著者
河上 強志 小濱 とも子 酒井 信夫 高木 規峰野 高橋 夏子 大嶋 直浩 田原 麻衣子 五十嵐 良明
雑誌
日本薬学会第141年会(広島)
巻号頁・発行日
2021-02-01

目的:感染防止対策としての家庭用マスクの重要性が認識されマスクを着用する機会が増加すると共に、皮膚の異常を訴える事例が報告されている。これらの事例の多くは摩擦や蒸れ等に起因すると考えられるものの、家庭用マスクに含まれる化学物質が皮膚炎の要因となる可能性がある。そこで、本調査ではホルムアルデヒド等の揮発性有機化合物(VOCs)、及び光感作性が報告されているベンゾフェノン系紫外線吸収剤について、家庭用マスク中の実態を調査したので報告する。方法:2020年4月~6月を中心に関東地方の小売店及びインターネットサイトで家庭用マスク及びマスク関連製品(マスクシート等)を91点購入した。その素材は、不織布、布及びポリウレタン等であった。VOCsのうちホルムアルデヒドは家庭用品規制法で用いられているアセチルアセトン法にて分析したが、不織布と抽出に使用する精製水との濡れ性を考慮し、溶出には20%(v/v)エタノール水溶液を用いた。その他のVOCsについては放散試験を実施し加熱脱着GC-MS法にてスクリーニング分析を実施した。ベンゾフェノン系紫外線吸収剤についてはウレタン製マスクを対象として、LC-MS/MSにて測定した。結果:ホルムアルデヒドについて、不織布製や布製マスクのいくつかの製品から家庭用品規制法の乳幼児製品の基準値(16 μg/g)を超えるホルムアルデヒドの溶出が確認された。東京都の2011年の報告では、不織布マスクからのホルムアルデヒドの溶出を報告しており、簡易樹脂加工識別試験により、ホルムアルデヒドの由来を検討している。我々も今後、ホルムアルデヒドの由来について同様に検討する予定である。また、紫外線吸収剤については19種類の一斉分析法を構築した。ポスターでは放散試験の結果と合わせて報告する。
著者
林 信太郎
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

ブラタモリとはどういう番組か?「ブラタモリ」は NHK総合テレビで2008年から放送されているエンターテインメント・教養番組で,その視聴率は時として15%を超える。タレントのタモリ(以下タモリさん)がNHKの若手アナウンサーとともに各地を“ブラブラ”歩きながら謎解きをし,様々な発見をする。また,「案内人」という解説者の問いかけにより番組が進行する。謎解きの「お題」には,しばしば地質学や地理学に関連したものが登場し,地球科学のアウトリーチに大きな効果を発揮している。講演者は「#81 十和田湖・奥入瀬~十和田湖は なぜ“神秘の湖”に?~」メインの案内人として登場した。「ブラタモリ」:私の印象と案内人の責任 私の印象:番組中で見せるタモリさんの地球科学に関する広い知識は本物と強く感じた。また,タモリさんの発見能力,対象をじっくりと思考する真摯な態度は,たいへん印象に残った。また,案内人の私にコンタクトを取る以前に,担当ディレクター(地球科学の非専門家)は,文献から得られる情報はほとんど調べつくしていた。 案内人の責任:案内人には番組の科学的妥当性を担保するという社会的責任がある。「ブラタモリ」は地球科学者の視聴率も高く,常に誤りがチェックされている。実際,「ブラタモリ」と同時進行で,ツイッターで批判的意見をつぶやく地球科学関係者は多いし,自分でもたいへんそれを楽しんでいる。しかし,自分が案内人の場合はそのプレッシャーがことごとく自分にかかってくるのである。 番組の正確性の担保のため,案内人は調査に多大な時間をかける。講演者の場合,十和田湖や奥入瀬に関連した書籍や論文を100編以上参照した。また,案内人はこの他にロケハンやリハーサルの作業にも付き合い,番組の正確性を担保する。現場の確認(ロケハン)のために合計4日間,現地での(タモリさん抜きでの)リハーサルや最終確認のために3日を要した。実験とブラタモリブラタモリの番組内ではしばしば実験が解説の手段として用いられる。「#81 十和田湖・奥入瀬~十和田湖は なぜ“神秘の湖”に?~」では,カルデラ湖のでき方をココアとコンデンスミルクを用いて説明した。ココアの山の中にコンデンスミルクで見立てたマグマを置き,それを下から抜き取ることでカルデラ陥没を起こすという実験である。この実験は小中学生を対象に何度も試行したことがある。これまでの授業経験から,言葉での説明や図解でカルデラのでき方を理解させることが難しいことはわかっていた。そのため,番組にこの実験は必須だった。視聴者やタモリさんに,カルデラのでき方について納得させるだけではなく,ココアでできたカルデラの形状の観察も番組のその後の部分に繋がった。ブラタモリで実験が採用されるための必要条件? じつは提案はしてみたが,番組に採用されなかった実験も多い。その1例として「パリパリ溶岩実験」がある。先端を溶融したガラス棒を水につけ水冷破砕させるという実験である。ブラタモリの他の回の番組で2度提案したが,どちらも不採用だった。 「パリパリ溶岩実験」不採用の理由として考えられることは,「パリパリ溶岩実験」は1)ビジュアル的に地味である,2)ガラスと水という素材はあまり印象的ではない,の2点が挙げられる。もちろん,単に番組の編集作業の過程で提示する時間がないため削られただけという可能性もある。ブラタモリとアウトリーチ地球科学分野におけるアウトリーチ活動は, 1)研究資金の獲得;2:後継者の育成;3:一般社会に認知してもらうことの3点で重要である(鎌田,2004)。そのために地球科学で得られた成果を科学者の側からわかりやすく発信していく必要がある。ブラタモリのアウトリーチ効果は2つある。第1にブラタモリは多くの国民が視聴し,科学者の努力では到達し得ない多くの国民へのアウトリーチが可能である。第2に科学者に対する教育効果が大きいことがあげられる。ディレクターは番組をわかりやすくするために徹底的に努力し,科学者の側はそこに啓発される。また,担当ディレクターとのやり取りの中で,わかりやすさと正確さを両立させる方法を体験的に学ぶことができる。 ブラタモリの案内人になることは,多大なエネルギーと時間を使うことである。しかしながら,その大きなアウトリーチ効果を考えると(声がかかった)研究者は積極的に応じるべきであろう。
著者
濁川 暁 石崎 泰男 亀谷 伸子 吉本 充宏 寺田 暁彦 上木 賢太 中村 賢太郎
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

Ⅰ.はじめに草津白根火山は,群馬・長野の県境に位置する国内有数の活動的火山であり,山頂部には2つの若い火砕丘群(北側の白根火砕丘群と南側の本白根火砕丘群)が形成されている.本火山は1882年以降19回の水蒸気噴火が発生しているが,いずれも北側の白根火砕丘群で発生している(気象庁;2005).これまでの研究(吉本ら;2013)から,草津白根火山では完新世の噴火様式が隣接する火砕丘で異なると考えられているが,特に本白根火砕丘群の噴火履歴の詳細は明らかになっていない.本研究は,本白根火砕丘群についての噴火履歴の解明を目的とする.今回は,火砕丘群の噴出物層序,全岩及びモード組成解析,山頂域噴出物と山麓テフラ層の対比,放射年代測定から明らかになった噴火履歴について報告する.Ⅱ.本白根火砕丘群構成物の産状本白根火砕丘群は,南北に並ぶ少なくとも4つの火砕丘から構成される.それらは,南から古本白根火砕丘(新称),新本白根火砕丘(新称),鏡池火砕丘,鏡池北火砕丘である(高橋ら,2010).古本白根,鏡池,鏡池北の各火砕丘の基底には溶岩流(それぞれ石津溶岩,殺生溶岩,振子沢溶岩)が見られ,その上位に火砕丘本体が載る.各火砕丘本体を構成する火砕岩(古本白根火砕岩,鏡池火砕岩,鏡池北火砕岩)は,成層構造が顕著な凝灰角礫岩として産する.また,古本白根火砕丘と鏡池火砕丘の本体には,それぞれ本白根溶岩ドームと鏡池溶岩ドームが陥入し噴出している.また,各火砕丘の表層部は,隣接する火砕丘の火口拡大期爆発により放出された火山弾により覆われている.東山麓では,国道292号線沿いの標高1780 m地点及び1570 m地点に本火山のテフラが良好に保存された露頭が見られる.この2露頭では,12L火山砂層(4.9 cal ka;吉本ら,2013)をはじめ,複数の示標テフラ層を同定し,他にも火山砂層や炭化材濃集層を複数層確認した(火山砂層と軽石層の名称は早川・由井(1989)に従う).鏡池火砕丘南東麓のガリー壁では,鏡池火砕丘本体の上位に白~灰色火山灰層と土壌層の互層が見られる.灰色火山灰層や土壌層には,計5層準(下位からKG1,…KG5層と呼ぶ)に火山弾が着弾している.Ⅲ.岩石学的特徴本白根火砕丘群の構成物の斑晶組合せは,大部分の岩石が斜長石+単斜輝石+斜方輝石±石英±カンラン石であるが(±;存在しないこともある),古本白根火砕岩及び本白根溶岩ドームでは角閃石が加わり,鏡池北火砕丘構成物では石英が欠けるなどの多様性も見られる.本白根火砕丘群の構成物の全岩SiO2量(wt.%)は,57.7~63.7 %の安山岩~デイサイトであり,SiO2-TiO2図では火砕丘毎及び噴火期毎に組成範囲と組成変化傾向が明瞭に区別される.また,各火砕丘本体の表層を覆う火山弾は,北側に隣接する火砕丘構成物の全岩組成とほぼ一致する.Ⅳ.本白根火砕丘群の形成過程と噴火履歴全岩組成による山頂域噴出物と山麓テフラの対比を行った結果,鏡池火砕丘構成物の全岩及びモード組成が山麓部の12L火山砂層の本質物の全岩・モード組成とほぼ一致した.したがって,鏡池火砕丘の活動は12L層の形成年代と同時期の約5000年前に起こったと結論される.また,鏡池火砕丘本体の上位の火山弾着弾層のうち,KG2層とKG5層の火山弾は,各々鏡池と鏡池北火砕丘構成物と同じ岩石学的特徴をもち,これらの火砕丘頂部の火口の拡大時に放出された可能性がある.KG5層直下の黒ボクの年代(1.5~1.4 cal. ka)から,約1500年前まで鏡池北火砕丘で活動が起きていたようである.また,各火砕丘の表層部に北側に隣接する火砕丘に由来する火山弾が見られることから,本白根火砕丘群の活動は,古本白根火砕丘,新本白根火砕丘,鏡池火砕丘,鏡池北火砕丘の順に,南から北へと変遷したと推測される.本白根火砕丘群のうち,鏡池北火砕丘またはその火口が形成された年代は約1500年前であり,本白根火砕丘群では,これまで推定されていた活動年代よりも最近までマグマ噴火が起きていたことが明らかになった.本研究の年代測定には2014年度(株)パレオ・ラボ研究助成,調査費用には2014年度地震火山災害軽減公募研究助成を使用した.記して感謝申し上げます.
著者
尾方 隆幸
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

ブラタモリは,地理学的事象や地質学的事象をわかりやすく学ぶ機会を一般市民に提供し,地球科学の裾野を広げることによって,アウトリーチや生涯学習に高く貢献している。番組で扱われるストーリーは地理学や地質学のトピックスを多く含んでおり,それらが文学・農学・工学など,地球科学以外のトピックスともシームレスに連結している。地球科学のストーリー(ジオストーリー)をシームレスに構築する試みはジオパークでも盛んになされており,地球科学のアウトリーチにおいては重要な手法である。ジオストーリーを構築するにあたっては,数多くの科学的なデータに基づき,多彩なトピックスを精選する必要がある。ブラタモリで扱われる地球科学のトピックスに接するのは,一般市民だけではなく,地球科学の研究者や教育者も同様である。われわれ地球科学者は,自らの専門分野が番組でどのように扱われるかをチェックしており,同時に自らの専門分野が隣接分野とどのように繋がっているかを知る機会を得ている。ブラタモリのストーリーにみられる総合性とシームレス性は地球科学の教育・アウトリーチや科学コミュニケーションに対してあらゆる示唆を与えているが,それらは科学性を担保する案内人,科学的内容をわかりやすく伝える高い技術を持つ番組制作者,そして主役であるタモリ氏の高い教養に支えられている。
著者
芝池 諭人 佐々木 貴教 井田 茂
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2014年大会
巻号頁・発行日
2014-04-07

冥王代すなわち約 40 億年前より以前にできた岩体は世界中のどこにも見つかっていない。しかし近年、冥王代の放射性年代をもつジルコンを含む堆積岩が発見され、冥王代にはすでに大陸地殻があったと考えられるようになった。この大陸地殻は、いったいなぜ消えてしまったのだろうか。消失の原因として冥王代末期の天体衝突の集中「後期重爆撃」による破壊や溶融が挙げられるが、定量的な推定はあまりなされていない。本研究ではこれを解析的に計算する式を導出し、後期重爆撃によって大陸地殻の消失を説明することが困難であることを明らかにした。具体的には、後期重爆撃を Cataclysm, Soft-Cataclysm, Standard の三つのモデルで表し、冥王代の大陸地殻が掘削される量と溶融する量を推定した。推定方法は、 以下の通りである。まずは、月面の巨大衝突盆地(Cataclysmモデル)のデータと、力学的数値シミュレー ション(Soft-Cataclysmモデル)および月面のクレーター数密度(Standardモデル)を定式化したものから、小惑星のサイズ分布を考慮して後期重爆撃の規模を推定した。小惑星のサイズ分布は、実際の観測によって与えられた分布を累乗近似し、ベキ指数をパラメーターとした。このベキ指数によって、結果は大きく変化する。そして最後に、クレーターのスケーリング則を用いて、大陸地殻の破壊と溶融を推定した。推定される量は、総掘削体積、総溶融体積、掘削および溶融領域による地球表面のカバー率、の四つである。結果としては、後期重爆撃のいずれのモデルであっても、いくつかの巨大衝突によって大陸成長曲線と同程度の体積を溶融する可能性はあるが、溶融領域が地球表面を覆うことはできないとわかった。冥王代の大陸地殻は地球表面に点在していたと想像されるため、これら全てが溶融されるとは考えにくい。すなわち、 後期重爆撃によって冥王代の岩体の消失を説明することは困難である。
著者
塩崎 一郎 河合 隆行 野口 竜也 齊藤 忠臣
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2014年大会
巻号頁・発行日
2014-04-07

鳥取砂丘の起伏の象徴である馬の背,その南側の凹地に季節によりその姿を変化させるオアシスがある.このオアシスはいつもみられるわけではなく,夏季には消滅する.また,オアシス凹地へは絶え間なく地表を流れて注がれる流入水が存在しているが,オアシスが存在していないときには,流入水は尻無川となっている.はたして,このオアシスが如何なるメカニズムで発生・消滅しているのだろうか.すなわち,この流入水はどこからきて,どこへ流出するのだろうか.このオアシス湧水に関する問いかけは,古くからの学術的関心であり,例えば、砂丘に降った雨水が地下水となり,一部が泉となって地表に再び表れるという考え方(赤木,1991),保水性の良くない砂丘砂に浸透した雨水が、水を通さない基盤岩の不透水層や透水性の悪い火山灰層の付近に地下水として貯留し、これが湧水となるという考え方(財団法人自然美化管理財団、1995)、近年では、オアシスの形成と砂丘南側に位置する多鯰ケ池の水位変化の関連性を調べた研究(星見,2009)などの知見が既に提出されている. 一方で,学術的に高い価値を有している鳥取砂丘の自然環境は,その自然状態を保全・維持しつつ後世に継承されることが強く望まれているため,砂丘内の自然環境に人為的な影響が生じないよう厳しく管理されており,井戸などの人工物の設置や大型測器による地下水位探査が事実上不可能である.このような理由から,現在に至るまで十分な調査が成されておらず,オアシスの発生・消滅メカニズムを定量的に解明する目的で行われた研究はなく,まだ結論は出ていない. 本研究はこの問いに答える目的のために,すなわち,砂丘内湧水(オアシス)の起源を探るために鳥取砂丘の地下構造と地下水大循環に関する研究を実施した.すなわち,様々な非破壊的な物理探査法を用いて砂丘の地下構造を推定し,地下水の存在形態や流動様式,砂丘の基盤構造などに関する基礎データを得ると共に,水文学的な手法も用いてオアシス湧水の起源ならびに定量的な消長メカニズムの解明を試みた.ここで用いた具体的な方法論は後節に譲るが,概略として,前者の地下構造推定のためには,電気比抵抗映像法,1m深地温探査法,自然電位法,微動探査法,重力探査法を適用し,後者のために,オアシス水に関する水位連続観測ならびに蒸発量解析,オアシス域およびその周辺域の地下水位調査,降水ならびにオアシス湧水と多鯰ヶ池の採水データの安定同位体比解析を導入した.なお,前者の用途においては観測地点の位置や砂丘域全体の地形を把握するためにデファレンシャル法を用いたGPS測量を行い,後者の用途ではオアシス水域およびその周辺の微地形把握のためのトータルステーションを用いた測量を実施した. その結果,鳥取砂丘の地下構造と砂丘内湧水(オアシス)の起源に関して,次に示すようなひとつの結論を得た.「雨水が砂丘砂に浸透し,地下水となる.その一部は火山灰層を主体とする帯水層に導かれ(宙水として)オアシス湧水へ注がれる.オアシス湧水は馬の背の地下を超えて海へ注がれる.オアシス湧水と多鯰ヶ池の水には同時刻的・直接的関連はみられない.また,鳥取砂丘(観光砂丘)全域の大局的な地下水分布は地下構造解析から推定された基盤形状の起伏と関連がみられる.」本研究によりこれらのことが砂丘の地下構造や水位変化,同位体変化などの定量的な観測値から検証されたことに意義があると考えられる.ここではこのような研究の基礎となる学術的背景と調査の概要,複数の調査結果とその解釈,そして,全体を統括したまとめを報告する. なお,本稿で報告されるデータは主に平成21年度?平成23年度に交付を受けた鳥取県環境学術研究振興事業「鳥取砂丘の地下構造と地下水大循環に関する研究-砂丘内湧水(オアシス)の起源を探る-」の一環として取り組まれた種々の研究により取得されたものであることを明記する.
著者
松野 哲男 巽 好幸 島 伸和 鈴木 桂子 市原 寛 清杉 孝司 中岡 礼奈 清水 賢 佐野 守 井和丸 光 両角 春寿 杉岡 裕子 中東 和夫 山本 揚二朗 林 和輝 西村 公宏 古川 優和 堀内 美咲 仲田 大地 中村 崚登 廣瀬 時 瀬戸 康友 大重 厚博 滝沢 秀明 千葉 達朗 小平 秀一
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

We started integrated marine investigations of Kikai Caldera with T/S Fukae-maru of Kobe University on October, 2016. Aims of our investigations are to reveal the structure of the caldera, the existence of magma reservoir, and to understand the mechanism of catastrophic caldera-forming eruption at 7.3 ka and a potential for a future catastrophic eruption. We conducted multi-beam echo sounder mapping, multi-channel seismic reflection (MCS) surveys, remotely operated vehicle (ROV) observations, rock sampling by dredging and diving, geophysical sub-seafloor imaging with ocean bottom seismometers, electro-magnetometers (OBEMs), some of which equip absolute pressure gauge, ocean-bottom magnetometers, and surface geomagnetic surveys.The first finding of our investigations is lines of evidence for creation of a giant rhyolite lava dome (~32 km3) after the caldera collapse. This dome is still active as water column anomalies accompanied by bubbling from its surface are observed by the water column mapping. Chemical characteristics of dome-forming rhyolites akin to those of presently active small volcanic cones are different from those of supereruption. The voluminous post-caldera activity is thus not caused simply by squeezing the remnant of syn-caldera magma but may tap a magma system that has evolved both chemically and physically since the 7.3-ka supereruption.We have been conducting integrated analyses of our data set, and have planned the fourth research cruise with T/S Fukae-maru on March, 2018, consisting of MCS survey, ROV observation, OBEM with absolute pressure gauge observation, and bathymetric and surface geomagnetic survey. We will introduce results of the data analyses and the upcoming cruise in the presentation.
著者
小野﨑 晴佳 小野 貴大 飯澤 勇信 阿部 善也 中井 泉 足立 光司 五十嵐 康人 大浦 泰嗣 海老原 充 宮坂 貴文 中村 尚 鶴田 治雄 森口 祐一
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

2011年3月11日の東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所の事故により,膨大な量の放射性物質が環境中に放出された。大気中に放出された放射性物質の一形態として,「Csボール」と呼ばれる放射性Csを含む球状微粒子が注目を集めている。Csボールは2011年3月14日から15日にかけてつくば市内で捕集されたエアロゾル中から初めて発見され1),燃料由来の核分裂生成物を含む非水溶性のガラス状物質であることが明らかとなっている2)。近年の調査により,同様の放射性粒子が福島県内の土壌3)を始めとする様々な環境試料中に幅広く存在することが示唆されているが,東京を含む関東地方における飛散状況は明らかではない。そこで本研究では,SPM(浮遊粒子状物質)が捕集された関東地方の複数の大気汚染常時監視測定局でのテープ濾紙を試料4)として,放射性エアロゾルの分離を行い,その化学・物理的性状を非破壊で分析した。SPring-8の放射光マイクロビームX線をプローブとして,蛍光X線分析法(SR-µ-XRF)により粒子の化学組成を,X線吸収端近傍構造分析(SR-µ-XANES)およびX線回折分析法(SR-µ-XRD)により化学状態を調べた。 本研究でSPM濾紙試料から分離された放射性粒子は,いずれも直径1 µm前後の球形という共通した物理的性状を有していた。134Cs/137Cs放射能比(約1.0)に基づき,これらの粒子は福島第一原発2号機または3号機から放出されたと予想される。これらの性状は,先行研究1,2)で報告されたCsボールの性状とよく一致しているが,約2 µmとされるCsボールに比べて直径がやや小さい。SR-µ-XRFにより,全ての粒子から核燃料の核分裂生成物由来とも考えられる様々な重元素(Rb, Mo, Sn, Sb, Te, Cs, Ba etc.)が共通して検出され,いくつかの粒子は微量のUを含むことが明らかとなった。さらに我々は粒子から検出された4種類の金属元素(Fe,Zn,Mo,Sn)についてSR-µ-XANESから化学状態を調べたが,いずれの分析結果も高酸化数のガラス状態で存在することを示唆していた。またSR-µ-XRDからも,これらの粒子が非晶質であることが確かめられた。このように,関東地方のSPM濾紙から採取された粒子とCsボールの間に化学的・物理的性状の明確な類似性が見られたことから,我々は3月15日の時点で関東広域にCsボールと同等の放射性物質が飛来していたと結論付けた。同時にこれらの分析結果は,燃料由来の可能性があるUが事故直後の時点で関東の広い範囲にまで到達していたことを実証するものである。当日の発表では,流跡線解析による放出時間・飛散経路の推定を通じて,関東地方へのCsボールの飛散について多角的な考察を行う予定である。謝辞:SPM計テープ濾紙を提供してくださった全ての自治体に感謝します。1) K. Adachi et al.: Sci. Rep. 3, 2554 (2013).2) Y. Abe et al.: Anal. Chem. 86, 8521 (2014).3) Y. Satou et al.: Anthropocene 14, 71 (2016).4) H. Tsuruta et al.: Sci. Rep. 4, 6717 (2014).
著者
榊 剛史 鳥海 不二夫
出版者
人工知能学会
雑誌
2018年度人工知能学会全国大会(第32回)
巻号頁・発行日
2018-04-12

フェイクニュースや炎上,エコチェンバー現象など,近年は個人による情報発信における負の側面が注目されている.我々は,それらの現象を引き起こす原因の一つとして,ソーシャルポルノという仮説を提案する.ソーシャルポルノとは,「特定のコミュニティに属するユーザが、脊髄反射的に拡散・共有してしまいたくなる情報」を意味する.本論文では,ソーシャルポルノの観測を行う前段階として,ユーザ反応時間という尺度を定義し,いくつかのツイートについて,ユーザ反応時間分布の違いを考察した.結果として,特定のコミュニティのユーザが拡散する投稿とランダム抽出した投稿には,ユーザ反応時間の分布に違いが生じる可能性が示唆された.
著者
高坂 宥輝 日置 幸介
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

2011年東北沖地震を契機に、大地震の前兆が地球の超高層大気である電離圏の全電子数(Total Electron content、TEC)変化として直前に現れることが、GNSS(Global Navigation Satellite System)衛星の2周波マイクロ波の位相差から見いだされた(Heki, 2011)。その後の数多くの地震前後のTECデータの解析により観測事実は充実していったが(e.g. He & Heki, 2017)、原因となる物理過程に関しては未解明な部分が多い。この前兆の存在は、本格的な断層滑りが始まる前に地震の最終的なサイズがある程度決まっていることを示唆し、地震学的にも重要である。現在考えられている地震直前のTEC変化のシナリオは以下のようなものである。地震直前に断層を一方の端から侵食(弱化)する過程が起こる際に、微小な割目や食い違いが岩石中に生じる。そこで過酸化架橋と呼ばれる格子欠陥が切断されて生じた電子の空隙(正孔)が電子の移動とともに岩石中を移動し、互いの反発によって拡散した結果地表に蓄積する。蓄積した正孔は大気中に上向き電場を作り、地震断層が大きい場合電場は超高層大気に達する。電離圏内では磁力線に沿った電気抵抗が極めて小さいため、磁力線に沿って荷電粒子が移動してその方向の外部電場を打ち消す誘導電場が生じる。その過程で震源上空の電離圏下端の電子密度が上昇し、逆に高高度の電離圏では電子密度が減少する。この構造は電離圏トモグラフィーで推定した2015年Illapel地震直前の電子密度異常の3次元構造からも支持される(He and Heki, 2018)。本研究では地震直前TEC変化の物理過程の解明に向けて、地震直前直後のTEC変化を、前兆が認められた18の地震(Mw7.3-9.2)について比較し、それらの間のスケーリング則を議論する。またそれらをスタックしたTEC変化標準曲線を導出し、物理過程のヒントを探す。上述のシナリオから考えると、地震とともに応力が解放され、新たな食い違いや割れ目の発生が起こらなくなると、地表の正電荷蓄積も停止し、TEC異常の成長も頭打ちになるだろう。導出した標準曲線から、地震発生時から音波擾乱が生じる約十分後までの間は、予測どおりTECは増加せず、ほぼ一定で推移することが示唆された。またTEC異常の蓄積曲線は地域性を持つ可能性がある。陸域に対する海域の割合が大きい地域の地震では、電気伝導度の高い海水中の電荷拡散が速く、電荷が地表に蓄積しにくい。そのためTEC異常の成長も早期に定常状態になるだろう。逆に陸域では電荷の消散が遅く、地震まで継続してTEC異常が成長するかも知れない。TEC標準曲線と各々の地震におけるTEC変化曲線との形の比較から、一見かなり違って見える各地震の地震前TEC上昇曲線の形の差異は小さく、地域性はそれほど顕著ではないことが示唆された。
著者
尾方 隆幸
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

地球科学のアウトリーチにおいて,ジオストーリーの有効性が注目され始めている。ジオストーリーに基づく地球科学的な解説は,学校教育,生涯教育,ジオパークなどのさまざまな場面で有効であるが,科学性とわかりやすさを両立させることは簡単ではない。しかし,地球科学者とメディア制作の専門家が共同作業を行い,この問題を追求することで,良質のジオストーリーを生み出す可能性が拓ける。その事例として,NHKの人気番組「ブラタモリ」の沖縄・首里編(2016年2月27日放送)を取り上げる。この回では,世界文化遺産「琉球王国のグスク及び関連遺産群」に登録されている首里城跡とその城下町をフィールドに,サイトを巡りながら,地史学的テーマ,地形学的テーマ,水文学的テーマ,さらには世界遺産としての歴史・文化に関するテーマを組み合わせ,ストーリーを構築した。ストーリーの構築にあたっては,科学性の確保だけではなく,それぞれのテーマのシームレス性を重視した。こうした工夫は,さまざまな場面での地球科学のアウトリーチに応用できるものといえる。
著者
藤原 智 宇根 寛 中埜 貴元 矢来 博司 小林 知勝 森下 遊
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

1.はじめに 2016年熊本地震(M7.3)について「だいち2号」(ALOS-2)のSARデータを用いてその変位を面的に検出している。これらの地表変位の大部分は震源断層の断層運動で説明できるものの、震源断層から離れた場所で断層運動を示唆する線状の変位(リニアメント)が数多く見つかっている(Fujiwara et al., 2016)。 こうした特徴的な変位は、2018年6月の大阪府北部の地震(M6.1)や2018年北海道胆振東部地震(M6.7)でも捉えられており、それぞれの地震で現れた変位の数や変位量等は異なるものの、周辺状況から大地震に付随して発生した「お付き合い地震断層」と呼ぶべきものとなっている。 本講演では、これらのお付き合い地震断層の特徴について報告する。2.お付き合い地震断層に共通する特徴 お付き合い地震断層は、寒川他(1985)が駿河湾西岸南部地域の活断層について示したもので、単独に活動して大きな地震を引き起こしたものではなく、他の大きな地震の結果として断層が動いたもの、という考え方である。 これらのお付き合い地震断層に共通な特徴には下記が挙げられる。(1) 標準的な長さは数kmで、直線もしくはゆるやかな曲線状の変位が連続しており、断層を挟む変位量は数cmから数10cm程度である。(2) 震源断層から離れており、震源断層そのものや直接の分岐断層である可能性は低い。(3) 大きな地震動を出したとする証拠は確認されていない。(4) 自ら動かずに、受動的に動かされたと考えられ、大きな地震の原因ではなく結果としての断層変位が生じたと考えられる。(5) 地形と変位分布に相関があり、その地形的特徴から「活断層」と認識されていたものもあるため、過去から類似の運動が蓄積している可能性がある。(6) 走向や変位の向きは周辺の応力場と整合的である。3.地震毎の特徴3-1)2016年熊本地震(1) 全体で約230本のお付き合い地震断層が確認されており、検出された数が桁違いに多い。(2) 変位の形態は正断層が大部分を占める。(3) 場所ごとに、複数の断層の走向・間隔・深度・変位の向き・変位量等がほぼ一定で揃った「群」を形成している。(4) 九州中部の別府湾から雲仙にかけて、類似した形状の正断層群がいくつか存在しており、九州中部では、類似したお付き合い地震断層が発生してきている可能性がある。(5) 熊本地震の震源断層となった布田川断層帯・日奈久断層帯の断層モデルによるΔCFFでは、お付き合い地震断層の変位の成因を説明できない。3-2)2018年6月18日大阪府北部の地震(1) 有馬-高槻断層帯の真上断層と一致する場所でお付き合い地震断層が認められた。真上断層は1596年慶長伏見地震(M7.5)での変位が確認されている。(2) 右ずれ成分が卓越しているが、地表までずれが到達しているのではなく、ずれ成分の変位は数百mほどの幅をもって広がっている。(3) お付き合い地震断層直上では、南落ちの縦ずれ成分が見られる。(4) 地震前の長期の観測によれば、お付き合い地震断層を含むやや広い範囲が継続的に沈降している。(5) 大阪府北部の地震の本震による地殻変動はお付き合い地震断層以外でも小さく、最大でも数cm程度である。3-3)2018年北海道胆振東部地震(1) お付き合い地震断層を挟んで東西短縮の変位を示し、上下成分はほとんどない。このことから、低角逆断層を形成していることが推定される。(2) 地表面でのトレースが直線ではなく、地形に沿うようなやや複雑な曲線となっており、上記の低角逆断層の性質と整合的である。(3) 現時点で、お付き合い地震断層付近は活断層とは認定されていない。(4) 地震波探査(横倉他,2014)でお付き合い地震断層直下にずれが認められており、伏在断層として存在している可能性がある。
著者
山本 悠真 ジェンキンズ ロバート
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

陸上植物は,地球上での重要な炭素貯蔵庫であるが,その構成成分であるセルロースやリグニンは難分解性の有機物であり,光合成によって固定された炭素がそのまま地層中に埋没しやすい.海洋に流出した材はフナクイムシをはじめとした木材穿孔性二枚貝などの材食者によって分解されることが知られている.木材穿孔性二枚貝はヤスリ状の殻で材を小片化し,また,共生微生物を利用してセルロースを分解する.特に深海性の穿孔貝であるキクイガイ類の場合は海底で材を分解する.木材穿孔性二枚貝は木の周囲に分解産物をまき散らすため,材周囲に沈木群集と呼ばれる生態系が形成されることがある.沈木群集には有機物の分解によって生成される硫化水素をエネルギー源とした化学合成生態系が含まれることもある.木材穿孔性二枚貝は前期ジュラ紀に出現し,当時は木を住処として利用しており,ジュラ紀末に木を餌資源として利用するようになった.また,穿孔性二枚貝は白亜紀に多様化した.しかし,白亜紀の海での穿孔性二枚貝の穿孔による木の分解過程は明らかにされていない.そこで本研究では日本の北海道中川町に分布する白亜系蝦夷層群から産出する化石を用い,海での木の分解過程を復元することを目的とした.計67個の炭酸塩コンクリーションを中川町の白亜系露出域から採集し,実験室に持ち帰って表面の観察,切断研磨面および薄片の観察,X線CT撮影,含有無脊椎動物化石のクリーニングなどを実施した採集したサンプルの内約70%に材化石が含まれていた.そのうちの約34%に材への穿孔痕が認められた.穿孔痕壁面の詳細観察により穿孔痕形成者はキクイガイ類などの深海種の木材穿孔性二枚貝だと推定できた.穿孔痕内に硫酸還元菌の活動を示すフランボイド状パイライトの密集が多く見つかった.材化石中や材化石の周囲にパイライトの密集が見つかった.木の周囲にペレットが密集して存在し,その一部には小片化した材が含まれていた.以上の観察事実を総合すると,白亜紀の蝦夷海盆の深海帯においては,少なくとも3割程度の材が深海性穿孔貝と硫酸還元菌による分解を被っていたことが明らかとなった.
著者
杉田 精司 巽 瑛理 長谷川 直 鈴木 雄大 上吉原 弘明 本田 理恵 亀田 真吾 諸田 智克 本田 親寿 神山 徹 山田 学 早川 雅彦 横田 康弘 坂谷 尚哉 鈴木 秀彦 小川 和律 澤田 弘崇
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

リュウグウの近接観測の本番が目前に迫っている。これに備えて、我々は3つの重要な準備を進めている。1) 低アルベド小惑星の可視スペクトルの見直し。2)リュウグウの地上観測スペクトルの解析とメインベル小惑星との比較。3)可視分光カメラONC-Tのスペクトル校正観測。本講演では、これらについて簡潔に紹介する。 まず、メインベルトの低アルベド小惑星のスペクトル解析である。先駆的な小惑星のスペクトルのサーベイ観測であるECAS(Tedesco et al.,1982)の後、地上望遠鏡による多バンド分光のSDSS(Ivezic et al. 2001)、地上望遠鏡のよる連続スペクトルのデータベースであるSMASS2の整備(Bus and Binzel, 2002)、天文衛星WISE/NEOWISEによる多バンド分光のデータベース(Masiero et al. 2011)など多数の強力な小惑星のスペクトルのデータベースが整備されてきた。特に、SDSS やWISE/NEOWISEによって膨大な数がある小さな小惑星のスペクトルアルベドの分布が定量的に計測されたおかげで、RyuguやBennuが由来するメインベルト内帯の低アルベド族の分布については最近に大きな理解の進展があった。まず、以前にNysa族と言われていた族は、E型スペクトルのNysa族の中にF型(or Cb~B型)のPolana族とEulalia族が隠れていることが明らかになった。さらにPolana族とEulalia族は形成時期が古くて広範囲に破片を分布させており、ν6共鳴帯にも多くの1kmクラスの破片を供給していることが分かった。その一方で、より若いErigone, Klio, Clarrisaなどのぞくはずっと若いため、ν6共鳴帯への大きな破片の供給は限定的であることが分かってきた。この事実に基づいて、Bottke et al. (2015)はRyuguもBennuもPolana族由来であると推論している。 このようにSDSS やWISE/NEOWISEのデータは極めて強力であるが、0.7μmのバンドを持たないため、広義のC型小惑星のサブタイプの分類には適さない。その点、ECASは、小惑星スペクトル観測に特化しているだけあって0.7μmのバンドの捕捉は適切になされている。しかし、ECASではあまり多くのC型小惑星が観測されなかったという欠点がある。そのため、現時点ではSMASS2のデータが広義C型のスペクトル解析に適している。そこで、我々はSMASS2の中の広義のC型の主成分解析を行った。紙面の関係で詳細は割愛するが、その結果はCg, C, Cb, Bなど0.7μm吸収を持たないサブタイプからなる大クラスターと、Ch, Cghなど0.7μm吸収を持つサブタイプからなる大クラスターに2分され、両者の間にPC空間上の大きな分離が見られること、またこの分離域はPC空間上で一直線をなすことが分かった。この2大クラスターに分離する事実は、Vernazza et al. (2017)などが主張するBCGタイプがCgh, Chと本質的に異なる起源を持っていて水質変成すら受けていない極めて始源的な物質からなるとの仮説と調和的であり、大変興味深い。 これに引き続き、世界中の大望遠鏡が蓄積してきた23本のRyuguの可視スペクトルをコンパイルして、SMASS2と同じ土俵で主成分解析に掛けた。その結果は、Ryuguの全てのスペクトルがBCGクラスターに中に位置しており、その分布は2大クラスターの分離線に平行であった。これはRyuguが極めて始源的な物質であることの現れかもしれず、BCGクラスター仮説の検証に役立つ可能性を示唆する。 しかし、現実は単純ではない。Murchison隕石の加熱実験で得られたスペクトルもPC空間ではRyuguのスペクトルの分布と極めて近い直線的分布を示すのである。これは、Ryuguのスペクトル多様性がMurchison隕石様の物質の加熱脱水で説明できるとの指摘(Sugita et al. 2013)とも調和的である。この2つの結果は、Ryuguの化学進化履歴について真逆の解釈を与えるものであり、はやぶさ2の試料採取地の選択について大きな影響を与えることとなる。 この2つの解釈のどちらが正しいのか、あるいは別の解釈が正しいのかの見極めは、0.7μm吸収帯の発見とその産状記載に大きく依存する。もし、Murchison隕石様の含水鉱物に富む物質がRyuguの初期物質であって加熱脱水で吸収帯が消えただけの場合には、Ryugu全球が表面下(e.g., 天体衝突などで掘削された露頭)まで含んで完全に吸収帯を失ってしまうことは考えにくい。したがって、0.7μm吸収帯が全く観測されない場合には、VernazzaらのBCG仮説やFやB型の水質変成によってCh, Cghが生まれたと考えるBarucciらのグループの仮説(e.g., Fornasier et al. 2014)が有力となるかも知れない。しかし、0.7μm吸収が見つかって、熱変成を受けやすい地域ではその吸収が弱いことが判明すれば、スペクトル多様性は加熱脱水過程でできたとの考えが有力となろう。 最後に、はやぶさ2ONCチームは打ち上げ後も月、地球、火星、木星、土星、恒星など様々な天体の観測を通じて上記の観測目標を達成できるための校正観測を実施している。それらの解析からは、0.7μm帯および全般的なスペクトル形状の捕捉に十分な精度を達成できることを示唆する結果を得ており(Suzuki et al., 2018)、本観測での大きな成果を期待できる状況である。引用文献:Bottke et al. (2015) Icarus, 247 (2015) 191.Bus and Binzel (2002) Icarus, 158, 146.Fornasier et al. (2014) 233, 163.Ivezic et al. (2001) Astron. J.、 122, 2749.Masiero et al. (2011) Astrophys. J. 741, 68.Sugita et al. (2013) LPSC, XXXXIII, #2591.Suzuki et al. (2018) Icarus, 300, 341Tedesco et al. (1982) Astrophys. J. 87, 1585.Vernazza et al. (2017) Astron. J., 153,72
著者
河合 駿 鉾碕 竜範 鈴木 彩代 若宮 卓也 中野 裕介 渡辺 重朗 岩本 眞理
出版者
特定非営利活動法人 日本小児循環器学会
雑誌
第51回日本小児循環器学会総会・学術集会
巻号頁・発行日
2015-04-21

【背景】動脈管早期収縮は胎生期に動脈管が狭小化することにより出生後から遷延性肺高血圧や右室壁肥厚を来す疾患である。母体が摂取する様々な物質が本疾患を誘起することが報告されている。今回我々は妊娠中の食生活が影響したと推測される動脈管早期収縮の一例を経験したので報告する。【症例】日齢6の女児。在胎39週3日、体重3792g、APS8/9、自然分娩で出生。出生3時間後からチアノーゼ(体動によりSpO2が80~95%で変動する)を指摘されて前医NICUに入院した。日齢1より酸素投与(鼻カヌラ1.0L/min)開始したがその後もチアノーゼは改善せず、日齢6で当院NICUに新生児搬送となった。心エコー検査で右室求心性肥大と右室圧上昇、卵円孔での両方向性短絡を認め、わずかに開存している動脈管を確認した。動脈管は前医での出生直後の心エコー検査でも同様に細かったことが確認されており、遷延性肺高血圧の原因となる他の疾患を認めないことから、動脈管早期収縮を疑った。転院後も酸素投与のみで経過観察を継続し、日齢13で肺高血圧の改善を確認し酸素投与を中止、再増悪なく日齢18で退院した。母からの聴取により、妊娠中は毎日プルーン3個と種々のドライフルーツ、1日1杯市販の青汁を積極的に摂取していたことが判明した。【考察】プルーンに多く含まれるアントシアニンなどのポリフェノールにはMAP kinaseやPI-3 kinaseの作用を阻害することによるCOX-2発現の抑制作用が報告されている。胎児の動脈管は胎生期後半に増加するPGE2によりその開存が維持されるが、COX-2阻害によりPGE2の産生を抑制されると、妊娠後期に動脈管狭小化を引き起こす。本症例では胎児期の動脈管は評価できていないが、経過より妊娠中のポリフェノール過剰摂取が関与した可能性が疑われた。【結語】ポリフェノールは様々な健康食品に含まれる。妊娠中の過剰摂取は動脈管早期収縮の原因となる可能性もあるため、その危険性を周知する必要がある。
著者
望月 桂
雑誌
第21回日本救急看護学会学術集会
巻号頁・発行日
2019-09-03

【はじめに】救急外来を受診する小児患者の最も多い症候は発熱であり、稀に致死的な疾患が隠れている。発熱に伴う潜在的リスクが後々小児患者を重篤化させることもある。トリアージ看護師がこれらを的確に評価し、早期の医療介入に繋げることにより小児患者の生命予後や機能予後の改善を図ることができると考える。【目的】発熱を呈し来院した乳児患者に対する院内トリアージについて検討する。【対象および方法】発熱を呈し来院した生後5ヶ月の男児(以下、児)に対する院内トリアージの結果から、意図的な問診やフィジカルアセスメントについて、文献的考察を加えて検討する。【倫理的配慮】個人情報の保護に充分配慮し、データ管理はロック付USBを使用した。【結果】児を観察した結果、発熱による不感蒸泄量の上昇に伴う脱水の潜在性を認めた。さらに乳幼児の発熱における一般的な疾患と致死的な疾患を考慮し、問診やフィジカルアセスメントを行い、致死的な疾患を積極的に疑うような所見は認めなかった。児は、何らかの一般的な感染性疾患、もしくは前日に受けていた予防接種後の副反応を呈している可能性が考えられた。以上のアセスメントから、児の緊急度をJTAS 3と判断した。【考察】McCarthyらが開発した急性疾患観察尺度(最良6点、最悪30点)は発熱児における重篤な疾患を特定する際に信頼性が高く、有効とされる。尺度のスコアが10点以上の発熱児に対して、菌血症を予測するための感度は87.9%、特異度は83.8%、陽性尤度比は5.4であったと報告される。児に当てはめるとスコアは最良の6点となり、第一印象から高い確率で菌血症を除外することができる。一見、明らかな重症感のない発熱児も、急性疾患観察尺度の中等度障害項目を2つ以上有することにより菌血症の可能性が高まり、緊急度を上げた早期の対応が必要である。 小児は相対的に不感蒸泄量が多く、体温が1℃上がるごとに10~15%増えるとされる。Steinerらは小児における5%超の脱水を予測する徴候として、「CRT遷延」は感度65%、特異度85%、陽性尤度比4.1、「ツルゴール低下」は58%、76%、2.5、「呼吸異常」は43%、79%、2.0であり、脱水を鑑別する所見として有用であったと報告している。児には、これらの徴候は認められず脱水の顕在化は否定的であった。脱水の3 徴候を統合した評価と共に、体液喪失についての病歴聴取が適切な緊急度判定に有用であると考える。同じ症候であっても予測される疾患や病態に応じて緊急度は変化するため、トリアージ看護師は、患者の健康問題について大まかな仮説を立てる。しかし小児が示す症候は特定の疾患との結びつきが弱く、乳児においては疾患に特徴的な症候が見られないこともある。Vanらは、臨床的には軽症に見える小児患者に対して、医師が深刻な疾患を診断するにあたり、「何かよくない」という第六感が感度61.9%、特異度97.2%の確率で有用であり、両親の「いつもと何かが違う」という発言がその第六感に寄与していたと報告している。保護者が感じる小児患者の違和感は、緊急性の高い疾患の想起に繋がる重要な情報であると考える。 Crocettiらの報告によると、保護者の56%は発熱が子どもに与える潜在的リスクについて心配し、94%は発熱が何らかの有害な影響を引き起こす可能性があると考えていた。トリアージ看護師は、保護者との関係構築に努め、待機時や帰宅後の注意点や対応を指導することにより、長期的視点に立った健全育成への支援に繋げることができるのではないか考える。