著者
藤井 知昭 陳 興賢 高 立士 馬場 雄司 塚田 誠之 鈴木 道子 高橋 昭弘 樋口 昭 GAO Lishi LIANG Youshou 陣 興賢
出版者
国立民族学博物館
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1991

1.当調査の目的と課題について文部省科学研究費補金によって行なわれた昭和61年度の「インド東北部・ブータン民族音楽学術調査」および平成2年度の「ブータン民族音楽学術調査」に続き,チベット・ビルマ語系諸族を中心とした,いわゆる照葉樹林文化圏を軸とする音楽文化に焦点をあてることを目的としている。この目的の為,当調査では,中国雲南省及びこの地域と民族分布を共通させるタイ北部をその対象とした。過去10年間にわたって,クロスカルチュラルな視点からパキスタン北部よりブータンに及ぶ大ヒマラヤ圏における音楽文化の調査を継続し,音楽人類学の方法論によって,諸民族の文化的アイデンティティー,文化変容,動態等についてのデータを蓄積してきた。今回の調査は,この従来の調査による蓄積との比較研究をも目的とし,諸民族に伝承される音楽文化に関する情報とデータの充実化によって,音楽の伝播と変容の課題に新たな展開をもたらそうとするものである。2.新たに集積されたデータについて北部タイにおいては,チェンマイ近郊のリス族の村落と,チェンライ県に分布するアカ族のいくつかの村落を中心に,調査を行った。特にアカ族については,メーサロン地区の数ヵ村について,それぞれ楽器,舞踊,歌の特徴を押さえると共に,チェンライ県メースアイ郡のアカ族のブランコ祭りの全容を,記録することができた。タイ国内のアカ族は,ウロ,ロミ,パミの3集団に分かれるが,これら集団の差異の概要を押さえると共に,今回は,中でもウロアカの持つ音楽文化の実態を明らかにすることができた。当初,北部タイ山地に分布する,チベット・ビルマ語系の民族のうち,カレン族,リス族,アカ族に焦点を定めていたが,アカ族特有のブランコ祭りの調査が中心となった為,得られたデータは,アス族のものが中心となった。しかし,従来の調査によって得られた中国雲南省に居住する同じ系統のハニ族の文化との共通性および,変容に関する比較を通して,アカ族の民族音楽研究上多くの成果をあげることができた。3.成果の意義と今後への展望研究分担者は,それぞれ専門をする分野が民族音楽,比較文学(フォークロア),歴史と儀礼および芸能文化というように学際的であるため,フィールドで集積されたデータも,多面的に分析され,それぞれの分野での解明に利することとなった。民族音楽の分野では主としてタイ北部のアカ族の二大年中行事に一つブランコ祭の詳細なデータとアカ族の歌謡の概念とかなりの量の歌詞の採集を行うことができた。また,中国に関しても引き続き,イ語系,チベット・ビルマ語系語族の口頭伝承の語り物,及び婚礼習俗に関わる歌謡のデータを蓄積した。今回の調査で中国雲南省から移動したタイ北部山地に居住するアカ族が故地の文化を伝えている点が明らかとなり,これによって今後雲南省の比較研究を進展させる上で具体的な足がかりを得たといえる。また,これらの成果は,現地研究者との協力のもとで進められ,平成4年度は,この協力体制に基づいて,現地研究者を日本に招き,調査結果を共同で研究することが実現し,本格的な共同研究が緒についた。次回の調査として当調査隊はタイ北部及び中国西南部の両地域に加えてラオスを調査対象とし,東アジアから東南アジアに分布する諸民族の音楽文化の動態に関する調査を計画している。中国西南部を再度調査するのは,更にデータを蓄積充実するためであり,また,今回の調査で確立した現地研究者との学関交流を更に発展定着させるためである。更にラオスを対象地域に加えることにより,アカ族等中国から移動した諸部族に関する比較研究が一層充実し,多彩な成果を期待でき,ひいては中国西南部と東南アジア地域とのかかわりをもクリアーにすることが可能と考えられる。これらの調査を通じ,当プロジェクトは主としてヒマラヤ方面で行ってきた,「照葉樹林文化圏」の諸民族の音楽文化に関するデータ蓄積を,中国・東南アジア方面から充実させ得るて考えられる。
著者
高橋 洋 中山 耕至 竹下 直彦 武島 弘彦 橋口 康之 田上 英明
出版者
国立研究開発法人水産研究・教育機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

種内の遺伝的多様性は種の存続に不可欠と考えられている。本研究は,その遺伝的多様性が脊椎動物中最も低いレベルであるにもかかわらず,長期間絶滅せずに存続してきた魚類の一種“アカメ”のゲノム分析を行った。ゲノムデータからもアカメの遺伝的多様性が現時点でゲノムが解読されている脊椎動物の中で最も低いことが示されたが,一部の領域が高いヘテロ接合度を示すことが明らかになり,選択圧によって一部の領域に遺伝的多様性が維持されている可能性が示唆された。
著者
持田 誠 片桐 浩司 高橋 英樹
出版者
日本植物分類学会
雑誌
分類 (ISSN:13466852)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.41-48, 2004-02-29 (Released:2017-03-25)
参考文献数
30

Although all recent Japanese floras had recognized Potamogton cristatus Regel et Maack as a species distributed in Honshu and Kyushu but not in Hokkaido, we found this species in Kamihoromui, Iwamizawa city of central Hokkaido in 2000. A careful reexamination of early floristic reports and herbarium specimens clarified that P. cristatus was once collected at Sapporo city of central Hokkaido by Dr. K. Miyabe in 1901 and its presence in Hokkaido was reported by Miyabe and Kudo (1931). Thus, the present report is a rediscovery of P. cristatus in Hokkaido after about a century. Other previous floristic reports which admitted the presence of this species in Hokkaido, were not based on any reliable herbarium specimens.
著者
高橋 秀行 長井 今日子 飯田 英基 登坂 雅彦 安岡 義人 古屋 信彦
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.107-112, 2011 (Released:2012-12-28)
参考文献数
14

今回我々は,反復性髄膜炎に 3 回罹患した内耳奇形症例を経験したので報告する。症例は 3 歳女児,側頭骨 CT にて両側の内耳奇形を認め,聴力検査にて両側感音難聴を認めた。右鼓膜穿刺にて糖陽性の液体を認め耳性髄液漏と考えられたため,これを遮断する目的で試験的鼓室開放術を施行した。髄液圧をコントロールするため,手術に先立ち腰椎穿刺による髄液ドレナージを施行した。アブミ骨底板は欠損し膜性組織で閉鎖していた。その他の耳小骨に奇形は認めなかった。アブミ骨上部構造を除去すると大量の髄液噴出(gusher)を認めたため,追加の髄液ドレナージ・マンニトール点滴を行ったうえで,卵円窓へ側頭筋膜を十分に充填しフィブリン糊で補強した。術後12カ月の時点で再発を認めず,経過良好である。
著者
安藤 直人 花北 順哉 高橋 敏行 深尾 繁治 北浜 義博 南 学
出版者
一般社団法人日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.11, pp.852-857, 2007-11-20 (Released:2017-06-02)
参考文献数
32

当センターにて約3年半の期間に外科的治療を行った腰部脊柱管狭窄症男性症例206例中4例で勃起症状がみられた.4症例とも歩行に伴う勃起であり,馬尾型の症状を呈し,陰部のシビレを伴うことが特徴的と思われた.腰部脊柱管狭窄症では,歩行時には静脈還流障害に伴い馬尾神経が阻血状態となり,感覚入力系神経に異常な興奮性を生じ,それがシビレなどの過剰な症状を惹起しながら,仙髄勃起中枢に興奮性の入力となりうると推測される.したがって,腰部脊柱管狭窄症での歩行誘発性勃起は,synapticな反射性勃起とする仮説が有力であると考察した.
著者
八並 光信 渡辺 進 上迫 道代 小宮山 一樹 高橋 友理子 石川 愛子 里宇 明元 森 毅彦 近藤 咲子
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.267-272, 2005 (Released:2006-02-14)
参考文献数
17
被引用文献数
1

本研究の目的は,無菌室という閉鎖環境で治療を要する造血幹細胞移植患者に対して,運動耐容能と移植前後の下肢伸展筋力(変化率)の関連性について検討することである。対象は,造血幹細胞移植を受け,移植前後で運動負荷テストを施行できた40名である。なお,無菌室内の訓練は,主に柔軟体操と立位での筋力強化を行った。移植前の運動負荷テストの完遂率は100%であったが,移植後は57.5%へ低下した。移植後の負荷テストの結果から,対象を完遂群と非完遂群に分け従属変数とし,年齢・性別・体重変化率・前処置のTBIの有無・無菌室滞在期間・下肢筋力変化率を独立変数として判別分析を行った。その結果,下肢伸展筋力の貢献度が最も大きかった。したがって,有酸素運動が困難な無菌室内において,下肢筋力を維持することによって,運動耐容能の低下を遅延させることが示唆された。
著者
高橋 聖和 栗田 典之
出版者
公益社団法人 日本化学会・情報化学部会
雑誌
Journal of Computer Aided Chemistry (ISSN:13458647)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.178-189, 2006 (Released:2006-11-23)
参考文献数
25
被引用文献数
1 1

アデノシン三リン酸(ATP)は、高エネルギー結合を持つ分子として、生体内での様々な機構に必要なエネルギー源として広く利用されている。本研究では、ATPが有する特徴を明らかにする目的で、ATP、アデノシン二リン酸(ADP)、アデノシン一リン酸(AMP)、及びグアノシン三リン酸(GTP)の安定構造と電子状態を、密度汎関数法に基づく高精度分子軌道計算により解析した。さらに、これらの分子とMg2+の複合体の安定構造と電子状態を解析し、ATPとMg2+の結合が最も強く、Mg-ATP複合体が加水分解しやすいことを明らかにした。
著者
伊藤 恭子 高橋 愛里 斎藤 たか子 宮 政明 溜井 紀子 武藤 重明 安藤 哲郎 筒井 貴朗 小川 哲也 永野 伸郎
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.52, no.10, pp.585-592, 2019 (Released:2019-10-30)
参考文献数
22
被引用文献数
1

【目的】シナカルセトをエボカルセトへ切り替え, 血清値, 併用薬剤, 上部消化管 (GI) 症状に対する影響を実臨床下で検討した. 【方法】シナカルセト処方中の血液透析患者147人を, エボカルセトの1mgに一斉に切り替え, 8か月後まで観察した. また, GI症状および服薬アドヒアランスに関するアンケートを実施した. 【結果】切り替えにより, 血清PTHの上昇が認められたが, 血清補正Caの上昇は一過性であり, 速やかに投与前値に復した. 直前のシナカルセト投与量と1か月後のPTHおよびCaの変化量との間に正相関が認められた. また, PTH変化量はCa変化量と正相関し, Caの上昇は骨由来であることが示唆された. 併用薬剤の有意な変化は認められなかったが, 消化管運動改善薬を中止できる症例が散見された. アンケートの結果, GI症状のある患者は切り替え後で減少し, 服薬遵守率は上昇した. 【結語】エボカルセトは, シナカルセトに替わる有用なカルシミメティクスである.
著者
小堀 正雄 高橋 厳太郎 岡本 健一郎 増田 豊 細山田 明義
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.563-567, 1987-08-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
6

濃厚赤血球液を使用する場合, 稀釈する溶液として一般に生理食塩水が用いられる.しかし, 大量輸血の場合には稀釈液による電解質の負荷が増す.そのため, 稀釈液に電解質を含まない糖質を使用した場合の赤血球の溶血度および溶液中のカリウム値の変化を測定した.20歳代男性からCPD液用採血バックに採血し, 採血当日血, 保存1週間目, 3週間目の3群に分けた.実験に先立ち, 血漿成分の影響をとり除き, 赤血球の抵抗性を調べるため洗浄赤血球液を作成した.添加する溶液は生理食塩水をコントロールとし, 10%マルトース液, 5%キシリトール液, 5%, 10%グルコース液とした.10%グルコース液以外は血液との浸透圧比は1である.これらの溶液を洗浄赤血球液と同量加え, 室温で2, 6, 24時間放置し, 各溶液の遊離ヘモグロビン値, カリウム値を測定した.その結果, 10%マルトース液, 5%キシリトール液は保存期間, 放置時間をとわず, 遊離ヘモグロビン値, カリウム値は生理食塩水とほぼ同様の傾向を示した.しかし, 5%グルコース液では, 血液の保存期間をとわず, 2時間後にはすでに高度な溶血を示した.一方, 10%グルコース液は比較的溶血が少なく, 溶質の赤血球内への流入により添加溶液の低張化がある程度抑えられたことが示唆された.また, キシリトール液, グルコース液でpHの異った溶液を作成し, 遊離ヘモグロビン値の差を測定した.その結果, 溶液中のpH5~9の範囲内では, 血液の溶血度には何ら影響がないことが示唆された.
著者
高橋 智弘 照井 克俊 及川 浩平 青木 英彦 遠藤 重厚 小松 隆 中村 元行
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.44, no.SUPPL.2, pp.S2_36-S2_40, 2012 (Released:2013-09-18)
参考文献数
12

背景:早期の電気的除細動が院外心肺停止(CPA)患者の生存率改善に有用であると報告されている.当院救命救急センターへ搬送されたCPA症例の現状を調査したので報告する.方法:2007年4月から2010年3月まで当院救命救急センターの外来診療記録をもとにCPAの病名のある270名のうち,救急隊により直接当センターへ搬入された院外CPA 223例を後ろ向きに調査した.結果:CPA患者の原疾患のうち心血管疾患は136例(61.0%)で,そのうち一般市民の目撃のある症例は60例(自宅内発生が70%)であった.60例のうち心室細動(VF)は20例であり,その予後をみると生存退院例が8例(40%),社会復帰例が5例(25%)であった.対象の中に一般市民による自動体外式除細動器(AED)使用例(public-access AED:PAD)はなかったが,院外で救急隊員による除細動が成功した3症例は全例神経学的後遺症を残さず社会復帰していた.無脈性電気活動(PEA)または,心静止(asystole)は合計40例であり,生存退院例が3例(8%)あったものの,社会復帰した例はなかった.内因性CPA症例への一般市民の心肺蘇生法(CPR)実施率は42.1%であり,過去の当院での成績に比べてやや増加していた.考察:院外心肺停止患者の救命率向上には,一般市民へのCPRのさらなる普及と,AED設置の充実が重要と考えられた.
著者
高橋 健 原 武志 吉川 武志 下村 順子 鶴見 寿 山田 鉄也 冨田 栄一 森脇 久隆
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.46, no.9, pp.1055-1059, 2005 (Released:2009-07-28)
参考文献数
15

症例は51歳男性。平成12年8月両側頚部リンパ節腫大を主訴に受診。右頚部リンパ節生検にてt(14;18)(q32;q21)を有する濾胞性リンパ腫(Grade 2)(臨床病期IIIA)と診断された。当初無治療にて経過観察されていたが,6カ月後,骨盤内リンパ節腫脹に伴う水腎症を合併したため当科入院となった。CHOP療法4コースに加え,40Gyの放射線療法を施行し部分寛解を得た。治療開始後4カ月にてnumb chin syndromeを呈し,骨髄穿刺にてt(14;18)に加えてt(8;22)(q24;q11)を含む複雑核型を有するBurkitt型形質転換が確認された。急性リンパ性白血病に準じて救援療法を施行するも早期に再燃し,平成13年9月7日死亡した。濾胞性リンパ腫からの早期のBurkitt型形質転換は稀と考えられた。