著者
宮本 一夫 中橋 孝博 田中 良之 小池 裕子 田崎 博之 宇田津 徹朗 辻田 淳一郎 大貫 静夫 岡村 秀典
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、山東半島における先史時代の水田探索調査、膠東半島の石器の実測調査、黒陶の安定同位体比分析、山東半島先史時代古人骨の形質人類学的分析、遼東半島四平山積石塚の分析の5分野から構成されている。これらの調査研究は、研究代表者が提起する東北アジア初期農耕化4段階説における第2段階と第3段階の実体を解明するための研究である。まず第1の水田探索調査では、これまで山東で水田遺跡が発見されていなかったが、楊家圏遺跡と両城鎮遺跡でボーリング調査と試掘調査を行うことにより、楊家圏遺跡では龍山文化期に畦畔水田が存在する可能性が高まった。また膠東半島の趙家荘遺跡では龍山文化期の不定型な畦畔水田が発見されており、水田のような灌漸農耕が山東において始まった可能性が明らかとなった。さらに黒陶の安定同位体比分析により、山東東南部の黄海沿岸では龍山文化期にイネがアワ・キビより主体であることが明らかとなった。これはフローテーションによる出土植物遺体分析と同じ結果を示している。さらにこの分析によってイネであるC3植物が膠東半島、遼東半島と地理勾配的に低くなっていることが確かめられ、このルートでイネが龍山文化期に伝播した可能性が高まった。これは東北アジア農耕化第2段階にあたる。第5の研究テーマで分析した四平山積石塚の分析により、この段階に膠東半島から遼東半島に人が移動し在来民と交配していく過程が明らかとなった。さらに石器の分析により、石器もこの段階から膠東半島から遼東半島への伝播が存在することが証明された。さらに東北アジア農耕化第3段階である岳石文化期には、多様化した加工斧と農具が伝播しており、木製農具などの定型化した農具と水田など灌概農耕が、この段階に人の動きとともに膠東半島から遼東半島へ拡散した可能性が高い。なお、形質人類学的な分析では限られた資料数のため人の系統に関する決定的な証拠を得ることはできなかった。
著者
小池 裕子
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.149-168, 2017-08-01 (Released:2017-08-22)
参考文献数
98

本論は縄文時代の食料戦略から考えた生業動態論を紹介したものである.まず筆者が院生時代に没頭した貝殻成長線解析を用いた貝殻構造や貝殻形成機構の研究,数々の貝塚遺跡や住居址内貝層から出土した貝殻を収集して行った季節推定や貝類資源の位置づけ,および海況環境復元から始まったパレオバイオマス(Paleobiomass)分析を紹介した.また貝類以外の動物資源の季節推定を進める中で,ヒトと食料資源の関係を考える生業動態(Exploitation dynamics)や捕獲圧(Hunting-collecting pressure)分析へと展開し,縄文時代人の持続可能な生業のあり方(sustainable use)について推論を紹介した.その根底にあるものは,多様な食料資源を適切に選択しながら利用することで,対象動植物の生態のみならず,シカ捕獲の上限など資源管理の知識ももち合わせていたと考えられる.一方,縄文時代の増加期型集落と飽和期型集落などの社会構造については,今後古人骨のaDNAなど新技術の適用によって,集落内・集落間の移動や拡散,社会的階層化・儀礼行為の発達などとの関連性が解明されることを期待したい.
著者
小池 裕幸
出版者
北海道大学低温科学研究所
雑誌
低温科学 (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
vol.67, pp.431-447, 2009-03-31

分光測定は,今や生化学,分子生物学では欠かすことのできない基本測定法である.さらに,光合成の分野では光誘起の微少スペクトル変化の測定も,分光光度計を使ってなされる.本項ではこの分光測定の基礎と,その装置の仕組みを解説する.
著者
小池 裕二 佐伯 愛一郎 牟田口 勝生 今関 正典 宮部 宏彰 山下 誠也
出版者
The Japan Society of Naval Architects and Ocean Engineers
雑誌
日本造船学会論文集 (ISSN:05148499)
巻号頁・発行日
vol.1999, no.185, pp.111-117, 1999 (Released:2009-09-04)
参考文献数
6
被引用文献数
2

An actively controlled anti-rolling system has been developed with a view of reducing the rolling motion of ship. It is a new type of anti-rolling systems to replace the conventional systems, such as anti-rolling tank and fin stabilizer, and is of hybrid type combining the pendulum-base passive type with active type driven by relatively small electric motors. This system is composed of a moving weight oscillating on rail shaped in circular arc, carrying the driving motors and reduction gears, and the passive, compact mechanism is realized. The driving force to control the movement of the moving weight is imparted from the electric motors through reduction gears connected to a lack and pinion mechanism. The actual system of a moving weight of 100 tons has been applied to oceanographic research vessel “MIRAI” (8672 GT.) for practical use. Prior to service at open sea areas, the control system has been designed based on the identified parameters of ship motion characteristics obtained by results of forced rolling oscillation test using anti-rolling system in the calm sea. Control performance and dynamic behavior have been analyzed by recorded data of ship motion and displacement of moving weight at open sea areas. It has been revealed that the system operated following the control law and provided performance to be aimed in design.
著者
西田 伸 川原 一之 安河内 彦輝 江田 真毅 小池 裕子 岩本 俊孝
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.3-10, 2022 (Released:2022-02-09)
参考文献数
22

宮崎県西臼杵郡高千穂町上村の藤野家と,同じく高千穂町土呂久・佐藤家に保管されていた「熊の手足」の資料についてDNA解析を行い,情報の少ないツキノワグマ(Ursus thibetanus)九州個体群の遺伝的特徴について調査した.聞き取り調査から,明治中期~大正初期に祖母山系で捕獲されたと推測された佐藤家資料において,ミトコンドリアDNA コントロール領域648bp(ハプロタイプ:KU01)の解析に成功した.KU01は西日本系群に含まれる新しいタイプであった.先行研究の結果と合わせて考えると,絶滅したとされる九州個体群は他国内集団とは遺伝的に分化した独自の地域集団を形成していた可能性がある.
著者
小池 裕子
出版者
日本経営倫理学会
雑誌
日本経営倫理学会誌 (ISSN:13436627)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.177-187, 2013-02-28 (Released:2017-08-08)

This paper examines the male-female wage differentials by decomposing them into endowments and discrimination components by using micro-data from the US, France, Korea and Japan. The result from the Oaxaca-Blinder decomposition technique suggests that the wage gap is mainly attributable to a difference in the price-setting according to gender in respect of age and type of employment, and this tendency is the most obvious in Japan among 4 countries.

2 0 0 0 保全遺伝学

著者
小池裕子 松井正文編
出版者
東京大学出版会
巻号頁・発行日
2003
著者
二宮 和彦 北 和之 篠原 厚 河津 賢澄 箕輪 はるか 藤田 将史 大槻 勤 高宮 幸一 木野 康志 小荒井 一真 齊藤 敬 佐藤 志彦 末木 啓介 竹内 幸生 土井 妙子 千村 和彦 阿部 善也 稲井 優希 岩本 康弘 上杉 正樹 遠藤 暁 大河内 博 勝見 尚也 久保 謙哉 小池 裕也 末岡 晃紀 鈴木 正敏 鈴木 健嗣 高瀬 つぎ子 高橋 賢臣 張 子見 中井 泉 長尾 誠也 森口 祐一 谷田貝 亜紀代 横山 明彦 吉田 剛 吉村 崇 渡邊 明
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

日本地球惑星科学連合および日本放射化学会を中心とした研究グループにより、福島第一原子力発電所事故により放出された放射性物質の陸域での大規模な調査が2011年6月に実施された。事故より5年が経過した2016年、その調査結果をふまえ放射性物質の移行過程の解明および現在の汚染状況の把握を目的として、福島県の帰還困難区域を中心として、100箇所で空間線量の測定と土壌の採取のフィールド実験を行い[1]、同時に計27箇所で土壌コア試料を採取した。本発表では、このコア土壌試料について分析を行ったので、その結果を報告する。土壌採取は円筒状の専用の採土器を用いて行い、ヘラを用いて採取地点で2.5 cmごとに土壌を切り取って個別にチャック付き袋に保管した。採取地点により、土壌は深さ20-30 cmのものが得られた。土壌を自然乾燥してからよく撹拌し、石や植物片を取り除いたのちにU8容器へ高さ3 cmに充填した。ゲルマニウム半導体検出器を用いてガンマ線測定し、土壌中の放射性セシウム濃度を定量した。なお、各場所で採取した試料のうち最低でも1試料は、採取地点ごとに放射性セシウム比(134Cs/137Cs)を決定するために、高統計の測定を行った。深度ごとの測定から、放射性セシウムは土壌深部への以降が見られているものの、その濃度は深度と共に指数関数的に減少していることが分かった。一方で土壌深部への以降の様子は土壌採取地点により大きく異なることが分かった。また、本研究の結果は同一地点で表層5 cmまでの土壌を採取して得た結果ともよく整合した[1]。[1] K. Ninomiya et. al., Proceedings of the 13th Workshop on Environmental Radioactivity 2017-6 (2017) 31-34.
著者
北 和之 篠原 厚 河津 賢澄 二宮 和彦 稲井 優希 箕輪 はるか 大槻 勤 木野 康志 小荒井 一真 斎藤 敬 佐藤 志彦 末木 啓介 高宮 幸一 竹内 幸生 土井 妙子 阿部 善也 岩本 康弘 上杉 正樹 遠藤 暁 大河内 博 勝見 尚也 神田 晃充 久保 謙哉 小池 裕也 末岡 晃紀 鈴木 杏菜 鈴木 正敏 鈴木 健嗣 高瀬 つぎ子 高橋 賢臣 張 子見 中井 泉 長尾 誠也 南部 明弘 藤田 将史 森口 祐一 谷田貝 亜紀代 横山 明彦 吉田 剛 吉村 崇 渡邊 明
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

【研究背景】 2011年3月に起こった、東京電力福島第一原子力発電所の事故により、福島県を中心とする陸域に大規模な放射能汚染が起こった。事故後の2011年6月には、日本地球惑星科学連合および日本放射化学会を中心とした有志の研究グループが、汚染状況の把握のための土壌採取のフィールド実験を実施した。これにより初期の汚染状況が明らかとなったが、航空機サーベイ等による汚染状況の把握は継続して行われているものの、実際に土壌を採取して汚染状況の詳細を把握する大規模な調査はそれ以降行われていない。事故から5年以上が経過し、土壌に沈着した放射性核種(主に放射性セシウム:134Csおよび137Cs)は環境中でその化学形態等を変化させ、土壌の深部への浸透や流出により、初期とは異なる分布状況に変化していることが予想される。帰還困難区域の除染作業が開始されようという状況で、土壌の放射性核種の汚染状況を把握するのはきわめて重要である。そこで本研究では、福島県内の帰還困難区域を中心として土壌採取のフィールド実験を行い、その分析により現在の汚染状況の把握することを目的に実施した。【調査概要】 本研究プロジェクトは、2016年6月から9月にかけての9日間、のべ176名で実施した。福島県内の帰還困難区域を中心として、公共施設等を選定したうえで、各自治体との情報交換を行い、除染が行われていない地点全105か所を土壌採取場所として選択した。まずはNaIシンチレーターもしくは電離箱を用いて地面から1 mおよび5 cmの空間線量の測定を行い、専用の採土器を用いて表層より5 cmの土壌を採取した。試料採取場所におけるばらつきを評価するために、1地点ごとに5試料の採取を実施し、5年間の環境中での放射性核種の移動状況を評価するために、土壌は表層部の0.0-2.5 cmと、深部の2.5-5.0 cmに分けて採取した。また放射性核種の移行過程をより詳しく調べるために、4地点につき1地点程度、深さ30 cmのコア試料の採取も行った。本講演では、この調査について概要を説明し、事故直後と5年後の比較などいくつかの初期結果について簡単に紹介する。より詳細な結果については、別の講演にて報告が行われる。
著者
小池 裕子 松石 隆 西田 伸
出版者
九州大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

本研究では、鯨類の特に座礁集団および個体に着目し、座礁の原因究明の一つの手段として、ウィルス感染の有無とその動向のモニタリング、および検出されたウィルスの系統解析をおこない、宿主-ウィルスの共進化関係の有無と、免疫遺伝子MHCとの相互関係について探ることを目的としてきた。本年度も引き続き日本各地において座礁・混獲された鯨類より試料の収集をおこない、10鯨種・47個体の試料を得た。これは北海道ストランディングネットワーク・北海道大学・国立科学博物館・大村湾スナメリネットワーク(仮称)・宮崎くじら研究会との連携によるものであり、本プロジェクトもこれらネットワークの構築・運営の一部に携わっている。これまでに蓄積された試料について、DNA診断によるウィルス検出をおこなったところ、4鯨種・4個体よりヘルペスウィルスが検出された。本年度は特にこれらの系統解析と病理学的所見との関連性について解析を進めた。系統解析の結果、カズハゴンドウの鼻腔粘膜およびオキゴンドウの肺より検出されたウィルスは、それぞれ新たな系統のアルファヘルペスで、オウギハクジラおよびマッコウクジラのリンパ節からのものは、同じく新たな系統のガンマヘルペスと同定された。鯨類から検出されたアルファヘルペスウィルスは単一のクレードを形成し、種1分類群特異的な進化が示唆された。一方で、ガンマヘルペスウイルスの鯨類クレードは大きく2つに分かれており、これらウィルスの起源が複数あることを示した。またアルファヘルペスウィルスは主に呼吸器系統から、先行研究におけるガンマヘルペスウイルスは主に生殖器から、そして本研究によるガンマヘルペスウィルスはリンパ節から検出され、これらの系統のウィルスがそれぞれ異なる組織をターゲットとし、潜伏感染をおこなっていることが示唆された.なおこれらの結果は学術誌に投稿中である。
著者
小池 裕子
出版者
日本経営倫理学会
雑誌
日本経営倫理学会誌 (ISSN:13436627)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.117-127, 2014-02-28 (Released:2017-08-08)

Part-time lecturers represent 57.6% of all the lecturers in Japanese private universities, and a wide gap in working conditions between full-time and part-time lecturers exists. Part-time lecturers, in many cases, are used as cheap labour regardless of their contribution. This paper examines which type of universities depends on part-time lecturers by multi-regression analysis. The results show that the employment of part-time lecturers is not necessarily inevitable by financial reason and there is room to improve the working conditions of such lecturers from the viewpoint of USR (University Social Responsibility).
著者
大場 由実 中島 崇行 神田 真軌 林 洋 永野 智恵子 吉川 聡一 松島 陽子 小池 裕 林 もも香 大塚 健治 笹本 剛生
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.92-96, 2022-04-25 (Released:2022-06-01)
参考文献数
15
被引用文献数
1

筆者らが開発したLC-MS/MSによるはちみつ中殺ダニ剤一斉分析法を用いて,2015年4月から2021年3月までに都内に流通していたはちみつについて,残留実態調査を実施した.127検体中,85検体からアミトラズが1.1~34.1 µg/kgの範囲で検出され,3検体からプロパルギットが2.4~3.8 µg/kgの範囲で検出された.いずれの検出事例も食品衛生法における残留基準値または一律基準値未満であった.6年間にわたる本調査の検出結果を解析したところ,アミトラズは毎年高い検出率で推移している.しかし,検出濃度は基準値を上回ることなく変動も小さかったことから,養蜂の現場で適正に使用されていることが示唆された.一方で,プロパルギットは2020年の国産はちみつから初めて定量下限値を超えて検出されており,新しい薬剤として養蜂分野で使用されている可能性が考えられた.
著者
馬場 芳之 藤巻 裕蔵 小池 裕子
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.47-60, 1999
被引用文献数
3

日本産エゾライチョウの遺伝的多様性と系統関係を調べるためにミドコンドリアDNAコントロール領域レフトドメイン428bpの塩基配列を決定した.塩基配列の決定に用いた試料は北海道産126試料,ヨーロッパ-ボヘミア産2試料,ロシア-マガダン産11試料の計139試料であった.塩基配列の比較の結果32ヵ所の塩基置換部位が検出され47個のハプロタイプに分別された.<br>エゾライチョウの47のハプロタイプにミヤマライチョウをアウターグループとして加え,近隣接合法による系統樹を作成したところ,種内の差異の検定値が低く,エゾライチョウが全体に連続した大きなクラスターを形成していることが示された.さらに実際の塩基置換部位を介してつなぐネットワーク分析を行ったところ,北海道内のハプロタイプはそのほとんどが1塩基置換で他のハプロタイプとつながっており,ハプロタイプのつながりがよく保存され,最終氷期中から安定した個体群を維持していることが示された.<br>系統樹から推測されるエゾライチョウの分岐時期は,約4万年前と推測され,北海道のエゾライチョウは系統樹で示され,系統が地域間で重複して分布していた.北海道内のエゾライチョウの地域間での遺伝的交流を調べるために,北海道を12地域に分画してそのハプロタイプの共有率を計算したところ,日高山脈と阿寒から知床半島にある1,000m以上の山地が続いている地域がエゾライチョウの移動を妨げていることが示唆された.また12地域のうち試料数が10以上の地域のハプロタイプ多様度を計算したところその全てが0.8以上の高い値を示し,遺伝的多様性が高かった.しかし近年人間活動の広がりとともに生息地の分断や減少が続いており,今後個体群の遺伝的な多様性を保持できるような個体群管理が求められる.
著者
馬場 芳之 藤巻 裕蔵 吉井 亮一 小池 裕子
出版者
The Ornithological Society of Japan
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.53-64,107, 2001-05-31 (Released:2007-09-28)
参考文献数
25
被引用文献数
21 21

ミトコンドリアDNAは母系遺伝で,組換えがおきないこと,および塩基置換頻度が高いことなどから,多型解析に適した遺伝子である.ミトコンドリアDNAの中でも特に塩基置換頻度が高いコントロール領域を用い,日本に生息するニホンライチョウに関して,個体群の遺伝的多型を調べた.生息地から採集した脱落羽毛を試料として用い,ライチョウ類に特異的なプライマーを作成し,2度のPCRを繰り返すことによって十分な量のDNAを増幅した.ニホンライチョウとエゾライチョウ各1サンプルに関してコントロール領域全領域の塩基配列を決定し,ニワトリ,ウズラの配列と比較したところ,ニホンライチョウとエゾライチョウのコントロール領域中央部,central domain,には CSB-1, F box, D box, C box 領域が認められ,両側の left domein と right domein に置換が多くみられた.コントロール領域left domainの441塩基対の配列を決定し,飛騨山脈の4地域から採集されたニホンライチョウ21サンプルは,すべてハプロタイプLM1であった.また赤石山脈で採集されたニホンライチョウ1サンプルからはハプロタイプLM2であった.同じ領域を分析した北海道のエゾライチョウ36サンプルでは21ヶ所の塩基置換が検出され,21個のハプロタイプに分別されたことに比べ,ニホンライチョウの遺伝的変異は非常に少ないことを示した.花粉分析によると,ニホンライチョウの主要な生息場所であるハイマツ帯がヒプシサーマル期の前半(6,000-9,000年前)にほとんど消失するほど縮小したことが示されている.このような生息環境の変遷がニホンライチョウ個体群にボトルネックを引き起こし,遺伝的変異が非常に低くなったと考えられる.
著者
下島 優香子 神門 幸大 添田 加奈 小池 裕 神田 真軌 林 洋 西野 由香里 福井 理恵 黒田 寿美代 平井 昭彦 鈴木 淳 貞升 健志
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.61, no.5, pp.178-182, 2020-10-25 (Released:2020-10-30)
参考文献数
14
被引用文献数
6

パスチャライズド牛乳によるBacillus cereus食中毒のリスクを把握する目的で,汚染実態および分離菌株のセレウリド産生性を調査した.国産パスチャライズド牛乳14製品101検体中66検体(65.3%)からB. cereusが分離された.分離されたB. cereus90株についてces遺伝子を調査した結果,3検体(1製品)由来3株が陽性であった.分離されたces遺伝子陽性株,標準菌株および食中毒事例由来株の計3株を牛乳に接種して32℃で培養後,近年開発されたLC-MS/MS法を用いて測定を行った結果,いずれもセレウリドの産生を確認した.LC-MS/MS測定は,牛乳中でB. cereusが産生したセレウリドの検出にも有用であった.今回,国産パスチャライズド牛乳におけるB. cereus汚染実態およびセレウリド産生性B. cereus株の存在を明らかにし,牛乳中のLC-MS/MS法によるセレウリド検出法の妥当性を確認した.
著者
小池 裕二 吉海 研 広重 栄基 谷田 宏次 牟田口 勝生
出版者
The Japan Society of Naval Architects and Ocean Engineers
雑誌
日本造船学会論文集 (ISSN:05148499)
巻号頁・発行日
vol.1994, no.176, pp.137-143, 1994 (Released:2009-01-08)
参考文献数
3
被引用文献数
1 2

An actively controlled anti-rolling system has been developed with a view of reducing the rolling motion of a ship by the movement of the mass controlled by actuator. It is of hybrid type combining the pendulum-base passive type with active type driven by a relatively small electric motor. The hybrid type has merits of (a) providing almost the same damping performance as active type (depending solely on actuators for obtaining controlled movement of damper mass), while requiring only a much smaller control force for moving the damper mass, and (b) continuing to function solely on its passive mechanism in the event of power failure. This system consists of a sliding mass on the rail shaped in a circular arc, and the compact, passive pendulum mechanism is realized that does not require a suspension structure such as a simple pendulum or spring mechanism. The driving force to control the movement of the damper mass is imparted from the electric motor through reduction gearing connected to a gear and pinion mechanism. The LQ control theory has been adopted for controlling the damper mass. At-sea experiments were performed with a ship (weight approx. 190t) to verify damping effects of the hybrid anti-rolling system. The rollings were reduced to about 1/3 in beam seas under the condition that the ship was stationary. The performance was further compared between hybrid type and passive type. Hybrid type promised better damping performance by 15% than passive type. The hybrid type also attenuated rollings with a forward speed of ship to about 1/2 in following seas, in the case of which passive type presented difficulty of providing damping effects markedly. Good agreement was obtained between measurement and calculation.
著者
中川 由紀子 神田 真軌 林 洋 松島 陽子 大場 由実 小池 裕 永野 智恵子 関村 光太郎 大塚 健治 笹本 剛生 橋本 常生
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.52-60, 2019-06-25 (Released:2019-08-07)
参考文献数
16
被引用文献数
1

畜水産食品中の抗真菌薬15剤,抗寄生虫薬2剤およびその他の動物用医薬品3剤のLC-MS/MSによる高感度な一斉分析法を開発した.薬剤の分解を抑制するため,対象食品に50%エタノールを加えてホモジナイズをした調製試料から,アセトニトリルを用いて薬剤を抽出した.抽出液をアルミナNカラムに通液して精製し,得られた試験溶液を全多孔性オクタデシルシリル化シリカゲルカラムで分離しMS/MS測定を行った.これらにより,食品由来成分の影響を受けやすく分析が困難とされる魚介類にも適用可能となった.畜水産物8食品において妥当性評価を実施した結果,選択性は十分で,真度70.2~109.3%,併行精度18.0%以下,室内精度18.7%以下となり,ガイドラインの基準に適合した.定量下限値は,3 ng/gに設定可能と考えられた.
著者
江田 真毅 小池 裕子 佐藤 文男 樋口 広芳
出版者
公益財団法人 山階鳥類研究所
雑誌
山階鳥類学雑誌 (ISSN:13485032)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.57-64, 2011-09-30 (Released:2013-09-30)
参考文献数
15
被引用文献数
4 7

アホウドリ Diomedea albatrus は伊豆諸島の鳥島と尖閣諸島の南小島や北小島で繁殖する危急種の海鳥である。1979年以降,鳥島で生まれたほとんどの個体が両脚に標識をされているにもかかわらず,1996年以降,鳥島の初寝崎において未標識の1個体が観察されている。2005年度の繁殖期まで,アホウドリ誘致用に設置された特定のデコイのそばに毎年巣をつくったこの鳥は,デコイにちなんで「デコちゃん」と呼ばれている。若鳥のうちに標識が両脚から外れることは考えにくいため,この鳥は尖閣諸島で生まれた個体であると考えられてきた。近年の私たちのミトコンドリアDNAの制御領域2を用いた研究によって,アホウドリには2つの系統的に離れた集団(クレード1とクレード2)が含まれていたこと,尖閣諸島で採集された資料はクレード2の個体からなること,鳥島で生まれた個体の多くがクレード1に属することが示唆されている。この鳥の巣で羽毛を採取して解析した結果,この鳥の制御領域2の配列は,これまでに知られていた配列とは異なるものの,クレード2に属することが明らかになった。このことは,デコちゃんの出生地が鳥島ではなく,尖閣諸島であることを支持するものである。デコちゃんは鳥島で生まれた個体とつがいを形成し,2009年度の繁殖期までに2羽の雛を巣立たせている。しかし,2つの系統が交配しているかどうかを判断するためには,両性遺伝する遺伝子マーカーによる研究が必要である。
著者
小池 裕子 西田 泰民 岡村 道雄 高杉 欣一 中野 益男
出版者
埼玉大学
雑誌
試験研究
巻号頁・発行日
1985

〈目的〉貝塚からは古代人の食事に関する直接的な情報を内包する糞石、あるいは土器、石器付着物が出土している。これらの遺物から残存している脂肪酸を非破壊的に抽出し、その脂肪酸組成を基に動植物を同定して、先史時代人の全般的な食糧組成を直接復原しようとするのが本研究の目的である。〈研究結果〉 61年度は、糞石等の材料のほか、旧石器遺跡から出土する焼石および縄文時代以降の土器付着物を分析対象に加えた。1 現生動植物のスタンダード作成:今年度は栽培植物を含め約60点を追加し、また文献による検索を進め、古代人の利用した動植物をほぼモウラした。2 糞石資料の分析:60年度に行った東北地方のほか、縄文後晩期の田柄貝塚、同大木囲貝塚、縄文後期の古作等の貝塚出土資料を加え、合計58点を分析した。ステロール分析を行ない、糞特有のコプロスタノールを検出した。脂肪酸組成、ステロール組成から推定すると、陸棲哺乳類のほか、水産動物や植物など多様な食糧組成が含まれることがわかった。3 焼石資料の分析:60年度の多摩ニュータウンの他、野川中州北遺跡において系統的なサンプリングを行ない、合計20点分析した。4 土器資料の分析:60年度の曽利・寿能遺跡のほか、縄文時代草創期の壬遺跡,早期の鶴川遺跡、前期の諏訪台遺跡、中期の曽利遺跡、後期の宮久保遺跡,晩期の亀ケ岡遺跡,古墳時代の式根島吹之江遺跡,北海道オホーツク期の北大構内遺跡,近世の東大構内遺跡の合計180点を分析した。5 それらの結果を、飽和脂肪酸/不飽和脂肪酸,高級脂肪酸/中級脂肪酸,コレステロール/植物ステロールの比を軸にした3次元座標上にプロットしてみると、それぞれの遺物の植物,陸上動物,水産動物の組成を知るのに有効であることがわかった。
著者
奥富 幸 林 洋 松島 陽子 大場 由実 中川 由紀子 小池 裕 永野 智恵子 関村 光太郎 神田 真軌 橋本 常生
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.59, no.5, pp.206-212, 2018-10-25 (Released:2018-11-14)
参考文献数
9
被引用文献数
1

畜産食品中シロマジンの高精度な分析法を開発した.本法には3つの特徴があり,1つめは2種類の溶液(メタノールとマキルベン緩衝液(pH 3.0))を試料種によって用法を変えて抽出すること,2つめは逆相–強陽イオン交換ミックスモードカラム精製の際0.14%アンモニア水で洗浄すること,3つめは両イオン交換マルチモードODSカラムでLC分離を行いMS/MSで測定することである.これらにより,5種類の畜産食品由来の成分の影響が小さく,絶対検量線での定量が可能となった.添加回収実験の結果,真度77.2~92.1%,併行精度2.2%以下,室内精度6.1%以下となり,妥当性ガイドラインの基準に適合した.実態調査の結果,生乳および鶏卵からシロマジンの残留が認められた.