著者
山岸 恵美子
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.287-293, 1995

1962~1992年度の給食管理実習における献立と調理法及び食品の購入価格について調査検討し, 次の結果を得た。<br>1) 主食の様式はいずれの年度も米飯を主とする和風が多く, 特に1982年度以降は71~85%に達した。内訳は, 白飯と変わりご飯が最も多かった。<br>2) 主菜の様式は, 1972年度以降では和風よりも洋風が多かった。主菜の調理形態は, 揚げ物と焼き物で57~80%を占めていた。また, 1980年度以降は, 豆腐やおからを挽肉に混合した和風ハンバーグや鶏肉のみそ焼きなど和風形態の焼き物が出現し, 動物性脂肪の摂取を抑制した食生活が認められた。<br>3) 副菜の様式では, 和風が52~89%と多かった。調理形態は和え物が8~67%, 煮物が4~29%であった。<br>4) 漬物はほとんどが, はくさい, キャベツ, きゅうりなどの即席漬であったが, 摂取頻度は経年的に減少し, 1986年度以降は5%以下となり, 減塩を意識した食生活が認められた。<br>5) 本学における実習の献立は, 和・洋・中華の混合型が多く, この形態は栄養面や価格面などの視点からは合理的な献立であることが示唆された。<br>6) 汁物は1978年度以降, みそ汁が33%以下に減少し, すまし汁とコンソメスープが増加した。<br>7) デザートは経年的に著しく増加し, その調理形態も生鮮果実類をそのまま切断したものから, 果実類を寒天で固めたものやヨーグルト和えに変化した。<br>8) 38種類の食品の購入価格の年次推移は, 卵類, 砂糖類では2倍以下, 鯨肉を除く獣鳥肉類, 乳類, 油脂類, 調味料の一部は2~3倍, 精白米, みそ, 温州みかんは約5倍に上昇していた。<br>9) いも類, 魚介類, 野菜類の購入価格は, 食品の種類によって大差があった。魚介類では, さんま, さば, あじ, たら, するめいかなどが11~18倍に上昇して, 食費の9.6倍を上回っていた。<br>10) 1食の食費に占める穀類, 魚介類, 獣鳥鯨肉類, 乳類・卵類, 野菜類 (いも類含む), 果実類の価格の変動比率を食品群別に検討すると, 穀類が経年的に低下して, 1962年度の36%が1992年度では16%を示した。<br>11) 1食の食費に占める魚介類の価格の比率は5~14%で, 獣鳥鯨肉類の9~28%よりも低かった。また, 乳類・卵類は両者合わせても4~9%であった。<br>12) 1食の食費に占める野菜類 (いも類含む) の価格の比率は, 摂取量の増加に伴い上昇し, 1962年度の15%が1992年度では27%になった。果実類は1962年度1%, 1992年度7%で食費に与える影響は少なかった。
著者
多田 隼人 川尻 剛照 山岸 正和
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.106, no.4, pp.711-717, 2017-04-10 (Released:2018-04-10)
参考文献数
10

家族性高コレステロール血症(familial hypercholesterolemia:FH)に代表される遺伝性疾患の研究や,近年の次世代シークエンサーの発展などに伴うゲノムワイド解析による高頻度遺伝子変異と脂質・冠動脈疾患との関連解析により,LDL(low density lipoprotein)コレステロールと冠動脈疾患との因果関係はさらにゆるぎないものとして示されてきた.一方で,HDL(high density lipoprotein)コレステロールと冠動脈疾患との因果関係には疑問符がつけられるに至った.このようなゲノム情報は脂質管理のみならず,新たな創薬にも貢献しつつある.
著者
森山 明美 阿部 典子 山岸 由幸
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.959-964, 2015 (Released:2015-08-20)
参考文献数
12
被引用文献数
1

【目的】本研究では病棟看護師が栄養管理に関する自己評価に影響する要因を検討することを目的とした。【対象及び方法】成人病棟に勤務する看護師655名に無記名自記式質問紙調査を実施した。質問紙は24項目からなる「看護師の栄養管理に関する自己評価尺度」を使用した。これは栄養管理全般における看護実践能力を評価するものである。【結果】合計得点は経験年数により有意差がみられた(p<0.001)。多重比較では、1-2年目は3-5年目(p<0.001)、11 年目以上(p=0.018)より有意に低かった。6-10年目は3-5年目より有意に低かった (p=0.019)。また、栄養学授業構成に関して合計得点は「講義と演習・実習」が「講義のみ・履修なし」より有意に高かった(p=0.044)。多重ロジスティック回帰分析では、栄養学授業構成において「講義と演習・実習」が「講義のみ・履修なし」より合計得点の上位群が2.05倍(オッズ比2.05,95%信頼区間1.04-4.03)であった。【結論】病棟看護師の栄養管理に関する自己評価は、経験年数や栄養学授業構成が得点と関連した。
著者
森山 明美 阿部 典子 山岸 由幸
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.29, no.5, pp.1201-1210, 2014 (Released:2014-10-20)
参考文献数
26
被引用文献数
1

【目的】本研究の目的は、看護師の栄養管理に関する自己評価尺度を開発することである。【方法】看護師655名を対象に無記名自記式質問紙により行った。調査は再現性評価のため再テスト法を用いた。質問項目は、文献から栄養に関する看護介入を検討し、35項目を作成した。尺度タイプは5段階リカート法を用いた。【結果】回収403名、有効回答は365名であった。因子分析は一般化された最小2乗法を用い、因子数は固有値1以上の基準とした。因子負荷量は0.35以上で因子分析を繰り返した。プロマックス回転の結果、5因子24項目を抽出し「看護師の栄養管理に関する自己評価尺度」と命名した。5因子について各項目内容を検討し、「アセスメントに基づく食事指導」「食事摂取に関する援助」「経管栄養に関する援助」「在宅栄養管理に関する援助」「職種間との連携」と命名した。α係数はα=0.743~ 0.908、再テストは r=0.34~ 0.65であった。【結論】開発した本尺度は信頼性と妥当性を確保したと判断した。
著者
橋本 博文 今井 栄一 矢野 創 渡辺 英幸 横堀 伸一 山岸 明彦
出版者
一般社団法人 日本機械学会
雑誌
日本機械学会論文集
巻号頁・発行日
vol.82, no.835, pp.15-00538-15-00538, 2016
被引用文献数
1

The mechanical thermometer using a bimetallic strip coil was developed for the Tanpopo mission. The Tanpopo mission is a multi-year passive exposure experiment for astrobiology exposure and micrometeoroid capture onboard the Exposed Experiment Handrail Attachment Mechanism (ExHAM) at the Japanese Experiment Module 'Kibo' (JEM) Exposed Facility (EF) on the International Space Station (ISS). The Tanpopo mission apparatuses were launched by the SpaceX-6 Dragon CRS-6 on April 14 2015, from the Cape Canaveral Air Force Station in the U.S.A. Since its microbial exposure experiment requires recording the maximum temperature that the Tanpopo exposure panel experiences, we have developed a mechanical thermometer with no electric power supplied from the ExHAM. At a given time and orbital position of the ISS, the thermometer indicator was video-imaged by the extravehicular video camera attached to the Kibo-EF and controlled from the ground. With these images analyzed, we were able to derive the maximum temperature of the Tanpopo exposure panels on the space pointing face of the ExHAM as 23.9±5 °C. Now this passive and mechanical thermometer is available to other space missions with no electric supplies required and thus highly expands the possibility of new extravehicular experiments and explorations for both human and robotic missions.
著者
三鴨 廣繁 山岸 由佳
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 = Stomato-pharyngology (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.257-267, 2008-06-10
参考文献数
16
被引用文献数
2

最近5年間の性感染症の疫学データを見る限り, 4つの代表的な性感染症である性器クラミジア感染症, 淋菌感染症, 尖圭コンジローマ, 性器ヘルペスのうち, 男女ともに前二者は, 減少もしくは横ばい傾向にある. その背景には, 医療関係者および行政機関による性感染症に関する啓発活動の成果も関係していると考えられる. しかしながら, 性器クラミジア感染症, 淋菌感染症ともに依然として1995年頃のレベルには戻っていないことに着目する必要がある. 特に, ウイルス感染症である尖圭コンジローマ, 性器ヘルペスにおいては, わずかではあるが増加傾向を示していることも注目に値する. さらに, 日本人男性において, 性感染症としてのHIV感染も増加しつづけている. また, STD関連微生物の性器外感染, 性器クラミジア感染症における持続感染, 淋菌感染症における薬剤耐性菌, 性感染症関連微生物としてのマイコプラズマ・ウレアプラズマの意義などが明らかにされつつある. STDの性器外感染に関しては, orogenital contactの一般化など最近の性行動の多様化を背景として, クラミジア・トラコマチスや淋菌の咽頭感染などが増加しているという報告も多い. これらの微生物が咽頭に感染しても無症状であることも多いが, 確実に第3者への感染源となり得る. したがって, STD対策にあたっては, 耳鼻咽喉科医や内科医の協力が不可欠な時代を迎えたと言っても過言ではない. さらに, クラミジア感染症では, 咽頭に感染した症例では, 性器に感染した症例と比較して, 治療に時間がかかることも明らかになってきている. 臨床医には, 現代の性感染症から国民を守るために, 精力的な活動を展開していくことが求められている.
著者
山岸 典子 Matthew de Brecht
出版者
国立研究開発法人情報通信研究機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

同じ人が同じ作業をやる時でも、ある時はうまくでき、あるときはうまくできない。この違いは、作業を行った時の注意や準備状態に大きく左右されている。本研究では研究代表者が開発した「準備内観報告パラダイム」による行動実験の知見を基に、準備状況の進行過程の神経メカニズムを明らかにすることを主目的とした。「準備内観報告パラダイム」に基づいたfMRI並びにMEG実験を実施し、rCMAが準備に関わる脳部位であることを特定した。また、リアルタイムで脳活動を読みだしコーディングができるハードウェアシステムを構築し、脳活動から被験者の注意や準備状況を推定することに成功した。
著者
玉井 ひろみ 豊永 友紀 長澤 佳恵 堀 浩子 津村 晶子 佐々木 奈穂 福井 智恵子 岩下 憲四郎 弓削 堅志 岡見 豊一 山岸 和矢
出版者
JAPANESE ASSOCIATION OF CERTIFIED ORTHOPTISTS
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.121-125, 2001-07-15 (Released:2009-10-29)
参考文献数
8

遠方視力検査は5mとされているが、1.1mの距離で検査を行えるスペースセイビングチャート®(SSC-330 Type II、ニデック社、以下SSC)の有用性を検討したので報告する。症例は小児22例、成人105例。小児は5~8歳、9~12歳の症例に分けて検討した。成人は屈折異常のみ、偽水晶体眼、白内障の症例の測定を行った。さらに白内障では、核白内障、皮質白内障、後嚢下白内障に分けて、それぞれ裸眼視力、矯正視力、等価球面値の差について比較検討した。その結果、各症例ともSSCと5m視力表における裸眼視力、矯正視力はよく一致しており、等価球面値の差も0.1D以下で調節介入は見られなかった。使用して感じた利点は1.省スペースとして有用、2.他人に視標が見えないためプライバシーの保護ができる点であった。一方、欠点は1.視標の数が0.1以下で少なく低視力者に使いにくい、2.正面でしか視標が見えないので視野が狭いと視標が見つけにくいのではないか、という点であった。
著者
山岸 靖明
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 通信ソサイエティマガジン (ISSN:21860661)
巻号頁・発行日
vol.2007, no.2, pp.2_128-2_140, 2007-08-25 (Released:2011-06-03)
参考文献数
48

放送通信融合の進展により,複数のネットワークを介して様々なコンテンツ配信サービスが提供されるようになると,それらを利用するホームネットワーク上のコンテンツを再生するデバイスや,配信経路のネットワーク環境が不均一となる.与えられた環境の中で,ユーザの望むコンテンツを効率良く利用させるには,サービス,アプリケーション,及び,デバイス,ネットワークの中から最適なものを選択する必要がある.このマッチングのためのパラメータがそれぞれのメタデータである.本論文では,コンテンツ配信に関連するメタデータ標準についての最近の動向,それらのメタデータを放送通信融合環境で利用する場合の技術課題について解説する.
著者
山岸 明子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.97-106, 1976-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
14
被引用文献数
6 3

The purpose of this study is to investigate moral judgement in children and youth based on the theory and the method of Kohlberg, L., and to examine the availability of his method and the validity of stage sequences in Japan whose culture is different from the U. S. A..In this study, moral judgement was analysed from how children and youth understood various moral norms which were imposed on them by adults or society, and what their standards of right-wrong were.Four of the Kohlberg's stories involving moral dilemmas, translated and slightly modified, were given to 19 5 th-, 20 8 th-, 20 11 th-graders and 16 college students. They were asked to answer in writing what one of the characters of each story should do and why, and later, to respond in an interview to additional clarifying questions. Their responses were analysed in detail by issue scoring method which examined what their basic orientation to moral issues was, and classified into one of 5 stages,(stage 5 and 6 were not distinguished). Two scorers' rating 40 Ss independently were in close agreement.The results were as follows;1) Distributions of stages among the subjects were as shown in TABLE 5. It showed age-dependent development of moral judgement and supported the Kohlberg's theory.2) As to sex differences, such tendency was found. that in girls there were more who had stage 3 orien tation (but not statistically sighificant).3) In Japan there were more who belonged to stage 3 than in U. S. A., overall age except among college students.
著者
山岸 久雄
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 = Antarctic Record (ISSN:2432079X)
巻号頁・発行日
vol.60, pp.133-194, 2016-12

第53次夏隊では「南極地域第Ⅷ期6カ年計画」の第2年次として,重点研究観測での大型大気レーダー(PANSY)の増強工事,設営分野での20kW 風力発電機の建設,新汚水処理設備の設置,自然エネルギー棟の屋根パネル工事等,大きな工事が計画された.しかし,今期はリュツォ・ホルム湾沖の流氷が乱氷状態(風で吹き寄せられ積み重なった状態)となり,また湾内の海氷と積雪が例年よりも大幅に厚く,「しらせ」の砕氷航行は困難を極めた.その結果「しらせ」は昭和基地から約20km の地点で基地への接岸を断念した.「しらせ」のCH-101ヘリコプター空輸と,雪上車での氷上輸送により越冬成立に必要な物資を搬入できたが,夏作業用物資は一部しか搬入できず,大きな建設作業は中止,もしくは縮小となった.一方,野外調査では,観測隊のチャーターヘリにより当初計画の8-9割を達成することができた.「しらせ」復路では日程の遅れと困難な砕氷によりシップタイムが大幅に不足し,複数の観測項目が中止,もしくは縮小となった.一方,セール・ロンダーネ山地地学調査隊,海鷹丸の海洋観測チームは所期の成果を上げることができた.In the second year of the 6-year Japanese Antarctic Research Project Phase Ⅷ, JARE-53 planned several large operations such as the reinforcement of the atmospheric radar; PANSY; and the constructions of a 20-kW wind generator, sewage disposal facilities, and the roof of the Natural Energy Control Building. Sea ice condition in Lutzow Holm Bay were very severe this season, i.e., there was hummock ice in the pack ice area and very thick fast ice with heavy snow above. Icebreaker Shirase struggled with this severe sea ice and finally gave up to proceed at a distance of about 20km from Syowa Station. We managed to transport the necessities for overwintering observation using a CH-101 helicopter onboard Shirase, snow motors, and sledge caravans on the sea ice. However, we were only able to transport only a minimal amount of supplies, and therefore had to give up major construction work. On the other hand, field observation teams conducted 80%-90% of their research plan, owing to the high performance of the chartered small helicopter. On the return voyage, the Shirase struggled with the sea ice again, and some of the research operations were canceled because of limited ship time. On the other hand, the geomorphological and geodetic survey team at Sor-Rondane Mountains and oceanographic observation team onboard the training and research ship Umitaka-maru were able toconduct their research works as planned.
著者
渡部 幹 寺井 滋 林 直保子 山岸 俊男
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.183-196, 1996
被引用文献数
2 20

最小条件集団における内集団バイアスの説明のために提出されたKarpら (1993) の「コントロール幻想」仮説を囚人のジレンマに適用すると, 囚人のジレンマでの協力率が, プレイヤーの持つ相手の行動に対するコントロール感の強さにより影響されることが予測される。本論文では, 人々の持つコントロール感の強さを囚人のジレンマでの行動決定の順序により統制した2つの実験を行った。まず第1実験では以下の3つの仮説が検討された。仮説1: 囚人のジレンマで, 相手が既に協力・非協力の決定を終えている状態で決定するプレイヤーの行動は, 先に決定するプレイヤーの行動により異なる。最初のプレイヤーが協力を選択した場合の2番目のプレイヤーの協力率は, 最初のプレイヤーが非協力を選択した場合の2番目のプレイヤーの協力率よりも高い。仮説2: 先に行動決定を行うプレイヤーの協力率は, 同時に決定を行う通常の囚人のジレンマにおける協力率よりも高い。仮説3: 2番目に決定するプレイヤーの協力率は, 相手の決定が自分の決定の前に知らされない場合でも, 同時に決定を行うプレイヤーの協力率よりも低い。以上3つの仮説は第1実験の結果により支持された。3つの仮説のうち最も重要である仮説3は, 追実験である第2実験の結果により再度支持された。
著者
石倉 健二 高島 恭子 原田 奈津子 山岸 利次 Kenji ISHIKURA Kyouko TAKASHIMA Natsuko HARADA Toshitsugu YAMAGISHI
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 = Nagasaki International University Review (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.167-177, 2008-03

本論は、近年、高等教育学界において注目を集めている「初年次教育」がいかなるものであるかを、国内外の動向をレビューしつつ検討したものである。M・トロウが明らかにしたように、大学入学者数・率の上昇は、大学教育の変質を必然的に伴うものであり、日本やアメリカ等、トロウの言うマス段階からユニバーサル段階に達した高等教育においては、その質的変化に伴う新たな教育が要請されることになる。「初年次教育」とは、そのような新たな教育形態の一つであり、特に、新入生の大学への適応を支援していくためのプログラムである。その背景には、大学教育のユニバーサル化により、必ずしも大学が期待する学習文化を持たない学生が多数入学し、結果として大学にスムースに適応できない学生が多数存在するということがある。高等教育のユニバーサル化を早期に経験したアメリカにおいて、初年次教育の理論・実践には一定の蓄積があるが、日本においては、アメリカの事例を参照しつつ、各大学が試行錯誤を行っている段階であり、初年次教育が十分に深化されているとは言えない状況である。大学全入時代を迎える日本の高等教育において、初年次教育の必要性はますます高まるであろう。このような視角のもと、今後、具体的な初年次教育のあり方を構想することが求められるであろう。