著者
長橋 聡 新井 翔 佐藤 公治
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.113, pp.81-108, 2011-08-22

【要旨】本論では,ヴィゴツキーがゲシュタルト心理学の立場から展開された発達理論に関してその理論的可能性についてどのような立場を取っていたのかを考察する。ヴィゴツキーはゲ シュタルト心理学に対しては,行動主義が取った要素還元主義を超えるものとして肯定的な評価を下している。このことは,彼の多くの著書で明らかになっている。ヴィゴツキーがゲシュ タルト派の発達理論に対してどのような批判的検討を行っていたのかを明らかにすることは,ヴィゴツキーの発達に対する理論的姿勢を明確にしていくことでもある。ここではゲシュタル ト派発達論として知られるクルト・コフカの理論についてヴィゴツキーが行った批判論文とその内容を検討する。併せて同じゲシュタルト派発達心理学者のクルト・レヴィンの理論に対し てヴィゴツキーがどのような考え方を取っていたのかを考察する。
著者
佐藤 豊
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.203-212, 2002-07-30
被引用文献数
1

0歳児から2歳児までの47名(男児26名,女児21名)を対象とし,各種機能発達過程に関してコホート研究を実施した。原始反射の消失時期,体位保持機能,口腔周囲の運動機能,跳躍などの運動能力,言語機能の獲得時期,食事形式の変化と発達時期および歯の萌出時期の各項目について,早期獲得群と運期獲得群とを比較し,各機能の相互関連性を検討した。探索反射,吸綴反射,咬反射の消失時期の早い小児では,早期に首がすわり,座位をとり,這いずりができていた。また,早期に口を閉じて液体を飲み,口唇捕食や口唇および目角を複雑に動かし,下顎を上下運動させ,舌で食物を押しつぶして食べることができ,さらに手づかみで食べる機能獲得も早く,喃語の出現も早期に認められた(p<0.05)。しかし,走る,その場で跳躍する,片足で立つなどの機能との間に関係は認められなかった。早期に首がすわり,座位をとり,這いずりや歩行ができた小児では,口を閉じて液体を飲む口唇捕食,口唇の複雑な運動,口角の左右対称な運動,下顎上下運動,舌での押しつよし食べ,歯槽堤での咀嚼および手づかみで食べるなどの機能が早期に獲得されていた(p<0.05)。原始反射消失が早い小児では,体位保持機能,口腔周囲機能の獲得が早期にみられたが,食事形式,言語機能,運動機能については早期に獲得されていない領域も認められ,特に摂食機能や言諸機能については,発達段階に即した日常の育児のなかでの適切な学習プログラムが重要であると思われた。
著者
佐藤 公則
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.197-204, 2013 (Released:2013-10-25)
参考文献数
10
被引用文献数
2 3

1)職業歌手は話声(日常会話)には支障がない程度の,喉頭所見に乏しい微細な声帯病変でも歌声の異常を訴えた.2)主訴は,歌声の高さに関連した歌声の質に関するものが多く,多種多様であった.必ずしも音色(音質)の障害(嗄声)を訴えなかった.3)治療法の選択は音声障害の程度,声帯の病態に加えて声のemergencyを考慮して決定すべきであった.4)職業歌手の診療でも音声障害の病態の把握と病態に応じた治療が重要であり,他の音声障害の診療と何ら変わることはなかった.5)職業歌手の声帯の器質的病変に対する手術は,喉頭微細手術による緻密な手術手技が必要であった.6)職業歌手の音声障害を診療するためには,歌声を含めた発声の生理・病理・病態生理・声帯の組織解剖の理解と熟練した手術手技が不可欠であった.
著者
相田 潤 深井 穫博 古田 美智子 佐藤 遊洋 嶋﨑 義浩 安藤 雄一 宮﨑 秀夫 神原 正樹
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.270-275, 2017 (Released:2017-11-10)
参考文献数
15

健康格差の要因の一つに医療受診の格差がある.また歯科受診に現在歯数の関連が報告されている.日本の歯科の定期健診の格差に現在歯数を考慮し広い世代で調べた報告はみられない.そこで定期健診受診の有無について社会経済学的要因と現在歯数の点から,8020推進財団の2015年調査データによる横断研究で検討した.調査は郵送法の質問紙調査で,層化2段無作為抽出により全国の市町村から抽出された20-79歳の5,000人の内,2,465人(有効回収率49.3%)から回答が得られている.用いる変数に欠損値の存在しない2,161人のデータを用いた.性別,年齢,主観的経済状態,現在歯数と,定期健診受診の有無との関連をポアソン回帰分析で検討しprevalence ratio(PR)を算出した.回答者の平均年齢は52.4±15.5歳で性別は男性1,008人,女性1,153人であった.34.9%の者が過去に定期健診を受診した経験を有していた.経済状態が中の上以上の者で39.7%,中の者で36.4%,中の下以下の者で28.5%が定期健診の受診をしていた.多変量ポアソン回帰分析の結果,女性,高齢者(60-79歳)で受診が有意に多く,経済状態が悪い者,現在歯数が少ない者で有意に受診が少なかった.経済状態が中の上以上の者と比較した中の下以下の者の定期健診の受診のPR は0.74(95%信頼区間=0.62; 0.88)であった.定期健診の受診に健康格差が存在することが明らかになった.経済的状況に左右されずに定期健診が受けられるような施策が必要であると考えられる.
著者
崔 在和 佐藤 裕
出版者
The Geodetic Society of Japan
雑誌
測地学会誌 (ISSN:00380830)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.159-180, 1997

最近完了した韓:国の新精密測地測量の成果と,1910-1915年に実施された旧三角測量の成果との比較から,韓国における過去約80年間の地殻水平歪みを求めた.韓国の最大剪断歪み速度の平均は0.12μ/yrで,日本の値の約1/3程度であり,その分布パターンは,韓国の地震活動の空間分布と調和的である。圧縮歪み主軸方位の平均はN80°Eである.この歪み主軸方位は,韓半島周辺の地震メカニズムのP一軸方位分布と良く対する.面積歪みは,新旧測量のスケール誤差のため,求めていない.
著者
三島 利紀 小澤 治夫 佐藤 毅 樽谷 将志 西山 幸代
出版者
北海道教育大学
雑誌
釧路論集 : 北海道教育大学釧路分校研究報告 (ISSN:02878216)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.139-144, 2006

高校生の生活と貧血の実態がいかなるものかを明らかにする事を目的として本調査を行った。調査対象は、北海道内のK校に通う602名(男子510名、女子92名)、関西圏のY校に通う338名(男子207名、女子131名)である。調査は、K校が食事・睡眠・運動など生活や健康についてのアンケートと血色素量の測定、Y校は血色素量の測定のみで、単純集計した。K校においては、生活・健康アンケートと血色素量の関係をみることとし、Y高校に関しては、K校との血色素量比較をすることとした。結果、1.K校の22.0%、女子19.6%、Y校男子55.1%、女子45.0%に基準血色素量を下回る者が見られた。2.両校とも女子より男子に多かった。3.K校において、手の冷たい学生が貧血傾向を示した。4.K校の寮・下宿・アパートに生活する学生に貧血傾向が見られた。5.K校において、睡眠不足・運動不足傾向の学生が多く、そうした生活習慣が貧血に影響している傾向が見られた。一般的に女子に多いといわれる貧血であるが、運動・食事等が充実していた男性に多くなってきたことは、大きな問題であり、睡眠・食事・運動といった生活習慣の見直しが男女問わず求められることが示唆された。
著者
佐藤 雅彦 浦野 弘 SATO Masahiko URANO Hiroshi
出版者
秋田大学教育文化学部附属教育実践研究支援センター
雑誌
秋田大学教育文化学部教育実践研究紀要 = BULLETIN OF THE CENTER FOR EDUCATIONAL RESEARCH AND PRACTICE FACULTY OF EDUCATION AND HUMAN STUDIES AKITA UNIVERSITY (ISSN:24328871)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.127-136, 2017-03-31

神山(2006),大城・笹森(2011),佐々木・武田(2012)による既存の調査結果をもとに,通級指導教室および特別支援学級の教育課程編成の現状を調査した.その結果は,学校全体の教育課程の編成に関して加古(2006)が指摘している編成主体の偏り,その弊害と思われる教員の負担増加や孤立が,特別の教育課程の編成および個別の指導計画作成でも認められることを明らかにしている.さらに,特別支援教育担当教員が指摘する課題は,連携や情報交換・共有の不足に関連したものが多いこと,そしてそれらが通級指導教室と特別の教育課程による特別支援学級に共通して見られることを示している.
著者
石田 奈美 佐藤 伊都子 林 伸英 三枝 淳 河野 誠司
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.236-241, 2015-03-25 (Released:2015-05-10)
参考文献数
9
被引用文献数
1

高速凝固採血管は管口内部壁にトロンビンが塗布されているため,迅速な検査結果報告に適した採血管である。しかし,トロンビン添加が検査値に与える影響について一部の項目しか検討されていないことから,健常者を対象にして,ガラス製採血管,従来凝固促進採血管,高速凝固採血管の3種類の採血管を用いて検査値の比較検討を行った。検査項目は生化学関連検査59項目,腫瘍マーカー・ホルモン関連検査38項目,感染症関連検査24項目,自己免疫関連検査25項目の合計146項目である。それぞれの項目について3種類の採血管の測定値の平均とSDを求め,ガラス管を対照に高速凝固採血管および従来凝固促進採血管の測定値について関連のある2群間の差の検定を行った。その結果,一部の項目で有意差(p < 0.05)を認めたが,対象が健常人のため測定値が近似しており小さな差で統計学的有意となった可能性があった。いずれも臨床的に問題のない範囲であった。健常人において高速凝固採血管を用いた検査値は,ガラス製採血管と比較して臨床的に問題となるような検査値への影響は認められなかった。
著者
黒沢 麻美 佐藤 直由
出版者
東北文化学園大学医療福祉学部保健福祉学科
雑誌
保健福祉学研究 = Journal of health and social services (ISSN:13484567)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.11-20, 2017-03-31

本研究は、Y市における介護職員の仕事の満足度や生活の満足度を把握し、介護職員が介護業務を継続、離職意向を示すそれぞれの要因を明らかにすることと、S市の調査結果との比較を行うことで介護職員の離職防止の対応策を検討することを目的としてアンケート調査を実施した結果である。アンケート調査は平成26年に筆者がS市の介護職員に行った調査と同様の内容とした。その結果、介護職員が介護業務を継続する要因となり得る個別職務満足感と個別生活満足感の構成要素を明らかにすることができ、Y市はいずれも「人間関係」に関する要素、S市は「自分自身」に関する要素が重要視されている傾向が見られた。
著者
佐藤 恵美子 三木 英三 合谷 祥一 山野 善正
出版者
日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 : Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.10, pp.737-747, 1995-10-15
参考文献数
29
被引用文献数
5 6

「煮つめ法」,「滴下法」を用いて調製した胡麻豆腐の調製時における攪拌速度と加熱時間の影響について,テクスチャー測定,クリープ測定,走査型電子顕微鏡による構造観察を行って検討したところ,次のような結果が得られた.<BR>(1) 「煮つめ法」により調製した胡麻豆腐のクリープ曲線は四要素モデル(E<SUB>0</SUB>, E<SUB>1</SUB>, η<SUB>N</SUB>, η<SUB>1</SUB>)として解析可能であった.硬さおよび瞬間弾性率,フォークト体弾性率(E<SUB>0</SUB>, E<SUB>1</SUB>)は,どの攪拌速度においても加熱25分(谷の部分)で最も軟らかくなり,その後加熱時間の増加とともに硬くなった.また,その加熱25分の調製条件が構造的にも均一な蜂の巣状構造を形成した.<BR>「滴下法」によるテクスチャーと加熱時間における一次式の傾きは,加熱45分までの時間依存性を示すもので,攪拌速度が高くなる程,大きくなり,付着性には攪拌速度による依存性が認められた.ニュートン体粘性率,フォークト体粘性率(η<SUB>N</SUB>, η<SUB>1</SUB>)は加熱時間にともなう変化がテクスチャーの付着性と類似していた.<BR>(2) 走査型顕微鏡観察の結果,加熱15分では不均一な部分があり,加熱25分で均一な空胞が形成され蜂の巣状を示した.さらに加熱攪拌を続けると蜂の巣状構造は崩壊し始めた,250rpm 25minの試料が空胞の形成がよく,最も均一な蜂の巣状の空胞の集合体が観察された.<BR>(3) 胡麻豆腐は葛澱粉を主体とするゲルであり,胡麻の蛋白質と脂質が関与している相分離モデルであると推察される.
著者
佐藤 俊樹
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.41-54, 1990-06-30 (Released:2009-10-13)
参考文献数
23

「儒教とピューリタニズム」はマックス・ウェーバーの一連の比較社会学の論考のなかでも、最も重要な論考の一つである。だが、そこでの儒教理解、とりわけ儒教倫理を「外的」倫理だとする定式化には問題があり、またウェーバー自身の論理も混乱している。この論文ではまず、儒教のテキストや中国史・中国思想史の論考に基づいて、儒教倫理が実際には「内的」性格を強くもつ『心情倫理』であることを、実証的に明らかにする。なぜ、ウェーバーは儒教の心情倫理性を看過したのだろうか? プロテスタンティズムの倫理と儒教倫理は実は異なる「心の概念」を前提にしている。ウェーバーはその点に気付かずに、プロテスタンティズム固有の心の概念を無意識に自明視したまま儒教倫理を理解しようとした。そのために、儒教を「外的」倫理とする誤解へ導かれたのである。儒教倫理は儒教固有の心の概念を前提にすれば、きわめて整合的に理解可能な、体系的な心情倫理である。それでは、この二つの倫理が前提にしている相異なる「心の概念」とは何か? 論文の後半では、この心の概念なるものの実体が、伝統中国社会と近代西欧社会がそれぞれ固有にもっている人間に関する「一次理論」であることを示した上で、その内容を解明し、その差異に基づいて、二つの倫理とその下での人間類型を再定式化する。そして、それらが二つの社会の社会構造にどのような影響を与えたかを考察する。