- 著者
-
伊藤 晃
山村 千絵
- 出版者
- 一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
- 雑誌
- 日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
- 巻号頁・発行日
- vol.14, no.2, pp.134-144, 2010-08-31 (Released:2020-06-26)
- 参考文献数
- 35
【目的】唾液は咀嚼や嚥下に重要であり,唾液分泌が少ない場合は,マッサージや口腔の運動により分泌を促す方法がとられている.しかし,これらを適応できるのは,意識レベルが良好で自発運動が可能な人たちが主である.本研究では,患者さんの状態によらず簡便に行うことができるニオイ刺激に注目し,ブラックペッパーオイル(Black Pepper Oil, 以下BPO)とカルダモンオイル(Cardamon Oil, 以下CO)のニオイを嗅がせることにより,唾液分泌量がどう変化するかを定量的に調べることを目的とした.【対象と方法】被験者は,アレルギー,口腔乾燥症状,嗅覚障害等がない健康な成人男女43 名(男性18名,女性25 名,平均年齢±標準偏差=21.8±1.2 歳)とした.ニオイ刺激の試料はアロマオイル100%の原液を用い,BPO,CO および無臭対照試料のホホバオイル(jojoba oil, 以下JO)の3 種類とした.それらをスティック状のムエットに塗布し,被験者の鼻孔の前30 mm の位置に呈示し,通常呼吸によりニオイを嗅がせた.ニオイを嗅いでいる間の唾液分泌量を30 秒間ワッテ法にて4 回ずつ測定し,その平均値を測定値とした.認知的要因が唾液分泌に影響を及ぼす可能性を排除するため,ニオイ試料の名前の開示は実験終了後に行った.【結果】安静時やJO 刺激時に比べ,BPO 刺激時やCO 刺激時に唾液分泌量が有意に増加した.BPO 刺激時とCO 刺激時の唾液分泌増加量に有意差はなかった.また,男性と女性による増加量の差はなかった.【考察】BPO は島皮質を活性化し嚥下反射の潜時を短縮すること等がすでに明らかになっており,BPO のアロマパッチは嚥下リハビリテーションの臨床に応用されている.さらに,本研究により,BPO やCO には唾液分泌促進効果があることが定量的に示された.ニオイ刺激を用いて,唾液分泌等の口腔内環境を改善させることができる可能性が示唆された.