著者
栗野 理恵子 伊藤 義美 伊藤 義美 Ito Yoshimi
出版者
名古屋大学情報文化学部・名古屋大学大学院人間情報学研究科
雑誌
情報文化研究 (ISSN:13411403)
巻号頁・発行日
no.14, pp.75-88, 2001-10

How does human emotion change with music listening? This study investigated the effects of music listening on unpleasant feeling states. In this research, music had three types of affective value (HAPPY, SAD, HEALING). The affective values of HAPPY and SAD music were measured by AVSM in Pre-test. And HEALING music was chosen among what are generally sold as healing and 1/f music. As the first procedure, subjects were induced the unpleasant feeling states by watching video (what was edited in about 10 minutes) and checked video manipulations (That is feeling states of subject before music listening.). After that they listened to the music (HAPPY music, SAD music, HEALING music), and measured the emotional states after music listening by MMS. And then the affective value of music was measured by AVSM. Subjects were in total 66 participants (SAD group : 22 participants, HAPPY group : 22 participants, HEALING group : 22 participants). The results indicated that unpleasant feeling was reduced after music listening compared with before listen to the music. And it was suggested that HAPPY music reduce unpleasant feelings especially. As a result, HAPPY music will be effective for changing temporary unpleasant feeling, environmental states and mood states. Further, feeling states changed each of music listening. Moreover, it was also suggested that each music could be measured as emotional quality i.e. music has its different affective value.
著者
星 尚志 伊藤 義浩 石川 雄一 南川 敦宣
雑誌
マルチメディア,分散協調とモバイルシンポジウム2018論文集
巻号頁・発行日
vol.2018, pp.554-561, 2018-06-27

近年,小規模な店舗の店舗内における店員のオペレーションの効率化ニーズが高まっており,店員一人ひとりの行動を,様々なセンサを利用した屋内測位技術を利用して把握する試みが広がりつつある.この内,カメラ映像を利用する方式は人物位置を正確に追跡できる方式として特に利用が進んでおり,映像中の店員を識別(同定)する方式として,従来主に (A) 店員に BLE 受信機を所持させ,そのビーコンからの電波受信情報を用いる方式と,(B) 加速度センサを保持させ,その計測値を用いる方式が提案されてきた.しかし (A) は電波受信強度が安定しない移動時において,(B) は加速度の時間変動が小さい静止時において,それぞれ人物識別精度が劣化する課題があった.また,客も含め多数の人物が店内に存在する状況では,複数人物が近い場所に静止している場合や,複数人物が類似した移動をする場合があり,こうしたケースでは (A) (B) 共に人物同定精度が劣化していた.そこで本論文では,映像中の人物動線を静止動線と移動動線に分類し,加速度での人物識別が困難な静止動線は BLE ビーコンの受信情報を利用し,移動動線は店員の計測加速度から算出した速度変化を用いて店員を同定する手法を提案する.これにより,電波強度の安定する静止動線と,加速度の大きな時間変動を計測できる移動動線の双方で精度の高い人物同定が可能となる.提案手法はさらに,人物動線の座標と BLE ビーコン受信情報を基に同定対象とする候補店員を絞り込むことで,多数の人物が店内に存在する状況での人物同定精度劣化も抑制する.実店舗における評価では 4 店舗 275 分間の映像データに対して,既存方式を上回る Precision 80.1%,Recall 72.6% の精度が得られた.
著者
伊藤 幸太 藤原 育海 細田 耕 名倉 武雄 荻原 直道
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム (ISSN:13487116)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.31-41, 2016

<p>二足歩行中のヒト足部変形を3次元的かつ包括的に計測することは, 靴など製品の人間工学設計や, 整形外科における外反母趾の診断等において重要である. 本研究では, 計測物表面の変位・ひずみ分布やその方向を非接触で計測する手法として近年注目されているデジタル画像相関法を用いて, 二足歩行中の詳細なヒト足部の3次元変形動態の計測を行った. 成人男性5名に自由選択速度で歩行を行わせた際の右足部内外側面を計4台のハイスピードカメラを用いて撮影した. 足部表面には水性黒スプレーを用いてランダムな斑模様を塗付し, 模様の時空間的変化から立脚期中の足部の3次元形状変化と皮膚表面のひずみ変化を算出した. その結果, 立脚期前期および後期に立方骨付近の皮膚で特徴的な内外側方向の伸長がみられた. また, 踵離地後に後足部外側が伸長, 内側が収縮することが明らかとなった. 本手法の計測誤差をアルミ平板の形状計測により評価したところ, 約0.1mm以下であり, 歩行中に起きる足部変形量と比較しても十分小さいことを確認した. 本手法により得られる二足歩行中の足部の定量的な変形情報は, 人間工学や整形外科学分野において重要な知見になりうると考えられる.</p>
著者
中条 潮 伊藤 規子
出版者
一般財団法人 運輸総合研究所
雑誌
運輸政策研究 (ISSN:13443348)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.25-32, 1998

<p>本稿は英国とオーストラリアの空港民営化およびニュージーランドの管制の公有商業会社化を紹介することによって,航空下部構造の民営化・商業会社化が価格の低下と投資の拡大を含む良好な成果をもたらすと考えられることを示す.また,民営化・商業会社化を日本で実行するためには,内部補助システムを排除し,思い切った規制緩和を実行し,経営の自由度を保証することが必要であることを述べる.</p>
著者
小田 晃規 伊藤 聡信 辻本 篤 グエン チュン・タン 黒田 重靖
出版者
基礎有機化学会(基礎有機化学連合討論会)
雑誌
基礎有機化学討論会要旨集(基礎有機化学連合討論会予稿集)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.142-142, 2007

ピロリジンと2当量のアルデヒドを加熱・加圧下反応させることで1,3-ジアルキルピロールが簡便に合成できることを見出した。ベンズアルデヒド類およびalpha位にアルキル置換されたアルカナールを用いた反応では中ないし高程度の収率でピロール生成物が得られる。合成した1,3-ジアルキルピロールとTCNEとの反応を検討したところ二種類のトリシアノビニルエチレン置換体が生成物として得られ, 各種スペクトデータならびにX線結晶構造解析からそれらの生成物の構造を確認し、be-ta位置換生成物を主に与えることが判明した。これらの結果ならびに反応機構についての考察について発表する。
著者
伊藤 一男
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
藥學雜誌 (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.81, no.5, pp.703-707, 1961
被引用文献数
3

Presence of water-soluble quaternary bases was examined in the trunk bark of <i>Mechelia compressa</i> MAXIM. (Magnoliaceae) (Japanese name &lsquo;Ogatamano-ki&rsquo;) and a new base, named michepressine, was isolated as its iodide. Its chemical structure was established as <i>l</i>-1, 2-methylenedioxy-10-hydroxyaporphine (<i>l</i>-O-demethyllaureline methiodide), formulated as (VI).
著者
上東 治彦 加藤 麗奈 森山 洋憲 甫木 嘉朗 永田 信二 伊藤 伸一 神谷 昌宏
出版者
日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.109, no.4, pp.310-317, 2014
被引用文献数
1

発酵促進効果のあるチアミンを用いた吟醸酒小仕込み試験を行い,さらに実地醸造でのチアミン添加試験を行った結果,以下のような知見を得た。<br>1.ピルビン酸の残存しやすいAC-95株を用いた小仕込み試験において,チアミンを原料米1トン当たり1 g添加することにより発酵が促進され,ピルビン酸もピーク時で約1/7まで減少した。また,酸度やアミノ酸度は減少し,香気成分は増加した。<br>2.酒質を大きく変えることなくピルビン酸を低減させるためにはチアミン添加量は0.1~0.3 g/トン程度が適当であった。<br>3.チアミンを含む発酵助成剤フェルメイドKの添加によりピルビン酸が減少するとともにアルコール収量は増加した。<br>4.実地醸造においてチアミンを0.1~0.3 g/トン添加した結果,対照に比べモロミ中のピルビン酸が約半分に低下した。
著者
伊藤 恵子
出版者
日本国際経済学会
雑誌
国際経済 (ISSN:03873943)
巻号頁・発行日
vol.71, pp.1-25, 2020 (Released:2020-11-17)
参考文献数
28
被引用文献数
1

本稿は,グローバル・バリューチェーン(GVC)の進展の中,途上国がより高度な工程を担うようになってきたのかどうかを論じる。多くの途上国がGVCへの参加度を高め,特にアジア諸国ではGVC内でより高付加価値の工程を担うケースが増えてきた。しかし,事務・管理機能や物流・マーケティング機能へのシフトは見られても,研究開発機能への特化が進んだケースは中国,韓国,台湾など東アジアの一部の国に限られている。
著者
髙橋 あすみ 土田 毅 末木 新 伊藤 次郎 TAKAHASHI Asumi TSUCHIDA Takeshi SUEKI Hajime ITO Jiro
出版者
日本自殺予防学会
雑誌
自殺予防と危機介入 (ISSN:18836046)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.67-74, 2020-09

本研究では自殺関連語を検索する者の援助要請行動を促しやすいインターネット広告の内容を検討した。広告は基本的内容に加えて、見出しに直接的メッセージ(相談してください)か共感的メッセージ(つらかったですね)のどちらかを含め、説明文に相談手段と支援者情報を組み合わせて8種類を作成した。6種類の自殺関連語を検索した結果として広告一つがランダムに表示されるようにGoogle広告を設定した。広告のリンク先ページからボタンをクリックすると電話相談窓口へ発信することができた。ボタンクリックの有無を従属変数、広告の要素を独立変数としたロジスティック回帰分析を行った結果、見出しは共感的メッセージよりも直接的メッセージの方が約1.6 倍、見出しが共感的メッセージの場合には相談手段を説明に含んだ方が約1.2 倍、ボタンクリックの割合が高くなった。すなわち、自殺の相談を促す広告には直接的メッセージと相談手段を含むことが望ましい。
著者
高山 真一郎 高橋 良当 伊藤 威之 大森 安恵
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.29-33, 1997-01-30 (Released:2011-03-02)
参考文献数
13

CA19-9は膵胆道系悪性腫瘍で上昇するが, 非癌患者でも高値を示すことがある. 血中CA19-9値が著明に高値でLewis血液型抗原はa+, b-を示し, その後血糖コントロールの改善とともに血中CA19-9が低下したインスリン非依存型糖尿病の2例を経験した.症例1: 46歳女性.糖尿病経過中に血糖コントロールHbA1c 12.2%と不良となり同時に血中CA19-9も462 U/mlと高値を示した. Lewis血液型抗原はa+, b-で, 悪性疾患の合併は認めず, その後HbA1c 7.8%と血糖コントロール改善とともに血中CA19-9は41 U/mlまで低下した. 症例2: 62歳女性.糖尿病経過中HbA1c 9.8%と不良となり同時に血中CA19-9も240 U/mlと高値を示した. Lewis血液型抗原はa+, b-で, その後血糖コントロール改善とともに血中CA19-9は正常化した.症例1のように血中CA19-9が著明に高値を示し, 血糖コントロールの改善とともに低下した報告例はなく, 高血糖による影響が示唆された.
著者
吉富 功修 三村 真弓 伊藤 真 徳永 崇
出版者
広島大学大学院教育学研究科音楽文化教育学講座
雑誌
音楽文化教育学研究紀要 (ISSN:13470205)
巻号頁・発行日
no.28, pp.15-24, 2016

Common teaching materials for singing, which are particular songs for generations set by the Ministry of Education in Japan, have been employed for the curriculum guideline. Since 1998, common teaching materials for appraising, which are particular pieces of music set by ministry of education, have not employed for the curriculum guideline. This change came about as a result of fewer music lessons being provided in Japanese schools; it was not because there was any question over the essential significance of the common teaching materials presented. We reviewed the significance of common teaching materials in a previous study. There, we examined how the Fate motif in Beethoven's Fifth Symphony was dealt with in textbooks and teacher manuals. In the present study, we examined The Moldau by Smetana in the same way.
著者
上井 雅史 平野 弘之 伊藤 昭 田中 隆晴 伊東 馨
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.C4P1153, 2010

【目的】変形性膝関節症(以下膝OA)は関節組織の慢性の退行性変化と増殖性変化のため、関節の変形をきたす疾患である。老化現象に機械的な影響が加わり関節軟骨や骨の変形、半月板の変性、磨耗、筋萎縮、筋短縮、結合組織の変性がおきる。関節変形が初期から中期までの場合、保存治療が選択される場合が多い。膝OAに対する一般的なリハビリテーション(以下リハ)の内容は筋力強化が中心で、姿勢調整、動作パターンの改善、減量および生活指導などが行われる。近年では股関節周囲筋の筋力訓練を行うことで歩行能力や姿勢アライメントが改善するという報告がある。大腿四頭筋強化に股関節周囲筋の強化を加えて実施することがすすめられる。運動リハは可動域訓練、筋力訓練など痛みや疲労を伴う。敬遠される場合も少なくない。筋力強化のプログラム内容の増加が患者の負担になり、リハの継続を妨げる可能性がある。膝OAの運動療法は長期にわたるとリハ脱落群の増加が増える。モチベーション維持が大切である。今回、当医院の膝OA患者に大臀筋強化を実施した。その結果、実施前に比較し疼痛の軽減をみた。大臀筋訓練の影響を、文献的考察を交え検討した。<BR>【方法】対象は当医院に通院する、屋外歩行が自立レベルの患者11名14膝。通常の訓練後、歩行時VASを測定し大臀筋トレーニングを実施後、歩行時VASを測定しその前後で比較した。大臀筋トレーニングをMMT測定と同じ腹臥位、膝関節を90度程度屈曲した状態で行った。1クール10回を3セット実施した。腹臥位をとれない患者には側臥位で実施した。疼痛はVisual analog scale(VAS)を使用し0から100の目盛りを患者に示してもらい測定した。統計処理の手法にはt検定を用いた。<BR>【説明と同意】今回の研究は、内容、意義を説明して了解を得た患者に対してのみ実施した。<BR>【結果】大臀筋強化トレーニング実施前のVAS値が2.36±2.84であったものが、実施後には1.64+2.23と実施前に比較し減少(p<0.05)していた。<BR>【考察】膝OAの運動療法は、数多くの研究によって有効であることが知られている。いくつかの前向き、無作為の研究でSLR訓練をはじめとする膝関節伸展筋の強化で、それ単独でも膝OAの疼痛とADL障害の軽快に有効であるといわれる。その効果はNSAIDに優るとも劣らない。大殿筋の強化も骨盤帯の安定性増加や、関節軟骨の変形による股関節内転モーメント減少を緩和し、下肢、膝関節の姿勢アライメントの改善が期待できる。一方、運動療法で一定の効果を得るには、比較的長期の継続が必要である。時により疲労や筋肉痛をともない、長期にわたる筋力強化はモチベーションが大切となる。今回の研究で、大臀筋トレーニング実施前後で、VAS値が2.36±2.84から1.64+2.23と減少を示し、短期でも疼痛の軽減に有意な効果があることがわかった。一時的であっても、膝OAの主症状である疼痛の緩和によって、リハの満足度の向上、モチベーションの維持につながる可能性がある。大臀筋トレーニングは膝関節自体にストレスがない利点もある。疼痛緩和の継続が短いなどの意見や、運動方法、運動強度の設定などがあいまいだともいわれ、今後、比較検討が待たれる。<BR>【理学療法学研究としての意義】膝OAは日本全体で高齢化が進む中でますます増加しつつある。本研究は、大臀筋強化訓練による疼痛の一時的軽減が、膝OA患者のADL維持および、人工関節への移行時期を遅らせるための運動療法の継続を促すと考え行った。
著者
中谷 貴壽 宇佐美 真一 伊藤 建夫
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.387-404, 2007
参考文献数
57
被引用文献数
2

日本列島産ベニヒカゲの種内系統関係を調べるため,aethiopsグループの主要な地理的変異と,外群としてErebia属および近縁属合計6種を用いて分子系統解析を行った.種ランクについては系統樹(近隣結合法と最大節約法による解析では亜種ランクまでのトポロジーは同じため近隣結合法による樹形をFig. 2に示す),地域集団ランクについてはネットワーク樹(統計的節約法)によって解析した. 大陸産近縁種を含む系統関係 種ランクでは,共通祖先種からscoparia, alcnena, neriene, aethiops, niphonicaがほぼ同時期に分岐している事が示唆され,いずれも高いブートストラップ値で支持される.Scopariaとniphonicaが分割されている点を除けば,従来の形質に基づく亜種レベルまでの分類が分子系統的にも支持される.Fig. 2に示すように,scopariaとniphonicaは分布域が地理的に近接しているものの,種ランクの分化が進んでいる事が示唆される.Erebia vidleriはカナダBritish ColumbiaからアメリカWyomingにかけて局地的に分布する種で,E. niphonicaと似ているとの指摘がある.Warren (1936)は1種で1グループとしaethiopsグループの隣に置いている.その生息地は針葉樹林縁の明るい草原であり(Fig. 5d), aethiops (Fig. 5a), neriene (Fig. 5b), niphonicaの生息環境とよく似ている.しかし分子系統的にはaethiopsグループとは遠い位置にある事が示唆された.亜種ランクでの分岐に関しては,E. aethiopsではCaucasus集団(ssp. melusina)の分岐が深く,その他のスイス(ssp. aethiops)・Middle Ural (ssp. goltzi)・Sayan (ssp. rubrina)の集団はあまり分化していない.E. nerieneではAmur地域集団(ssp. alethiops)とSayan・モンゴル集団(ssp. neriene)に分岐している.日本列島産ベニヒカゲ集団については,Sakhalinから2種,北海道から24種,本州から26種のハプロタイプを検出した.ネットワーク樹(Nakatani et al., 2007)によると北海道で3系統,本州で2系統が認められた.北海道産集団(Fig. 3a)は,西部系統が稚内付近から日本海岸沿いに渡島半島まで分布し,中部Sakhalin,利尻・礼文両島の集団も含まれる.広域分布のハプロタイプHA000から狭分布型の多くのハプロタイプが派生している.東部系統はオホーツク海沿岸から道央・日高山脈まで広い範囲に分布する.日高山脈北部に狭分布型のハプロタイプが産する他は,すべてハプロタイプHD000であり遺伝的に均一な集団である.北部系統はネットワーク樹では北部系統に結合されるが,他の系統とは遺伝的距解か離れており,北部の狭い範囲に分布している.本州産集団(Fig. 3b)では,北部系統が東北地方から上越山系の東半分と赤石山脈に分布する.また南部系統は上越山系の西半分と赤石山脈以外の中部山岳に広く分布する.Sakhalin集団では,南部Sakhalin, Yuzhno-Sakhalinsk産は北海道北端の稚内市周辺に限って分布するものと同じハプロタイプであり,また中部Sakhalin, Khrebtovyi Riv. 産は利尻島,礼文島に分布するハプロタイプに近縁なタイプであった.Sakhalinと北海道を分ける宗谷海峡の水深は約60mであり,最終氷河期の約1.1万年前以降に海峡が形成されたとされる(大嶋, 1990, 2000).Sakhalin南部集団は北海道北端集団と遺伝子的に同じ集団であることが確認され,またSakhalin中部の集団も利尻・礼文など北海道北部集団と近縁であることが遺伝子的に確認された.すなわち,宗谷海峡が形成されるまではSakhalinと北海道のベニヒカゲ集団の間には遺伝的交流があったことが裏付けられた.一方利尻島と礼文島を北海道本島と分ける利尻水道の水深は海図によると約80-85mであって,宗谷海峡よりも古い時代から海峡となっていた可能性がある.北海道本島の集団と比較して,利尻・礼文集団の方が,Sakhalin南部産の集団より分子系統的に分岐が古いという結果と整合性がある.大陸とSakhalinを分ける間宮海峡の水深は宗谷海峡よりもさらに浅く,海峡の形成は約4,000年前以降とされる(大嶋,2000).朝日らの調査(朝日ほか,1999;朝日・小原,2004)によるとSakhalinにおけるベニビカゲの分布は北緯51-52°より北では生息が確認されておらず,永久凍土が存在するほど寒冷な気候には適応できないものと推測される.陸化されていてもその環境がベニヒカゲの生息に適さないものであれば往来は不可能である.現在よりも寒冷な氷河期には間宮海峡は陸化していたものの,ベニヒカゲが大陸との間を行き来できる環境ではなく,Sakhalin・北海遠のベニヒカゲ集団は最終氷河期に大陸との間を往来することはなかったと考えられる.これはSakhalin・北海道集団が対岸のAmur地域のnerieneとされる集団とは分子系統的に非常に離れた存在であるという解析結果から示唆される. Aethiopsグループの系統地理 Aethiopsグループの生息環境をみると,aethiops (Fig. 5a), neriene (Fig. 5b), scoparia (竹内, 2003), niphonica (中谷・北川2000;中谷・細谷,2003)は,いずれも針葉樹林内やその林縁の明るい草原が主な生息環境となっている.またalcmenaの生息環境は渡辺(1993;私信)によると,中国甘粛省夏河(Xiahe, Gansu, China)では乾燥した潅木帯(Fig. 5c)である.Aethiopsグループの生息環境と現在の分布域(Fig. 1)からみると,共通祖先種はBaikal湖付近の針葉樹林と草原がモザイク状に拡がる地域を中心に分有していたと推定される.そして環境の悪化(温暖化または乾燥化)によっていくつかの集団に隔離分布したもののうち,東部の分布近縁部にあたるSakhalin・北海道付近でsconariaが分岐し,近縁部南部の中国で乾燥地に適応したalcmenほが分岐した.またSayan・Baikal地域の北部でnerieneが分岐した.Niphonicaは大陸の東南方で分岐した可能性が考えられる.これらの分岐年代はほぼ同時期とみられる.その後の環境改善(寒冷化または湿潤化)期にaethiopsはBaikal, Sayanから西へCaucasus, Uralを経てヨーロッパまで分布を拡大し,niphonicaは日本列島へ進出した.NerieneとaethiopsはSayan, Altaiでも分布を拡大し,Baikal地域からSayanにかけて混生状態を生じた.中国東北部から朝鮮半島北部に分布する集団は現在nerieneとされるが,朝鮮半島北部の集団は本州産niphonicaと同じとする見解(川副・若林,1976)や,移行型がみられるとの指摘(江崎・白水,1951)もあり,今後の調査が期待される.すでに述べたようにaethiopsグループの内,alcmenaを除くタクサはいずれも針葉樹林の林縁を主な生息域としており,乾燥が強い広大な草原には生息していない.このような生態から推定すると,ヨーロッパにおけるErebia epiphron (Schmitt et al., 2006)と同じように,分布を分断され孤立化した集団の隔離は,間氷期の温暖期だけではなく氷河期の乾燥が強い環境下でも起こっていた可能性が考えられる.分岐の年代推定はErebia属全体の進化プロセスの中で検討していく必要がある.
著者
伊藤 博之
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.12-23, 1991

親鸞は、天皇の権威を絶対視する日本の精神風土のなかにあって、天皇制の基盤となった神祇信仰を最も深い次元から批判し、日本共同体の観念を超越した真の普遍思想を日本人に示した思想家であった。世俗の信仰形態はそれが国家の組織に取りこまれたものであったとしても、利己心や我執を離れたものではない。自己本位の利害を祈る迷信にすぎない共同体の神祇崇拝の思想を超越した真実の浄土信仰は、日本人の内面に巣くう天皇制的心性を克服する可能性をひめたものということができる。
著者
伊藤 翔子 高橋 正倫 石川 大
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.53, no.11, pp.1077-1081, 2017 (Released:2017-11-01)
参考文献数
11
被引用文献数
1

近年の腸内細菌分析法の発展により,腸内細菌叢の乱れ(dysbiosis)と様々な疾患との関連が明らかになってきた.潰瘍性大腸炎(UC)もdysbiosisの関与が疑われる疾患の一つであり,dysbiosisを是正する手段として便移植(FMT)に注目が集まっている.しかし,UCに対するFMTの有効性は未だ確立されていない.本稿ではUCに対するFMT,特に抗菌薬療法(AFM療法)をFMTの前治療として併用する抗菌薬併用便移植療法(A-FMT)について概説する.