著者
堀内 孜 大林 正史 田中 真秀 浅田 昇平 国祐 道広
出版者
京都教育大学
雑誌
京都教育大学紀要 (ISSN:03877833)
巻号頁・発行日
vol.115, pp.81-98, 2009-09

本研究は,「少人数教育」としての「複数担任制」について参与観察調査とその児童・保護者への質問紙調査,そして担任教員に対するインタヴュー調査からその意義と効果を明らかにすることを目的としている。調査結果の分析から,次に示す知見が得られた。①副担任教員の存在は,何よりも児童の多面的なケアに効果が認められ,とりわけ事例学級たる1 年生にとっては必ず教室に教員がいる状況に意味がある。②授業展開において,副担任教員は個別指導や机間巡視等,補助教員としての機能を有効に果たしており,1 年生の学習習慣の定着に大きな効果が認められた。③個々の児童へのケアや教科指導だけではなく,採点やノート点検等の教務事務,また教材準備や教室整備等の役割を分担し,広く学級経営の改善に役立っている。本論は加えて「少人数学級」と「複数担任学級」の比較も含めて,少人数教育を費用効果の点からも検討し,今後の政策設定の在り方を示唆した。This study aims to examine the significance and effects of two teachers' class as a part of system of 'Education with the low student to teacher ratio'. Through participatory field work, questionnaires to children and their parents, and interviews to classroom teachers, the following findings were gained. i) The effect of the second classroom teacher is remarkable to take care of children in many matters. In particular, it is meaningful that any teacher can always stay in a classroom for 1^<st> grade children. ii) The second classroom teacher can play the role of an assistant teacher effectively in personal instruction and circulating among children. Therefore it can be recognized that this system has much effect to establish study habit among 1^<st> grade children. iii) Two teachers share the role of not only care of children and subjects teaching but also some other office work like marking, checking notebooks, preparing teaching matters and classroom maintenance. It makes for the improvement of class management. This paper also examines the significance and effects of education with the low student to teacher ratio with the comparison between small class and two teachers class from the viewpoint of cost benefit. And it suggests how to set up future policy on this matter.
著者
堀内 孜 大林 正史 田中 真秀 浅田 昇平 国祐 道広
出版者
京都教育大学
雑誌
京都教育大学紀要 (ISSN:03877833)
巻号頁・発行日
vol.115, pp.63-80, 2009-09

本研究は,「少人数教育」としての「少人数学級」について,3 つの調査からその意義と効果を明らかにすることを目的としている。この調査は,小学校4 年の35 人以上の3 クラスと25 人以下の3 クラスを対象とする参与観察調査とその児童・保護者への質問紙調査,そして担任教員に対するインタヴュー調査である。調査結果の分析から,次に示す知見が得られた。①学級担任教員の教務事務等における忙しさは,学級の児童数に比例している。②だが中堅教員にとっては,10 人程度の児童数の差はその指導方法を変えることによって対応可能であり,多人数学級で指導が困難と認識されていない。③児童・保護者への質問紙調査からは,多人数学級の方が授業理解度や学校生活の満足度において高く評価されている。これらから,教員の職務内容の充実度においては「少人数学級」の意義や効果は認められつつも,その設定は学校裁量に委ねられることの必要性が示唆された。This study aims to examine the significance and effects of small size class as one system of 'Education with the low student to teacher ratio' by three kinds of researches. These researches were done in three classes with more than 35 children and another three classes with less than 25 children of 3^<rd> grade of primary schools. These researches are participatory field work, questionnaires to children and their parents, and interview of classroom teachers. The following findings were gained by the analysis of these researches. i) Busy condition of classroom teacher is in proportion to the number of children of the class. ii) It is possible for the middle aged teachers to change the teaching methods according to the class size within around 10 children gap. And they understand that it is not difficult to teach children in a big class. iii) Big classes are evaluated higher than small classes in the understanding of lesson and the satisfaction of school life by children and parents in questionnaire. Therefore the significance and effects of small class are recognized for the improvement of teachers working and it is suggested that the school autonomy to decide the class size is necessary.
著者
田中 晋 大高 明史 西野 麻知子
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.167-179, 2004-12-20 (Released:2009-12-11)
参考文献数
44
被引用文献数
2 6

2001年8,月から2002年8,月にかけて,琵琶湖沿岸帯4カ所と周辺の20内湖からミジンコ類を採集して得た34サンプルを検鏡した結果,7科23属39種のミジンコ類を検出した。採集場所がいずれも水草帯であったため,採集された種の半数以上はマルミジンコ科に分類される種であった。多くの地点で採集され,個体数も多かった種はCamptocercus rectirostris, Ilyocryptus spinifer, Scapholeberis kingi, Simocephalus miztus, Simocephalus serrulatus, Bosmina longirostris, Chydorus sphaericusなどで,これらの種が琵琶湖沿岸帯と周辺内湖を代表する種であると言える。内湖のミジンコ相に共通した特徴はみられず,また琵琶湖沿岸帯と内湖の間にもミジンコ相の明らかな相違はみられなかった。しかし,内湖に出現した種数の合計は32種で,琵琶湖沿岸帯に出現した24種よりも多く,総体としての内湖におけるミジンコ相の豊かさを表しているといえる。ここで得た記録と過去の記録を合わせ,琵琶湖および内湖のミジンコ相について考察した。
著者
冨士 薫 武田 節夫 田中 圭
出版者
京都大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1994

イチイ科植物から単離されるタキソ-ルは乳癌、卵巣癌等に対して強い抗腫瘍活性を持つことと作用機序の特異性の両面から今日最も注目されている天然由来の抗癌剤の一つで、1990年代の抗癌剤と称されている。本研究では新規タキソ-ル類似構造(タキソイド)を有する抗癌活性物質の開発を目的とし、各種中国産イチイ科植物につき成分研究を行ない、新骨格を持つリ-ド化合物の発見と活性物質への化学変換が可能なタキソイドの検索を行なった。Taxus chinensis, Taxus Yunnansis並びにTaxus chinensis ver. maireiからそれぞれタキソ-ルを含む既知ジテルペン16種と共に、20種以上の新ジテルペン化合物の単離に成功し、そのうち16種の新化合物の立体をも含めた構造解明に成功した。この精密構造解明には、2次元核磁気共鳴法が効果的で特に遠隔^<13>C-^1H COSY法(ROESY)により各種の置換基の結合位置を決定することができた。これらの新ジテルペンは従来型のタキソイド4種、6/8/6のタキソイド転位体といえる5/7/6系新骨格ジテルペン12種であった。後者の型のジテルペノイドの大部分は溶液中で室温下数種の立体配座の混合物として存在し、それらの詳細な溶液中での立体配座を明かにした。尚、その存在比はテルペンのB及びC環上の置換基の有無、種類、位置により種々変化する。新化合物のtubulinに対する活性については残念ながら現在のところタキソ-ルに匹敵する活性は認められていない。抗癌活性物質開発のための化学変換に必要な上記5/7/6型を含む化合物の量的確保と、それらへの抗癌活性に必須とされるC13位側鎖の導入、並びに活性試験を行なう予定である。また、活性配座解析と計算化学データに基づく人工設計タキソ-ル系抗癌剤の開発については現在なお進行中であり、今後継続していく予定である。
著者
松藤 敏彦 田中 信寿 松尾 孝之
出版者
Japan Society of Material Cycles and Waste Management
雑誌
廃棄物学会論文誌 (ISSN:18831648)
巻号頁・発行日
vol.5, no.4, pp.133-141, 1994

家庭ごみの発生特性を明らかにするため, 札幌市内の3家族をモニターとするごみの計量調査を9年間行った。各モニターは, 排出するごみを, 厨芥, 紙くず類, プラスチック, 金属, ガラスに分けて毎日計量し, 資源回収するもの, 粗大ごみは対象としていない。<BR>厨芥, 紙くず類の排出量は, それぞれ正規分布, 対数正規分布にしたがい, 分布の代表値としてはメジアンが適当である。両者の経年変化は, 紙おむつの使用, 家族人数の変化, 年齢の変化によってほぼ説明できた。また, 季節変動パターンにはモニターごとの特徴が見られるが, 夏の厨芥, 年末, 年度末の紙くず類の増加が, 市全体のごみ量の季節変動の原因と考えられる。曜日変動には, 家庭ごとに固有な一週間の生活パターンが表われている。一方, プラスチック, 金属, ガラスは排出されない日も多く, 対数正規的な排出分布を示す。モニター間の排出量の違いは厨芥が最も大きく, 生活スタイルの差を反映している。
著者
柳本 清 田中 千景 長谷川 隆明
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. TM, テレコミュニケーションマネジメント (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.107, no.135, pp.67-72, 2007-07-05

Webアプリケーションシステムにおいて強固なセキュリティを確保するためには,ネットワーク通信及びデータベースに対する盗聴などに対して暗号化対策を実施することが不可欠である.本稿では,クライアントとWebアプリケーションサーバ間の通信及びデータベースに保存する情報に対して,クライアントで暗号化が必要な個人情報等に該当する項目に絞り込んで暗号処理を行うことにより,セキュリティレベルを維持しながら暗号処理パフォーマンスを向上させる方法を提案する.既存の暗号化方式と比較して暗号処理パフォーマンスが向上することを証明しその提案方式の有効性を示す.
著者
船生 望 小川 誠 内藤 明 田中 益男 大野 信
出版者
社団法人 日本写真学会
雑誌
日本写真学会誌 (ISSN:03695662)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.152-159, 2005-04-25 (Released:2011-08-11)
参考文献数
3

著者らは, デジタル写真システムの階調特性を直接, 電子的に評価する研究を行っている.本報では, 明るい被写体をデジタルカメラ (DSC) で撮影し, PCディスプレイ画面やプリンタで再現した画像における階調特性に対するカメラの影響をD-CTS (Digital Camera-through Sensitometry) で検討した結果を記す.石膏の円錐体を明るく照明してカメラ撮影して得た所謂ハイキー調なデジタル写真画像の階調性にもDSC機種の階調に対する依存性が現れた. そこで, その状況をD-CTSにて検討するために, 前報において用いた明度リニアステップチャートを, 明るい領域のみに限定した明度域の分割チャートを制作した. そのチャートを用いたD-CTSにおいてPC画面上で測色するSoftcopy Evaluationによると, 明るい階調においてのDSC機種の階調に対する依存性がはっきりと現れた. 一方, 従来からの等濃度ステップのGray Scaleチャートを用いたCTSによるDensitometryでは, DSC機種の階調に対する依存性は顕著ではなかった. 検討の結果, 明度の領域を明るい領域に限定した等明度ステップチャートは, 明るい被写体に対するDSC毎の階調再現性を評価するのに適するD-CTSのターゲットとなることがわかった.

1 0 0 0 OA 東洋社会党考

著者
田中惣五郎 著
出版者
一元社
巻号頁・発行日
1930
著者
田中 佐千子
出版者
独立行政法人防災科学技術研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

平成16年度は,観測された地震データから地球潮汐による地震トリガー作用の特徴およびその発現条件を明らかにすることを目的とし,統計的手法に基づいて以下の3つの研究を行った.1.日本周辺の地震データについて,地震発生時刻における潮汐応力の圧縮軸方位に着目し,地球潮汐と地震発生の関係を調査した.その結果,両者の間に有意な相関が認められる領域が存在することを発見した.それらの領域について,地震発生が集中する潮汐応力の圧縮軸方位の抽出を試みた.抽出した方位を震源メカニズム解から推定されるテクトニック応力の方位と比較・検討し,地球潮汐による応力変化がその領域内で支配的な応力場を増大させる方向に働く際に地震がトリガーされる可能性を示した[Tanaka et al.,2004].2.全世界で発生した浅発逆断層型地震について,地球潮汐によって断層に加わる応力変化の振幅に注目し,地球潮汐と地震発生の関係を調査した.その結果,加わる応力変化の振幅が大きいほど両者の間に強い相関が認められることが明らかとなった.地震発生は地球潮汐による応力変化が断層のすべりを促進する位相付近に集中する.これらの特徴は,地球潮汐による応力変化が地震発生に無視できない影響を与えていることを強く示唆している[Cochran et al.,2004].3.全世界のプレート沈み込み境界で発生した大地震11個について,その震源域近傍における地球潮汐と地震発生の関係を調査した.その結果,調査した11例中6例で,本震の発生に先立つ数年間に顕著な相関が現れていたことが明らかとなった.本震発生後,両者の相関は消滅した.高い相関が認められた本震発生前の期間では,地球潮汐による応力変化が断層のすべりを促進する位相付近に地震発生が集中しており,地球潮汐による地震トリガー作用の観測が大地震に至る応力蓄積過程の監視に有効である可能性が示された[AGU Fall Meeting 2004で発表].
著者
田中 英道 松尾 大 野家 啓一 吉田 忠 鈴木 善三 岩田 靖夫
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1993

芸術の問題を狭い範囲でとりあつかわれるのを避け、広義な意味での「形象」という概念でとりあげ、そこで他のジヤンルの表現形態との関連をさぐってきた。Formという言葉は哲学、生理学、言語学などでも使われるが、19世紀末から精神科学の領域にも適用されている。それはデイルタイの形象学的解釈学であり、それは世界観に諸々の類型があり、その形成の合法則性を認識しなければならないとするものである。またゲシユタルト心理学においては、目に直接与えられた形象がそれ以上還応できない事実であるとする。さらにフッサールの現象学は、彼が「根本現象」と呼ぶ本質的な現象を把握を目指すものであった。カッシラ-の「象徴形式の哲学」では、カント的な「慣性」や「感性」と区別しその新たなる総合を目指したのであった。又「構造主義」においても、構造を形象学的にとらえている。この流れはプラトンのイデア論のようにまず「神」とか「イデア」といった背景の観念から発し、それが「形相」としてアリストテレスが述べるような4つの因果性(質料、形相、運動、目的)からなるものとする。伝統的な概念と対立するものである。あるいは近代的なプラトン批判の系列に属する。イデアだけが本来実在するものであるとするのに対し、形象だけが本来実在し、そこから観念、が生まれる、というものである。われわれの研究成果はこのように西洋のプラトンから発する観念的な立場と反対の、物象そのものを「形象」としてとらえる立場の中から、さらに実践的に芸術作品そものの分析を通してその実相を明らかにするものである。研究代表者は美術作品を通して、そこから解釈できるさまざまな思想-イデアを抽出した。とくにミケランジエロ、レオナルド・ダ・ヴィンチなどの芸術作品はまさに「形象学」の対象として深い考察を行なった。又各分担者はそれぞれの分野から以上の方法論的な意識をもって考察を行なっている。
著者
松原 仁 田中 久美子 Frank Ian 田所 諭
出版者
The Japanese Society for Artificial Intelligence
雑誌
人工知能学会論文誌 = Transactions of the Japanese Society for Artificial Intelligence : AI (ISSN:13460714)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.177-180, 2002-11-01
被引用文献数
4 2

We address the problem of information flow in disaster relief scenarios by presenting an architecture for generating natural language dialogue between large numbers of agents. This architecture is the first step towards real-time support systems for relief workers and their controllers. Our work demonstrates how natural generation techniques from the MIKE commentary system for RoboCup soccer can be carried over to that of RoboCup Rescue. Thanks to this background, the initial product of our research is a system that explains a RoboCup Rescue simulation not to the agents in the domain themselves but to a watching audience. This "commentary" is produced by recreating the actual dialogues most likely be occurring in the domain: walkie-talkie-conversations.
著者
田中 久夫
出版者
神戸女子大学民俗学会
雑誌
久里
巻号頁・発行日
no.13, pp.1-18, 2003-06
著者
豊田 泰弘 中山 厚子 藤原 秀一 真 和弘 松尾 吉郎 田中 博之 高鳥毛 敏雄 磯 博康
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.247-253, 2008

<b>目的</b> 地域の救急活動記録を元に自殺企図者(自殺未遂者・自殺死亡者)の特徴を分析し,今後の自殺対策に資することを目的とした。<br/><b>方法</b> 2004年 4 月から2006年 3 月までの岸和田市消防本部の救急活動記録より,246例(延べ人数)・196人(実人数)の自殺企図者(自殺未遂者・自殺死亡者)を把握した。これらにつき,性,年齢,調査期間内の自殺企図回数,企図手段,月,曜日,救急覚知時刻(救急隊に連絡のあった時刻)について集計解析した。<br/><b>結果</b> 196人の自殺企図者のうち,自殺死亡者は52人(男性32人,女性20人),自殺未遂者は144人(男性32人,女性112人)であり,2 回以上にわたって自殺企図を繰り返した実人数は29人(男性 3 人,女性26人)であった。<br/> 男性の自殺死亡者は40歳代から70歳代の中高年に多く,女性の自殺死亡者は40歳代に多かった。男性の自殺未遂者には30歳代になだらかなピークがあり,女性の自殺未遂者は20歳代から40歳代の比較的若年者に急峻なピークがあった。<br/> 自殺死亡者の主たる手段は男性では縊頸,ガス,女性では縊頸,飛び降り・飛び込みであった。自殺未遂者の主たる手段は男女ともに服薬,四肢切創であった。<br/> 月については,男性の自殺死亡者は 4 月から 6 月に多く,女性の自殺死亡者は11月に多かった。男性の自殺未遂者は 7 月,8 月,9 月に多く,女性の自殺未遂者は 1 月,8 月,9 月に多かった。<br/> 曜日については,男性の自殺死亡者は月曜,水曜が多く,女性の自殺死亡者は日曜が多かった。男性の自殺未遂者は金曜が多く,女性の自殺未遂者は月曜と火曜に著明なピークがあった。<br/> 覚知時刻については,自殺死亡者は男女とも夕方から夜半に少なく,未明から日中に多かった。男性の自殺未遂者は午前日中と夕方に多かった。女性の自殺未遂者は午前日中にきわだって少なかった。<br/><b>結論</b> 救急車が出動する自殺企図者の大部分は女性の自殺未遂者であった。女性の自殺未遂者は男性に比べて若年者に多く,自殺企図を頻回に繰り返すという特徴があり,これらを考慮した対策がのぞまれる。
著者
田中 豊
出版者
The Geodetic Society of Japan
雑誌
測地学会誌 (ISSN:00380830)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.73-85, 1985

地震予知の基礎的研究として,1978年以来大学,国立防災科学技術センター,地質調査所は,応力解放法,水圧破壊法,その他新開発された方法により応力測定を実施してきた.1984年中期までには地下開発設計や地熱開発計画に際し実施された測定を含めて50余地点の測定結果が報告された. これらの測定成果を概括し,方法,條件,地域を異にする測定値を比較し,現時点での応力測定の有意性を検討しておく必要がある.理論的厳密な補正は今後の研究を待つこととし,比較のため簡便なデータ処理を施し,応力測定成果を概観することにした. 1)水平最大応力方向は平均的にはテクトニツクな応力状態を十分反映していると思われる. 2)応力深度勾配は各地でそれぞれ異なる.応力解放法では限定地域内で西日本の標準応力深度勾配を求め,これと水圧破壊法による勾配と比較した.平均水平応力,水平せん断応力に関しては,西日本の深度勾配は水圧破壊法により東日本各地で得られた値のほぼ平均を示し,深度勾配の比較は,地下の応力状態を推定し,応力区を類別するために有用と思われる.3)応力深度勾配を用い,各深度の測定値を標準深度(今回300m)の応力値に換算し,水平主応力の地域分布図を画いた.これは応力区の広がり7活断層との関連,局地的異常など壷調べる上で有効と思われる.4)極浅発地震の発震機構から中間主応力軸は必ずしも鉛直ではないことが知られている.上部地殻の応力状態を明解に.示すたあ,3次元応力測定で得られた最大せん断応力面をステレオ投影した.これは地形影響の判定と同時に,活断層地域の局所的応力状態の推定にも役立つ. 以上のように各種の応力測定は十分地震予知の基礎研究として成果をあげつつあるが,応力変化を求めるにはまだ精度が不足であり精度向上と同時に,各種條件下の多数の測定資料がなお必要である.