著者
福田 直子 大宮 あけみ 伊藤 佳央 小関 良宏 野田 尚信 菅野 善明 鈴木 正彦 中山 真義
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集 日本植物生理学会2003年度年会および第43回シンポジウム講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.380, 2003-03-27 (Released:2004-02-24)

同一花弁において着色組織と白色組織が存在する覆輪花弁は、色素生合成の活性化・不活性化の機構を理解するために極めて有効な材料であると考えられる。トルコギキョウの覆輪形成に関与するフラボノイド系色素の生合成について解析した。 先端着色品種では、花弁の成長初期から着色組織にフラボノイドの蓄積が認められ、開花直前からアントシアニンが合成されたのに対し、白色組織では花弁のすべての生育ステージにおいてフラボノイドとアントシアニンの蓄積は認められなかった。一方、基部着色品種では先端着色品種と異なり、花弁の成長初期には全ての組織においてフラボノイドの蓄積が認められたが、花弁の成長に伴い白色組織のフラボノイドは減少していった。両品種とも開花花弁の着色組織と白色組織においてchalcone synthase (CHS)遺伝子の転写産物の蓄積に顕著な差が認められ、白色組織においてCHS遺伝子の転写が特異的に不活性化されていた。トルコギキョウにおいては、CHS遺伝子の組織特異的発現が、覆輪の形成に深く関与していると考えられる。花弁の成長に伴うフラボノイドの蓄積パターンから、先端着色品種ではCHSの不活性化は花弁の成長の初期から起こるのに対し、基部着色品種では花弁の成長に伴いCHSの不活性化が起こると考えられる。それぞれの品種において、CHSの不活性化には、異なる機構が機能していることが示唆された。
著者
飯島 孝四郎 伊藤 理恵
出版者
金原出版
巻号頁・発行日
pp.123-126, 2021-01-01

35歳,男性。8月下旬,栃木県の湿地滞にてヤマビルに両下腿を吸血された。その12日後より,前腕,背部,大腿部に多形紅斑が出現した。発熱などの全身症状は伴わなかった。ステロイド軟膏を外用し,消退した。ヒル咬傷自体は一般的な吸血害虫被害であるが,咬傷部位は容易に治癒し,その合併症もほとんどないことから医療機関を受診することは少ない。本邦においてヒル咬傷による多形紅斑を生じた症例は自験例のみであり,非常にまれな症例と思われた。しかし,昨今の地球温暖化や各地で頻発する水害によりヒル生息域の拡大が懸念されており,今後,多形紅斑以外にも多彩な皮膚症状を呈するヒル咬傷の症例が増加する恐れもある。
著者
松原 賢 三根 崇幸 伊藤 史郎
出版者
日本海洋学会 沿岸海洋研究会
雑誌
沿岸海洋研究 (ISSN:13422758)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.139-153, 2018

珪藻類のSkeletonema 属およびEucampia zodiacus,渦鞭毛藻類のAkashiwo sanguinea,ラフィド藻類のFibrocapsajaponica は有明海奥部においてノリ漁期にブルームを形成し,ノリの色落ち被害を与える有害な植物プランクトンである.これら植物プランクトンの現場海域における増殖特性を明らかにするため,有明海奥部の塩田川河口域において,2008年4月から2013年3月にかけて植物プランクトンの出現動態と各種環境要因の変動を調査した.珪藻類については,Skeletonema 属は6~9月と1~3月に,E. zodiacus は主に2~3月にブルームを形成した.鞭毛藻類については,渦鞭毛藻類のA. sanguinea は主に9~11月の秋季に,ラフィド藻類のF. japonica は8~9月および11月にブルームを形成した.冬季におけるSkeletonema 属およびE. zodiacus のブルームのきっかけはともに水柱における透過光量の増加であることが示唆された.鉛直循環期であっても,出水や小潮により成層が形成されれば,透過光量が増加することも確認された.A. sanguinea およびF. japonica は競合生物である珪藻類が少ない時にブルームを形成する傾向が確認された.
著者
大谷 美奈子 小野 雄一郎 伊藤 岳 垣尾 尚美 兵頭 純子 松本 敏明 高岡 諒 当麻 美樹
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.17, no.4, pp.497-503, 2014-08-31 (Released:2015-01-24)
参考文献数
13
被引用文献数
2

目的:バンコマイシン塩酸塩(VCM)の治療効果と副作用発現は血中濃度と相関しており,治療薬物モニタリング(TDM)が重要である。当院でも以前からTDMを実施していたが,抗菌薬適正使用を目的として,薬剤師が積極的に介入する投与プロトコルを作成し,今回その有用性を検討した。方法:プロトコル運用前にVCMを投与された45症例(非介入群)と運用後に投与された43 症例(介入群)の2 群間の比較検討を行った。結果:初回ローディング実施率は介入前後で50.0%から92.7%へと上昇,初回トラフ値が目標内であった割合は非介入群に比べ,介入群で有意に上昇していた。結論:介入群ではより適切なTDMが実施できており,プロトコルは有用であるといえる。適切な抗菌化学療法の実施は,医師のみならず,薬剤師の積極的な介入が必要であり,その結果,良好な臨床成績につながる可能性がある。
著者
橘 達弘 村田 佳洋 柴田 直樹 安本 慶一 伊藤 実
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.381-392, 2008-01-15
参考文献数
19
被引用文献数
1

多目的遺伝的アルゴリズム(Multi-Objective Genetic Algorithms,MOGA)は,多目的最適化問題を解くために単一目的遺伝的アルゴリズムを拡張した最適化手法である.MOGA では複数の個体群の多様性を維持するための手法であるニッチ法やランク戦略がよく用いられるため,単一目的GA よりさらに計算量が大きくなる傾向がある.本論文では,多目的最適化問題を高速に解くことを目的とし,ハードウェア化のためのMOGA のアーキテクチャを提案する.提案方式では,世代交代モデルとしてハードウェア化に適したMinimal Generation Gap モデルを採用する.既存のニッチ法やランク戦略をパイプライン処理で実装することは困難なため,パイプライン処理に適した多様性を維持する手法を設計,採用した.また,解探索能力の向上のために,島モデル型GA の各島の目的関数を改変した並列GA モデルに即した並列実行方式を設計し,提案アーキテクチャに採用した.実験の結果,提案アーキテクチャによるMOGA 回路はNSGA-II より優れた探索能力を持つことを確認した.Multi-Objective Genetic Algorithms (MOGAs) are enhancement of Single-Objective Genetic Algorithms (SOGAs) to solve multi-objective optimization problems. Since MOGAs require a special selection mechanism such as ranking strategy and niching method to preserve diversity of individuals, MOGAs require larger computation power than SOGAs. In order to improve calculation speed of MOGAs, we propose a new method to easily implement MOGAs as high performance hardware circuits. In the proposed method, we adopt a simple minimal generation gap model as the generation model, which is easy to be pipelined. Since it is difficult to implement niching method and ranking strategy as pipelined circuits, we developed a new selection mechanism which is suitable for hardware implementation. In order to improve search efficiency, our method also includes a parallel execution architecture based on island GA. In this architecture, we use different objective function for each island. Through experiments, we confirmed that our method has higher search efficiency than NSGA-II.
著者
伊藤 壽一
出版者
日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.175-180, 2014

要旨: 1985年に我が国で最初に人工内耳手術が行われてから30年近くになり, すでに7000人以上の方が手術を受けている。人工内耳は高度難聴に悩む方への福音となっている。各人工内耳機器の改良, 適応の拡大などによって, さらに今後手術を受ける方が増加していくものと考えられる。一方, 現在の人工内耳の適応が適切か, 手術後のリハビリテーション施設数, 言語聴覚士の数の問題, 聴覚以外のコミュニケーション手段との関係, 人工内耳機器の取り換え (アップグレード), 人工内耳に関わる費用の問題など検討すべき課題も多い。本稿では表1の各項目に関し, 人工内耳医療の現状とその問題点を, 医学のみでなく, 社会医学的な問題として解説する。
著者
伊藤 文人
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.143・144, pp.57-79, 2021-03-31

本論考は,「社会福祉発達史」の視点と方法に関する戦後社会福祉学史上の意義と限界を明らかにしていく作業の一環として設定される.本論考では,「社会福祉発達史」という研究対象が生まれた背景としての戦後社会科学の知性史の一端にも触れつつ,そうした当時の知的環境のなかでこの研究領域を開拓した故高島進(1933-2016)がどのような問題意識を以てこれと対峙してきたのか,1970 年代初頭において提起された「社会福祉三段階発達史論」の到達点までの足跡を明らかにしながらその意義を考察するものである.
著者
中村 一文 赤木 達 岩野 貴之 江尻 健太郎 杜 徳尚 伊藤 浩 清水 一好 岩崎 達雄
出版者
一般社団法人 日本心臓血管麻酔学会
雑誌
Cardiovascular Anesthesia (ISSN:13429132)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.7-12, 2021-08-01 (Released:2021-10-15)
参考文献数
26

肺動脈性肺高血圧症は血管収縮,血管リモデリングなどにより肺動脈内腔の狭窄・閉塞を来たし,肺動脈圧の上昇と右心不全を引き起こす疾患である。本稿では肺循環の生理と肺動脈性肺高血圧症の病態生理をふまえて治療法を述べてみたい。まず肺循環の生理には三つの特徴がある。1) 体循環系に比べて低圧系・低抵抗系かつコンプライアンスが大きい。2) 低酸素性肺血管攣縮がある。3) 三つの生理活性物質(プロスタサイクリン・一酸化窒素・エンドセリン)により調節されていることである。これらは早期発見・治療の重要性,酸素投与,三系統の特異的肺血管拡張薬についての理解にそれぞれ結びつく。次に肺動脈性肺高血圧症の病態生理として肺血管の収縮とリモデリングがある。これらは三系統の薬剤の初期からの多剤併用療法の必要性につながる。
著者
伊藤 昌毅 諸星 賢治 太田 恒平 森山 昌幸 神田 佑亮 藤原 章正
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.76, no.5, pp.I_1465-I_1475, 2021 (Released:2021-04-20)
参考文献数
15

2018 年に発生した西日本豪雨の被災地では多くの道路や鉄道が寸断され,住民や訪問者の移動に困難が生じた.バスや鉄道などは運行を確保にできる限りの手を尽くしたが,Web や乗換案内アプリケーションでは正確な案内が出来ておらず,公共交通の利用は困難であった.本論文では,災害時に公共交通情報を地域住民や訪問者に届ける方法を論じ,西日本豪雨における実践を通じて有効性を示す.情報を一箇所に集約することは災害時には現実的ではないため,それぞれの交通事業者が出来る範囲で情報発信を行い,乗換案内などからリンクを張るという自律分散的な情報提供を実現した.時刻表通りの運行が困難な状況で役に立つバス運行実績情報や代行バスの位置情報といったリアルタイム情報を提案手法でまとめ,総合的な交通情報の把握を可能にした.
著者
隠塚 俊満 中山 奈津子 伊藤 克敏 持田 和彦
出版者
国立研究開発法人水産研究・教育機構
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

作用機序の異なる11種の除草剤の珪藻キートセロスおよび鞭毛藻ヘテロシグマに対する急性毒性を検討した結果、珪藻はブロマシルなど光合成の光化学系Ⅱ阻害剤に対してより高い感受性を示した。また、近年赤潮が頻発している福山港の環境水中除草剤濃度を測定した結果、環境水中濃度は毒性値より50倍以上低い濃度であった。さらに、福山港表層の微細藻類計測値から微細藻類の多様度変化検討し、多様度を説明する環境パラメータを検討した結果、ブロマシル濃度は多様度変化と有意な相関が認められた。そのため、除草剤は実環境中で鞭毛藻赤潮の発生を含む微細藻類の群集構造に影響を及ぼしている可能性が想定された。
著者
伊藤 将司 柴田 貴徳 青島 縮次郎
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木計画学研究・論文集 (ISSN:09134034)
巻号頁・発行日
no.17, pp.29-36, 2000

本研究では第一に、視覚的情報によって形成される「感じのいい都市」のイメージ形成要因を実験的に把握整理した。また第二には、個々人の潜在意識レベルでのイメージ共有化の前段となる、個人の持つイメージの再編プロセスの研究を行った。そして第三に、心理学の潜在意識把握手法 (P-Fテスト) を援用した個人的潜在意識の把握及び、合意形成後の意識情造の把握を行った。これらの基礎的研究によって得られた知見を整理しつつ、個人的潜在意識レベルでのイメージ共有化手法のための方向性を提起した。
著者
関 復華 小林 直樹 渡辺 和子 伊藤 清隆 荒木 洋之助 石戸 良治
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1985, no.10, pp.2040-2047, 1985-10-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
67
被引用文献数
3

2,3,5-トリ-O-ベンジル-D-リボフラノース[1]を石川試薬(ヘキサフルオロブロペンージエチルアミン)で処理することによって2,3,5-トリ-O-ベンジル-α-および-β-D-リボフラノシル=フルオリド[2α]および[2β]がそれぞれ21.4%および63.8%で得られた。[2α]あるいは[2β]とイソプロペニル=トリメチルシリル=エーテル[3]乏を微量の三フッ化ホウ素ジエチルエーテラートを触媒として反応させると両者とも高収率高選択的に(2,3,5-トリ-O-ベンジル-α-D-リボフラノシル)アセトン[4α]を与えた。[4α]は三フッ化ホウ素ジエチルエーテラートと長時間処理すると[4β]に異性化し[4α]:[4β]=1:2.5の混合物を与えた。さらに[2β]と[1]あるいは2,3,5-トリ-O-ベンジル-1-O-トリメチルシリル-β-D-リボフラノース[6]とを三フッ化ホウ素ジエチルエーテラートを触媒として反応させることにより高収率で2,2ノ,3,3ノ,5,5'-ヘキサ-O-ベンジル-(β-D-リボフラノシル=β-D-リボフラノシド)[5β]を与えた。その他,関連した選択的リボフラノシル化反応について述べた。
著者
北村 繁 伊藤 伸幸 柴田 潮音
出版者
弘前学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

従来、中米・エルサルバドル共和国中部に位置するイロパンゴ火山で4世紀頃に巨大噴火によって、広い地域で火山灰が厚く堆積し、当時の古代メソアメリカ文明は壊滅的な影響を被ったとされてきた。本研究では、火山灰の堆積状況を現地で調査した結果、壊滅的な被害を被ったのは、火砕流が到達した火山から40km 程度の範囲、および、土石流が流下したレンパ川下流域などに限られ、それ以外の地域では、火山灰の堆積量が少なく、壊滅的な影響が生じなかった可能性が高いことが明らかとなった。
著者
伊藤 晃 山村 千絵
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.134-144, 2010-08-31 (Released:2020-06-26)
参考文献数
35

【目的】唾液は咀嚼や嚥下に重要であり,唾液分泌が少ない場合は,マッサージや口腔の運動により分泌を促す方法がとられている.しかし,これらを適応できるのは,意識レベルが良好で自発運動が可能な人たちが主である.本研究では,患者さんの状態によらず簡便に行うことができるニオイ刺激に注目し,ブラックペッパーオイル(Black Pepper Oil, 以下BPO)とカルダモンオイル(Cardamon Oil, 以下CO)のニオイを嗅がせることにより,唾液分泌量がどう変化するかを定量的に調べることを目的とした.【対象と方法】被験者は,アレルギー,口腔乾燥症状,嗅覚障害等がない健康な成人男女43 名(男性18名,女性25 名,平均年齢±標準偏差=21.8±1.2 歳)とした.ニオイ刺激の試料はアロマオイル100%の原液を用い,BPO,CO および無臭対照試料のホホバオイル(jojoba oil, 以下JO)の3 種類とした.それらをスティック状のムエットに塗布し,被験者の鼻孔の前30 mm の位置に呈示し,通常呼吸によりニオイを嗅がせた.ニオイを嗅いでいる間の唾液分泌量を30 秒間ワッテ法にて4 回ずつ測定し,その平均値を測定値とした.認知的要因が唾液分泌に影響を及ぼす可能性を排除するため,ニオイ試料の名前の開示は実験終了後に行った.【結果】安静時やJO 刺激時に比べ,BPO 刺激時やCO 刺激時に唾液分泌量が有意に増加した.BPO 刺激時とCO 刺激時の唾液分泌増加量に有意差はなかった.また,男性と女性による増加量の差はなかった.【考察】BPO は島皮質を活性化し嚥下反射の潜時を短縮すること等がすでに明らかになっており,BPO のアロマパッチは嚥下リハビリテーションの臨床に応用されている.さらに,本研究により,BPO やCO には唾液分泌促進効果があることが定量的に示された.ニオイ刺激を用いて,唾液分泌等の口腔内環境を改善させることができる可能性が示唆された.