著者
小林 健彦
出版者
新潟産業大学経済学部
雑誌
新潟産業大学経済学部紀要 = BULLETIN OF NIIGATA SANGYO UNIVERSITY FACULTY OF ECONOMICS (ISSN:13411551)
巻号頁・発行日
no.57, pp.81-103, 2021-01

日本では、古来、様々な自然災害や人為的災害が人々を襲い、人々はその都度、復旧、復興させながら、現在へと至る地域社会、国家を形成、維持、発展させて来た。日本は列島、付属島嶼を主体とした島嶼国家であり、そこでは「水災害」が多く発生していたが、こうした地理的理由に依る自然災害や、人々の活動に伴う形での人為的な災害等も、当時の日本居住者に無常観・厭世観を形成させるに十分な要素として存在したのである。文字認知、識字率が必ずしも高くはなかった近世以前の段階でも、文字を自由に操ることのできる限られた人々に依った記録、就中(なかんづく)、災害記録は作成されていた。特に古い時代に在って、それは宗教者(僧侶や神官)や官人等に負う処が大きかったのである。正史として編纂された官撰国史の中にも、古代王権が或(あ)る種の意図を以って、多くの災害記録を記述していた。ここで言う処の「或る種の意図」とは、それらの自然的、人為的事象の発生を、或る場合には自らの都合の良い様に解釈をし、加工し、政治的、外交的に利用、喧伝することであった。その目的は、災害対処能力を持ちうる唯一の王権として、自らの「支配の正当性、超越性」を合理的に主張することであったものと考えられる。それ以外にも、取り分け、カナ文字(ひらがな)が一般化する様になると、記録としての私日記や、読者の存在を想定した物語、説話集、日記等、文学作品の中に於いて、各種の災害が直接、間接に記述される様になって行った。ただ、文学作品中に描写された災害が全て事実であったとは言い難い。しかしながら、それも最初から嘘八百を並べたものではなく、素材となる何らかの事象(実際に発生していた災害)を元にして描かれていたことは十分に考えられるのである。従って、文学作品中には却って、真実としての、当時の人々に依る対災害観や、ものの見方が反映され、包含されていることが想定される。都が平安京(京都市)に移行する以前の段階に於いては、「咎徴(きゅうちょう)」の語が示す中国由来の儒教的災異思想の反映が大きく見られた。しかしながら、本稿で触れる平安時代以降の段階に在って、それは影も形も無くなるのである。その理由に就いては、はっきりとはしていない。しかしその分、人々に依る正直な形での対自然観、対災害観、対社会観の表出が、文学作品等を中心として見られる様になって来るのである。本稿では、以上の観点、課題意識より、日本に於ける対災害観や、災害対処の様相を、意図して作られ、又、読者の存在が意識された「文学作品」を素材としながら、文化論として窺おうとしたものである。作品としての文学に如何なる災異観の反映が見られるのか、見られないのかに関して、追究を試みた。今回、具体的素材としては「伊勢物語」を取り上げながら、この課題に取り組んだものである
著者
小林 健彦
出版者
新潟産業大学経済学部
雑誌
新潟産業大学経済学部紀要 = Bulletin of Niigata Sangyo University Faculty of Economics (ISSN:13411551)
巻号頁・発行日
no.57, pp.123-178, 2021-01

日本では、古来、様々な自然災害―大雨、洪水、土石流、地滑り、地震、津波、火山噴火、雪害、雹、暴風雨、高波、高潮、旱害、冷害、蝗害等、そして、人為的災害―疫病流行、戦乱、盗賊、略奪行為の発生等々、数え切れない程の災害が人々を襲い、人々はその都度、復旧、復興しながら、現在へと至る地域社会を形成、維持、発展させて来た。日本に於ける地理的理由に起因した形での自然災害や、人の活動に伴う形での人為的な災害等も、当時の日本居住者に無常観・厭世観を形成させるに十分な要素として存在したのである。文字認知、識字率が必ずしも高くはなかった近世以前の段階でも、文字を自由に操ることのできる限られた人々に依った記録、就中(なかんづく)、災害記録は作成されていた。特に古い時代に在って、それは宗教者(僧侶や神官)や官人等に負う処が大きかったのである。カナ文字(ひらがな)が一般化する様になると、記録としての個人の日記や、読者の存在を想定した物語、説話集、日記等、文学作品の中でも、各種の災害が直接、間接に記述される様になって行った。ただ、文学作品中に描写された災害が全て事実であったとは言い難い。しかしながら、素材となる何らかの事象(実際に発生していた災害)を元にして描かれていたことは十分に考えられるのである。従って、文学作品中には却って、真実としての、当時の人々に依る対災害観や、ものの見方が包含されて反映され、又は、埋没していることも想定されるのである。本稿で触れる平安時代以降の段階に在っては、人々に依る正直な形での対自然観、対災害観、対社会観の表出が、文学作品等を中心として見られる様になって来るのである。以上の観点、課題意識より、本稿では日本に於ける対災害観や、災害対処の様相を、意図して作られ、又、読者の存在が意識された「文学作品」を素材としながら、文化論として窺おうとしたものである。作品としての文学に如何なる災異観の反映が見られるのか、見られないのかに関して、追究を試みることとする。又、それらの記載内容と、作品ではない(古)記録類に記載されていた内容に見られる対災害観との対比、対照研究をも視野に入れる。
著者
山前 碧 小林 裕太 上原 哲太郎 佐々木 良一
雑誌
研究報告マルチメディア通信と分散処理(DPS)
巻号頁・発行日
vol.2015-DPS-162, no.39, pp.1-7, 2015-02-26

ここ数年で,PC の不揮発性記憶媒体として SSD(Solid State Drive) の普及が高まると予想される.IT 調査会社の IDC Japan によると,SSD 市場の 2017 年までの平均成長率は 39.2% と予測している.そのため,SSD の消去ファイルの復元率の把握が,PC の破棄の時点での事前処理や,デジタルフォレンジックのための証拠の確保可能性を知る上で重要となってきた.また,SSD には Trim 機能という特徴的な機能があり,この機能による復元の影響を検証する必要が出てきた.そのため,本研究では,SSD の Trim の有無,削除後の利用状況の差異,OS の差異に伴うデータ復元の確率について検証した.結果,Trim 無効時は,データの多くは削除してから一日しか残っていないことが明らかになった.また,Trim 有効時は削除直後でもデータは残っていないことが明らかになった.さらに,ファイルサイズや拡張子,OS による大きな違いは見られなかった.本稿では上記の検証とデジタルフォレンジックの目的での復元,PC 廃棄の目線からの考察を報告する.
著者
川崎 智也 轟 朝幸 小林 聡一
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.71, no.5, pp.I_523-I_532, 2015
被引用文献数
1

首都圏の都市鉄道では,朝ラッシュ時に定常的な混雑が発生している.混雑緩和に対する一つの解決策として,時差通勤をした者に対して,抽選で賞金が当たる抽選型報奨金制度がある.本研究では,東京メトロ東西線利用者を対象として,オーダードロジットモデルを用いて抽選型報奨金制度を導入した場合の鉄道利用者行動モデルを構築し,当選金額および当選金額に対する感度分析を実施した.その結果,当選の期待値が100円の下で当選金額を28.9千円(当選確率0.33%)とした場合,定額型施策よりも時差通勤施策の参加者が増加する可能性が示され,混雑率は197.5%となり,現状の混雑率である199%から1.5%減少することが示された.当選金額を20万円(当選確率0.05%)と高額に設定すると,混雑率は196.9%まで減少し,定額型施策よりも0.6%低下した.
著者
中村 邦夫 小林 収
出版者
日経BP社
雑誌
日経ビジネス (ISSN:00290491)
巻号頁・発行日
no.1050, pp.184-187, 2000-07-17

問 社長就任会見では「ソニーはライバルであり、リーダーであり、先生である」とおっしゃっていました。やはり、一番気になる会社ですか。 答 私は米国時代から、AV(音響・映像)関連の事業部(AVC社)をやって、ソニーさんを目標にしていましたからね。でも最近、「対"ソ"戦争は卒業」と言ったんですよ(笑)。
著者
長谷川 健 柴田 翔平 小林 哲夫 望月 伸竜 中川 光弘 岸本 博志
出版者
特定非営利活動法人 日本火山学会
雑誌
火山 (ISSN:04534360)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.187-210, 2021-09-30 (Released:2021-10-29)
参考文献数
57

Based on detailed fieldwork, petrological and paleomagnetic investigations, we present a revised stratigraphy of deposits from the 7.6 ka eruption at Mashu volcano and the formation process of its summit caldera, eastern Hokkaido, Japan. As previously described, the eruption products consist of an initial phreatomagmatic unit (Ma-j) and the overlying three pumice-fall layers (Ma-i, -h, and -g), which are in turn overlain by pyroclastic-flow deposits (Ma-f). In the present study, we divide Ma-f into 4 subunits: Ma-f1/2, Ma-fAc, Ma-f3a and Ma-f3b in descending order. Ma-f3b is a valley-ponding, pumice-flow deposit with limited distribution. Ma-f3a comprises clast-supported facies (fines-depleted ignimbrite: FDI) and matrix-supported (normal ignimbrite) facies, the two changing across topography. The FDI is characterized by a gray, fines-depleted, lithic-breccia-rich layer with materials incorporated from the substrate. Impact sag structures from large (>50 cm) dacite ballistic blocks were recognized at the base of the Ma-f3a within 10 km from the source. Ma-fAc is a minor eruption unit consisting of accretionary lapilli. Ma-f1/2 is a most voluminous (8.8 km3), widely distributed and weakly stratified ignimbrite. Both Ma-f3a and Ma-f1/2 can be classified as “low aspect ratio ignimbrite (LARI)”. Dacite lithic fragments are ubiquitously observed throughout the sequence and are not considered to be juvenile; they have distinctly different chemical compositions from the pumice fragments in the early pumice-fall (Ma-g~Ma-i) and pyroclastic-flow (Ma-f3b) deposits, but those of pumice clasts in the late pyroclastic-flow units (Ma-f3a and Ma-f2) lie between the two on a FeO*/MgO vs. SiO2 diagram. The 7.6 ka caldera-forming eruption of the Mashu volcano was initiated by Plinian fall (Ma-j~-g), and then, a small-volume high aspect ratio ignimbrite (Ma-f3b) was deposited by a valley-confined pyroclastic flow that was generated by partial column collapse. After that, a violent pyroclastic flow was generated probably during a strong explosion of a dacite lava edifice on the summit of Mashu volcano. This flow emplaced Ma-f3a. The caldera collapse that followed the explosion generated a climactic pyroclastic flow that emplaced Ma-f1/2. Ma-f3a flow was extremely fast. Ma-f1/2 flow was related to sustained flow due to low settling velocity and high discharge volume. These are supported by field observations and numerical simulation that shows the ability of the flow to surmount high topographic obstacles and spread widely. The 7.6 ka caldera-forming process of Mashu volcano was driven not only by subsidence of roof block but also by violent explosions.
著者
伊藤 澄夫 武田 寿 小林 昭彦 桜井 裕之 多田 善彦 青木 岳 細貝 猛 山中 崇彰 石綿 肇
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.254-256_1, 1993

輸入ウオッカ中のフタル酸ジブチル (DBP) の簡易で迅速な分析法を開発し, 応用を試みた. DBPは試料から<i>n</i>-ヘキサンで抽出, 直接FID付キャピラリーカラムガスクロマトグラフで定量した. 0.5~5.0ppmのDBPを試料に添加したときの回収率は92.7~98.5%であった. 検出限界は0.1ppm, 所要時間は約30分であった. ロシア産ウオッカ15試料について定量を行ったところ, 2試料から0.1及び0.2ppmのDBPが検出された. これらに付いてはGC/MSで確認を行った.
著者
大仲 賢二 小林 直樹 内山 陽介 本田 三緒子 三宅 司郎 小西 良子
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.148-156, 2021-10-25 (Released:2021-11-02)
参考文献数
43

漬物に使用される伝統的な4種類の生野菜(キュウリ,白菜,大根,ナス)から分離した乳酸菌(LAB)によるアフラトキシン(AFs)に対する暴露低減効果を調査した.最初に,AFM1との結合能を調べ,各野菜から最も結合率が高いLABを1株ずつ計4株選んだ.選んだ4菌株とAFB1,AFB2,AFG1,AFG2およびAFM1との結合率は,キュウリ由来LABで57.5%~87.9%,白菜由来LABで18.9%~43.9%,大根由来LABで26.4%~41.7%,ナス由来LABで15.0%~42.6%であった.また,キュウリ,白菜,大根およびナスから分離されたLABは,それぞれLactococcus lactis subsp. lactis,Weissella cibaria,Leuconostoc mesenteroides,Leu. mesenteroidesと同定された.さらに胃の中を模した酸性条件下で4菌株とAFM1との結合能を測定したところLABの生菌数は減少したが結合能はいくつかの菌株で増加し,これらの菌株はAFsとの結合能を保持していた.動物実験においてキュウリ由来L. lactis subsp. lactisが血清へのAFB1の吸収を有意に阻害することが明らかになった.以上の結果から漬物(浅漬けとぬか漬け)に使用される野菜に生息するLABがAFsと結合能を持ち,AFsに対する暴露低減効果を有すことが示唆された.
著者
小林 惺
出版者
イタリア学会
雑誌
イタリア学会誌 (ISSN:03872947)
巻号頁・発行日
no.33, pp.1-21, 1984-03-15

Come e noto, "Il Gattopardo" di G.Tomasi di Lampedusa ha goduto di una immensa popolarita nella letteratura italiana del dopoguerra. Perche ha potuto conquistarsi un cosi vasto pubblico? Forse e dovuto alle meravigliose descrizioni della morte del protagonista, Principe Don Fabrizio, e della caduta di un nobile casato siciliano. Infatti, mi pare misteriosamente affascinante la fine grandiosa non solo persona ma del gruppo: famiglia, comunita, societa e stato. La morte completa la vita, o in altri termini, la vita si perfeziona solo all'interno della morte. Ed assistendo a tale morte, si puo vedere la vita nella sua totalita: il che ci da un senso di integrazione non parziale, liberi dal'alienazione. Inoltre. in questa esperienza, si intravede a volte il sacro. La figura pacata del Principe che sogna di andare nel mondo di stelle ci rammenta gli eroi antichi che accettavano tranquillamente il proprio destino.
著者
堀尾 文彦 村井 篤嗣 小林 美里
出版者
名古屋大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

ビタミンC(VC)生合成不能のODSラットにVC無添加飼料を8日間与えた時期には欠乏症状は全く発症していないが、LPS誘発性敗血症を引き起こすと5.5%という極めて低い生存率であった。それに対して、最小必要量のVCの摂取は生存率を39%にまで上昇させ、ビタミンC摂取が敗血症防御効果のあることを初めて示した。さらに特筆すべきことは、最小必要量の10倍の高用量のビタミンC摂取は生存率を61%にまで改善させ、高用量VC摂取が敗血症に対して有効な防御手段であることを示した。このVCの作用は、LPSによる血中単核球でのTNFαおよびIL-1βの産生上昇の抑制によることを示唆する結果も得た。
著者
小林 義典
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.192-194, 2015 (Released:2016-03-11)
参考文献数
8
著者
小林 豊
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.51, pp.445, 2004

植物は、植食性節足動物に食害を受けると、しばしばSOSシグナルと呼ばれる揮発性物質を放出する。このSOSシグナルは、植食者の天敵を誘引し、天敵は植食者を退治する。つまり、SOSシグナルを介して、植物と天敵の間に互恵的関係が成り立っている。近年の研究から、未加害の植物がこのSOSシグナルにさらされると、自身もまたシグナル物質を放出するようになることが明らかになった。シグナル物質の生産に何らかのコストがかかるとすれば、このような形質の適応的意義はそれほど明らかではない。著者は、このようないわゆる「立ち聞き」の適応的意義について考察し、三つの仮説を立て、数理モデル化した。そのうち、第一の仮説「被食前駆除仮説」については、既に発表済みである。今回は、第二、第三の仮説について考察する。<br> 第二の仮説「被食前防御仮説」によれば、「立ち聞き」による二次的なシグナルは、前もって天敵を呼び寄せておくことにより、将来の食害の危険を軽減するための戦略である。著者は、ゲーム理論的なモデルを構築して、このような機能をもったシグナルが進化的に安定になる条件を調べた。<br> 一方、第三の仮説「血縁選択仮説」によれば、「立ち聞き」による二次シグナルは、近隣の血縁個体を助けることにより自身の包括適応度を上げるための戦略である。もし隣り合った個体が同時にシグナルを出すことによりシグナルの天敵誘引能を向上することができ、かつ隣り合った個体同士が互いに遺伝的に近縁ならば、このような戦略が進化しうるだろう。各格子がパッチになっているような格子状モデルを用いてこのような「立ち聞き」戦略が有利になる条件を調べた。<br> 本発表では、これらの数理モデルの結果を報告し、仮説間の関係についても議論する。
著者
小林 弘尚 最上 晴太 高橋 希実 馬場 長 近藤 英治 小西 郁生
出版者
近畿産科婦人科学会
雑誌
産婦人科の進歩 (ISSN:03708446)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.405-409, 2015 (Released:2015-11-27)
参考文献数
13

リステリア感染症は主にグラム陽性桿菌のListeria monocytogenesにより引き起こされる.この比較的まれな感染症は,周産期では時に流産,早産,子宮内胎児死亡を生じ,予後不良の疾患である.症例は35歳の初産婦,妊娠5週ごろに生ハムとチーズを海外で摂取した既往がある.妊娠9週で39.5℃の発熱を認め受診した.血液培養ではListeria monocytogenesが検出され,直ちに抗生剤による治療を開始した.母体はしばらく弛張熱が続いたが徐々に症状は改善された.しかし稽留流産となった.子宮内容物の病理診断では,多数の好中球浸潤と絨毛の壊死が著明であった.グラム染色では菌体を検出できなかった.妊婦が高熱を発症したときはリステリア感染症を鑑別に入れ,血液培養がその診断に必須である.ペニシリン系の抗生剤を迅速に使用することで母体の予後を改善することができる.〔産婦の進歩67(4):405-409,2015(平成27年10月)〕
著者
梶村 政司 森田 哲司 政森 敦宏 小川 健太郎 児玉 直哉 小林 功宜 山本 真士 奈良井 ゆかり 濱崎 聖未 田中 亮
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.GbPI1469-GbPI1469, 2011

【目的】<BR> 管理者の業務には,目標管理や人材育成,時間管理,情勢分析等がある。その中でも,人材(部下)育成は部署内の業務遂行上効率化に影響を与える内容である。<BR> そうした人材育成の最終目標は部下の自律的な創意工夫,創造力の醸成が可能になることであり,現場においてはどんな指導・教育ができるだろうか。一般的には,感性を磨くという,非常に抽象的で曖昧な表現で終わる指導書が多い。<BR> そこで,今回当科で日常的に行っている「気づく力」を身につけるための方法を紹介し,その結果を業務改善の観点から考察したので報告する。<BR><BR>【方法】<BR> 当科ではスタッフ8名が,平日勤務の朝5分程度の時間を利用して業務内容を中心に「気づき」(可視化トレーニング)の発表を行っている。その「気づき」の内容は,職員によって偏りがあるか明らかにするために,まず全スタッフ合意の下で分類した5つのカテゴリー(リスク,連携,運用,サービス,整理)と個人属性(性別,経験年数)から構成される分割表を作成した。そして,カイ2検定を行ってそれらの関連性を分析した。調査期間は,2009年6月から2010年9月までの1年3ヶ月,315日間である。<BR> この取り組みによる業務改善の判定は,科内におけるインシデント,アクシデント発生件数と,患者からの「苦情件数(ご意見箱)」を指標に用いた。<BR><BR>【説明と同意】<BR> スタッフには,今回の研究目的を説明した上で,発言内容をデータとして使用する許可を得た。<BR><BR>【結果】<BR> スタッフの構成は,男性PT5名,女性OT2名,女性の助手1名であり,経験年数10年以上5名,それ以下3名である。管理者と中途採用者は,除外した。<BR>期間中の「気づき」の総件数は313件で,カテゴリー別内訳と発言率は,リスク42件(13%),連携25件(8%),運用127件(41%),サービス86件(28%),整理33件(10%)であった。各カテゴリーの発言数と職員の性別との関連についてカイ2検定を行ったところ,p=0.435で有意な関連はなかった。また,各カテゴリーの発言数と職員の経験年数(10年以上もしくは10年未満)との関連についても有意でなかった(p=0.991)。<BR> 科内インシデント発生数は,全体で14件(院内1,697件,調査前年4件),2009年7件,今年3件であった。内容は転倒11件,人工股関節脱臼2件(年間300症例),熱傷1件。アクシデントは2009年に発生した熱傷の1件(院内40件)であった。また,苦情件数は,6件(院内508件,調査前年4件),2009年2件,今年0件であった。内容は,リハ開始時間やスタッフの接遇面に対する不満内容が多かった。これらの結果から,インシデント発生数と苦情件数は「気づき」の発表を開始した翌年から減少していることが示された。<BR><BR>【考察】<BR> 今回の研究ではスタッフ間の性別,経験年数に「気づき」に関してカテゴリーに有意な差はなかった。<BR>この内容で最も多かったカテゴリーは直接業務の「運用」であり,日常診療の中で身近に感じる問題であることから,顧客(患者)に影響を及ぼしやすい部分ほど敏感になっていることが伺えた。 <BR> 一方,最も少ないカテゴリーは間接業務の「連携」ということであった。これは,他部署を介する機会に遭遇した時の問題であるため,気づき難かったことが推察される。<BR> リスク面においては,発言率13%と予想よりも低い結果であった。これは,インシデントやアクシデントの科内における発生件数の低さが影響したと考える。すなわち,リスクに関しては日常より常に「即改善」を実行し,安全で安心な診療が実行されているためと考える。<BR> また,患者サービスにおいてもリスクと同様に,苦情件数が少数のために発言も少なかったと推測する。<BR> こうした科内のリスク回避の取り組みを航空業界では, Crew Resource Management(CRM)「何か気づいたことや気になったことがあれば口に出す」という教育で行っている。そこで当科が実施した「可視化トレーニング」は,CRM同様に情報を共有化し即断即決を行うことでリスクの芽は小さいうちに排除する,という効果の現れと考える。<BR> この「可視化トレーニング」に対するスタッフの感想は,自ら行った業務改善やリスク回避の指摘などが,すぐに解決されることに喜びを感じる,という声を聞いている。これは「気づき」による人材育成の目的に挙げている,スタッフのモラル向上,信頼感の醸成,関係者とのコミュニケーション,スタッフの満足感など,人間性尊重の側面を向上させる点において非常に効果的であったと思われる。<BR> 今後は,個人発言の特性(偏り)を平準化した「気づき」に対する指導を行い,より一層の効率的で安心・安全な業務運営に役立てる方針である。