる技術の確立を目的とするものである。単細胞のように寸法の小さい生体組織の場合には、生体組織を直接に液体窒素中に浸漬することにより、急速凍結が行われ組織がガラス化するため、凍結保存は比較的容易である。実際、赤血球・精子・卵細胞・骨髄などの凍結保存はこのような方法により成功している。しかし、もっと寸法の大きな多細胞組織の場合には、急速凍結は不可能であり、また全体を均一に冷却することも難しい。本研究では、ある程度の大きさを持つ多細胞組織を、緩慢凍結によって保存する技術を確立させるための実験および解析を行った。まず、本研究者らがこれまでに行ってきた微小生物の凍結保存に関する実験の継続として、ミジンコ(淡水棲プランクトンの一種)を行い、冷却凍結速度・加熱解凍速度・凍害防御剤の種類と濃度などの主要パラメータを適切に選定することにより、凍結保存が可能であることを確認した。これに引続いて動物の血管の凍結保存実験を行った。試料としては、主としてラットの大動脈を使用したが、他にイヌの大動脈・ブタの頚動脈も用いた。これらの試料について凍結保存の最適条件を決定した。凍結保存後の生死判定は、まず外観検査、続いて細胞培養を試み、(ラットの場合)最終的には同種ラットへの再移植を行った。現在までに32匹のラットに移植し、内8匹以上が1週間以上生存した。解剖により移植した血管が健全な状態であることを確認した。以上のような実験と並行して、細胞の凍結過程の数値シミュレーションを行い、諸因子の影響について考察した。
著者
東海林 洋子 水島 裕 嶋田 甚五郎
出版者
聖マリアンナ医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

我々はこれまで、単純ヘルペスウイルスI型(HSV-I)をターゲットとして、アンチセンスDNAを合成してきて、スプライシングのある限局した部分をターゲットとした場合にのみ、高い抗ヘルペス活性を認めてきた。そのメカニズムとして、スプライシングに必要な高次構造を崩すことにより高い抗ヘルペス活性を示すことを認めている。しかしながら、例外として、配列の中にGXGGG (X=A,T,C,G)を含む時には、アンチセンス配列を含まない場合にも、高い抗ヘルペス活性を認めた。ひとつの要因として、フォスフォロチオエート型オリゴヌクレオチド(S-ODN)の有する蛋白結合性に着目した。フォスフォロチオエート型オリゴヌクレオチドは血清蛋白との結合率は86.6%と天然型ODN(D-ODN)が21.6%に比べ高かった。また、ウイルスそのものとの結合率も、D-ODNが5%以下であるのに比べ、S-ODNは約50%がウイルスと結合した。そこで、S-ODNの抗ヘルペス活性のメカニズムの一つにウイルスの吸着阻害が考えれらた。ウイルス吸着阻害を検討すると、S-ODNでは、感染の初期にウイルスの吸着阻害が認められた。この吸着阻害がS-ODNの高次構造と関連があるものとみられ、CDスペクトラムを検討したところ、4重鎖構造を示唆するパターンが得られたが明確ではなかった。さらに、カチオン性リポソームによる活性増強を試みたところ、D-ODNによる活性増強は認められたものの、S-ODNでは活性の増強は認められなかった。この一因として、S-ODNの蛋白結合性、高次構造がむしろ、カチオン性リポソームの効果を阻害しているものと思われた。アンチセンス医薬品の第1号が発売されたのは、画期的なことであるが、連続したG配列を含む場合には、アンチセンス以外のメカニズムが存在することにも留意すべきであろう。
著者
大澤 裕樹 丹下 健 小島 克己
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

アルミニウム集積に基づく耐性の分子構成要素の将来的な同定のために、アルミニウム超集積の鍵となる生理プロセスを発見する必要がある。私たちは、チャに代表される関連2科の8種の植物を調査し、7種の超集積植物の根の内皮細胞でプロアントシアニジン集積が共有されることを同定した。一方、調査対象の中の唯一の非アルミニウム集積種であるモッコク(Ternstroemia gymnanthera)では、ほとんどの通導木部においてプロアントシアニジン集積が認められなかった。葉の表現型と季節性の多様性にも関わらず、通導木部におけるプロアントシアニジン集積がこれらのアルミニウム超集積種間で共通の作用モードを持つ可能性が見いだされたことから、おそらくアルミニウムの長距離輸送がプロアントシアニジン輸送を伴うことが示唆された。しかしながら、アルミニウム集積性種の表現型の間の木部プロアントシアニジン含量にアルミニウム誘導パターンもアルミニウムとの分子化学量論のいずれも認められなかったことから、プロアントシアニジン以外の追加構成要素が木部のアルミニウム輸送に含まれる可能性があることがわかった。本成果は、定量的に木本植物種の特定科のアルミニウムおよびプロアントシアニジン集積パターンを分析した最初の包括的な研究となる。近縁種のアルミニウム集積の主要な生理学的プロセスに関するこれらの知見は、重金属、水と物質の長距離輸送、および葉の防御機構における有害金属超集積の分子進化と機能のより良い理解につながる可能性
著者
大武 美保子
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本年度に得られた研究成果は以下の三点に整理される。1、マルチスケールシミュレーション並列計算基盤の開発マクロスケールのヒトの運動の特徴量を高速、高精度に抽出する手法を開発した。具体的には、並列計算ツールであるGXP, MPICH, SCALAPACKを用い、リング状にネットワークしたクラスタでパイプライン処理するシステムや、大規模な行列計算を高速に行うシステムを構築した。2、データベースに登録されたミクロスケールモデルの統合化手法の開発運動系全体の状態をシミュレーションするためには、部位により異なるミクロスケールの細胞の性質をモデル化する必要がある。生命科学者により記述された細胞モデルや、解剖学的生理学的知識が、レビューされ、データベースに多数登録されている。これらを活用することができれば、信頼性の高い要素で構成されるシミュレータを構築することができる。データベースに登録されたミクロスケールモデルは、本来単体で動かすように作成されたものであるため、他のモデルと連携が困難である。そこで、これらのモデルを再構築し、統合化するシステム構成法を提案した。即ち、入出力をモデルの中で整理し、再構成したモデルを異なるサーバに分散配置し、計算機毎に計算エンジンがモデルを読み込んで実行する。複数サーバで実行されるモデルの計算を一箇所でモニタリングし、互いに入出力を送受信する。計算エンジンの種類によらず、細胞複合体モデルを構成できるようになった。3、マクロモデルとミクロモデルのインタフェース手法の開発マクロスケールで観測される運動データに基づいてミクロスケールの現象を予測するために、マクロスケールの解剖学モデルにミクロスケールの生理学モデルをインタフェースする手法を開発した。これにより、マクロスケールの運動を外部から観測して、ミクロスケールの内部状態を予測できるようになった。
著者
大武 美保子
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

実環境で頑健に動作する情報システムを構築するために, 多岐にわたる情報科学技術の諸分野を融合する必要性が高まっている. 本研究の目的は, 実世界情報並列計算フレームワークを構築し, 異なる種類のデータを扱える新しいシステムを開発することを通じて, 汎用の計算基盤の構築と応用例を示すことである. 具体的には, 情報爆発で開発されているInTrigger上で動作するシステムを開発した. 標準の並列計算用ライブラリMPIは, クラスタには対応していても, 複数のクラスタで構成されるグリッドには必ずしも対応していない. そこで, A02支援班で開発されているグリッド用のMPIライブラリMC-MPI(Multi-cluster MPI Librarv)を用いて,グリッド上で動作するリング状にネットワークした計算ノードでパイプライン処理するシステムや, 異なる条件の計算を同時並列に行い, 結果を集約するシステムを開発した. その上で, 多数の生物学的神経モデルを同時並列に計算し, シミュレーションを行った. また, 任意の実世界情報を扱えるシステムを開発することを目的として, 運動学習支援システムを開発した. 従来ネットワークに対応していなかった運動計測データを扱うソフトウエアをサーバとクライアントに分け, クライアント側にハードウエアを接続し, サーバは任意の計算機上に配置できるように構成した. 運動学習支援システムは, 運動の特徴量をリアルタイムに学習者にフィードバックすることができる. この他, 会話支援システムなどの認知活動支援システム, マルチスケール神経モデルで構成され. 計測装置と接続可能なオープンブレインシミュレータ, 脳活動, 認知活動計測装置などを開発し, 評価実験を行った. 以上を通じ, 汎用の実世界情報並列基盤フレームワークと, それを用いたアプリケーションの開発に成功した.
著者
大武 美保子
出版者
国立研究開発法人理化学研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2017-04-01

平成29 年度は,研究項目1, 2, 3について研究を進めた.1. 共想法支援システムに基づく主体価値発展支援システムの開発:共想法支援システムを発展させ,異なるテーマに対する話題探し,および,同じテーマに対する他者の話題の閲覧を通じ,利用者の主体価値発展を支援するシステムを設計した.2. 認知行動療法の理論と会話データの分析に基づくテーマの設定とプログラムの考案:共想法形式の会話データから主体価値を推定する手法を,思春期を対象に実施した共想法における会話データを分析することを通じて検討した.好きなおやつをテーマに,高校一年生を対象として,共想法形式の会話を体験する演習を実施した際の,話題提供の発言を文字起こししたデータを分析対象とし,主体価値が反映していると考えられる内容の項目を探索した.値段や食欲,体重といった制約条件の中での葛藤を反映し,本人の自由裁量があると考えられるおやつというテーマ設定は,特に思春期における主体価値を推定する上で有効である可能性が示唆された.3. 認知行動療法と会話支援技術における評価指標に基づく主体価値発展評価指標の選定:引きこもりの若者が集うサポートステーションの運営者に,共想法を体験頂いた上でヒアリングを行った.また,精神科デイケアにおいて利用者を対象に,共想法を試行した上で,リハビリプログラムを考案した.主体価値発展評価指標を,総括班との議論を通じて選定し,実験計画を策定した.
著者
大武 美保子
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010

本研究の目的は、参加者全員がある一定割合以上の度合い、能動的に参加することを目指す共想法形式の会話セッションを司会する、会話支援ロボットを開発し、双方向の活発な会話が安定して実現するかどうかを、実験的に検証することである。参加者毎の発話量をリアルタイムで計測しながら、口数の少ない参加者に発話を促し、長く話しすぎる参加者の発話は、時間により終了するようフィードバックをかけることに挑戦する。本年度は、以下の三つの項目について研究を行った。1.人間の司会者の発言を登録した遠隔操作型会話支援ロボットの製作と実験による評価共想法形式のグループ会話の中で、人間の司会者が自然に発した発言を集め、汎用性の高いものを登録し、選択可能とした遠隔操作型会話支援ロボットを開発した。参加者の発話を補助するための発言を、本人へのあいづち、内容へのあいづち、フォロー、質問に分類し、これらを登録したロボットを用いてグループ会話を支援し、実際に用いられる発言を調べた。2.発話量と笑顔度に基づいて司会する自律型会話支援ロボットの製作と実験による評価前年度までに、発話量に基づいて発話者を切り替える機能を持つ自律型会話支援ロボットを製作した。会話が盛り上がっている時でも、発言の間が空いた時に発話者を切り替えようとする問題を解決するため、笑顔度に基づいて切り替えるタイミングを計る機能を実装した。発話量のみでフィードバックする場合よりも、発話量と笑顔度に基づいてフィードバックする時の方が、全体の発話量が増え、ばらつきが減ることを実験的に確かめた。3.高齢者による会話支援ロボットの遠隔操作実験人と人との交流を支援する会話支援ロボットを、グループ会話を司会した経験のある高齢者が遠隔操作することができるかどうかを確かめる実験を行った。具体的には、共想法形式のグループ会話の司会と対談の司会を、高齢者が会話支援ロボットを遠隔操作することにより実現した。特に発言が長い人への発言の制止と切り替えなど、人間の司会がやりにくいことを、ロボットを介することで円滑かつなごやかに行うことができることを確かめた。
著者
大武 美保子
出版者
千葉大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究の目的は、個別に開発してきた二種類の会話支援ロボットの要素技術を統合し、場の雰囲気を読み取り、適切な発言を選択可能な会話支援ロボットを開発することである。発話時間や表情など非言語情報の認識技術に基づいて場の雰囲気を読み取り、会話中の人間の発言など言語情報の利活用に基づいて適切な発言を選択可能とし、人と人との会話をより円滑に支援できるよい聞き手となるロボットが実現するかどうかを、実験的に検証する。平均年齢94歳の健康長寿姉妹の会話をヒントに、面白い話をする機能、面白い話で笑う機能等を開発することに成功した。非言語情報の認識に基づいて場の雰囲気を読み取る技術の開発に関連して、以下の成果が得られた。顔画像から笑顔度を計測するソフトウエアを用いて、会話時の笑顔度の変化を計測し、参加者の笑顔度が閾値を超えた時にロボットが笑うアルゴリズムを考案した。このアルゴリズムを実装した、笑うロボットをグループ会話に参加させたところ、参加者の笑いが増え、モデルとなった健康長寿姉妹からも高評価を得た。また、東京工業大学中臺研究室、(株)システムインフロンティアと共同で、パッケージ化、無線化したくらげ型マイクロホンアレイ「くらげ君2号」を開発し、グループ会話において参加者の発話量を計測できることを確かめた。言語情報の利活用に基づいて適切な発言を選択可能とする技術の開発に関連して、以下の成果が得られた。共想法形式のグループ会話の中で、参加者が提供した、笑いが多く取れた話題を、ロボットが再利用する実験を行った。健常高齢者による話題を、ロボットが提供したところ、健常高齢者の参加者を笑わせることができた。即ち、参加者が提供した話題の利活用により、グループ会話を盛り上げることができることを確かめた。
著者
大武 美保子
出版者
千葉大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究の目的は,これまで数値化が困難であったこころの現在時刻や,こころの時間の流れを計数し,可視化する,新たな計測評価システムを提供し,新学術領域「こころの時間学」の推進に貢献することである.平成27年度は,研究項目1, 2, 3について研究を進めた.1) 平成26年度までに,会話中の発話から,時制と語彙に基づいて,発話者のこころの時間を推定する手法を開発した.平成27年度はさらに,出来事が起こった時刻とその出来事を参照する時刻,発話する時刻を考慮し,こころの時間を推定する手法を開発した.発話内容だけでなく,それらが語られる視点が,過去,現在,未来のいずれかを評価することが可能となった.2) 会話のテーマ設定に基づく話題や,参加者の属性と,過去がこころの時間に占める割合との関係を分析した.街歩きを行った後,共想法を行った際の会話データを分析対象として,以下のことを明らかにした.即ち,古い街並みや築年数が経った建物を話題にすると,話題と共に持ち寄られた写真に写っている対象そのものではなく,その対象から想起される過去の出来事や気持ちが語られる傾向にある.街歩きをした地域の在住者と外来者のこころの時間を比較すると,在住者の方が,話題に占める過去の割合が高い傾向にある.3) 会話のテーマ設定をそろえた上で,健常高齢者,認知症高齢者,介護施設利用者の会話データを対象にこころの時間を推定し,認知機能とこころの時間との相関を調べた.認知機能が低下した高齢者は,健常高齢者と比べ,話題に占める過去の割合が高い傾向が見られ,それを数値化することができた.