著者
小林 和彦 園山 繁樹 戸村 成男 柳 久子
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.93-105, 2003-09-30 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
6

本研究においては、行動分析学の枠組みとその基本的な技法を応用したベッドから車椅子へのトランスファー介助の方法を、老人保健施設に勤務する経験の浅い介護スタッフに指導し、指導効果の検証を行った。対象は、施設介護職員として勤務する女性2名で、両介護者が介助するのは脳梗塞左片麻痺で痴呆を有する78歳の女性であった。指導は机上での講義形式による行動分析の枠組み、およびそれに基づく対象者へのかかわり方に関する基本的な説明を行った後、実際場面において実践的な指導を行い、適切介助回数および身体接触時間を評価した。その結果、両介護者とも実践指導後において大幅な適切介助の増加および身体接触時間の減少が認められた。しかしながら、講義形式による説明のみではほとんど指導効果が得られなかったことから、実際場面における実践的な指導の重要性が示唆された。
著者
川端 美穂子 倉林 学 中島 弘 堀川 朋恵 鈴木 紅 本川 克彦 平尾 見三 鈴木 文男 畔上 幸司 比江嶋 一昌
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.31, no.Supplement4, pp.47-52, 1999-12-05 (Released:2013-05-24)
参考文献数
13

症例1:50歳,男性.42歳時,心房粗動(AFL)となるも放置. 動悸増悪のため入院. F l e c a i n i d e 100mg,verapamil 360mgを開始したが,排便時にwide QRS頻拍(232/分)となり失神.Common AFLに対して下大静脈・三尖弁輪間でカテーテル・アブレーションを施行し,成功.症例2:39歳,男性.36歳時発作性AFL,心房細動(Afib)を指摘されるも放置. A f i b , 心不全のため入院. 心不全は改善したが,Afibはcommon AFLに移行.Pilsicainide 150mg,verapamil 120mgの投与中,歩行時wide QRS頻拍(230/分)となり失神.カテーテル・アブレーション治療によりAFL発作および失神発作は消失した. 本2 症例では, いずれも投薬をI a 群からI c 群に変更後,それまで認められなかった失神が起こるようになり,その際,2例とも労作中1:1房室伝導性AFLからwide QRS頻拍に移行していた.このような血行動態の悪化を伴うproarrhythmiaは,AFLに対するIc群投与では,十分留意すべき点と考えられた.その予防には,心拍数上昇に拮抗する房室伝導抑制薬剤,特にβblockerの十分な投与が重要と考えられた.
著者
曽我 麻里恵 勝良 剛詞 小林 太一 髙村 真貴 黒川 亮 新美 奏恵 田中 恵子 石山 茉佑佳 林 孝文
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科放射線学会
雑誌
歯科放射線 (ISSN:03899705)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.41-46, 2022 (Released:2022-04-06)
参考文献数
14

Background and Purpose: Dental caries that arise after radiotherapy (radiation caries) can lead to reduced masticatory function caused by tooth loss and osteoradionecrosis caused by dental infections. There are two main opinions regarding the mechanism underlying radiation caries: 1) tooth fragility caused by the direct effects of radiation and 2) a reduction in the physiological effects of saliva due to hyposalivation and a worsening of oral status. However, it has not been clarified which of these mechanisms is the main cause of radiation caries. Therefore, the purpose of this study was to investigate the risk factors for radiation caries in patients who had received head and neck radiotherapy. Material and Methods: Forty patients who had received head and neck radiotherapy were enrolled. We retrospectively investigated the relationships between radiation caries and clinical parameters, such as the treated site, irradiation field, radiation dose, and oral status, for 3 years after the completion of radiotherapy. Results: The incidence rate of radiation caries was 85%. Twenty-two percent and 78% of radiation caries occurred within and outside the irradiation field, respectively. The incidence rate of radiation caries among teeth within and outside the radiation field was 41.7% and 57.7%, respectively. The occurrence of radiation caries showed a moderate positive correlation with plaque control records. On the other hand, it was not correlated with the total radiation dose, the mean radiation dose delivered to the parotid gland, or the amount of saliva. Discussion: Our results suggested that radiation caries occur both within and outside the radiation field. It is considered that the risk of radiation caries is affected more by oral status, such as poor oral hygiene, than structural changes in teeth caused by radiation. Therefore, it is important to maintain a good oral status after head and neck radiotherapy to prevent radiation caries.
著者
杉野 雅浩 藤堂 浩明 杉林 堅次
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.129, no.12, pp.1453-1458, 2009-12-01 (Released:2009-12-01)
参考文献数
14
被引用文献数
12 14

Transdermal Drug Delivery Systems (TDDS), where active drugs must be absorbed into the systemic circulation after penetrating the skin barrier, were first launched in 1979, and about 10 TDDS containing different kinds of drugs were developed during the initial decade. Interestingly, a developmental rush has come again in the present century. Various penetration-enhancing approaches to improve drug permeation of the skin (stratum corneum) have been attempted. These approaches are of two types: chemical and physical. Examples of the chemical approach are enhancers such as alcohol, monoterpenes and fatty acid esters, as well as chemical modification of prodrugs. In contrast, physical approaches include the use of electrical-, thermal- and mechanical-energy, as well as microneedles, needle-free injectors or electroporation to completely or partially evade the barrier function in the stratum corneum. The chemical approaches are mainly effective in increasing the skin permeation of low-molecular chemicals, whereas physical means are effective for these chemicals but also high-molecules like peptides, proteins and nucleotides (DNA or RNA). Marked development has been observed in these physical means in the past decade. In addition, recent developments in tissue engineering technologies enables the use of cultured skin containing keratinocytes and fibroblasts as a TDDS. An effective “cell delivery system” may be a reality in the near future. This paper will look back on the 30-year history of TDDS and evaluate the feasibility of a new generation of these systems.
著者
保谷 芳行 矢部 三男 渡部 篤史 平林 剛 佐藤 修二 岡本 友好 小村 伸朗 矢永 勝彦
出版者
日本外科系連合学会
雑誌
日本外科系連合学会誌 (ISSN:03857883)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.627-633, 2014 (Released:2015-08-31)
参考文献数
39
被引用文献数
1 2

食道癌切除後の乳糜胸は,比較的稀な合併症であるが,確立された治療法がなく,管理に難渋することが多い.従って,適切な管理ができない場合には死亡することも稀ではない.乳糜胸の一般的な原因は,手術操作による胸管損傷であるので,胸管結紮が最も確実な方法と考えられる.しかし,不必要な再手術は避けるべきであり,症例ごとに病態を把握して,適切な治療を選択することが必要である.食道癌術後の乳糜胸治療として,保存的療法,胸膜癒着療法,リピオドールを用いたリンパ管造影,放射線照射,胸膜腹膜シャント術,インターベンショナル,開胸手術,胸腔鏡下手術などが行われているが,胸管損傷の部位,程度,胸管の走行,乳糜胸水の量,患者の病態や全身状態などを考慮し,適切な治療を適切な順序で行う必要があると考える.
著者
宗林 留美
出版者
静岡大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

海洋の200m 以深、すなわち中層以深は光合成生物にとって生存に必要な光が届かないにも関わらず、本研究により駿河湾と太平洋亜熱帯域の200m〜2000m で微細な光合成生物であるピコ植物プランクトンが深度によらず一定に分布していることが明らかになった。中層以深のピコ植物プランクトンは表層から海底までの水柱全体に対して、春の駿河湾では26〜69%を占めたが、夏の駿河湾と亜熱帯では0.7〜10%に留まり、ピコ植物プランクトンが沈降粒子に付着して中層に輸送されている可能性が示された。
著者
若林 宏明 ワカバヤシ ヒロアキ
雑誌
流通経済大学流通情報学部紀要
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.119-150, 2003-03
著者
小林信明著
出版者
大修館書店
巻号頁・発行日
1959
著者
局 伸男 渕 祐一 森崎 澄江 溝腰 利男 首藤 真寿美 藤井 幹久 山田 謙吾 林 薫
出版者
Japanese Society for Food Hygiene and Safety
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.27, no.5, pp.561-564_1, 1986-10-05 (Released:2009-12-11)
参考文献数
5
被引用文献数
1

大分県内のフグ料理専門店において行われていたフグ肝臓調理方法の除毒効果について調査した. トラフグ及びカラスの有毒肝臓 (最低62MU/g, 最高1,270MU/g) 21例の調理後の毒力はすべて5MU/g未満にまで減少していた. また, 各例とも調理工程における毒性減少の傾向が類似していた. 除毒のメカニズムは, 溶出除去を主としたものと考えられるが, 加熱処理によるフグ毒の分解とその無毒化も関与しているものと推測された.
著者
東海林 明雄
出版者
公益社団法人 日本雪氷学会
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.83, no.4, pp.403-419, 2021 (Released:2022-02-16)
参考文献数
36

御神渡りは諏訪湖が有名で,20世紀初頭から研究記録があり,その成因は,氷板の熱収縮・膨張により「その隆起は氷温の上昇による,熱膨張によって起る」,つまり「氷温上昇時の昼間に起こる」とされて来た.そして,この成因論が「従来説」として一世紀に亙って踏襲されてきた.しかし,浜口は,この説が観測データによらない推論であった事に着目して,新しい成因論を提起した.その理論は,火山物理学と地震学的観点をもとにしている.それによると,御神渡りの隆起は「氷温低下時の夜間に起こる」ことになり,従来説の昼間とは逆の結果になる.本報では,これまでの屈斜路湖の御神渡りの割れ目幅の定量的観測やビデオカメラによる御神渡り発生映像記録,さらに最近の現地での観測による検証によって,夜間冷却時の氷板収縮時に開いた水面で新たな氷が生成され,昼間の氷温上昇時の氷板膨張により御神渡りは発生することを実証した.また,従来の研究は,御神渡り発現(発生)時の研究に留まっていた.本報では,一旦発現した御神渡りのその後の成長発達の観測記録を取得し,成長発達の基本プロセスを解明できたと考える.
著者
飯田 俊穂 熊谷 一宏 細萱 房枝 栗林 春奈 松澤 淑美
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.48, no.11, pp.945-954, 2008-11-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
19

動物とのふれあいが人によい効果をもたらすことは知られている.特に子ども・障害者・高齢者などによい効果をもたらすことが新聞,雑誌などで取り上げられており,不安やストレスの軽減効果が示されたとの報告や,ペットといるだけで精神状態が安定し自然治癒力が高まるなどの報告もある.そこで今回われわれは,学校不適応傾向の児童・生徒に対するアニマルセラピーの心理的効果についての分析を試みた.結果として3回以上のアニマルセラピーで,Profile of Mood States(POMS)(緊張-不安,活気,疲労,混乱),AN-EGOGRAM(NP,FC,AC)に有意な変化を認めた.POMS(抑うつ-落ち込み,怒り・敵意)の値は低下,AN-EGOGRAM(CP,A)の値は上昇したものの有意差は認めなかった.以上のことより,アニマルセラピーを3回以上施行した症例に対し,心理状態(緊張-不安,活気,疲労,混乱)の改善,自我状態の安定傾向を認めた.
著者
林 あつみ 清水 真澄 七戸 和博 長谷場 健 木元 幸一
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.49, no.6, pp.321-329, 1996 (Released:2010-02-22)
参考文献数
30

スナネズミの肝と胃における各クラスのADHアイソザイムの存在ならびにそれら組織におけるADH活性をマウス, ラット, モルモット等の超歯類と比較検討した。スナネズミは, 肝においては, 電気泳動により3本のADHバンド (A, B, C) が検出された。陰極側のバンドAは低濃度エタノールを基質とした場合に濃く染色され, 4-methylpyrazoleで強く阻害されたことから, クラスIと同定された。陽極側のバンドCはヘキセノールに対して強い活性を示し, エタノールを基質とした場合2.5Mまで活性が飽和せず, 4-methylpyrazoleにより阻害されないことより, クラスIIIと同定された。クラスとクラスIIIの間にみられたバンドBは, 肝に存在することおよびIとIIIの中間の酵素的性質を有することより, クラスIIと同定された。胃においても2本のバンド (D, E) が検出された。陰極側のバンドDは, 胃に特異的であること, エタノール1Mで最大活性を示したこと, また4-methylpyrazoleによる阻害感受性が肝のクラスI ADHより低いことより, クラスIVと同定された。陽極側のバンドEは肝のバンドCと同様の基質特異性および4-methylpyrazoleによる阻害感受性および移動度より, クラスIIIと同定された。以上のように, スナネズミのADHアイソザイムシステムは他の齧歯類と同様であった。スナネズミの肝におけるADH活性は, マウスやラットと同様, 15mMエタノールおよび5mMヘキセノールのいずれの基質でもモルモットより有意に高かった。一方, スナネズミの胃ADH活性はいずれの基質でもモルモットと同様, マウスおよびラットに比べ著しく低かった。また, 肝ADHはいずれの種においても, 15mM以上のエタノール濃度では活性の低下がみられたが, 胃ADH活性はマウスやラットにおいては逆に上昇し, 0.25M以上になると逆転し, 肝の活性より高くなった。このことは, 胃が摂取された高濃度のアルコールを代謝する場として重要であると考えられた。一方, スナネズミおよびモルモットにおける胃ADH活性は, 高濃度エタノールでも有意な活性の上昇はみられず, 低値のままであった。したがって, これらの動物種のアルコール代謝における胃の役割は小さいと考えられた。さらに, 動物種間における各ADHアイソザイム活性の相違は, とくに胃ADHのヘキセノールに対する活性で著しく, 各動物種の食性との関連が示唆された。
著者
山神 彰 山田 武宏 北川 善政 大廣 洋一 佐藤 淳 石黒 信久 今井 俊吾 小林 正紀 井関 健
出版者
一般社団法人日本医療薬学会
雑誌
医療薬学 (ISSN:1346342X)
巻号頁・発行日
vol.45, no.5, pp.254-261, 2019-05-10 (Released:2020-05-10)
参考文献数
20
被引用文献数
2 4

Third-generation oral cephalosporins are broad-spectrum antimicrobial agents and constitute one of the most used antibiotic classes in Japan. In the “National Action Plan on Antimicrobial Resistance (AMR),” the Japanese government declared implementation of efforts to reduce the use of oral cephalosporins by 50% by 2020, compared to 2013. Antimicrobial resistance generally occurs due to inappropriate use or low-dosage exposure to antibiotic agents. Therefore, the choice of appropriate antibiotics is essential for implementing antimicrobial stewardship. To evaluate the prophylactic effects of antibiotics in impacted mandibular third molar surgery, we compared the rate of surgical site infection (SSI) in patients who were administered cefcapene-pivoxil (CFPN-PI) orally with that in patients who received amoxicillin (AMPC) orally. We conducted a retrospective study by reviewing the medical charts of patients from Hokkaido University Hospital from April 2016 to March 2017. The patients evaluated were classified into two groups: the AMPC group (n = 164) and the CFPN-PI group (n = 129). The SSI ratio of the CFPN-PI group was significantly higher than that of the AMPC group (CFPN-PI group, 11.6% (15/129); AMPC group, 2.4% (4/164); P = 0.002). Multivariate logistic regression analysis demonstrated that “use of CFPN-PI for prophylactic treatment” and “hospitalization after surgery” were independent factors related to the onset of SSI following impacted mandibular third molar surgery. These results demonstrated that AMPC was more effective than CFPN-PI in the prevention of SSI after impacted mandibular third molar surgery, and its regulated dosage can effectively contribute to the optimal use of antimicrobial prophylactic treatment.
著者
林 叢
出版者
日本比較文学会
雑誌
比較文学 (ISSN:04408039)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.77-90, 1995-03-31 (Released:2017-06-17)

Prior to or following the writing of Yaso (『野草』Wild Grass), Lu Xun took an interest in Hakuson Kuriyagawa and translated his Kumon no Shocho (『苦悶の象徴』 Symbol of Anguish) and Zoge no Towo Dete (『象牙の塔を出て』 Leaving the Ivory Tower). Through these translations Lu Xun came to agree with Hakuson's view of literature and absorbed it on his own terms. This point is clear in the criticisms, essays, and prefaces which he wrote at this time. We can see the influence of Hakuson’s literature and theory of dreams on the style and technique used in Yaso. Furthermore, Hakuson’s criticism of Soseki must have attracted the attention of Lu Xun who also had an interest in Soseki. When we think about the connection between Yaso and Soseki’s Yume Juya (『夢十夜』 Ten Nights’ Dreams), it can be seen that Hakuson’s criticism of Soseki was an inspiring intermediary for the author. In this paper I will illustrate two points: Lu Xun’s view of Hakuson and his interest in Soseki via Hakuson. For this purpose, I will employ an analysis of the translations of Kumon no Shocho and Zoge no To wo Dete, the prefaces and afterwords of these translations, papers written at this time, Yaso, and so forth.
著者
赤岩 友紀 林 芙美 坂口 景子 武見 ゆかり
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.3-16, 2022-01-15 (Released:2022-01-28)
参考文献数
32
被引用文献数
2

目的 新型コロナウイルス感染症(以下,コロナ)流行下における世帯収入の変化の有無別に,コロナ前から緊急事態宣言期間中にかけての食行動の変化,緊急事態宣言期間中の食物へのアクセスの課題および食情報のニーズとの関連を明らかにすることを目的とした。方法 2020年7月1~3日,13の特定警戒都道府県在住20~69歳男女を対象に,無記名のWeb調査を実施した。目標回答者数を2,000人とし,2020年2月より前(以下,コロナ前)から2020年4~5月の緊急事態宣言期間中にかけての食行動の変化と,緊急事態宣言期間中の食物へのアクセスの課題,食情報のニーズを尋ねた。有効回答者2,299人のうち,学生を除いた2,225人を解析対象とした。コロナによる世帯収入の変化別に3群(減少,変化なし,増加)に分け,対象者特性,食行動の変化等についてクロス集計を行った。また,世帯収入の変化を独立変数,食行動の変化,食物へのアクセスの課題,食情報のニーズを従属変数とし,属性を調整した多重ロジスティック回帰分析を行い,減少群の特徴を把握した。さらに,世帯収入の変化にコロナ前の経済的な暮らし向きを加えた6群に分けて,変化なし群/ゆとりありを参照群として同様に解析を行った。結果 減少群は34.6%,変化なし群は63.9%,増加群は1.6%であった。減少群はパート・アルバイト,自営業の者が多く,緊急事態宣言期間中に休職していた者が多かった。属性を調整後,減少群は変化なし群に比べて,外食頻度は「減った」,調理頻度,中食頻度,子どもとの共食頻度は「増えた」オッズ比が有意に高かった。コロナ前の経済的な暮らし向きにかかわらず,減少群の全てで,欠品による入手制限,価格が高いことによる入手制限,店内混雑による買い物の不自由が「よくあった」オッズ比が変化なし群/ゆとりありに比べ有意に高かった。また,減少群/ゆとりなしは変化なし群/ゆとりありに比べ,食費の節約方法等を必要としていた。結論 コロナ禍で世帯収入が減少した者は,緊急事態宣言期間中に食物へのアクセスに課題を感じていた者が多く,食情報ではとくに食費の節約方法のニーズが高かった。また,減少群は変化なし群に比べて外食頻度が減少した一方で,調理頻度,中食頻度の増加がみられた。こうした食行動の変化により,食物摂取状況が望ましい方向と望ましくない方向のどちらに変化したか,さらなる検討が必要である。