著者
南部 鶴彦 花堂 靖仁 舟田 正之 阿波田 禾積 室田 武
出版者
学習院大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1990

本年度は昨年度に蒐集されたデ-タにもとずき,異なる性格を持つ事業所や会社の発電コストについて実証的な数量分析がなされた。これによって電力会社とコストの面でどれほどの乖離があるか,そしてそれが将来の競争についてどのような効果を持つかが検討できる。一方海外における電力事業の変化はめざましいものがあるので,これを特にDSM(Demand Side Management)に着目し,ヒアリングと調査を行った。アメリカでとられたこの制度を日本にそのまま移入することは難しいが,そのアイディアを生かすことができないかが検討された。またアメリカの発電部門ではますます規制緩和が進み,競争メカニズムの利が実現しようとしている.こうした発電部門の自由化は送配電部門に対してどのようなインパクトを与えることになるのかについて,ヒアリングを行うとともに,法制度・経済理論の両側面から研究を行った。わが国でみれば,コジェネレ-ションの進展が,発電部門の自由化に近い意味あいを持つことが考えられる.しかし現在のところ,コ-ジェネの発展に対する諸規制の存在が,これを簡単には実現させていない。そこでどのような法規制がコ-ジェネを阻んでいるか,そしてそれは経済学的に見ればどのような効果を持つことになるのがについて,分析がなされた。同時に,競争の発展とともに電気料金の構造は変らざるをえず,その基礎をなしている会計的枠組にも変化が求められている.この点について会計学の視点から検討が行われた。
著者
藤田 英典 紅林 伸幸 酒井 朗 油布 佐和子 名越 清家 WONG SukーYin
出版者
東京大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1994

本研究は、日本、カナダ,アメリカ、イギリス第8カ国の国際比較共同研究「教師の専門性と教師文化に関する国際比較研究(略称:PACT)」の一環として、PACT日本チームによって行なわれたもので、学校教育及び教師の仕事の改善に資することを目的として、文献研究、エスノグラフィ調査、及び質問紙調査を行い、日本における教職の専門性と教師文化の構造・特質について考察したものである。その成果と知見は多岐にわたるが、主なものは以下の通りである。1.教師文化と教育実践に関するエスノグラフィ的研究平成6年度に1年間にわたって4地域の小・中学校各1校(計8校)でフィールドワークを行ない、教師の仕事と教師文化について考察を行った。その成果の一部は、「II.研究発表」欄に記載の論文等にまとめられている。また、その知見の一部としては、教師の仕事が多種多様な作業(ワーク)によって構成されており、それが重層的に展開していることのなかに、教職の専門性や教師の多忙感の基盤があることが明らかにされた。2.教師の生活と意識に関する質問紙調査平成7年7月〜9月に全国8都県の小・中学校教師2053人を対象に実施し、教師の生活と教師文化の構造について考察した。その成果の一部は、「II.研究発表」欄に記載の研究報告書にまとめられている。同報告書において、教師の同僚性、教職の専門性、教員集団の構造、学校の組織構造などが考察・解明されている。3.PACT国際会議等での研究成果の発表平成7年4月の全米教育学会大会(AERA)、同年同月のロンドンでのPACT国際会議等、研究成果の一部を発表した。なお、今後さらに、英文で研究成果をまとめ公表する予定である。
著者
登倉 尋実 飯塚 幸子 奥窪 朝子 田口 秀子 田村 照子 大野 静枝
出版者
奈良女子大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1989

"健康・快適"をキャッチフレ-ズとして,様々な特殊機能を付記していることを誇大な表示と広告で示した衣料品について,平成元年度に実態調査を行った結果,着用効果が確認されていないものや弊害が考えられるものが含まれていた。広告の実態が,果して表示通りの機能を有しているかどうかを,また人体生理に与える影響について,実験室及びフィ-ルドにおける着用実験で,平成2年度から3年度に調べ,得られた主な実見は女下の通りである。登倉はウォタ-ベットについて,使用時には通常のベット使用時よりも深い睡眼が得られるが水温設定には注意を要することを報告し,飯塚は睡眼実験によって,特殊機能を付記した部位別温度制御可能電気毛布の問題点をあげ,伊藤は拘束衣服の着心他と整容効果は数gf/cm^2の被服圧によって影響を受けることを,大野は女子大生約50名について,サポ-トタイプパンストの使用実態,着用感のアンケ-ト調査結果と,市販のサポ-トタイプパンストを収集分類して10種を選んで行った着用実験の結果を,奥窪は成人女子被験者及び発汗マネキンによるサウナス-ツ着用実験の結果をス-ツ下に着用する肌着素材及び発汗量レべルとの関連について,田村は,パンストによる過度の身体圧迫は血流を抑制することを,出口は健康サンダルには明確な仕様書や品質表示がないこと,またサンダル底面の刺激点と使用者の土踏まずとの適合性は個人差が大きいことを,栃原はー5℃の人工気候室内で一般のスキ-ウエアと,特殊加工し保温性に優れると称しているスキ-ウェア-とを着用した実験結果を,緑川は寒冷環境において特殊下半身加温用足温器を着装時には非着装時よりも作業能率低下が少なくなることを,中谷は衛生加工は洗濯によりその効力が失われることなどを,綿貫はハイサポ-ト型パンテイストッキングを着用すると心臓への静脈還流量が増し血行が改善された可能性があることを報告した。
著者
権藤 与志夫 馬越 徹 石附 実 西村 重夫 望田 研吾 弘中 和彦 丸山 孝一
出版者
九州大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1989

第一年度においては、留学の効果に関する理論的研究を中心にすすめ、とくに留学経験者個人に対する留学の効果測定のための指標の作成を試みた。それにもとづき留学生送り出し国につてWho´s Whoなどの分析を行い、留学先国、留学先大学、取得学位、専攻分野と留学経験者の就職、昇進などとの関連をみた。さらに、留学経験者の価値意識について、留学国に対する態度、留学の効果に関する意識などについて、特に韓国を中心にして分析した。第二年度では、まず送り出し国における留学の効果について、以下の点に関して分析を行った。第一に頭脳流出の問題に関しては、韓国における頭脳流出対策としての「頭脳還流」政策、あるいは台湾における帰国留国生の増加現象にみられる留学における先進国化の事例が明らかにされた。第二に国による留学の統制的政策の存在とその影響の重要性に関しては、インドなどにおける留学生選抜に際しての政府の影響力のもたらす波及効果を分析する必要性が指摘された。受け入れ国にかかわる留学の効果については、とくに留学生受け入れ大国アメリカに関して、以下の点が明らかにされた。第一に、留学の個人に対する効果については、取得学位、専門分野などの要因によって留学の効果に関する意識に違いがみられる。第二に、高等教育機関に対する効果については、国内学生の減少の補充による経済的効果を高等教育関係者は意識している。第三に留学生受け入れの教育的効果として留学生のプレゼンスによるキャンパスの国際化が期待されていることが、アメリカの高等教育機関の留学生担当者に対する質問紙調査においても明らかとなった。これらの研究を通して、留学の効果・影響の考察においては、とくに留学のコストとの関連において精緻なコストーベネフィット分析の必要性が認識された。
著者
長岡 顕 楠 貞義 深沢 安博 戸門 一衛 間宮 勇 松橋 公治 中川 功
出版者
明治大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1991

スペインのEU加盟とGATT体制の強化と発展の結果、外資の導入を主軸として産業構造の再編が進んだ。貿易体制の整備や非関税障壁の撤廃にともなう国内法制度の改廃も、EUの中では遅い方に属しながらも進捗している。それと平行してスペイン経済はEU経済に強く組み込まれるに至り、その結果として国内工業生産力は上昇した。VWなどの資本引上げ問題が発生しているものの、自動車産業は南欧向け低価格車の生産拠点化という特徴を明確にした。またME化の浸透による外国の情報処理メーカーの進出も顕著であった。電気通信部門はEU統合の最大の目的の一つといわれている。ヨーロッパレベルでのスケールメリットの実現に向けて、スペインの同部門の大幅な資本構成と技術の調整が予定されている。農業部門は、南部と地中海沿岸部における施設農業化と果実蔬菜生産への特化が実現し、EU域内向けの新主産地が形成された。しかし生産性が低い北部の小規模牧畜生産やカスティーリャの穀物地帯は淘汰されつつある。EU加盟は一般的にはスペインにはプラスになったが、加盟以前の社会経済問題が解決したわけではない。80年代後半に経験した経済成長は、一時的には雇用の改善に貢献したが、「雇用なき成長」であったために、失業率は90年代に入って再び上昇した。アンダルシアに至っては30%台を推移している。価格競争にともなうコスト抑制も大きな課題であり、高失業率の一方で、労働集約性の高い紡績業や季節性が強い農業部門には外国人労働者が受け入れられ、送り出し国から、受け入れ国へと変わった。スペインの各地域の不均等発展も改善はみられないままである。日本企業のスペイン進出地域分布をみても、二大拠点であるカタル-ニャとマドリードに集中している。外資を地域開発へと組み込ませる政策も進行させたが、順調だとはいえない。こうした不均等発展の解消のために、自治州への分権化の過程も進んだが、運営のための財源問題などは未解決となっている。
著者
今井 知正 中村 秀吉 (1985) 丹治 信春 野家 啓一 村田 純一 大庭 健 藤田 晋吾 土屋 俊 長岡 亮介
出版者
千葉大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1985

われわれの研究課題は「現代科学哲学における実在論と反実在論」であったが, われわれは三年間の研究を通じ, 個別的な論点はともかく, この研究課題についての次のような全体的な概観を得ることができた.レーニンの『唯物論と経験批判論』を今世紀の実在論のひとつの出発点として取り上げることができる. 彼は「宇宙は人間が存在する前から存在していた」「人間は脳なしで思考することはできない」という二命題を不可疑とみて, 観念論に対する唯物論を擁護した. しかし, フレーゲとウィトゲンシュタインに端を発する論理的実証主義の言語論的展開は言語を哲学の中心に据えることによって, 〈物質-精神〉の枠組をたんなるひとつの哲学問題としての地位にまで引き下げたのである. 超越的実在を語ることも超越的観念を語ることもわれわれに理解可能な言語を越えることであるから, 従来の実在論と観念論の対立は無意味となった. だが, 論理実証主義の言語論的展開もまた不徹底をまぬかれなかった. そしてタメットが二値原理を基準にして実在論と反実在論を定式化したときにはじめて〈物質-精神〉の枠組自体が撤去され, それに代わって古典論理と直観主義論理の対立が実在論論争の全面に現われてきた. 彼は, われわれの言語の論理を二値原理の貫徹する古典論理であるとすることに疑問を提起し, 二値原理を保持する実在論は幻影ではないかと主張した. 要するに, 〈物質-精神〉の枠組が〈世界-言語〉の枠組に取って替わられたとき, 実在論は劣勢に回ったのである. ダメットの提起した論点はなお検討に値する点を多く含んでいるが, 一言でいってわれわれは, 実在論と反実在論の対立の根本問題が指示の理論における言語の役割と言語理解の問題にあると結論することができる. そしてこれはまたわれわれの研究の次の課題でもあるのである.
著者
森脇 和郎 鈴木 仁 酒泉 満 松井 正文 米川 博通 土屋 公幸 原田 正史 若菜 茂晴 小原 良孝
出版者
国立遺伝学研究所
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1989

日本産野生動物種には、日本列島の生物地理学的な位置づけを反映して独自の分化を遂げたものが少なくない。これらの起源を解明することは、日本の研究者が日本に生息する種を対象にするという「自国に目を向ける立場」を別にしても興味深い。従来、日本産野生物動種については形態的分析に基づく分類学的および生態学的な研究がおもに行われてきたが、この方法論だけではこれら野生種の起源を解明することは難しい。近年著しい進歩を遂げた分子遺伝学的解析法は、集団遺伝学的な種の捉え型と相まってこの問題の解決に大きな力を発揮することが期待される。一方、わが国における人口の増加、経済活動の増大に伴う国土の開発、自然環境の汚染などによって、自然界における野生動物種の分布が改変され、時にはそれらの生存する脅かされるに至った現状を注視すれば、日本産野生種の分布や起源を検討するタイミングは今をおいてない。本研究は、日本産野生動物種の中から各分類群に属する代表的な動物種を選び出し、種内変異や近緑グループとの関係を明らかにして従来の分類体系を再検討するとともに、系統分類学および生態的に異なる動物種の起源について総合的に比較検討することを目的としている。ハツカネズミ・イモリ・メダカ・ウニ・ホヤなど日本に古くから生息する動物種は生物実験材料としての実用性と将来性に富む素材であり、実験動物の開発・利用という観点からもその重要性は見過ごすことはできない。野生種の起源を遺伝学的な観点から解明する研究は、必然的に種分化の遺伝機構にも踏み込むことになろう。この機構の基盤にはHybrid dysgenesisという現象にみられるように、その根底には発生機構、生殖機構の遺伝的制御という問題も包含しており、今後の生物学の新しい展開への有効な基盤となる可能性を秘めている。
著者
堀尾 輝久 中野 光 柴田 義松 小川 利夫 竹内 常一 大田 〓
出版者
東京大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1985

本研究はつぎのような課題意識のもとに発足した. 本研究は, 教育学諸分野の研究者の共同研究により,特に中等教育制度を中心に実態分析や提言を整理, 検討し, 現代社会における子どもの成長, 発達をよりよく保障する教育制度原理, とりわけ青年期の発達にふさわしい中等教育のあり方を究明することを目的とする. 本研究は次の5つのワーキング・グループを置き, 調査研究を行ってきた. 1教育改革理念 2現代社会と学校制度 3教員養成制度 4教育行財政制度 5教育改革の国際動向. かくクループは, 「青年期にふさわしい中等教育のあり方」検討を共通の問題意識とし, 特に第二グループを中心に各グループもそれに協力する体制をつくりながら研究会を重ねてきた. そこでは, 戦後中等教育改革の理念と, これまで試みられた各種の中・高一貫教育の実態調査, 新しいタイプの高校づくり, 入試改善にとりくむ各地の高校の実態調査(東京, 埼玉, 愛知, 長崎, 佐賀, 京都, 長野)を行い, 総合選抜制度の社会手機能と今後の動向, 推薦制(宮崎, 長崎)をどう考えたらよいか, 特色ある高校づくりは果して個性の教育に役立っているか, 等の視点から, 教育委員会や教職員組合の見解, PTAの意見等のヒアリングを行った. また, 中・高の接続問題についても, 中学・高校の双方から問題点をとらえようとした. また, 進学・就職指導の実態, 一貫カリキュラムのねらいと, カリキュラム編成上の留意点, 専門教育・職業指導の実態等の資料収集を行い, これらの改善努力が, 青年期の人間発達にとってどのような意味をもつかを検討した. これ迄60, 61, 62年に研究成果を日本教育学会大会で報告した他, 5回に亘る公開シンポジウムに参加しその成果の一端を報告した. 又学会報告の為に提出した研究冊子(「現代社会と学校制度」1984年8月, 「教育改革と教育実践」1987年8月)には本研究の成果の主要なものが表現されている.
著者
佐古 順彦 耳塚 寛明 池田 輝政 牟田 博光 藤岡 完治 野嶋 栄一郎 浅田 匡
出版者
早稲田大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1992

日本で唯一の大規模総合選択制高校である伊奈学園を多面的に評価した。学校の設置計画と運営の実際を概観した後で、多様な教科の選択制、3300の生徒を収容する大規模、大規模を小規模に分割するハウス制(学校内学校プランあるいはキャンパスプラン)というこの学校の独自の特質の効果を検討した。主要な結果は以下のとおりであった。1.教科教室制と大規模な学校建築が教師の空間利用を制限している。2.大規模校の場面の匿名性と小規模校の部分(特にホームルーム)の親密性の均衡が重要である。3.教科選択と満足の関係に男女差や学系(コース)の差がみられる。4.卒業生の自己像に自己実現と同時にシニシズム(冷笑主義)の傾向がみられる。5.進路指導の事例調査によると、進学や職業希望の形成に加えて高校生活の指導が重要である。6.進路選択に関する他校との比較調査によると、大学進学希望の要求水準は他校のように学力によって高低に二極分化せず、比較的に高い水準を維持する。7.学校経営の財政基盤の分析によると、建築や設備などの資本的支出はやや大きいが、本務教員あたり生徒数や生徒一人あたりの支出や標準運営費は平均的である。8.教育情報処理システムは、この学校の大規模とカリキュラムの個別化に必須のものであるが、情報処理にともなう作業の多様さと作業量の多さが特徴である。教務関連、情報教育関連、教科教育関連のシステムの増強と人材の育成が必要である。
著者
糸川 嘉則 田沼 悟 小林 昭夫 森井 浩世 矢野 秀雄 五島 孜郎 KIMURA Mieko YOSHIDA Masahiko
出版者
京都大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1986

マグネシウムの必要性とその作用を解明するため実態調査, 動物実験, 臨床的研究を実施した. 実態調査においては, 種々な階層を対象にして聞き取りによる食事調査を行い, マグネシウム摂取量を算出した. その結果1日のマグネシウム摂取量は155〜300mgで, 出納試験から推定されるマグネシウム必要量を下回る摂取状況であることが判明した. 小動物による実験ではリン摂取量の増加により発生する異常がマグネシウム投与により抑制される事, リン欠乏食にすると高マグネシウム尿が発生するが, 腎不全状態にしてもマグネシウムの尿細管での再吸収抑制が機能している事, 脳卒中易発症ラットにマグネシウムを負荷すると尿中マグネシウムとカルシウムの排泄量が増加し, 血圧の上昇が軽度抑制される事が解明された. めん羊を用いた研究では甲状腺, 副甲状腺摘出めん羊では尿中マグネシウム排泄量が多くなり, 低マグネシウム血症を呈し, 絶食をさせても尿中マグネシウム排泄の増加は続き血中マグネシウム濃度は急激に低下した. 又, マグネシウムの投与による血中のマグネシウムの上昇が大きく, 副甲状腺ホルモンは腎臓でのマグネシウム再吸収を調節し, カルシトニンは血中マグネシウムの上昇を押える作用がある事が示唆された. 臨床的な研究ではリンパ球内マグネシウム濃度を指標とした結果, 超未熟児はマグネシウム欠乏状態にある事が解明され, マグネシウム含有輸液により改善する事が示された. 一般人では初老期からマグネシウム欠乏傾向になる. 小児ネフローゼ症候群では低マグネシウム血症を呈し, ステロイド療法を実施する事により正常化する事が解明された. 腎不全患者では高マグネシウム血症を呈するが, この病態は副甲状腺亢進症を抑制する利点もあり, その対処には検討の要がある事が示された. 更に, 細胞内のイオン化したマグネシウムを測定する方法について検討が加えられた.
著者
秋永 一枝 兼築 清恵 鈴木 豊 佐藤 栄作 上野 和昭 金井 英雄
出版者
早稲田大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1987

未発表資料索引の刊行作業は、「アクセント史資料索引」として、昭和62年度に秋永一枝・後藤祥子編『袖中抄声点付語彙索引』(6号)、鈴木豊編『日本書紀神代巻諸本声点付語彙索引』(7号)、昭和63年度に坂本清恵編『近松世話物浄瑠璃胡麻章付語彙索引』(8号)、金井英雄編『補忘記語彙篇博士付和語索引』(9号)を編纂、刊行した。また、上記資料刊行とともに、研究分担の資料調査に伴う問題点や研究を発表した。秋永は、「袖中抄」「古今集」の声点とアクセントに関する論考を4篇発表。上野は「平曲譜本」の記譜とアクセントに関する論考を2篇。坂本は「近松浄瑠璃本」の記譜とアクセント、義太夫節のアクセントに関する論考を4篇発表。鈴木は「日本書紀私記」「古語拾遺」の声点に関する論考をそれぞれ発表した。(裏面記載の論文)また、これまでに発表してきたアクセント史索引を総合的にコンピュ-タで検索できるよう「国語声調史資料索引集成」の編纂作業を行ってきた。これまでにコンピュ-タ入力を終了し、今後資料の追加や校正作業を進め、多くの人に利用の便を計るよう研究作業を続ける予定である。以上の史的アクセントの研究と同時に、アクセント史解明に不可欠な日本諸方言アクセントの調査と位置付けに関する研究を行った。昭和63年度に佐藤栄作編『アクセント史関係方言資料』として、テ-プ2巻と活字資料集を刊行した。また、佐藤が高松アクセントについての論考を発表した。以上のように、文献からのアクセント史解明の研究と、方言からのアクセント史解明へのアプロ-チを進め、成果をあげることができた。
著者
岡田 吉美 中島 捷久 渋田 博 野本 明男 石浜 明 四方 英四郎
出版者
東京大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1984

クローン化されたタバコモザイクウイルスcDNAから感染性RNAを転写する実験系が確立された。この系を用いて130Kタンパクの停止コドンとその近辺に変異が導入された結果、130Kタンパクと180Kタンパクが複製酵素であることが確かめられた。ホップわい化ウイロイド,キュウリペールフルーツウイロイドおよびブドウウイロイドの病原性と分子構造の解析を行ない、これら3種類のウイロイドは塩基配列が若干異なるが病原性は同じであることが明らかにされた。インフルエンザのRNAポリメラーゼはキャップRNA切断,プライマー依存性RNA合成,ポリA付加,誤転写修復機能などの多機能をもっていることが発見された。また血球凝集素遺伝子に部位突然変異法によって多数の変異を導入し、その抗原構造の解析とシアル酸結合部位の解析を行った。HVJの全遺伝子構造を解明すると共に、そのmRNAの合成機構と非構造Cタンパク質の機能について解析した。パラインフルエンザ3型ウイルスの病原性に関与する遺伝子についても変異株の比較で解析を行った。ポリオウイルスの感染性のcDNAクローンを利用し、各種人工変異ウイルスを作製した。それらの複製効率および神経毒性発現を含む生物学的諸性質を調べた結果、ゲノム各領域間の相互作用がウイルスの複製および遺伝情報発現に重要であることが示唆された。バクテリオファージGAおよびSPの全遺伝子構造を決定するとともに、QB,SPの活性のあるRNA複製酵素遺伝子クローンを作製した。またGA→MS2の抗原変化に関与するコートタンパク質のアミノ酸を同定した。リンゴさび果ウイロイドの全塩基配列を決定した。その配列は今までに構造が明らかにされているどのウイロイドとも類縁関係はなく、新しい種類のウイロイドであることが明らかにされた。
著者
山本 光璋 前田 敏博 小倉 久直 井上 昌次郎 佐藤 俊輔 武者 利光
出版者
東北大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1992

本総合研究では、まず班員全員により、生体1/fゆらぎ現象についてレビューを行い、続いて代表者を中心として、ネコの心拍リズムの長時間計測と解析、さらには、脳単一ニューロン活動の計測と解析を行い、その結果について討論してきた。1.これまでに知られているあらゆる生体信号における1/fゆらぎ現象のサーベイをまず行った。細胞レベルでは、下等動物の神経系における自発発射や軸索中のインパルス伝導、ネコの脳単一ニュロン活動のレム睡眠時における1/fゆらぎ、器官のレベルでは、最も典型的な心拍リズム、血圧、呼吸リズム、瞳孔径及び焦点調節、自律神経活動、α波の周波数ゆらぎ、さらに個体レベルでは、身体動揺やヒトの手による拍子とりリズム、これら広範囲にわたる生体現象に1/fゆらぎ現象がみられることを再確認した。周波数範囲は現象により異なるが、10^<-5>から10Hzの帯域に及ぶ。2.これらの生体1/fゆらぎ現象における最も重要な関心事は、その低周波限界である。ヒトの心拍リズムでは、10^<-1>Hz以下10^<-4>から10^<-5>Hzまで1/fゆらぎがみられるこいうことが経験的に知られてきた。10^<-5>Hzとは約一日のタイムスケールに相当する。本研究では、ネコを用いた長時間心拍記録実験が中心的に行われた。3.ネコの心臓に直接電極を取り付け、連続4日間にわたる計測を異なる条件下で3回成功させた。その結果、10^<-4>Hzまで大枠としては、1/fスペクトル特性を示すことが確認された。また、連続6日間(144時間)にわたって行った記録実験の結果では、10^<-5>〜10^<-4>Hzの帯域に於いて、スペクトルは平坦化する傾向を見せた。スペクトルの低域での平坦化傾向は、ネコが有限の大きさのケージ内で、外界と遮断されたことにより行動が抑制され、心拍リズムの超低周波成分が減弱したものと推測された。ネコの脳単一ニューロン活動については、レム睡眠時における1/fゆらぎがエピソードを越えて一貫したものであることが示され、これがホップフィールド型の相互結合型ニューラルネットワークモデルのダイナミクスとして説明することが示された。また、確率過程として見たときの1/fゆらぎ現象の新しい解釈が与えられ、今後の数理的な研究の基礎固めができた。
著者
工藤 雅樹 樋口 知志 熊田 亮介 辻 秀人 榎森 進 甘粕 健 村越 潔
出版者
福島大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1993

(1) この研究を推進するために岩手県岩手郡岩手町の横田館遺跡と西根町の子飼沢山遺跡、暮坪遺跡の発掘調査を実施した。その結果横田館遺跡は周囲に多重の土塁をめぐらすこと、発掘した2基の竪穴住居の構造や集落全体の構造から、常時居住した集落ではなく、13世紀以後の防御性の高い集落であろうとの結論を得た。子飼沢山遺跡は海抜500メートルを越える高地の尾根上に存在する。大型と小型の竪穴住居各1基を発掘調査し、土師器、多量の鉄器、炭化した穀物粒などが出土した。遺跡の年代は土師器の形態から10世紀後半ころと考えられる。暮坪遺跡は海抜430メートルの暮坪山の頂上一帯に広がる遺跡で、集落の主要部は堀と土手に囲まれている。住居跡二基を発掘した結果、集落は大形と小形の二つのタイプがあることが確認された。遺跡の年代は出土した土師器から考えて10世紀後半ころのものである。(2) 実地踏査の結果によれば、東北北部には学界に知られていない多くの平安時代高地性集落が存在する。それらは立地や構造などによりa,平地との比高差数十メートル以上の高地に立地し、特に濠や土塁などを持たないもの、b,丘陵の突端部に存在し、基部が濠で切断されているもの、c,周囲に濠や土塁をめぐらすもの、などに大別される。また年代ではそしてこのような特徴を有する集落は、低地に立地し、濠や土塁を有しない一般の集落とはことなる、きわめて防御的色彩の濃い集落であると考えられる。平安時代高地性集落の研究をさらに推進できることで、北海道のチャシとの関係も明らかとなるであろうし、防御的色彩の濃い集落を生み出した古代蝦夷社会の性格にもせまることができるであろう。
著者
野崎 守英 桜井 進 山田 隆信 中村 春作 山泉 進 百川 敬仁 豊澤 一 清水 正之
出版者
中央大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1990

1)私たちが意を用いたのは、なるべく多く討論の機会をつくることだった。1990年と91年にかけて、都合6度の会合の機会をえたが、これは、互いに考えを深め合うのにきわめて有効だった。2)私たちは、参加者の間に3つのグループを作った。ナショナリズム・ティーム、ロマンティシズム・ティーム、フォークロア・ティームがそれである。この3つのあり方が、18・19世紀に日本及びヨーロッパ領域に生じた言説のあり方を分析するのに、恰好の視角である、と私たちは考えたのである。そこで、何人かの思想家の思想を取り上げ、次の点を解明するために分析を施した。詳細は、報告書によって見られたい。(1)、「国家」がわれわれの時代において、世界空間を分かつ中心的な枠になったのはなぜか。そして、そうなったことにどういう問題点があるか。ナショナリズムの問題ということになる。(2)、ロマンティシズムといわれる思想動向が、心の故郷を過去に見出だすというかたちで登場するのはなぜか。ロマン的な心性というものは、まさにこの時期を特徴づけるものにほかならないが、その心の向きがかたどられているのはどんなヴェクトルか。(3)、この時期、ある人びとは、自分らの原型になると見做しうる生活のかたちを過去に探る営みをすることになる。こうしたフォークロアに関心を示す心のあり方に潜んでいるのはどういう動向か。3)この探究のあとで、私たちは、現代の倫理問題をどう考えたらよいか、その下敷きとなる知見をうることができたと思っている。今後、探究をより深めて行きたい。
著者
和達 三樹 佐藤 哲也 広田 良吾 西田 靖 西原 功修 市川 芳彦
出版者
東京大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1988

1.ビ-ム・プラズマ系での不安定波の成長過程におけるソリトンの役割が明らかにされた。ソリトン生成による不安定モ-ドの安定化が示され、実験によって確かめられた。2.大振幅磁気音波による共鳴加速という新しい粒子加速機構が提唱され、太陽フレア-における短時間内での粒子加速の説明に成功した。3.ダブルプラズマ発生装置を用いて、ポンプ波の周期倍化現象や電子プラズマ波の高調波励起等のカオス的振舞いを観測した。4.散逸項を含む「非線形シュレディンガ-方程式」を例にとり、ソリトン振動論を用いて、多ソリトン状態の性質を明らかにした。5.磁力線に沿って伝播する非線形アルフベン波を「微分型非線形シュレディンガ-方程式」を用いて研究し、その初期値と生ずるソリトンの個数との関係を明らかにした。6.渦糸近似により、ドリフト波の動的、統計的性質を調べた。特に、渦糸の拡散係数を解析的に求めることに成功した。7.不均一密度の磁化プラズマ中におけるドリフト波の伝播特性や自然励起波の性質が調べられた。磁場に対して右ねじ方向のEXBドリフトのシアを与え、小電極励起子に正のパルスを与えたところ、ソリトン的性質を持つ正電位のドリフト波パルスが伝播することが観測された。8.イオン波ソリトンの反射及び透過現象を観測し、その解析を行なった。また、大振幅イオン波の励起手法の開発が行なわれた。9.結び目理論において、より強力な新しい絡み目多項式がソリトン理論から構成できることを示した。このような多種多様な分野において、新しい非線形現象が見出された。研究計画には理論家、実験家がほぼ同数含まれ、互いの研究発展を促進できたことは非常にうれしく思っている。
著者
村上 周三 小林 信行 鎌田 元康 加藤 信介 内海 康雄 吉野 博 赤林 伸一
出版者
東京大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1993

1.はじめに省エネルギーを実現すると同時に清浄な空気環境の維持と快適性の向上を図るためには、従来の一様拡散の仮定ではなく、気流・濃度分布を考慮した換気効率の概念に基づく換気設計や換気システムの評価が必要である。そこで本研究は、換気効率を考慮した空調換気設備の評価方法の確立を目的として、文献調査、実験、数値計算、用語集の作成、測定マニュアル等の作成を行った。2.研究方法と結果(1)研究の現状調査国内外の文献と関連の規格、国際会議の研究動向等を調査し、換気効率の概念や評価法の実測例、実験例をまとめた。その結果、換気効率に関しては様々な概念があって、未だ確立されていない現状が明らかになった。(2)換気効率の概念について関連する用語集と一般的な換気システム図を作成し、各国での換気効率に関する用語の定義を整理した。(3)各種建物を対象とした換気効率の実測・セントラル換気システムを備えた住宅給気系ダクト入口にCO_2ガスを注入し、各室における濃度履歴を測定した。・実大居室模型空気齢を基にした各種測定法の精度・実用性などを実験的に検討した。・3室の縮小居室模型各室の換気効率を測定した基礎的なデータを得た。・事務所ビル単一ダクト方式を採用した事務所ビルの換気効率を実測した。(4)空気齢の測定方法に関するマニュアルの原案作成各種の実験や実測を基に、主要な換気効率指標である空気齢の測定法のマニュアル(原案)を作成した。(5)数値シミュレーション乱流計算プログラムによる空気分布に基づいて各種の換気効率指標の予測手法を検討した。3.まとめ換気効率の概念についての各国での研究の現状を明らかにし、関連用語集を作成した。また、各種建物について実験や数値シミュレーションを実施し、換気効率指標を計算した。これらに基づいて、主要な換気効率指標である空気齢の測定マニュアル案を作成した。
著者
蒲生 郷昭 石川 陸郎 加藤 寛 樋口 昭 中里 寿克 高桑 いづみ 久保 智康 阪田 宗彦 浅井 和春 上参郷 祐康
出版者
東京国立文化財研究所
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1993

1.実地調査初年度に調査できなかった石上神宮(天理市)蔵の鼓胴5点と鞨鼓、厳島神社(広島県宮島町)蔵の鶏婁鼓と振鼓、朝護孫子寺(奈良県平群町)蔵の二ノ鼓と三ノ鼓と鶏婁鼓、丹生都比売神社蔵和歌山県立博物館(和歌山市)寄託の鼓胴3点、東京国立博物館蔵の壱鼓と二ノ鼓、神谷神社(坂出市)蔵の鼓胴、福岡市美術館蔵の鼓胴、紀州徳川家旧蔵国立歴史民俗博物館現蔵の壱鼓と鞨鼓、国立音楽大学楽器学資料館蔵の三ノ鼓、鞨鼓の調査を行った。調査内容は初年度と同じで、熟覧、計測、写真撮影、X線写真撮影などである。2.研究初年度の調査と併せて、合計21機関が所蔵する57点の雅楽打楽器を調査することができた。その結果と文献資料にもとづき、音楽学の側面からは、楽器ごとに歴史、名称、用法などを考察した。そして、とくに壱鼓、二ノ鼓、三ノ鼓をめぐっては、その名称と規格の関係についての定説に問題があることが分かった。美術史学の側面からは、品質、形状・製作技法、保存状態、などを明らかにし、製作時期を推定した。3.研究成果報告書の編集と刊行報告書刊行のために、計測結果を法量表としてまとめ、楽器1点ごとのセクション図または見取り図を作成した。さらに美術的所見と、楽器の種類ごとの音楽的考察をまとめた。その結果は、B5判164ページの報告書となった。
著者
加地 信行 湯浅 邦弘 塩出 雅 岸田 知子 中林 史朗 大島 晃 滝野 邦夫 吉永 慎二郎
出版者
大阪大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1994

平成7年度科学研究費補助総合研究A「類書の総合的研究」(研究代表者・加地信行)は、当初の計画通り、全体研究と個別研究の二方面から鋭意研究を推進し、各々次のような成果を挙げることができた。まず、個別研究の成果は、『研究成果報告書(冊子体)』として発表した。ここでは、まず、類書の基本的性格、概念、成立などの大枠について、加地信行「類書における分類の基本的意味」、杉山一也「類書の概念」、南昌宏「分類にみる中国の世界観」、湯浅邦弘「類書の成立」が考察した。また、これらの総論を踏まえ、代表的な個々の類書について、神林裕子「『玉海』の分類-陳仕華著『王伯厚及玉海藝文部之研究』を通じて-」、岸田知子「『玉篇』と類書 付『玉篇』引書一覧」、佐藤一好「『喩林』の『百喩経』引用について」、塩出雅「『白氏六帖』について-その書誌学的事柄-」、滝野邦雄「紀州藩班『羣書治要』の版本について」、竹田健二「『尉繚子』と類書-類書における引用について-」、中林史朗「『藝文類聚』讀書箚記-巻一から巻五までを中心にして-」、藤居岳人「『群書治要』における古典籍の引用傾向-『論語』を中心として-」、矢羽野隆男「『図書編』成立の思想的背景」、湯城吉信「類書蒙求類について」吉永慎二郎「『爾雅』における雅言と博物-類書的理念の濫觴-」が各々考察し、これまで断片的にしか取り上げられなかった類書について、世界で初めて、中国文化という巨視的な立場から総合的な研究の成果を挙げることができた。次に、全体研究として、日本国内および海外の主要大学・図書館等所蔵の類書調査を行ない、その目録の草稿を作成した。この草稿は、京都大学人文科学研究所、神宮文庫、名古屋市蓬佐文庫所蔵分を初めとして、今後、その詳細な目録を発表し、広く内外の研究に供する予定である。