著者
飯島 弘貴 青山 朋樹 伊藤 明良 長井 桃子 山口 将希 太治野 純一 張 項凱 秋山 治彦 黒木 裕士
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに,目的】変形性膝関節症(OA)の病変の主体は関節軟骨であるが,加えて軟骨下骨の独立した変化を伴うと認識され,半月板切除後に予後不良でTKAに至った者の多くは軟骨下骨の骨折を伴っていたと報告されている。近年のOAモデル動物を使用した実験では,早期から軟骨下骨の変化が生じることで軟骨変性を助長する現象が明らかとなっている。したがって,早期からの軟骨下骨の変化を抑えることはOAの病態に対する理学療法戦略として重要である。OAモデル動物に対する緩徐なトレッドミル走行は軟骨の変性予防効果があることが報告されているが,軟骨下骨の変化を捉えた研究は存在しない。本研究ではOAを惹起する半月板不安定モデルラットを使用し,早期からの緩徐な走行運動は軟骨変性の予防効果だけでなく,軟骨下骨変化の予防効果もあると仮説を立て,病理組織学的に検証を行った。【方法】12週齢の雄性Wistar系ラットに対してOAモデル(内側半月板不安定モデル)を作成した。右膝関節にOA処置を行い,左膝関節に対しては偽手術を行った。作成したOAモデルラットを自然飼育のみ行う群(右膝:OA群,左膝:対照群)と緩徐な歩行を行う群(右膝:OA+運動群,左膝:運動群)の2群に無作為に分類した。運動条件は12m/分,30分/日,5日/週とし,飼育期間は術後1,2,4週間とした(各群n=5)。各飼育期間終了後に安楽死させ,両膝関節を摘出した後,軟骨下骨変化の評価としてmicro-CT撮影を行った。その後作成した組織切片に対して,HE染色による組織形態の観察と免疫組織化学的手法を用いてCol2-3/4c,MMP13,VEGFの発現分布の評価を行った。軟骨変性重症度の評価に関しては,膝関節前額断の内側脛骨軟骨を内側,中央,外側の3領域別に分類し,OARSI scoreを使用して軟骨変性の評価を行った。統計学的解析はstudent t検定及びANOVAを行い,ANOVAで有意差が見られた場合には多重比較としてTukeyの検定を行った。統計学的有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は所属施設動物実験の承認を得て実施した。【結果】OA群とOA+運動群の2群間でOARSI scoreを比較すると,1,2週時点では有意差は見られなかったが,4週時点では中央,外側領域においてOA+運動群で有意に軟骨変性重症度が小さかった(中央:4wOA群;16.1±1.5,4wOA+運動群;10.3±3.3,外側:4wOA群;6.6±1.8,4wOA+運動群;3.3±0.7)(<i>P</i><0.01)。OA群,OA+運動群は1,2,4週のいずれの時点でも対照群,運動群よりも有意に軟骨変性重症度が高かった(<i>P</i><0.01)。II型コラーゲンの断片化を検出するcol2-3/4cはOA群と比較してOA+運動群で陽性領域が小さかった。micro-CT上で軟骨下骨を観察すると,1週時点からOA群では主荷重部である中央領域に骨欠損が観察され,時間依存的に骨欠損の大きさが増大していったが,OA群とOA+運動群で骨欠損の大きさに明らかな差は認めなかった。HE所見では軟骨変性が重症である領域と骨欠損領域が一致し,骨欠損領域は骨髄中に含まれる血球系の細胞とは異なる線維軟骨様の組織で埋め尽くされており,VEGFやMMP13の陽性所見が確認された。全ての結果に関して,対照群と運動群では明らかな差異を認めなかった(<i>P</i>>0.05)。【考察】OAモデルラットに対する緩徐な走行運動は軟骨変性の予防効果は示したが,軟骨下骨の変化を抑性することはできず,仮説は棄却された。軟骨下骨骨折領域の細胞には血管性の因子であるVEGFや軟骨破壊因子であるMMP13の発現が確認されたことから,軟骨の変性は軟骨下骨骨折によって助長されうるが,運動療法が軟骨変性予防効果を示した背景として,軟骨下骨変化以外の軟骨破壊プロセスを抑性したことが考えられる。本研究で用いた運動条件はラットの生理的な歩行速度であり,より高い運動強度を用いた実験では軟骨破壊を促進することを我々は過去に報告したことを踏まえると(Yamaguchi S, Iijima H, et al 2013),軟骨の破壊プロセスを生物学的に抑性するためには運動強度や量に注意を払う必要があることも示された。【理学療法学研究としての意義】軟骨下骨の骨折は半月板切除後早期から主荷重領域に生じるが,緩徐な走行運動を早期から行っても軟骨下骨の骨折を悪化させることなく軟骨変性を予防する効果があり,OAの進行予防に対して理学療法が有効であることを示唆するものである。
著者
山口 将希 井上 大輔 黒木 裕士 伊藤 明良 長井 桃子 張 項凱 飯島 弘貴 太治野 純一 青山 朋樹 秋山 治彦 広瀬 太希
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100827, 2013

【はじめに、目的】変形性関節症(OA)は、加齢や遺伝的要因、外傷、メカニカルストレスなど様々な要因によって発症する疾患であることが知られている。関節軟骨に慢性的な過荷重などの過剰なメカニカルストレスが加わることにより炎症性のサイトカインの上昇や炎症に関連するNF-κBのシグナル経路が活性化し、その下流にある分子のMMP13 やVEGF が関節軟骨の破壊を招くことが近年報告されている。寒冷刺激は炎症抑制効果のある物理刺激として、炎症性疾患やスポーツ外傷などの急性期、あるいは運動後の関節等に対して用いられている。関節軟骨に対する寒冷刺激の効果、とくに膝OA の関節軟骨に対する効果はほとんど報告されていない。これまでに損傷した神経や肺疾患において寒冷刺激をするとNF-κBを抑制する効果があることが報告されていることから、関節軟骨においても寒冷刺激によってNF-κBを抑制し、その結果、OA進行を遅らせる効果があると考えられる。そこで本研究はOAモデルラットに対して寒冷刺激を行い、その影響を組織学的に評価することを目的としている。【方法】対象は9 週齢のWistar 系雄ラット2 匹、平均体重229.5gを対象とし、両後肢に対してネンブタール腹腔内麻酔下にて前十字靭帯、内側側副靭帯、内側半月板の切離を行い、OA モデルとした。それぞれのラットに対し、術後一週後より、右後肢に対してのみ寒冷刺激を加えた。寒冷の刺激条件は0 〜1.5℃、10 分間/日、3 回/週の条件で冷水槽にて吸口麻酔下で寒冷刺激を加えた。術後3 週飼育、寒冷刺激9 回の後、ラットをネンブタール腹腔内麻酔致死量投与により安楽死させ、両側後肢膝関節を摘出し、4%パラホルムアルデヒドにて組織固定を行なった。固定後、PBSにて置換した後、EDTA 中性脱灰処理した。脱灰後、パラフィン包埋処置を行い、包埋したサンプルをミクロトームにて6㎛切片に薄切した。組織観察は薄切した切片をトルイジンブルーおよびHE 染色にて染色し、OARSI (Osteoarthritis Research Society International)のGrade、Stage およびScoreを用いて光学顕微鏡下で膝関節軟骨の組織評価を行った。正常ではOARSIのGrade、Stage、Scoreはいずれも0 となる。加えてII型コラーゲン免疫組織化学染色(col2 免疫染色)にて形態観察を行った。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は所属大学動物実験委員会の承認を得て実施した。【結果】寒冷側はGrade; 4.8 ± 0.30、Stage; 4 ± 0.0、Score; 19 ± 1.0 となり、組織画像上では大腿骨内側部に中間層にまで軟骨の欠損が見られた。非寒冷側ではGrade; 3.5 ± 1.00、Stage; 4 ± 0.0、Score; 14 ± 4.0 となり、組織画像において軟骨表面の連続性が消失した個体と中間層までの軟骨が欠損した個体が見られた。非寒冷側に比べて寒冷側ではOAの悪化が見られた。しかしcol2 免疫染色画像での形態観察では、非寒冷群に比べて寒冷群において強いcol2 染色の発現が見られた。【考察】術後1 週後という、手術侵襲による炎症症状が治まった後の寒冷刺激は、むしろ軟骨損傷の進行を招く恐れがあることが示唆された。しかし本結果は関節軟骨の主要な構成成分であるll型コラーゲンの破壊は抑制されることを示していた。つまり寒冷刺激により助長された軟骨損傷の進行は、ll型コラーゲンの破壊以外の要因によるものであると考えられる。【理学療法学研究としての意義】炎症抑制効果のある寒冷による物理刺激でも、変形性関節症の関節軟骨に対しては必ずしも良好な効果をもたらすわけではないことが示唆された。今回はOAに対する寒冷刺激単独の効果を検証したが、今後、運動刺激との併用により炎症症状が強まった状態やより急性期の関節軟骨においてはどのように影響するか調べることが必要だと考える。
著者
木島 章文 樋口 貴広 島 弘幸 奥村 基生 鈴木 聡
出版者
山梨大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

小学校2, 4, 6年生を対象とした実験を完了し,以下の結果を得た(現状も分析を続行している).1) 三者跳躍課題の遂行に伴うミスの回数を学年間で比較した結果,第2学年以上になるとミスの回数が多くなる傾向が見られた.2年生においては一方向のみあるいは定型的に跳躍方向を切り替える組(例えば,左右1回ずつ交互に,あるいは2回ずつ交互になど)が7割がたを占め,第4学年以上になると不規則に跳躍方向を切り返す組が7割がたを占めていた.また第6学年では成人と同じく,反時計回り方向へ跳躍するケースが顕著に多くなった(平均で成功回数の7割).2)先導跳躍者に対する他二者の遅れに関して学年間に有意差はなかったが,全ての学年における遅れ時間が,成人より有意に大きかった.また先導・追従性に差がない等質群においては,成人と同じく,正方形条件における遅れが正三角形条件における遅れより大きい傾向があった.また先導性に差がある異質群においては,成人とは逆に,正方形条件において先導児童が早期に跳躍することを示す二者先導(一者追従)型の協応パタンを示す傾向が強かった.3)等質群では,三者の配置が対称な正三角形条件において三者それぞれが他を先導する確率が等しく(約33%),正方形条件では跳躍方向に空き地を持つ一者が先導する確率が抜きん出て高く,他の二者が先導することはほとんどなかった.これら協応パタンは成人のパタンと同じ性質であり,それぞれの地形における跳躍者の配置の対称性から群論に基づいて予測したパタンと一致する.一方で異質群においては先導児童が場の制約に反して先導する傾向が高かった.そこで現れるパタンの時空間対称性は地形から予測される対称性より低い.現在,跳躍者の個性が地形の幾何学対称性から予測される協応パタンの対称性が,そこに配置される跳躍者の個性によって崩れることを説明する数理モデルを検討している.
著者
川村 正英 井上 一 花川 志郎 横山 良樹 長島 弘明
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1001-1003, 1990-08-25

抄録:全人工股関節置換術(THR)後抜去のやむなきに至り,Girdlestone関節形成術と同じ状態になった症例について,歩行機能を中心に評価した.1975年以来私たちが扱った.THR抜去症例,8例9関節を対象として,直接検診を行った.原疾患は慢性関節リウマチ(RA)4例5関節,変形性股関節症(OA)2例2関節,大腿骨頭壊死(AN)1例1関節,大腿骨頸部骨折1例1関節である.抜去原因は感染が7例8関節,著明なゆるみと骨折が1例あった.RA以外の4例は杖と補高装具を使用して少なくとも自宅周辺は歩行可能であり,うち3例は就労もしていた.しかしRAの4例は,調査時には全例車椅子生活か寝たきりであった.THR抜去を行った場合,杖が使える上肢機能があって他の関節障害が重篤でない症例では,術後の筋力増強訓練や補助具の使用により実用的な歩行が十分期待できる.
著者
長島 弘道
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.60-75, 1969-01-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
6
被引用文献数
1 1

戦後の日本農業のひとつの特色は商業的農業の著しい発展である.本稿では,成長部門の一環として養鶏業をとりあげ,その発展過程,経営形態を中心に検討を試みようと思う. 養鶏業には二つの発展期が認められる.第一期は昭和20年代後半であり,第二期は30年代後半である.前者は飼料事情の好転と鶏卵市場の拡大によって飼養羽数が増大した時期であり,後者は農業経営の体質改善という農村内部からの動きによって養鶏が導入され,専業化が進んだ時期である. 今日,養鶏には副業養鶏を別にして,専業養鶏,企業養鶏,協業・集団養鶏の三つの経営形態がある。専業養鶏は家族労働を主体としているのに対して,企業養鶏は常時雇用労働力を導入している.両者とも大.市の近郊に立地しているが,最近企業養鶏は外延的に立地移動し,分散化の傾向がみられる.協業.集団養鶏は全国的に分散している.
著者
山本 裕二 横山 慶子 木島 章文 島 弘幸 YAMAMOTO Yuji YOKOYAMA Keiko KIJIMA Akifumi SHIMA Hiroyuki
出版者
名古屋大学総合保健体育科学センター
雑誌
総合保健体育科学 (ISSN:02895412)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.1-14, 2017-06-30

This study considered the movements of the defense lines and the ball during a football game as a three-coupled oscillation. Each defense line of two opposing teams oscillated with in-phase synchronization, and the length between each defense line and the ball oscillated with anti-phase synchronization. We introduced a three-coupled oscillation model to understand these synchronizations. First, we considered the case in which three masses, m, and four spring constants, k, were equal in a three-coupled oscillation. We calculated the eigenvectors and eigenvalues based on the equation of motion, and we obtained three modes of oscillation as three angular frequencies in the equation. We obtained key parameters when we defined the initial state of the system, which allowed us to solve the equation of motion for three-coupled oscillation. Next, we considered cases in which three masses and four spring constants differed. To confirm the validity of the three-coupled oscillation model, we calculated the distribution of the relative phase between two outer masses, m1 and m3, as defense lines and the length between two outer masses and the middle mass, m2, as each defense line and the ball. The three-coupled oscillations showed similar distributions of the relative phase. However, the periodogram showed distinct periodicity. Thus, a more sophisticated model is needed to understand the behavior of the defense lines and the ball during football games.
著者
杉本 巧 串田 秀也 鍋島 弘治朗 林 誠 中野 阿佐子
出版者
広島国際大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究課題は、会話におけるメタファー使用に関して、以下の三点の研究成果を得た。第一に、会話分析の立場から、会話でのメタファーの出現位置に注目し、メタファーが会話の相互行為のなかで、相手の語りの理解を示す資源として用いられることを明らかにした。第二に、同じく会話分析の立場から、しばしばメタファーと共起する「こう」が、話し手の発話に対する聞き手の理解や反応を方向づけるという相互行為上の働きを持つことを明らかにした。第三に、認知メタファー理論の立場から、会話の中でメタファーが動的に展開する様を観察し、会話に現れる非日常的で創造的なメタファー表現を既存の概念メタファーと結びつける方法を具体的に示した。
著者
上島 弘嗣 藤吉 朗 宮川 尚子 喜多 義邦 大久保 孝義 門田 文 久松 隆史 高嶋 直敬 三浦 克之 村上 義孝
出版者
滋賀医科大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2013-04-01

(1)縦断解析:インスリン抵抗性と冠動脈硬化進展、歩数とメタボリックシンドローム発症との関連、(2)国際共同研究:米国住民コホートMESAとの冠動脈硬化日米比較、ピッツバーグ大学等との共同研究にてオメガ‐3脂肪酸と冠動脈石灰化発症との関連等、(3)遺伝子、メタボローム、新興バイオマーカー:アルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子多型とLDL-コレステロール、リポプロティン関連ホスフォリパーゼA2とその遺伝子多型と潜在性動脈硬化との関連等を明らかにした。尿中メタボローム・酸化変性LDLも測定済みであり引き続き有用なバイオマーカーの探求を続ける。
著者
坪井 洋人 飯塚 麻菜 浅島 弘充 住田 孝之
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 = Japanese journal of clinical immunology (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.77-85, 2013-04-28
参考文献数
23
被引用文献数
4

&nbsp;&nbsp;シェーグレン症候群(SS)は唾液腺炎・涙腺炎を主体とし,様々な自己抗体の出現がみられる自己免疫疾患である.SSでは,種々の自己抗体が検出されるが,SSに特異的な病因抗体はいまだ同定されていない.外分泌腺に発現し,腺分泌に重要な役割を果たすM3ムスカリン作働性アセチルコリン受容体(M3R)に対する自己抗体(抗M3R抗体)は,SSにおいて病因となる自己抗体の有力な候補であると考えられ,近年注目されている.我々のグループの研究で,M3Rのすべての細胞外領域(N末端領域,第1,第2,第3細胞外ループ)に対して,抗M3R抗体の抗体価および陽性率は健常人と比較してSS患者で有意に高値であった.またSS患者において,抗M3R抗体はM3Rの細胞外領域に複数のエピトープを有することが明らかとなった.さらにヒト唾液腺(HSG)上皮細胞株を用いて,塩酸セビメリン刺激後の細胞内Ca濃度上昇に対する抗M3R抗体の影響を解析した.抗M3R抗体の細胞内Ca濃度上昇に対する影響は,抗M3R抗体のエピトープにより異なる可能性が示唆された.興味深いことに,M3R第2細胞外ループに対する抗M3R抗体陽性SS患者のIgGと,我々が作成したM3R第2細胞外ループに対するモノクローナル抗体は,ともにHSG細胞内Ca濃度上昇を抑制した.M3R第2細胞外ループに対する抗M3R抗体は,唾液分泌低下に関与する可能性が示唆された.<br> &nbsp;&nbsp;以上の結果より,抗M3R抗体は複数のエピトープを有し,唾液分泌への影響はエピトープにより異なる可能性が示された.抗M3R抗体はSSにおける病因抗体としての可能性のほか,診断マーカーや治療ターゲットとなる可能性も期待される.<br>
著者
中島 弘至
出版者
関西大学教育開発支援センター
雑誌
関西大学高等教育研究 (ISSN:21856389)
巻号頁・発行日
no.7, pp.91-103, 2016-03

新卒労働市場において就職のミスマッチが叫ばれて久しい。入職後3年以内の離職率が約3割にものぼる。どうしてだろう。周到な企業研究から学生は就職先を決めたのではなかったか。確かに非正規雇用が社会問題化する昨今、正規の職を得るには多くの困難が伴う。一方で60年以上の歴史を持ちながらも、頻繁に見直される就活ルールの存在はどうか。守るといっては守らないルールを長年にわたり堅持してきた。そしてルール違反は未だに絶えないのである。本稿は、近年、学校選択制などで検討されるマッチングモデルが、採用(就職)活動の場でも機能するかを検証する。そして機能するならば、それが就活ルールの不遵守などの条件が変化した場合、どのように公平さを歪めるかを確認するものである。分析の結果、ルールが遵守される場合は企業と学生双方にとって望ましいマッチングが実現する可能性が高くなる。かたや企業がルール違反により早い時点で学生を囲い込むと、健全なマッチングは実現されず、かつ早く動いた企業の利得は増える。さらに様々なシミュレーション結果を踏まえると、ルールを正しく運用することが学生の利益にかなうことが理解できる。
著者
中島 弘至
出版者
関西大学教育開発支援センター
雑誌
関西大学高等教育研究 (ISSN:21856389)
巻号頁・発行日
no.8, pp.79-91, 2017-03

かつて我が国では大学を出たかどうか、あるいはどこの大学を出たかどうかで人を評価するといった学歴主義が浸透していた。それが就職先にも影響することから多くの批判があった。しかし、1990年代のバブル経済崩壊以降、企業は厳しい経営環境にさらされ、新卒者の中にはこれまで当たり前と思われた正規職さえ就けない者が続出した。それとともに近年、(学力以外の)社会人・職業人に必要な能力を求める声が各方面で強くなっている。果たして学歴主義は遠のいたのだろうか。 バブル期から現在までの大手企業と有名大学の就職データに基づきパネルデータ分析を行うと、学歴主義がなお有効であるとの結論が出た。そこで新卒労働市場のプレーヤーについて、戦後における教育制度との関わりを検証した。大学はもとより階層的構造を持つが、戦後改革の好機にも是正されずその構造は温存された。また経済団体は教育制度への改善欲求を出し続ける一方、文部省(文部科学省)は審議会などを通じて、大学種別化政策を推進した。ところで新卒労働市場には採用選考に関わる就職協定(就活ルール)がある。60年以上の歴史を持つものの殆ど遵守されたことはない。つまり違反が過度になると、実情にあわせて、公正と思われる時期へと就職協定は変更されるのである。このようにして社会からの批判をかわし、長らく生き延びてきた。だがそのことが今なお存在する学歴主義を見えにくいものにした可能性はある。
著者
三島 弘幸 門田 理佳 尾﨑 真帆 服部 淳彦 鈴木 信雄 筧 光男 松本 敬 池亀 美華 見明 康雄
出版者
日本再生歯科医学会
雑誌
日本再生歯科医学会誌 (ISSN:13489615)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.11-22, 2014 (Released:2016-05-11)
参考文献数
20
被引用文献数
1

本研究はメラトニンが象牙質の組成や組織構造に及ぼす影響を分析学的及び組織学的に解析することを目的とした.本研究は出生後5日,6日,7日令のSDラットを用いた.メラトニン投与群では象牙前質に石灰化球が多く見られ,投与濃度上昇につれ象牙前質中の石灰化球数は増加し,大きさも大きくなった.ALP染色は対照群と比べて高濃度群により強い青紫色のALP発現が見られ,メラトニン投与濃度が上昇するにしたがって,象牙芽細胞のALP発現が強くなった.SEM-EDS分析,EPMA分析では,昼間,夜間試料共に投与群でCa及びPが多く含有していた.顕微レーザーラマン分光分析は,PO43-ピークが高濃度群でピークが高く,半価幅も狭まり,メラトニン投与によって,PO43-の分子配向性,アパタイト結晶性が良好となった事が判明した.メラトニンは象牙質の組織形成を促進し,石灰化を亢進し,象牙質の石灰化に影響を及ぼすと考察される.
著者
飯島 弘貴 青山 朋樹 伊藤 明良 山口 将希 長井 桃子 太治野 純一 張 項凱 喜屋武 弥 黒木 裕士
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0814, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】変形性膝関節症(膝OA)は膝関節痛やこわばりを主訴とする代表的な運動器疾患である。その病態の中心は関節軟骨の摩耗・変性であるが,近年では病態の認識が改まり,発症早期より生じる軟骨下骨の変化が,関節軟骨の退行性変化を助長している可能性が指摘されるようになった。我々も同様の認識から,半月板損傷モデルラットを作成し,その早期から軟骨変性と軟骨下骨嚢胞が共存していることを明らかにした(Iijima H. Osteoarthritis Cartilage 2014)。理学療法を含む非薬物治療は,膝OAの疼痛緩和を目的とした治療戦略の大きな柱であるが,このような早期膝OAの病態を考慮した,OA進行予防策に関する研究蓄積は乏しい。また,病態モデル動物を用いた研究において,歩行運動が関節軟骨の退行性変化を予防しうる,という報告は散見されるが,そのメカニズムは不明であった。そこで,我々はこれらの課題に対して,早期の病態に関与する軟骨下骨変化を歩行運動によって抑制することが,膝OA進行予防に寄与するのではないかと着想し,これまで不明であった,運動による膝OA進行予防メカニズムの解明へと研究を進めてきた。本研究では,我々が報告した半月板損傷モデルラットを使用し,疑似的に早期膝OAの状態を作り出し,歩行運動が軟骨下骨変化に与える影響を評価し,軟骨変性予防効果との関連性を検討した。【方法】12週齢のWistar系雄性ラット24匹に対して,内側半月板の脛骨半月靭帯(MMTL)を切離する内側半月板不安定性モデルを作成した。MMTLの切離は右膝関節のみに行い,左膝関節に対しては偽手術を施行し,対照群とした。その後,術後8週間に渡り自然飼育を行うことで,OAを発症・進行させるOA群(n=8)と,早期膝OAの状態となる術後4週時点からトレッドミル歩行(12m/分,30分/日,5日/週)を行う運動群(n=8)の2群に分類した。時系列変化を評価するため,術後4週まで飼育する介入前群(n=8)を設定した。主な解析対象および群間の比較は,MMTLを切離した全群の右膝関節とし,対照群とも比較した。解析内容は,μ-CT撮影および組織学的手法を用いて,4週間にわたる歩行運動介入の効果を検討した。μ-CT撮影所見より軟骨下骨嚢胞の最大径を評価し,組織学的解析では破骨細胞マーカーである酒石酸耐性酸フォスファターゼ(TRAP)染色とともに,骨細胞死数,軟骨下骨損傷度(0-5点)を評価した。また,軟骨変性重症度(0-24点)を評価し,軟骨下骨損傷度との関連性の評価としてSpearmanの順位相関係数を算出した。【結果】μ-CT所見では介入前から脛骨内側関節面にて軟骨下骨嚢胞が確認されたが,運動群では最大嚢胞径が縮小し,介入前およびOA群よりも有意に低値を示した(P<0.01)。組織学的所見では,軟骨下骨嚢胞内にTRAP陽性破骨細胞が多数観察され,直上の関節軟骨が嚢胞内に落ち込む所見が介入前群では30%で確認された。OA群ではその後悪化し,80%で確認されたが,運動群では0%であった。併せて,介入前およびOA群では多数の骨細胞死が観察されたが,運動群ではいずれも軽度であり(P<0.01),軟骨下骨損傷度は介入前およびOA群よりも有意に低値を示した(P<0.05)。軟骨変性重症度は,運動群で最も低値を示し(P<0.05),軟骨下骨損傷との間に強い相関を認めた(P<0.01,r=0.91)。【考察】半月板損傷後に発症した早期膝OAに対する緩徐な歩行運動は,骨細胞死の減少とともにTRAP陽性破骨細胞活性に起因する軟骨下骨嚢胞を縮小させることが明らかになった。つまり,半月板損傷後に生じた損傷軟骨下骨は可逆的な状態にあり,自然飼育のみでは進行する一方,歩行運動によって治癒することを示している。軟骨下骨の損傷により形成された陥没は,関節軟骨に加わるひずみを増大させる要因となるだけでなく,関節軟骨-軟骨下骨間の炎症性サイトカインの交通を介してOAを進行させることが知られている。したがって,軟骨下骨の治癒が歩行運動によってなされることで,その直上の軟骨に加わる力学的,化学的ストレスを緩和させ,膝OAの進行予防に一部寄与しうることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】膝OAに対する従来の理学療法は,摩耗・変性した関節面へ加わる応力を,分散あるいは減弱させることを主目的としてその進行予防に寄与してきたため,歩行運動のような運動負荷を治療手段とするという考え方は希薄であった。本研究結果は,半月板損傷後の早期膝OAに対する一定の運動負荷がOA進行予防に寄与する可能性を提示し,そのメカニズムの一部を病態モデル動物を使用して病理組織学的にはじめて明らかにしたものである。
著者
轟 朝幸 居駒 知樹 江守 央 川崎 智也 兵頭 知 桐島 弘之
出版者
日本大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

日本において水上飛行機による航空運送事業が2016年に半世紀ぶりに再開された.しかし,水上機が離発着する水域を利用している船舶や漁業などから水上機の離発着への懸念が示されている.そこで,水上機運航が活発なカナダ,アメリカ等の先進事例調査を実施した.その結果,水上機離発着場が数多く整備され, AIP(航空路誌)にて公表していた.水上機の離発着数が多いバンクーバー等では,航空管制などによる運航支援システムが整備され,狭あいな入江のヴィクトリアでは,水上機と船舶の利用エリアを区分した運用ルールを整備していた.これらのように,水上機と船舶などがともに安全に運航できる環境整備が進められていた.