著者
岡崎 倫江 那須 千鶴 吉村 和代 曽田 武史 津田 拓郎 高畑 哲郎 大石 賢 中川 浩 矢倉 千昭
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0305, 2007 (Released:2007-05-09)

【目的】女性競技者の前十字靭帯(以下ACL)損傷は,男性より高い確率で発生し,特に非接触型損傷が多いことが知られている。その要因のひとつとして性ホルモンの影響が指摘されており,先行研究では月経周期中の性ホルモンの変動とACLとの関係について検討されている。一方,Eiling ら(2006)は,片脚飛びの着地時における制動から筋硬度を測定し,下肢の筋硬度が月経周期に影響されることを報告している。この報告から女性におけるACL損傷と月経周期の関係は,ACLよりも膝関節周囲筋の筋硬度の変化による膝関節へのストレスが関与している可能性がある。そこで,本研究は月経周期中の膝関節周囲筋の筋硬度および短縮度の変化について調査し,性ホルモンが筋硬度に及ぼす影響について検討することを目的とした。【方法】対象者は月経周期の安定した(28日±1~2日)健常成人女性9名(測定18脚),平均年齢25.9±2.1歳であった。全ての対象者に内容を説明し,同意を得た上で測定を行った。月経周期を28日とし,最終月経日より逆算し,月経期(7日目)・排卵期(14日目)・黄体前期(21日目)・黄体後期(28日目)の4期間に分け,それぞれの期間で測定を行った。月経周期の把握と測定日の設定は,測定者以外の者が行い,測定者には対象者の月経周期を知らせなかった。筋硬度は大腿直筋および大腿二頭筋の停止部から25%部位と50%部位を,筋硬度計(NEUTONE,TRY‐ALL社)を用いて測定した。筋短縮度はElyテストとSLRテストの最大伸張時の関節角度を測定した。すべての測定は3回行い,その平均値を代表値とした。統計解析は一元配置分散分析を用いて分析し,危険率5%未満をもって有意とした。【結果】筋硬度は大腿直筋及び大腿二頭筋の50%部位において,他の周期と比較し黄体前期が有意に高値を示した(p<0.05)。筋短縮度は月経周期中における有意な変化はみられなかった。【考察】黄体前期は,エストロゲンが急減し,プロゲステロンが急増する時期であり,これらの変動が膝関節周囲筋の筋硬度に関与していると考えられる。プロゲステロンには,コラーゲン合成を促進させる(蛋白同化)作用があり,この作用によって筋硬度が増加している可能性がある。ACL損傷は,排卵期と月経期に多く,黄体期に少ないといわれている。しかし,膝関節周囲筋の筋硬度とACL損傷との関係については明らかにはなっていない。今後は,月経周期中における性ホルモンの変動と筋硬度,ACL損傷との関連について検討する必要がある。
著者
荒井 観 安川 展之 日野原 誠 木曽 宏顕
出版者
ヒューマンインタフェース学会
雑誌
ヒューマンインタフェース学会論文誌 (ISSN:13447262)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.271-282, 2017-08-25 (Released:2018-12-10)
参考文献数
19

In this paper, we propose a support system for substrate manufacturing workers. This system provides operation instructions on and around a substrate with projection mapping. The purpose of this system is to enable workers to produce substrates faster and more precisely in a product line which many kinds of substrates are produced. The examples of projected instructions are kinds of parts, number of parts and positions to insert parts. The projected instructions from our system change with time. Workers are required to produce a substrate by following the changing instructions. This process is expected to provide easy and rhythmical instructions for achieving faster and more precise manufacturing. To evaluate our system, we have applied the system for six months under actual product circumstance in the factory. The results show that our system reduces 12% of production time without producing reject products. We believe that this is a valuable study case that shows the effects of superimposed information in an actual product line on a long term basis.
著者
成田 亜希 阿曽 絵巳
出版者
保健医療学学会
雑誌
保健医療学雑誌 (ISSN:21850399)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.96-104, 2018-10-01 (Released:2018-10-01)
参考文献数
9
被引用文献数
1

理学療法士学生は高等学校卒業後,現役で入学する学生が多く,発達過程では青年期にある.青年期の自己像を形成する上で自尊感情,自己愛,対人恐怖心性が存在し,理学療法臨床実習においても,これらの要素が影響すると考えられる.そこで89 名の学生を対象に自尊感情・自己愛・対人恐怖心性が実習成績とどのように関係するかを調査した.各期実習において自己を肯定的に捉えている方が実習成績は良い結果であった.また最終実習でのみ,自己愛が高い学生ほど実習成績は良かった.対人恐怖心性と実習成績の間には負の関係性が示唆された.理学療法臨床実習では,社会性を身につけておくこと,かつ学生が自己に対して肯定的な感覚を持つことができるような指導をする必要がある.
著者
田村 須賀子 上杉 絵理 曽根 志穂
出版者
一般社団法人 日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.85-92, 2007-10-10 (Released:2017-04-20)

保健師は,地区住民の健康生活上の援助ニーズを把握し,個人あるいは住民集団に対して看護援助を提供する.本稿では,保健事業の実践過程における保健師の意図と行為を記述することにより,保健師による保健資源提供活動の特徴を明確にすることを目的とする.研究対象は,熟練保健師による保健事業の実践過程7事例である.調査項目は,保健師の意図,保健師の行為である.熟練保健師とは保健師として原則5年以上の実務経験があり,実践活動の詳細な記述と現状分析ができる者とした.保健師による保健資源提供活動の特徴は,1)公衆衛生・疾病予防の観点で,住民の生活実態・健康課題を捉え,より重点的に対応すべき援助ニーズを明確にする,2)事業対象者およびその家族ばかりでなく,全数に対する提供を原則とし,適切な健康行動とライフスキルを獲得できるようにする,3)住民あるいは関係機関と協働し主体的な課題解決を促すために,既存の保健事業の活用または他事業と連絡・調整した一体的な展開を図る,4)国や都道府県の施策に関連づけて,その地区の実情に合った保健福祉事業の推進体制の基盤整備をする,と考えられた.保健師の意図を記述することにより,保健事業の実践過程の特徴を明確にし,保健師の住民に対する責任と役割を共有でき,より質の高い実践活動を導くことができると考えられた.
著者
佐藤 志以樹 大井 龍司 松本 勇太郎 曽 尚文 浜田 千枝 岩見 大二 Mohamed Ibrahim 千葉 庸夫
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.5, pp.939-944, 1994-08-20 (Released:2017-01-01)

最近我々は, Gross-C 型先天性食道閉鎖症術後15年目に発見されたTEF再開通例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.症例は15歳男児.昭和49年,8月,在胎41週,正常分娩にて出生,出生時体重2,800gであった.生直後よりチアノーゼを認め生後3日目,先天性食道閉鎖症 Gross-C型の診断にて一期根治術を施行した.昭和63年1月より鰓弓症候群の診断にて,延べ3回に渡り当院形成外科で全麻下の手術を受け,術後に左下葉の肺炎,無気肺の経過を繰り返したため当科紹介となった.食道造影にて, Th6 の高さでの TEF 再開通を発見された.術前, TEF 内に留置したガイドワイヤーを指標に剥離を進め, TEF を切離した.気管側を1層に,食道側を2層に縫合閉鎖した.食道と完全に遮断するため,気管側の TEF 閉鎖部に Gore-tex patch をあて良好な結果を得た.教室での経験例を合せて報告した.
著者
曽我 麻佐子 冨増 康宏 藤田 憲孝
雑誌
じんもんこん2015論文集
巻号頁・発行日
vol.2015, pp.51-56, 2015-12-12

国内の寺院には歴史ある襖絵が数多くあり,博物館でこれら全てを展示することは困難である.本 研究では,寺院を対象とした博物館展示を支援するため,襖配置の CG 再現および体験型システムの 開発を行った.博物館の実物展示と併せて展示する体験型システムとして,VR ゴーグルおよび襖配置 システムを開発した.VR ゴーグルは CG で再現された部屋の全周囲を見渡すことができ,襖配置シス テムはタッチ操作で襖を移動させることにより様々な配置でのシミュレーションが可能である.さら に,CG を用いて過去の襖配置を再現した 4K 映像を制作した.制作した映像は,龍谷ミュージアムの 特別展「聖護院門跡の名宝」において上映し,開発した二つのシステムは特別展の関連イベントとして 3 日間展示した.
著者
朝野 尚樹 小曽納 雅則 野口 健 伴 義之
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.63-69, 2008-06-01
参考文献数
14

現在、作物におけるDNA分析による品種識別技術については、稲、いちご、いんげんまめ、イグサ、茶、おうとう等において、育成者権侵害紛争の早期解決や食品表示の適正化等の現場で利用されるまでに至っている。品種識別に用いられる技術としては、RAPD、AFLP、CAPS、SSRが上げられるが、実際の現場では、上記方法のうちRAPD-STS、CAPS、SSR等が実用化されている。本研究において、品種識別に利用したSSRは、2〜6塩基を単位とした反復配列であり、ゲノム中に多数散在している。一般的に共優性であり、反復単位の繰り返し数の変異性が高く、アリル数が多いため、一つのSSRマーカーで複数の品種の識別が可能であり複数のSSRマーカーを用いることにより品種識別能力が非常に高くなる。また、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構果樹研究所において品種判別、親子鑑定などDNA鑑定を高精度で行うことを目的として、ナシ品種を対象としたSSRマーカーのデータベース(果樹研究所ホームページ「DNAマーカーによる果樹・果実の品種識別」を参照)が報告され、おうとう等、ナシ以外の果樹への適用も可能である。本研究では、日本国内で栽培されているバレイショのDNA分析による品種識別能力の向上を目的とし、9種類のSSRマーカーを用い、のべ193品種のDNA分析を行い、品種特性等を補完したバレイショのDNA品種識別用データベースを作成したので報告する。
著者
妻木 宣嗣 曽我 友良 橋本 孝成
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会計画系論文集 (ISSN:13404210)
巻号頁・発行日
vol.79, no.703, pp.2013-2022, 2014-09-30 (Released:2014-09-30)
参考文献数
7

We considered the pictures of Hagi castle town and materials of Mohri family library, so the following points were obtained: 1. Besides the past results, we presumed some new conclusion about presumptive date about the pictures of Hagi castle town. 2. Hagi Clan used pictures to grasp residences and possessions of the vassals. 3. In the middle and late of 18c, Hagi Clan didn't prasp residences and possessions of the vassals well, because of usage conditions of the pictures.
著者
田邊 力 曽田 貞滋
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

日本産アマビコヤスデ属とババヤスデ属を対象に、種分化と体サイズ及び体色擬態についての関係、体サイズ進化要因について調べ、以下の結果を得た。(1)分子系統推定の結果から、アマビコヤスデ属では本州、四国、九州に分布する小型種(3.5~4cm)アマビコヤスデから3種程度の大型種(4.5~6cm)が分化しており、大型の一種は分化後にアマビコヤスデと交雑していると推定された。(2)キイロヤドリバエの寄生はアマビコヤスデの体サイズ小型化への選択圧となっている可能性がある。(3)アマビコヤスデ属とババヤスデ属の間で確認された体色ミュラー型擬態の進化においてババヤスデ属における多発的種分化の関与が示唆された。
著者
保尊 隆享 若林 和幸 曽我 康一
出版者
日本宇宙生物科学会
雑誌
Biological Sciences in Space (ISSN:09149201)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.135-143, 2003 (Released:2006-01-31)
参考文献数
31

The involvement of anti-gravitational polysaccharides in gravity resistance, one of two major gravity responses in plants, was discussed. In dicotyledons, xyloglucans are the only cell wall polysaccharides, whose level, molecular size, and metabolic turnover were modified under both hypergravity and microgravity conditions, suggesting that xyloglucans act as anti-gravitational polysaccharides. In monocotyledonous Poaceae, (1→3),(1→4)-b-glucans, instead of xyloglucans, were shown to play a role as anti-gravitational polysaccharides. These polysaccharides are also involved in plant responses to other environmental factors, such as light and temperature, and to some phytohormones, such as auxin and ethylene. Thus, the type of anti-gravitational polysaccharides is different between dicotyledons and Poaceae, but such polysaccharides are universally involved in plant responses to environmental and hormonal signals. In gravity resistance, the gravity signal may be received by the plasma membrane mechanoreceptors, transformed and transduced within each cell, and then may modify the processes of synthesis and secretion of the anti-gravitational polysaccharides and the cell wall enzymes responsible for their degradation, as well as the apoplastic pH, leading to the cell wall reinforcement. A series of events inducing gravity resistance are quite independent of those leading to gravitropism.
著者
古川 祐輔 藤本 絢女 上野 あかね 小木曽 基樹 藤田 和弘
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.59, no.5, pp.223-227, 2018-10-25 (Released:2018-11-14)
参考文献数
8
被引用文献数
1

フェオホルバイド等クロロフィル分解物の通知試験法の検証と改良を行った.フェオホルバイド等クロロフィル分解物は,環食第九九号(昭和56年5月8日)「フェオホルバイド等クロロフィル分解物を含有するクロレラによる衛生上の危害防止について」において通知試験法が示されているが,複数の問題点が見受けられた.まず,乳鉢を用いた抽出は,長時間均一な力を加え続けることが必要であり,操作性の向上が課題であった.次に,飽和硫酸ナトリウム溶液の調製に用いる試薬により,吸収極大波長が測定波長である667 nmより高波長側にシフトして吸光度が減少し,729 nm付近に新たな吸収を生じることが確認された.この現象により,フェオホルバイド等クロロフィル分解物を過小評価することが確認された.最後に,吸光度測定前の含水ジエチルエーテルを20 mLに定容することが困難であった.上記3点を改良した試験法を検討し,妥当性確認を実施した結果,平均添加回収率82.7%,室内精度5.8%,と良好な結果が得られた.
著者
今村 正隆 鍋師 裕美 堤 智昭 植草 義徳 松田 りえ子 前田 朋美 曽我 慶介 手島 玲子 蜂須 賀暁子 穐山 浩
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.59, no.5, pp.239-247, 2018-10-25 (Released:2018-11-14)
参考文献数
4
被引用文献数
1

2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所事故により,放射性物質による食品汚染が発生した.地方自治体による出荷前放射性物質検査の有効性を検証するため,放射性セシウムが検出される蓋然性が高い食品・地域を重点的調査対象とした買い上げ調査を行った.2014年度は1,516試料,2015年度は900試料,2016年度は654試料を調査した結果,一般食品における放射性セシウムの基準値を超過した試料数は2014年度では9試料(0.6%),2015年度は12試料(1.3%),2016年度は10試料(1.5%)であった.放射性セシウムが検出される蓋然性が高い食品・地域を重点的に選択したが,基準値超過率は1%程度であったことから,各地方自治体における出荷前の検査体制は適切に整備され,かつ有効に機能していることが確認された.原木栽培や天然のきのこ,天然の山菜,野生獣肉などは放射性セシウム濃度が高い試料が存在したことから,継続的な監視が必要であると考えられた.

1 0 0 0 祝辞

著者
和達 清夫 中曽根 康弘
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理 (ISSN:04478053)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, 1960-07-30
著者
曽 道智 茨木 俊秀
出版者
一般社団法人 日本応用数理学会
雑誌
応用数理 (ISSN:24321982)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.12-27, 1999-03-15 (Released:2017-04-08)
参考文献数
31

We survey the recent research in the field of cake divisions and their procedures. The question is how to divide a cake among n players, so that a certain fairness is achieved, where players have individual measures on the cake, and each player only knows his own measure. The model has very wide applications, such as dividing up the property in an estate, and even in determining the border in an international dispute. We first review mathematical definitions of various concepts of fairness. Although the existence of fair divisions is proved under some mathematical conditions, their dividing procedures are not known for all cases. We summarize several existing division procedures and classify them according to their methods and purposes. Finally, we mention some related topics and describe possible future research directions.
著者
山下 欣一 有満 孝二 有村 百代 伊地知 優 上久保 晃 澤山 信二 塩満 浩二 重村 誠一 曽山 浩幸 種子田 圭司 徳永 正博 福田 雄二 福留 たける 若松 隆二
出版者
鹿児島国際大学
雑誌
社会調査実習報告書
巻号頁・発行日
vol.60, pp.E1-168, 1986-03

昭和55年から谷山ふるさと祭は実施されていて、年々盛大に開催されてきている。昭和55年度の第一回谷山ふるさと祭を行なうようになった動機については、すでに記述してあるが、ここでさらに箇条的に要約すると次のようになる。(1)人口の急激な増加-10万人突破記念事業(2)谷山地区の主要な神祭であった伊佐智佐神社の浜下りの代りをする祭が必要となった。(3)鹿児島市のおはら祭が大型化し、鹿児島市街の中心地区で開催されるので、副都心としての谷山地区でも開催することにした。以上のように要約した谷山ふるさと祭の実施に至る背景について検討してみるとさらに次のようにもいえると思う。(1)都市化の進展とした谷山地区谷山地区の人口(男女比)職業別、産業構造などでみてきたように、谷山地区の進展は目ざましいものがある。さらに谷山地区の歴史的背景で概観したように、本地区は鹿児島市街地の近郊農村として、独特の地位を占めている。その第一に指摘できるのは平地が多く、水田地帯を中心に集落が形成されていた。そして、外城を中心に市街地があり、それに付属して野町があったことでもある。また、錦江湾にてって発展した浦と呼ぶ漁村としての集落があった。谷山地区の近世におけるこのような要素をまとめてみると次のようになろう。外城と麓(武士集落)-行政 農村-農業 野町(松崎)-商業 浦-漁業このように、都市化へと進展する要素を内部に保持し、明治期に村制を施行し、それから町制、市制、鹿児島市への合併を迎えることになるのである。ここで注意しておきたいのは鹿児島市との関係である。もともと鹿児島市は現在の上町地区を中心に発展し、甲突川が市の南限であった時代が長かった。現在の荒田は地名が示すように水田地帯であり、中郡という地名は中村、郡元村などという農村集落であり、これらの農村集落をへだてて、谷山地区があったのである。谷山地区は、小規模であったが都市的要素を持っており、主体は近郊農村であった。いわゆる、鹿児島市とは独立した地域集団を形成してきたのであった。谷山地区の人口増加は、産業、卸売団地、団地住宅などの増加によるものがその主因である。これらは、谷山地区の周辺地区に展開しており、やはり中心地区には谷山に長年生活している人々が中心となっている。鹿児島市と合併後もやはり谷山地区という地域が鹿児島市役所谷山市所(もと谷山市役所)を中心に一つのまとまりのある独立地域という意識が強いということが指摘できよう。この谷山支所周辺がもとの外城や麓地区であることからも、この意味は大きいものがあると考えることができる。しかしながら、谷山地区の都市化の進展は、昔のような谷山地区からその様相を変化させたといいえる。それは、従来のような谷山地区の人々の共同体的意識での連帯が破綻をきたしたことをも意味している。従って、新しい意味での谷山地区の人々の連帯を求めるという考え方が発生してきたのは当然のことであった。谷山ふるさと祭は新生谷山のシンボルとしての位置を占めているといえよう。(2)伊佐智佐神社の神祭との関係伊佐智佐神社の10月の浜下りは谷山地区における中心的祭礼であった。和田名という中世的余韻を残している地名の集落を組織している門という親族集団によって支えられており、久津輪崎までのみこしの巡幸は海と山という二分された世界が統一されていくことを示しているといえよう。戦後において、このみこしが松崎から谷山本通りを巡幸し、谷山支所前の谷山小学校校庭に至り、一泊して還行するということも見逃してはならない点である。松崎はもともと野町であった。前に指摘しておいたように、谷山支所、谷山小学校周辺は外城と麓であった。伊佐智佐神社のこの巡幸は、和田名という農村から出発し久津輪崎という海すなわち浦(漁村)に至り、さらに松崎(野町-商業地区)を通り、谷山支所前の谷山小学校(外城、維)に到着し、一泊するということを、すなわち、農村→漁村→商業地区→外城、麓(行政)へとの巡幸して、聖なる祝福を与えるということである。谷山地区のあらゆる地域を巡幸していくということでもある。谷山ふるさと祭が松崎から鹿児島市電停留所前までを実施する場所としているのには交通規制その他の条件もあるが、伊佐智佐神社のみこし巡行との関連において考えるとその意味は深いといえると思う。(3)鹿児島市のおはら祭との関係鹿児島市のおはら祭は、あまりにも市街地中心に偏している。従って、地域毎に小規模の「まつり」を実施している現状である。ここでいう「まつり」とは、都市における民俗的伝承による「まつり」を指示している。しかし谷山ふるさと祭は、その規模においては大規模と呼んでいい「まつり」であると思う。そして、この「まつり」は、その組織考みても理解できるように、谷山地区の行政機関、金融機関、農協から地区公民館、校区別町内会、通り会に及んでいる。組織からみると、地域総ぐるみであるといえる。そして、町内会は各戸10円、通り会は各通り会毎に30,000円の負担金を支出している。また鹿児島市は年々補助金を与えており、谷山商工会、観光協会が協賛している。従って、行政機関と地域住民の支出が中心になり谷山ふるさと祭は実施されることになっている。もちろん寄付金の占める部分は大きいが、これらはかなり流動的であることを考えると、谷山ふるさと祭の予算的基盤は確固たるものがあると考えられる。しかして、実際の実務は谷山商工会ならびに谷山商工会青年部が中心になって実施しているものである。そして、この谷山ふるさと祭には谷山商店街の活性化と振興という意味も大きいのである。鹿児島市街地中心の購売動向をいかに谷山商店街に定着させ、呼びもどすかという願いも含まれていることを忘れてはならない点であろう。谷山地区は交通の点からみても、その地位からみても、鹿児島市街地とは別にーつの中心地を形成するのに、歴史的な背景もあり、都市化の進展により、さらにその傾向は強まっていくものと考えられる。このような発展の契機としての谷山ふるさと祭は伝統にのっとり、また新しい谷山地区のシンボルとして、谷山商店街の振興にもつながるという三点の特色をあわせて保持していると思う。