著者
星 優也
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.67, no.6, pp.1-12, 2018-06-10 (Released:2023-07-01)

『神祇講式』は、神祇を〈本尊〉として衆生救済を祈る講式である。無住作『沙石集』や『中臣祓訓解』など中世神道書との関係が指摘されており、近年は神楽の祭文への展開が明らかになっている。本稿は、『神祇講式』に見られる「神冥」の表現に注目した。「神冥」は用例こそ鎌倉期に確認できるが、「神祇」と「神冥」の関係を考察することから、『神祇講式』では死者を含む、衆生を救済する「神冥」が創られたことを明らかにした。
著者
飯田 隆夫
出版者
日本演劇学会
雑誌
演劇学論集 日本演劇学会紀要 (ISSN:13482815)
巻号頁・発行日
vol.76, pp.1-16, 2023-06-15 (Released:2023-07-01)

Since the middle of the Edo Period, several long, wooden swords had been dedicated to the Sagami-Ohyama Sacred Place (the Temple & Shrine), located in the sacred mountain of Ohyama. It is believed that this custom was based on the historical facts written in Azuma Kagami, according to which Hojo Masako devoted the guarding sword when she gave birth to a boy. Other versions believe that the custom began as a samurai prayer for their martial arts, which was later imitated by people using wooden swords. However, disputing these popular explanations, this thesis attempts to prove that Ichikawa Danjūrō I was the key person who developed this custom. In 1690 (Genroku, 3rd year), he promised to offer long, wooden swords to Acala (Fudo Myoo) of Ohyama in gratitude for his advanced acting techniques if he could perform the role of Edo kabuki, a character with a superior sword with supernatural powers derived from the Acala. In fact, a craftsman of Nakabashi-okemachi had first attributed a long, wooden sword to the Ohyama Afuri Shrine in proxy of Danjūrō.
著者
細谷 啓太 杉山 修一
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.85, no.3, pp.266-273, 2016-07-05 (Released:2016-07-26)
参考文献数
21
被引用文献数
2 3

無施肥栽培は収量の著しい低下を招くと考えられているが,長期間無施肥でも慣行栽培に匹敵する収量を安定的に生産している農家が存在する.本研究では,無施肥条件におけるイネの生育と収量成立過程を明らかにすることを目的とし,青森,岩手,宮城,新潟の計16の無施肥農家水田の収量と収量形成要因を解析した.2011年から2013年までの過去3年間の全国の無施肥農家水田の平均収量は約300 kg/10aだったが,一部の水田においては420~480 kg/10aの収量が毎年安定的に生産されていた.収量解析の結果,収量はm2当たり籾数に強く依存し,特に穂数との間には高い正の相関関係 (r=0.92***) が認められた.また,穂数と最も高い相関を示したのは移植日から出穂43日前までの日平均気温 (r=0.66**) であった.無施肥水田土壌を用いて異なる移植日でイネのポット栽培試験を行った結果,分げつ増加速度は日平均気温 (r=0.92***) と高い正の相関を示した.重回帰分析に基づくパス解析の結果,日平均気温が分げつ増加速度に与える影響は,気温の生育促進効果と,気温による土壌無機態窒素の供給増加効果がほぼ等しく貢献していることが分かった.これらのことから,北日本の無施肥栽培では栄養成長期の気温が高くなることを通じた穂数確保が高い収量を達成するために重要であることが示された.
著者
XING Yuqing 政策研究大学院大学 / National Graduate Institute for Policy Studies
出版者
GRIPS Policy Research Center
雑誌
GRIPS Discussion Papers
巻号頁・発行日
vol.22-12, 2023-03

Chinese processing exports use imported intermediates more intensively than its ordinary exports. The share of processing exports in the Chinese exports to high income countries is much higher than that to low income ones. That heterogeneity suggests that the domestic value added of Chinese processing exports differs from that of the ordinary exports, and the domestic value added of Chinese bilateral exports should vary across its trading partners. In this study I estimate the domestic value added of Chinese processing exports, ordinary exports, total exports and bilateral exports to 150 countries from 2004 to 2018, giving consideration to the heterogeneity. The estimates indicate that the domestic value added of processing exports was 30.1% in 2004, about 55 percentage points lower than that of ordinary exports. From 2004 to 2018, the domestic value added of total Chinese exports rose from 54.5% to 63.7%. However, the significant disparity in the domestic value added between processing and ordinary exports was persistent during the period. The domestic value added of Chinese exports also varied significantly across 150 trading partners. In 2004, it ranged from 39.5% to 84.1%. Generally, Chinese exports to developing countries were embedded with higher domestic value added than that to developed countries. Compared with the Chinese domestic value added reported by the OECD TiVA, the estimates of this study are 20 percentage lower on average.
著者
船間 芳憲
出版者
日本放射線技術学会
雑誌
日本放射線技術学会雑誌 (ISSN:03694305)
巻号頁・発行日
vol.67, no.11, pp.1461-1467, 2011-11-20

低線量で増加する画像ノイズ、X線量低減の有効策である低管電圧CTと逐次近似画像再構成法について概説する。
著者
Kunihiko Komatsu Takashi Sayama Ken-ichiro Yamashita Yoshitake Takada
出版者
Japanese Society of Breeding
雑誌
Breeding Science (ISSN:13447610)
巻号頁・発行日
pp.22098, (Released:2023-06-28)

To avoid crop failure because of climate change, soybean (Glycine max (L.) Merrill) cultivars adaptable to early planting are required in western Japan. Because current Japanese cultivars may not be adaptable, ge‍netic resources with high early-planting adaptability, and their genetic information must be developed. In the present study, summer type (ST) soybeans developed for early planting were used as plant materials. We examined their phenological characteristics and short reproductive period as an indicator of early planting adaptability and performed genetic studies. Biparental quantitative trait loci (QTL) analysis of a representative ST cultivar revealed a principal QTL for the reproductive period duration on chromosome 11. The results of resequencing analysis suggested that circadian clock-related Tof11 (soybean orthologue of PRR3) is a can‍didate QTL. Additionally, all 25 early planting-adaptable germplasms evaluated in this study possessed mutant alleles in Tof11, whereas 15 conventional cultivars only had wild-type alleles. These results suggest that mutant alleles in Tof11 are important genetic factors in the high adaptability to early planting of these soybeans, and thus, these alleles were acquired and accumulated in the ST soybean population.
著者
目良 和也 青山 正人 大道 博文 黒澤 義明 竹澤 寿幸
出版者
Japan Society for Fuzzy Theory and Intelligent Informatics
雑誌
知能と情報 (ISSN:13477986)
巻号頁・発行日
vol.32, no.6, pp.944-955, 2020-12-15 (Released:2020-12-15)
参考文献数
17

CGアバターによる遠隔コミュニケーションにおいてユーザの気持ちを的確に伝えるには,言語情報だけでなく,口調,表情,動作などのノンバーバル情報も重要である.CGアバターに基本感情を付与する研究はこれまでも行われているが,皮肉や照れ隠しのような本心を隠そうとしている表情を表現するための手法は確立されていない.そこで本論文では,顔部位の変化の随意不随意性に注目し,本心感情を不随意な顔部位の変化,演技感情を随意に動かせる顔部位の変化によって表現することで,外面と内面の感情を選択的に表現する手法を提案する.本論文ではツンデレ表情を想定し,本心感情を喜び,演技感情を平静あるいは怒りとした事例を用いて説明する.提案手法に基づいて作成した表情アニメーションについて印象評定を行った結果,不随意的な喜び顔部位である“頬の紅潮”が表出していることが「喜びを隠蔽しようとしている」という印象を強くしていた.一方,頬の紅潮の代わりに目や口など随意的な喜び顔部位を用いたところ,逆に「喜んでいるふりをしている」という印象を強くしていた.このことより,本心感情を不随意な顔部位の変化によって表出することで,内面の感情を選択的に表現できることが確認できた.
著者
野村 周平
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.14-26, 2018-03-05 (Released:2019-10-08)
参考文献数
5

我が国における昆虫学の状況の中で,昆虫形態学は体系学または系統学の中での存在感を失ってきたように見える.しかし一方で,昆虫形態を詳細に観察し,記録し,検討することのできるツールは着実に進化している.マイクロフォーカスX線CT(通称マイクロCT)は,昆虫の微細な内部形態を非破壊的に観察し,記録することのできる革新的な技術である.例えば,カブトムシの飛翔筋,セミの♂の発音器や♀の卵巣,また虫入りコハク中の昆虫化石までも,その形態を詳細に観察,記録することができる.昆虫の表面微細構造を観察する方法としては,走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope: SEM)がすでに普及している.しかし近年,乾燥試料ではなく,新鮮な(水分を多く含んだ),あるいは生きている試料さえSEM観察することのできるナノスーツ法®や,100,000倍以上のSEM観察を可能にする電界放出型SEM(FE-SEM)が登場してきた.これらはこれまで十分に研究されていない昆虫のサブセルラー(細胞未満の)構造をより自然な状態で観察することのできる強力なツールである.このような方法によって記録された昆虫内部の,または表面の微細構造の画像は,昆虫研究者ばかりでなく,昆虫の構造をヒントに新たな工学技術を開発しようとするバイオミメティクス(生物模倣技術または生物規範工学)の研究者にとっても極めて有益である.科学分野間の言葉の壁を超えて,このような昆虫の微細形態画像をきわめて簡便に比較解析するツールとして,「画像検索システム」が開発されつつある.これらの新しい技術を開発し,活用することによって昆虫形態学は,昆虫の進化をさらに研究し,よりよく理解する新たな時代の,大きな潮流となる可能性がある.
著者
田中 拓道 岩下 晋輔 金子 唯 辛島 龍一 入江 弘基 笠岡 俊志
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.20, no.6, pp.733-737, 2017-12-31 (Released:2017-12-31)
参考文献数
9

症例は34歳の女性でNeurofibromatosis 1(以下,NF1)の既往があり,呼吸困難を主訴に救急搬入された。来院後間もなくショック状態となり,左椎骨動脈破裂の診断で緊急カテーテル塞栓術を施行した。その後,止血したが脳死とされ得る状態となった。若年症例であり家族の希望から臓器移植のドナー適応があるか検討を行った。NF1に合併する全身血管の奇形や脆弱性が問題となり,臓器提供には踏み切れないとの判断に至った。その後,第21病日に死亡退院となった。NF1はvon Recklinghausen 病として知られる先天性疾患であり,血管奇形・脆弱性から血管破裂・出血をきたし,しばしば重篤なショック状態に陥る。NF1に伴う血管奇形は国内でも多く報告される。本例では出血性ショックおよび血管攣縮で脳幹虚血・梗塞から脳死とされ得る状態になったと考えられた。臓器移植適応も検討されたが臓器提供には踏み切れなかった。
著者
直海 俊一郎
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.136-142, 2023-06-25 (Released:2023-06-28)
参考文献数
11

『生物体系学』(直海 2002)で展開した体系学の構造論とは,「私が独自に創出した理論」ではなく,分類学と系統学が別学問に変わっていった時代(1970~1980年代)における,体系学の5分科の「実際上の構造」についての理論と,若干の齟齬はあるものの,基本的には再解釈できると考えている.体系学の構造論を論じた第1章第5節では,体系学を5分科(分類学,系統学,狭義体系学,分布学,生物地理学)から構成される学問ととらえ,それらの分科がどのような学問であるかを論じ定義し,そしてそれらの学問の目的と仕事を明らかにした.しかし,専門用語の適切な解説なしで論を進めていったので,実際的にわかりにくいと思われる.そこで,この小文では,体系学の構造論について若干の解説を行った.第1に,分類学と狭義体系学をよりわかりやすく解説した.分類学と狭義体系学の違いとは,それぞれが構築する分類体系の質の高さの違いであり,単に,「第1の分類学」と「第2の分類学」というふうに区別する方がよいように思われる.第2に,自然理解のために有用な体系学的情報の系統学と狭義体系学での分割管理,およびその実例について解説した.第3に,体系学における哲学的行為としての実体変換(「クラス変換」と「個物変換」)について解説した.分類学(および狭義体系学)と系統学では,取り上げられ議論の対象となる哲学的実体は異なっている.実体変換とは,論理的に一貫性のある実りの多い議論を行うために,その実体が取り上げられる分科に相応しい用語を選択することによって,実体をその分科に相応しい哲学的実体に変換するという哲学的行為である.
著者
井上 誠
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.54, no.9, pp.672-675, 2017-09-15 (Released:2017-11-01)
参考文献数
23
被引用文献数
1

リハビリテーションの分野において,電気刺激療法は鎮痛や筋力強化などの目的で古くから使用されてきた.筋力強化をめざした電気刺激療法は,脳血管疾患患者の摂食嚥下障害に対する理学療法として浸透してきたが,その効果に関するエビデンスはいまだ十分に得られていない.一方,筋力強化とは別に,感覚神経への刺激を通して,中枢神経系に働きかけることによって嚥下運動にかかわる中枢神経系の改善をめざした治療法もある.本稿では,電気刺激療法の種類や原理を紹介したうえで,中枢強化を目的とする電気刺激療法にも触れ,摂食嚥下障害への応用について,今後の展望と課題を解説する.
著者
吉田 匠 野田 聖 東城 幸治 竹中 將起
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.107-114, 2023-06-25 (Released:2023-06-28)
参考文献数
17

甑島列島は九州南西部に位置し,上甑島,中甑島,下甑島とそれらの周辺の小さな島々から成る.甑島列島は,最終氷期に形成された陸橋により九州島と接続したとされるが,多くの固有種が報告されている.これは,甑島列島において独自の生物相が形成されてきたためと考えられる.しかし,甑島列島では水生昆虫類の報告は少なく,本研究で着目したカゲロウ類に関する報告はない.そこで,甑島列島に生息するカゲロウ目昆虫を調査した.その結果,4科(Baetidae, Ephemeridae, Heptageniidae, Dipteromimidae)にわたる少なくとも5属7種のカゲロウ目昆虫を採集した(属種の同定ができなかったコカゲロウ科がBaetis属以外であれば6属となる).また,採集した甑島列島のカゲロウ類はすべて九州島との共通種であり,上甑島と下甑島で採集したカゲロウ相に違いはなかった.本報は,甑島列島におけるカゲロウ目昆虫類の最初の記録である.
著者
冨田 敬大
出版者
日本沙漠学会
雑誌
沙漠研究 (ISSN:09176985)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.17-24, 2023-06-30 (Released:2023-06-30)
参考文献数
20

モンゴル科学アカデミー地理学研究所の研究者たちは,1980年代に協同組合下の牧民の移動を調査し,その理論化を試みた.本稿ではこれらの研究成果のうち,『モンゴル人民共和国の牧民の移動』をもとに,社会主義時代の放牧地の利用・管理の特徴について検討する.彼らは,標高差や地形の違いを季節ごとに使い分ける牧畜システムを科学的に裏付け,自然条件および資源を完全に利用する「正しい」移動を明らかにしようとした.