著者
ハント ゲ-リ-・A 松林 正己
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.47, no.11, pp.584-594, 1997
参考文献数
36
被引用文献数
2

多くの興味深い資源共有ネットワークがアメリカ合衆国では興っている。なかでも最も先進的なネットワークはオハイオリンク・プロジェクトである。本稿ではオハイオリンクの特筆すべき特徴を述べた。このプロジェクトはオハイオ州の単科大学と総合大学54校の図書館が, 2000万冊以上の書誌所蔵オンライン目録に接続し, 直接利用者主導の貸し出し, 拡大しつつある参考調査用フルテキスト・データベース, 電子論文供給, 州規模コンソーシアム・ライセンスによる電子雑誌へのアクセスが含まれている。組織問題 (システム・アーキテクチャー, スタッフ配置, 管理と財務) については, オハイオリンク強化計画にもとずいて, すなわち利用者インターフェース・ソフトウエアの次世代開発と音声, 映像及び数値データをもつデジタル・ファイル調整のためのシステム拡張を含めた議論をした。合衆国内にあるそのほかの州及び地域資源共有の状況に論及した。本稿ではこの分散システムの長所と短所を評価し要約し, これは合衆国内の公高等教育の分散構造を写し出している。州規模ネットワークは特定地域の学生と教員の実際的な需要に対して良質の情報源を提供する効果的な応答である。しかしながら全米情報インフラストラクチャーにおけるいくつかの主要問題には取り組めていない。北米図書館界の海外資料調達の凋落はその最たるものである。
著者
浅川 雅美 岡野 雅雄 林 英夫
出版者
日本行動計量学会
雑誌
行動計量学 (ISSN:03855481)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.141-152, 2020 (Released:2021-04-21)
参考文献数
27

This study examined the effect of the position of answer category “neither” of a rating scale (applicable/not applicable) of a self-administered questionnaire on the subjects' response rate, ease of answering, and misunderstanding of answer options in the case of a web survey. An eye tracking experiment was conducted on 56 university students. Fifty responses were analyzed and 6 were excluded due to insufficient data. The results showed that: (1) when “neither”is placed at the far right of the rating scale, the response rate is lower than when at the center; (2) when “neither” is placed at the far right, some participants mistakenly thought it displayed the most negative answer of “not applicable” because they did not observe the right side carefully; and (3) participants who correctly recognized the position of “neither” on the right had a higher fixation counts on the answer options and larger eye movements than those who did not recognize it.
著者
小林 広幸
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.736-737, 2019-05-24

定義 病理医の黒丸が肺結核患者の病理解剖標本の腸の粘膜を詳細に観察し,病理組織学的に結核病巣と確認できた粘膜病変(主に潰瘍性病変)を,腸結核の肉眼像として8型に分類したものである(Fig.1).後述する原典を要約した黒丸の著書「腸結核症の病理」1)の原文を引用すると,第I型は初期の病変で粟粒大ないし麻実大の結核結節である.第II型は結核結節の壊死物質が粘膜を破って腸腔に排出され,小潰瘍を形成したものである.第III型はそれがやや大きくなり,小豆大または扁桃大となったものである.第IV型は,腸の横軸方向の潰瘍で,輪状または帯状潰瘍と言われるものである.長径2cm以下のものをIVA型,2cm以上のものをIVB型とした.第V型は縦軸方向の長径2cm以下のものをVA型,2cm以上のものをVB型とした.VI型は円形または類円形の潰瘍で,扁桃大以上のものである.第VII型は不整形潰瘍で,扁桃大以上である.第VIII型は潰瘍が互いに融合し,広範な潰瘍となったものである.
著者
内藤 浩光 林 浩司 西﨑 博則
出版者
横浜植物防疫所
雑誌
植物防疫所調査研究報告 (ISSN:03870707)
巻号頁・発行日
no.52, pp.1-6, 2016-03

臭化メチルは、長年植物検疫の効果的なくん蒸剤として使われてきたが、オゾン層保護の観点からその使用を最小限にとどめる努力が国際的に進められている。日本の検疫病害虫の一つであるグラナリアコクゾウムシに対しては、臭化メチルの代替剤としてリン化水素が有効であるが、本調査においては、酸素濃度を高くした条件下でリン化水素くん蒸によるグラナリアコクゾウムシ蛹の感受性がどう影響を受けるかについて試験を実施した。さまざまな酸素濃度とくん蒸日数において、リン化水素2.0mg/l、15℃でくん蒸した結果、同じくん蒸期間でみると、より高い酸素濃度で殺虫効果がより高くなった。100%の殺虫効果が酸素濃度30及び40%、9日間で達成された。ロジット解析による酸素濃度40%でのLT50、LT95及びLT99は、それぞれ0.93、3.38及び4.75日であり、LT50及びLT95は通常大気条件下で行われた過去の調査結果の値の半分以下であった。酸素濃度40%以上でのリン化水素くん蒸が、グラナリアコクゾウムシ蛹に対して95%以上の殺虫効果を得るために効果的であると考えられた。リン化水素0.3、0.5及び1.0mg/l、酸素濃度30及び40%、9日間、15℃でのくん蒸の結果、100%の殺虫効果は得られなかった。同じ薬量で比較すると酸素濃度40%で殺虫効果は高く、酸素濃度40%、薬量0.5及び1.0mg/lでは、99.7%以上の殺虫効果が得られた。以上の結果から、グラナリアコクゾウムシ蛹は、酸素濃度30%以上、9日間、15℃で、くん蒸中リン化水素濃度2.0mg/lを維持することにより100%殺虫されることが明らかとなった。また、酸素濃度を40%よりも高くすることにより、グラナリアコクゾウムシ蛹を100%殺虫するリン化水素の投薬量及び処理期間を、低下、短縮することが可能であることが示唆された。
著者
林 剛丞 江川 純 染矢 俊幸
出版者
公益財団法人 パブリックヘルスリサーチセンター
雑誌
ストレス科学研究 (ISSN:13419986)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.10-15, 2015 (Released:2016-01-15)
参考文献数
26
被引用文献数
1 2

Many individuals with developmental disorders, especially autism spectrum disorder and attention deficit/hyperactivity disorder, cannot adjust themselves to their daily living environment (e.g., home, school, or work). This is a result of their poor social skills and the inappropriate stimuli they receive (e.g., bullying by classmates, severe rebuke from parents or teachers), which are based on an improper understanding of their condition and its features. Their stressful environments may result in secondary disabilities such as depression, anxiety, and stress-related disorders (e.g., adjustment disorder, posttraumatic stress disorder, reactive attachment disorder, or disinhibited social engagement disorder). In individuals with mild features of developmental disorders, these symptoms are often overlooked in childhood, and are pointed out to them only in adulthood, when secondary disabilities are already fixed. To enable early detection and to support individuals with developmental disorders, efforts should be made to impart a proper understanding of these disabilities to the general population.
著者
山元 一晃 浅川 翔子 加藤 林太郎 Kazuaki YAMAMOTO Shoko ASAKAWA Rintaro KATO
出版者
金城学院大学
雑誌
金城学院大学論集. 人文科学編 = Treatises and Studies by the Facalty of Kinjo Gakuin University. Studies in Humanities (ISSN:18800351)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.129-139, 2021-09-30

筆者は,看護師を目指す留学生のためのライティング教材の開発を行った。本稿は,開発に至った背景,開発の過程,その内容,想定される使用方法などについて述べる。まず,開発に至った背景については,看護学生・看護師向けのライティング教材を分析し,留学生の日本語教育にそのまま応用することは難しいことを明らかにした。その後,開発の経緯や内容について述べた。看護師と日本語教師が共同で開発にあたり,看護学科で用いられている課題を分析し,その上で必要なものを選んだ。さらに,実際のテキストを示しながら,本書の特徴を述べた。看護実習の流れにそった内容になっており,大きく「実習前」「実習中」「実習後」に分け,形式に関する説明を加え,電子カルテなど実際に看護実習で情報を得るための資源を入れ,ステップアップできる練習問題を豊富に用意した。最後に,想定される使用法や,今後の課題を述べた。
著者
林谷 啓美 鈴井 江三子
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.13-23, 2009

本稿では,不妊治療を受ける夫婦の身体的・精神的・社会的側面の問題と支援のあり方について,先行研究を基に論考した.不妊治療を受ける夫婦にとっては,治療そのものやホルモン療法による副作用や不妊治療にかかる高額な費用が,日常生活を脅かし大きなストレスとなっている.これらが関係に大きな影響を与えることが考えられる.不妊治療を受ける夫婦の心理的ストレスの実態や,ストレス対処,社会的支援については報告されるようになった.しかし,不妊治療を受けている夫婦の日常生活に焦点をあてた調査報告は見当たらない.夫婦で不妊治療を継続するためには,日常生活での役割や思いを明らかにし,看護師として今後の援助の方向性を見い出す必要がある.
著者
東海林 和雄 中村 亮介 尾崎 幸謙
出版者
日本行動計量学会
雑誌
行動計量学 (ISSN:03855481)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.123-140, 2020 (Released:2021-04-21)
参考文献数
23

The purpose of this study is construction of the prediction model to discriminate incorrect accounting information. Two features of this research are to adopt methods of detecting auditing practices and to target for analysis that the accounting information which the sales are overestimated. Specifically, unlike in previous research, we approach to detect fraudulent means without uniform accounting phenomena for each fraudulent means. Furthermore, we applied accounting distortions and discomfort auditors feel as explanatory variables. This discomfort is measured by Mahalanobis distance. In the results of this analysis, the prediction model of machine learning that is adopted practical methods that detect incorrect accounting shows a high probability of fraud.
著者
宮田 章裕 林 剛史 福井 健太郎 重野 寛 岡田 謙一
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.906-914, 2006-03-15
参考文献数
16
被引用文献数
6

我々は,思考状態および発話停止点を利用した会議の動画ダイジェスト自動生成を提案する.映像中のシーン変化やカメラワーク,テロップを利用する従来手法では,日常的な会議映像のダイジェストを生成することは困難であった.そこで,本手法では,「思考」と「発話」という情報を利用して日常的な会議映像のダイジェストを生成する.具体的には,脳波情報を利用して思考状態をMS-Levelという独自の指標で数値化し,発話停止点を利用して素材映像から単位映像への分割を行う.そして,単位映像の中からMS-Level が高いものを抽出・連結する.プロトタイプシステムを利用した評価実験では,比較システムより的確なダイジェストを生成できることを確認した.In this paper, we propose a method to summarize movies of a conference automatically by the use of participants' mental states and speech breakpoints. Currently, many research groups have developed techniques for video summarization, but these ways are not qualified for editing conference movies. To address this issue, we propose a method to summarize conference movies by the use of participants' mental states and speech breakpoints. We define MS-Level (Mental State Level) derived from one's EEGs as an indicator of mental states. Video Segmentation is conducted by detecting speech breakpoints of participants. After segmentation, high MS-Level scenes are extracted and constitute a digest movie. We ran experiments to evaluate our proposition using a prototype system, and conclude that our proposal will contribute to a better summarization of conference movies.
著者
的場 成紀 古賀 雅樹 大塚 基広 小林 一郎 平 博順
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 第33回 (2019)
巻号頁・発行日
pp.1N4J904, 2019 (Released:2019-06-01)

日本の自動車免許試験のためのソルバーを開発します。 このテストは、交通ルール、運転方法、自動車の構造、自動車に関連する物理法則に関する約100の真偽の質問で構成されています。 合格点は90%ですが、これまでのアプローチでの最高点は約65%です。 このアプローチは、テスト文と最も類似した文との間の文の類似性と、ソルバーのデータベースにあるゴールドスタンダードの回答に基づいています。 テストに合格するシステムに向けて、テストの語彙と文章スタイルを分析しました。 分析の結果、語彙は比較的少なく、100個の問題に対して約300語であり、文にはゼロ代名詞が多く含まれているため、ソルバーの精度が低くなります。 さらに、我々は以前の照応解析システムを使用して前件を解決しようとしました。 各問題は一文のみで構成され、代名詞を解決する手がかりは非常に少なく、標準的な記事よりも解決するのが難しいため、結果はシステムがテストで照応を解決できないことを示しました。 分析の結果、高性能システムでは、ドメイン固有の知識に基づいた照応解析が必要であることが明らかになりました。
著者
村林 直樹 上野 慶介 梅垣 敦紀 西村 拓士
出版者
山形大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

主偏極CM型アーベル多様体がある代数曲線のヤコビ多様体となるための必要十分条件を対応するCM体の言葉で書き下すことが本研究のテーマである。そのために、京都大学の塩田氏により証明されたKP方程式に関するNovikov予想に着目し、KP方程式と虚数乗法論の関連を探ろうというのがアイデアである。本年度の目標は、引き続きコンピューターを使ってCM体からつくられるデータ関数のフーリエ係数を高い次数まで計算し、この計算結果とこれまで文献調査を通じて学んだ4つの事:「(1)代数曲線とKP方程式の関係を論じたKricheverの理論;(2)微分方程式の知識を駆使しNovikov予想を解決した塩田の理論;(3)塩田の理論から微分方程式に関するテクニックを極力排除し幾何的な証明を試みたArbarello, Concini, Mariniの理論;(4)KP方程式の解全体が普遍グラスマン多様体を形成するという佐藤理論」を用いて、KP方程式と虚数乗法論の関連、特にKP方程式とアーベル多様体の自己準同形写像との関連に関して深く考察する事であった。この目標についてはあまり著しい結果が得られなかったが、この考察の課程で新たな二つの研究課題:「(A)CM型楕円曲線のmodularityの定義体とその応用;(B)QM型アーベル曲面の場合のclass polynomial」が見つかった。(A)に関しては、「代数体上定義されたCM型楕円曲線はある等分点の座標を添加した体まで係数拡大すると、そこ上必ずmodularとなる」という結果が得られ、現在、それをまとめた論文:「Modularity of CM elliptic curves over division fields」を、Journal of Number Theoryに投稿中である。(B)に関しては、このテーマで平成18年度の基盤研究(C)(一般)に申請中である。
著者
梅野 太輔 田代 洋平 古林 真衣子
出版者
極限環境生物学会
雑誌
極限環境微生物学会誌 (ISSN:13485474)
巻号頁・発行日
vol.7.2, no.1, pp.31-35, 2008 (Released:2011-04-18)
参考文献数
30

The growing body of research reveal that the programmed cell death (PCD) is ubiquitously distributed in microorganisms, plays key roles in developmental processes and inkeeping the integrity of bacterial communities. Inspired by this, bioengineers are making their original version of PCD devices for the temporal and/or spatial control of the bacteria communities. In this review, we discuss how PCD system should be designed and/or implemented into the bacteria to make a faithful and long-lasting &39;robots&39; for the real-world applications.
著者
鈴木 久美 大畑 美里 林 直子 府川 晃子 大坂 和可子 池口 佳子 小松 浩子
出版者
一般社団法人 日本がん看護学会
雑誌
日本がん看護学会誌 (ISSN:09146423)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.32_suzuki_20171120, 2018-01-01 (Released:2018-02-09)
参考文献数
23

要 旨 目的:本研究の目的は,乳がんおよび乳房自己検診,マンモグラフィ検診に対する健康信念を高めて行動変容を促進するために,乳がん早期発見のための乳房セルフケアを促す教育プログラムを実施し,その効果を明らかにすることとした.方法:対照群を置かない前後比較の介入研究デザインを用いた.20 歳以上で乳がん既往のない女性42 名を対象に,教育プログラムを乳がん体験者と協働のもと実施した.介入効果の検討は,定期的乳房自己検診およびマンモグラフィ検診の実施状況,日本版Champion Health Belief Model Scale(CHBMS)を用いて,介入前後で評価した.結果:対象は,平均年齢50.6 歳(SD=11.5)で,有職者が59.5%,乳腺疾患のある者が16.7%だった.定期的乳房自己検診実施率は,介入前21.4%に比べ介入後1 年で54.8%(χ2 値=9.389, p=0.002,効果量w=0.602)と有意に高かった.マンモグラフィ検診受診率でも,介入前23.8%に比べ介入後1 年で47.6%(χ2 値=8.100, p=0.004,効果量w=0.569)と有意に高かった.日本版CHBMS の「乳房自己検診の自己効力感」は,介入前後で有意差が認められ(F 値=34.080, p<0.001,効果量f=0.586),介入前よりも介入後1 カ月,6 カ月,1 年で得点が有意に高かった.また,90%以上の者が,プログラムを満足かつ有用と評価し,内容や方法も適切であると回答した.結論:本プログラムは,対象者の「乳房自己検診の自己効力感」を高め,乳房自己検診,マンモグラフィ検診への動機づけを強化し,定期的乳房自己検診実施率およびマンモグラフィ検診受診率を高める効果があることが示された.
著者
林 友超 呉 双 板東 勇樹 宇津呂 武仁
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 第31回 (2017)
巻号頁・発行日
pp.1N11in2, 2017 (Released:2018-07-30)

本論文では,人狼AIを実現するための要素技術の一つとして,ウェブ上の人狼ゲー ム「人狼BBS」のプレーログを対象として,各プレーヤーの視点で他プレーヤー の役職を絞り込む過程を,定式化する.特に本論文では,役職割り当てを更新す る過程を制約充足問題として定式化して,制約充足問題に対する汎用的なソルバー 用いて実装した.
著者
鳥羽 研二 大河内 二郎 高橋 泰 松林 公蔵 西永 正典 山田 思鶴 高橋 龍太郎 西島 令子 小林 義雄 町田 綾子 秋下 雅弘 佐々木 英忠
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.346-352, 2005-05-15 (Released:2011-03-02)
参考文献数
14
被引用文献数
29 40

【目的】転倒は, 身体的要因と環境要因によっておきるとされているが, 地域において, 環境要因と身体的要因を定量的に比較した研究は少ない. 両者を加味した転倒リスク測定表の開発を目的とする.【方法】厚生労働省研究班, 転倒ハイリスク者の早期発見のための評価方法作成ワーキンググループの会議によって過去の転倒歴と21項目の危険因子を選択し仮の「転倒スコア」とした. 1) 過去一年の転倒 2) つまずく 3) 手摺につかまない階段の昇降 4) 歩く速度が遅延 5) 横断歩道を青のうちにわたりきれない 6) 1km歩行できない 7) 片足で5秒起立できない 8) 杖の使用 9) タオルを固く絞れない 10) めまい, ふらつき 11) 円背 12) 膝痛 13) 視力低下 14) 難聴 15) 物忘れ 16) 転倒不安 17) 5種類以上の服薬 18) 屋内が暗く感じる 19) 家の中の障害物 20) 家の中の段差 21) 家の中の階段使用 22) 生活上家の近くの急な坂道歩行. 対象は全国7地域住民2,439名 (76.3±7.4歳). 検討項目は各項目の該当頻度, 項目の該当有無と転倒の相関, 過去の転倒歴を従属変数とし, 21項目を独立変数とした重回帰分析を行った. 有意な項目に関しては, ロジスティック回帰分析によってオッズ比を算出した.【結果】転倒歴は29%に認められた. 転倒スコア項目では, 物忘れ, 家に段差が60%以上, つまずく, 階段昇降に支障, 視力障害が50%を越えた. 横断歩道を青のうちにわたりきれない, 一方照明が暗い, タオルがきつく絞れないは20%未満であった. 転倒の有無による各因子の頻度の有意差を検定すると, 段差, 階段, 坂道以外のすべての項目が, 転倒者は非転倒者に比べ, 有意に「はい」と答えた率が高かった. 重回帰分析では, 独立した有意な危険因子として, つまずく (p<0.0001), めまい (p<0.0001), 家の中に障害物がある (p=0.0001), タオルがきつく絞れない (p=0.0003), 杖を使っている (p=0.0027), 膝が痛む (p=0.0362) が抽出された. この項目と横断歩道の歩行 (p=0.1) の7項目を用いて, 転倒予測を解析し,3項目以上に該当する場合に, 転倒の感度, 特異度とも良好な値を得た.【結論】内的要因と外的要因を加味した簡便な転倒危険度調査票「転倒スコア」を開発した.「転倒スコア」は, 下位項目の殆どが転倒既往者で高く, 項目選択の妥当性は高い. 段差, 階段などの環境バリアは過去の転倒の危険因子としては重要ではない. 転倒予測因子として, 7項目の短縮板の作成を試み, カットオフ値3項目該当で2/3程度の転倒の予測が可能であり「転倒スコア」の有用性が示唆された.