著者
大久保 滋郎
出版者
The Kitakanto Medical Society
雑誌
北関東医学 (ISSN:00231908)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.71-85, 1981-05-15 (Released:2009-10-15)
参考文献数
38

上皮小体摘出時に形成される家ウサギ切歯象牙質縞模様石灰化像と成長速度の抑制, PTHレベルおよび血清Ca量の減少を指標として, パロチンとPTH製剤カケルビンの作用を比較検討した.1) 栄研PTH-キットがウサギ血中PTHの測定に使用できることを確かめたのち, 上皮小体摘出によって従来の報告のごとく象牙質の石灰化不全, 発育抑制とともに血清PTH, 血清Ca量の減少が起こることを知った.2) 正常ウサギにパロチン (Lot EJ25E510) を1mg/kg静注すると, 血清PTH量とCa量の減少と象牙質石灰化像の促進を生じ, 増量3mg/kgでは血清PTHレベル, Caの減少をきたすが, 象牙質石灰化像では一過性の促進後抑制像を引き起こすことを確認した.また, カケルビン100u/kg静注は, 血清PTHレベルとCa量の一過性増量と, 成長速度に多少の抑制を生じたが象牙質縞模様石灰化像には影響が少なかった.3) パロチンは少量1mg/kgで上皮小体摘出の欠損症状である象牙質縞模様石灰化不全, 血中PTHレベル, Caの減少をカケルビン100u/kg静注時よりもより強く回復させたが, 象牙質の成長速度の回復は明らかではなかった。この場合, 初めに縞模様石灰化像の回復が起こり, 次いで血清PTHレベルとカルシウム量が相関しつつ回復するようであった.増量3mg/kgでは血清PTH量やCaの減少を回復させたが, 象牙質縞模様石灰化像ではその回復作用は弱く, 一過陛の抑制像を含むことがあった.4) 以上の成績より, 上皮小体摘出の結果生ずる石灰化抑制の場におけるパロチンとPTHの石灰化促進作用は本質的には同じであり, パロチンはPTH様の作用を持つと考えられる.しかし血清Caの影響にみられるように, 詳細な点では, PTHと若干の差があると思われた.
著者
久保田 達矢 近貞 直孝 日野 亮太 太田 雄策 大塚 英人
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

沖合の海底に設置された海底圧力計 (Ocean bottom pressure gauge; OBP) は,これまでスロースリップや巨大地震後の余効変動による地殻変動の検出や地震発生の物理の理解に大きな役割を果たしてきた (e.g., Ito et al. 2013 Tectonophys; Iinuma et al. 2016 Nature Comm; Wallace et al. 2016 Science).2011年東北沖地震を受け,東北日本沈み込み帯では日本海溝海底地震津波観測網 (Seafloor observation network for earthquakes and tsunamis along the Japan Trench; S-net) が展開された (Kanazawa et al. 2016).本観測網におけるOBPは東北日本沈み込み帯における地殻変動シグナルの検出に大きな役割を果たすと期待される.本研究ではS-netのOBPを用いた地殻変動の検出に向け,数日から数週間程度の時間スケールの定常的な変動について,近傍に展開された東北大学の自己浮上式OBP (Hino et al. 2014 Mar Geophys Res) と比較を行い,その品質を評価した.本研究では低周波微動 (Tanaka et al. 2019 GRL; Nishikawa et al. 2019 Science) や超低周波地震 (Matsuzawa et al. 2015 GRL; Nishikawa et al. 2019) などのスロー地震活動が活発な岩手県三陸沖の海域に着目した (Figure 1a).S-netの記録を目視で確認し,海洋潮汐を比較的精度よく観測できている品質の良い観測点 (近貞ほか 2020 JpGU S-CG70) にのみ注目し,比較を行った.また,近傍に展開された東北大学OBP観測と観測期間が重なっている2016年の約2ヶ月間の記録を比較した.解析では両者の記録を30分値にリサンプルし,BAYTAP-G 潮汐解析プログラム(Tamura et al. 1991 GJI) を用いて潮汐変動成分を推定し,また線形ドリフト成分を推定した.解析の結果,推定された潮汐変動はよく一致した (Figure 1b –1e).潮汐変動成分ならびに線形ドリフト成分を取り除き,圧力時系列の標準偏差σを計算したところ,東北大のOBPではσ = 2.6 hPa (観測点SN2, Figure 1b) および σ = 2.2 hPa (観測点SN4, Figure 1c)であった.これらの観測点に最も近いS-netのOBPではσ = 11.4 hPa (S4N11, Figure 1d),σ = 3.5 hPa (S4N22, Figure 1e) となった.これ以外のS-netのOBPも含め,標準偏差は東北大のOBPよりも系統的に大きかった.また,S-netのOBPの記録では数日かけて10 hPa以上変化するような圧力変動が見られた (Figure 1de).このようなシグナルは,ごく近傍に設置された東北大OBPでは見られなかったことから,海洋物理学的な変動に起因するものではないと考えられる.また,いずれのOBPにおいてもParoscientific社製のセンサを使っていることから,センサの違いに由来するものでもないと思われる.両者の異なる部分として,S-netでは水圧センサが油で満たされた金属製の耐圧筐体の内部に封入されており,直接海水に触れているわけではない,という点が挙げられる.圧力観測の方式と,原因不明の圧力変動の因果関係は今後さらに詳細に検討する必要がある.ここまでの検討から,比較的品質の良いOBP (S4N22) では,東北大OBPよりわずかに劣る程度の地殻変動検出能力を持つと考えられる.一方,品質のさほど高くないOBP (S4N11) では数日をかけて大きく圧力が変動することがあるため,数日程度のタイムスケールの地殻変動現象の検出は難しいことが示唆される.非潮汐性の海洋変動成分 (Inazu et al. 2012 Mar Geophys Res; 大塚ほか 2020 JpGU S-CG66) を取り除くことにより地殻変動検知能力が向上することが期待されるが,そのためには,まずはS-net水圧計の比較的短期間での圧力変動の原因をさらに詳細に検討し,それらの成分を取り除く必要がある.
著者
萬 秀憲 久保 裕一郎 江口 泰輝 河本 知二 砂川 満 古元 嘉昭
出版者
一般社団法人 日本温泉気候物理医学会
雑誌
日本温泉気候物理医学会雑誌 (ISSN:00290343)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3-4, pp.123-129, 1984 (Released:2010-08-06)
参考文献数
13

It was found that no effect of increase in dermal blood flow depended solely on HCO3- or CO32-, but on CO2 gas dissolved in water.The artificial CO2 bath was prepared with sodium bicarbonate and citric acid, mixing simply in plain water at 38-40°C.Thermal efficacy was confirmed by a rise in temperature of oral, finger tip and forehead respectively, and by a high transepidermal water loss (TWL) in consequence of increase in dermal blood flow, compared to a plain bathing.A remarkable effect in artificial CO2 bathing of 400-800ppm has been well-known clinically, however, a substantial increase in dermal blood flow has observed with artificial CO2-bathing of 59.8ppm or greater in this study, so that a CO2-bathing using the preparation would be popularized.
著者
福田 智子 山本 愛奈 李 羽 耕三寺 華蓮 大久保 孝晃 徐 嘉楓 胡 淑雲 フクダ トモコ ヤマモト アイナ リー ユー コウサンジ カレン オオクボ タカアキ ジョ カフウ Fukuda Tomoko Yamamoto Aina Li Yu Kosanji Karen Okubo Takaaki Xu Jiafeng Hu Shuyun
出版者
同志社大学文化情報学会
雑誌
文化情報学 = Journal of culture and information science (ISSN:18808603)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.38-28, 2019-03

本稿は、「同志社大学文化情報学部蔵『源氏絵所屏風言葉書』翻刻と考察(桐壺巻~野分巻)」に引き続き、当該書の御幸巻から幻巻の本文系統と、それが指し示す源氏絵の図柄を類型に照らして考察するものである。本文は、北村季吟『湖月抄』(延宝三年〈一六七五〉刊)と一致する帖もあるが、青表紙本系統の三條西家本との共通性が目立つ。また、本書が示す図柄を『源氏物語』承応三年(一六五四)版本の挿絵と比較すると、共通するものも多いが、幻巻では、紫上の死に関連した通常の類型的な場面を避けるといった図柄の選択が行われていると考えられる。資料紹介
著者
久保田 一雄 町田 泉 田村 耕成 倉林 均 白倉 卓夫
出版者
The Japanese Association of Rehabilitation Medicine
雑誌
リハビリテーション医学 (ISSN:0034351X)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.40-45, 1997-01-18 (Released:2009-10-28)
参考文献数
23
被引用文献数
2

平成2年6月からの5年間に46例のアトピー性皮膚炎患者(男性31例,女性15例,25±11歳)に対して,草津温泉療法(40~42℃,1回10分,1日1~2回)を3~28週行った.その泉質は酸性(pH2.0)-アルミニウム-硫酸塩・塩化物温泉である.32例(70%)で皮膚症状が改善し,さらにそのうち18例で掻痒も改善した.皮膚症状の改善は血清LDHの有意な低下でも裏付けられた.皮膚症状改善例のうち,温泉療法前に皮膚表面に多数の黄色ぶどう球菌が検出された15例では,温泉療法後に13例で消失,2例で減少した.この草津温泉療法による皮膚症状の改善機序として,皮膚病変の増悪因子である黄色ぶどう球菌に対する酸性温泉水の殺菌作用が推定される.
著者
菅原 悦子 伊東 哲雄 小田切 敏 久保田 紀久枝 小林 彰夫
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
日本農芸化学会誌 (ISSN:00021407)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.149-155, 1988-02-15 (Released:2009-02-18)
参考文献数
3
被引用文献数
1 3

枝豆の特有香を完熟大豆の香気との比較で検討し,その解明を試みた.試料としては岩手大学附属農場で収穫した枝豆と市販品を用い,Likens-Nickerson型のエーテル連続抽出装置を用いて香気濃縮物を得, GCおよびGC-MS分析をした.その結果,枝豆の香気成分として28成分を同定し, 19成分を推定した.未熟な大豆である枝豆からも完熟大豆と同様に豆臭,青葉臭の原因物質といわれる1-hexanol, hexanal, (E)-2-hexenal, 1-octen-3-ol, 2-pentylfuranが共通して同定された.これに加えて,完熟大豆には検出されなかった (Z)-3-hexenyl acetate, cis-jasmone, linalool, acetophenoneが同定された.これらの成分がさわやかな青葉様香気に花様で甘い香りを付与し,枝豆特有の香気が生成されることが判明した.とくにcis-jasmoneは農場産の枝豆,市販品ともに相当量存在するにもかかわらず,収穫が遅れると全く検出できなくなることから,枝豆香気の重要な一成分であることが明らかとなった.
著者
小泉 諒 西山 弘泰 久保 倫子 久木元 美琴 川口 太郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 = Geographical review of Japan (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.84, no.6, pp.592-609, 2011-11-01
参考文献数
30
被引用文献数
8

本研究では,1990年代後半以降における東京都心部での人口増加の受け皿と考えられる超高層マンションを対象にアンケート調査を行い,その居住者特性を明らかにするとともに,今日における住宅取得の新たな展開を考察した.その結果,居住者像として,これまで都心居住者層とされてきた小規模世帯だけでなく,子育て期のファミリー世帯や,郊外の持ち家を売却して転居した中高年層といった多様な世帯がみられた.それぞれの居住地選択には,ライフステージごとに特有の要因が存在するものの,その背景には共通した行動原理として社会的リスクの最小化が意識されていることが推察された.社会構造が大きく変化し雇用や収入の不安定性が増大している中で,持ち家の取得は,機会の平等が前提された「住宅双六」の形態から,個々の世帯や個人の資源と合理的選択に応じた「梯子」を登る形態へと変化したと考えられる.
著者
永井 秀幸 赤坂 清和 乙戸 崇寬 澤田 豊 大久保 雄
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1254, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】下腹部引き込み動作(以下ドローイン)は通常背臥位で行われる。しかし,腰痛者が職場で背臥位やバランスボールを使用することはスペースや安全面から困難であり,椅子座位でエクササイズを施行する方が機能的・現実的であると考えられる。そこで我々は,椅子座位で施行出来る効果的な腰痛予防エクササイズを模索するため,超音波診断装置を用いてバランスディスクの有無とドローインエクササイズを組み合わせた腹部深層筋の筋活動が高まる運動課題を検討した。【方法】対象は,本研究に対して同意を得られた健常男性20名(平均年齢:22.2±2.7歳)とした。測定機器は,超音波診断装置(ALOKA社製PROSOUND6)を用いた。基準となる安静背臥位で腹横筋と内腹斜筋の筋厚を測定した。運動課題は,椅子座位,バランスディスク座位とし,各々に①安静,②左片脚挙上(以下knee elevation),③下腹部引き込み動作(以下ドローイン),④ドローインしながら左片脚挙上(以下ドローイン+knee elevation)を行なう合計8種類とした。測定部位は,最下位肋骨の下端と腸骨稜の中点かつ前腋窩線上とし,測定はすべて右腹壁にて安静呼気時に測定した。また,前述の運動課題施行中の難易度をVASにて測定した。さらに,筋厚の安静背臥位との比(以下,安静時比)を算出した。筋厚の比較は腹横筋と内腹斜筋における椅子座位,ディスク座位の2つの姿勢と前述の4つの運動課題の2要因による2元配置分散分析と多重比較を行った。また,各課題における難易度のVASの比較についても同様に実施した。統計処理にはSPSS Statistics version 21を使用し,有意水準を5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,埼玉医科大学保健医療学部倫理員会による承認(M-37)を得て実施した。【結果】各運動課題における筋厚の安静時比は,腹横筋について椅子座位でのドローインでは2.1倍,ドローイン+knee elevationでは2.4倍,ディスク座位でのドローイン+knee elevationが2.5倍となった。腹横筋の筋厚は,姿勢による有意差はなく,運動課題では,安静<knee elevation<ドローイン<ドローイン+knee elevationとなり,不等号部分にて,有意に筋厚が増加した。内腹斜筋の筋厚は,椅子座位よりもディスク座位で有意に増加した。また,運動課題間の比較では,安静<knee elevation,ドローイン<ドローイン+knee elevationとなり,不等号部分にて有意に筋厚が増加した。椅子座位における4つの運動課題の難易度は,安静<knee elevation,ドローイン<ドローイン+knee elevationとなり,ディスク座位における難易度は,安静<ドローイン<knee elevation<ドローイン+knee elevationとなり,不等号部分にて有意に難易度が増加した。各運動課題における椅子座位とディスク座位との難易度は,全てにおいてディスク座位の方が,難易度が高い結果となった。【考察】各運動課題における筋厚の安静時比の結果は,バランスボールの先行研究(Rasouri O, et al. 2011)と同程度であり,バランスディスクはバランスボールと同程度の効果を示唆した。座面の不安定性では,ローカルよりもグローバルマッスルが,有意に活動が増大したことを示唆した。また,knee elevationよりもドローインが腹横筋の活動を増大させ,内腹斜筋は両課題の有意差はみられなかった。一方,ドローインの影響は内腹斜筋より腹横筋の方が大きく,先行研究(Urquhart DM, et al. 2005)と同様の結果となった。ドローイン+knee elevation時の腹横筋・内腹斜筋の筋厚が有意に高くなった理由は,大腰筋の収縮が腰椎・骨盤の固定性をさらに高める必要性を生じさせ,両筋の筋活動がより増加したと推察する。これらから,内腹斜筋の過活動を抑えながら腹横筋の筋厚を高めるには椅子座位でのドローインが有用であり,両筋の活動増加を目的とする場合は難易度が高くなるが,椅子座位でのドローイン+knee elevationが有用であることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】腹横筋について,バランスディスクの影響は少なく,knee elevationよりドローインの影響が大きいことが示唆された。また,ドローインでknee elevationさせると,腹横筋と内腹斜筋の筋厚が増加するととともに,難易度が増加することが示唆された。これらの結果は,臨床での腰痛者への運動療法を行う際,運動の選択における基礎的知見になると考える。
著者
大久保 雄 金岡 恒治 長谷部 清貴 松永 直人 今井 厚
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0804, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】大腰筋は股関節および脊柱の屈曲に作用する深部筋である。先行研究において,腰痛患者では大腰筋の萎縮が生じていること(Baker et al., 2004)などから,リハビリテーション現場において大腰筋の重要性が示されている。また,中高齢者では大腰筋の筋断面積が有意に低下し,歩行能力低下と関連することが報告されている(金ら,2000)ことから,介護予防教室においても大腰筋エクササイズが注目されている。そこで臨床現場では,股関節屈筋群(大腰筋や大腿直筋など)のエクササイズとして,自動下肢伸展挙上(active straight leg raise,ASLR)が用いられているが,大腰筋は体幹の最も深部に位置するため活動様式を評価することが困難であり,ASLR時の大腰筋活動様式は明らかでない。そこで本研究では,ワイヤ筋電図を用いて大腰筋活動を測定し,ASLR時の大腰筋活動様式を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は健常男性9名とした(年齢:25±4歳,身長:170.1±6.2cm,体重:60.3±4.7kg,mean±SD)。股関節屈曲0゜~最大屈曲角度まで右側ASLRを行わせた際の筋電図および股関節屈曲角度データを同期させて収集した。被検筋は全て右側とし,大腰筋にはワイヤ電極を,腹直筋,外腹斜筋,内腹斜筋,大腿直筋には表面電極を設置した。大腰筋には超音波画像ガイドの下ワイヤ電極を刺入し,電極を留置後,電気刺激装置にて大腰筋の筋収縮を確認した。動作解析として,3台の赤外線カメラ(OQUS,QUALYSIS社製)を用いて,ASLR時の股関節屈曲角度を計測した。ASLR時の股関節屈曲角度から,屈曲初期,屈曲中期,屈曲後期の3phaseに分割し,各phaseの筋活動量(%MVC)を算出した。筋活動量の比較として,phaseと筋を因子とした二元配置分散分析を用い,有意差を認めた場合はTukey-Kramer法により事後検定を行った。また,ASLRの筋活動開始時点(onset)を「安静時の筋活動量±2SD」から求め,ASLR運動開始時点を基準(0秒)とした各筋のonsetを算出し,Kruskal-Wallis検定を用いて比較検討した。有意水準は5%とした。【結果】大腰筋の筋活動量は,屈曲初期:10.3±5.5%MVC,屈曲中期:18.1±9.3%MVC,屈曲後期:33.0±19.6%MVCであり,屈曲中期と後期で有意に大きかった。また,大腿直筋の筋活動量が屈曲中期:16.2±8.8%MVC,屈曲後期:18.3±14.6%MVCであり,他の筋よりも有意に大きい値を示した。ASLR運動開始時点に対する各筋のonsetは,大腰筋:-0.033±0.25 sec,大腿直筋:-0.003±0.12 sec,腹直筋:0.15±0.40 sec,外腹斜筋:0.27±0.36 sec,内腹斜筋:0.25±0.25 secであり,大腰筋および大腿直筋のonsetが内・外腹斜筋よりも有意に早かった。【考察】本結果より,大腰筋は屈曲初期から後期にかけて活動量が大きくなった。Yoshio et al.は屍体を用いた研究により,大腰筋は股関節屈曲0~15゜では大腿骨頭の安定化に作用し,股関節屈曲45゜以上から股関節屈曲作用が大きくなることを報告している(Yoshio et al., 2002)。さらにJuker et al.は,ワイヤ筋電図を用いて様々なエクササイズ時の筋活動量を比較した結果,股関節屈曲90゜位からの等尺性股関節屈曲運動で大腰筋活動が最も大きくなることを報告している(Juker et al., 1998)。以上から,ASLRにおいて大腰筋は股関節深屈曲位になる屈曲後期に活動量が大きくなることが示唆された。Onsetの比較では,下肢の股関節屈筋群が腹筋群よりもonsetが早かった。ASLRでは股関節屈曲運動に伴い骨盤前傾方向の回転モーメントが生じ,その骨盤の運動制御に腹筋群が活動した可能性がある。しかし,挙上側と反対側の内腹斜筋や腹横筋は,主動筋よりも先行して活動を開始するとの報告もあり(Hodges et al., 1997),今後は両側の腹筋群の反応を検討する必要がある。【理学療法学研究としての意義】本結果より,ASLRでは股関節深屈曲位にて大腰筋がより賦活化され,挙上側と同側の筋では股関節屈筋群から腹筋群の順に動員されることが明らかになった。ASLRは臨床現場で頻繁に用いられる運動であり,本研究はASLRを処方する際の有用な情報になると考える。
著者
阿部 佑一 坂井 優美 鬼立 めぐみ 原 正 久保田 隆廣
出版者
一般社団法人 日本薬局学会
雑誌
薬局薬学 (ISSN:18843077)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.85-91, 2019 (Released:2019-05-17)
参考文献数
10

要旨:皮膚疾患に多用されるステロイド外用剤は,著しい治療効果をもたらす重要な成分である.外用剤の混合による配合変化に関する情報は必須であるが,十分な検討は行われていない.本研究では,実臨床でもステロイド外用剤と混合されることのあるザーネ® 軟膏との配合変化について検討した.油脂性基剤であるステロイド軟膏はザーネ® 軟膏と混合すると高温になるほど基剤が不安定になり,ステロイドの種類によっては含量が著しく低下した.ザーネ® 軟膏とo/w 型ステロイドクリームの混合では基剤は安定していた.ステロイド含量は高温条件下で低下したが,ステロイド軟膏との配合変化より緩やかであった.そのためザーネ® 軟膏との混合はステロイドクリームのほうが好ましいと考えられる.しかし,ステロイドの種類や製品によっては配合変化する組み合わせがあるため,患者の症状や薬剤の保存状態,コンプライアンスに合わせた薬剤選択が重要である.
著者
余 錦 佐藤 純 舟久保 恵美 小畑 光央 水村 和枝
出版者
日本生理学会
雑誌
日本生理学会大会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.S245, 2004

To examine the effects of change in meteorological factors on autonomic parameters in conscious animals, male Sprague-Dawley rats (n = 11) were exposed to lowering barometric pressure (LP) in a climate-controlled room. Systemic blood pressure (BP) was telemetrically recorded using a radio-transmitter equipped with a BP transducer. Heart rate (HR) was calculated from BP data and pulse interval variability was analyzed by power spectrograms obtained by the fast-Fourier transform algorithm. The low-frequency (LF: 0.02-0.6 Hz) power, high-frequency (HF: 0.8-3.0 Hz) power and LF/HF ratio, an index of relative sympathetic activity, were calculated. The rats were exposed to LP by decreasing the barometric pressure of the room by 27 hPa lower than the atmospheric pressure. This was done over 8 min. The pressure was maintained at this level for 29 min, and then returned to the baseline pressure over 8 min. The BP markedly increased after reaching the pre-set low pressure and reached the peak value at the middle of LP-exposure period. The HR and LF/HF ratio clearly rose in the early part of the LP-exposure period and then gradually decreased to the level before exposure. The LF/HF ratio also transiently increased at the recompression period. These results show that lowering barometric pressure within the range of natural environmental fluctuation induces autonomic responses in conscious rats. The increase in the LF/HF ratio during LP exposure indicates that low pressure environment induces sympathetic > parasympathetic activation. <b>[Jpn J Physiol 54 Suppl:S245 (2004)]</b>