著者
小島 庸平
出版者
社会経済史学会
雑誌
社會經濟史學 (ISSN:00380113)
巻号頁・発行日
vol.77, no.3, pp.315-338, 2011-11-25

本稿は,長野県下伊那郡座光寺村で農村負債整理組合法に基づいて実施された無尽講整理事業の実施過程を分析することを課題とする。座光寺村では,1920年代の養蚕ブームを背景に,インフォーマルな金融組織である無尽講が「濫設」されていたが,大恐慌期にはその多くが行き詰まり,村内における階層間対立を激化させる一因となっていた。だが,戦間期の無尽講は,部落や行政村の範囲を超えた多様な共同性の中で組織されており,債権債務関係と保証被保証関係が複雑に折り重なっていたため,その整理は極めて困難なものであった。無尽講をターゲットとした同村の負債整理事業は,進捗自体は極めて遅々としていたものの,地縁的な関係を超えて集団的に取り結ばれた無尽講の貸借関係を,同一部落内における個人間での「区人貸」に再編し,その結果,30年代後半の経済好転に伴う余剰資金の預金先は,産業組合に代表される制度的な金融機関へとシフトしていった。無尽講の整理を1つの目的とした農村負債整理事業の歴史的意義は,「講」型組織の「村」型組織化(を通じた解体)にあったと言うことができる。
著者
大谷 貴美子 尾崎 彩子 小島 憲治 神田 真由美 南出 隆久 高井 隆三 中島 孝 高畑 宏亮 大谷 晃也
出版者
一般社団法人 日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会誌 (ISSN:13411535)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.356-365, 2001-11-20 (Released:2013-04-26)
参考文献数
25

We investigated the relationship between the frothing and foam stability of beer and the surface properties of various kinds of drinking vessel (glass mugs and 6 kinds of ceramic mugs), whose size and shape were almost the same. Although the initial bubbles produced when pouring beer into a mug have been thought to depend on the gas created by the mechanical stirring and on the air adsorbed to the surface of the beer mug, we considered that the frothing and foam stability of beer in the mug might also be related to the shape and size of scratches and on the wettability of the surface of the beer mug. The mechanism for continuous bubbling was investigated by a theoretical equation which showed that the size of a bubble produced on the surface of the beer mug was significantly correlated with the wettability and shape of scratches on the surface, and that the place where a bubble was continuously produced was where air remained to form the nucleus of the next bubble after the previous bubble had been released.
著者
小島 唯 福岡 景奈 赤松 利恵
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.216-224, 2014 (Released:2015-01-13)
参考文献数
17

目的:学校栄養士における,「赤黄緑の3色食品群」を用いた食品分類について,学校栄養士が普段用いている分類と栄養士自身が正しいと考える分類の相違点を特定し,さらに各群に含まれる栄養素の認識の相違点を知ることを目的とした.方法:2012年5~10月,東京都および愛知県の学校栄養士442人を対象に,無記名自記式横断的質問紙調査を実施した.調査内容は,属性の他,赤黄緑の3色食品群を用いた食品の分類,赤黄緑各群の定義,栄養素の赤黄緑3群への分類をたずねた.食品の分類では,21の食品について普段学校給食等で用いる分類と,栄養士自身が正しいと考える分類を,赤黄緑の3群からそれぞれ選択させた.また,両者の回答の一致率を算出した.結果:237人から回答を得た(有効回答率53.6%).栄養士が普段用いている分類と,自身が正しいと考える分類との回答の一致率(%)が高かった食品は,大豆99.5%,きのこ類99.0%,緑豆もやし98.0%であり,一致率が低かった食品は,こんにゃく57.5%,わかめ67.7%,こんぶ69.1%であった.例えばこんにゃくでは,普段用いている分類と,正しいと考える分類の回答が赤群で一致した者(一致率(%))2人(1.0%),黄群で一致した者27人(14.0%),緑群で一致した者82人(42.5%)であり,栄養士間でも回答に違いがみられた.結論:赤黄緑の3色食品群は,栄養士が普段用いる分類と正しいと考える分類に相違がみられ,また栄養士によっても分類の認識が異なる食品があった.赤黄緑の3色食品群には分類の根拠となる,量的指標が求められる.
著者
臼井 直人 山代 幸哉 小島 将 佐藤 大輔
出版者
一般社団法人日本体力医学会
雑誌
体力科学 (ISSN:0039906X)
巻号頁・発行日
vol.69, no.5, pp.361-370, 2020-10-01 (Released:2020-09-16)
参考文献数
96

Soccer is the most popular sport worldwide, with over 265 million participants. Soccer is unique in that the ball can be directed deliberately and purposefully with the head, an act referred to as ‘heading’. In recent years, there has been concern about the association between repetitive subconcussive head impacts associated with heading and chronic traumatic encephalopathy. Heading causes immediate changes in biochemical and electrophysiological markers of traumatic brain injury, and some studies have reported brain structural changes and dysfunction in former soccer players. In 2019, it was reported that the mortality associated with neurodegenerative diseases was about 3.5 times higher among former professional soccer players. Following that, in early 2020, the guidance have been published to limit heading by age in some regions including England and Scotland. In this review, we will expound the immediate and long-term effects of heading associated with chronic traumatic encephalopathy and the measures that should be taken into consideration in the practice of soccer instruction, based on the latest findings.
著者
小島 浩之
出版者
国公私立大学図書館協力委員会
雑誌
大学図書館研究 (ISSN:03860507)
巻号頁・発行日
vol.106, pp.1-11, 2017-05-31 (Released:2017-09-22)

本稿は,図書館職員が中国の古典籍を整理する際に必要な情報を得るための手引きとして,基礎知識や基本情報をまとめたものである。漢籍の定義からはじめて,漢籍を読み解くための基本参考書,辞書・辞典類について解説を加えたのち,分類,目録,書誌学・古文書学の順に,それぞれの伝統や学術背景に則して論じ,最後に敬意表現や避諱を例に,内容から年代などを推定する実例を附している。
著者
小島 邦生 唐澤 達史 上月 豊隆 黒岩 英則 柚木崎 創 岩石 智志 石川 達矢 小山 遼 野田 晋太朗 植田 亮平 菅井 文仁 野沢 峻一 垣内 洋平 岡田 慧 稲葉 雅幸
出版者
一般社団法人 日本ロボット学会
雑誌
日本ロボット学会誌 (ISSN:02891824)
巻号頁・発行日
vol.34, no.7, pp.458-467, 2016 (Released:2016-10-01)
参考文献数
37
被引用文献数
2 2

This paper presents the development of high-speed and high-power humanoid robot research platform JAXON. Researchers have studied humanoid robots widely and people expect humanoid robots to help various tasks such as housework, entertainment, and disaster-relief. Therefore it is important to develop humanoid research platform available in various fields. We considered the following as design requirements necessary to utilize humanoids for various uses. 1) Robots have humanlike body proportion to work in infrastructure matched to human body structure. 2) Robots have the same degree of physical performance as humans. 3) Robots have energy sources such as batteries and act without tethers. 4) Robots walk with two legs or four limbs and continue to work without fatal damage in unexpected rollover. JAXON satisfied these requirements. Then we demonstrates the performance of JAXON through the experiment of getting out of a vehicle, stepping over walls, squatting with heavy barbels, walking with four limbs, and operating on batteries. Further more, we assesses the performance of the strong armor and the shock absorbing structure through a backward over-turning accident.
著者
小島 哲
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.58-69, 2012-04-30 (Released:2012-05-25)
参考文献数
59

鳴禽と呼ばれる小鳥類は,言語を学習する人間と同様,「さえずり」という複雑な音声パターンを他個体からの模倣により発達させる。彼らは,あらかじめ耳で聞いて記憶した手本のさえずりの音声パターンに自分自身の音声を一致させるという高度な感覚運動学習を通して,手本とよく似たさえずりを獲得する。このさえずりの感覚運動学習には,Anterior Forebrain Pathway(AFP)と呼ばれる神経経路が中心的な役割を果たしており,近年その機能の解析にともない鳥がさえずりを上達させるメカニズムが急速に明らかになってきている。本稿では,筆者らの研究を含めたAFPに関する最近の研究を概説し,さえずり学習の神経機構および行動戦略に関する最新の動向を紹介する。またAFPは,大脳皮質‐大脳基底核ループと呼ばれる,哺乳類の脳にも存在する神経経路の一部がさえずり学習に特化したものであることから,同ループ経路の複雑な機能を理解する上での非常に良いモデルになると最近言われている。そこで,哺乳類の同ループ経路の機能に重要な示唆を与える鳴禽AFPの最近の研究を紹介し,今後鳴禽AFPの研究が大脳基底核の機能の解明において果たし得る役割と課題についても論ずる。

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著者
大野盛雄 小島麗逸編著
出版者
勁草書房
巻号頁・発行日
1994
著者
小島清友 著
出版者
宝文館
巻号頁・発行日
1926
著者
小島 泰雄
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2018年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.86, 2018 (Released:2018-12-01)

1.中国の辛い地域 四川料理が辛いことを説明するのは、夏が暑いことを論じるようなある種の徒労を感じる作業である。「麻辣」が正しい辛さの表現である、四川料理にも辛くない料理がある、湖南人の方が「怕不辣」であるといったことも、耳を傾けるべき指摘であるが、ここでは中国のどこが辛い料理を好むのかについてなされた興味深い報告を紹介したい。藍勇(2001)は、シリーズとして刊行された中国12省市の料理書の調味記載を定量的に分析(「辣度」)し、辛さの地域分化を提示している(下表)。この表は、中国食文化の多様な地域的展開において、一つの特色ある地域文化として四川料理を捉えるべきことを示唆している。2.とうがらしの伝播 辛い四川料理はそれほど長い歴史をもつものではない。その辛さにはとうがらしが主たる貢献をなしていることから、新大陸原産のそれが四川に到達して以降であることは容易に思い至るだろう。 この方面の研究も近年、詳細さを深めている。丁暁蕾・胡乂尹(2015)は、明清期の地方誌に記載されたとうがらし関連の記載を全国にわたって丹念にたどり、とうがらしの中国国内での伝播を復原している。初期のとうがらしの呼称である「番椒」は、明朝末期から18世紀までは主に東南沿海地区と黄河中下流という離れた2つの地域で確認され、19世紀前半に東南沿海から北上および内陸に展開している。四川の方志にとうがらしの記載が見られるのは、19世紀になってからとする。方志が数十年間隔で編纂されたことを加味するならば、四川でのとうがらしの普及が18世紀に遡る可能性はあるが、それにしても清朝中期のことである。 新大陸原産の作物が、現代中国の農業と食において欠くべからざる存在となっていることは、とうもろこしやさつまいも、じゃがいもといった主食となる作物、あるいはトマト、なす、かぼちゃといった野菜の名を挙げるだけで十分に理解されよう。これらの入っていない中国料理はなんとみすぼらしいことだろうか。こうした新大陸原産作物の伝播は、時間と空間において決して単純なものではなく、繰り返し様々なルートでもたらされたものとされる(李昕昇・王思明2016)。3.自然地理と歴史地理 熱帯で栽培される胡椒と異なり、とうがらしは温帯でも栽培できる香辛料であり、新大陸から運び出された種子は持ち込まれた世界各地に定着していった。食文化の地域性は、その素材となる動植物の分布・農牧業を媒介項として、気候や地形といった自然地理と結びつけられて解釈されることが一般的である。中国は季節風により夏季温暖多雨であり、とうがらしは農耕地域であればほとんどの地域で栽培しうる。したがって中国における辛さを好む地域性は異なる理路で説明されることが求められることとなる。 とうがらしは、寒冷や湿潤に伴う身体的反応と結びつけられてきたが、類似の気候条件で辛さを好まない地域を容易に提示できることから明らかなように、環境決定論的な単純な推論は説得力を持ち得ない。そこで考慮すべきなのが、社会経済的な、あるいは文化的な、言い換えれば歴史地理的な推論である。 現在、中国では各地で四川料理が食べられているが、共通するのがその庶民性である。とうがらしの入った料理は素材の善し悪しをそれほど問わない。とうがらしが定着していった清朝中期、四川はまさにフロンティアであった。多くの移民を受け入れ、人口過剰な情況になった四川には普遍的な貧しさがあり、「開胃」(食欲増進)に顕著な効果のある(山本紀夫2016)とうがらしは、地域住民に歓迎されたと考えられる。 ただし前近代の農村の不安定性は、四川に特権的な貧しさを認めないであろう。そこで食文化の連続性が浮かび上がる。中国在来の香辛料である花椒が陝西から四川にかけて多く使われていたとする指摘は、さらに深く考究してゆくに値するであろう。 モンスーンアジアに視野を拡げると、胡椒産地であるインドが熱烈なとうがらし受容地域であるのに対して、食文化に関して多様な地域性をもつ中国がとうがらしの受容において選択的であることは、まさに食文化の連続性を物語る対照性と言えるのではないであろうか。