著者
渡辺 俊
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

裁量労働制を採用している法人組織のメールサーバーのアクセスログの分析を通じて、今日の就業者は4種類の執務スタイル(保守型、時間流動型、空間流動型、ポスト定住型)に分類できることを確認した。さらに、アクセスログの詳細分析、およびWeb上のデータベースサービスと地理情報システムの活用を通じて、就労スタイルごとの時間分布・空間分布を明らかにするとともに、就業者ごとに執務行為の流動化の度合いを計測・比較可能な指標を提示した。
著者
森田 雅也
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

労働者の自律性を重視する「裁量労働的な働き方」は境界決定の自律性を制度的に保障しているが、その発揮のためには仕事遂行を支援する上司の行動が重要となる。また、境界決定の自律性を発揮している人はワーク・ライフ・バランスに関する満足度も高い。こうした働き方がワーク・ライフ・バランス施策として有効となり得る。裁量労働制がうまく機能している組織では、「適者適職」が徹底されており、そのために「自己規制の強い管理」が行われている。裁量労働的な働き方を組織に根付かせるためには、適用範囲をいたずらに拡大するより、適した仕事と適した人材を厳選し、「自己規制の強い管理」を行うことが重要となる。
著者
豊田 弘司 山田 陽平
出版者
奈良教育大学
雑誌
奈良教育大学紀要. 人文・社会科学 = Bulletin of Nara University of Education. 奈良教育大学 編 (ISSN:05472393)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.51-55, 2019-11

偶発記憶に及ぼす欲求階層構造に基づく符号化の効果 【日本語要旨】本研究は, Maslow(1962)による欲求階層構造に対応して偶発記憶成績が規定されるか否かを検討した。30名の参加者は,小冊子によって記銘リストが提示され,各ページに印刷された語(漢字1字)が示す対象に対して,生存欲求処理条件では「生きるために必要ですか?」,親和欲求処理条件では「人と親しくなるために必要ですか?」,快-不快処理条件では「どんな印象ですか?」に対して6段階評定(生存及び親和条件では,とても必要~全く必要でない;快-不快条件では良い感じ~嫌な感じ)で該当する数字を選択していった。このような方向づけ課題を行った後,挿入課題を行い,その後に偶発自由再生テストを実施した。その結果,全体の再生率においては生存欲求処理条件と親和欲求処理条件が快-不快処理条件よりも再生率が高かったが,生存欲求処理と親和欲求処理条件間に差はなかった。また,評定値が5及び6であった語(有効な精緻化がなされた語)の再生率においては,生存欲求処理条件が親和欲求処理条件よりも再生率が高かったが,他の条件間に差はなかった。これらの結果は,Nairneら(2007)が提唱するサバイバル処理(本研究における生存欲求処理)による符号化の有効性を示唆するとともに,Maslow(1962)の欲求階層構造に対応して記憶成績が規定される可能性を示唆した。
著者
Tomoka Ikeda Yuka Gion Tadashi Yoshino Yasuharu Sato
出版者
The Japanese Society for Lymphoreticular Tissue Research
雑誌
Journal of Clinical and Experimental Hematopathology (ISSN:13464280)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.64-71, 2019 (Released:2019-06-28)
参考文献数
53
被引用文献数
23 61

Epstein-Barr virus (EBV)-positive mucocutaneous ulcers (EBVMCUs) were first described as a lymphoproliferative disorder in 2010. Clinically, EBVMCUs are shallow, sharply circumscribed, unifocal mucosal or cutaneous ulcers that occur in immunosuppressed patients, including those with advanced age-associated immunosenescence, iatrogenic immunosuppression, primary immune disorders, and HIV/AIDS-associated immune deficiencies. In general, patients exhibit indolent disease progression and spontaneous regression. Histologically, EBVMCUs are characterized by the proliferation of EBV-positive, variable-sized, atypical B-cells. According to conventional histopathologic criteria, EBVMCUs may diagnosed as lymphomas. However, EBVMCUs are recognized as pseudomalignant lesions because they spontaneously regress without anti-cancer treatment. Therefore, overtreatment must be carefully avoided and multilateral differentiation is important. In this article, we reviewed previously reported EBVMCUs focusing on their clinical and pathological aspects in comparison with other EBV-positive B-cell neoplasms.
著者
坂上 貴之
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.92-105, 2002-03-30 (Released:2017-06-28)

行動分析学における行動経済学は、4つの研究の流れ、すなわち摂食行動についての生態学的アプローチ、伝統的経済心理学研究とトークンエコノミーでの経済分析、強化相対性についての量的定義の追求、そしてマッチングの法則の展開、から形成された。それは、強化の有効性についての新しい指標、実験.条件の手続き的理論的区別、選択行動の最適化理論という3つの主要な成果をもたらした。この最後のもっとも影響のある成果は徹底的および理論的行動主義に対する別の選択肢としての目的論的行動主義を促した。が、同時にそれは経済学から限定合理性と不確実性という2つの問題も引き継いだ。実験経済学と進化経済学はこれらの問題を克服しようとする2つの候補であり、両者ともその実験的理論的枠組みとしてゲーム分析的なアプローチを利用している。特に後者は行動分析にとって魅力ある研究領域である。なぜなら、それは限定合理性を含んだ進化ゲームと、生物学的枠組みとは異なる進化過程の多様な概念的アイデアを提供するからである。
著者
武井 〓朔 野村 哲
出版者
地学団体研究会
雑誌
地球科學 (ISSN:03666611)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.13-20, 2006-01-25
被引用文献数
2

関東山地と足尾山地とにはさまれた中新統堆積盆地を,前橋-熊谷堆積盆地と呼ぶことにする.この堆積盆地は,NW-SE方向に延び,幅30km前後,延長約100kmである.この堆積盆地は,そのほぼ中央部を通る鳥川-深谷線(断層)(新称)により,北帯と南帯とに分けられ,南帯ではさらに南縁部(下仁田構造帯や滑川帯)が識別できる.中新統は地表では大部分が南帯に分布するが,盆地北縁のすぐ北側にも小分布がある.中新統はその年代,層相,分布,構造などにもとづき,M-I(下部中新統),M-II(中部中新統下部),M-III(中部中新統〜上部中新統下部),およびM-IV(上部中新統上部)の4地層群に区分できる.地表の資料と,これまでに公表されている深坑井,地震探査などの資料をもとにして,この堆積盆地を横断する地下断面図を二つ作製した.その結果,地下構造についてつぎのような性格が明らかになった.まず北帯では中新統はほとんどM-IIIであり,北帯の南半部で層厚が大きく,構造は水平に近いが,北半部では北方向に向かって徐々に薄くなる.これに対し南帯ではM-I, M-II,およびM-IIIがみられる.このうちM-IとM-IIはその南側で厚く,北側に向かって薄くなる.いっぽうM-IIIは北側では厚いが,南側に向かって薄くなる.なお,M-IVは南帯の西部の地表に分布し,火山噴出堆積物からなる.堆積盆地の発達史に関しては,堆積は南縁帯から始まり,時代とともに堆積の中心が南から北へと移動したことがうかがえる.
著者
池上 健一郎
出版者
三田哲學會
雑誌
哲学 (ISSN:05632099)
巻号頁・発行日
vol.132, pp.309-341, 2014-03

特集 : 論集 美学・芸術学 : 美・芸術・感性をめぐる知のスパイラル(旋回)The symphonies of Anton Bruckner (1824‒1896) were evaluated both during his lifetime and subsequent to his death in terms of two opposing criteria : "absolute music" and "program music", terms that actually reflect aesthetic polemics. Especially since the 1980s, Bruckner scholarship has connected this dichotomy to methodological discussions of autonomic analysis and semantic interpretation. However, the methodological purism being undeniably at stake in both positions comes with the risk of misconceiving the multiple layers of Bruckner's symphonies.Hence my paper aims at demonstrating that both dimensions—the "purely musical" and the semantic—make up an inseparable unit in Bruckner's music. The third movement of his Ninth Symphony seems particularly suitable for this purpose, since Bruckner himself commented on its "content" on various occasions.By means of analysis, I seek to demonstrate how thematic ideas being integrated into a broader motivic network throughout the symphony are interlinked semantically. Remarkably, such "semantic networks" are strengthened through thematisch-motivische Arbeit, the technique which is commonly regarded as the "autonomous" principle. Along those lines, the culmination of the movement (mm.187ff.) gains a multidimensional character. In order to understand the related nature of Bruckner's "Doppeldasein"(Korte), the methodological purism ought to be overcome.
著者
安田 良子 栗原 俊之 篠原 靖司 伊坂 忠夫
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.345-352, 2021 (Released:2021-06-20)
参考文献数
34

〔目的〕本研究は大学野球選手のポジションにおける足部静的アライメントと動的バランス指標の特徴を明らかにし,これらの関連性を検討することを目的とした.〔対象と方法〕対象は大学野球選手106名(投手31名,野手75名)とした.足部静的アライメント指標は両足立位時の内側縦アーチ高率,第1趾・第5趾側角,開張角,足幅/足長比とし,動的バランス指標は重心安定化時間とした.〔結果〕投手と野手で両足の重心安定化時間に有意な差は認められなかったが,投手にのみステップ足の足幅および足幅/足長比と重心安定化時間に有意な正の相関関係を認めた.〔結語〕投手はステップ足接地後に前足部横アーチを剛体化することで,ステップ足にかかる荷重負荷を軽減し,安定させている可能性が示唆された.
著者
菊地 一郎
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.31, no.9, pp.555-565, 1958

(1) 工業の地域構造とはその地区工業間の動的な相互関係を包括する概念であると定義し,江東工業の地域構造の解明を試みた.研究方法として2段の分析方法をとつた.第1段は地域分類であり,第2段は工業の地域的発展過程の分析である.<br> (2) 地域分類の手段としてポテンシャル概念の導入による工業集積ポテンシャルの式を用い,生産力集積圏を業種別に求めることによつて江東地域を類型地区に分けた.それらは城東地区,本所深川地区および向島地区で,それぞれ重化学工,軽工業および雑工業部門によつて特色づけられている.<br> (3) 明治維新までの江東地域の土地利用は本所深川地区が町屋として,城東地区が農業地としてはつきり2分されていた.<br> (4) 本所深川地区では維新以後,かつて地積の地部分を占めていた寺社や武家屋敷が商工業地として利用される様になつた.そしてそれぞれ江東3大橋に通ずる道路に沿つて繁栄していた両国深川森下および門前仲町の商業地を中心として家内工業がさかんに行われてきた.またその頃になると問屋資本によるマニュファクチァーも恵まれた立地条件のもとに発達し,屈折を経ながら資本主義的生産による軽工業への道を歩み現代におよんでいる.<br> (5) 城東地区では,本所深川地区で生成された労働力が新たな産業資本による近代工業とくに重化学工業導入の基礎となり,この地区に存在した広大で安価な農地が工業用地としてその立地に重要な役割を果した.<br> (6) 向島地区も農業地から次第に工二業地に変質していつたが,その理由の1つは関東大震災を契機に一層工業化した本所深川地区および城東地区への下級労働者や下請零細工場が集まつてきたことによる.こうして今日の江東工業地域の地域構造の基盤がここに形成されるにいたつた.