著者
石黒 一美 沼部 幸博 村樫 悦子 大久保 美佐
出版者
日本歯科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

日常生活でも使用されているLED光を用いた安全で効果的な歯周疾患の予防方法を確立するために基礎的な研究を行った。歯周病原細菌に対しては青色LED単独照射や、白色LED光と光増感剤を組合わせた照射方法で殺菌効果が得られた。一方、ヒト歯肉線維芽細胞に対して波長の異なるLED光を単独照射したところ、赤色LEDは細胞増殖率に影響がなかったが、強い照射出力の青色LEDを照射すると細胞増殖率が減少した。これらのことから、LED光は歯周病原菌の殺菌作用を有するが、照射される周囲組織に対する安全性を配慮した照射条件を検討する必要があることが示唆された。
著者
矢野 由起
出版者
滋賀大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

家庭科における学習内容は、子どもの日常生活と密接に関連しているため、日常生活経験は家庭科学習に大きな影響を及ぼす。したがって、家庭科学習内容にかかわる生活上の事象について、学習前に子どもがどのような考えをもち、どのような見方をしているのかを知っておくことは、家庭科の授業を展開する上でも、また家庭科カリキュラムを考える上でも重要なことである。そこで、本研究では、家庭科学習前の子どもたちが、日常の生活事象について、どのように理解し、どのような論理でそれを説明しようとしているのかを明らかにすることを目的とする。方法は質問紙によるアンケート調査で、小学校家庭科学習前の小学校4年生および学習後の6年生を対象とした。その結果、1.学習前の小学校4年生は学習後の6年生に比べ、自分との関わりから生活事象や生活行動を捉える傾向がみられた。2.小学校4年生は6年生に比べ、日常生活の中で具体的に直接観察される事実を基に生活事象や生活行動を理解していた。3.小学校6年生は4年生に比べ、生活事象や生活行動を客観的かつ科学的に捉えていた。4.小学校4年生は6年生に比べ、実際に体で感じることや自分の気持ちを中心に、生活事象や生活行動を説明していた。5.小学校6年生は4年生に比べ、家族との関係を情意的な面から捉えていた。6.小学校6年生は4年生に比べ、生活事象や生活行動の生活上の意味や、人間や人間の生活への影響についてまで考えが及んでいた。以上のことから、家庭科の学習の中では、子どものもつ理解の仕方や見方をふまえ、日常生活の中では獲得できない視点を重視する必要があると思われる。
著者
坂川 裕司
出版者
小樽商科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

明治初期における百貨店,とくに百貨店業態のイノベーターである三井呉服店(現在の三越百貨店の前身)の小売行動について調査した。その調査の結果,日本における小売業のイノベーションは,欧米小売業にみる百貨店経営手法の単なる模倣というよりも,むしろ日本の社会構造に規定された中での競争に適応するという過程において,小売業者により行われた学習の成果に大きく依存している可能性が明らかとなった。とくに三井呉服店による「呉服陳列会」は,上記の事柄を顕著に示している。当時の最高経営執行者である高橋義雄は,三井呉服店において百貨店の経営手法(西洋式簿記,陳列販売,正札販売など)の導入を薦める一方で,当時の呉服小売業との競争にも適応し,対抗行動をとる必要があった。このような状況において新興の呉服小売業者の出現は,「大店」として,ある程度の市場支配力を持つ呉服小売業者を窮地に追い込む出来事であった。「大店」の中でもリーダー的存在であった三井呉服店も例外ではなかった。しかし三井呉服店をはじめとする「大店」は,新興の呉服小売業者の戦略を即座に模倣することが出来ず,有力な対抗行動をとれぬままにいた。まさに戦略の模倣を制約する構造的条件の一つとして,「大店」の競争優位性を規定していた商品調達経路の特殊性が存在した。そしてもう一つの構造的条件として,「大店」との取引関係をめぐり確立された社会的信頼関係が存在した。これら二つの構造的条件は,既存の呉服流通経路に依存した商品調達による新興の呉服小売業者への対抗行動,言い換えるならば品揃え物差別化を困難にした。そこで三井呉服店は,新たな商品調達経路を独自に開拓するという流通イノベーションに着手し,そのイノベーション実現の布石として呉服陳列会を開催したのである。このように呉服陳列会は,流行創出を目的とした品揃え差別化のノウハウを学習機会となり,後に三井呉服店が百貨店経営に流行創出装置としてのマーケティングを備えさせたと考えられる。
著者
駒田 雅之 伝田 公紀
出版者
東京工業大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

1)PTEN阻害タンパク質CSIGがNrk結合分子として同定され、NrkがAkt経路を抑制して胎盤スポンジオトロホブラストの増殖を抑制することが示唆された。また、Nrk欠損スポンジオトロホブラストで細胞周期停止因子p27の発現低下が見出され、Nrkがp27の発現誘導あるいは分解抑制を引き起こすことが示唆された。2)乳腺腫瘤を発症したNrk欠損♀マウスにおいて血中および卵巣のエストロゲン・レベルが上昇していることを見出した。また、授乳期および高齢の野生型マウスの卵巣でNrkの発現が検出され、Nrkが卵巣でエストロゲン産生を負に制御することにより、乳腺上皮細胞の過増殖を防いでいることが示唆された。
著者
洞口 正之 千田 浩一 山田 章吾 千田 浩一 山田 章吾 中村 正明 佐藤 匡也 加藤 守 稲葉 洋平 田浦 将明
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

放射線防護衣素材等の基礎検討結果から、散乱X線においては無鉛シートの防護効果比は管電圧60~120kVの条件でほぼ100%であった。つまり直接X線と異なり、管電圧100kVを超えても、無鉛シートの遮蔽率おとび防護効果は、鉛タイプと同等であることを明らかにした。IVR術者被曝の原因は、ほとんどが患者からの散乱X線であり、さらに無鉛タイプは軽量であるので、IVRの術者被曝防護に適している。また初期臨床的検討結果からも、IVR術者防護における無鉛タイプの放射線防護衣(プロテクター)の有用性が確認されつつある
著者
平尾 功治
出版者
徳島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

歯髄炎は、主にう蝕病巣から象牙細管を通じて、う蝕関連細菌の病原因子が歯髄組織へ波及し生じる感染症であり、その進行には、種々のサイトカインや炎症性メディエーターが関与する。今回の研究において、カテキンは、歯髄細胞において、自然免疫レセプターのリガンド刺激にて発現が増強した、HMGB1 や MINCLE といった細胞傷害に関与するメディエーターの発現を抑制させることが明らかとなった。また、カテキンはこれらリガンドのレセプターへの結合を阻害する可能性を示唆した。
著者
竹内 俊彦 加藤 由樹 加藤 尚吾
出版者
東京福祉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

研究者らはクイズは教育に有効な方法と考え、クイズ作者にインタビューした後、クイズに特化した掲示板を作成した。またクイズが教育に有効かどうかに興味を持った。そこで我々はクイズの教育効果を検証するため、最大で60名程度の学生に、クイズを「作らせる」「解かせる」「作らせた後に良問を選び、解かせる」という3種類の実験を行った。さらに、3実験に共通した質問項目を分析した。以上はすべて学会で発表済みである。
著者
松井 愛子
出版者
千葉大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

テロメア短縮によって誘導される細胞老化時にはオートファジーを始め、細胞体積変化などの様々な形質変化が誘導されることがこれまでの研究結果から明らかとなった。しかしそれらの分子機構はまだわかっていないものも多い。そこで、細胞老化時に起こるオートファジーを始めとした形質変化の分子機構を明らかとし、その生理的意義を解明することを目的とした。昨年度の研究から、細胞老化時にはオートファジーが誘導されることでTORC1活性が低下することを明らかにした。そこで、本年度ではいくつかのオートファジー変異細胞を用いて細胞老化時のTORC1活性を解析したところ、その中にはTORC1活性を低下させる変異細胞はなかった。次に、細胞老化時オートファジーの誘導原因を解明するために、テロメアタンパク質であるRap1との関連性を解析した。その結果、テロメア短縮時にRap1の発現量は低下するが、Rap1の発現量が低下してもTORC1活性の低下は見られなかったことから、Rap1発現量の変化とオートファジー誘導とに因果関係がないと考えられる。一方老化細胞で見られる形質変化の一つである、液胞体積増大の原因を解析するために、高浸透圧ストレス応答反応を調べた。すると、老化した細胞では高浸透圧ストレス応答機能が低下していることがわかった。そこで、高浸透圧ストレス応答異常とRap1発現量変化との関連性を解析したところ、Rap1発現量の低下に伴い、液胞体積の増大と高浸透圧ストレス応答異常が引き起こされることがわかった。つまり、老化した細胞では、Rap1の発現量が低下することで高浸透圧応答異常を引き起こし、液胞体積が増大することが示唆された。今回の結果から、細胞老化時に見られる形質変化の分子機構の一端が解明され、今後の老化研究の進展に貢献することが期待される。
著者
喜多 悦子 江藤 節代 本田 多美枝 上村 朋子 青山 温子
出版者
日本赤十字九州国際看護大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

「人間の安全保障」は、個々の人間は暴力/紛争と、適切な保健サービスの利用・就学・就業・移動など、身近な欠乏から護られるべきとする概念だが、世界人権宣言など、古くから理念の集約とする意見もある。しかし、本理念が新たに必要になったのは、近年、多発する地域武力紛争(Complex Humanitarian Emergency、CHE)や国際武力介入、併発するテロ、巨大自然災害・新たな感染症、格差や貧困など、現在の地球上の人間の安全を脅かすものは、これまでの「国家安全保障」の範疇にはなく、改めて個々人の安全が問われているからといえる。一方、世界で最大多数を占める保健医療者として、人々の安全における看護者の役割は明確でない。本研究では、わが国の看護教育をふくめ、類似の概念があったかどうかを検討し、近隣諸国における看護およびその教育での扱いを調査してきた。これまで、わが国および近隣諸国の保健医療面、特に看護者に「人間の安全保障」の概念があるかどうかを調査したが、明確な認識があるとの確証は得られなかった。アジア随一のドーナーでもあるわが国には、160を超える看護大学と数百看護専門学校があり、看護職養成施設数は充足している感があり、また、その多くで国際保健/看護を扱っているが、国内的にも国際的にも、「人間の安全保障」の概念が取り入れられているとは云い難い。近隣諸国の看護職は、なお、その社会的地位の確立がなされていない上、教育においても、技術的に終始していることが多く、理念、ことに「人間の安全保障」の概念すら明確に理解されていない。国際看護師協会(International Council of Nurses,ICN)の謳う看護者の役割とも矛盾しない保健面における「人間の安全保障」の実践に看護職者の関与が期待されることを、研究報告書としてまとめた。
著者
初貝 安弘 笠 真生 丸山 勲
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

現代物理学においては「対称性の破れ」とそれを記述する「秩序変数」の概念が基本的であると考えられてきた。主たる現代物理学の目的の一つはこれらを用いた物理的な「相」の分類、理解であったと言えよう。特にその相の質的変化としての「相転移」においては臨界点における局所的ゆらぎ時空間的な発散的振る舞いの正確な記述のために局所的場の理論を用いた繰り込み群ならびにその再帰的階層的概念が極めて有効であり、Landau-Ginzberg-Wilsonによる一つの認識論的パラダイムが構築されるに至った。一方近年の研究の進展により、量子効果が古典論に対する摂動であるにとどまらず、新たな物質相としての「量子相」が広く存在することが認知されるに至った。物性論に例をとれば種々の量子ホール相、強相関電子群におけるスピン液体相、近藤格子系等における量子液体相、整数スピン鎖におけるHaldane相等がその典型例となる。これらは、如何なる対称性の破れを伴わず、古典的秩序変数によっては特徴づけることのできない古典的対応物の存在しない真に量子的な新物質相である。これらの相は「量子液体相」と近年総称され多くの興味をあつめている。これらの新奇な「量子相」「量子液体相」の存在とその重大な意義の認識は上述の古典的パラダイムからのパラダイムシフトの必要性を強く示唆し、あらたな自然法則の理解、発見を要求する。その要求に応えるべく提案されたのが、「トポロジカル秩序」「量子秩序」の概念であり、共同研究者とともに、私もその概念形成を行ってきたものである。このトポロジカル秩序の概念はLGWを越えた新しいパラダイムを目指すものではあるがその正確な定義は現在、まだその建築途上にあるといえる。以上を歴史的背景として本研究において私は量子系の特徴である「幾何学的位相」を用いたベリー接続を直接の手段とし、ベリー位相、チャーン数等により多体の電子論、物性論におけるトポロジカルな秩序変数を構成する理論的提案を行い、それに基づく大規模数値計算機による具体的な数値計算により、シングレット液体相の分類、グラフェンでの量子ホール相の確定等に成功した。また一般化されたVBS状態等におけるエンタングルメントエントロピーを具体的に計算することによりその量子液体相における意義をまた明確にした。
著者
岸 利治 岩城 一郎
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

デジタルマイクロピペットを用いてコンクリートの鉛直面に一定量の水を一定時間間隔で複数回流下させ,所定の回数だけ流下させた後に流水距離を測定するという極めて簡易なコンクリート表層品質の評価手法(繰り返し流水試験)の開発を行った。コンクリート鉛直面を流れる流水は蛇行や分岐をしがちであることから、適当な流水ガイドについて検討し、コンクリート表面に鉛筆で平行な二本の直線を約5mm間隔で罫書いたものが最も理想的な流水ガイドとなると結論付けた。測定者一人で簡便に測定ができるように更に治具を工夫することで、表層品質簡易測定方法として活用できると考えている。
著者
高口 太朗
出版者
国立研究開発法人情報通信研究機構
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本年度は、以下の通り研究を行った。まず、本研究開始までに研究に着手していたネットワークにおけるグループ抽出手法を引用ネットワークに特化させるよう改良を行った。次に、改良した手法を複数の実際の引用ネットワークデータに適用し、グループ構造についての統計的分析を行った。その結果として、本手法が論文タイトルに含まれる語句の意味でグループ構造を捉えていることを確認した。また、研究分野ごとの特徴的な引用パターンについてもその存在を示唆する結果を得た。さらに、研究分野によらず複数の引用ネットワークデータに共通して現れる構造的な性質を見出した。これらの成果には下記2つの意義がある。1つは、提案の手法が引用ネットワークから意義のあるグループ構造を抽出できることを確認したことである。もう1つは、既存の研究分野分類やキーワードなどによらず引用関係のパターンにもとづいて研究分野や研究トピックを推定できる可能性を示したことにある。特に後者は、研究分野の融合と学際化が進む現状において研究分野の動向を客観的にとらえる1つのアプローチとして重要である。これらの研究成果については国内学会において発表を行った。
著者
古川 亮
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

本研究課題の遂行課程で、粘性の圧力微分の逆数を超える剪断率を与えたとき、液体の一様状態が不安定化し、遂にはキャビテーションやシアバンドどいった非線形現象に至るという全く新たな機構を提案した。この機構は特に粘性の大きな液体系について広く成立しうるものであると予想しており、この研究で得られた知見を基に、さらなる一般化を行った。特に過冷却状態あるいは、ガラス状態にある極めて高粘性な液体や固体(金属ガラスや地球マントルなど)の塑性変形の機構、あるいはシアバンド形成、破壊、疲労現象などの不均一化を伴う変形について理解するために、自由体積などミクロな描像を有効的に組み入れたメソスケールモデルの立場から、系統的な研究を行ってきた。そのほかに、下記のような研究を展開した。(i)過冷却液体中に成長する動的不均一構造と輸送物性の関係について、主に数値シミュレーションを援用して、新たな知見を得た。(ii)膜の連続体シミュレーション法を開発し、流体力学相互作用など複雑な効果がある場合につい研究を行った。これらの研究についても、現在、論文投稿中である。
著者
大隅 良典 大隅 萬里子
出版者
岡崎国立共同研究機構
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

自食作用は、真核細胞に普遍的で重要な生理機能である。我々が見いだした酵母の自食作用をモデル系として、分子遺伝子学的手法により自食作用に関わる分子の同定と機能の解析を進めている。本年度に得られた主な成果は以下の通りである。これまで得られている14個の自食作用不能変異(apg)を相補することを指標にAPG遺伝子群のクローニングと構造解析を進め、本年度までに13個の遺伝子の同定に成功した。これらは全て新規の遺伝子であった。我々が開発したアルカリ性ホスファターゼを用いた自食作用の検出系を用いて、APG遺伝子間の相互作用を解析した結果、Apglタンパクキナーゼの過剰発現によってspg13が抑圧されること、APG7の過剰発現によってapg4が抑圧されることが見いだされた。APG13は、親水性のタンパク質をコードしており、興味深いことにApg13pは増殖期にはリン酸化されており、栄養飢餓下には脱リン酸化される。栄養条件で存在様式が速やかに変動するタンパク質としてはじめて同定されたタンパク質である。APG9は、構造から膜タンパク質であることが推定され、細胞分画法などによりこのことが確認された。自食作用におけるダイナミックな膜動態を解析する上で重要な指標タンパク質となることが期待される。APG7は飢餓条件に応答してその発現が著しく上昇する。現在までにApg1,4,6,7,8,9,13に対する特異抗体を作製し、遺伝子産物の同定と細胞内局在性の解析を進めている。栄養培地中でも、自食作用が誘導されるcsc1,csc2の解析を進め、2つの遺伝子を同定した。
著者
西尾 咲子
出版者
慶應義塾大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

卵巣明細胞癌細胞株では、スタチン系の薬剤(SimvastatinとPitavastatin)によって癌シグナルであるNF-kBおよびSTATが抑制され、免疫抑制サイトカンのLI-6の産生が阻害された。細胞増殖に影響を与えなかった。卵巣癌移植マウスを用いた研究でも、スタチンを投与したマウスでは腫瘍中のCD8陽性細胞浸潤が促進され、免疫抑制が解除されていると考えられた。腫瘍内の免疫細胞をFACS法で検討したところ、スタチンの投与によって樹状細胞とマクロファージの浸潤数に変化はなかった。これらのことから、スタチンは、がんにおいて免疫抑止環境を改善し、抗腫瘍T細胞応答を増強することが示唆された。
著者
大隅 良典
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1990

酵母が種々の栄養飢餓条件下に活発な自食作用を示すことを見い出した。この系は自己の構成成分の制御された分解系を分子レベルで理解する上で極めて有用なモデル系である。本研究によって得られた主な成果は以下の通りである。(1)瞬間凍結・凍結置換法を用いた電顕観察により栄養飢餓条件下の細胞内膜系の微細形態を解析し酵母に於ける自食作用のモデルを提出した。(2)液胞の欠損株を栄養飢餓条件下におくと細胞質中に細胞質を取り囲んだ二重膜構造が多数蓄積することから、これらが自食胞に相当することを示した。(3)cAMPシグナル伝達に関与する変異株の解析から、自食作用の誘導には細胞内cAMPが負の調節因子として働いていることが明かとなった。(4)液胞膜H^+ーATPaseの遺伝子破壊株及びバフィロマイシンを用いた解析により、酵母細胞に於ける自食作用には、液胞内酸性化が必須でないことが明らかとなった。(5)栄養飢餓条件下に液胞内に一重膜構造ーオ-トファジックボディを蓄積しないことを指標として自食作用に欠損を有する変異株を単離することに成功した。多数の遺伝子が関与すると思われる自食作用に遺伝学的アプロ-チを導入する道が招かれた。(6)栄養飢餓条件下のタンパク質分解に於いて液胞内プロテイナ-ゼBが最も重要な役割を担っていることが明らかとなった。prbl遺伝子破壊株を作製し、この株が種々の栄養飢餓条件下に液胞内にオ-トファジックボディを蓄積することを示した。(7)窒素源の飢餓条件下の細胞周期の進行には、自食作用による多量のタンパク質分解が不可欠であり、自食作用が誘導出来ない株や、生理的条件では細胞はG_1期停止が出来ず、その生存率が急激に低下することが明らかとなった。以上の成果は4報の論文として国際欧文誌に投稿中及びその準備中であり、この成果、の植物細胞への応用は興味薄薄い今後の課題である。
著者
クラーク スティーブン (2013-2014) スティーヴン クラーク (2012) WILLIAMS Laurence LAURENCE Williams
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

本研究のテーマは「1660年から1780年にかけてのイギリス文学・文化に見られる日本の影響」である。日本の1639年以来の「鎖国政策」がイギリスとの交流を完全に断絶するものではなかった、という提言がある。17世紀から18世紀にかけての鎖国時に西洋で流通していた「日本」のイメージは、西洋諸国(特にイギリス)にとって、自国の政治・経済の枠組みを意識的に比較検討するためのモデルであったことが明らかになる。17世紀から18世紀にかけてのイギリスにとって日本の鎖国は、当時のイギリスの重商主義・保護貿易政策を極限まで推進した場合の実例モデルであり、宗教や人種のマイノリティに対して強権的な姿勢で臨んだ場合の実例モデル、さらには中央集権的国家の代わりに封建制度と幕府体制によって国家をおさめた場合の実例モデルでもあった。鎖国時代の日本は、イギリスにとってまさに自国の「ありえたかもしれない姿」を実験的に示す格好の手本であり、活発に議論し分析すべき対象であった。これまでの成果を、東京大学、香港大学、関西学院、そして日本イギリスロマン派学会2013年全国大会において発表した。また、イギリスの「British Journal for Eighteenth-Century Studies」(イギリス18世紀研究)、東北ロマン主義研究(TARS)、と「New Directions in Travel Writing Studies」(Palgrave Macmillan, 2015)にこれらの成果が研究論文として掲載され出版される。2014年6月に東京大学で「Romantic Connections」国際学会を開催しました。
著者
安井 早紀
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

25年度はアジアゾウの接触行動の機能や個体間関係についてまとめ、ゾウの仕会について総合的な結論を導き出すことを目的として研究を進めた。したがって、これまでに収集したデータの分析、まとめと発表を中心に行った。まず、24年度から進めていたアジアゾウの接触行動について分析を進めた。観察の結果、アジアゾウのメス同士で最もよく観察された鼻先で相手の口を触る行動には、触り方によって2タイブあることが分かった。普段から頻繁に観察された鼻がU字型になって相手の口を触るUタイプと、触る際に鼻がねじれてS字型になるSタイプである。この2タイプの機能を分析すると、それぞれが異なる機能を持っている可能性が明らかになった。これまで鼻先で他個体を触る際の触り方による機能の違いに注目した研究は行われておらず、本研究で初めて明らかになった。口で鼻先を触る行動は、本研究においてもいくつかの先行研究でもゾウ間で最も頻繁に見られる社会行動の一つであり、この行動の機能を正確に把握することは、ゾウ間の社会関係を解明する上で非常に重要と考えられる。この成果については、6月に国際セミナー、9月と2月に国内学会またはシンポジウムで発表を行った。さらに、現在英語論文を作成し、投稿準備中である。上記の結果を使用して、メスアジアゾウ間の個体間関係についても分析を行った。その結果、多くの個体は集団内に1~2頭、特に強い親和的関係を結んでいる相手がいることが明らかになった。さらに、ゾウは集団内で、他個体が自分以外の個体とどのような関係を結んでいるかということに影響を受けながら、このような個体間関係を形成している可能性が示唆された。また、ゾウ使いとの結びつきが強い個体は、ゾウ同士の結びつきが弱くなる傾向があることが示された。これらの結果についてはさらに詳細な分析が必要だが、アジアゾウの社会性の本質を知るうえで重要な知見と考えられる。
著者
川上 浩良 田中 学
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

地球温暖化防止、持続的な経済成長を両立させる観点から、即効性が高く我が国をはじめ先進諸国で積極的に研究が進められている二酸化炭素(CO2)回収・貯蔵(CCS:Carbon Dioxide Capture and Storage)へ応用可能な、次世代型CO2分離膜を検討した。CCSの実現のため、特にCO2透過性を飛躍的に向上させる革新的CO2分離膜を検討した。本研究では、(1) 超高CO2拡散性、高CO2溶解性を示すナノスペースを有する新規表面精密制御ナノ粒子の合成、(2) ナノ粒子含有複合膜の超薄膜化 について研究し、新規粒子の合成と薄膜の方法論を明らかにした。
著者
平田 拓 藤井 博匡 伊藤 康一 藤井 博匡 伊藤 康一 赤羽 英夫
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

実験小動物として用いられるマウスを対象として、電子スピン共鳴(ESR)イメージング法の研究を行った。マウス頭部を計測する650MHzのマイクロ波共振器を作製し、ESR分光装置を改良した。また、スライス選択ESR画像を取得するイメージング法を開発した。さらに、データ取得を高速化することにより、マウス頭部において、半減時が短い六員環のナイトロキシルラジカルを可視化することに成功した。