著者
加藤 聖文
出版者
国文学研究資料館
雑誌
国文学研究資料館紀要 アーカイブズ研究篇 = The Bulletin of The National Institure of Japanese Literature, Archival Studies (ISSN:18802249)
巻号頁・発行日
vol.50, no.15, pp.1-16, 2019-03-15

敗戦時に大量の公文書が焼却処分されたという証言は数多い。しかし、具体的に何が焼却対象となったのか、またどのような経路で焼却が指示されたのかについて明らかになっていない点は多い。本稿では、国内でわずかに残存する焼却指示文書を手がかりに、敗戦時の焼却は内務省系統と軍系統の二系統が存在し、焼却対象となったのは内務省系統では法令に基づいた機密文書であり、軍系統では動員関係文書が中心であったことを論証していく。また、筆者はこれまでの文書焼却をめぐる研究が進まなかった要因は、焼却対象となった機密文書や兵事関係文書に関する分析がほとんど行われていなかったことにあると考える。したがって、本稿では機密文書および兵事関係文書の構造にも触れることで、今後の研究の進展の足掛かりとする。There are many testimonies that a large number of official documents were disposed of by burning at directly after the end of WW2. However, it has not been completely clarified what official documents were disposed and how the disposition was ordered taking what routes. In this article, using documents of the disposition order slightly left in Japan as a clue, It will be demonstrated that the target of disposition were two types-classified documents were ordered by the Ministry of Home Affairs and mobilization documents were ordered by the military and naval forces-. In addition, a study on classified documents and military affairs documents is not making progress in Japan. Therefore, this paper also mentions the structure of classified documents and military affairs documents to make that to be a foothold for future progress of study.
著者
加藤 聖文
出版者
国文学研究資料館
雑誌
国文学研究資料館紀要 アーカイブズ研究篇 (ISSN:18802249)
巻号頁・発行日
no.1, pp.1-27, 2005-03

敗戦時に大規模な公文書の廃棄が行われたために、現在の国や地方の行政機関では戦前期の公文書が少ないといった認識が一般的である。しかし、戦前の公文書は、戦後に引き継がれたものと戦後のある時期までに廃棄されたものの二つの系統があり、そして、廃棄されたものは、敗戦前に廃棄されたもの、敗戦時に廃棄されたもの、戦後に廃棄されたものの三つに分けられる。さらに、公文書には大きく分けて普通文書と機密文書の二種類があり、このうち敗戦時の廃棄の中心となったのは機密文書であり、一方、敗戦前と戦後に廃棄されたものは、文書管理規程に基づく通常の廃棄以外では、特殊な理由によって廃棄されたものがあった。本稿では、この通常の公文書のライフサイクルとは異なるかたちで戦時中から戦後までに公文書が大量に廃棄された実態を愛知県庁での事例を中心に検証する。通常のライフサイクルとは異なるかたちとは、敗戦前では、新庁舎の建設に伴う廃棄、戦時中の物資欠乏による廃棄、防空体制の強化による廃棄、文書の疎開に伴う廃棄といった要因が挙げられる。また、戦後では平時になったために戦時に作成された文書の必要性が無くなったことによる廃棄が挙げられる。このようなさまざまな要因によって行われた大規模な文書廃棄を通して見るなかで、すでに敗戦前に多くの文書が失われていたこと、そしてそのような行為を通して見るなかで、行政機関にとって文書の重要性に対する認識が研究者とは全く異なるものであることと、行政組織が生み出す公文書の実像を明らかにし、さらには、現代における公文書の廃棄問題、これからの公文書管理についてのあり方への問題提起を行う。Because a large quantity of official documents were destroyed at the time of defeat, a recognition that only a few prewar documents survive both in the central and local governments has been common. However, this kind of recognition should be reconsidered. Official documents of prewar days were usually treated in two ways. One part is what was taken over to the post war governments, and the other that abandoned before sometime in the postwar period. The latter can be classified into three types, i.e. those which had been abandoned before the end of war, those destroyed at the time of surrender, and those abandoned in the post war period.Furthermore, it should be noted that prewar official documents used to be roughly divided into 'normal documents' and 'secret papers'.The abandonment at the end of war was centered around 'secret papers', while 'normal documents' were abandoned during the war time and post war periods either by document management regulations regularly or in unusual ways for some reasons.The present paper verifies actual conditions of the abandonment of official documents from the wartime through the postwar period, in which documents were destroyed in unusual ways different from the normal disposal procedure based on the life-cycle concept of records, focusing on the case of Aichi Prefectural Government Office.Unusual disposals of official documents not based on the normal life-cycle procedure were: the abandonment of documents by the construction of a new government building; the abandonment for recycling paper caused by the lack of goods; the abandonment after the office reorganization for strengthening air defense; and the abandonment following the evacuation of documents. Moreover, in the postwar period, the prewar and wartime documents were considered to have lost their business value in peacetime, and were often abandoned.Through the above cases of large-scale abandonment of documents caused by various factors, the author reveals that many documents had already been lost before the end of war and discusses, by seeing such wartime activities of government agencies, that the recognition of government people about the importance of official documents is completely different from that of researchers. Lastly, the author insists of the importance to clarify the real image of official documents produced by administrative organizations, and raises problems to think about the abandonment of official document in the present age as well as about the management of official documents in the future.
著者
加藤 聖文 麻田 雅文 小林 昭菜 堀内 暢行
出版者
国文学研究資料館
雑誌
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
巻号頁・発行日
2018-10-09

本研究は、日ソ戦争史研究の基盤(日ソ戦争アーカイブズ)構築を目的として2つの目標を設定する。第1の目標は、研究の土台となるロシアに点在する日ソ戦争関係の歴史資料(アーカイブズ)を日露共同で調査・収集を行う。第2の目標は、収集した資料の一部を翻刻して出版(またはテキスト公開)するとともに、独露間の資料共用化プロジェクトを参考に、国際的データベース・ソフトのAtoMを活用して所在情報・収集資料の共用化を図る。上記の目的に基づき、第3年度はロシア国内での調査収集の拡充を図る予定であったが、新型コロナウィルスの感染拡大のためロシアを中心とした海外調査が不可能となり、事実上研究遂行が停止状態のなかで計画の大幅な見直しを行わざるを得なかった。海外調査が困難ななか、研究成果の発信に力点を置くこととし、11月14日開催のロシア史研究会大会パネル「日ソ戦争-研究の新視点と新資料」において「ソ連軍の満洲占領と地域秩序の崩壊」と題する報告を行った。また、ロシア調査で収集した資料を基に『海外引揚の研究-忘却された「大日本帝国」』(岩波書店、2020年11月)を刊行した。また、各分担者においても単著の刊行など研究成果の発信に努めた。この他、資料調査に関しては、日本国内(樋口季一郎記念館・鶴岡市郷土資料館・舞鶴引揚記念館など)での日ソ関係資料の調査を行い、初年度から続けているロシア語文献収集および収集資料のデータベース化による基盤構築研究を進めた。
著者
今西 祐一郎 大高 洋司 加藤 聖文 山本 登朗 入口 敦志 神作 研一 谷川 惠一 田中 大士
出版者
人間文化研究機構国文学研究資料館
雑誌
国文研ニューズ = NIJL News (ISSN:18831931)
巻号頁・発行日
no.36, pp.1-16, 2014-08-01

●メッセージ「日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築計画」始まる●研究ノート「八戸南部家の読本収集」余滴世界のアーカイブズをめぐって特定研究「中世古今集注釈書の総合的研究―「毘沙門堂本古今集注」を中心に―」●トピックス連続講座「くずし字で読む『源氏物語』」山鹿積徳堂文庫シーボルトに近づく楽しみ特別展示「中原中也と日本の詩」平成26年度 国文学研究資料館「古典の日」講演会刊行物の紹介第38回国際日本文学研究集会総合研究大学院大学日本文学研究専攻の近況
著者
増田 弘 佐藤 晋 加藤 陽子 加藤 聖文 浜井 和史 永島 広紀 大澤 武司 竹野 学
出版者
東洋英和女学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

平成21年度から23年度に至る3力年の研究の具体的成果は、本年9月に慶応義塾大学出版会より刊行が予定されている増田弘編『大日本帝国の崩壊と復員・引揚』にある。本書は、日本が第二次世界大戦に敗北したことで生じた帝国日本の崩壊過程に関して、外地からの民間人引揚と外地に在った日本軍将兵の復員という視座に立った実証研究であると同時に、東アジアにおける冷戦という新局面との歴史的接合点を解明しようとする試論である。
著者
松浦 正孝 保城 広至 空井 護 白鳥 潤一郎 中北 浩爾 浅井 良夫 石川 健治 砂原 庸介 満薗 勇 孫 斉庸 溝口 聡 加藤 聖文 河崎 信樹 小島 庸平 軽部 謙介 小野澤 透 小堀 聡
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2018-04-01

「戦後体制」の何が戦前・戦時と異なり、どのような新たな体制を築いたのか。それはその後どのような変遷をたどり、どこでどう変わって現在に至ったのか。本研究は、その解明のために異分野(政治史、外交史、政治学、憲法学、経済史)の若手・中堅の最先端研究者を集めた多分野横断による問題発見型プロジェクトである。初めの2年度は、各メンバーの業績と学問背景をより深く理解し「戦後」についての問題を洗い出すため、毎回2名ずつの主要業績をテキストとする書評会と、その2名が それぞれ自分野における「戦後」をめぐる 時期区分論と構造について報告する研究会を、年4回開くこととした。しかるにコロナ禍の拡大により、第2年度目最後の2019年3月、京都の会議施設を何度も予約しながら対面式研究会のキャンセルを余儀なくされた。しかし20年度に入ると研究会をオンラインで再開することとし、以後、オンライン研究会を中心に共同研究を進めた。コロナ禍による遅れを取り戻すべく、20年7月・8月・9月と毎月研究会を行い、与党連立政権、貿易・為替システム、消費者金融などのテーマについてメンバーの業績を中心に討議を行った。オリジナル・メンバーの間での相互理解と共通認識が深まったため、12月にはゲスト3名をお招きして、戦犯・遺骨収集・旧軍人特権の戦後処理問題を扱うと共に、メンバーによる復員研究の書評会を行った。「家族」という重要テーマの第一人者である倉敷伸子氏にも、新たにプロジェクトに加わって頂いた。この間、メンバーの数名を中心に今後の研究方針案を調整した上で、21年3月には3日間にわたり「編集全体会議」を開催した。後半2年間に行うべき成果のとりまとめ方針を話し合うと共に、憲法・経済史・労働史・現代史の新メンバー加入を決め、各メンバーが取り組むテーマを報告し議論した。また、各メンバーは各自で本プロジェクトの成果を発表した。
著者
阿部 安成 加藤 聖文
出版者
滋賀大学
雑誌
彦根論叢 (ISSN:03875989)
巻号頁・発行日
vol.348, pp.129-154, 2004-05
著者
加藤 聖文
出版者
国文学研究資料館
雑誌
国文学研究資料館紀要 = The Bulletin of The National Institure of Japanese Literature Archival Studies (ISSN:03869377)
巻号頁・発行日
no.01, pp.1-27, 2005-03-28

敗戦時に大規模な公文書の廃棄が行われたために、現在の国や地方の行政機関では戦前期の公文書が少ないといった認識が一般的である。しかし、戦前の公文書は、戦後に引き継がれたものと戦後のある時期までに廃棄されたものの二つの系統があり、そして、廃棄されたものは、敗戦前に廃棄されたもの、敗戦時に廃棄されたもの、戦後に廃棄されたものの三つに分けられる。さらに、公文書には大きく分けて普通文書と機密文書の二種類があり、このうち敗戦時の廃棄の中心となったのは機密文書であり、一方、敗戦前と戦後に廃棄されたものは、文書管理規程に基づく通常の廃棄以外では、特殊な理由によって廃棄されたものがあった。本稿では、この通常の公文書のライフサイクルとは異なるかたちで戦時中から戦後までに公文書が大量に廃棄された実態を愛知県庁での事例を中心に検証する。通常のライフサイクルとは異なるかたちとは、敗戦前では、新庁舎の建設に伴う廃棄、戦時中の物資欠乏による廃棄、防空体制の強化による廃棄、文書の疎開に伴う廃棄といった要因が挙げられる。また、戦後では平時になったために戦時に作成された文書の必要性が無くなったことによる廃棄が挙げられる。このようなさまざまな要因によって行われた大規模な文書廃棄を通して見るなかで、すでに敗戦前に多くの文書が失われていたこと、そしてそのような行為を通して見るなかで、行政機関にとって文書の重要性に対する認識が研究者とは全く異なるものであることと、行政組織が生み出す公文書の実像を明らかにし、さらには、現代における公文書の廃棄問題、これからの公文書管理についてのあり方への問題提起を行う。Because a large quantity of official documents were destroyed at the time of defeat, a recognition that only a few prewar documents survive both in the central and local governments has been common. However, this kind of recognition should be reconsidered. Official documents of prewar days were usually treated in two ways. One part is what was taken over to the post war governments, and the other that abandoned before sometime in the postwar period. The latter can be classified into three types, i.e. those which had been abandoned before the end of war, those destroyed at the time of surrender, and those abandoned in the post war period.Furthermore, it should be noted that prewar official documents used to be roughly divided into 'normal documents' and 'secret papers'.The abandonment at the end of war was centered around 'secret papers', while 'normal documents’ were abandoned during the war time and post war periods either by document management regulations regularly or in unusual ways for some reasons.The present paper verifies actual conditions of the abandonment of official documents from the wartime through the postwar period, in which documents were destroyed in unusual ways different from the normal disposal procedure based on the life-cycle concept of records, focusing on the case of Aichi Prefectural Government Office.Unusual disposals of official documents not based on the normal life-cycle procedure were: the abandonment of documents by the construction of a new government building; the abandonment for recycling paper caused by the lack of goods; the abandonment after the office reorganization for strengthening air defense; and the abandonment following the evacuation of documents. Moreover, in the postwar period, the prewar and wartime documents were considered to have lost their business value in peacetime, and were often abandoned.Through the above cases of large-scale abandonment of documents caused by various factors, the author reveals that many documents had already been lost before the end of war and discusses, by seeing such wartime activities of government agencies, that the recognition of government people about the importance of official documents is completely different from that of researchers. Lastly, the author insists of the importance to clarify the real image of official documents produced by administrative organizations, and raises problems to think about the abandonment of official document in the present age as well as about the management of official documents in the future.
著者
渡部 泰明 西村 慎太郎 綿拔 豊昭 近本 謙介 後藤 博子 入口 敦志 神作 研一 劉 嘉瑢 黄 昱 加藤 聖文 齋藤 真麻理
出版者
人間文化研究機構国文学研究資料館
雑誌
国文研ニューズ = NIJL News (ISSN:18831931)
巻号頁・発行日
no.61, pp.1-16, 2022-06-20

●メッセージ創立50周年を迎えて●研究ノート【基幹研究】地方協創によるアーカイブズ保全・活用システム構築に関する研究国文学研究資料館所蔵木藤才蔵コレクションの基礎的研究について●エッセイ寺院調査と文学研究共同研究の場の豊かな学び●トピック100年へのエントランス―「法人第4期」の国文研スタート―国文学研究資料館創立50周年記念式典・講演会・展示大衆文化の今昔物語―日本古典籍セミナー北京2021―ないじぇる芸術共創ラボ アウトプットイベント4件2021年度のアーカイブズ・カレッジを顧みて総合研究大学院大学日本文学研究専攻の近況
著者
加藤 聖文 黒沢 文貴 松田 利彦 麻田 雅文 カタソノワ エリーナ バルターノフ ワシリー キム セルゲイ ムミノフ シェルゾッド フセヴォロドフ ウラジーミル
出版者
国文学研究資料館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

研究実施前から把握されていたロシア国防省中央公文書館(CAMO)が所蔵する関東軍文書のすべての画像データを入手し、目録を作成した。また、研究成果の一部として、ロシア側研究者らを招いて2017年2月24日に法政大学において国際会議「第二次世界大戦史研究(ソ連における外国人捕虜問題)」を開催し、60名以上の参加を得た。しかし、今回収集した関東軍文書は1990年代のロシア混乱期に明らかになった文書と異同があることが明らかになった。今回収集した文書の公開に加え、これらの未確認文書の調査に関しては、ロシア側と交渉を行ったが、研究期間内に解決することができず、現在も協議が継続中である。
著者
加藤 聖文
出版者
国文学研究資料館
雑誌
国文学研究資料館紀要 = National Institure of Japanese Literature (ISSN:18802249)
巻号頁・発行日
no.11, pp.1-14, 2015-03-13

個人情報保護法施行後、各地の現場では個人情報の明確な定義もなされないまま過剰反応ともいえる非開示が行われている。本稿では、岩手県・佐賀県などでの事例を挙げつつ、国の法と地方の条例との大きな相違点とその問題点を検証し、個人情報に対する過剰反応が通常業務に支障を与えることを明らかにする。また、国民に対する説明責任と健全な市民社会育成の観点から個人情報公開の必要性を論じ、最後にアーキビストとして個人情報といかに向き合うべきかについて問題提起を行う。The purpose of this paper is to analyze social influence wielded by the Act on the Protection of Personal Information had come into force on 2003.Since this law came into force, it has been overreacted to the protection of personal information in Japan; therefore, these cases of nondisclosure that have no legal grounds have increased.In this paper I take up these cases in some prefectures of Iwate, Saga and others, and clarify the distinction between national low and local regulations. Moreover, I demonstrate that overreaction in the face of protection of personal information impede their business.In conclusion, for advancement of civil society, I would like to raise how can archivist confront this problem.
著者
坪内 暁子 奈良 武司 丸井 英二 内藤 俊夫 加藤 聖子 重松 美加 山崎 浩 FAN Chia-kwung CHANG Nen-chung Chang LEE Yunarn-jang CHANG Yu-sai TSAI Ming-dar JI Dar-der SUKATI Hosea Mlotshwa TU Anthony T.
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

台湾、日本、サントペ・プリンシペでの調査の結果、台湾と日本では医学生であっても感染経路や被害の状況を正確に把握していない、治療に関し最新の正しい情報がないため恐怖心がある、台湾の調査では「対策」の講義の機会のある公衆衛生学科の学生のほうが医学科の学生よりも正確に理解していること等がわかった。HIV/AIDSが日本国内に入って来て約20年が経過したが、新規感染者数は増加傾向にあり低年齢化してきている。日和見感染症や喫煙との関係が深いことは後述する調査で明らかとなった。HIV/AIDSの感染経路となるDrugや喫煙と併せて、正しい基礎知識と予防策を学校教育の中で教えていくことが重要である。
著者
加藤 聖子
出版者
九州大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2015-04-01

着床における子宮内膜の幹細胞の果たす役割を解明することを目的とし、マウスやヒト臨床検体を用いて研究を行い下記の成果を得た。網羅的解析(RNA-sequence)は研究領域の技術支援を受けた。1) マウスモデルを用いた解析各週齢のC57BL/6マウス(5週・8週・60-75週)及びklotho早老マウスの子宮よりRNAを抽出し、RNA-sequence並びにGene Ontology・Pathway解析を行った。年齢毎に発現が増加あるいは減少する遺伝子群やPathwayを明らかにした。この中で老化マウスとklothoマウスで共通に変化する因子も見出した。2)臨床検体を用いた解析同意取得後、不妊治療中の採卵時に採取した子宮内膜検体や血液を用いて、その後の着床率との関連を解析したところ、着床不成功例では成功例に比較し、老化細胞率・p21の発現・細胞周期でのG0/G1期の割合が有意に高かった。また、両者の間で分泌が亢進しているサイトカインの種類に違いが見られた。興味深いことに、幹細胞マーカーの一つであるALDH1の発現はマウスでは老化により減少し、着床不成功例で老化細胞数増加とともに、減少していた。また、SASPに関連することが報告されている複数のサイトカインの発現や分泌が老化マウスや着床不成功例でそれぞれ亢進していた。以上の成果により、老化に伴い子宮内膜幹細胞が減少し、増加する老化細胞から分泌されるサイトカインによるSASPが着床不全の病態に関与することが示唆された。これらの結果はステムセルエイジングに伴う子宮内膜幹細胞の枯渇・劣化・内膜機能の低下が受精卵の着床を阻害していることを意味しており、がんや神経・筋肉の変性疾患だけではなくステムセルエイジングが引き起こす病態の中に子宮内膜機能低下による着床不全も含まれることを示すことができた。