著者
古川 安之
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

我々は交感神経と副交感神経の単独あるいは同時刺激時の歩調取りの部位の同定とpacemaker shiftの有無を検討し、更に歩調取り電位を直接あるいは間接的に修飾する薬物を用いpacemaker shiftの有無を観察し、その機序を考察するため以下の実験を行っている。雑種成犬をペントバルビタール麻酔後、人工呼吸器(Harvardmodel 613)管理下に、開胸し、迷走神経を頸部で、星状交感神経節の心臓側でそれぞれ結紮、座滅し、中枢からの神経調節を除き実験を行った。48極の単極性多極電極を作成し、心外膜側の洞房結節を含む洞結節一心房歩調取り部位(sinoatrial pacemaker complex)に固定し、心表面マッピングシステム(フクダ電子HPM7100)を用い、等時線図を記録した。頸部迷走神経、交感神経の結紮部位の心臓側に双極性の刺激電極を設置した。実験は交感神経、頸部迷走神経刺激時の歩調取り部位(pacemaker sites)を同定し、歩調取り電位を修飾する薬物、E-4031,zatebradine,verapamilと自律神経遮断薬であるpropranolol,atropineの歩調取り部位に対する作用を検討している。交感神経刺激により、歩調取り部位がいわゆる洞房結節部より上方に移動し、副交感神経刺激によっては下方に移動する傾向はあるものの必ずしも一定しないこと、交感神経刺激時に副交感神経刺激を行うと歩調取り部位が下方に移動することを観察した。交感神経刺激による歩調取り部位の変化はpropranololによって、副交感神経刺激による歩調取り部位の変化はatropineにより抑制されることを確認した。更に現在、E-4031,zatebradine,verapamilの歩調取り部位に対する影響と交換、副交感神経刺激による歩調取り部位の移動に対する作用の差異を観察中である。
著者
濱田 知宏 佐久間 康夫
出版者
日本医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

脳には解剖学的な性差があり、視索前野性的二型核は雄で有意に大きい神経核として有名である。本研究の目的はこの神経核を中心とする神経回路が性指向性に寄与し、その神経回路形成に思春期エストロゲンが重要であるという仮説を検証することである。結果として、思春期エストロゲンにより発情雌が雄の匂いを好むようになり、性差のある脳領域が活性化され、視索前野性的二型核ニューロンが雌の性行動中枢である視床下部腹内側核に投射していることが示され、思春期エストロゲンの性指向性に対する作用の一端が明らかとなった。
著者
三田村 仰
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2023-04-01

日本人夫婦の「1/3」が離婚する。北米においては、かねてより離婚の問題が深刻視されており、有効性が実証されたカップルセラピーの普及段階に入っている。翻って、わが国では夫婦/カップル関係に関して、有効な支援策が確立されていない。カップルセラピーは通常8-20セッションを要し、カップル側と支援者側双方にかなりのコストを要する。とりわけカップルにとって、二人で面接に参加することの敷居は高い。本研究計画では、現代日本の文脈に即した2セッションのみからなる「超短期カップルセラピー」のプログラム開発およびその効果検証をおこなう。
著者
中村 長史
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2023-04-01

本研究は、「平和活動や国際刑事法廷は、いつ終了が可能となるのか」という問いへの回答を通じて、対外政策終了論の体系化を目指すものである。まず、これまでの平和活動に関する研究を通して明らかになった《介入正当化と撤退正当化のディレンマ》や《責任転嫁可能な状況》という概念について、理論仮説に修正を施したうえで、ソマリア、ボスニア、アフガニスタン、イラク等を事例とした分析によって精緻化を図る。次に、平和活動終了についての分析を踏まえて、刑事法廷の終了について分析する。具体的には、上記の二つの概念が旧ユーゴ国際刑事法廷(ICTY)やルワンダ国際刑事法廷(ICTR)の終了決定過程を説明できるかを検証する。
著者
鷲見 尚己 青柳 道子 矢野 理香
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

我々は、がんから自分の健康を守るための新しいがん教育の方法論について、ピアサポートを活用し児童生徒の視点を重視して開発と評価を行うことを研究目的とした。今回、検討した新しいがん教育の方策は、児童生徒自身が睡眠や食事などの自分自身の生活での問題点、環境要因に関する問題点を見出すことは児童生徒自身のがん予防への関心を引き出し、児童生徒自身のがんに関する知識の向上、健康やがんに関する価値信念、健康行動の向上などの効果を示した。同時に、彼らの家族などの周囲の人々の健康に関する意識と行動を変化させる効果も示された。このことは、コミュニティベースでのがん予防教育につながる新しい知見であると考えられた。
著者
西谷 直之
出版者
岩手医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

がん細胞の特定の分子を狙い撃ちする分子標的治療薬の登場で、がん治療は画期的な進歩を果たした。しかし、その多くはキナーゼと呼ばれる同族のタンパク質に作用する薬剤であり、薬剤の作用点は限られている。さらなる分子標的治療の発展のためには、キナーゼ阻害薬に並ぶ新たな薬剤やその作用点の同定が重要な課題である。本研究では、がん化に関連する細胞内情報伝達を阻害する天然由来の化合物を医薬品の原型に育て上げることを目的とする。この化合物は、キナーゼとは異なる情報伝達分子に結合するため、新規の分子標的治療薬の開発につながると期待している。
著者
牧野 晶子 朝長 啓造
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

ヒトに致死性脳炎を引き起こすリス由来新型ボルナウイルス(カワリリスボルナウイルス;VSBV)は、新しい脅威となる人獣共通感染症の病原体である。本研究では、同ウイルスの病原性発現機構の解明を目的とした。VSBVと遺伝的に近縁であり、ヒトに低病原性と考えられるボルナ病ウイルス(BoDV)の組換え技術を応用し、高病原性のVSBVとのキメラウイ ルスを人工合成して、ラットにおける病原性を評価した。VSBVのX/P遺伝子を持つキメラBoDVは、野生型のBoDVと比較した高い致死率を示し、脳内ではサイトカ インの発現上昇が観察された。VSBVはBoDVよりも高い病原性を持つ可能性が示された。
著者
細川 洋一郎 門前 暁 寺嶋 真悟 羽澤 勝治 吉野 浩教
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

放射線治療の効果を高めることを目的に、アスコルビン酸併用放射線治療の研究を行った。白血病細胞、線維肉腫細胞、腺癌細胞、扁平上皮癌細胞の計4種類の癌細胞を使い、放射線照射単独とアスコルビン酸併用放射線照射の比較をすると、アスコルビン酸により細胞死が増加し、すべての細胞で、アスコルビン酸併用放射線照射群では生存率が有意に低下していた。今後、放射線にアスコルビン酸を併用することで、放射線治療の効果が高まることが期待され、臨床研究を行う必要がある。
著者
濱西 栄司
出版者
ノートルダム清心女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2022-04-01

本研究の目的は、公共的な場における運動行為の特徴とリアル/オンラインの展開・成果をめぐる因果的メカニズムを、非組織論的な観点から国際・歴史比較的に明らかにすることにより、民主社会における運動行為のありようや成果・意義をめぐる討議と合意形成の空間の創出に資する新たな学術的基盤を構築することにある。具体的にはWebGISやGPS/SNSビッグデータを用いて、国内外の運動行為のリアル/オンライン展開と成果を記述・アーカイブ化し、国際・歴史比較から運動行為の各社会・各時代における特徴・傾向、その複雑な因果的メカニズムを組織戦略、個人的運動行為と相互作用、物理的・社会的環境などから明らかにしていく。
著者
濱西 栄司
出版者
ノートルダム清心女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は、公共的な場における運動行為の因果的メカニズムと特徴を、非組織論的な観点から国際・歴史比較的に明らかにすることにより、民主社会における運動行為のありようや効果をめぐる新たな学術的基盤を構築する。WebGISとビッグデータを用いて、国内外の運動行為の展開を精緻に記述・アーカイブ化し、その国際・歴史比較から運動行為の各社会・各時代における特徴・傾向、通底する因果的メカニズムを明らかにし、その成果に基づいて、今後の民主社会における運動行為のありようや効果をめぐる学術的知見の提供を目指す。
著者
花岡 和聖
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

ひったくりや不審者情報等の犯罪に対する予防の観点から、本研究計画では、ルーティン・アクティビティ理論や防犯環境設計の考え方に基づき、犯罪発生と、その周辺の(1)時間帯別滞留人口及び(2)物理的な景観特性との関連性を統計解析することで、犯罪理論の実証研究を実現することを研究目的とする。その実現のために、スマートフォンのアプリ利用者の位置情報に基づく時間帯別滞留人口や人工知能を援用した景観写真画像判読の成果といった位置情報を伴う「地理的ビッグデータ」を活用し、犯罪発生地点周辺の社会的・物理的環境特性の計測手法の精緻化・自動化を試みる。
著者
山田 学 水野 直樹 山田 貴孝
出版者
名古屋工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究の目的は、実用的な飛行船の自動航行制御システムを開発することである。本研究では、非線形かつ非ホロノミックな飛行船に対する実用追従制御手法に基づいた新しい最適制御系の設計法を開発した。提案する制御法は、追従偏差に許容誤差を導入する新しいアイデアにより、非ホロノミック・非線形な制御対象を厳密に線形化できるため,過渡応答や外乱抑制の最適化やコントローラ設計の簡単化を達成した。飛行実験やシミュレーションにより成果の有用性を実証した。
著者
瀬尾 祐貴 藤井 淳一
出版者
大阪教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2023-04-01

本研究の目的は、申請者がこれまで「作用素論」において研究を進めてきたヒルベルト空間上の作用素不等式及び行列解析の手法をもとにして、量子情報幾何学や量子情報理論などの分野のさまざまな幾何学的様相に絡んだ定量的な評価を中心に考察し、その幾何学的な構造の解明を作用素論の枠組みの中で構築することを目的とする。具体的な研究項目は、・作用素論に基づく量子情報幾何学や量子情報理論における幾何学的構造の解明とその応用・多変数作用素幾何平均の観点から量子情報幾何学や量子情報理論への応用であり、近年急速に発展している量子情報幾何学や量子情報理論への大きな影響や新しい視点を与えるものである。
著者
田中 英城 加地 良雄 山田 賢治
出版者
香川医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

種々の動物の手足の形成過程では、まず四肢の形成予定域に突起(肢芽)が形成され、肢芽の基部が細胞死によってくびれが生じ、手関節に相当する部ができる。さらに、発生が進むと手足の形成予定域には指の原器が形成され、グローブ状の形となる。その後、各指間の間充織がアポトーシスによる細胞死に陥り、指間間充織が除去され、各指が分離する。両生類では指間間充織に細胞死が起こらないために水かきを持つ手足が形成されるが、鳥類やほ乳類などでは指間間充織に細胞死が起こるため、水かきを持たない手足が形成される。鶏胚肢芽では7日鶏胚で指間間充織に細胞死が出現し、1日以内にほとんどの指間間充織が死んでしまう。そして、この部における細胞死への運命は61/3日から62/3日鶏胚で決定されると考えられているが、細胞死を誘導するメカニズムは明らかにされていない。一方、人の手の先天奇形は合指症や多指症など表現形が様々である。そのうち合指症は指間部の間充織が連続しており、外科手術を必要とする。その原因はいまだはっきりと解明されていないが、発生の段階でアボトーシスが正常に起こっていない可能性が考えられる。最近、BMP-2、BMP-4が指間間充織のアポトーシスのシグナルとなっている可能性が報告されている。本研究では、手の先天奇形の一つである合指症の原因を解明する目的で、鶏胚肢芽組織の細胞の分化とアポトーシスにおよぼすBMP-2の作用を解析する計画をすすめてきた。しかし、技術的な諸問題をクリアできず、研究目的を果たすことができなかった。
著者
三好 紀子 松本 恵 金井 講治
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

自閉症スペクトラム(ASD)は社会不適応に至る症例も多く、その一因として感覚特性の影響、中でも聴覚特性の影響が指摘されている。聴覚特性には「選択的聴覚注意障害」と「聴覚過敏」があり、支援に違いがあるが、臨床的に区別が困難な例が多い。聴覚情報処理障害(APD)は「聴力は正常であるが、聞き取りにくさが生じる」一群で、社会的不適応になる例が散見される。本研究の目的は、心理検査、APDの検査である聴覚検査などを組み合わせることで、ASDの聴覚特性の特徴を詳細に検討し、概念を整理することである。最終的には聴覚特性に起因する社会不適応への支援を検討することが目的である。
著者
渡名喜 庸哲
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究は「脱人間化」社会における「責任」概念の変容を、以下の4側面から検討する。①社会思想史的アプローチとして、F・エヴァルドをもとに近代的社会制度の展開における「責任」概念の変容を検討する。②政治哲学的アプローチとして、全体主義体制および原爆投下をめぐるH・アーレントとG・アンダースの思想を検討する。③現象学的アプローチとして、E・レヴィナスの現象学的哲学における「責任=応答可能性」概念を実践的な文脈へと接続しうるかたちで検討しなおす。④応用倫理的アプローチにより、AI開発における人間の行為の代替化に伴う「責任」の変容を検討する。
著者
山本 憲幸
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

近年、免疫チェックポイント阻害剤(抗CTLA-4,抗PD-1など)の出現により固形癌に対する治療も変わりつつある。これらと放射線治療の併用により遠隔病変にも治療効果が期待できることがわかってきた。しかし、温熱療法とこれらの併用による基礎的な研究報告はほとんどない。申請者らは、温熱治療の結果、免役機構が賦活化し治療をしていない腫瘍まで効果がある「アブスコパル効果(バイスタンダー効果)」と呼ばれる現象がありその効果を確認してきた。本研究は、口腔癌に対する半導体レーザーによる温熱療法と免疫チェックポイント阻害剤(ICI)との併用療法の効果及びその作用機序の解明することである。
著者
伊藤 瑞規 水谷 泰彰 渡辺 宏久 植田 晃広 島 さゆり 外山 宏
出版者
藤田医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

多系統萎縮症(MSA)の突然死に対してセロトニン神経の関与が疑われており、その評価は極めて重要であると思われるが、現在のところ、生体内でセロトニン神経を評価できる方法は、髄液でのセロトニン代謝産物である5-HIAAの測定や、セロトニントランスポーターPETしか存在しない。髄液における5-HIAAの評価は、侵襲的な検査である髄液採取が必要であり、セロトニントランスポーターPETは、PETの専門機関でしか評価できない。そのため、日常診療レベルで使用されているドパミントランスポーターSPECTを用いてセロトニン神経が評価できないかを検討することとした。
著者
小森 貞男
出版者
岩手大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

リンゴ品種の遺伝子組成を変えずに目的遺伝子のみの改変を行うため、一過的な遺伝子発現によるゲノム編集を可能にする培養技術を開発する。「高頻度にシュートを形成する組織・細胞塊」を用いる方法として①DH個体の葯培養による胚様体の形成、②珠心細胞由来の胚様体の作出、③成長点に由来するカルスからのシュート形成に係る培養技術を開発し、「1細胞からのシュート再分化系」を用いる方法として④プロトプラストからの再分化系を確立し、パーティクルガン法等でRNPを細胞に導入する。①、②、③で得られたキメラ化したシュートは⑤キメラ解除の過程の体系化の実験で対応し、リンゴにおけるゲノム編集個体の獲得方法を確立する。
著者
田浪 亜央江
出版者
広島市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

土地や社会的よりどころを失ったパレスチナ人にとって文化はアイデンティティの表現手段であるとともに、占領や抑圧に対する抵抗手段である。他方で国際社会とりわけ援助機関からは「平和構築」の手段とみなされ、しばしば管理の対象となる。本研究では、パレスチナ文化のもつこうした背反的な機能やジレンマをパレスチナ人自身がいかに自覚しつつ、自分たちの文化活動にどのように向き合っているのかを探った。そしてパレスチナ社会内部への問い返しや自己批判を行いつつ、こうした状況を皮肉や嘲笑の対象として新たな作品創造のモチーフとする文化表現のあり方を捉えた。