- 著者
-
安倉 良二
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2015, 2015
都市における小売活動を捉える上で大型店の立地が指標となるのは論を待たない。大型店の立地が都市の小売活動に及ぼす影響を取り上げた研究は,国および地方自治体が独自に制定した大型店の立地規制と関連づけたものが多い。しかし,大型店の立地変化を主導するのは,大手小売業者やショッピングセンターの開発業者である。2000年代後半以降,大手小売業者の中には,経営破綻や統合に伴って店舗網を再編成する過程で採算の悪い店舗を閉鎖させることも珍しくない。こうした動きは,大手小売業者を核店舗とするショッピングセンターにおいてもテナントの交替という形で集客力の維持を図る必要に迫られており,都市における小売活動の方向性を述べる上で見逃せない。<BR><br> そこで本報告では,2000年代後半以降の大都市内部における大型店の立地再編成について,発表者が研究を続けている(安倉2002,2007)京都市を事例に,都心部と郊外地域における新規出店と閉店の動向ならびにショッピングセンターのテナント交替に着目しながら明らかにする。<BR><br> 2012年経済センサスの京都市独自集計から,国勢統計区別の小売業年間商品販売額をみると,都心部(四条烏丸・四条河原町,JR京都駅周辺),郊外地域の双方で大型店が立地している国勢統計区で上位を占めている。しかし,両地域における大型店の立地状況は2000年代後半以降,大きな変化がみられる。まず,都心部では百貨店の閉鎖と専門店の新規出店が顕著である。まず,前者では四条河原町において阪急百貨店が閉鎖し,その跡地に丸井が出店したのをはじめ,JR京都駅前では近鉄百貨店が閉鎖した跡地に建物を立て替えた上でヨドバシカメラが出店した。また,四条河原町周辺では,ユニクロを核店舗とするショッピングセンター「ミーナ京都」が新規出店したのとは対照的に,マイカル(現在はイオン)の「河原町ビブレ」が閉鎖した。<BR><br> 郊外地域における大きな動きのひとつは,南区と向日市との境界に位置するキリンビール京都工場の跡地再開発の一環として行われた「イオンモール桂川」の新規出店(2014年10月)である。同店の立地はJR京都線の新駅設置を伴う新たな商業中心地の形成につながった反面,近接する向日市の中心市街地である阪急京都線東向日駅前ではイオンの既存店舗が今年5月に閉鎖したため小売活動の衰退が懸念される。もうひとつの動きは,ショッピングセンターにおける開発業者と核店舗の交替である。伏見区と宇治市の境界にある六地蔵地区に1996年に開業したショッピングセンター「MOMO」は,2014年9月に核店舗である近鉄百貨店の閉鎖と共に,その運営も近鉄百貨店から住友商事に移った。「MOMO」は改装を経て「MOMOテラス」に名称が変更されると共に,核店舗も食料品スーパーのほか家電製品やスポーツ用品を扱う専門店など多岐にわたった。また,2010年にはJR山科駅前にある再開発ビルの核店舗であった大丸が衣料品売場を閉鎖し,その跡地には家具専門店の「ニトリ」が出店した。<BR><br> このように2000年代後半以降の京都市では,従来の代表的な業態である百貨店や総合スーパーを展開する大手小売業者が都心部および郊外地域で店舗閉鎖や売場の縮小に取り組む一方,都心部では家電製品や衣料品の専門店業態の新規出店が相次いだ。以上の店舗網の再編成は,大手小売業者による経営ならびに店舗周辺の環境変化が厳しくなる中で取らざるを得ない企業行動の一端をあらわす。<BR>