著者
森下 啓明 坂本 英里子 保浦 晃徳 石崎 誠二 月山 克史 近藤 国和 玉井 宏史 山本 昌弘
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 第55回日本農村医学会学術総会 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
pp.120, 2006 (Released:2006-11-06)

<症例> 61歳男性、既往歴に脳梗塞がある。アレルギー歴なし。 平成17年10月29日昼頃、自宅近くの山林で採取した白色のキノコ約20本を調理して摂取した。同日20時頃より腹痛、嘔気、嘔吐、下痢等の消化器症状が出現したが自宅で経過観察していた。10月31日には経口摂取不能となったため、当院救急外来を受診。受診時は意識清明、バイタルサインに大きな異常はなく、神経学的異常所見も認めなかった。しかし、血液検査に於いて肝機能障害、腎機能障害を認めたことからキノコ中毒を疑い緊急入院となった。 患者の持参したキノコの特徴および、経過(消化器症状に続発する肝機能障害)よりドクツルタケ(アマニタトキシン)中毒を疑い、日本中毒センターに問い合わせを行った上で治療を開始した。補液、活性炭投与(25g/回、6回/日、2日間)、血液還流療法(2日間)、ペニシリンG大量投与(1800万単位/日、2日間)を施行し、肝機能障害は改善傾向、第26病日には正常化した。また、第7病日より急性膵炎を発症したが、メシル酸ガベキサート投与などを行い第28病日には改善したため、平成17年12月26日退院となった。 入院時に採取した血液、尿および持参したキノコは日本中毒センターに送付し、分析を依頼している。<考察> ドクツルタケ、タマゴテングタケなどに含まれるアマニタトキシンは、ヒトにおいては約0.1mg/kgが致死量とされており、日本におけるキノコ中毒の中で最も致死率の高いものである。急性胃腸症状とそれに続発する肝機能障害が典型的な経過であり、肝不全が死因となる。本例は典型的な臨床経過よりアマニタトキシン中毒と診断したが、ドクツルタケでは1から2本で致死量となることから、今回摂取したキノコは比較的アマニタトキシン含有量の少ない種類であったものと推測された。治療法としては腸肝循環するアマニタトキシンを活性炭により除去すること及び対症療法が中心となり、解毒薬として確立されたものはない。血液還流療法が有効とする報告もあるが、未だに確固たる証拠はない。ペニシリンG大量投与によってアマニタトキシンの肝細胞への取り込みが阻害されることが動物実験によって確認されているが、臨床における有効性は確立されていない。その他、シリマリン、シメチジン、アスコルビン酸、N-アセチルシステイン等が使用されることもあるが、いずれの有効性も未確立である。 本例では活性炭投与、血液還流療法、ペニシリンG大量投与を行い、肝機能障害を残すことなく生存退院に至った
著者
西澤 忠志
出版者
日本音楽学会
雑誌
音楽学 (ISSN:00302597)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.32-48, 2022 (Released:2023-10-15)

日本において西洋音楽は、明治時代(1868-1912)から本格的に受容され始めた。当初、教育やナショナリズムの涵養に資するものと見なされた西洋音楽は、明治20 年後半から学生や学者といった知識人によって「芸術」と見なされた。その中でも、文芸評論家として知られる上田敏は、学生時代に日本で初めて演奏批評を文芸雑誌に掲載した。 本論文は、日本において西洋音楽が芸術として評価された過程と、その思想的・社会的背景を、上田敏が演奏批評で使用した評価基準である「エキスプレッション」の意味を分析することで明らかにする。 まず、本論文は上田が演奏批評で使用した「エキスプレッション」の意味について検討する。「エキスプレッション」の重要性は、既に上田が演奏批評を発表する前に、精神や感情を表現する語として、洋書を通じて日本の音楽界に紹介されていた。上田はこれを、初めて演奏の評価基準として使用した。次に本論文は、上田が「エキスプレッション」を演奏批評で使用した思想的・社会的背景を検討する。上田は、音楽において具現化された精神と感情を強調した、ショーペンハウアーに代表される19世紀のヨーロッパにおける芸術観を特に高く評価した。彼はまた音楽を、主に女性と子供のための娯楽と見なす既存の音楽観とは異なる、「青年」層の情熱を表現する芸術であることを示そうとした。 以上の特徴を持つ上田の演奏批評は、限定されていた日本の音楽観に対して新たな視点を示すこととなった。そして、彼の音楽批評は、日本における洗練された文化としての西洋音楽の普及を助けることとなった。
著者
森田 啓介 黒木 裕鷹
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会第二種研究会資料 (ISSN:24365556)
巻号頁・発行日
vol.2023, no.FIN-031, pp.156-162, 2023-10-10 (Released:2023-10-12)

企業のガバナンスは経営の透明性やステークホルダーからの信頼と大きく関連する.コーポレートガバナンス・コードが,独立社外取締役の知見に基づいた助言に期待して,その選任を推奨する中で,一人の個人が複数企業の取締役および社外取締役を兼任するケースがある.取締役兼任ネットワークを分析した先行研究の多くは,ネットワーク中心性と企業の業績や情報開示の相関分析に焦点を当てている.しかし,同じ人物による異なる取締役会への参画によって,その人物の知見やノウハウが共有・伝播されるとすれば,接続の同類性やクラスター構造をはじめ,より複雑なネットワーク構造を捉えた分析が重要である.また,ネットワークデータを直接扱う機械学習技術の開発が進んできていることからも,兼任ネットワークにおいて,こうした豊富なネットワーク情報を考慮する意義を見定めることが必要である.本稿では,日本における兼任ネットワークの最近の動向を調査するとともに,条件付き一様グラフ検定と指数ランダムグラフモデル(ERGM)を適用し,ガバナンスとの関連が知られる諸指標の同類性(assortativity)を検証する.結果として,ベータや残差リスクは同類性をもつことがわかり,取締役の兼任によって企業間で知見が共有されている可能性が示唆された.取締役兼任ネットワークのもつ豊富な情報を活用して,ガバナンス構造の分析・予測を行う余地があると考えられる.
著者
Motoyasu Otani Kosuke Kitayama Hiroki Ishikuro Jun-ichiro Hattan Takashi Maoka Hisashi Harada Yuko Shiotani Akane Eguchi Eiji Nitasaka Norihiko Misawa
出版者
Japanese Society for Plant Biotechnology
雑誌
Plant Biotechnology (ISSN:13424580)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.219-226, 2021-06-25 (Released:2021-06-25)
参考文献数
42
被引用文献数
2

Ipomoea obscura, small white morning glory, is an ornamental plant belonging to the family Convolvulaceae, and cultivated worldwide. I. obscura generates white petals including a pale-yellow colored star-shaped center (flower vein). Its fully opened flowers were known to accumulate trace amounts of carotenoids such as β-carotene. In the present study, the embryogenic calli of I. obscura, were successfully produced through its immature embryo culture, and co-cultured with Agrobacterium tumefaciens carrying the β-carotene 4,4′-ketolase (crtW) and β-carotene 3,3′-hydroxylase (crtZ) genes for astaxanthin biosynthesis in addition to the isopentenyl diphosphate isomerase (idi) and hygromycin resistance genes. Transgenic plants, in which these four genes were introduced, were regenerated from the infected calli. They generated bronze (reddish green) leaves and novel petals that exhibited a color change from pale-yellow to pale-orange in the star-shaped center part. Especially, the color of their withered leaves changed drastically. HPLC-PDA-MS analysis showed that the expanded leaves of a transgenic line (T0) produced astaxanthin (5.2% of total carotenoids), adonirubin (3.9%), canthaxanthin (3.8%), and 3-hydroxyechinenone (3.6%), which indicated that these ketocarotenoids corresponded to 16.5% of the total carotenoids produced there (530 µg g−1 fresh weight). Furthermore, the altered traits of the transgenic plants were found to be inherited to their progenies by self-crossing.
著者
足立 文緒 関村 直人
出版者
特定非営利活動法人 横断型基幹科学技術研究団体連合
雑誌
横幹 (ISSN:18817610)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.13-28, 2021-06-15 (Released:2021-06-15)
参考文献数
23
被引用文献数
1

This paper tries to mark the beginning of developing a basic theory that people should understand to conduct management in nuclear sector. First, we make a hypothesis on conceptual level definition of what management in the nuclear sector is, and then, test the hypothesis by comparing it with the case of the ongoing management of decommissioning of Fukushima Daiichi nuclear power plant.
著者
永美 大志
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, pp.681-697, 2009-01-30 (Released:2009-04-08)
参考文献数
76

農薬による慢性的人体影響は,神経・精神障害,臓器障害,発癌,出生障害,発達障害など多岐に渡る。今回筆者は,出生障害について,近年の内外の文献を収集し,総括した。 出生障害については,出生児欠損,流産,死産,早産,出生体格の低下,出生性比異常について近年の農業用農薬使用,住居近傍での農薬散布,住居内での農薬曝露,有機塩素農薬残留との関係を検討した報告が欧米を中心に多数あった。それぞれの影響について過半数の報告が関係を認めていた。出生時欠損については,全般について関係が認められた報告が多く,無脳症など特定の欠損についても報告があった。尿道下裂・停留精巣については,DDT類よりはむしろ,クロルデン類,農薬暴露全般との関係が認められていた。 一方,東南アジア,南アフリカで行なわれた,2つの地域における研究からは,農業農薬暴露と出生時欠損,流産との間に強い関係が見出されていた。熱帯・亜熱帯地域の発展途上国では,農薬用防護具の使用が,気候的にまた経済的に困難であり,農薬暴露が多いことも推察され,これらの知見を検証する疫学研究が求められる。同時に,低毒性農薬への移行,農薬暴露の低減のための施策,活動も求められよう。さらには,欧米でも都市部および農村部の低所得マイノリティーについて,有意な危険度がみられているようで,農薬による人体影響についても社会経済的な因子が重要と推測された。 残念ながら日本国内では疫学的研究が極めて少ないのが現状である。出生障害は,農薬のヒトへの影響の中でも重要な位置を占めると考えられ,農村医学会として取り組むべき課題の一つといえよう。また,東南アジア地域における農薬曝露と慢性影響の疫学調査,低毒性農薬への移行,農薬暴露を低減させる活動が推進されるために,日本農村医学会も貢献すべきであろう。
著者
村上 満
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本釀造協會雜誌 (ISSN:0369416X)
巻号頁・発行日
vol.79, no.12, pp.869-873, 1984-12-15 (Released:2011-11-04)
参考文献数
7

ビール醸造の歴史を語るときに修道院の果した功績を忘れることは出来ない。近代的なビール醸造に携わる著者が, 中世のビール醸造に寄せる夢は男のロマンともいえよう。
著者
プレモセリ・ジョルジョ
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 文学研究科篇 (ISSN:18833985)
巻号頁・発行日
no.45, pp.89-100, 2017-03-01

従来の研究では、泰山府君は病気治療や延命長寿から昇進や栄達といった現世利益の神として言われていた。さらに、最新の研究では、泰山府君は陰陽道諸神とともに、仏菩薩の変化・垂下とする顕密仏教の世界観のなかにあり、その秩序に組み込まれる存在として指摘された。しかし、このように描かれた陰陽道では、仏教を補完する信仰として存在しており、独自の世界観を持っていないように捉えられた。本論はこういった問題意識から出発し、『朝野群載』永承五年(一〇五〇)成立の都状と『台記』康治二年(一一四三)成立の都状に焦点を当てながら、泰山府君祭の生成と展開を分析した。その結果、泰山府君は、十世紀末に密教儀礼を取り組んだ上で、はじめて陰陽道神として生成したことがわかった。さらに、陰陽道は密教と競合することで、院政期において独自の世界観を維持しようとしたことを指摘した。その世界観では、泰山府君は顕密仏教の一環を担う存在には解消できない神格であった。陰陽道泰山府君都状台記祭祀泰山府君祭
著者
和泉 司
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.62, no.11, pp.13-23, 2013-11-10 (Released:2018-11-10)

総合誌『改造』が〈戦前〉に実施していた『改造』懸賞創作と、その当選者たちの当時の〈文壇〉及び現在の日本近代文学史上における存在意義を問い直すことを目的として、その当選者の一人である芹沢光治良に注目した。芹沢の〈作家〉デビューから〈文壇〉における立場を確立させるまでの過程から、〈戦前〉における〈文学懸賞〉とその当選者である〈懸賞作家〉たちの状況を考察し、〈文学懸賞〉である『改造』懸賞創作が現在の〈文学賞〉の発展の基礎となったことを指摘し、その研究の重要性を訴えた。
著者
大迫 洋治 由利 和也
出版者
高知大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本研究において、一夫一婦制げっ歯類をパートナーと別離させると、炎症時の痛み行動が増悪し、疼痛関連脳領域のうち、前頭前野、側坐核、扁桃体の活動が低下すると同時にこれら脳領域と他の疼痛関連脳領域との機能的結合が変化することが明らかになった。さらに脳内ドーパミン産生ニューロンが豊富に存在する腹側被蓋野における痛み刺激に反応するサブリージョンの興奮パターンが異なることが明らかになった。本研究により、精神的ストレスによる痛みの増悪に脳内ドパミン回路の機能変調が関与する可能性が示唆された。
著者
Ryosuke Sato Yasushi Matsuzawa Tomohiro Yoshii Eiichi Akiyama Masaaki Konishi Hidefumi Nakahashi Yugo Minamimoto Yuichiro Kimura Kozo Okada Nobuhiko Maejima Noriaki Iwahashi Masami Kosuge Toshiaki Ebina Kazuo Kimura Kouichi Tamura Kiyoshi Hibi
出版者
Japan Atherosclerosis Society
雑誌
Journal of Atherosclerosis and Thrombosis (ISSN:13403478)
巻号頁・発行日
pp.64368, (Released:2023-10-12)
参考文献数
48
被引用文献数
1

Aim: Low-density lipoprotein cholesterol (LDL-C) level reduction is highly effective in preventing the occurrence of a cardiovascular event. Contrariwise, an inverse association exists between LDL-C levels and prognosis in some patients with cardiovascular diseases—the so-called “cholesterol paradox.” This study aimed to investigate whether the LDL-C level on admission affects the long-term prognosis in patients who develop acute coronary syndrome (ACS) and to examine factors associated with poor prognosis in patients with low LDL-C levels. Methods: We enrolled 410 statin-naïve patients with ACS, whom we divided into low- and high-LDL-C groups based on an admission LDL-C cut-off (obtained from the Youden index) of 122 mg/dL. Endothelial function was assessed using the reactive hyperemia index 1 week after statin initiation. The primary composite endpoint included all-cause death, as well as myocardial infarction and ischemic stroke occurrences. Results: During a median follow-up period of 6.1 years, 76 patients experienced the primary endpoint. Multivariate Cox regression analysis revealed that patients in the low LDL-C group had a 2.3-fold higher risk of experiencing the primary endpoint than those in the high LDL-C group (hazard ratio, 2.34; 95% confidence interval, 1.29-4.27; p=0.005). In the low LDL-C group, slow gait speed (frailty), elevated chronic-phase high-sensitivity C-reactive protein levels (chronic inflammation), and endothelial dysfunction were significantly associated with the primary endpoint. Conclusions: Patients with low LDL-C levels at admission due to ACS had a significantly worse long-term prognosis than those with high LDL-C levels; frailty, chronic inflammation, and endothelial dysfunction were poor prognostic factors.