著者
安倉 良二
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2015, 2015

都市における小売活動を捉える上で大型店の立地が指標となるのは論を待たない。大型店の立地が都市の小売活動に及ぼす影響を取り上げた研究は,国および地方自治体が独自に制定した大型店の立地規制と関連づけたものが多い。しかし,大型店の立地変化を主導するのは,大手小売業者やショッピングセンターの開発業者である。2000年代後半以降,大手小売業者の中には,経営破綻や統合に伴って店舗網を再編成する過程で採算の悪い店舗を閉鎖させることも珍しくない。こうした動きは,大手小売業者を核店舗とするショッピングセンターにおいてもテナントの交替という形で集客力の維持を図る必要に迫られており,都市における小売活動の方向性を述べる上で見逃せない。<BR><br> そこで本報告では,2000年代後半以降の大都市内部における大型店の立地再編成について,発表者が研究を続けている(安倉2002,2007)京都市を事例に,都心部と郊外地域における新規出店と閉店の動向ならびにショッピングセンターのテナント交替に着目しながら明らかにする。<BR><br> &nbsp;2012年経済センサスの京都市独自集計から,国勢統計区別の小売業年間商品販売額をみると,都心部(四条烏丸・四条河原町,JR京都駅周辺),郊外地域の双方で大型店が立地している国勢統計区で上位を占めている。しかし,両地域における大型店の立地状況は2000年代後半以降,大きな変化がみられる。まず,都心部では百貨店の閉鎖と専門店の新規出店が顕著である。まず,前者では四条河原町において阪急百貨店が閉鎖し,その跡地に丸井が出店したのをはじめ,JR京都駅前では近鉄百貨店が閉鎖した跡地に建物を立て替えた上でヨドバシカメラが出店した。また,四条河原町周辺では,ユニクロを核店舗とするショッピングセンター「ミーナ京都」が新規出店したのとは対照的に,マイカル(現在はイオン)の「河原町ビブレ」が閉鎖した。<BR><br> &nbsp;郊外地域における大きな動きのひとつは,南区と向日市との境界に位置するキリンビール京都工場の跡地再開発の一環として行われた「イオンモール桂川」の新規出店(2014年10月)である。同店の立地はJR京都線の新駅設置を伴う新たな商業中心地の形成につながった反面,近接する向日市の中心市街地である阪急京都線東向日駅前ではイオンの既存店舗が今年5月に閉鎖したため小売活動の衰退が懸念される。もうひとつの動きは,ショッピングセンターにおける開発業者と核店舗の交替である。伏見区と宇治市の境界にある六地蔵地区に1996年に開業したショッピングセンター「MOMO」は,2014年9月に核店舗である近鉄百貨店の閉鎖と共に,その運営も近鉄百貨店から住友商事に移った。「MOMO」は改装を経て「MOMOテラス」に名称が変更されると共に,核店舗も食料品スーパーのほか家電製品やスポーツ用品を扱う専門店など多岐にわたった。また,2010年にはJR山科駅前にある再開発ビルの核店舗であった大丸が衣料品売場を閉鎖し,その跡地には家具専門店の「ニトリ」が出店した。<BR><br> &nbsp;このように2000年代後半以降の京都市では,従来の代表的な業態である百貨店や総合スーパーを展開する大手小売業者が都心部および郊外地域で店舗閉鎖や売場の縮小に取り組む一方,都心部では家電製品や衣料品の専門店業態の新規出店が相次いだ。以上の店舗網の再編成は,大手小売業者による経営ならびに店舗周辺の環境変化が厳しくなる中で取らざるを得ない企業行動の一端をあらわす。<BR>
著者
香月 正明 鳥山 彩 田嶋 芙紀 窪田 敏夫 森内 宏志 入倉 充
出版者
一般社団法人 日本薬局学会
雑誌
薬局薬学 (ISSN:18843077)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.129-134, 2020 (Released:2020-10-26)
参考文献数
5

交付された処方せんは,比較的病院の近くにあり患者の利便性が高い,門前薬局に持ち込まれることが多い.近年,厚生労働省は,かかりつけ薬局の利用を推進している.そこで本研究は,保険薬局はどうあるべきか,患者は何を基準に保険薬局を選択しているのかを明らかにするために,アンケート調査を実施した.その結果,保険薬局を選ぶ基準として,「場所(立地)」と回答した方が最も多い結果となったことより,かかりつけ薬局の利用が推進されているものの,いまだ病院に近いという立地条件を保険薬局の選択基準としている方が多いと考えられる.また,かかりつけ薬局に求めるものを調査したところ,「対応が親切,丁寧である」という意見が多かった.これらの結果より,患者から選ばれるかかりつけ薬局になるためには,医薬品,健康などに関する知識は当然のことながら,患者ニーズに沿った相談に応じることが重要になると考えられる.
著者
倉田 信彦 蜂須賀 丈博 栃木 宏介 鹿野 敏雄 橋本 好正 森 敏宏
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.49, no.6, pp.569-577, 2016-06-01 (Released:2016-06-17)
参考文献数
19
被引用文献数
2 2

腎移植後に悪性腫瘍の罹患率が上昇することがわかってきたが,手術や周術期管理に関する報告は少なく,周術期の最適な免疫抑制療法,腎機能への影響,術後合併症などはわかっていない.我々は腎移植患者における直腸癌3例,膵腫瘍1例(1例は同時性重複腫瘍)の手術を経験した.周術期に経口摂取が不可能となる消化器癌手術であっても,免疫抑制剤を周術期は静注とし,術後早期に経口へと切り替えることで,特に腎機能を悪化させずに管理可能であった.ステロイド長期内服に伴う創傷治癒遅延,縫合不全などは大きな問題とならなかったが,1例に回盲部炎,クロストリジウム腸炎を認め,免疫抑制剤が関与している可能性があった.感染に対しては,より慎重かつ迅速に対応する必要がある.また,通常とは異なる術後合併症が起こる可能性があるため,移植医療に従事していない科が手術を担当している場合は,密に連携をとって周術期管理を行うべきである.
著者
倉橋 節也
出版者
NPO法人 日本シミュレーション&ゲーミング学会
雑誌
シミュレーション&ゲーミング (ISSN:13451499)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.52-63, 2017

<p>本論文では,天然痘ウイルスおよびエボラ出血熱ウイルスをベースとした新型感染症の感染シミュレーションと,それに対する医療政策ゲームの有効性について述べる.インフルエンザや天然痘バイオテロに対する感染モデルとしては,SIRモデルが広く用いられてきたが,近年エージェントベースモデルあるいはIndividual based modelが普及し始めている.このモデルでは,一人ひとりの行動をコンピュータ上で表現することが可能であり,これらのデータを用いて人々の接触過程をシミュレーションすることから,感染症の広がりを表現することができる.本研究では,Epstein等の天然痘感染モデルをベースとして,医療政策として重要なワクチン備蓄量・抗ウイルス薬備蓄量・感染症対策を行う医療スタッフ数などをモデル化した.またエボラ出血熱ウイルスの感染モデルの実装を行い,有効なワクチンが開発されていない感染症での感染シミュレーションをモデル化した.これらの実験から,事前のワクチン備蓄量と医療スタッフの人員が,感染症の広がりを抑制するためにクリティカルな要因となっていることが見出された.また,これらのシミュレーションモデルをベースに,シリアスゲームとして感染対策を行う医療政策決定ゲームを作成し,その効果を検証した.ゲームの結果,ワクチン備蓄量などの決定に加えて,感染の発生が広がっている相手国への医療支援の意思決定タイミングおよび外出自粛や出入国制限が重要であることが見出された.</p>
著者
倉田 勉 小口 敦 本所 泰子 佐藤 陽介 松本 徹 矢内 宏二 笹原 潤 鮫島 康仁 小黒 賢二
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C4P2224, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】アキレス腱断裂後は筋力低下を伴う機能不全が少なからず残るとする報告が多い。ただし運動復帰は多くの症例で可能なため、その詳細について未知の部分がある。また近年、腱断裂後、修復腱のelongationに関する報告があり、筋力や運動能力とelongationの関係については興味深い。我々はアキレス腱断裂後のリハビリテーションにおいて足関節底屈筋のゆるみを感じることがあり、治療経過で変動するものであると考えている。そこで研究目的は術後長期経過したアキレス腱断裂患者における足関節底屈筋の受動伸張性を明らかにし、筋力、可動域、筋腱形態、歩行との関係を検討することとした。【方法】対象は当院にてアキレス腱縫合術を施行した患者30名(平均44.3歳)、術後経過観察期間は平均27ヶ月である。なお術後1年以上経過した患者を対象とした。性別は男性19名、女性11名、受傷側は左足21名、右足9名であった。受傷から手術までの待機期間は平均5.5日、全例1週間のギプス固定後、機能的装具を術後平均8.7週(6-10週)まで装着した。後療法については縫合法により若干異なるが、半年以降のスポーツ復帰を目標としてリハビリを行った。リハ通院期間は平均179.1日である。検査項目は足関節底屈筋の受動伸張性と足関節背屈可動域(膝伸展位/屈曲位)、下腿周径(腓骨頭下5、10cm)、アキレス腱幅(付着部から5cm近位)、足関節最大底屈筋力(等尺性のみ)、片脚踵上げ反復回数と最挙上高、歩行分析である。計測は受動伸張性、腱幅、最大筋力は腹臥位、可動域、周径が仰臥位、踵上げは立位で行った。また腱幅は電子ノギス(シンワ社製)、最大底屈筋力は等速性筋力測定機Con-Trex(CMV-AG社製)を用い、踵上げ最挙上高は床面から踵部足底面までの高さを曲尺定規で計測した。歩行分析は足底圧分布測定(F-scan)にて自由歩行時の前足部ピーク体重比を患健側各3歩分、平均し求めた。受動伸張性計測の詳細はHand held dynamometer(以下HHD;Micro FET)を用い、ベッド上で腹臥位、膝伸展位となり、伸張反射が起きない程度のゆっくりとした速度で、中足頭足底部を自然下垂位から足関節底背屈中間位まで背屈方向に押し込み行った。なお腱幅、踵上げ最挙上高、受動伸張性はいずれも3回測定の平均値を検討に用いた。統計分析には各測定値の患健差を対応のないT検定、また患側受動伸張性と他項目の関係は相関分析を用い検討した。いずれの分析も有意確率は5%とした。なお統計分析にはR version 2.8.1(コマンダー1.4-8)を用いた。【説明と同意】本調査は事前にハガキで参加希望の有無を確認後、対象者に研究の趣旨・内容を説明し、書面にて同意を得てから検査をおこなった。【結果】患/健側の順に、受動伸張性は28.7/42.1N、可動域は膝伸展位23.9/21.6°、膝屈曲位31.1/30.7°、周径は腓骨下5cmで36.2/36.9cm、10cmで35.6/36.5cm、腱幅22.3/13.4mm、最大底屈筋力80.7/97.4Nm、踵上げは反復回数11.5/16.7回、最挙上高9.5/11.2cm、歩行体重比は94.1/96.2%であった。有意な患健差を認めたのは受動抵抗性、最大底屈筋力、片脚踵上げ反復回数・最挙上高、腱幅の5項目であった。相関分析の結果は患側受動伸張性が同側の腱幅、歩行以外の全項目と有意な相関関係を認め、中でも可動域(膝伸展位/屈曲位)とは負の相関、最大底屈筋力、片脚踵上げ反復回数・最挙上高とは正の相関を認めた。【考察】術後長期経過でも、底屈筋力はいずれも患健差が残存したままで、運動復帰可能な症例が大部分(本研究では88.8%が運動復帰可能)であっても、過去の知見と同様に完全な筋力回復に至るのは難しいと考えられた。また受動伸張性と他因子との関係では、先に我々が行った健常者による検討で受動伸張性は最大筋力と強い相関(r=0.81)、背屈可動域、下腿周径と中等度の相関(r=-0.50、0.45)を認めており、アキレス腱患者においても同様の結果を示したと考えている。底屈筋力と受動伸張性の関係については、先行研究にダイナモメーターで計測した受動トルクが筋のタイプや量と関係があると考察した過去の報告がある。本結果からも筋腱複合体の硬さと筋力には密接な関係が窺え、アキレス腱断裂後では筋腱複合体のゆるみと筋力低下の両者は共通する機能不全を表している可能性があると推察する。なお本研究で計測した受動伸張性は、修復腱の特性を含めた筋腱複合体全体の質を表現するものとして捉えるべきである。【理学療法学研究としての意義】アキレス腱断裂後は極めて深刻な筋力低下が起こり、その回復は長期間に及ぶか、回復途上で機能的安定となることも少なくない。今後、受動伸張性計測による個別的、段階的な運動処方の提供、また筋腱複合体のゆるみが運動能力に及ぼす影響を明確にすることがアキレス腱断裂後の機能不全を解決する糸口になると考える。
著者
安岡 稔晃 藤岡 徹 上野 愛実 村上 祥子 井上 彩 内倉 友香 高木 香津子 宇佐美 知香 森 美妃 田中 寛希 松元 隆 松原 裕子 濱田 雄行 松原 圭一 杉山 隆
出版者
日本産科婦人科内視鏡学会
雑誌
日本産科婦人科内視鏡学会雑誌 (ISSN:18849938)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.121-125, 2017 (Released:2017-06-06)
参考文献数
9

BACKGROUND: With the increase in the cesarean section rate, the complications associated with cesarean section wounds have also increased. The presence of a cesarean scar defect and diverticulum has recently been identified as a source of persistent, irregular vaginal bleeding, menstrual pain, secondary infertility, and lower abdominal pain, known as cesarean scar syndrome. CASE: A 33-year-old woman presented with menstrual and lower abdominal pain in association with an anterior extrauterine cystic mass detected by pelvic ultrasound, thought to represent a cesarean scar diverticulum. The cystic diverticulum was laparoscopically excised, and the lower anterior uterine wall was repaired. The postoperative course was good and the patient was discharged on the fifth day after surgery. Menstrual and lower abdominal pain resolved after surgery. CONCLUSION: In cases of cesarean scar syndrome associated with a cystic diverticulum, laparoscopic surgery should be considered, especially when menstrual and lower abdominal pain is present.
著者
倉 尚樹 岡 孝和 安藤 哲也 石川 俊男 久保 千春 吾郷 晋浩
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.297-303, 2004-04-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
18

症例は21歳女性,37℃台の微熱が主訴であった.諸検査で発熱の原因となる身体的疾患を認めなかったこと,心理的ストレス状況下で症状が出現・増悪したこと,慢性疲労症候群の診断基準を満たさないことから心因性発熱と診断した.治療としてtandospirone 60mg/dayの投与と自律訓練法などの心身医学的治療を併用したところ,体温は徐々に正常化した.serotonin(5-HT)作動性の抗不安薬であるtandospironeは,5-HT_<1A>受容体を刺激し,5-HT_<2A>受容体の密度を低下させることで抗不安・抗うつ作用を示すといわれている.これらの5-HT受容体に対する作用は,体温を低下させる方向にも作用すると推測され,tandospironeは心因性発熱の治療薬の1つとして有用である可能性が考えられた.
著者
藤倉 恵一
巻号頁・発行日
2005-09-29

2005年4月より施行された「個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)」と大学図書館(国立、公立、私立)との関わり、また「図書館の自由に関する宣言」との関係、現場における対応について述べた。
著者
藤木 大介 関口 道彦 森田 志保 高橋 佳子 倉田 久美子 山崎 晃
出版者
日本認知科学会
雑誌
認知科学 (ISSN:13417924)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.169-179, 2010 (Released:2010-10-22)
参考文献数
20

In 2004, Ninio suggested that the process of comprehending noun phrases such as “black shoes” included two steps: comprehending the noun “shoes” and the addition of the attribution “black.” Based on this assumption, Ninio predicted that the developmental process of comprehending noun phrases must progress through a phase in which children understood only the noun. She demonstrated the validity of her assumption through experiments conducted in Hebrew. However, her results were confounded by the word order of the noun phrase in the Hebrew language, in which the noun is the first word and the headword. In this study, we used Japanese phrases to eliminate the artifacts of the above study, because in the Japanese language, the noun is neither the first word in a noun phrase, nor the headword in an adjective phrase. Results indicated that also in Japanese, there is a developmental phase in which children comprehended only the noun in the noun phrases, which confirmed Ninio's assumption. However, there was also a phase in which children comprehended only the noun in the adjective phrases. These results cast doubt on Ninio's suggestion that the process of comprehending the noun phrase includes two steps, or that this two-step process results in a phase in which children comprehend phrases based only on the noun. We think current results relate the idea of noun dominance in children's learning of new words as described by Gentner in 1982, and this dominance influences children's attention by directing it to the noun when comprehending phrases.
著者
坪倉 誠
出版者
情報処理学会 ; 1960-
雑誌
情報処理 (ISSN:04478053)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.64-66, 2021-01-15

スパコン「富岳」によるウイルス飛沫・エアロゾルの飛散シミュレーションについて紹介する.コロナ禍の中,プロジェクトを開始するに至ったいきさつのほか,シミュレーション手法の概要と富岳への対応状況,プロジェクトのこれまでの成果と今後の予定について概説する.
著者
十倉 雅和 磯貝 高行
出版者
日経BP
雑誌
日経ビジネス = Nikkei business (ISSN:00290491)
巻号頁・発行日
no.2100, pp.74-77, 2021-07-19

緊急登板の形で6月、経団連の新会長に就任。他界した中西宏明氏の後を継いだ。資本主義の再構築を掲げた中西イズムを継承し、社会全体を代表する経団連を目指す。環境対策でも各業界をまとめる意欲を燃やす。
著者
倉根 一郎
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.307-312, 2005
被引用文献数
4

日本脳炎は日本脳炎ウイルスの感染によって起こる急性脳炎である.脳炎を発症した場合,約20%の患者は死亡,約50%は精神神経に後遺症を残す重篤な疾患である.日本において1960年代1000人以上であった患者数は激減し,1990年以降は10人以下の患者発生である.このような患者数の減少にマウス脳由来不活化日本脳炎ワクチンが果たした役割は非常に大きなものがある.平成17年,日本脳炎ワクチン接種との因果関係が否定できない健康被害(急性散在性脳脊髄炎,(Acute Disseminated Encephalomyelitis,ADEM))の発生により,厚生労働省より「日本脳炎ワクチン接種の積極的勧奨の差し控えについて」の勧告がなされた.本勧告は行政的判断によるものであり,科学的にマウス脳由来日本脳炎ワクチンと急性散在性脳脊髄炎の因果関係が科学的に証明されたことによるものではない.現在,組織培養細胞由来日本脳炎ワクチンの開発が進んでいるが,早期の実用化による積極的勧奨の再開が待たれている.
著者
倉島 孝行 松浦 俊也 日野 貴文 神崎 護 キム ソベン
出版者
京都大学フィールド科学教育研究センター森林生態系部門
雑誌
森林研究 (ISSN:13444174)
巻号頁・発行日
no.81, pp.1-11, 2021

本稿ではカンボジアを例に, 集約管理型コミュニティ林業 (以下, CF) 導入・普及の試みが発展途上国の台地・丘陵地帯で直面しうる問題と, その現実的な対策について解明・論述する. 具体的には一地方内の複数のCF区域と各周辺域の土地利用動態, それらの差違の要因, 以上の点から汲み取れる施策上の示唆点を記す. カンボジアでは大規模森林伐採権制度停止後, 国土の11%をCF域とする方針が出された. だが, 森林維持群と耕地拡大群という, 好対照なCF区域が狭い範囲内に出現していた. 特に後者には政府の新たな土地コンセッション発行に基づくゴム園の拡大と, 農民による商品農作物栽培地の拡大とが直接・間接に影響していた. 以上の対照的なCF区域出現の背景として, 村ごとで異なった余剰可耕地の大小と, 新参者の耕地化の動きが重要だった. そこで今後, 森林維持群を増やすためには, 1)CF区域の取捨選択に当たり, CF以外の土地利用政策と農林業の動向, それらに由来する土地需要の変化を踏まえた, 中期的で広範な分析に基づく判断と, 2)CF区域での新参者の耕地化に, 元からいる村人らが追随しないようにする効果的な支援が肝要だと言える.
著者
伊藤 綾子 五十嵐 清治 倉重 多栄 佐藤 夕紀 藤本 正幸 西平 守昭 松下 標 青山 有子 平 博彦 丹下 貴司
出版者
The Japanese Society of Pediatric Dentistry
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.591-597, 2006

含歯性嚢胞は歯原性嚢胞では歯根嚢胞に次いで多く見られる。一般的には未萌出または埋伏永久歯の歯冠に由来して発生するが,原因埋伏歯は正常歯胚であることがほとんどで,過剰歯に由来する含歯性嚢胞は比較的少ない。今回,我々は全身的問題から抜去を行わず経過観察していた上顎正中部の逆性埋伏過剰歯が嚢胞化し,定期検診の中断期間に急速に増大し,顔貌の腫脹まで来した含歯性嚢胞の症例を経験したので報告する。<BR>症例は13歳の男児で,既往歴として生後間もなくWilson-Mikity症候群の診断にて入院加療を受け,その後にてんかん,脳性麻痺,および精神発達遅滞と診断された。患児の埋伏過剰歯は当科で10歳時に発見されたが,全身状態が不良のため抜去を行わず経過観察を行っていた。その後,定期検診受診が途絶え1年3か月後に,過去数か月間で徐々に上顎右側前歯唇側歯槽部が腫脹してきたことを主訴に再来初診となった。口腔内診査では上顎左側前歯部歯槽部に青紫色の腫脹を認め羊皮紙様感を触知した。エックス線診査では上顎前歯部に1本の逆性埋伏過剰歯を含む単房性の境界明瞭な透過像を認めた。局所麻酔下に嚢胞と埋伏過剰歯の摘出術を施行したが,術後17日目に術部感染を来したため抗菌薬投与と局部の洗浄を継続し消炎・治癒に至った。術後2か月の経過は良好である。<BR>本例のように何らかの理由により埋伏過剰歯抜去が困難な場合は,その変化を早期に発見するために定期的,かつ確実な画像診断を含む精査が必須であると考えられた。
著者
佐倉井 紀子 河村 光俊
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.B0044, 2005

【はじめに】重症心身障害児(者)の肢体の特徴として、全身的または部分的な筋緊張の亢進が多く認められる。四肢の筋緊張が強い場合は、特に上肢では屈曲拘縮(肩関節屈曲、肘関節屈曲、手関節掌屈、母指内転)が起こり易く、更衣の着脱や移乗動作が困難になるなどのADLに支障をきたすことも多い。関節可動域制限が筋緊張によってある場合、目的の関節を直接伸ばそうとすると逆に筋緊張が増す。そのため当施設でも体位変換や揺らしを利用したり、自発的な運動後の弛緩状態を狙ったりし、一時的に緊張をといて間接的な関節可動域改善を行ってきた。しかし実際には長期的な可動域制限の進行をとどめるには困難である。そこでこの度、先ず末端部分をほぐすことで可動域の改善を試みてみた。具体的には上肢では内転ぎみの母指を外転方向にリズミカルにストレッチし内転筋をほぐす。この母指外転法を5症例に行った結果、上肢全体にリラクゼーションが図られ、直接アプローチしていない手関節の背屈・肘伸展・肩屈曲角度にも改善がみとめられたのでここに報告する。<BR>【対象】6歳から54歳の重症心身障害児(者)男女5名。いずれも母指内転し、筋緊張によって上肢に可動域制限のある者。<BR>【方法】症例の内転ぎみの母指を、外転方向にマッサージするようにほぐしていく。なお母指には橈側外転と掌側外転があるため、どちらの方向にもストレッチできるように若干回しながら行う。効果判定は、各関節の可動域角度の変化をみるものとする。<BR>【結果】母指を外転する回数を増やしていくと、5症例とも直接アプローチしていない手関節に改善があらわれ、その最適施行回数と改善角度は症例の筋緊張の状態によって若干異なるが,最低でも50回施せば効果は期待できると判断された。結果として手関節には10度から25度の改善がみられた。また、約2ヶ月間、1回/週のリハビリ時に母指外転法を取り入れた結果、施行直後はもとより、経時的にも手関節の関節可動域改善の効果が見られた。手関節のみならず肘関節や肩関節を含めた上肢全体の緊張の緩和が図られたものもあった。<BR>【考察】筋緊張によって上肢の関節可動域に制限のある重症児(者)に対し、末端部分である母指を外転させることによって、無理なく上肢の関節の緊張を緩和することができた。変形・拘縮肢位は何年もの間の連合反応の結果である。末端の肢位は上位の緊張に大きく関わりがあることは知られており、今回の試みは、末端の内転筋を緩めることにより上肢の屈曲パターンを崩し、ブロックすることで上肢全体の筋緊張の緩和が得られたと解釈する。また、この母指外転法は,すでに制限のある重症児(者)に対してアプローチするだけでなく、幼児期からの拘縮予防に多いに役立つのではと考える。特別な技術を要さず安全に行え、いつ何時でもアプローチでき、施行回数も50回をめどに行えば効果は期待される。
著者
北村 千寿 吉岡 孝 石倉 秀樹 森脇 秀俊
出版者
島根県立畜産技術センター
雑誌
島根県立畜産技術センター研究報告 (ISSN:18821030)
巻号頁・発行日
no.41, pp.17-19, 2010-03

2009年8月までに収集した黒毛和種の枝肉記録36,871件を用いて枝肉重量及び脂肪交雑基準値の育種価を推定した。推定した育種価を用いて2008年1月から2009年12月までに島根県内市場に上場した子牛の父牛(種雄牛)と母牛(繁殖雌牛)の平均育種価を求めた結果、父牛が母牛に比べて枝肉重量及び脂肪交雑基準値ともに高かった。枝肉重量育種価のバラツキは父牛が母牛に比べて大きく、脂肪交雑基準値育種価のバラツキは、母牛が父牛に比べて大きかった。繁殖雌牛の母方祖父牛の生年別平均育種価は、1989年以降(平成)生まれが1988年以前(昭和)生まれに比べて枝肉重量、脂肪交雑ともに高かった。2009年3月の島根中央子牛市場名簿から求めた繁殖雌牛の父牛、母方祖父牛及び曾祖父牛の平均年齢は、それぞれ21.3才、28.4才、34.3才であり、2009年3月のM県、2009年9月のT県及びO県の子牛市場名簿から求めた平均年齢に比べていずれも高かった。
著者
朝倉 彰
出版者
日本動物分類学会
雑誌
タクサ : 日本動物分類学会誌 (ISSN:13422367)
巻号頁・発行日
no.21, pp.33-39, 2006-08-20

In 1997, Masatsugu Takano and the applied population genetics research group at Tohoku University published a ground-breaking paper on biochemical and morphological evidence indicated that there were two sympatric forms, interpreted as sibling species, of the common crab Hemigrapsus penicillatus (De Haan). This species is very common in intertidal rocky shores, pebble beaches and mud flats in Japan, Korea and China, but prior to Takano et al., no one had noticed that the species comprised two different forms. A recent intensive study by Prof. Seiichi Watanabe, Tokyo University of Marine Science and Technology, and his research group revealed further differences between the two forms, including coloration, allometry, egg size and number, and geographical distribution. Watanabe and myself recognized these as two distinct species and described one of them as a new species Hemigrapsus takanoi in 2005.