著者
土田 滋 森口 恒一 山田 幸宏
出版者
東京大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1989

(1)前年度に引き続き、小川資料に残るシラヤ語の資料を整理し、コンピュ-タに入力した。さらに原典・原ノ-トに遡って照合を行い、また中国語・日本語が読めない外国人研究者の便を考え、発音を漢字で表わした清朝時代の資料についてはロ-マ字翻字を付した。その結果シラヤ語資料とされているものが、実質的にはシラヤプロパ-・タイボアン・マカタオの3種の方言にわけることができることが判明した。(土田・山田)(2)浅井資料のうち、「平埔蕃 Basai」と標題をつけられたノ-トを整理しコンピュ-タに入力した。重複項目を除く異なり語数は約1000項目。英訳をつけ、バサイ語からも英語からも引けるようにした。(森口)(3)小川資料のうち、ケタガラン語に関わるノ-ト類を整理し、カ-ドにとり、コンピュ-タに入力したが、時間切れとなり、公表する段階には至っていない。(土田)(4)上記(1)と(2)の結果を印刷に付し、発表し得る形にまでまとめることができた。シラヤ語は17世紀における台湾のオランダ統治時代の聖書翻訳や語彙集、18ー9世紀における清朝時代の土地売買契約書などの資料しか存在せず、日本時代に収集し得た各方言の資料として貴重である。またバサイ語資料はこれまでまったく利用し得なかった資料である。それを見ると、祖語における*Lがtsで現われる点は、かつて台北付近に話されていたケタガラン語と同じであり、一方祖語の*sもtsで現われる点は、東海岸のアミ語と同じという、やや奇妙な音変化をみせることが判明した。また語彙的にはカバラン語と共通した部分も多く、いずれか一方から他方へ借用されたものかもしれないが、更に精密な研究が必要である。
著者
原 暉之 有馬 学 中見 立夫 酒井 哲哉
出版者
北海道大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1994

黒木親慶(1883-1934)は宮崎県出身の陸軍軍人(陸士卒業第16期)で、第一次大戦中ロシア従軍武官を勤め、ロシア革命を現地で観察したのち、シベリア出兵に際して親日派・反革命派の軍人アタマン・セミョーノフの軍事顧間として活動するなど、ロシア通の参謀将校として活躍した。また、ロシア・シベリアで荒木貞夫(9期、のち睦相、文相)と行動をともにしたことから、1920年に帰国したのちも荒木との関係は密接であり、昭和期には荒本に連なる皇道派人脈の中で重きをなした。本研究は、これまで学術調査の対象となったことはなく、ほとんど手つかずのままに残されてきた黒木親慶文書(宮崎県立図書館所蔵)に対し、学際的・総合的なアプローチを研究する試みるとして企画されたが、現地調査を含む研究活動の結果、ロシア極東近現代史、日本近代政治史、東アジア国際政治史の各分野において多くの知見を得ることができた。とりわけ、ロシア極東近現代史の分野では、アタマン・セミョーノフの思想と行動の未解明部分が判ってきたし、日本近代政治史の分野では皇道派人脈について、また東アジア国際政治史の分野ではモンゴルをめぐる国際環境について、従来の研究とは異なる角度から光が当てられることになった。
著者
山崎 弘郎 藤村 貞夫 北森 俊行 飯塚 幸三 栗田 良春 森村 正直
出版者
東京大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1989

文部省学術用語集「計測工学編」の増補改訂を目的として、計測工学用語の標準化の調査研究を平成2年2月から平成3年度末まで下記の通り実施した。1.計測工学における学術上の概念を適切に表す用語を標準化することにより,同一概念を表現する複数の用語の流布を避け,混乱を防ぐことを目的として。主として次のような用語選択基準を設定した。(1)学術上の議論で現在実際に用いられる用語だけを採録する。(2)概念の階層構造に留意しその上位の用語から採録する。(3)他分野との境界領域にある用語も採録する。ただし,その用語がすでに文部省学術用語集で制定されていれば,それを尊重する。(4)内外の規格(JIS,ISO,IMEKO,VIM,SI等)との一貫性に留意する。2.計測工学の分類について検討を重ねた結果,20分野に分類し,上記選択基準1.にしたがって,現行用語約2,400語について検討し,分野別に用語の収集,選択を行い,計測工学用語集としての完備を図った。こうして12,000余語の用語を収集し,これを整理して,約8,000用語が標準計測用語として得られた。3.この調査研究の特長の1つは,作業を電子化し,効率化を図ったことである。これによって,委員による用語の収集,整理作業および委員間の情報交換が極めて容易に可能となった。さらに,海外からの用語デ-タファイル(国際計測連合編集の計測用語;ISO,IEC,BIPM等による用語集(VIM)等)を検討対象用語集として収集することができた。4.調査研究委員会開催日程平成2年2月2日から平成3年11月16日まで 9回委員会開催,平成3年2月21日から平成4年3月4日まで 4回幹事会開催。
著者
西光 義弘 金水 敏 木村 英樹 林 博司 田窪 行則 柴谷 方良
出版者
神戸大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1988

本研究の各研究分担者の研究の概要をあげ、その後で全体の総括をすることとする。まず西光は日本語は英語と比べて談話構造において繰り返しが多く、多義性が高いことをさまざまな現象で示し、その原因について考察をすすめた。柴谷はパラメ-タ理論による日本語の対照統語論の研究を言語類型論の立場から批判し、日英語だけでなく、世界中の諸言語を考慮に入れる必要を唱えた。また日本語の受身表現を類型論の立場から分析し、世界の諸言語における日本語の受身表現のしめる位置を明らかにした。田窪は文脈のための言語理論を開発し、理論的土台を提供した。田窪と木村は中国語、日本語、英語、フランス語の三人称代名詞の対照研究を行い、日本語の三人称代名詞が未発達であることが文脈依存性によるものであることを考究した。益岡は日本語特有であるといわれ、なかなか本質をとらえ難い「のだ」構文を先行の諸説を踏まえ、独自の機能分析を行った。林は日本語、フランス語、ル-マニア語の遊離構文の対照研究を行った。金水は談話における指示詞の機能と述語の意味層に考察を加え、日本語の文脈依存性による説明を試みた。田窪、益岡、金水はそれぞれ日本語のモダリティの諸側面を考究し、文脈依存性との相関関係を明らかにした。また研究協力者として、中川正之は中国語は文脈依存度において、日本語と英語の中間であることを諸現象の観察によって示した。当初の目的である、諸言語との対照によって、日本語の文脈依存度が高いことを相対的に示すことについては、さまざまの現象について、詳細で微細な考察が進められ、相対度を持ったパラメ-タを各言語に設定するための見通しがたった。さらに考察の対照とする現象と言語の範囲を増やし、パラメ-タ設定を精密化し、最終的な理論体系をうち立てる土台ができたといえよう。特に会話方策と談話構造と語用論に関する対照研究の必要性が大きく注目されるさらなる考究の必要な分野として、本研究の結果、明らかになった。また文脈の理論および文脈依存性のモデル化についても全体像が見えてきた。
著者
小池 生夫 原岡 笙子 古川 尚子 国吉 丈夫 石田 雅近 伊部 哲 朝尾 幸次郎
出版者
慶応義塾大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1988

本研究はわが国全体の英語教育を大学を中心として、早期教育、中学校、高等学校、海外子女教育から見た学校教育も含み、それらの実態と将来像を明らかにしてきた。職業人から見た英語教育については、昭和58年3月に提出した研究成果報告書よりはじまった一連の研究の最後のテ-マとして研究を行ってきたものである。研究成果報告書の内容は1.「あなたご自身について」でアンケ-ト解答者自身の年令、学歴、職種、海外経験などを調査した。次に、「あなたと英語のかかわり」については、仕事とのかかわりで英語が必要とする人が54.2%に達していることがわかった。英語が通じない人は41.3%、かなり不自由しない人が22.6%などいくつかの項目が分析されている。次は「あなたの大学生時代の英語学習について」では学習態度、授業内容などについて、4番目は「日本のこれからの英語教育について」の批判を調査した。学校教育で成果が、「まったく」あるいは「あまり」あがっていないと回答する人は74.2%で、これはかなり深刻な数字である。その主な理由は、日本人の完璧主義で細かいところに気を使いすぎるくせと、受験準備にあるとする人が首位を占めた。そして英語教育の目的は「コミュニケ-ションができる基礎力を養成することにあるとする人が88.9%とい圧倒的であった。総項目34、大学卒業生同窓会名簿多数の中から任意に抽出をした人々約12000名、回答率19%程度であった。あしかけ9年に及び調査分析は4冊の研究成果報告書として結実したが、その総集編を作成、同時に提出するべく努力をした。この特徴は、わが国の英語教育をタテ軸、ヨコ軸から見て、総合的分析判断するもので、またに画期的な資料になるであろうと期待する。すべてコンピュ-タによる資料分析を行ったものである。
著者
堀井 憲爾 原田 達哉 河野 照哉 河村 達雄 小崎 正光 赤崎 正則
出版者
名古屋大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1985

IMV交流送電の次の高電圧電力技術の基盤となるべき4つのテーマについて協同実験及び各個研究により、総合的検討が行われ次のような成果が得られた。1)超々高圧架空送電の研究として、2MV交流および1MV直流について、線路気中絶縁の問題、特に開閉サージフラッシオーバとコロナ・イオン流などの環境問題について協同実験による検討が行われ、絶縁・環境の両面からみて、1MV直流送電の方が開発の実現性が高いことが示唆された。2)架空送電に代わる新送電システムの研究として、しゃへい導体大気送電は、建屋内に電線を収納することにより、絶縁の縮少化・高信頼化ができ、環境問題にも対処できること、また、地中洞道内に電線を引込む方式と共に、架線空間に大気圧の【SF_6】ガスまたは空気との混合ガスを封入することにより新しい大容量の超高圧送電線を実現できる可能性が協同実験で示された。また、新しい地中ケーブルとして、押出しポリエチレン絶縁に【SF_6】ガスを含浸する方式、及び極低温超電導ケーブルなどについてモデルによる実験が実施され、今後の開発への道程が示された。3)UHV・EHV送電の極限絶縁設計の研究は、送電線の絶縁設計基準と試験法を再検討し、信頼性と経済性の接点を探ろうとするものである。耐雪設計の見直しとして、冬期雷の特異性とその対応が検討され、絶縁材料の改良開発として、有機材料の部分放電劣化、ZnOバリスター素子の劣化、ベーパミスト絶縁の耐電圧特性などが検討された。4)極限高電圧(50MV)の発生と測定に関する技術として、前駆リーダ放電、残留インダクタンス、直列火花ギャップの問題と対策及び光電変換分圧測定器が検討され、新しい発生器として直径60mのバルーンによるファンデグラフ方式が提案、検討された。
著者
大庭 喜八郎 荒木 真之 糸賀 黎 大久保 達弘 永野 正造 須藤 昭二 前田 禎三
出版者
筑波大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1989

本研究は下記の目次(分担)によって研究成果のとりまとめをした。1.研究目的:アイソザイムを利用したブナ天然林の集団遺伝学的解析、それらの林分の立地環境の評価を行い、天然下種更新、萌芽更新の実体を明らかにする。ブナ林の体鶴分析を行い、動植物の保護、生態遺伝学の見地から総合的にブナ林の保全と育成管理の条件を論究する。2.日本のブナ林の概況:ブナ属の種数、ブナ・イヌブナの分布、現存ブナ林面積、地史的なブナの分布と伝播の概要についてまとめた。3.ブナ林の既往の生態遺伝学的研究成果:葉の大きさが南から北へ大きくなり、個体の寿命が本州のブナに比べ北海道のブナに比べ北海道のブナの方が短い。4.ブナ天然林なアイソザイムによる遺伝解析1)調査林分の気象環境・土壌環境と現存量2)(1)ブナ天然林集団間の遺伝解析:11酵素種、14推定遺伝子座の総計47対立遺伝子の分析を行い、集団遺伝学的解析をした。ブナ自体のアイソザイム遺伝変異は他の樹種と比べると相対的に大きいが、林分間の差異は小さく、全変異のわずか1.4%で、残りの98.6%は林分内にあった。(2)ブナ林分内小集団内の遺伝解析:アイソザイムによる家系分析(3)ブナ天然林集団内の形態的変異:成葉、幹足部幹形、樹皮型、萌芽性5.ブナ天然林の維持機構1)ブナ天然林の種子による維持機構:植生と更新稚樹、ギヤップ更新2)ブナ林の萌芽による維持:ブナとイヌブナの萌芽更新の実態6.ブナ天然林の景観分析7.ブナ天然林の保全と育成管理の方策の総合検討1)ブナの遺伝資源保存:アイソザイム分析とブナ保護林の実態の検証2)ブナ林景観保存
著者
吉岡 健二郎 太田 孝彦 太田 喬夫 佐々木 丞平 野口 榮子 山岡 泰造
出版者
京都大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1985

美的価値と芸術的価値の問題は美学及び芸術史研究にとってその中心をなすというべき重要な問題である。研究代表者の吉岡は60年度に美術史研究が独立した学問として成立するに至る過程をたどり、それが18世紀の西欧世界においてであること、そしてまた美術史学の成立と美学の成立とは互いに支えあって初めて可能であったことを明らかにした。(京都大学文学部美学美術史学研究紀要第7号)吉岡の研究は各研究分担者の個別的で緻密な研究に支えられ、そこから大きな示唆と教示を得て執筆されたのであるが、同時に問題の難しさを一層鮮明なものにする結果ともなった。即ち美の問題と美術の問題との、近代世界における新たなる関係如何という、美学にとってのより根底的な問いが避けられなくなってきたのである。美学が美と芸術の本質を探求する学として成立したのは18世紀半ばであるが、美と芸術が一つの学の中で、まとめて扱われたのは、芸術が美的価値の実現を目標とする人間活動と見倣されたからに他ならない。ところが、人間活動の一形態としての芸術は必ずしも美的価値を目標とするものではないのではないかという疑問や、西洋以外の諸文化圏の芸術は少くとも西洋の伝統的美概念には包摂できないという明白な事実が、研究者の意識に上ってくるようになると、美的価値と芸術的価値とは分離されざるをえなくなる。東洋・日本の美術の研究者は、中国や日本の美術の目差すところが、いわゆる西洋世界で確立された美的諸範疇といったものでは充分に説明できないこと、それにも拘らず人間の表現活動としては西欧の認識の心を深く感動させるものを有していること、従って美的価値概念と芸術的それとの再検討が地球的規模で行なわれなければならないこと、そして美的価値と芸術的価値との価値論的な新しい統一の試みが必要であるという点を明らかにしてきたのである。
著者
佐々木 健一 西村 清和 礒山 雅 戸澤 義夫 藤田 一美 坂部 恵
出版者
東京大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1993

本年度は6回の研究会を開催した。昨年度は報告を提出したあとの3月にも研究会を催したが、今年度分に限って言えば、それぞれの研究報告者とその主題は次の如くである。先ず、尼ヶ崎彬は舞踊を対象とし「藝術的価値と身体」について論じた。その際、舞踊批評において用いられる評言を手掛かりとして、訓練された踊り手の身体において認められる独特な藝術的価値を明らかにした。小田部胤久は18世紀のドイツ美学、すなわちまだ価値の概念が十分に術語化していなかった時代の美学思想のなかに潜在している価値論を、再構成することを試みた。長野順子は「生の強度」という観点から、バ-クからカントをへてニーチェに至る崇高概念を研究した。そして、とくにこの種の美的範疇に伴う性差のイメージを、理論書のテクストから抽出して、そこに新しい光を当てた。加藤好光は、西田幾多郎の述語論理と場所の概念に注目しつつ、これを生命科学や生気論哲学によって再記述することによって、「美的体験の生命関係学的基礎づけ」を試みた。大石昌史は、価値の再評価を行ったニーチェのニヒリズムの哲学において、絶対的肯定によって美的価値が創造されるという思想を捉え、その理論をあとづけた。伊藤るみ子はP・キヴィーの論考を手掛かりとして、音楽における作品の演奏の関係、特に「演奏のauthenticity」の問題を考察した。この他、代表者佐々木が価値概念についての原理的考察を著書の一部として公表するなど、各研究分担者の独自の研究もあるが、全体の研究成果のうち、公表可能な段階に達したものを集めて研究成果の報告書を編んだ。
著者
松尾 友矩 北田 敏廣 太田 幸雄 三村 信男 楠田 哲也 村岡 浩爾 野池 達也
出版者
東京大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1992

地球温暖化問題はきわめて重要かつ緊急の課題となってきており、影響評価と対策立案が急がれている。本研究では特に、都市と地球温暖化の関わりについて総合的に研究を行った。すなわち、都市活動に起因する温室効果ガス排出、都市大気中での大気反応と輸送、都市諸活動・施設への温暖化の影響を明らかにするとともに対策を検討した。本年度における各研究分担者の行った研究成果はそれぞれ次のようである。都市活動にともなう二酸化炭素の発生については、都市からの発生量の国際比較、未利用エネルギー利用可能量の推定について検討を行った(松尾)。自然水系として底泥からのメタン発生速度をバッチ実験によって測定し、底泥の性状や水質の汚濁指標との関連を検討した(野池)、汚濁を受けた都市河川における一酸化二窓素の存在量と発生ポテンシャルを現場調査と室内実験によって明らかにした(花木)。可視光領域の太陽放射量の変化とそれに伴う光解離速度の変化、雲粒による硝酸、亜硝酸、過酸化水素等の吸収を考慮した対流圏光化学モデルを検討した(太田)。前年度に開発した温室効果ガス輸送モデルを汚染大気の化学反応を含むものに拡張し、東アジアに適用した(北田)。沿岸部に集中した港湾、橋梁、護岸、防潮堤、排水排除に関する水理計算の方法を再検討し、浸水の予測が正確に出来るように計算法を改良した(楠田)。実際の都市の水収支、水循環推定の手法を大阪に引き続いて,合流式下水道を持つ沿岸都市である神戸に応用した(村岡)。さらに本年度は最終年度にあたるので、各分担者の課題について総括的なまとめを行い、総説的解説論文にとりまとめた。
著者
見上 彪 喜田 宏 生田 和良 小沼 操 速水 正憲 長谷川 篤彦
出版者
東京大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1992

本研究目的は、各種動物由来レンチウイルスを分子生物学的観点から総合的に比較研究することにより、レンチウイルスに共通に見られる遺伝特性を明らかにするとともに、その生体内での病原性の発現メカニズムを分子レベルで探ることにある。代表としてネコ免疫不全ウイルス(FIV)についての研究成果を報告する。1.日本,オーストラリアおよび米国で分離されたFIVのLTRの塩基配列を比較したところ,日本の各分離株は遺伝子レベルで米国やオーストラリア各分離株から離れた位置にあり、系統学的に異なるものと考えられた。2.組換えキメラウイルスを用いてFIV株間の生物学的性状の相違を解析したところ、LTRのプロモーター活性には有意な差は認められなかったものの,CRFK細胞への感染性やMYA-1細胞での巨細胞形成能はenvおよびrev領域が決定し,ウイルス増殖の速さや細胞障害性の強さはgag,pol,vif,ORF-Aの領域が関与しているものと考えられた。3.FIVのORF-A遺伝子に変異を導入した変異株を用いてその機能を解析したところ、ORF-1遺伝子はウイルスの効率的な増殖を促進していると考えられた。4.CRFK細胞にネコCD4を発現させた後、CRFK細胞にたいして非親和性のFIV TM1株を接種してもウイルスは増殖せず、さらに可溶化CD4とFlVenvは結合しないことから、ネコCD4は、FIVのレセプターとして機能していない可能性が示唆された。
著者
新井 正 鈴木 啓助 深石 一夫 水越 允治
出版者
立正大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1988

日本の冬の気候は,アジア大陸東部の影響を強く受けていることはいうまでもない。ところが,アジア大陸の地表面,水面などに関する情報は非常に不足しており,日本と大陸との水文気候の比較は充分にできない状況にある。これは,事情を異にする5か国が接するこの地域の特殊性を反影している。そこで,第一に日本・中国・韓国・ソ連の気候図より,最大積雪深,積雪期間の分布図を作成した。積雪時間は緯度と高度に支配されているが,最大積雪深は収束線の位置も関係するために、必ずしも緯度的な分布になるわけではない。隆雪域は「ひまわり」の赤外・可視画像の分析により推定し,上記の編集図の裏付けを行なった。河川の結氷は水面の熱収支より推定したほか,日平均最低最気温と実際の結氷分布とを対応させ、ともによい結果を得た。第二に水文気候の重要課題である融雪出水について,雪と河川水の水質分析により特性を把握した。融雪出水には直接融雪水が流出するのではなく,地中あるいは雪層中の古い水を押し出す,いわゆる押し出し型であることが分った。しかし,雪の化学成分から大陸諸国の工業活動などを推定する迄には至らなかった。水文気候の比較で特に注目されるのは、過去の記録である。日本,中国ともに古い記録があり,気候の復元が試みられている。本研究では19世紀を中心として気候の復元を行なった。その結果,小氷期においても温暖な期間を狭んでいたことが分った。しかし,中国との対応はまだ完全ではない。
著者
内田 豊 牧島 一夫 牧田 貢 えの目 信三 小杉 健郎 平山 淳 常田 佐久
出版者
東京理科大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1992

本総合研究(A)は、現在この分野で世界の先端を行くX線天文衛星「ようこう」の結果を最大限に活かすため、「ようこう」チームを中心として、関連の地上からの光学観測、電波観測等に携わっている研究者達を糾合して、「ようこう」からのX線と地上からの光、電波の情報との比較による研究を国内で深め、またそれにより国際共同研究をさらに進めることを目的とした。まず本研究の目的に沿って、研究者の宇宙研「ようこう」研究センターでのデータ解析活動をサポートし、上記の異なった波長域の研究者の間の研究交流を支援した。また春秋の日本天文学会年会のおりには、総研メンバーおよび関係研究者の集会を持ち、研究情報の交換の機会とした。また平成7年2月7-9日には国立天文台において「太陽および恒星の超高温、高エネルギー現象」研究会(参加者約90名、講演数50)を催し、まとめの研究発表を行った。そして、3年間の最後の年に当たって、3年間の活動のサマリ-にあたる国際会議を国際天文学連合の主催するIAUコロキュームとして行うことを計画、これが幸いに認められ、平成7年5月に幕張において開催された。これにおける日本側の発表はおおむね本総研(A)に関連しているので、これの原稿をもって成果報告に替えさせて頂くこととした。なお、この国際研究会は国際研究集会「太陽大気中の磁気動力学現象--恒星電磁活動のプロトタイプ」の準備のための総合研究(B)にもサポートされている。
著者
豊田 裕 中潟 直己 馬場 忠 佐藤 英明 斉藤 泉 岩倉 洋一郎
出版者
東京大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1993

1)卵成熟と受精の制御A)卵胞液から卵丘膨化を促進させる熱に安定な物質を分離した。また本物質は精子核の膨化に対しても促進的に作用することを明らかにした。B)c-mos遺伝子欠損マウスの卵成熟と受精について解析するとともに、c-mos遺伝子欠損により単為発生が誘起されることを明らかにした。また、遺伝子ターゲット法によりアクロシン遺伝子欠損マウスを作製した。このようなマウスから得た精子は透明帯を通過し卵子に侵入するものの、受精成立に要する時間が長くなることを明らかにした。C)膨化卵丘に含まれる液状成分に受精促進作用のあること明らかにした。2)初期卵割の制御A)プロジェステロンにより単為発生の誘起されることを明らかにした。また、XX型胚とXY型胚を凝集したキメラ胚は雄になるが、組織学的に解析しキメラ胚における性腺の分化過程を明らかにした。B)エンドセリン遺伝子欠損マウスを作製しホモ化したものでは頭蓋顔面に奇形を誘発することを明らかにした。C)ラット初期胚の内部細胞塊に由来する多分化能細胞株を樹立した。3)初期胚保存の制御A)マウス初期胚の凍結保存条件、特に凍結に用いる溶液や平衡時間について解析し、胚保存の最適条件を決定した。また、超急速凍結法によりラットの受精卵の凍結保存に成功した。
著者
庄司 興吉 佐久間 孝正 矢澤 修次郎 古城 利明 犬塚 先 元島 邦夫 武川 正吾
出版者
東京大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1992

上記研究課題のもとに、1992年から94年にかけて、関西国際空港の建設と開港をめぐる大阪地域の動向調査を中心として、東京都中野区、墨田区および秋田県稲川町における住民意識調査、ならびにパイロット・スタディーとして日本の「周縁」沖縄・離島地域の調査研究を行った。それらを、大阪地域の調査結果を中心として、報告する。大阪調査の全体をつうじて明らかになったのは、首都圏の場合とは対照的に意識的に民間主導で進められてきた関西地域浮揚策の、政治的文化的に個性豊かな積極面と技術的経済的に経営困難な消極面とのコントラストである。これは、関西のめざす「双眼型国土形成」が東京一極集中の流れに抗して行われねばならぬ以上、かなりの程度まで不可避の矛盾であるが、われわれが調査したかぎり、この矛盾を根本的に解決する展望は経営者団体や自治体あるいはそれらの協議機関にも現れていない。そのため関西地域の自己浮揚策は、しばしば「イベント型の連続」などといわれるような、一回生起的で不安定な側面をもたざるをえなくなっている。今年1月になって阪神地域が大震災に見舞われたが、この事件が関西地域の長期的浮揚策にいかなる影響を及ぼしていくか、なお今後が注視されなければならないであろう。日本全体の社会構造と社会意識については、世界経済の情報化と円高のなか構造改善を要求されている企業システムと、高齢化と少子化による社会問題をかかえる家族・生活体とを基礎に、やみくもに「国際化」しようとする文化装置のかたわら、「国際協力」などについて確固とした道が見いだせず、ますます混迷の度を深めていく政府システムの姿が鮮明になってきた。これについては、これからなお検討を加え、研究成果を刊行する予定である。
著者
岡田 弘 筒井 智樹 大島 弘光 宇井 忠英
出版者
北海道大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1992

フィリッピン・マヨン火山で1993年2月2日に発生した火砕流噴火は、事前の警告もなく70余名の犠牲者を出した。また、火山から6kmの永久居住禁止地区に加え、南東側では半径10km迄の数万人の地域住民が避難している。本研究班では、平成5年2月26日から3月5日の期間にフィリッピン火山地震研究所の協力を得て調査研究を実施した。地震記録、噴出物、過去の噴火記録などを手がかりに2月2日の火砕流の特性を解析した。爆発型で始まり、南東ガリーを崩落直進し屈曲点での破砕が、激しいサージと多数の死者の原因らしい。地震や空振の共同観測資料では、3月1〜4日にかけての火山灰噴出や小規模火砕流の実体を明らかにすることができた。マヨン火山はフィリッピンで最も活発な火山として噴火前から手引書の作成、観測所の整備、災害予測図の作成等注目する取り組みがなされていた。にもかかわらず、2月2日の噴火に先立ち直前前兆としての群発地震や徴動を時間・日単位で認めることは出来なかった。長期的には数ケ月単位の地震活動の衰勢、また顕著な前兆として周辺での井戸水位の低下があった。火山地震研究所は、二酸化硫黄放出量や地震徴動等の数値情報が盛り込まれた火山情報を発表し、5段階の警戒レベルを用いている。学ぶべき点も多い。避難所や大学での火山活動説明会や国際火山学会の映像ビデオの活用、更にマスメディアとの対応などに接する機会もあった。また、噴火直後から1ケ月間駐在し調査研究を行っていた米国の火山学者と、緊密な連絡をとると共に、調査における多大な授助を受けた。運転手付きの外交官車両や人工衛星通信設備の利用など、災害時の緊急調査研究の内容について、今後の教訓として得るものも多かった。
著者
中野 三敏 板坂 耀子 渡辺 憲司 松崎 仁 迫 徹朗 今井 源衛
出版者
九州大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1989

「学海日録」の翻字作業は順調に進み、完成した原稿が続々と代表者のもとに寄せられた。出版元の岩波書店によって整理され、活字が組まれるのを受けて、最後まで残る難読箇所の解読のため、代表者及び分担者は岩波書店に借り出されている「学海日録」の原本との照合を行なった。その結果、解読不能として残ったのはほんのわずかとなった。昨年11月に『学海日録』第7巻が岩波書店によって刊行され、以下隔月に続刊されている。3月14日には第3回配本の第9巻が出る。翻字作業と並行して、依田学海の「学海遺稿」その他の詩文草稿類の目録作成にも従事し、それらと「学海日録」、及び吉川弘文館から刊行されている別宅日記「墨水別墅雑録」との比較を行なった。あくまでも「学海日録」読解に資するためであるため、比較対照は不十分に終わったが、詩文と日録を読み比べる時の便は保証され得る。また、学海における詩文と日録の占める位置が互いに補い合う性格のものであることが確認できたのも、幕末・明治の代表的文人の精神生活を知る上で大いなる手がかりとなった。また、「学海日録」が幕末・明治文化史の一級資料たることが改めて認識された。特に明治の文学者達の動向や文学観、作品評価や人間性などにおいて、全く新しい知見を与えてくれることも少くなく、明治文学史の大幅な書きかえを必要とする場合もあることを言い添えておきたい。今後は「学海日録」の一番有効な索引のあり方を模索しつつ、具体化を図ってゆくつもりである。
著者
後藤 仁 明石 博臣 酒井 健夫 高島 郁夫 橋本 信夫 品川 森一
出版者
帯広畜産大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1985

我が国で分離されている代表的なアルボウイルスとして、日本脳炎ウイルス(JEV),ゲタウイルス(GTV),アカバネウイルス(ABV)があげられる。日本脳炎の発生は近年日本では激減しているが、東南アジアではしばしば流行して多数の患者が出ている。GTVは馬に発疹,浮腫を伴う熱性疾患を起こし、ABVは牛の死、流産の原因となり,ともに周期的に流行している。またダニ脳炎ウイルスも分離されているが、その生態学的意義は不明である。本研究では、日本各地の家畜についてウイルス抗体の変動,ウイルス分離,抗原分析などからこれらウイルスの動物間での動向を明らかにしようと試みた。その結果、北海道で収集した馬血清のGTV抗体は道南と道北で抗体保有率が高く、7月〜11月間に本ウイルスの伝播のあったことを明らかにした。一方、1985年6月札幌近郊で豚のJEVによる異常産の発生と媒介蚊の収集成績から自然界におけるJEVの基本的な存続様式に新たな問題を提起した。JEVの全国的動態では、牛の血中抗体を指標とした場合、南部の鹿児島県から北部の岩手県に、4月から9月にかけて抗体陽性牛が漸次北上する傾向を明らかにした。ABV日本分離株10株とオーストラリア分離株2株のフィガプリント法によるRNAの解析では、両国分離株間はもちろん、日本分離株間でも相違がみられ、本ウイルスの変異がかなりの頻度で起こっていることが推定された。このことは単クローン抗体によるウイルス抗原蛋白の分析でも確認され、ABV感染の疫学を解明する上に極めて重要である。次にダニ脳炎ウイルスの根岸株の単クローン抗体による中和反応の機序に関する基礎的研究では、多種類の抗体を混和したとき、本ウイルスの中和活性が著しく増強され、この反応系はmulti-hit modelとなることが示唆され、今後のアルボウイルスの基礎的研究に大いに寄与するものと考えられる。