著者
奥 浩之
出版者
群馬大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

(1)序論マラリアは熱帯〜亜熱帯地方に流行する寄生虫感染症であるが、現在でも臨床応用されているワクチンが無い。共同研究者の鈴木と狩野らは流行地の疫学調査から、熱帯熱マラリア原虫が産生するエノラーゼは流行地住民の血清中に抗体が多く存在することを明らかにしてきた。そこで我々はAla256-Asp277の部分ペプチド(AD22)を用いた人工抗原研究を行っている。平成19年度は合成面(AD22の多抗原化高分子)と構造面(AD22の構造解析)から研究を行った。(2)ワクチン分子の化学合成本研究の合成面での検討として、AD22配列とポリリジンとの複合体を合成した。poly[Lys-co-Lys(protected ND14-Gly-)]およびpoly[Lys-co-Lys(protected AD22-Gly-)]を合成し、平均重合度90のポリリジン鎖1分子当り2分子の保護抗原を担持できる事を明らかにした。更にTFMSA-TFA-thioanisole,m-cresolの処理によって脱保護されたpoly[Lys-co-L.ys(ND14-Gly-)]及びpoly[Lys-co-Lys(AD22-Gly-)]を合成した。また本年度は、製造方法の特許(WO2006/035815A1)についてJSTの補助を受けて各国移行(日米英印仏スイス独伊)の手続きを開始した。(3)ワクチン分子のコンフォメーション解析AD22についてPBS中でのコンフォメーション解析を行った。15Nラベル化AD22の3次元NMR測定を抗AD22抗体の存在下と非存在下で測定した。その結果、AD22分子の各シグナルについて帰属と温度依存性の解析に成功した。スペクトル中には明瞭なtransfer NOEは観測することができなかった。更に測定条件を精査して再測定することで、今後実施するワクチンの分子設計に役立つと期待される。
著者
富田 賢吾
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究は分子雲スケールから原始星・原始惑星系円盤スケールに至る星形成過程を多数の物理過程を含む現実的なマルチスケールシミュレーションで明らかにすることを目指している。数値シミュレーションには米国プリンストン大学と共同で開発している公開時期流体シミュレーションコードAthena++を利用している。今年度は主にコードの開発を行った。まずオーム散逸と双極性拡散という二つの非理想MHD効果をAthena++に実装した。星形成を起こす分子雲は高密度かつ低温のため電離度が低く、これらの非理想MHD効果が重要であることが知られている。コードのテストを兼ねて星間ガスの熱構造を行った。乱流状態にある星間ガスでは衝撃波による加熱と輻射による冷却で温度構造が決まるが。双極性拡散を考慮すると衝撃波の構造が変化するため熱構造に影響すると期待されるが、実際には輻射冷却の効果が強いため温度分布は大きくは変化しないことがわかった。また、自己重力のポアソン方程式を解くポアソンソルバの開発を行った。大規模並列計算機上で正確かつ効率よく計算を行うために手法の検討を行い、Full MultiGrid Cycleに基づくMultigrid法の実装を開始した。まだ実装途中であるが、来年度前半には開発を完了できると見込んでいる。更に星・円盤形成過程を調べるため分子雲の収縮から星周円盤が形成される過程の長時間シミュレーションを行った。星周円盤の形成と進化においては角運動量輸送が重要であるが、シミュレーションにより初期には磁場による角運動量輸送が支配的であるが、後期に進むにつれて円盤質量が増加するために重力不安定により渦状腕が形成され、これによる重力トルクが支配的となることが分かった。この結果を観測と比較し、最近ALMAによって発見された渦状腕を持つ天体Elias2-27の性質を整合的に説明できることを示した。
著者
富田 賢吾
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

1. 磁気流体計算コードAthena++の高速化を目的として、並列プログラミング言語Unified Parallel CとXcalableMPによる並列化の難易度や性能を従来のMPIに基づく並列化と比較した。どちら言語でも適切に記述すればMPIと同等程度の通信性能が得られるが、解適合細分化格子のような複雑な通信パターンが必要な場合には結局MPIと同レベルに通信を意識する必要があること、平易な記述が可能な一方通信の柔軟性には制約があることが分かった。どちらの言語でも現時点で最も高性能な実装はコードをMPIまたは通信ライブラリを含むC言語のコードに変換するトランスレータ形式のものであった。生成されるC言語の中間コードを解析した結果、自身で同等以上の並列化を実装することは可能であり、現時点ではAthena++コードを並列プログラミング言語に移行するメリットは十分ではないと判断した。一方、これらの言語内で利用されているRDMAによる通信は高速化に有望であり、今後の開発に取り入れることを検討する。2. Athena++コードのためにFull-Multigrid法に基づく一様格子上の自己重力ソルバを開発し性能評価を行った。その結果数千並列以上でも磁気流体部よりも数倍程度高速であり、大規模な自己重力流体計算が可能な高い性能と良好なスケーラビリティを達成した。今後これを解適合細分化格子に拡張する。3. 超大規模並列計算を行うためXeon Phiを搭載した大型計算機に向けたAthena++の最適化と性能評価を行った。Xeon Phiは通常のCPUと良く似た最適化が適用可能であり、最小限の調整で高い実行性能が得られた。最先端共同HPC基盤施設のスーパーコンピュータOakforest-PACSを用い、2048ノード・524288スレッドの大規模並列計算でも83%以上という高い並列性能を実現した。
著者
杉本 真樹
出版者
帝京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

膵胆道内に二酸化炭素CO_2投与下に陰性造影剤として利用したMulti detector-row CT(MDCT)による膵胆道造影CO_2 MDCT cholangio-pancreatography (CO_2MDCT-CP)を確立した.さらに仮想内視鏡および動静脈再構築をfusion(重ね合わせ)させ,術中診断,術式,病理診断と併せて検討し,画像診断と臨床病態の相関性を解析した。また消化器肝胆膵領域のビジュアリゼーションや手術シミュレーションを客観的に捉える撮影技術と解析ツールによるシステムを構築した.これにより消化器外科、特に肝胆膵領域の手術において,実質臓器と消化管、膵胆道と血管解剖を統合的に把握することができ,的確な診断治療とその教育に有用なソフトウェアを開発できる環境を整備した.これまで蓄積してきた症例のMDCTデータベースを元に,術前診断と行われた術式、実際の病理所見と術後経過、予後について解析し、CO_2MDCT-CPの3次元モニター診断解析能を向上させ,外科手術支援としての有効性を証明した.本年度はさらに術野重畳表示法を開発し,二酸化炭素造影MDCTによる手術支援の精度を向上させた.これらの成果は,国内外で多数の学会,講演にて発表した.また15th International Congress of the European Association for Endoscopic Surgery(第15回欧州内視鏡外科学会国際大会)EAES VIDEO AWARD(2007.7),The 8th World Congress of the International Hepato-Pancreato-Biliary Association(第8回国際肝胆膵学会国際大会)President plenary paper(2008.2),平成19年度帝京大学藤井儔子学術奨励賞(2008.3)を受賞した
著者
北 恭昭
出版者
大阪外国語大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

和玉篇の古写本・古版本は約三十種に及ぶ、この三十種を川瀬一馬氏は、成立並びに伝流の関係から、八類に類別されている。その類別されたものの中から、第二類本の篇目次第、第五類本の慶長十年刊夢梅本、第八類本の慶長十五年刊本の三種について和訓の索引を作成して、これを公刊した。今回は第一類本の玉篇要略集、第二類本の弘治二年写本、第三類本の拾篇目集、第四類本の米沢図書館蔵本・玉篇略の五種を選び、この五本のすべての和訓を採取し、これを同一見出し漢字と同一和訓を集合させて、五種対照の索引を作成した。さらに既刊の篇目次第、夢梅本、慶長十五年刊本(以上この研究代表者の作成)と音訓篇立(他者の作成)を加えて、同一見出漢字と、同一和訓の有無を照合し、この結果を符号によって五種対照索引の末尾に示した。この結果九種の和玉篇の和訓の総合が得られた。これによって和玉篇和訓の諸問題の解明をはじめとして、他の古辞書の和訓との比較研究は当然の事のほか、語彙研究の全体に大いに貢献しうるものと考えている。次年度にはこの対照索引を公刊する予定であるので、この準備を継続的に行なう。今回取り上げた五種の本文編のうち拾篇目集(国立国会図書館蔵本)と米沢文庫蔵本は特別の許可のもと写真撮影を行なう。玉篇略と弘治二年本と玉篇要略集(大東急記念文庫蔵)の三種は複製本が公刊されてはいるが、極めて高価であることと、入手が容易でないことから、この三種については、手写本を作成した。これを影印して本文編とする。
著者
西光 義弘 鈴木 義和 實平 雅夫 高梨 信乃 ハリソン リチャード 住田 哲郎
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

3 年間の科学研究費補助金基盤研究(C))の間に外部の研究者を招いて講演会を開き(名古屋大学大学院・発達科学研究科渡邉雅子教授、東京大学留学生センター二通信子教授、早稲田大学留学センター佐渡島沙織准教授、一橋大学国際教育センター庵功雄准教授、同石黒圭准教授)、アカデミックライティングの様々な側面についての知見を得ると同時に、研究分担者はイギリス・カナダの大学でのアカデミックライティングの実情を調査に赴き、日本でのライティング・センターの先駆的な試みを行っている早稲田大学での様子を調査し、またアカデミックライティング関係の研究会への出席などを通じて、研究を重ね、定期的に研究会を開き、各研究分担者の研究を進め、討議を重ねてきた。3 年間の研究期間を終えるに当たり、その成果を報告書として刊行した。
著者
永尾 雅哉 増田 誠司 佐々木 隆造 増田 誠司 永尾 雅哉
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

エリスロポエチン(EPO)は赤血球の前駆細胞に作用して、その増殖・分化を促進することで赤血球量を調節するホルモンである。しかし、意外にも血管内皮細胞に作用して、その増殖を促進することが明らかになってきたため、性周期にともなう子宮内膜の肥厚の際に見られる生理的な血管形成にEPOが関与している可能生について検討した。そして実際にEPOが血管形成促進因子として機能することを突き止めた。そこで本研究では、子宮におけるEPOの発現制御機構に対して検討すると同時に、他の生殖器官におけるEPO産生についても検討した。以下に成果を列挙する。1.子宮におけるEPOの産生制御は主としてエストロゲンによって行われている。低酸素刺激のみでは産生は誘導されず、エストロゲン投与時にのみ低酸素による誘導が観察された。2.子宮ではエストロゲンによって一過的にEPOの産生誘導が見られるが、これはエストロゲン受容体がダウンレギュレーションされるためと考えられた。3.腎臓や脳においては、子宮とは異なり、エストロゲンではEPO mRNAは誘導されず、低酸素により誘導された。但し、腎臓では低酸素で一過的に誘導されるのに対して、脳では低酸素が続く限り、EPO mRNAは高レベルを維持した。この結果は、腎臓で産生されるEPOは赤血球量の調節に、脳のEPOは神経細胞死の防御に用いられるため、その機能を非常によく反映した制御機構であると理解できた。4.卵巣、卵管においてもエストロゲン依存的にEPOの産生が見られたが、特に卵管峡部で発現が高かった。5.精巣および精巣上体でも低酸素誘導性のEPOが産生が見られることを発見した。また、性成熟に伴い精巣上体でのEPO産生が劇的に上昇することが明らかになった。
著者
篠塚 友一
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

日本では少子高齢化の進行に伴い、世代間の利害対立が深刻化している。世代間衡平性の倫理による利害調整原理の提供は、厚生経済学の喫緊の課題である。また、テール・リスクも世代間衡平性と深く関わっている。地球温暖化による気候変動や東日本大震災のような大規模地震が起こる確率は低いが社会に甚大な損害を及ぼす潜在的危険性がテール・リスクである。テール・リスクの政策評価には、将来世代の効用の割引率選択が決定的に重要であるため、世代間衡平性の問題が生ずるのである。本研究では、厚生経済学・社会的選択理論の枠組みで、気候変動や大規模地震などのテール・リスク評価の問題を考察する。
著者
宮田 優希
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

腹膜透析(PD)導入患者にバンコマイシン(VCM)が投与されることも多いが、VCMはPDによつて除去されるため、PDによるVCM除去の影響を考慮した投与量設定が必要である。しかし、一般的なガイドライン等に記載された推奨投与量は用量幅が大きいにも拘わらず、その変動要因に関する情報はほとんど記載されていない。加えて、適切な薬物動態モデルが構築されていないことから、患者毎に大きく異なるPD実施条件とVCMのクリアランス(CLvcm)との定量的関係については検討が進んでおらず、PD導入患者に対するVCMの最適投与量設計は困難である。そこで、本研究ではPD実施条件を定量的に組み入れることが可能な薬物動態モデルであるPDモデルを構築し、PD導入中にVCMの投与を受けた患者の薬物動態解析に適用することで、その臨床的有用性を評価することを目的とした。まず、解析対象患者11名のうち2点以上の血清中VCM濃度測定値が入手可能であった5症例を対象に、初回測定値に基づくPDモデルを用いたフィッティングによる血清中VCM濃度予測値と実測値を比較したところ、実測値の85.7%を0.67~1.5倍の範囲内で予測することが可能であった。さらに対象患者11名のPD実施条件および背景情報を基に算出したCLvcm予測値と対応する実測値を比較したところ、11名全てを0.5~2.0倍の範囲で予測可能であった。さらに、CLvcm予測値に基づきPD実施条件に応じたVCMの推奨投与量一覧表を構築したところ、一般的なガイドラインでは大きな幅を持って示されている推奨投与量を、PD実施条件に応じて明確に区分することが可能となった。これらの結果から、本研究で構築したPDモデルを上述のVCM推奨投与量一覧表と合わせて利用することで、PD導入患者における適切な血清中VCM濃度コントロールが可能となると考えられた。
著者
山野上 祐介
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究ではフグ目及びその近縁群についてDNAに基づいた系統解析や分岐年代推定を行い,その多様な生息域の進化過程の推測や分類の整理を行った.その一例として,フグ科魚類の解析により南米,アフリカ,東南アジアに分断して生息する純淡水性のフグ類がそれぞれ独立に淡水域に進出したことを明らかにした研究が挙げられる.また,分類の整理に関しては,マンボウ科の研究ではマンボウの1種だけだと考えられていた日本産マンボウ属に2種を認め,新たな種に「ウシマンボウ」という和名を与えるなどの研究を行った.
著者
福士 謙介
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究はバングラデシュやタイなどのヒ素による汚染が深刻な地域のヒ素除去プロセスのオプションとして、土壌、上水汚泥など高濃度にヒ素を含有している固形物から微生物の機能を用いヒ素を除去するプロセスを開発することが本研究の最終的なゴールであるが、それを達成するためにはヒ素気化に関する様々な基礎的な知見を得る必要がある。本研究で着目したのは一部のメタン生成菌などが有している無機ヒ素のメチル化能力である。本科学研究費補助金助成研究では主に微生物叢に着目し、その工学的な視点から見た生物学的機能を解明することを目的とする。1年目は様々な環境から採取された試料より得られた混合微生物叢の無機ヒ素のメチル化能力を調べた。試料はバングラデシュの汚染地域土壌、牛糞、高温消化汚泥を選択した。試験は試料を嫌気性反応槽で蟻酸と酢酸の存在下で半連続的に培養を行い、気化されたヒ素の速度を測定した。牛糞槽と汚染土壌槽は約35°、高温消化汚泥槽は55°で培養を行った。約100日の培養の結果、ヒ素のメチル化能力は牛糞>汚染土壌であり、高温消化汚泥からはメチルヒ素の確認はごく微量しかされず、アルシンガスの生成が確認された。いずれの場合も生成したメチルヒ素はメモメチルアルシンであった。2・3年目はヒ素メチル化微生物の詳細な微生物叢解析・酵素解析を行った。具体的にはヒ素をメチル化することが知られているメタン生成菌純菌を集積培養し、その微生物からヒ素をメチル化するのに深く関与している酵素を単離し、その後、その酵素情報からヒ素メチル化に関与する因子情報を得る手法をとった。単離微生物の研究からはヒ素メチル化にはアデノシルメチオニンよりもメチルコバラミンが深く関わっていることが解ったが、酵素を単離するには至らなかった。
著者
三石 誠司 吉田 俊幸 佐藤 奨平 鷹取 泰子 市村 雅俊
出版者
宮城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究の目的は、大災害に耐えうるローカル・フードシステムの成立条件を明らかにすることである。そのため、1)米を中心とする基礎的な食料の流通・供給システムの解明、2)東日本大震災の被災地である福島県・宮城県を中心とした被災地における関係者の連携の在り方、さらに、3)諸外国におけるローカル・フードシステムの特徴などを個別事例をもとに調査した。その上で、最終的には、米国農務省が公表したローカル・フードシステムの理論的背景・実践事例の報告書を翻訳し、国際的な視点で知見を共有可能としたものである。
著者
宇野 耕司
出版者
目白大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では第Ⅰフェーズから第Ⅴフェーズの5段階で計画し,平成29(2017)年度は第Ⅴフェーズ:「新米ママと赤ちゃんの会」実施者研修体制開発を行った。具体的には,「① 研修実施体制の構築」として,以下に述べる報告会及び養成講座に関する準備委員会を組織化した。準備委員会では実践現場の創意・工夫・改善点を盛り込む形で検討し,実施者の養成と研修のあり方を明らかにした。同時に「② 既存関連有効モデルの分析」として先行研究レビューを行った。特にインストラクショナルデザインに関する知見を検討した。既存関連有効モデルの分析として,既存の類似したグッドプラクティスプログラム(ノーバディズパーフェクトプログラムやコモンセンス・ペアレンティング)の研修方法についての現状把握や研修プログラムの課題を明確にしようとしたが,研修は組織の保有する知財に関係することでありアプローチが困難であった。そこで,先に研修プログラムを開発し,それに対してグッドプラクティスプログラムの指導者的立場の人から助言指導を受けることで,研修プログラムの課題を明らかにする方法に切り替えた。しかし,研修プログラムの完成版に関する助言指導を受けるまでに到達できなかった。「③ 研修の実施と試行的効果評価」を行った。まずプログラムの概要と実績およびアウトカム評価の成果報告として,プログラム報告会の企画・運営を行った。報告会の参加者は子ども家庭福祉と母子保健領域の行政職員,市議会議員,子育て支援の実践家,助産師,保健師などが参加した。報告会に続いて,ファシリテーター養成講座の企画・運営を行った。形成的評価として試行的に1回実施した。実施前後の研修効果の評価(レベル1とレベル2)を行った。本プログラムの基本的な考え方や進行内容について理解できる研修となった。
著者
両角 卓也
出版者
広島大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

研究業績の概要パリテー対称性が自発的に破れるある種のleft-right模型は,標準理論と異なる機構で軽い5つのに質量を与えることができ,さらにトップクオークの質量も困難なく導入できるので,標準模型を超える模型として興味深い.我々はシーソー機構に基づくleft-right模型を研究し,この模型におけるクオーク質量階層性,フレーバーチェシジングな中性カレントおよびCP非保存現象を系統的に調べた.その結果,K中間子のCPの破れ_<εK>およびΔM_Kからパリテー対称性が破れるスケールの下限を得た。このスケールが低い時(500GeV程度)には,K中間子の稀崩壊K_L→π^0ννのpionのエネルギースペクトルに標準模型と異なる特徴的なシグナルが現れることを指摘した.B中間子の稀崩壊B→X_sl^+l^-は,10^8-10^9個のB中間子を作るBファクトリーで100-1000個程度見つかることが期待され,このモードが標準理論のtreeレベルでは起きないことから,標準模型を超える理論に強い制限を与えることが期待されている。我々はB→X_sl^+l^-の模型によらない解析を行った.具体的には,このモードに寄与しうる10個のローカルな4体フェルミ相互作用を書き下し,それがこのモードに対する分岐比,レプトンの不変質量分布や,前後方非対称性にどのような影響を与えるか,特に標準模型との違いに注目して解析した.その結果,ローカルな4体フェルミ相互作用の種類によって,分岐比と前後方非対称性に与える影響が異なることがわかった.
著者
上出 寛子 小菅 一弘 高橋 英之 笠木 雅史 新井 健生 山邉 茂之
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

ドライビングシミュレータ環境が、実車実験とどの程度類似しているかどうかを、手動・半自動での運転モードと、マインドワンダリングの発生との関連から検討するため、実車実験と同様の被験者5名に対して、ドライビングシミュレータを用いた実験を行った。実車実験のドライブレコーダ記録から、追い越された車の種類、台数、また、道路環境(工事等による片側車線規制など)を確認し、これらの要因に関して平均的な運転状況をドライビングシミュレータ上に再現した。また、実車の際には安全性を考慮して実施できなかった、アイカメラを用いた視線測定も行った。実車の場合と同様に、ランダムなタイミングで、音声により運転に集中しているかどうかを訪ね、マインドワンダリングの発生を計測した。同じ被験者に対して、自動運転、半自動運転の両方のモードを行った。その結果、同じ被験者である一方で、シミュレータと実車では、運転モードとの関連でマインドワンダリングの発生について類似した結果は得られなかった。アイカメラの測定の結果、マインドワンダリングを行っている際には、視線が真正面に集中せず、周囲に分散することが確認された。また、全ての被験者が半自動運転の際に、マンドワンダリングしやすいという訳ではなく、運転に自信のある傾向の人は、手動運転の方が、半自動運転よりもマンドワンダリングしやすく、慎重な運転をする傾向の人は、半自動運転の方が、マインドワンダリングしやすいという結果も得られた。また、運転の楽しみについても、これまでの成果で、半自動運転の昨日のついた車のドライバーの方が、手動運転の車のドライバーよりも、運転の楽しみを高く感じていることが明らかになっている。
著者
久木田 水生 神崎 宣次 村上 祐子 戸田山 和久
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

28年度においては、主に次の調査・研究を行った。(1) 心理学、人類学、認知科学などの自然科学の諸分野における、道徳性に関する近年の研究について調査・研究。(2) 人工知能の分野における倫理や道徳に対する取り組みについての調査と検討。(3) 伝統的な倫理学において道徳性というものがどのようにとらえられてきたということについて調査。これらは本科研の主要な目的である、近年の科学の成果に基づいて道徳性の概念をアップデートして、新しい道徳性のモデルに基づく人工的な意思決定システム、行為システムをデザインするということに直接つながる調査である。上記の調査・研究の結果として以下のことが明らかになった。すなわち人間の道徳性は、霊長類など他の社会的な動物や、また言語を話す前の幼児にも見られる、協力的な行動・利他的な行動を選好する態度にすでにその萌芽が現れている。このことは従来の倫理学が考えてきた、「十分な理性的能力を有する人間(典型的には成年に達した人間)に特有のもの」ではないことが示唆される。その一方で人工知能の分野においては、技術の進展が目覚ましく、またその進歩の勢いに不安を抱く人々も多い。そこから「人工知能の倫理」、あるいは「ロボットの倫理」、「ロボット倫理学」というテーマが注目されている。そしてそれに即した研究の中には、人工知能やロボットに人間や社会の価値を反映させるということを目標としているものも多く、本科研の研究の方向性が社会的な重要性を持つものであることが確認できた。
著者
仲谷 一宏
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1994

ヘラザメ属の分類について、Springer(1979)などにより分類学的研究が行われ、Meng et al.(1985)などにより、多くの種が記載された。Paulin et al.(1989)やLast and Stevens(1994)は多くの未記載種を分類学的に未整理のまま報告した。したがって、現在ヘラザメ属の分類は著しく混乱した状況にあり、属の分類学的再検討を行った。その結果、世界の模式標本の自らの調査結果に基づき、既知種の再検討を行い、31種を独立種と認めた。また、世界各地からの標本を検討した結果、既知の31種とは一致しない21種を発見した。これらの種は未記載種であると考えられ、一部の種は新種として投稿中で、他の種に関しても更に詳細な検討をし、公表の予定である。現在、本属の種数は50種を越えるが、すべての種の外部形態、内部形態、計測計数形質を検討した。その結果、吻長、口角部の唇褶、らせん弁数の3形質に一定の関係が認められ、このことから本属は少なくとも3群の種から成り立つことが示唆された。すなわち、1)吻が非常に長い群、2)吻が短く、上顎唇褶が短く、らせん弁が少ない群、および3)吻が短く、上顎唇褶が長く、らせん弁が多い群、である。用いられた形質は独立した形質で、それぞれから得られた結果が極めてよく一致したこと、この3形質以外の形質でも3群が支持されたことから、この3群は系統類縁関係を反映した群である可能性が強い。この3群の分類学的な取り扱いに関しては、本属が属するメジロザメ類全体の系統類縁関係に基づいて、統合的な見地から決定されるべきであり、本研究ではこれらの群に分類学的な処理を差し控えた。また、いくつかの分類学的に未解決の既知種に関しては、原記載などを参考にして3群への帰属を検討し結論を得た。
著者
小林 久子
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究は、紛争処理分野におけるコミュニケーションの研究という目的の下に、調停技法の研究、技法トレーニング方法の開発、そしてそれらの基本となる調停理論の構築という3種類の活動が計画された。理論研究としては、まず、米国の先行文献を学ぶことから開始され、その中から特に重要と思われた6論文を和訳し発表した。文献研究を通じて研究者は、紛争解決には大きく交換概念を土台とする方法と、当事者の関係性と承認概念に基づく方法とがあることを理解した。そこで、紛争解決プロセスにおける交換と承認の役割に関する理論構築を目指し、研究を進めたのだが、それは、その二理論が実際の紛争解決においてどのような役割を担っているのかという点まで発展した。その結果、対話による紛争解決において最も理想的なコミュニケーション形態とは、交換理論をもとに承認理論を重ね合わせるタイプの形態であることを突き止めた。それらは、小論文「分配から承認、そして再度統合へ:紛争解決プロセスの重層性について」の中で論じられている。しかしながら、交換と承認から紛争解決プロセスを論じることは、それ自体いまだ研究の初期的段階にあり、今後はこの点をさらに深めつつ研究を進めていきたいと考えている。対話型紛争解決方法とは調停による解決を意味している。そのため本研究における技法開発は、調停技法を教えるためのトレーニング方法の開発という形で実践された。研究者は、まず調停トレーニングの全工程を7段階に分け、段階別に解説と具体的なトレーニング方法を開発し、トレーニングで使われる技法練習用資料とロールプレイ用のスクリプトの執筆も行った。その数はロールプレイのスクリプトだけで20を数える。スクリプトや練習資料は、内容別とレベル別で分けられ、受講者が使い分けできるように工夫されている。研究者は、スクリプトのひとつを使ってロールプレイを実施し、デモビデオを制作した。現在ビデオは、法科大学院、ゼミ、その他の調停トレーニングで利用されているが、その有用性は非常に高いと考えている。学生はビデオと同じスクリプトを使って自らロールプレイを行い、その事件が抱える問題点や調停の難しさを実体験する。その後ビデオを鑑賞し、そのような問題点や困難がどのように扱われ、解決されているのかを実際に見、理解することができるのである。さらに、研究の最終年度では調停トレーニング上級編の試験的実施も行った。すでに過去2年間の活動でトレーニングは完成され、手引書とデモビデオも一つ制作されている。だが、学外調停トレーニングは再度受講を希望する声が強く、上級編の必要性が感じられた。そこでこれまでのトレーニングを基礎編と位置づけ、新たに応用編を用意することとし、その準備に取り掛かった。基礎編参加者から応用編の内容についてアンケートをとり、それに従って、試験的プログラムを作成し実施したのである。今後は、(1)更なる改善を目指し、(2)また、実務家向け短期間の応用編を学生向けの長期間のトレーニングとしてどのように拡充させていくのかについて考えたい。
著者
水内 郁夫 林 宏太郎
出版者
東京農工大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

芸術やスポーツの動きを美しいと感じる、ホスピタリティを感じる、未知のものに興味をひかれる、などの人の主観的プロセスを、ロボットの動作生成・行動選択・創造活動などに活用することができないかという観点で、様々な対象(場)において、人間の主観的評価データに基づき機械学習を用いた主観的評価器を生成した。人の主観評価は本質的に揺らぎがあるが、推定結果を用いて、人が受ける印象を良くするようなロボット等の行動・振る舞いの選択や生成や、新規な絵画の生成、等に成功した。これらの成果は、国内外の学会及び展示会等で発表した。非人型ロボットへの印象操作や、高スキル動作の自動生成等への取り組みも開始した。
著者
水内 郁夫
出版者
東京農工大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究の成果の概要は、(1)系の力学的エネルギの総量をできるだけ増加させ続けるようなアクチュエータ指令決定法(フィードバック励振制御)、(2)多リンク系の力学的エネルギの流れ(エネルギフロー)の解析、(3)時間反転積分法とそれに基づく制御指令列生成法、(4)弾性を有する人工筋の筋経路決定法、(5)コンプレッサ搭載型空気圧駆動全身型ロボットの開発、などである。当初実現性に確信を持てなかった課題に対し、コアとなる理論を生み出すことに成功し、さらにその理論の有効性をシミュレーションと実世界実験により確認することができた。