著者
田中 恵理子 代 英杰 林 永波 古月 文志 田中 俊逸 神 和夫 平間 祐志
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 = Japan analyst (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.58, no.9, pp.807-813, 2009-09-05
参考文献数
18
被引用文献数
1 5

2005年11月中国吉林市にある吉林石油化学会社の工場で起こった爆発事故によって,ニトロベンゼンが中国東北部を流れる松花江に流入し,河川を汚染した.本研究では,汚染物質が通過したハルビン市内の松花江で採取された魚試料中のニトロベンゼンの測定を行った.また,ニトロベンゼンの代謝によって生成すると予想されるニトロフェノール類の定量を行った.ニトロベンゼンの抽出と濃縮には,精油定量装置を用い,魚試料の調製,魚試料の前処理,抽出条件等について検討した.その結果,2006年3月と10月に採取した魚試料からは比較的高い濃度のニトロベンゼンが検出された.また,魚試料からニトロベンゼンの代謝物と思われる<i>o</i>-,<i>m</i>-,<i>p</i>-ニトロフェノールが検出された.
著者
増田 亜希子 伊東 孝通 和田 麻衣子 日高 らん 古江 増隆
出版者
日本皮膚科学会西部支部
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.78, no.4, pp.353-355, 2016

<p>27 歳,女性。小児期よりアトピー性皮膚炎に罹患していた。初診の 6 年前より夫の精液付着部位に蕁麻疹と瘙痒を認めた。その後,避妊具なしで性交した際に全身に蕁麻疹を認め,呼吸困難も出現した。同様のエピソードが過去 2 回あった。避妊具を使用した性交渉では同様の症状を生じたことはなかった。近医を受診し,精漿アレルギーの疑いで当科を紹介され受診した。10 倍から1000 倍に希釈した夫の精漿を用いたプリックテストでは,検査した全ての濃度で紅斑と膨疹が出現した。本疾患は精漿中に存在する前立腺由来の糖蛋白に対するⅠ型アレルギー反応であると考えられている。精漿アレルギーの患者の半数以上にアトピー性皮膚炎の既往があると報告されており,皮膚バリア機能の障害による経皮感作が発症に重要な役割を担っていることが推察される。本疾患は皮膚科領域での報告は比較的稀であるが,アトピー性皮膚炎関連アレルギー疾患の一つとして位置づけることができると考え報告した。</p>
著者
古屋 晃 池田 庸之助
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
日本農芸化学会誌 (ISSN:00021407)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.38-44, 1960 (Released:2008-11-21)
参考文献数
12
被引用文献数
5 2

(1) 放線菌No. 62株の生産する溶解酵素の最適pHは7.6であり,熱に対して不安定な酵素であることが明らかとなった. (2) Sacchtaromyces cerevisiaeより細胞膜を機械的方法により分離し,溶解酵素により溶解されることを証明した. (3) 溶菌スペクトルを調べた結果,酵母及び糸状菌に属するかなり多くの菌株に対し溶解能を有すること及び細菌の一部をも溶解することが明らかとなった. (4) 酵素液かなり強いプロアーぜ活性を有し,酵素細胞膜はこのプロテアーゼとそれ以外の酵素との共同作用により溶解されると結論された. (5) Sacc. cerevisiaeのprotoplastが本酵素により容易に調製されることが明らかとなった.
著者
武石 薫 宇佐美 文比古
出版者
公益社団法人 石油学会
雑誌
石油学会 年会・秋季大会講演要旨集 第41回石油・石油化学討論会(山口)
巻号頁・発行日
pp.140, 2011 (Released:2012-01-10)

我々はすでに、一酸化炭素の水素化反応によるジメチルエーテル(DME)の直接合成に対して高活性・高選択的な優れた触媒(ゾル-ゲル法で調製したCu-Zn/Al2O3)を開発している。この触媒を、地球温暖化の原因の一つである二酸化炭素からのDME直接合成に応用した。しかし、CO製造が多く、DMEの選択率が良くなかった。現在、Cu/Zn/Al2O3の組成比などの変更により、DME選択率の向上を試みている。
著者
古山 周太郎
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 第38回学術研究論文発表会 (ISSN:1348284X)
巻号頁・発行日
pp.141, 2003 (Released:2003-12-11)

本研究は、明治・大正期において精神病院が都市的施設として位置付けられた側面を、その立地・配置論から明らかにすることを目的とする。本研究では、精神病院が医療的機能と社会的機能を持つことに着目し、この2つの機能との関係から立地・配置論をみる。それによって精神病院が都市的な施設と設定しうることを明らかにする。対象時期は、明治以降から1919年(T7)の精神病院法制定時までとする。研究の方法は、対象時期における精神医学関連の著作・論文や、法律制定時の議事録等の文献調査を主とする。論文の構成は、まず2章では精神病学教科書を対象とし精神病院の医療的機能を整理し、それらが収斂した精神病院モデルの立地論を取り上げる。3章では精神病学者の論説から精神病院の社会的機能と配置論をまとめ、4章では精神病院法制定時における精神病院の必要論と概要計画をみる。2章では精神病の病因論や治療法から精神病院の医療的機能をまとめ、立地論との関係をみる。さらに当代の精神病院論の集大成でもあり、欧州の影響も受けた、呉秀三の「精神病学集要 第二版」の第7巻治療通論中の精神病院に関する部分を詳細にとりあげる。資料は、対象時期に刊行された精神病教科書7冊を対象とし、社会的原因と都市環境を問題化した部分の引用、理学療法と精神療法、精神病院論部の引用をまとめた。3章では雑誌の掲載論文で精神病学者が主張した精神病院論をとりあげる。これらの論文では、著者は雑誌の社会影響力も考慮し、病院論を展開すると考えられる。対象論文は、当時の医学界で主要な論文誌であった国家医学会雑誌(国家医学)と医界時報に掲載された精神病院に関する論文と、呉秀三著作集に掲載された論文である。これらの論文は全て公立の精神病院の設置を求める内容であり、各精神病院論を、医療的理由、社会的理由、病院の立地論の3点に着目して整理した。4章では法制度制定の下での精神病院論をみるために、帝国議会での審議過程でみられた精神病院論に着目する。法案の提出理由から病院の必要性を整理し、審議過程での精神病院の機能や立地に関して議論の論点を整理する。なお対象とする資料は、精神病院法案について審議された貴族院の委員会の速記録である。5章では、以上のまとめとして次の3点が明らかになった。1)精神病院の医療的機能は、治療設備の完備、医師による管理、都市的環境からの隔離であった。呉の精神病院モデルは2種類の病院が想定され、分類の基準には都市と村落といった立地が重要な意味をもっていた。2)精神病院は、様々な社会的機能からも設置が要請された。特に公共的な施設として都市への立地が要請された。3)精神病院法審議過程での概要計画では社会的機能を果たすため、精神病院は人口規模により種別され、都市内で、環境が良好で利便的な立地が目指された。
著者
春木 和久 細木 高志 名古 洋治
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.352-359, 1998-05-15
参考文献数
24
被引用文献数
6 10

ユリの種間交雑系統・品種を用いてPCR-RFLP分析を行い, 交配親推定の可能性を検討した.6種のユリ, サクユリ(L. auratum var. platyphyllum), ササユリ(L. japonicum), カノコユリ(L. speciosum), タモトユリ(L. nobilissimum), ヤマユリ(L. auratum)およびヒメサユリ(L. rubellum)を4組のプライマーと22種の制限酵素を用いて分析し, 16本のPCR-RFLPマーカーを検出した.PCR-RFLPマーカーが遺伝することを確認するために, シンテッポウユリ, カノコユリおよびその交雑個体を比較検討した.母親の葉緑体遺伝子にみられたPCR-RFLPマーカーは全ての交雑個体にみられ, 交雑個体の核のrRNA遺伝子にあるマーカーは, 母親と花粉親のバンドパターンを合わせたものになった.従って, PCR-RFLP分析は, 交雑品種の親の推定に利用できるものと考えられた.PCR-RFLP分析をオリエンタルハイブリッドと呼ばれるユリの6品種, 'スターゲザー', 'ル・レーブ', 'カサブランカ', 'サマードレス', 'ピンクパール'および'マルコポーロ'を用いて行い, その交配親を推定した.その結果, 'カサブランカ', 'サマードレス'および'ピンクパール'の細胞質はカノコユリ由来であり, 'スターゲザー', 'ル・レーブ'および'マルコポーロ'の細胞質はサクユリあるいはササユリからきているものと考えられた.一方, これらの品種の花粉親が交雑種の場合には交配時にマーカーが分離する可能性を考慮する必要があるので, 花粉親の特定は困難であった.
著者
間普 真吾 平澤 宏太郎 古月 敬之
出版者
一般社団法人 電気学会
雑誌
電気学会論文誌C(電子・情報・システム部門誌) (ISSN:03854221)
巻号頁・発行日
vol.127, no.7, pp.1061-1067, 2007-07-01 (Released:2007-09-01)
参考文献数
15
被引用文献数
8 7

Genetic Network Programming (GNP) is an evolutionary computation which represents its solutions using graph structures. Since GNP can create quite compact programs and has an implicit memory function, it has been clarified that GNP works well especially in dynamic environments. In addition, a study on creating trading rules on stock markets using GNP with Importance Index (GNP-IMX) has been done. IMX is a new element which is a criterion for decision making. In this paper, we combined GNP-IMX with Actor-Critic (GNP-IMX&AC) and create trading rules on stock markets. Evolution-based methods evolve their programs after enough period of time because they must calculate fitness values, however reinforcement learning can change programs during the period, therefore the trading rules can be created efficiently. In the simulation, the proposed method is trained using the stock prices of 10 brands in 2002 and 2003. Then the generalization ability is tested using the stock prices in 2004. The simulation results show that the proposed method can obtain larger profits than GNP-IMX without AC and Buy&Hold.
著者
古谷 彰子 大西 峰子 三星 沙織 米山 陽子 平尾 和子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.29, 2017

【目的】ワラビの根から抽出されるワラビ澱粉は、高価で保存性も悪い。わらび餅の調製に用いるわらび粉の市販品には安価な甘藷澱粉やクズ澱粉が混合されているもタピオカ澱粉を利用したものが多い。しかし、これらの澱粉は安価であるという利点はあるものの、ワラビ澱粉で調製した本わらび餅とは食味・食感がかなり異なっていた。本報告では、加工タピオカ澱粉を用いて、本わらび餅に近い食感のわらび餅の調製法を検討した。<br />【方法】澱粉は、未加工タピオカ澱粉(NT)、リン酸架橋タピオカ澱粉(P)、Pの酵素処理澱粉(PE)、アセチルリン酸タピオカ澱粉(AP)、APの酵素処理澱粉(APE)の5種(グリコ栄養食品(株))とし、上白糖(三井製糖)と蒸留水を用いてわらび餅を調製した。加水量は各澱粉の水分量を求めて調整した。またシェッフェの単純格子計画法を用い、NTと2種の加工タピオカ澱粉(PE、APE)を3成分として配合割合の異なる9つの格子点を設定した。物性測定はクリープメータ((株)山電)、官能評価は本わらび餅を対照として、つり合い不完備型ブロック計画法を用いて行った。<br />【結果】官能評価の嗜好では、PEとAPEを用いたものが総合評価の項目で有意に好まれたが、どちらも本わらび餅の食感とは異なっていた。そこで、シェッフェの単純格子計画法を用いて3種澱粉(NT、PEおよびAPE)の配合割合の影響を検討したところ、格子点⑦のNT:PE:APE=1:1:1の配合割合のわらび餅が本わらび餅に最も近い物性値を示した。官能評価の特性評価においても、弾力と口どけの項目で有意にあると評価された。嗜好においても、本わらび餅と同様に「好き」「非常に好き」と評価され、有意に好まれた。
著者
渡邊 三津子 古澤 文
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2014, 2014

<B>1. はじめに</B><BR><br> ソ連崩壊後のカザフスタン農業については、マクロな視点からのすぐれた研究蓄積がある一方で、個別地域における市場経済化がミクロな市場(バザール)や地域の農業にどのような影響を与えたのか、といった点については実態的な調査が行われていないのが現状である。本研究では、人々の生活に最も身近な市場と地域農業との関係に焦点を当てる。ソ連崩壊後20年を経て、地域の市場が市場化やグローバル経済をどのように受容してきたか、また市場の変容が地域農業や土地利用にどのような影響を与えたかを明らかにすることを目的とする。 本発表では、市場の小売店や農業生産者へのインタビューを通じて、近年の青果物の輸入増加に目を付けた農業生産者たちによる新たな取り組みとしての施設栽培の導入について紹介する。 <BR><br><B>2. 青果物輸入量増加と施設栽培の導入</B><BR><br> カザフスタンにおいて、1991年のソ連崩壊後、計画経済から市場経済へと移行する過程で農業生産の大幅な縮小が生じた事はよく知られている(錦見、2004など)。その後、1999年ごろまで農業生産は停滞していたが、その後穀物生産に牽引されて回復過程に入ったとされている(野部、2008)。 しかし、野菜や果物に関しては季節的な変動が大きく、夏場には大量に市場に出回るものの冬場には不足する。アルマトゥ市内の市場やジャルケントの市場での聞き取りでは、冬季に市場に出回るものの多くは、海外(特に中国)からの輸入品である。近年、当該地域では、こうした現状に目を付けて施設栽培を導入する農業生産者も現れた。以下、アルマトゥ市近郊、パンフィロフ地区ジャルケント周辺の2か所における聞き取りの内容を紹介する。<BR><br>1) パンフィロフ地区の農業者の事例<BR><br> アルマトゥ州パンフィロフ地区は、中国と国境を直接接する辺境である。2012年末、中国の青島からカザフスタン共和国のアルマトゥを結ぶ大陸横断鉄道が開通したことにより、現在では経済活動の結節点としての重要性が高まっている。 Sさんは、ソ連時代にはジャルケントの銀行に勤めていたが、2005年に農業企業(有限会社)を設立した。Sさんの農場では、現在25棟の温室を所有し、9月以降冬場にかけてキュウリやトマトを栽培している。 ジャルケントのコーク・バザールで青果物の小売店を営むZさんによれば、現在ジャルケントにはSさんを含む3軒の農家が施設栽培を行っているが、冬場の需要を満たすには至らず中国産のものを仕入れている。<BR><br>2) カスケレン地区の農業者の事例<BR><br> &nbsp; アルマトゥは、1997年にアスタナに遷都されるまでの首都であり、現在でも国内最大人口を抱えるカザフスタンの経済活動の中心地である。アルマトゥから西方約25㎞のカスケレンにおいて農業企業を営むAさんは、もともとエコノミストであり農業経験はなかったが、中国産の野菜の輸入量や品目、価格について調査し、2012年に企業に踏み切った。現在2棟の温室を有し、キュウリとトマトを栽培している。温室自体は韓国製で、その他の栽培技術や種、土などはオランダのものを使っている。Aさんの農場では、農薬は使わず有機栽培を行っている。露地栽培に比べてコストは割高になるが、カザフスタンではまだ有機野菜などの付加価値が認められていないので、他の露地物と同じ価格で販売している。 <BR><br><B>3. まとめ</B><BR><br> &nbsp; ソ連時代以降の食生活の変化に伴って、冬場にも青果物の需要がある一方で、カザフスタンにおける冬場の生産は少ない。ソ連崩壊後、特にカザフスタン南東部においては中国から輸入青果物が大量に出回るようになった。それに目を付けた、農業者が独自に施設栽培を導入し始めたが、技術面やコスト面での課題が多い。 &nbsp; <BR> &nbsp;<br>錦見浩司(2004):農業改革-市場システム形成の実際-.岩﨑一郎・宇山智彦・小松久男編著『現代中央アジア論-変貌する政治・経済の深層-』201-226./野部公一(2008):再編途上のカザフスタン農業:1999~2007年-「連邦」の食料基地からの脱却.「専修経済学論集」43(1)、73-91。
著者
橋本 慎史 市田 大樹 徐 鉉雄 内田 儀一郎 板垣 奈穂 古閑 一憲 白谷 正治
出版者
電気・情報関係学会九州支部連合大会委員会
雑誌
電気関係学会九州支部連合大会講演論文集 平成26年度電気・情報関係学会九州支部連合大会(第67回連合大会)講演論文集
巻号頁・発行日
pp.23, 2014-09-11 (Released:2016-02-10)

Siは太陽光発電市場の90%以上を占めている代表的な太陽電池材料である.1、2世代型太陽電池研究を主導したSi太陽電池はSi量子ドットをもとにして、次世代型太陽電池への可能性を示している。Siの量子特性は以前研究から証明されたにもかかわらず、多重励起子生成の実現と太陽電池への応用は相変わらず非常に難しい課題である.本研究では,Si量子ドットとポリマーを用いて有・無機ハイブリッド太陽電池を研究した.ポリマーの割合調節を通じてエネルギーバンドをコントロールして、Si量子ドットのバンドギャップに合わせたバンド構造から電荷の抽出が改善された高効率有・無機ハイブリッド太陽電池を作製した。
著者
古屋 辰郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2013, 2013

<b>問題の所在</b> <b> </b>2011年に発生した東日本大震災やタイ・チャオプラヤ川における大洪水の発生により,製造業の生産活動において緊急時を想定したリスク管理の重要性が高まっている.特に,JITシステムをはじめとした在庫削減を指向した取り組みは脆弱性を露呈した.生命関連性を有する特性上,いかなる欠品も許されない医薬品においても,供給・在庫に関して効率化が進められていた. そこで,本研究では,大手製薬企業3社を事例として製薬企業における工場と物流センターの立地変遷に着目し,有事に対する製薬企業の意識との関連性と非常時における医薬品備蓄に関する優先度の意思決定を検討したうえで,医薬品流通構造における非常時の代替流通経路を明らかにすることを目的とする. <b>対象企業と分析方法</b> <b> </b>研究対象企業として選定したA社(同族経営企業)・B社(経営統合により発足)・C社(外資系企業)の3社はいずれも売上高が国内10位以内に入る大手製薬企業であり,それぞれ企業の性格・企業体質が異なった企業である.分析方法は対象企業の社史,新聞記事,有価証券報告書,IR資料を用いて工場・物流センターの立地変遷や分業体制を明らかにし,聞き取り調査で非常時に対する対象企業の意識と非常時における代替流通経路についての考察をおこなった. <b>分析結果</b> 対象企業3社それぞれの工場・物流センターの立地変遷を考察した結果,それぞれの企業で集約・分散などに異なる傾向が生じた.具体的には,(A社):工場・物流センターともに諸施設の閉鎖移転を伴う効率化が行われていない,(B社):生産量拡大のために工場の積極的な設置と近接工場間で間接部門(工場の管理部門)の統合による工場の集約化・1990年代における物流センターの東京・大阪2拠点への集約,(C社):特定の生産品目に関する設備の増強・一般医薬品(ドリンク剤,医療機関・処方せんを介さず流通する商品)を生産する工場の閉鎖である. 非常時における医薬品備蓄に関する優先度の意思決定に関して,3社それぞれ異なる傾向がみられた.聞き取り調査から明らかになったことは,3社とも非常時の際は医薬品卸との連携を図っていることである.近年,製薬業界においても「物流業の外部委託」,「医薬品の直販」が注目されているが,東日本大震災において「輸送手段の奪い合い」や「情報の混乱」が生じたため,対象企業3社に関しては医薬品供給において安全性を最重視しているといえる.非常時における医薬品代替流通経路の構築に関しては,生産ラインの切替えなど水平的な連携が最も重視されているといえる.