著者
藤本 昌代
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

この研究は低流動性社会としての日本、高流動性社会としての米国シリコンバレー、中流動性社会のフランスで就業する人々の組織間移動、就業観の比較を行ったものである。本研究の対象者は科学技術系の研究者・技術者である。頻繁な転職が多く、世界中で注目を集めるシリコンバレーでは起業する成功者だけでなく、解雇や倒産に不安も抱える人々も多かった。しかしながら、分析の結果、組織と長期的な関係を築く日本の研究者、技術者より、解雇が多いシリコンバレーや中流動性社会のフランスの研究者、技術者の忠誠心の方が高いことが明らかになった。このことから組織に対する忠誠心は勤続の長さでは規定されないことが発見されたのである。
著者
山下 裕司 下郡 博明 菅原 一真 広瀬 敬信
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究の目的は,生活習慣病であるメタボリック症候群が聴覚に及ぼす影響について明らかにし,その予防方法を開発,将来の臨床応用に発展させることである。そのためにモデルマウスTSODを用いて研究を行った。結果としてメタボリック症候群モデル動物は,加齢に伴い出現する難聴が対照動物に比べてより早期に出現することが明らかになった。組織学的検討からは内耳の血管に動脈硬化が生じ,内耳の血流が減少することが原因のひとつであると考えられた。また,発現遺伝子の検討からは,多くの種類の成長因子が減少していることが明らかになった。これらの結果は新しい難聴予防の方法の開発につながると考える。
著者
橋本 智也 白石 哲也
出版者
四天王寺大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

日本のIRは担当者の量的拡大による導入期を過ぎ、現在はIR活動の質的向上が急務となっている。IR活動が有効に機能するためには専門性を備えた人材がいるだけでは不十分であり、その専門性が各大学の文脈の中で活用される必要がある。本研究は①「大学が期待する成果」、②「必要となる専門性」、③「IR担当者が実際に持つ専門性」の相互構造に着目し、IRの専門性が大学の文脈に合致して活用されるための促進要因と阻害要因を解明する。さらに自大学がIRに期待している内容を明確化するためのルーブリックを開発する。本研究により大学側の期待とIR担当者の専門性のミスマッチを解消し、日本のIRを有効に機能させることを目指す。
著者
八木 淳子 桝屋 二郎 松浦 直己
出版者
岩手医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

東日本大震災後に誕生し、直接の被災体験のない、激甚被災地在住の子どもとその母親223組を対象として、子どもの認知発達や情緒・行動上の問題、母親のメンタルヘルスや被災体験などについて調査を継続した。研究調査3年目となる今年度の第2回追跡調査への参加は179組であった(補足率80.3%)。ベースライン調査の結果において、発達の遅れが認められた子どもたちやメンタルヘルスの問題に苦悩する母親ら、ハイリスク家庭に対して、保育所や地域の専門機関等との連携によって支援を実施し、第1回追跡調査結果においては、子どものIQの平均値の改善が認められ、情緒と行動上の問題(臨床域)を呈する子どもの割合も減じた。3年目は子どもたちが小学校に入学し、保育所をベースとした集団が拡散したことから、調査への参加のはたらきかけや会場の集約など、現地調査実施上の課題が多くなったことが、捕捉率の低下につながったと考えられる。母子ともに改善傾向にある家庭が確実に存在する一方で、母親へのインタビューにおいて、本調査に参加している児の兄弟・姉妹について相談されることも少なくなく、被災地で子どもを養育すること自体が不安など心理的負荷のかかるものであり、その影響を受けて苦悩する家庭との二極化が懸念される。現在、3年目調査結果を解析中であるが、2年目の結果からも母親のメンタルヘルス、特にMINIの結果は大きくは改善しておらず、存続していくことが予想されるため、相談支援を継続するとともにその介入効果についても検証を進める。これらの結果を受けて、大災害から数年後を見越した「子どものこころのケア」や「発達支援」の計画においては、震災後に誕生した乳児とその家庭をも支援対象として含めておくことの重要性について提言していく。
著者
辻 和成 辻 勢都
出版者
武庫川女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本調査では、グローバル経営を進める製造会社の英語事情について総合的な分析を行った。1,000名以上の従業員を雇用する企業を幅広い業種から選び、オンラインでのアンケート調査を実施した。その結果、ものづくり系企業での英語使用と英語教育の現状を明らかにし、産業界のニーズに適合するため、英語教育での企業と大学の接合の必要性を示すことができた。本調査の特徴の一つは、日本経済の中核を担う製造業に着目し、主たる部門をディスコース・コミュニティとみなしニーズ分析を行った点である。幅広い業種から機能分担がより鮮明である大手の企業を調査対象として選択し、ニーズ分析と研究成果の有用性と汎用性を確保することに努めた。
著者
宮澤 眞一
出版者
埼玉女子短期大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

平成11年度から平成13年度の三年継続の本研究計画が認可されたとき、サトウ自筆日記の日本滞在に係わる三つの時期(1862-1869;1870-1884;1895-1900;1906)のなかでも、前半部分(1862-1884)に集中することが、私の当面する研究の必要性と、力量の及び範囲と考えていた。実際に三年間という長い呼吸の歳月の進行とともに、研究意欲は膨らむ一方の勢いとなった。結果的に三年間の継続研究の研究実績は、アトウ自筆日記全39冊の解読・活字化を達成して、66年に及んだサトウ日記執筆の全体像を把握できたことである。その成果を纏めるのに更に一年を要したが、2003年3月には研究成果報告書において、幾つかの事項に関して詳細に報告した。第一の事項は、上記全体像に係わる点である。「表1:サトウ日記の自筆原稿(manuscripts)と転写原稿(transcriptions)の概算」(上記報告書p.18)を纏めあげることによって、サトウ日記の総体を眺望する内外で初めての資料となった。具体的な一例を挙げるなら、当初計画の自筆日記分(1862-1884)は、約2537頁となり、全39冊分の総頁数が約9373頁であるのだから、当初計画の約3.7倍の基礎作業を完了したことになり、A4版30行の転写原稿は、約6457枚の総枚数を数えることが一目して分かる。第2報では全自筆日記資料の書誌的纏め方について、を表2に言及しつつ、極めて簡略化した「記入日リスト」の形にした今回のを述べてある。今後の研究実績の予定されている発表について、最後にひとこと触れておきたい。本研究の中核となる仕事は、解読し活字化した転写テキストを書物として発表することにある。本年度は幕末維新(1861-1869)を出版し、向こう5年間に全20巻で逐次出版することで出版社と協議中である。また、来年度には新書版で「アーネスト・サトウの日記」を出版して、本研究の実績報告の内容を一般読者に向けて公表することになっている。
著者
明間 立雄 藤原 清悦 黒坂 光寿 舩橋 利也
出版者
聖マリアンナ医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

ラットで受動的回避学習行い、ミクログリア特異的な阻害薬、ミノサイクリンを投与した。ミノサイクリンを投与したラットは嫌な記憶を早く忘れた。つまり、ミノサイクリン投与によりミクログリアの作用が弱まった結果、嫌な記憶の固定や再生が抑制されたと考えた。学習と関係のあるAMPA受容体のサブユニットを調べた結果、発現量にミノサイクリン投与による変化は認められなかった。しかし、リン酸化は減少する傾向が認められたことからPKAが関与する可能性が示唆された。マウスの受動的回避学習を解析する系を立ち上げた。その結果、ラットとマウスでミノサイクリン投与による受動的回避学習の変容が異なることが示唆された。
著者
青江 秀史 勝久 晴夫 谷口 勢津夫 正城 敏博 吉田 悦子
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、大学と組織の連携で生じる知的財産情報に関する諸問題の制度的観点や政策的観点について、海外における取組みとの比較研究を通じ、各大学が定める知的財産ガイドラインのあり方、地域との「身近な産学連携」のために必要な施策の検討を行う。また知的財産法と契約法や租税法上の問題について、現行法制度との整合性について総合的に検討を行い、円滑な産学連携活動への示唆を試みることを目的とする。
著者
倉持 利明 北 潔
出版者
国立科学博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

芽殖孤虫とはヒトの芽殖孤虫症を引き起こす幼条虫に対して与えられた名称であり、Ijima(1905)による発見以来世界から14症例が報告されている。芽殖孤虫および芽殖孤虫症のきわだった特徴は、この幼条虫がヒト体内で無秩序な分芽増殖を起こし、あらゆる臓器組織に侵入することにあり、上記14例のいずれもが死亡例である。芽殖孤虫はこの医学的な重要性にもかかわらず成虫が見出されていないばかりか、自然界における終宿主や中間宿主等の生活史は知られていない。マンソン裂頭条虫は、その幼条虫がヒト体内で様々な程度の幼虫移行を主徴とするマンソン孤虫症を引き起こすことから、古くから芽殖孤虫との類縁性が検討されてきたが、NADH脱水素酵素サブユニットIII遺伝子を解析した最近の研究によれば、芽殖孤虫はマンソン裂頭条虫と近縁ではあるが、同遺伝子の塩基配列は両者で異なることを示した。そこで本研究は芽殖孤虫の種の決定を最終目標に、裂頭条虫科条虫の分子系統解析を行った。はじめに芽殖孤虫、マンソン裂頭条虫、日本海裂頭条虫(裂頭条虫科)シトクロームc酸化酵素サブユニットI遺伝子について配列決定し、円葉目条虫を含めた系統解析を行った。その結果芽殖孤虫はマンソン裂頭条虫との類縁性を示しつつ、擬葉目条虫に含まれることが明らかとなった。続いて野外調査を通して得られた海棲哺乳類由来の海産裂頭条虫6種を解析に加え、芽殖孤虫と一致する配列を持つ種、あるいはより近い類縁性を示す種の検索を試みた。海産裂頭条虫は芽殖孤虫、マンソン裂頭条虫とは異なったクラスターに配置されこの試みは成功しなかったが、この両種と海産裂頭条虫とは早期に分岐したこと、さらに両種間の遺伝的な距離は、他の海産裂頭条虫種間の距離に匹敵もしくはむしろ遠いことが示された。これらは芽殖孤虫が淡水域を起源とする裂頭条虫に由来するものであり、またマンソン裂頭条虫とはおそらく異なる種に含まれることを示唆している。
著者
山口 徹
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では、森鴎外による翻訳作品とその原典との比較分析を行い、次にそれが鴎外の創作作品にどのような反映が生じたかという点について検証した。これにより、近代日本とヨーロッパとの文化情報伝達の事例の中でももっとも高度な一面について明らかにすることができた。広範な領域に亘って多くの訳語を日本語に定着させた鴎外の文業は、近代社会の形成をソフト面から支援した点でも重要であり、その意義を幅広く問う必要がある。本研究の成果は、近代日本の形成期における国際文化情報の伝播と影響についての実態解明に繋がるものである。
著者
羽賀 祥二
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究の目的は、20世紀前期(明治末縲恟コ和戦前期)の地域社会の歴史像を構築した郷土史家の歴史学的方法論と歴史叙述に表れた歴史的構想力について考察を行い、彼らが地域社会のアイデンティティーの創出、地域の歴史的起源や文化的多様性の発見、地域の再生にどのような役割を果たしたのかを解明することである。本研究では、次の調査・研究を実施した。(1)愛知県の郷土史家である津田応助の関係史料(象山文庫)が所蔵されている小牧市図書館の調査を行い、彼が編纂した郡町誌関係の史料、津田日記などの所在を確認し、一部の撮影を実施した。(2)津田編『贈従五位林金兵衛伝』の編纂の過程を知ることができる『林金兵衛家文書』を購入し、整理作業を近代史料学の授業の際に実施した。ここには林金兵衛の地租改正反対運動に関する貴重な史料も含まれており、明治前期の尾張地域史の実証研究にも貢献することができる。(3)東海地域を中心として歴史遺産の発掘と保存、郷土史家の地域史研究、名古屋における郷土史の形成と歴史祭典の実施に関する論文を公表し、この地域の歴史意識の特徴、郷土史家の歴史的役割に関して考察をおこなった。また、暫定的ではあるが、『林金兵衛家文書』の目録を作成できたことは、今後郷土史研究を進めていく上で、基礎的な作業となった。
著者
川口 和紀 北口 暢哉 中井 滋 宮川 剛 大橋 篤 堀 秀生
出版者
藤田保健衛生大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

アルツハイマー病の病因物質の一つとされるアミロイド蛋白(Aβ)を、末梢血中から短時間に急速に除去することで脳内濃度を下げることにより、認知機能を改善する治療システムの構築を目指し、ラットを用いて血中Aβの動態と認知機能に与える影響を検討した。1.麻酔下ラットの大槽内に投与したヒトAβの末梢血中へ移行が確認された。2.ラットを用いた血液浄化の実験系および認知機能評価系が確立された。
著者
大石 由美子
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

肥満や、脂質代謝異常が慢性炎症を基盤とした動脈硬化をすすめるように、免疫と代謝とは、個体や組織のレベルで密接に連携している。そこで、私は細胞のレベルでも免疫と代謝とが連携しているのではないかと想定した。免疫応答に重要なマクロファージの細胞代謝としての免疫応答が、細胞内脂肪酸代謝と密接に連携して制御されることを見いだした。特に、マクロファージが炎症応答の後期に合成する不飽和脂肪酸が、マクロファージの自律的な炎症収束形質への変化と同時に、全身の炎症応答の収束に必須であることを明らかにした。本検討の結果、免疫細胞の細胞内代謝が炎症の慢性化を防ぐ、新たな治療標的となる可能性が示された。