著者
黄 智慧 宮永 國子
出版者
日本文化人類学会
雑誌
民族學研究 (ISSN:00215023)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.292-309, 1989-12-30

本稿は天理教の台湾における布教とその受容過程を分析対象とする。それは近代日本と外なる世界との接触の一環をなしている。まず教義面においては、天理教は世界宗教への志向を内面に備えていた。ところが台湾進出という宗教行動を促した政治・社会的要因を検討していく中で、日本人による布教と台湾人信者の受入れかたが注目される。特に戦後一時的に日本人布教師が引揚げた間に台湾人信者によって守られた信仰の形態が、どのように変化したかは興味深い問題である。天理教は戦後、神名や参拝の対象や儀式を変えることによって台湾の民間信仰と結合していたことが調査によって明らかとなった。しかし、その後再び台湾進出をめざす天理教は、台湾の民間信仰に同化されてしまう危機を覚えて民間信仰の要素を排除しようとしている。以下では、宗教的権威の問題も絡めつつ、他者との差異と同一性をいかに克服するかに焦点をあてて記述を展開していく。

2 0 0 0 OA 玉塵抄

出版者
巻号頁・発行日
vol.[2], 1597
著者
長濱 康弘
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.250-260, 2011-09-30 (Released:2012-10-13)
参考文献数
33

典型的なアルツハイマー病 (AD) は記憶障害で発症し, その後言語障害, 失行, 構成障害などが加わる経過をたどる。しかし実際は AD の臨床像は一様ではない。病理学的に AD であっても, 記憶以外の認知機能障害 (視空間機能, 言語, 遂行機能) が前景に立つ症候群が存在する。軽度認知障害 (MCI) においても同様で, 記憶障害を主体とする amnestic MCI の他に, 視空間障害や遂行機能障害を主体とする non-amnestic MCI が存在する。ゆえに AD, MCI を診療する時は幅広い認知機能を過不足なく評価する必要がある。     レビー小体型認知症 (DLB) では AD に比べて記憶障害が軽く, 注意・遂行機能障害と視空間障害が目立つ。AD が皮質型認知症であるのに対して, DLB は皮質下型と皮質型の特徴を併せ持つ皮質-皮質下型認知症である。たとえば時計描画のように簡易な検査でも AD と DLB の病態生理学的違いは反映される。AD では時計描画障害は側頭葉皮質機能不全による意味記憶障害に由来するのに対して, DLB では前頭葉-皮質下核回路機能不全による注意・覚醒調節障害や視空間注意障害に由来すると考えられる。このように, 認知症臨床では検査点数だけでなくその質的違いまで意識して患者と接することが重要である。
著者
Akinori HIDAKA Takio KURITA
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
IEICE Transactions on Information and Systems (ISSN:09168532)
巻号頁・発行日
vol.E99.D, no.11, pp.2734-2744, 2016-11-01 (Released:2016-11-01)
参考文献数
26
被引用文献数
1

Kernel discriminant analysis (KDA) is the mainstream approach of nonlinear discriminant analysis (NDA). Since it uses the kernel trick, KDA does not consider its nonlinear discriminant mapping explicitly. In this paper, another NDA approach where the nonlinear discriminant mapping is analytically given is developed. This study is based on the theory of optimal nonlinear discriminant analysis (ONDA) of which the nonlinear mapping is exactly expressed by using the Bayesian posterior probability. This theory indicates that various NDA can be derived by estimating the Bayesian posterior probability in ONDA with various estimation methods. Also, ONDA brings an insight about novel kernel functions, called discriminant kernel (DK), which is defined by also using the posterior probabilities. In this paper, several NDA and DK derived from ONDA with several posterior probability estimators are developed and evaluated. Given fine estimation methods of the Bayesian posterior probability, they give good discriminant spaces for visualization or classification.
著者
山吉 彩子
出版者
東京法令出版
雑誌
捜査研究 (ISSN:02868490)
巻号頁・発行日
vol.67, no.11, pp.22-30, 2018-11
著者
塚原 卓矢
出版者
京都薬科大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2015-08-28

GPR35の活性化は大腸上皮細胞の修復を促進し、さらに大腸炎を抑制することが判明した。その作用機序として、GiタンパクカップリングによるcAMP低下、フィブロネクチンおよびインテグリンα5発現亢進およびERK活性化作用を介すると推察された。一方、GPR40活性化はDSS誘起大腸炎の発生および治癒に対して保護作用を発揮することが判明した。この作用は、GLP-2産生の増大を介するものと推察される。これらの結果より、GPR35およびGPR40を代表とするGタンパク共役型脂質受容体は炎症性腸疾患の新規治療標的として有用であると考えられる。
著者
萩原 勇人
出版者
九州工業大学
巻号頁・発行日
2016-03

九州工業大学博士学位論文 学位記番号:工博甲第419号 学位授与年月日:平成28年3月25日
著者
小池 重夫 久野 由基一 森田 博行
出版者
The Japanese Society for Hygiene
雑誌
日本衛生学雑誌 (ISSN:00215082)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.510-515, 1982-06-30 (Released:2009-02-17)
参考文献数
26
被引用文献数
3 3

本実験では, シリカがウサギの肺マクロファージと腹腔内の多形核白血球の過酸化脂質の生成, 乳酸脱水素酵素の細胞外放出, ニトロブルーテトラゾリウム (NBT) の還元能に及ぼす影響を調べた。対照にはマクロファージ単独, あるいはコランダム (Al2O3) を選んだ。3mg/107cells のシリカを1時間, 肺マクロファージに捕食させると過酸化脂質-酸化された不飽和脂肪酸の分解産物であるマロニルジアルデヒドであらわす-が増量した。また, マクロファージ外に放出した乳酸脱水素酵素の活性は著明に亢進し, シリカが細胞膜を傷害したことを示している。シリカはコランダムに比べて顕著なNBTの還元能を示したが, これはシリカを捕食したマクロファージにスーパーオキシドの産生が亢進したことを示すものである。以上の結果はシリカは肺マクロファージに捕食されて, 過酸化脂質の生成を促進すると同時にスーパーオキシドの生成を亢進し, 細胞膜を傷害することを示している。
著者
酒井 ノブ子 篠原 冬
出版者
和洋女子大学
雑誌
大學紀要. 第2分冊, 家政系編 (ISSN:02893193)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.187-199, 1983-03-31

本報では, 中高年主婦の勤労観について, 緒言に記したような仮説を立て, 調査を試みた。その結果を要約すれば次の通りである。1) 中高年主婦の勤労観は, 本調査による限りでは, NHKの全年齢層を含む調査結果や, 著者らが行った女子青年層の調査結果と比較してみると, 女子青年層よりも意欲的で積極的な姿勢がみられたが, NHK調査の結果には及ばなかった。また, NHK調査の結果よりも自己実現志向型が多く, この点は女子青年層に近かった。さらに, 勤勉型も多かったが, NHK調査の結果にみられる程ではなく, かなり批判的な姿勢がみられた。2) 中高年主婦の中では, 中年主婦が高年主婦よりも意欲的で, また, 自己実現志向型が多かった。3) 同じく中高年主婦の中では, 有職者の方が無職者よりも意欲的で, 勤労を客観的に捉えているものが多かった。以上のように, この研究は, あくまで大都市圏にある二地区を選んでの事例研究に過ぎないが, この調査によって, ある程度, 中高年主婦の勤労観の特徴や傾向をつかむことができた。また, 仮説は一応検証できたと考えている。今後さらに, 中高年男女の勤労観の比較や, 老年男女の勤労観とその比較などについて研究を進め, 中高年主婦の勤労観についての特徴をさらに明白にしたいと考えている。
著者
小坂 丈予 小沢 竹二郎 松尾 禎士 平林 順一 大隅 多加志
出版者
Tokyo Geographical Society
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.94, no.6, pp.551-563, 1985-12-25 (Released:2009-11-12)
被引用文献数
5 5

The temperature of fumarolic gas ranged from 100 to 128 °C. These gas usually contained few HCl and SO2, and contained a small amount of H2S. These facts indicated that acidic gas components were absorbed into the aquifer during the cause of ascent. Hot springs may be classified into three types according to their chemical composition : 1) volcanic thermal water type ; 2) sea water type ; and 3) type of mixture of 1 and 2.δD and δ18O of waters collected from this island are high. The rocks from Iwo-jima are all trachy andesite with the SiO2 content of 54-58 %, and with the Na2O+K2O content of 9-10 %.
著者
青山 俊弘 山地 一禎 池田 大輔 行木 孝夫
出版者
Japan Society of Information and Knowledge
雑誌
情報知識学会誌 (ISSN:09171436)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.380-394, 2013-10-18
参考文献数
30

機関リポジトリでは,機関内で生成されたコンテンツが書誌情報からなるメタデータとともに保管され,インターネットを介して公開される.一方,機関内ウェブサイトでも,大学の研究者要覧や学部,研究室レベルでの業績一覧などで,機関リポジトリコンテンツのメタデータと重複した情報が公開されている.情報の同一性を担保したり,入力の煩雑な作業を軽減するためには,ある特定のサイトから入力された情報が,各々のサイトで共有できる仕組みの導入が不可欠である.本研究では,機関リポジトリを,そうした学内における業績情報の起点とするためのフレームワークの構築と実装を行った.提案システムでは,従来のリポジトリシステムのみの運用では行えなかった,機関リポジトリ設置者以外の手によるメタデータ設計,メタデータ入力を可能にした.これにより,機関リポジトリ外で専門的あるいは補足的な情報を機関リポジトリ内の基本的なメタデータに付加し,シームレスに公開するプライベートリポジトリが実現できる.このシステムによって,ウェブインターフェース上の操作のみで,機関リポジトリと連携したサプリメントファイルの公開や,研究者要覧等の自動生成,分野リポジトリの構築などを実現することができる.
著者
岡本 洋子 上村 芳枝 原田 良子 奥田 弘枝 木村 留美 杉山 寿美 渡部 佳美
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.24, 2012

【目的】平成21~23年日本調理科学会特別研究「調理文化の地域性と調理科学:行事食・儀礼食」データベースから、広島県に10年以上在住している回答者のデータを抽出し、広島県における行事食・儀礼食の実態を明らかにした。とくに本報告では、人日・節分・上巳の行事について、年代間および地区間の「認知と経験」「行事食の喫食状況」等の相異を調べることを目的とした。【方法】広島県10年以上在住者データ(625名)を、10~20歳代(学生;46.6%)と30歳代以上(一般:53.4%)、安芸地区(45.6%)と備後地区(50.9%)に分類した。年代間、地区間の喫食状況等の比較には、独立性の検定(カイ2乗検定)を用い、有意水準は1%未満および5%未満とした。行事食として、七草粥、いわし料理、いり豆、巻きずし、白酒、もち・菓子、ご飯・すし、はまぐり潮汁を取りあげた。【結果】(1)人日・節分・上巳行事の認知は、地区による相異はみられなかったが、経験では30歳代以上で地区間に有意差がみられ(p < 0.01)、備後地区の経験度が高かった。(2)七草粥、いわし料理、はまぐり潮汁の喫食状況では、10~20歳代において地区間に有意差がみられた。いわし料理は、30歳代以上において地区間に有意差がみられた。いずれも備後地区の喫食経験度が高い傾向がみられた。(3)認知と経験、喫食状況では、いずれの地区においても、年代間に相異がみられる行事食が多かった。(4)「行事食を家庭で作る」・「買う」では、いずれの地区においても年代間に有意差がみられる行事食が多く、行事食を家庭で作る機会が失われていることが示唆され、家庭内の調理担当者からその子や孫へと受け継がれた食文化が変容している状況がうかがえた。