著者
小林 孝郎
出版者
拓殖大学言語文化研究所
雑誌
拓殖大学語学研究 = Takushoku language studies (ISSN:13488384)
巻号頁・発行日
vol.144, pp.79-96, 2021-03-25

「待遇性接頭辞」の「お」と「ご」とその使い分け方法については,従来から問題点の存在が指摘されてきた。おおかたの研究の示すところは,その使い分けの要諦を「お,ご」に後接する語彙情報に拠るとするもの(「語種原則」)であったが,そこで生じる問題として「お,ご」と後接する語種とのミスマッチをどのように説明するかという点があった。本稿はこれに対して,「お+漢語」「ご+和語」の問題を含めて研究史を概観し,学術的にも日本語教育分野においても「語種原則」が浸透している現状について考察した。次に,「語種原則」に代わる可能性を持つ新たな説明項を模索する研究潮流について論じた。そして,それらの説明項(本稿では「解釈要素」とした)を初級日本語教育に応用することが可能かどうかを日本語教科書の「漢語語彙」を実際に検証することで考察した。
著者
小林 美咲
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.110, no.3, pp.275, 2000 (Released:2014-08-19)
被引用文献数
7

アトピー性皮膚炎患者の掻破行動について,患者自身が1ヵ月以上にわたり毎日記録したノートをもとに解析を行った.32例の記録が得られ,検討の結果,通常の痒み刺激による掻く行動の他に,情動と相関して多くは自動的無意識的に起こり,定期的に毎日長時間繰り返されている習慣的な掻破行動の存在が認められた.この習慣的な掻破行動には精神的依存が生じており,コントロールを欠いた状態も見られた.これは単に習慣を越えて嗜癖addiction,または嗜癖行動addictive hehaviorに相当するものであり,嗜癖的掻破行動addictive scratching,さらに,掻破行動依存症scratch dependenceと考え得ると思われた.また掻破行動はほぼ同じ様な掻き方に様式化していることが認められた.そのため,掻破の関与した皮疹は左右対称性に限局して分布する特徴があった.また掻破行動の道具として使用される患者の両手にはpearly nailなどの特徴的な変化が生じていた.嗜癖的掻破行動がアトピー性皮膚炎の病変形成に関与している事が示唆された.
著者
上出 櫻子 清水 彩美 小井土 美香 信田 真由美 小南 優 吉澤 茜 小山 理恵 早川 洋一 小林 牧人
出版者
公益財団法人 平岡環境科学研究所
雑誌
自然環境科学研究 (ISSN:09167595)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.31-39, 2016 (Released:2020-01-12)
参考文献数
12
被引用文献数
2

The Japanese medaka is designated as an endangered species because of its decreasing population, and conservation of the medaka is an urgent concern. In the present study, in order to obtain basic information for conservation of wild medaka, we observed the reproductive behavior of female medaka (Oryzias latipes, orange-red variety and wild fish) in experimental aquaria under various environmental conditions. Female medaka normally deposited eggs on aquatic plants or aquatic mosses which were solid with a soft surface in experimental aquaria. However, the fish did not deposit eggs but discarded eggs in aquaria provided with sand, floating aquatic plants, and no substrate, and in an aquarium lined with concrete. These results indicate that a suitable substrate is essential for successful egg deposition of medaka, and suggest that maintaining suitable vegetation in natural environments is important for conservation of wild medaka.
著者
森 広子 小林 章子 吉川 沙苗 山下 仁
出版者
日本補完代替医療学会
雑誌
日本補完代替医療学会誌 (ISSN:13487922)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.137-142, 2009

目的:精油が循環器系に与える影響に注目し,血圧と脈拍に対する効果を評価した.<br> 方法:昇圧作用があるとされているローズマリーと,降圧作用があるとされている真正ラベンダーの 2 種類の精油を用いた.被験者 60 名を,ローズマリー群,真正ラベンダー群,およびコントロール群の 3 群に分け,2 分間の香り吸入前後に血圧・脈拍測定を行い,さらに香りに対する嗜好を 10 段階で評価し,香りの嗜好が血圧・脈拍に及ぼす影響も検討した.<br> 結果:ローズマリー吸入後に有意な脈拍上昇を認めた.また,ローズマリーの香りに否定的な感情をもった被験者群では,吸入後の拡張期血圧上昇傾向を認めた.一方,真正ラベンダーの香りに否定的な感情をもった被験者群では,吸入後の脈拍上昇傾向を認め,「肯定群」「否定群」間で収縮期血圧と脈拍における吸入前後の変化のパターンに有意差が見られた.<br> 結論:精油成分から想定される効果だけでなく,香りに対する好き嫌いが,生体反応に影響を与える事が示唆された.<br>
著者
前田 修平 竹村 和人 小林 ちあき
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.99, no.2, pp.449-458, 2021 (Released:2021-04-14)
参考文献数
17
被引用文献数
3

本研究では、ユーラシアパターン―ユーラシア北部において冬季に卓越するテレコネクションパターン―に関連する惑星波の変調を、JRA-55を使用した合成図分析により解析し、波―平均流相互作用を含むユーラシアパターンの力学的メカニズムを明らかにする。 平年偏差の点からは、ユーラシアパターンは、北ヨーロッパ、中西部シベリア、および日本に作用中心を持つ、等価順圧な鉛直構造をした定常ロスビー波型のテレコネクションとして知られている。一方、帯状平均からのずれの観点では、ユーラシアパターンは、東アジアの冬季モンスーンに関連する惑星波の活動度を変調する。 強化された東アジア冬季モンスーンに対応するユーラシアパターンの正位相では、対流圏のユーラシア中部から北太平洋において東方・上方に伝播する惑星波が平年より強まる。この惑星波の強化には、東アジアにおける帯状平均から擾乱への傾圧エネルギー変換が寄与する。強化され東方・上方に伝播した惑星波は、上部対流圏で収束し、それにより中高緯度の直接循環偏差と、中緯度下部対流圏への寒気流出を引き起こす。これらの結果は、ユーラシアパターンは主に惑星波の活動に関係する全球的な力学モードの1つであることを示す。
著者
萩野 浩一 小林 良彦 豊田 直樹 中村 哲
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.74, no.9, pp.655-658, 2019-09-05 (Released:2020-03-10)
参考文献数
23

歴史の小径ラザフォードの指導を受けた日本人若手研究者――S. Obaとは誰か
著者
小林 基
出版者
一般社団法人 人文地理学会
雑誌
人文地理 (ISSN:00187216)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.397-419, 2016 (Released:2018-01-31)
参考文献数
50

1970年代に,研究者らによって保全の必要性が主張され注目された「伝統作物」は,国内各地で農産物ブランドの形成を通じた農業振興に活用されうるものとしてあらためて注目を集め,研究が進んでいる。本稿は,兵庫県篠山市の丹波黒のブランド化を題材とし,伝統作物のブランド化過程を解明する。1970年代末以降,丹波黒は転作作物として生産が拡大され,全国的・周年的な需要が掘り起こされていった。1990年代になると西日本を中心に各地で新興産地が生じ,篠山では利益保護のためのブランド認証が必要となった。さらに,生産者と流通業者の関係をみると,他産地に先駆けて商品を出荷したい流通業者と収穫に時間と手間をかけざるをえない農家との間に葛藤が生じ,その調整がなされていた。このように,生産・供給システムの広域化による需要獲得と利益保護の両立,高品質性と早出しの両立といった諸方策により,丹波黒の全国ブランド化が展開したことが分かった。
著者
永田 員也 日笠 茂樹 酒木 大助 小林 淳 三橋 いずみ 川口 亮 福武 和正 平尾 裕之
出版者
一般社団法人 日本接着学会
雑誌
日本接着学会誌 = Journal of the Adhesion Society of Japan (ISSN:09164812)
巻号頁・発行日
vol.37, no.8, pp.309-315, 2001-08-01
参考文献数
7
被引用文献数
2

ヘンシェルミキサーを用い重質炭酸カルシウム(平均粒子径1.4mm)とタルク(3.2mm)をそれぞれ重量比3/1,1/1,1/3での混合と同時にステアリン酸による表面改質を行うことにより複合(ハイブリッド)フィラーを調製した。得られたハイブリッドフィラーおよび両者のフィラーを乾式で混合したブレンドフィラーをポリプロピレン(PP)に二軸押出機にて混練し,射出成形機で試料を調製した。これらフィラーの走査型電子顕微鏡観察の結果,ハイブリッドフィラーはブレンドフィラーと大きく異なり,混合時の衝突エネルギー,表面改質,粒子形状の違いなどにより微粒子炭酸カルシウムやタルクの凝集塊が十分に解砕されていた。ハイブリッドフィラー充填複合材料はそれぞれの粒子が均一にマトリックスに分散していた。得られた複合材料の力学特性を測定した結果,ハイブリッドおよびブレンドフィラー充填複合材料の弾性率や降伏強度はタルク配合比増加とともに向上し,タルクがこれらの力学特性改善効果に大きく寄与していることが明らかとなった。ブレンドフィラー充填複合材料ではタルク充填により衝撃強度が大きく低下した。一方,ハイブリッドフィラー充填複合材料の衝撃強度はフィラー充填量40%を除いてタルク含有量が10wt%以下ではマトリックスPPの38kJ・m-2よりも高い衝撃強度であり,炭酸カルシウムの配合比が高いほど優れた衝撃強度を示した。このハイブリッドフィラーの衝撃強度改善効果は解砕微粒子炭酸カルシウムの応力分散作用およびタルク凝集塊の解砕が主な要因であると考えられる。
著者
徳竹 いづみ 小林 正義 杉村 直哉 冨岡 詔子
出版者
日本作業療法士協会
巻号頁・発行日
pp.38-46, 2008-02-15

要旨:本研究の目的は,長期入院患者と合意される作業療法目標の特徴を明らかにすることである.合意面接に同意した72名の入院患者を対象に「合意内容調査票」を用いて調査した結果,「身体・健康管理」,「楽しみ・趣味」,「気分転換」に関することが対象者と合意されやすい目標であり,面接を2回行った37名の結果からは,合意内容が作業療法経過に沿って発展していくことが確認された.これらの結果は,長期入院患者と理解しやすいことばで目標を合意することの重要性を示しており,対象者と作業療法目標を分かち合う過程は日常生活に意味や価値をもたらし,長期入院による二次的な機能低下を防ぐための基本的な援助過程と思われた.
著者
加辺 憲人 黒澤 和生 西田 裕介 岸田 あゆみ 小林 聖美 田中 淑子 牧迫 飛雄馬 増田 幸泰 渡辺 観世子
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.199-204, 2002 (Released:2002-08-21)
参考文献数
15
被引用文献数
30 20

本研究の目的は,健常若年男性を対象に,水平面・垂直面での足趾が動的姿勢制御能に果たす役割と足趾把持筋力との関係を明らかにすることである。母趾,第2~5趾,全趾をそれぞれ免荷する足底板および足趾を免荷しない足底板を4種類作成し,前方Functional Reach時の足圧中心移動距離を測定した。また,垂直面における動的姿勢制御能の指標として,しゃがみ・立ちあがり動作時の重心動揺を測定した。その結果,水平面・垂直面ともに,母趾は偏位した体重心を支持する「支持作用」,第2~5趾は偏位した体重心を中心に戻す「中心に戻す作用」があり,水平面・垂直面での動的姿勢制御能において母趾・第2~5趾の役割を示唆する結果となった。足趾把持筋力は握力測定用の握力計を足趾用に改良し,母趾と第2~5趾とを分けて測定した。動的姿勢制御能と足趾把持筋力との関係を分析した結果,足趾把持筋力が動揺面積を減少させることも示唆され,足趾把持筋力の強弱が垂直面での動的姿勢制御能に関与し,足趾把持筋力強化により転倒の危険性を減少させる可能性があると考えられる。
著者
野瀬 遵 小林 秀司
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
巻号頁・発行日
pp.269, 2013 (Released:2014-02-14)

ヌートリア Myocastor coypusは南米原産の適応力に優れた特定外来生物である.我が国において,輸入した繁殖個体が戦中・戦後の 2度にわたる毛皮需要低下により放逐され,各地で生息域を拡大している.岡山県では,生息条件が良好であった児島湾干拓地帯に放たれたものが定着するとともに,1970年代以降に県下一円に分布を拡げたと考えられている(三浦,1976). 岡山県においてはヌートリア駆除が促進されているが,この数十年ヌートリアによる農業被害額に大きな変動はみられず,従って個体群構造が比較的安定している可能性が示唆されている(小林ら,2012) 野生動物の駆除や保護を目的とする場合,その対象生物の生態の把握は必須.である.しかし,我が国におけるヌートリアの生態そのものに関する報告は三浦(1970,1976,1977,1994)に留まり,行動圏を長期的に調査した研究はない.そのため,岡山県笹ヶ瀬川にて,ラジオテレメトリー法を用いて,長期的なヌートリアの行動圏とコアエリアの推移を明らかにするべく個体追跡調査を開始した.調査個体は目視調査により,使用している巣穴が特定されていることと,縄張りをすでに確立していると考えられる比較的大型の個体を対象とした.捕獲した個体にヌートリア用インプラント発信器(CIRCUIT DESIGN,INC.社製 LT-04)を埋め込み放逐した.電波の受信には指向性のある 3素子八木アンテナ(有山工業社製 YA-23L),オールモード受信機(アルインコ社製 DJ-X11)を使用し,ラジオテレメトリー法による個体追跡調査を行った. 研究個体の現段階における日周期リズム・行動圏とコアエリアの算出・行動圏利用に関して報告する.また,今後は長期的にデータを積み重ね,ヌートリアの生態解明を目指す.
著者
鈴木 三男 能城 修一 小林 和貴 工藤 雄一郎 鯵本 眞友美 網谷 克彦
出版者
日本植生史学会
雑誌
植生史研究 (ISSN:0915003X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.67-71, 2012

Urushi is the lacquer produced by Toxicodendron vernici!uum. In Japan, Urushi products is known since ca. 9000 years ago from a remain at the Kakinoshima B site and became common since the early Jomon period. Archaeological woods of T. vernici!uum, however, had not been reported until ca. 10 years ago, when identi!cation of its woods from those of close allies was made possible. Since then, re-identi!caiton of excavated woods revealed that T. vernici!uum was commonly grown around settelments since the early Jomon period, but also indicated the existence of a sample of the incipient Jomon period from the Torihama Shell Midden site, Fukui Prefecture, which is too old to be considered as an introduction from the Asian continent to Japan. Here, we measured the radiocarbon age of this sample as 10,615 ± 30 14C BP (12,600 cal BP) in the incipient Jomon period, 3600 years before the oldest remain at the Kakinoshima B site. Most botanists consider that T. vernici!uum is not native and introduced to Japan by ancient people. Thus, the presence of T. vernici!uum wood in the incipient Jomon period seems to mean that Urushi was introduced from the Asian continent already in that period.
著者
新井 亘 上田 恵子 岡添 進 矢吹 直寛 小林 理栄 松木 祥彦 矢嶋 美樹
出版者
Japanese Society for Infection Prevention and Control
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.142-148, 2012

上尾中央医科グループ薬剤部では,感染制御専門薬剤師を育成する支援として,2006年度から定期的に研修会を開催している.2010年度からは,日本病院薬剤師会の感染制御専門薬剤師または感染制御認定薬剤師にて運営委員会を結成した.年度始めに研修会の参加者を募り,感染制御チームの活動や感染症治療の症例の提出を依頼した.<br>   2010年度は19施設から36名の参加者があり,47事例を収集した.その中から運営委員会の委員(以下,運営委員)にて薬剤師が日常的に遭遇する16事例を選択し,発表者を定めるなどの年間計画を立案した.事前に運営委員にて研修資料を基準に基づいて内容の確認を行い,必要に応じて修正を依頼した.研修会は年間4回開催し,少人数による討論形式で行った.36名中25名が4回通して継続した参加であった.参加者を対象とした研修後の調査では,薬剤師の感染制御に関する関心が高かった.年度末に行った感染に関連する業務の実施率の調査では,研修会参加施設群において不参加施設群と比較して高かった.研修によって施設間の情報の共有や感染対策の支援体制が促進し,対応の多様性を検討することができる内容であると思われる.感染制御専門薬剤師または感染制御認定薬剤師が研修会を運営することは,専門特化した人材育成のために重要な任務を担っているといえる.<br>