著者
岩島 範子 金子 信博 佐藤 邦明 若月 利之 増永 二之
出版者
日本土壌動物研究会
巻号頁・発行日
no.88, pp.43-53, 2011 (Released:2012-12-06)

キシャヤスデとミドリババヤスデは周期的にかなり大きなバイオマスで出現する大型土壌動物であり,それらが摂食活動を通じて生態系の物質循環に及ぼす影響を調べた。これら2種の成虫のヤスデについて,餌の違い,種の違い,生育密度の違いが,糞の化学性に及ぼす影響について室内の飼育実験により比較した。八ヶ岳土+針葉樹リター+キシャヤスデ(キシャY),三瓶山黒ボク土+落葉広葉樹リター+キシャヤスデ(キシャS),三瓶山黒ボク土+落葉広葉樹リター+ミドリババヤスデ(ミドリS),三瓶山黒ボク土+落葉広葉樹リター+ミドリババヤスデ(高密度)(ミドリS密)の4系で1週間飼育後,糞を採取した。糞,土壌及びリターの全炭素・全窒素,強熱減量を測定し,糞と土壌については培養による二酸化炭素発生量,無機態窒素も測定した。その結果,以下に示すようなことがわかった。1)いずれの成虫も土壌とリターを摂食した。2)キシャヤスデにおいては生息地以外の土壌とリターに変えても土壌とリターの混食を行った。3) キシャヤスデは針葉樹リターも広葉樹リターも摂食し,リターの摂食割合もほぼ同程度であった。4) ミドリババヤスデの方がキシャヤスデよりもリターの摂食割合が多かった。5) ミドリババヤスデは高密度にすると土壌を食べる割合が大きくなった。餌や種,また,密度の変化に伴う糞の化学性及び有機物分解の促進と無機態窒素の放出特性の変化は,1)リターの摂食割合の増加は,糞中の全炭素・全窒素及びCN比を増加させた,2) 糞中のリター由来の有機物の増加は,8週間培養における糞の二酸化炭素発生量を促進させた,3) CN比の増加は糞中の無機態窒素の有機化を生じさせ,無機態窒素の放出を遅らせた。
著者
佐藤 雅彦
出版者
The Philosophy of Science Society, Japan
雑誌
科学哲学 (ISSN:02893428)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.67-84, 2016-07-31 (Released:2016-11-10)
参考文献数
16

“The Full Picture of Frege’s Philosophy” (Keiso Shobo, 2012) by Kazuyuki Nomoto gives a detailed account of Gottlob Frege’s life devoted to a failed attempt to develop mathematics formally and entirely from scratch based upon his logicism and his semantical understanding of mathematical entities. In the present paper, I review the book and recommend it as a challenging and inspiring book to anyone who wishes to understand the modern meaning of Frege’s philosophy.
著者
青木 奈穂 笠原 帆乃佳 佐藤 吉朗
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.62, no.6, pp.175-179, 2021-12-25 (Released:2021-12-25)
参考文献数
16

食品には,本来感じられないにおいが感じられることがある.我々はこのにおいをオフフレーバーと呼んでいる.牛乳においても,餌あるいは乳牛の体調によりヘキサナールのようなオフフレーバーが感じられることはよく知られている.我々はすでに市販牛乳からオフフレーバー物質として2-ヨード-4-メチルフェノール(以後2I4MPと略称する)を初めて発見し,その構造を明らかにした.今回,以下の3点について検討した.第一にどのような化合物を出発物質として2I4MPが生成されたのか.この問題は有機合成手法を用いて推定し,候補物質としてp-クレゾールを挙げた.第二に牛舎内でどのようにして2I4MPが発生したのか.牛から排泄された牛糞にヨウ素を作用させることによって2I4MPが発生のすることを確認した.第三に,2I4MPがどのようにして生乳に移行したのか.デシケーターを用いたモデルを作成して移行推定を実施し,2I4MPが牛舎内で生乳に移行する可能性を示した.この結果から,2I4MPを牛乳中に混入させないための方策を提案した.すなわち,搾乳時に乳房殺菌に使用されるヨウ素系殺菌剤を他の殺菌剤に代替する,あるいはヨウ素系殺菌剤を牛糞や床敷きに落下させないようにする.以上を守ることが重要である.
著者
富永 一登 佐藤 大志 朝倉 孝之 岡本 恵子 増田 知子
出版者
広島大学学部・附属学校共同研究機構
雑誌
学部・附属学校共同研究紀要 (ISSN:13465104)
巻号頁・発行日
no.39, pp.195-200, 2010

古典重視を標榜した新指導要領の具体化において, 単に旧来の指導の踏襲ではない方向性を模索した結果, 近現代の作品を入り口にすることが親しみやすい漢詩・漢文の学習に繋がると提案した一昨年度, その具体的な授業構想に取り組み, 教材化への条件を明らかにした昨年度を承けて, 今年度は実際の授業を行った。王維「九月九日憶山東兄弟」詩は, 年齢が近いことからも理解しやすく見える作品だが, 実際には生徒にとって心情を理解するのは容易ではない。そこで, さだまさし「案山子」を合わせたところ, 一挙に身近な作品となった。また, 岑参「磧中作」詩は, 自身の実体験に基づく辺塞詩であるが, 生徒にとっては非日常の世界である。しかし, 大岡昇平「野火」との出会いで, 戦争はけっして生徒自身と無関係ではないこと, また生身の人間が生きているとはどういうことかを深く考えさせることができた。このように現代と繋がるとき, 漢詩・漢文は漢字を通じて一挙に現代に立ち現れる。他にも渡辺淳一の「孤舟」が広く中国文学に根ざした言葉であったことや, 綾香の歌う「三日月」と杜甫「月夜」との比較等, 近現代の作品を入り口にした授業のさらなる可能性を見ることができた。
著者
佐藤 康弘 福土 審
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.26-30, 2020

<p>神経性やせ症, 神経性過食症に代表される摂食障害は, 多様な合併症状を呈し, 治療をさらに困難にしている. 神経性やせ症患者では, 極度の栄養不足と脱水から, 肝機能障害, 腎不全, 便秘, 脱毛など, 全身に多様な症状が出現する. 中でも低血糖, 電解質異常に起因する不整脈, 治療介入初期の再栄養症候群は死につながる危険性がある. 成長期における身長増加の停滞, 骨粗鬆症は体重回復後も影響が残る可能性がある. 過食排出型患者では自己誘発嘔吐によるう歯や, 嘔吐, 下剤, 利尿剤乱用による電解質異常が深刻な問題となる. 一方精神面では神経性やせ症でも神経性過食症でも不安, 抑うつなどの精神症状や, パーソナリティ障害の合併を認めることは多く, 治療上の障害となっている. ED患者の治療には, 心身にわたる合併症状への適切な対処が求められる. </p>
著者
佐藤 皇太郎
出版者
一般社団法人 画像電子学会
雑誌
画像電子学会年次大会予稿集
巻号頁・発行日
vol.34, pp.93-94, 2006

多数の物体に付加されたIDを低コストで一気に読み取るためには、それらの物体上に印刷された粗い2次元コードを安価な1台のカメラで撮像し画像認識する方法が有効である。しかし、単に粗い2次元コードを用いただけでは、切り貼りによって比較的容易に別のIDのコードを偽造される恐れがある。そこで本研究では、メロンの皮の模様のような図形の中に数値を埋め込むことで2次元コードの切り貼り偽造を防止し、同時に高速かつ低コストの画像認識システムを構築できたので報告する。
著者
佐藤 輝明 中田 誠
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 = Journal of the Japanese Forest Society (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.90, no.6, pp.364-371, 2008-12-01
参考文献数
35
被引用文献数
2

耕作放棄後約40年が経過し、現在は森林になっている新潟県佐渡島の中山間地にある放棄棚田において、森林の成立に関わる要因を調査した。本調査地では、コナラやクリを主とした樹木の侵入が棚田の放棄前後から始まり、その後20年くらいの間に徐々に進んでいた。放棄棚田における森林の成立には、斜面位置による地下水位と、棚田面・畦・法面といった微地形による土壌の水分環境が強く影響していた。斜面上側では地下水位が低いために土壌含水率が高くなく、棚田面・畦・法面にともに樹木が生育していた。しかし、斜面下側ほど地下水位が高いために棚田面の土壌含水率が高く、樹木は過湿な土壌環境が緩和された畦や法面におもに生育し、それらによって林冠が閉鎖されていた。法面では傾斜が土壌含水率や樹木の生育に影響を与えていた。棚田の微地形間での樹種分布の違いには、種子の散布様式や土壌の水分環境に対する生理的な耐性も関係していると考えられた。
著者
大久保 紀一朗 佐藤 和紀 山本 朋弘 板垣 翔大 中川 哲 堀田 龍也
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
pp.45075, (Released:2021-10-19)
参考文献数
25

本研究では,小学校社会科の農業の学習においてドローンを用いたプログラミング教育を実践し,テクノロジーを米作りへ活用する必要性の理解に関する効果について検証した.授業の事前事後において,米作りへの参画意識に関する調査への回答と,米作りに関連すると考えられる仕事の記述をさせた.その結果,ドローンを用いたプログラミング教育が,ドローンを米作りに活用することを想起させることに有効であり,米作りへの参画意識を育むことが示唆された.また,授業の事後において米作りに対するイメージを自由記述で回答させ,テキストマイニングによる分析を行った.その結果,ドローンを用いたプログラミング教育を経験することにより,ドローンを米作りに活用することの必要性を理解するとともに,人が担う役割について再考するなど,これからの米作りに必要なことについての思考を促すことが示唆された.
著者
石川 信一 美和 健太郎 笹川 智子 佐藤 寛 岡安 孝弘 坂野 雄二
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.17-31, 2008-09-30 (Released:2019-04-06)

本研究の目的は、日本語版Social Phobia and Anxiety Inventory for Children(SPAI-C;Beidel et al.,1995)を開発することであった。本研究の対象者は小学生859名(男子434名、女子425名)であった。因子分析の結果、SPAI-Cは「対人交流場面」「パフォーマンス」「身体症状」の3因子構造であることがわかった。再検査信頼性、およびCronbachのα係数から、本尺度は十分な信頼i生をもつことがわかった。妥当性分析の結果、本尺度はスペンス児童用不安尺度(Spence,1997)と日本語版State-TraitAnxietyInventoryforChildren(曽我,1983)と中程度の正の相関関係にあることがわかった。多変量分散分析の結果、女子が男子よりも社会不安の症状を多く報告することが明らかにされた。最後に、日本の児童の社会不安症状の特徴とSPAI-Cの有用性について議論がなされた。
著者
浦瀬 太郎 川野 唯人 佐藤 美桜
出版者
公益社団法人 日本水環境学会
雑誌
水環境学会誌 (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.83-90, 2022 (Released:2022-03-10)
参考文献数
40

水環境中の薬剤耐性菌についての2000年代初頭の研究事例との比較を目的に、神奈川県内の金目川, 大根川, 渋田川, 鶴見川において, 2019年に大腸菌の様々な抗生物質への耐性率を調べた。下水道の普及率が高い地域においても, セフォタキシム耐性に代表されるヒト由来の大腸菌にしばしばみられる耐性プロファイルを持った大腸菌が多く検出され, 採水場所付近の合流式下水道の越流水の影響や伴侶動物の関与が示唆された。一方, テトラサイクリンとスルファメトキサゾールに同時に耐性を持つ株が渋田川で多く検出された。2000年代初頭の同じ場所での大腸菌における耐性調査に比較して, 今回の調査では, 畜産に関連すると考えられる耐性や一般的な耐性であるアンピシリンへの耐性率が有意に減少した。レボフロキサシンやゲンタマイシンなどへの耐性率は増加したが統計的に有意な増加ではなかった。
著者
佐藤 潤司
出版者
日本メディア学会
雑誌
マス・コミュニケーション研究 (ISSN:13411306)
巻号頁・発行日
vol.93, pp.77-96, 2018-07-31 (Released:2018-10-13)
参考文献数
14

This paper discusses the danger that the BPO, which should be obliged toact as a bulwark against public authorities intervening in program production,may threaten the freedom of broadcasting and intimidate broadcasters. The aim of this paper is to investigate several cases in which TV stationssubmitted their reports in order to officially express objections to BPO’s decisionsand to clarify the problems of these decisions and issues that the BPOshould resolve. Through the examination of four cases that fit the above conditions, someproblematic decisions were revealed which the BRC, one of the BPO committees,had made. These include one case in which the BRC pointed out ethicalproblems in TV programs based on a misunderstanding of the facts and mistakeninterpretations by the BRC, and another case in which they concludedthat human rights were violated based on information that had not been broadcasted. The BRC should have an obligation to examine factual information, conductverification, clarify the standards of judgment, share their understanding ofbroadcasting ethics with TV stations, in order to make equal and fair judgmentsto regain the trust of broadcasters.The BPO should take these BRC-related problems seriously and become atrue guardian of the freedom of broadcasting, defending the media from theauthorities that intend to intervene in the broadcasting industry.
著者
佐藤 美由紀
出版者
一般社団法人 日本女性科学者の会
雑誌
日本女性科学者の会学術誌 (ISSN:13494449)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.9-13, 2013 (Released:2013-05-27)
参考文献数
14

卵子は受精によってすべての細胞に分化しうる胚へと変化する。モデル生物である線虫fertilizationを用いた解析から、この時期には発生と連動して分泌・エンドサイトーシス・オートファジーといった細胞内輸送系が制御され、細胞内外成分の再編成が起きることが明らかとなってきた。また受精卵において、オートファジーは精子から持ち込まれた父性ミトコンドリアとそのゲノムの分解を担うことを見出した。多くの動植物においてミトコンドリアゲノム(mtゲノム)が母系からのみ子孫に受け継がれる母性遺伝という現象が知られているが、そのメカニズムはよくわかっていなかった。われわれの結果から、オートファジーによる父性ミトコンドリア分解がmtゲノムの母性遺伝を成立させるために必須なメカニズムであることが明らかとなった。
著者
本多 健二 佐藤 誠
出版者
一般社団法人映像情報メディア学会
雑誌
映像情報メディア学会技術報告 (ISSN:13426893)
巻号頁・発行日
vol.37, no.56, pp.5-8, 2013-12-02

画像処理における基本処理に,対象の境界検出がある.本稿では,境界検出手法の一つである零交差線による境界検出について検討する.画素(x,y)の濃度値f(x,y)に対して,勾配を∇f,ヘッセ行列をHとしたとき,幾何学的な対象の境界を表す零交差線としては,ラプラシアン法で用いられるtrH,また,Canny法で用いられる(∇f,H∇f)の零交差線の2つが考えられるが,本稿では特に(∇f,H∇f)について検討する.(∇f,H∇f)の零交差線は,幾何学的には,曲線f(x,y)の変曲点,すなわち,画像の極大点から湧き出し,極小点へと流れ込む流線の変曲点を求めることと等しい.通常,ディジタル画像処理において(∇f,H∇f)を処理する場合には,微分を差分に置き換えた局所オペレータを用いる方法が使われる.本稿では,(∇f,H∇f)の幾何学的意味に戻り,実際に極大点から極小点へと流れる流線を定義し,流線に沿って変曲点を解析することにより,濃淡画像の零交差線を検出する手法について検討する.そして,従来の差分による手法との間に結果の差異があるかを実験的に確認する.
著者
佐藤 徹 松峯 敬夫 西田 広一郎 松尾 聰 福留 厚
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.51, no.11, pp.2478-2482, 1990

Peutz-Jeghers症候群の重要な合併症として腸重積があるが,今回われわれは腸重積を繰返し,4回目の開腹術を施行した1例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する. <BR>症例は39歳男性で15歳時にPeutz-Jephers症候群と診断されて以来,計3回の開腹術の既往があった,今回イレウスの診断にて転院となり精査にて腸重積を疑い緊急手術を施行したところ,小腸ポリープを先進部とした腸重積に加えて軸方向360度の捻転を認め,絞扼性イレウスと診断,90cmの小腸切除術を施行した.他に十二指腸水平脚に巨大なPolypを認めたが,術後内視鏡的にポリペクトミー施行し,経過良好である.PeutzJeghers症候群は本症例の如く腸重積を繰返す場合がある.特に,多次手術例ではその術前診断に苦慮することがあり,定期的なfollow upと適確かつ迅速な手術適応の判断が必要である.