著者
池田 倫治 後藤 秀昭 堤 浩之
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.123, no.7, pp.445-470, 2017-07-15 (Released:2017-08-03)
参考文献数
118
被引用文献数
4 3

西南日本の地体構造を考える上で中央構造線は欠くことのできない地質要素のひとつである(以下では,便宜的に地質境界の中央構造線を表現する場合には「中央構造線」を,活断層としての中央構造線を表現する場合には「中央構造線活断層系」を,また両方の断層を包括して表現する場合には「中央構造線断層帯」を用いる).中央構造線断層帯は長い活動史を持ち,白亜紀に西南日本内帯/外帯の地質境界として形成されてから,現在もその一部が活断層として活動している.しかし中央構造線と中央構造線活断層系の地下深部構造については現在も議論の分かれているところである.一方で,全長400km以上にわたる横ずれ活断層の破壊過程には不明な点が多いため,地震防災上も注目され地質学的のみならず地震学的にも研究が進められている.特に1995年兵庫県南部地震以降,正確な断層分布の把握,最新活動時期,活動間隔あるいは変位量といった断層活動性評価に資する情報が急速に蓄積されてきた.さらには,その様な活動性情報の収集は,長大横ずれ断層である中央構造線活断層系の断層セグメンテーションの検討を促進し,その結果,断層破壊過程あるいは発生する地震の規模予測の議論へと展開されている.本巡検では,四国西部の中央構造線と中央構造線活断層系を時空間的に意識しながら断層露頭を訪れ,地質境界の産状および活断層地形を観察する.また,中央構造線の活動で形成された第二瀬戸内層群である郡中層の産状についても観察し,様々なフェーズにおける中央構造線断層帯の運動像に迫る.
著者
東 博紀 森野 悠 大原 利眞
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集B2(海岸工学) (ISSN:18842399)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.I_1121-I_1125, 2014 (Released:2014-11-12)
参考文献数
13
被引用文献数
2 2

We discussed a numerical model for oceanic dispersion and sedimentation of radioactive cesium-137 (Cs-137) in shallow water regions to clarify migration behavior of Cs-137 from Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant. Our model considered oceanic transport by three dimensional ocean current, adsorption with large particulate matter (LPM), sedimentation and resuspension. The simulation well reproduced the spatial characteristics of sea surface concentration and sediment surface concentration of Cs-137 off Miyagi, Fukushima, and Ibaraki Prefectures during May-December 2011. The simulated results indicated that the adsorption-sedimentation of Cs-137 significantly occurred during strong wind events because the large amount of LPM was transported to upward layer by resuspension and vertical mixing.
著者
芳賀 博文
出版者
日本都市地理学会
雑誌
都市地理学 (ISSN:18809499)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.3-18, 2006 (Released:2020-02-29)
参考文献数
23
被引用文献数
1

高層の建築物は都市の景観を形成する重要な一要素である.本稿では,東京での近年における超高層建築の著しい建設増を踏まえ,東京の景観が如何に変容しているかを明らかにし,その背景についての考察を行った.東京における超高層建築の建設動向は大きく3 つの時期に分けられるが,時を経るに従って建築数は加速度的に増加している.特に2002 年に成立した「都市再生特別措置法」は,超高層建築の建設に際しての様々な規制を大きく緩和し,建設増を著しく加速化させたものと考えられる.地域別に見ると,西新宿が早期から際立ったスカイラインを形成していたが,1980 年代後半からは都心部やウォーターフロント地域でも著しく高層化が伸展するようになった.ただし,様々な高さ規制により,どの地域でも超高層建築が自由に高く伸びることはない.とりわけ航空法による高さ規制は,東京のスカイラインの形状を大きく規定しているものといえる.
著者
古川 俊治
出版者
一般社団法人 日本計画行政学会
雑誌
計画行政 (ISSN:03872513)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.33-38, 2023-05-15 (Released:2023-06-08)
参考文献数
21

Multiple Chemical Sensitivity (MCS) is a controversial disorder characterized by a recurrent set of diverse clinical manifestations, involving a broad spectrum of organ systems, that are induced by environmental chemicals at doses far below those usually harmful to most persons. To prevent MCS and other adverse effects on human health from environmental chemicals, concentration thresholds of frequently used chemicals in homes, workplaces, and schools are defined by several legal and administrative regulations. However, only a small percentage of the tens of thousands of environmental chemicals in use have been evaluated for toxicity and accumulation, and recent amendments of laws and regulations are directed toward comprehensive management of chemicals as a whole.
著者
中村 順子
出版者
一般社団法人 日本看護管理学会
雑誌
日本看護管理学会誌 (ISSN:13470140)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.5-13, 2009 (Released:2018-12-28)
参考文献数
14
被引用文献数
1

本研究の目的は訪問看護ステーション管理者が,新人訪問看護師に安心して訪問を任せられるようになるまでの関わりを探索し,構造を示すことである.Grounded Theory Approachを参考にして継続比較分析を行い,10人の熟練訪問看護ステーション管理者の関わりを分析した.その結果,管理者が安心して訪問を任せられるようになるまでの関わりとして【ゆらぎを乗り越え訪問看護師としての自信の回復を促す】【訪問看護師としての適性を探る】【看護師の個性を活かし訪問看護師としての能力の充実を図る】【ゆらぎを越えた先にある訪問看護のおもしろさへと導く】【事業所の力を維持するための働きかけにより看護師の成長を促す】の5つのカテゴリーが抽出され,【ゆらぎを乗り越え訪問看護師としての自信の回復を促す】を中核カテゴリーとした.病棟から在宅に移行してきた看護師の“ゆらぎ”を捉え,“ゆらぎ”に気づき乗り越えさせる管理者の支持的な関わりが示され,管理者は人を育てるスキルを効果的に用いていることが明らかになった.在宅看護における対象の文化を理解したケアの重要性と人材育成におけるOJT特に同行訪問の重要性が示唆された.
著者
貝沼 明華
出版者
コンテンツツーリズム学会
雑誌
コンテンツツーリズム学会論文集 (ISSN:24352241)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.49, 2016 (Released:2021-06-04)

マンガやアニメ・ゲームのキャラクターに扮する「コスプレ」を楽しむ「コスプレイヤー」と呼ばれる人たちがいる。「コスプレイヤー」の目的は、好きな作品やキャラクターへの愛情を自らの身体を用いて表現することであり、それは創作意欲を満たすこととなっている。そのため、「コスプレイヤー」にとって場所は撮影するところではなく、創作活動の場という意味を持つ。創作活動の場は、物語世界に近いほどコミュニティ内での評価が上がり、再現度の高い「コスプレ」写真が共感されることで、「コスプレイヤー」は作品に対する認証欲求が満されることとなる。 「コスプレイヤー」の日常性をそぎ落とし、物語性の高い場所を選択する動きは、現代社会で希薄になった「ハレ」の感覚を取り戻す作用を示している。「コスプレ」は演じ手の自意識、外見ともに非日常的なため、観覧者をも巻き込んで「ハレ」の世界を演出する。また、愛知県一宮市と彦根城の事例から、地域の特色と「コスプレ」が結びつくことで、若者と地域住民、観光客の交流の手段としての効果が期待できるといえる。
著者
矢野 幸介
出版者
日本時間学会
雑誌
時間学研究 (ISSN:18820093)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.113-117, 2021-12-31 (Released:2022-07-01)

私たちは学習・仕事と余暇と休息の時間を使って生活している。つまり,時間は私たちの効用の鍵となる概念である。本稿では,これらの時間で構成される効用のモデルをつくるときに,このモデルは何を説明するのかを考えることにする。初めに,私たちの効用は賃金と余暇時間から得られると本稿では仮定する。このとき,この効用を構成する賃金は,人的資本と労働時間より生じると仮定する。そして,また,この人的資本は,余暇時間と労働時間から生じると仮定する。このようにみることで,労働時間と余暇時間はともに効用に影響を及ぼす結果となる。私たちは,労働時間と余暇時間とからなるこの効用への影響のつりあいをもつ。このとき,労働時間は人的資本を高めたり,労働生産性を高めたりする。このことは,余暇時間が人的資本を高めたり,効用を高めたりするのと等しいことを意味する。
著者
今井 博之
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.32-41, 2010 (Released:2011-11-12)
参考文献数
24
被引用文献数
2

傷害(injury)は子どもや比較的若年の成人に多いので社会的損失が大きい.より若年の早死に焦点を当てたYPLL(損失生存可能年数)によると,傷害はガンや心疾患を凌駕する第一位の座を占めており,公衆衛生上の重要問題の一つである.かつて事故予防(accident prevention)と呼ばれていた分野は,今日では傷害制御(injury control)と呼ばれるようになった.その背景にはこの分野での過去数十年の進歩による概念の変遷がある.つまり,感染症制御モデルに倣った公衆衛生学的アプローチがその主軸となっている.傷害制御の基本的原理は,(1) Haddonマトリックスに示されるように,必ずしも事故の発生頻度を減らさないでも傷害の重症度を減らすことは可能であり,また,それらの対策には予防-介入-事後対策など包括的な実践が可能であるという考え方である.さらに,(2) 受動的-vs-能動的対策,(3) 3E(教育,工学,法制化)アプローチ,などの理解も不可欠である.本稿は,これらの基本的原理を解説することを主な目的とした.そしてさらに,近年発展をとげてきた行動科学的アプローチ(傷害氷山のエコロジカル・モデル,プリシード・プロシード・モデル,Haddonマトリックスの第3の軸)や,セーフコミュニティ運動が,傷害制御にどのように関わっているのかについても言及した.
著者
近田 亮平
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.73-85, 2022 (Released:2022-01-31)
参考文献数
14

社会的マイノリティのなかでもLGBTと総称される性的マイノリティに関しては、社会において差別や偏見がより強く脆弱な存在でもあり、国や地域により状況は異なるが、権利の保障は遅れるとともに現在でも不十分である。ブラジルでは1985年の民政移管後、民主主義の定着とともに、社会的マイノリティを擁護する左派の政策や政治勢力が支持されたことにより、多様性を尊重する方向で社会が変化した。本稿はこのようなブラジルにおいて、性的マイノリティの権利を保障すべくどのような制度が整備され、どのようなアクターが行為し、それらがどのように相互作用してきたかを明らかにしようとするものである。先行研究とブラジル地理統計院のデータ、および、筆者が現地で行ったインタビュー調査をもとに、日本よりも先進的なブラジルの性的マイノリティの権利保障の変遷や課題について論じる。そして、多文化主義が民主化後の新憲法で唱導されたブラジルで、セクシャリティをめぐり多様性と排他性が衝突し合っている現状を指摘する。
著者
井関 紗代 北神 慎司
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第15回大会
巻号頁・発行日
pp.115, 2017 (Released:2017-10-16)

ただ商品を触るだけで,自分の物であるかのような感覚(所有感)が生じることがわかっている. 本研究では,商品を触るイメージをするだけで,所有感が高まり,その結果,商品に支払ってもよい金額(支払意思額)も高まるのか検討した. さらに,エフェクタンス動機づけが,触るイメージの効果に及ぼす影響についても検証した. エフェクタンス動機づけとは,環境をコントロールしたいと動機づけられることであり,所有感を抱くことは,そのコントロール欲求を満たすことにつながると考えられる.結果として,触るイメージをすると支払意思額が高まり,その効果は,商品に対する所有感を完全媒介していることが示された.さらに,エフェクタンス動機づけが高まると,所有感が高まり,支払意思額に影響を及ぼすことも確認された. よって,マーケティングにおいて,触るイメージの想起やエフェクタンス動機づけを高めることが有益であると考えられる.
著者
角田 健 大山 優喜 福村 佳子 杉浦 瑞季
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.201-205, 2023 (Released:2023-09-19)
参考文献数
12

症例は76歳の慢性閉塞性肺疾患患者.リハビリテーション場面における対話を活用し,アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning: ACP)の実践を試みた.ACPの実践は,呼吸リハビリテーション中のコンディショニングやセルフマネジメント教育の対話の場面を主に活用した.リハビリテーション専門職がACPに関わる場合,いわゆる広義のACPが関わりやすかった.リハビリテーション専門職は,他の職種と比較して対話する時間が得やすく,生活を主軸に置いた視点で患者の価値観や将来の不安について対話することができる.現場でのACPを促進するため,他の職種と比較して対話する時間が得やすい利点があるリハビリテーション専門職は,繰り返しの対話の機会を活用しACPへ関わる必要がある.
著者
小西 勇輝
出版者
産業医科大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2021-04-01

注意欠如多動性障害(以下、ADHD)は近年一般社会に広く知られるようになり、成人になってはじめてADHDと診断される事例が増えている。ADHDは、不注意、多動性および衝動性の3主症状を認める疾患であり、発達障害の中で唯一薬物療法が奏功する。本邦では服薬下の自動車運転について罰則の対象となっており、添付文章において運転は禁止されている。本研究の目的は、ドライビングシミュレータを用いて、疾患および薬剤が運転に与える影響の要因を分析することである。本研究成果により、薬剤と運転の矛盾が解消され、ADHD患者が根拠のない社会的制限を受けることなく、安心して薬物療法を受けることができる社会を目指す。
著者
高橋 史早
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.78-91, 2018-06-30 (Released:2018-12-14)
参考文献数
64
被引用文献数
1

従来のサービス・クオリティ研究は,主要なサービス品質測定尺度であるSERVQUALを中心として発展するとともに,サービス品質と顧客満足を仲介する知覚価値についても検討してきた。本研究は,知識的な知覚価値である教養の獲得に着目し,生涯学習施設におけるサービス品質や施設に対する総合的な評価との関係を検討する。すなわち,本研究の目的は,教養の獲得が利用者の総合評価に関係しているかを検証し,利用者の教養獲得がどのようなサービスによって促されているのかを解明することにある。公立美術館の利用者122名に対して実施した質問紙調査データを分析した結果,(1)教養の獲得は総合評価を高めること,(2)展示方法と従業員サービスの2つのサービス品質が教養の獲得を促すこと,(3)施設の快適性は総合評価を高めていることが明らかとなった。これらの発見事実は,理論的・実践的観点から検討された。