著者
成田 雅 鵜沼 菜穂子 伊藤 文人 佐藤 憲行 星野 智祥 井上 実 山本 正悟 安藤 秀二 藤田 博己
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.101, no.1, pp.164-167, 2012 (Released:2013-04-11)
参考文献数
4
被引用文献数
1 2

タテツツガムシによるつつが虫病の臨床像は多彩で見逃されることが多い.病歴(好発時期と好発地域,野外活動歴),バイタルサインと身体所見(発熱,比較的徐脈,発疹,刺し口)から積極的に疑い,疑わしければ直ちにテトラサイクリン系抗菌薬にて治療を開始すべきである.血清学的にはKawasaki型あるいはKuroki型のOrietia tsutsugamushi抗原に対する抗体価の上昇が特異的であるが,これらは一般的な外注検査での抗体価測定には含まれないことに注意する.痂皮の遺伝子学的検査も特異性が高く有用である.
著者
伊藤 美奈子 伊藤 美奈子 栗本 美百合 白水 倫生
出版者
奈良女子大学大学院人間文化総合科学研究科
雑誌
人間文化総合科学研究科年報 (ISSN:09132201)
巻号頁・発行日
no.36, pp.25-37, 2021-03-31

The disruptions in the educational environment caused by Covid-19 have had a signifi cant impact on universities. In May of 2020, in the midst of the ongoing ban on university campuses, we conducted a survey of enrolled university and graduate students in order to understand their situation and to contribute to their future support. The content of the survey included 12 items asking about physical and mental stress, and 10 items on attitudes toward university life, such as asking them "What is worrying or troubling you now?". The results showed that the new students were more anxious about university life and preferred face-to-face classes to distance learning than other grades. In addition, a comparison of living arrangements revealed that students who live alone were more stressed mentally and physically than students living at home or in a dormitory. It was also suggested that there was a diff erence in attitudes toward the university and stress levels depending on the object of concern. In the future, support and assistance to students and graduate students based on these results will be required.
著者
岩月 章治 伊藤 勝清 山下 雄也
出版者
The Chemical Society of Japan
雑誌
工業化学雑誌 (ISSN:00232734)
巻号頁・発行日
vol.70, no.10, pp.1822-1825, 1967
被引用文献数
7

フェニルイソニトリル,<I>p</I>-トルイルイソニトリル,<I>o</I>-トルイルイソエトリル,シクロヘキシルイソニトリルの三フッ化ホウ素エーテル錯体による共重合性を, イソニトリルと共鳴構造が類似しそしてカチオン重合するジアゾメタンとの共重合およびこれらイソニトリル間の共重合により検討した。ジアゾメタンとの共重合性はフェニルイソニトリル, <I>p</I>-トルイルイソニトリル><I>o</I>-トルイルイソニトリル>シクロヘキシルイソニトリルの順である。イソニトリル間の共重合からのモノマー反応性はシクロヘキシルイソニトリル>フェニルイソニトリル, <I>p</I>-トルイルイソニトリル> <I>o</I>-トルイルイソニトリルの順である。<I>o</I>-および<I>p</I>-トルイルイソニトリルの間で<I>o</I>-体の重合性が低いのはオルト位のメチル基の立体障害に基因すると推定される。またイソニトリルがジアゾメタンと共重合することから,イソニトリルとジアゾメタンの重合機構は類似しているものと推定される。
著者
伊藤 綾子 五十嵐 清治 倉重 多栄 佐藤 夕紀 藤本 正幸 西平 守昭 松下 標 青山 有子 平 博彦 丹下 貴司
出版者
The Japanese Society of Pediatric Dentistry
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.591-597, 2006

含歯性嚢胞は歯原性嚢胞では歯根嚢胞に次いで多く見られる。一般的には未萌出または埋伏永久歯の歯冠に由来して発生するが,原因埋伏歯は正常歯胚であることがほとんどで,過剰歯に由来する含歯性嚢胞は比較的少ない。今回,我々は全身的問題から抜去を行わず経過観察していた上顎正中部の逆性埋伏過剰歯が嚢胞化し,定期検診の中断期間に急速に増大し,顔貌の腫脹まで来した含歯性嚢胞の症例を経験したので報告する。<BR>症例は13歳の男児で,既往歴として生後間もなくWilson-Mikity症候群の診断にて入院加療を受け,その後にてんかん,脳性麻痺,および精神発達遅滞と診断された。患児の埋伏過剰歯は当科で10歳時に発見されたが,全身状態が不良のため抜去を行わず経過観察を行っていた。その後,定期検診受診が途絶え1年3か月後に,過去数か月間で徐々に上顎右側前歯唇側歯槽部が腫脹してきたことを主訴に再来初診となった。口腔内診査では上顎左側前歯部歯槽部に青紫色の腫脹を認め羊皮紙様感を触知した。エックス線診査では上顎前歯部に1本の逆性埋伏過剰歯を含む単房性の境界明瞭な透過像を認めた。局所麻酔下に嚢胞と埋伏過剰歯の摘出術を施行したが,術後17日目に術部感染を来したため抗菌薬投与と局部の洗浄を継続し消炎・治癒に至った。術後2か月の経過は良好である。<BR>本例のように何らかの理由により埋伏過剰歯抜去が困難な場合は,その変化を早期に発見するために定期的,かつ確実な画像診断を含む精査が必須であると考えられた。
著者
常泉 佑太 伊藤 香織 高柳 誠也
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.665-672, 2021-10-25 (Released:2021-10-25)
参考文献数
21

公共空間の多様性を考える上で、個人の表現活動であるアートと公共空間の公共性はどのように両立するのだろうか。近年のアートプロジェクトの増加によって、アートと地域をつなぐ中間組織の役割が期待される。本研究の目的は、公共空間を利用してアートプロジェクトが行われる際に中間組織にどのような役割が求められるのかを明らかにし、中間組織が関与することによる公共空間でのアートの可能性について考察することである。東京アートポイント計画TERATOTERAを事例とした資料調査、インタビュー調査によって、中間組織の役割を明らかにする。結果として、公共空間を利用する際には、中間組織のアートマネジメントの専門性によるアーティストの作品の本質をできるだけ担保する調整、空間の管理者毎に文化的意義の共有を図る交渉、中間組織による責任の所在の明確化がアーティストの表現の創造性を担保することがわかった。さらに、ギャラリーとは異なりアートに対する基礎知識や前提についての知識を有していない市民の目にも触れる公共空間の環境がアートによる新たなコミュニケーションの可能性を広げていることがわかった。
著者
大場 みち子 伊藤 恵 下郡 啓夫 薦田 憲久
雑誌
情報処理学会論文誌教育とコンピュータ(TCE) (ISSN:21884234)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.8-15, 2018-02-20

我々は,プログラミングの思考過程,文章を論理的に構成する思考過程および数学の問題解決の思考過程が,相互に関係していると仮説を立てている.そこで,プログラミングスキルや文章を論理的に構成するスキルの両方を向上させるような,数学教材を開発できると考えて研究を進めている.本稿では,プログラミングスキルと論理的な文章を作成するスキルとの関係性を,それぞれのスキルのアウトプットに焦点を当てて論じる.プログラミング力判定の指標としての大学初年次プログラミング教育科目の成績評価点および期末試験の素点を利用し,レポート課題に対する「論理力」と「言語能力」それぞれの評価点合計との相関を分析した.大学生85人を対象に評価した結果,プログラミング力と論理的な文章作成力のうち「論理力」との間で強い相関が認められた.一方,プログラミング力と「言語能力」の間には部分的に弱い相関が認められた.
著者
藤井雄太郎 安藤哲志 伊藤孝行
雑誌
第73回全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2011, no.1, pp.397-398, 2011-03-02

近年,ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)やブログ等では,未成年にとって悪影響を及ぼすような書き込みや画像,または動画などの存在が問題となっている.そのため,効率的かつ自動的に有害な情報を適切に判別し,人への負担を軽減するための研究が進められている .本稿では,掲示板等の文章に注目し有害な情報の判別を行う.文章中の複数単語間の共起情報、距離情報に加え、グレイワードという概念を定義し、それらを用いた有害文書分類手法を提案する.また,今回判別する文章の対象として,過度な性的描写を含む文章とする.
著者
黒田 啓行 庄野 宏 伊藤 智幸 高橋 紀夫 平松 一彦 辻 祥子
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.52, pp.209, 2005

実は多くの漁業は漁獲量の制限などにより管理されている。漁獲許容量(TAC)は、現在の資源量(魚の量)などから算出されるのが通例である。しかし現実には、データや知見の不足により、資源量などの推定は難しく、さらに将来の環境変動などを予測することも容易でない。このような「不確実性」は、科学の問題だけでなく、合意形成をはかる上でも大きな障害となる。<br> ミナミマグロは南半球高緯度に広く分布する回遊魚で、商品価値は非常に高い。日本、オーストラリアなどの漁業国が加盟するミナミマグロ保存委員会(CCSBT)により管理されている。しかし、近年の資源状態については、各国が主張する仮説によって見解が異なり、TACに正式合意できない状況が続いていた。<br> この状況を打開するために、CCSBTは2002年より「管理方策」の開発に着手した。管理方策とは、「利用可能なデータからTACを決めるための"事前に定められた"ルール」のことで、環境変動や資源に関する仮説が複数あっても、それら全てに対し、うまく管理できるものが理想的である。そのため、様々な仮説のもとでのテストが事前に必要であるが、実際に海に出て実験することは不可能に近い。そこで、コンピューター上に資源動態を再現し、その「仮想現実モデル」のもとで、複数の管理方策を試し、より頑健なものを選び出すという作業が行われた。このような管理方策の開発は、国際捕鯨委員会(IWC)を除けば、国際漁業管理機関としては世界初の画期的な試みである。実際にCCSBTで管理方策の開発に当たっている者として、開発手順を概説し、問題点及びその解決方法について紹介したい。不確実性を考慮した管理方策の開発は、持続可能な資源の利用を可能にし、魚と漁業に明るい未来をもたらすものと考えている。
著者
髙橋 和子 笠井 義明 伊藤 麻希
雑誌
スポーツと人間 : 静岡産業大学論集
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.23-40, 2021-10-29

The purpose of this study is to verify the effectiveness of resilience program to sustainably realizea healthy and active life for a lifetime by valuing relationships with others. The program teachingmaterials were aimed at“awareness of one’s own mind-body and others”and“improvementof communication skills”, and the teaching materials were practiced in face-to-face lessons for 120university students in the 2020 and early 2021 years of the Corona disaster. The main teaching materialsare“breathing method”“, health survey (anemia / bone density)”“, nature exploration”“, children’splay”“, bamboo dance”, and“simulated lessons by students”. Quantitative text analysis ofstudents’descriptions of “what they learned in class”. As a result, the frequently used words werewords rel at ed t o“nat ure, ”“breat hi ng, ”“pl ay, ”“self and ot hers, ”“f eeli ng, ”“communi cati on, ”“no -tice,”and“bone density.”It can be said that the lessons that moved the mind-body and felt oneselfand others helped to create human relations and became a valuable time in the university periodwhen personality was formed, while the relationship with others became weak due to the coronadisaster. In addition, the effectiveness of the teaching materials was clarified because the studentsand teachers’ perceptions of the teaching materials were the same. Furthermore, in order to give agood lesson, it is important to move people and the body and enjoy feeling and thinking. It is thoughtthat these viewpoints can be used even after face-to-face lessons, distance lessons, secondary /higher education, COVID-19 disaster, and COVID-19.
著者
山田 広幸 伊藤 耕介 坪木 和久 篠田 太郎 大東 忠保 山口 宗彦 中澤 哲夫 長浜 則夫 清水 健作
出版者
公益社団法人 日本気象学会
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.99, no.5, pp.1297-1327, 2021
被引用文献数
11

<p> 2017年台風第21号(ラン)対する上部対流圏の航空機観測を、新たに開発したドロップゾンデシステムを備えた民間ジェット機を用いて行った。これは、日本の研究グループがドロップゾンデを用いて非常に強い台風の内部コアを観測した初めての事例である。本論文では、目の暖気核構造と、それに関連するアイウォールの熱力学的および運動学的特徴について記述する。この台風は観測の2日間において、鉛直シアーが強まる環境で最大の強度を維持した。ドロップゾンデにより、この期間に対流圏中層と上層に温位偏差の極大をもつ二重暖気核構造が維持されたことが捉えられた。この2つの暖気核は相当温位が10 K以上異なり、起源が異なることが示唆された。飽和点分析により、上部暖気核の空気はアイウォールから流入したことが示唆された。鉛直シアーベクトルの左半円側におけるアイウォール上昇気流は、台風の中心側で相当温位が高く絶対角運動量が低い2層の構造を持っていた。飽和点とパーセル法の分析から、この中心側の上昇気流で相当温位が370Kを超える暖かい空気が目の境界層から流入し、最終的に上部暖気核に輸送されることが示唆された。これらの結果から、目の境界層を起源とする高い相当温位の空気の鉛直輸送が、鉛直シアーによる台風強度への負の影響に対抗して、上部対流圏の目の継続的な昇温に寄与するという仮説が導かれた。この研究は、相当温位の計算に必要な温度と湿度の測定が、ドロップゾンデのような消耗型の機器でしか行えない現状において、アイウォール貫通型の上部対流圏航空機観測が暖気核構造の監視に重要であることを示している。</p>
著者
福地 健太郎 伊藤 正佳
雑誌
エンタテインメントコンピューティングシンポジウム論文集
巻号頁・発行日
vol.2021, pp.70-76, 2021-08-23

コンピュータゲーム開発において、キャラクターの見た目や動き、またその動かし方やカメラモーションなどのいわゆる3C (Character, Controls, Camera)にまつわるパラメタを初期段階で確定させることはゲーム体験の質を向上させるために重要とされている。しかしそれらパラメタの調整でゲーム体験が大きく変化することを簡単に体験できる教材は少ない。そこで2Dジャンプゲームを対象とパラメタ調整に主眼を置いた実験教材「JumpLab」を開発した。
著者
八木 剛平 伊藤 斉 三浦 貞則
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.49-58, 1978-01-15

Ⅰ.序文 向精神薬(主として抗精神病薬)によるいわゆる遅発性ないし持続性ジスキネジアは従来精神病院入院中の高齢者(50〜60歳)の一部に観察され,長期(一般に数年以上)にわたって抗精神病薬を投与されたものが多いが症状の起始は明らかでなく,いったん生じた異常運動は抗精神病薬の中断後も消失することはない(恒常性ないし非可逆性)とされていた13)。われわれは1968年以来,それまで遅発性ジスキネジアの認められなかった患者について,抗精神病薬療法の経過を注意深く観察してきたが,1975年までの約8年間に18例について症状の新たな発生を観察するとともに,その経過を追跡して症状の消失を確認することができた。これらの症例の一部は第9回国際神経精神薬理学会において既に報告したが22),当時観察中であった症例についてもその転帰が明らかになったので,ここに改めて報告することにした。本論文の目的は,第一に多くは塔年者において,抗精神病薬療法のかなり早期に発症した軽症のジスキネジアが,原因薬物の中止によって消失したこと,しかしその後の長期経過は楽観を許さないことを示して,遅発性ジスキネジアに関する従来の定説に若干の修正を促すこと,第二にその発症と可逆性に関与する諸要因を検討して遅発性ジスキネジアを発症した精神分裂病者(以下分裂病者と略称)に対する薬物療法について考察することにある。
著者
太田 岳史 小谷 亜由美 伊藤 章吾 花村 美保 飯島 慈裕 マキシモフ トロフューム コノノフ アレキサンダー
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.124, 2013

筆者らは,1998年よりロシア・ヤクーツクの北方,約20kmに位置するスパスカヤパッド・カラマツ実験林において,渦相関法を用いた全生態系からの蒸発散量,光合成量の観測を行ってきた.植生条件は上層植生は2007年6月に展葉していた樹木が枯れ始め,下層植生は2006年~2007年よりコケモモから湿地性の草本や低木が繁茂するようになった.気象条件は,降水量は,1998年~2000年は平年並み,2001年~2004年は渇水年,2005年~2009年は豊水年,2010年~2011年は平年並みとなった.その間に,大気側の成分(放射量,気温,飽差など)はあまり大きな経年変動をしなかったのに較べて,地表下の成分(地温,土壌水分量)は明確な経年変動を示した.そして,蒸発散量,光合成量は,この地表面下の成分により変化したと考えられた.すなわち,土壌水分量と蒸発散量は関係は2007年から低下しており,土壌水分量と光合成量は1年遅れて2008年より低下した.つまり,2005年から土壌水分量は上がりはじめ,2年の時間遅れで蒸発散量を低下し,光合成量はもう1年の時間遅れが必要であった.詳しくは,講演時に発表する.
著者
伊藤 龍星
出版者
大分県農林水産研究指導センター水産研究部
雑誌
大分県農林水産研究指導センター研究報告. 水産研究部編 = Bulletin of Oita Prefectural Agriculture, Forestry and Fisheries Research Center (Fisheries Research Division) (ISSN:2186098X)
巻号頁・発行日
no.3, pp.21-56, 2013-05

褐藻綱ヒバマタ目ホンダワラ科のヒジキSargassum fusiformeは、北海道から沖縄、海外では朝鮮半島、中国南部に分布し、主に岩礁域の潮間帯に生育している。我国の主な産地は、長崎県、千葉県、三重県、および大分県で、年間計8,000トンほどの天然藻体が採取されているが、これは国内需要の約2割に過ぎず、不足分は養殖を主体とする韓国などからの輸入に頼っている。近年、産地表示に対する消費者意識の変化や健康食志向などにより、国内生産の拡大が要望されている。このためには効率的な養殖の推進が求められる。韓国では、既に養殖が盛んに行われているが、その具体的な手法や生長経過などの詳細な報告はない。本研究では、天然藻体を種苗としたロープへの挟み込み養殖を行い、生長や生産量を明らかにするとともに、汚損生物の着生状況や収穫適期等について検討した。また、この養殖方法を本種が分布しない干潟域で試み、養殖場所の拡大の可能性を検討した。また、直立部のみを種苗とした養殖や、種首の部位別生長を調べ、栄養繁殖を利用した養殖の可能性について検討した。さらに、種苦を天然に依存しない方法として、繊維状根の細断による人工種苗生産の技術開発を行った。第1章では、海藻類の海洋環境に果たす役割や現地の状況を概説すると共に、本種の利用や生産、流通の実態、さらには増養殖研究の概要をとりまとめ、養殖と人土種苗生産の必要性について言及した。第2章では、天然種百を用いたロープ挟み込み養殖(浮き流し方式)を大分県国見町の岩礁域にて行い、詳細な生長や生産量を調べた。さらに、この養殖方法を干潟域で試みた。また、直立部のみを種苗とした養殖や、種苗を部位別に切断し再生による栄養繁殖を利用した養殖について検討した。岩礁域では、秋季に藻長約15cmで養殖を開始したところ、冬季の生長は緩慢であったが、4月以降急速に生長し、5月には藻長1mとなった。生産量は10kglm(ロープ)となり、近傍の岩礁域に生育する天然藻体に比べて、気胞や葉の数が多く重量も2倍程度となった。この理由としては、養殖施設(浮き流し方式)と天然ヒジキが生息する岩礁域との間での受光量の違いが考えられた。汚損生物としては、海藻では紅藻のイギス類や褐藻のシオミドロ類等がみられ、動物ではムラサキイガイやウミ、ンパ類等が出現した。一方、干潟域での養殖は、大分県中津市地先にて行った。干潟に支柱を建て、これに養殖ロープを取り付ける方法とした。設置地盤高により、ロープの干出時間に差が生じた。そこで干出の影響を調べたところ、干出時間が短いとヒジキの生産量は増加したが、同時にムラサキイガイなどの汚損生物も多くなった。干出時間の選定が重要であり、1日平均約2時間(潮汐表基準水面30cmに相当)の干出で、生産量は10kglmを超え、汚損生物も少ないとの結果が得られた。これより、干潟域においても十分に養殖が可能で、あると判断された。岩礁域、干潟域ともに、ムラサキイガイの汚損被害を防ぐためには、本種稚貝の成長が盛期となる以前の5月中に収穫するのが適当と考えられた。種苗の部位別の生長は、主枝先端の生長点を含む部位以外はほとんど生長しなかったことから、栄養繁殖の利用は困難であると判断された。また、直立部のみを種苗として使用するより、付着器ごと使用したほうが、生産量も約20%多くなることが判明し、付着器を含む全藻体を種苗として養殖するのが最も有効と判断された。第3章では、繊維状根の細断による人工種苗生産の技術開発を行った。これは本種の付着器を構成する繊維状根の茎形成能に注目したものであり、生殖細胞を用いない簡易で実用的な種百生産技術といえる。養殖は5月頃に終了するが、この際に残る付着器を採取したのち1本ずつの繊維状根にほぐし、低温で保存した。これらを細断し、さらに室内培養して茎を多数発生させ,幼体にまで生長させる方法である。繊維状根の低温保存には12℃,光量25 μ mol/m2/sが、茎形成と生長には23℃、120~230 μ mol/m2/sが適していた。切断から40日後には、茎形成率は85%、幼体の藻長は約5mmに達した。さらに繊維状根の適切な切断幅を検討したところ、2.5mm以下に切断することが有効であった。茎発生後シャーレ内で2~3ヵ月培養したのち、屋外水槽に移し、10月には藻長80mmを超え、11月には種苗サイズの藻長100mm以上となった。これらを養殖したところ、天然種苗と同等の生産量が得られた。以上のことから、岩礁域および干潟域でのロープ挟み込み挟み養殖が可能であり、生産量も高いことが明らかとなった。干潟域でのヒジキ養殖は、ノリ養殖にかわる新たな産業となる可能性も示された。また、人工種苗生産については、基礎研究はほぼ終了したものと考えられ、今後は種苗の量産化を検討する必要がある。