著者
山内 友三郎
出版者
大阪教育大学
雑誌
大阪教育大学紀要. 人文社会科学・自然科学 = Memoirs of Osaka Kyoiku University (ISSN:24329622)
巻号頁・発行日
vol.67, pp.261-275, 2019-02

日本人は伝統的には、他の東アジア諸国と同じように、大がかりな環境破壊を知らない社会に住んでいた。しかし現代では、アジア諸国にも消費化社会や工業化や資本主義などの波が押し寄せてきて、これが次第に環境を劣化させるようになった。自由・平等・人権と云った現代社会に必要不可欠のイデオロギーは、伝統的な社会の持つ人間に対する不自由で抑圧の多い社会から人々を開放して、より幸福にしてきたことは確かである。しかしその反面、西洋近代主義特有の人間中心主義は自然環境に対して負担をかけることになって、環境劣化を促す結果になった。現代社会のこの政治倫理最大の問題を解決する哲学はまだ存在しないような状態である。キリスト教の文明圏では、比類のないキリスト教文明と平和と秩序を謳歌することができたが、それはキリスト教の文明圏の内部のことであって、一歩国際社会に足を踏み出すや、そこにあったのは、キリスト教の暗黒面、すなわち異教国に対する侵略と自然征服と非西欧の植民地化であった。伝統的には儒教研究が盛んだった日本も、敗戦後は、キリスト教以外の宗教を敵視した連合軍の占領政策のために、儒教は貶められて衰退してしまった。儒教の代わりに、西洋近代主義の思想が主流を占めるようになった。戦後の日本哲学では、西洋哲学の歴史研究が盛んになり、日本哲学の主流は西洋近代哲学の亜流となってしまった。ところが、人類は1960年代から露呈してきた地球環境危機に直面して、西洋先進国では、環境保護運動が始まり、それに伴って心ある哲学者、思想家、宗教家などが環境倫理、環境哲学をスタートさせることになった。彼らは東洋の伝統思想に目を向けて、東洋思想の持つエコロジー的な世界観、自然観を見直すようになった。ここで、儒教を主とする東洋の伝統思想である、仏教・神道・道教と、西洋の伝統思想である一神教のキリスト教・ユダヤ教・イスラム教とを比べてみると、日本の伝統思想である神・儒・仏の三教は、三教一致と云われるように、互いに共存してきた歴史がある。他方、キリスト教・ユダヤ教・イスラム教は三教不一致で、いつでも対立・衝突することが多く、幾多の戦争の原因となってきたように見える。何故そうなるのだろうか。本稿はこれらの問題に対する一つの解決の試みにすぎない。叙述は次の順序に従って行われる。序 西洋近代主義と日本の伝統思想の闘争、I 梅原猛の挑戦:人類哲学の提唱、II 森の思想と「草木国土悉皆成仏」、III 加瀬英明の「史実を世界に発信する会」 IV 地球を救うヒューマニズム。
著者
三村 寛一 清水 一二三 吉田 智美 塩野 祐也 檀上 弘晃 上田 真也
出版者
大阪教育大学
雑誌
大阪教育大学紀要. IV, 教育科学 (ISSN:03893472)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.45-52, 2006-02-28

本研究は,K市在住の河内音頭愛好家である女性51名を対象に,河内音頭が中高年女性の身体にどのような影響を及ぼすかについて検討することを目的とした。その結果,河内音頭中の心拍数および運動強度は,中程度のレベルでほぼ一定であった。また,年齢と体脂肪率が上がるに伴い心拍数および運動強度は低い値を示した。以上の結果より,河内音頭は運動者の特性に応じた運動強度で運動ができ,その運動強度から中高齢者にとって安全な運動であり,健康づくりの運動プログラムとして効果的な運動であることが示唆された。
著者
大河内 浩人 松本 明生 桑原 正修 柴崎 全弘 高橋 美保
出版者
大阪教育大学
雑誌
大阪教育大学紀要 4 教育科学 (ISSN:03893472)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.115-123, 2006-02

報酬は報酬が与えられた行動に対する内発的動機づけを低めるので,報酬を用いた教育は避けるべきである,という考えが,小,中学校の教師や,教職志望の学生の間で広まっているようである。しかしながら,これまでの研究は,内発的動機づけに及ぼす報酬の有害効果は,極めて限定された条件下でしか生じないことを明らかにしている。本稿ではその代表的研究を紹介した上で,いくつかの条件が満たされたとき,報酬は,その報酬が与えられた行動への内発的動機づけを低めるが,かなり特殊な状況でなければ,実際の教育場面でこれらの前提条件が満たされることはないと結論した。
著者
佐藤 慶明 入口 豊 西島 吉典
出版者
大阪教育大学
雑誌
大阪教育大学紀要 第V部門 教科教育 (ISSN:03893480)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.11-22, 2014-02-28

1993年に10クラブからスタートしたプロサッカー・JリーグもJ1・J2を合わせて40クラブに増加し,現在はJ3リーグ結成が計画されるまでに発展した。Jリーグの誕生が,日本選手のレベルを格段に引き上げ,日本代表チームの4大会連続のワールドカップ出場と世界ランキング上位に躍進させる原動力となったことは疑う余地がない。しかし,順調に発展してきたかに見えるJリーグ・クラブ各チームにおいては,個別には経営上の様々な問題を抱えていることも事実であり,それらの問題の克服なくして今後の大きな飛躍を望むことは困難な情勢にある。本研究は,Jリーグ所属全チームの中でも親会社を持つクラブの順位浮上のためのマネジメント上の問題点を,J1・J2各1チームのクラブ経営のトップであった元社長,GMへのヒアリングを中心に事例的に明らかにすることを目的とする.特に本稿では,J1チームの中でもトップクラスの人気と観客動員数を誇る「浦和レッドダイヤモンズ」の元GMへのインタビューを基に,クラブ経営トップから見た経営上の実情,問題点,GMの現状とあるべき将来像を明らかにする。The purpose of this study is to make the actual conditions of management of a professional football club in Japan (J- league) clear through having an interview with the general manager of the J1- league and the J2- league clubs. Especially, the present study is to examine the actual conditions of management of the "Urawa Red Diamonds" (J1) through having an interview with the former general manager of the Urawa Red Diamonds. The finding and discussions on the following topics are presented in this paper: 1. An outline of the Urawa Red Diamonds 2. Contents of an interview with the former general manager of the Urawa Reds (1)about a management of the general manager (2)the relationship among the front, the staff, and the players (3)the duties of the general manager (4)the present state and the future of the general manager of the J- league
著者
金光 靖樹
出版者
大阪教育大学
雑誌
大阪教育大学紀要. IV, 教育科学 (ISSN:03893472)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.357-368, 1999-01

本稿では,個性と自己中心性の関係という本来,難物であるはずの主題を分析する手始めとして,まず,個性,自己中心性というそれぞれの言葉のベーシックな意味の確認を行ない,次いで,両者の共通の前提である「自分」という概念について問い直し,そして,そこからこの「ジコチュウ」という若者たちの奇妙な日常語の解釈,ひいてはそれを生み出す精神状況について若干の考察を試み,今後の検討の緒としたい。This paper attempts to find a clue by which we solve a difficult problem between individuality and selfcenteredness. First, basic meaning of the two words, individuality and selfcenteredness is confirmed. Second, a notion "I"-a commonbase of the two words-is analyzed. Third, by using such analyses, an interpretation of a curios word "jikochu", which the young in present-day Japan uses daily, is given and spiritual conditions which bears the word are examined. Results of these investigation will be a clue to a series of studies of individuality and selfcenteredness.
著者
小川 好美 朝井 均
出版者
大阪教育大学
雑誌
大阪教育大学紀要 4 教育科学 (ISSN:03893472)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.1-20, 2006-09
被引用文献数
1

性教育を施行する場合,どの時期に誰が実施するべきかなど,いつも議論の絶えないところであるが,最近は「行き過ぎた性教育」などがマスメディアに取り上げられ話題になるといった状況もある。ところで,ドイツの性教育に関する教材などを日本でも見かけることがあるが,文化的背景等の異なるところで作られたものであるということも注意しておかなければならない。本研究は,日独の性教育に関する比較検討を行うことにより,日本の性教育を客観視し,長所の再発見や応用の可能性を探ることなどを目的としたものである。日独の青少年の性交状況を比較すると性交率はドイツのほうが高かったが性交経験率の推移はどちらも上がりつつある傾向が見られた。性に関して日本では友人の影響が強いのに対し,ドイツでは親の存在感が強かった。家庭内において性教育若しくは身体発育や性に関する話をすることがあるとしても,その内容が異なるのではないかということが考えられた。ドイツではBundeszentrale fr gesundheitliche Aufklrung(連邦教育センター)から性教育に関する多種類のパンフレットなどが発行されており,具体的な性行動などについても書かれているが,愛情や様々な心情から取り扱い,身体に関する基本的な知識など多面的に盛り込まれ,また読みやすいように工夫されているものであった。一方,わが国ではそのような種類の刊行物は皆無に等しいといわざるを得ない。文化的背景,歴史,教育システム,学校と家庭の関係などが異なるので,日本とドイツの学校での性教育を単純に比較することは大変難しいが,その中で日本の性教育を考える上での参考になる点は,学校と家庭での性教育の関係,保護者と子どものコミュニケーションとその信頼関係であり,愛情や人とのつながりを考えさせ,正しい情報をわかりやすく伝えるための資料や手段などは重要であろうと考えられた。When we performs sex education, there is a difficult problem who should carry it out in which time in usually. This study was aimed at we regarded Japanese sex education as objectivity by doing comparison examination about sex education of Japan and Germany, and investigating rediscovery of a good point and potency of application. German one was high in the sex rate, but determination stopping both was seen in the transition of coitus experience coefficient when compared the young sex situation of Japan and Germany. When was troubled about sex, for the partner whom a youth talked with, influence of a parent was strong for a thing with in Germany and many friends in Japan. Even if we put it in home and could have a talk about sex education or sex, it was supposed whether you were not considerably different in the contents at Japan and Germany. Because it is different from cultural background, history, an education system, a school in domestic reference, it is not easy to compare the sex education between Japan and Germany. A point to be useful for at the top that thought about Japanese sex education was a school and communication of reference of sex education at home, a protector and a child and the relationship of mutual trust , and it was thought so that a document or medium it was easy to understand right information, and to tell were important.
著者
柴山 元彦 平岡 由次 池田 正
出版者
大阪教育大学
雑誌
大阪教育大学紀要. 第III部門, 自然科学・応用科学 (ISSN:13457209)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.9-14, 2005-09-30

兵庫県神戸市などに位置する六甲山地の花崗岩体において自然放射線量率(地表γ線)の測定を行った。測定地点は、六甲山の花崗岩分布地域で124点である。測定結果の平均値は80.3±22.8nGy/h、となり、これらの値は日本の花崗岩の平均値(73±24)と比べると少し高い。Γ線量率の強度分布は岩体の北西部に向かって次第に高くなる傾向がみられた。また、六甲山体中に領家帯と山陽帯の花崗岩の境界線が存在しγ線量率に顕著な差が生じた。領家帯に属する花崗岩の平均γ線量率は54.6nGy/h、山陽帯に属する花崗岩の平均γ線量率は85.1nGy/hとなった。この傾向は大阪府においても同様な傾向が報告されている。
著者
松尾 邦枝 太田 順康 千住 真智子
出版者
大阪教育大学
雑誌
大阪教育大学紀要. 第4部門, 教育科学 = Memoirs of Osaka Kyoiku University (ISSN:03893472)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.69-80, 2015-09

本研究では,2014年2月21日~3月13日の日程で,ヘルシンキにおいてフィンランドのスポーツ振興の実態を調査し,福祉先進国と呼ばれているフィンランドの健康の取り組みについて明らかにするとともに,運動しやすい環境の整備状況について調査を行うことで,日本人の運動習慣の向上や健康づくりに関する知見を得ることを目的とした。フィンランドは,定期的にスポーツを実施している者(週1回以上)が国民の91%と世界一の生涯スポーツ先進国である(山口:2007)。フィンランドは,かつて欧米同様に生活習慣病が増大していたが,医療費削減のためにスポーツ促進を掲げた福祉向上政策を行った結果,スポーツ振興や施設の改良や拡大がおこなわれ,自国の歴史の中で培われた気質のあとおしもありスポーツが浸透し,スポーツ実施率は世界一となった。現在,スポーツ実施率が47.5%(2012年度)といわれている日本も今後,利用しやすい総合型地域スポーツクラブの拡大や,ウォーキング等を実施しやすい道路,公園の整備,体育館の利用方法の簡素化等の対策を進めることで運動・スポーツのさらなる促進につながると考えられる。This is a survey on the sports situation in Finland from 21st February to 13th March in 2014. The first purpose of this research is to learn the health policy of Finland, known as a country with one of the most highly advanced welfare systems. The second is to give some implication to the improvement of the exercise habits of the Japanese by learning the maintenance of the Finnish sports environment. Finland is also one of the lifelong sports countries over 90% of the population of which are regularly doing a certain sport, at least once a week (Yamaguchi 2007). In Finland, life-related disease used to be as popular as it is in America, but some welfare improvement implements were put into practice for the purpose of a reduction of its national medical expense. It brought a sport promotion and an expansion and improvement of facilities, backed up mutually by its own historical and cultural background. Thus sports habits spread throughout people and now Finland has the largest number of people doing sports. In Japan the ratio is still estimated to be around 47.5% (in 2012), but in the near future there will be an improvement of exercise and sports situation with more easy-accessible general sport clubs, maintained walking roads and parks, and with more simple procedure to use public facilities.
著者
佐藤 慶明 入口 豊 西島 吉典
出版者
大阪教育大学
雑誌
大阪教育大学紀要. 第4部門, 教育科学 = Memoirs of Osaka Kyoiku University (ISSN:03893472)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.45-54, 2014-09

1993年に10クラブからスタートしたプロサッカー・JリーグもJ1・J2を合わせて40クラブに増加し,現在はJ3リーグ結成が計画されるまでに発展した。Jリーグの誕生が,日本選手のレベルを格段に引き上げ,日本代表チームの4大会連続のワールドカップ出場と世界ランキング上位に躍進させる原動力となったことは疑う余地がない。しかし,順調に発展してきたかに見えるJリーグ・クラブ各チームにおいては,個別には経営上の様々な問題を抱えていることも事実であり,それらの問題の克服なくして今後の大きな飛躍を望むことは困難な情勢にある。本研究は,Jリーグ所属全チームの中でも親会社を持つクラブの順位浮上のためのマネジメント上の問題点を,J1・J2各1チームのクラブ経営のトップであった元社長,GMへのヒアリングを中心に事例的に明らかにすることを目的とする.特に本稿では,JFLからJ2昇格後に3年連続最下位を経験して,2011年にJ1昇格圏内にまで成績を上げるも,四国という地域性とチーム運営面や観客動員数にも課題を残す「徳島ヴォルティス」の事例を中心に取り上げる。The purpose of this study is to make the actual conditions of management of a professional football club in Japan (J-league) clear through having an interview with the general manager of the J1-league and the J2-league clubs. This is the continued study from the previous report with the same title :"A Case Study of Management of a Professional Football Club in Japan(I)-focus on a case of the Urawa Red Diamonds (J1)-"(Memoirs of Osaka Kyoiku University, Ser.IV., Vol.62-2.2014.2., pp.11-22.) Especially, the present study is to examine the actual conditions of management of the "Tokushima Vortis "(J2) through having an interview with the former president of the Tokushima Vortis". The finding and discussions on the following topics are presented in this paper: 1.An outline of the Tokushima Vortis (J2) 2.Contents of an interview with the former president of the Tokushima Vortis (1)about a management of the president (2)the relationship among the front, the staff, and the players (3)the duties of the president (4)the present state and the future of the general manager and the president of the J-league team.
著者
岡村 佳代子 草川 恵子 中田 紋子 若野 暢代 福本 純子 奥田 豊子
出版者
大阪教育大学
雑誌
大阪教育大学紀要 2 社会科学・生活科学 (ISSN:03893456)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.37-47, 2009-02
被引用文献数
1

近年,青少年の基本的な生活習慣は,夜型生活,朝食欠食など不規則に乱れ,健康に悪影響を及ぼしている。そこで,本研究では,小学生の食生活や生活習慣の実態を知り,食育を推進するための確実な着眼点をみつけるために小学生5・6年生864名を対象とし,質問紙調査を実施し,食育のあり方を検討することを目的とした。 その結果,朝食摂食群(86.9%)は,欠食することがある群(13.1%)に比べて早寝・早起きし,起床・就寝時刻が習慣化している割合が有意に高かった。摂食群は,起床時の空腹感があり,ゲーム・テレビ・ビデオの視聴時間は短い児童の割合が有意に高く,リズムある生活習慣ができていた。また,食事意識は高く,自己効力感があり,心身ともに健康である割合が高値であった。以上の結果から,朝食を欠食する児童に,朝食を摂取するよう指導するためには,まず就寝時刻を習慣化し,早寝,早起きして,生活リズムを定着させることが重要であることが示唆された。Recently, the youth's lifestyle has become irregular, and the disorders of life rhythm and dietary life have been focused upon. In this study, we examined the eating habits, sleeping behavior, dietary consciousness, and health condition in the elementary school children to elucidate parameters for effective health education. This study was conducted based on the results of questionnaire survey taken from 864 students of the fifth and sixth grades. The percentage of children who ate breakfast everyday was 86.9% (eating group). Compared with skipping group, the eating group showed higher rates in going to bed early and getting up early, and the rising/sleeping time was routine. The eating group had better life rhythm in terms of better appetite at the time of rising and shorter time of view games, television, and video than the skipping group. Compared with skipping group, the eating group showed higher scores in dietary consciousness as well as the mental and physical health conditions. To make instructions that would encourage the children of the skipping group to have breakfast, the sleeping time was set first; i.e., early going to bed and early rising, and the importance of this habit was emphasized so that the life rhythm may be fixed.
著者
白井 利明 山田 剛
出版者
大阪教育大学
雑誌
大阪教育大学紀要. IV, 教育科学 (ISSN:03893472)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.13-27, 1999-08
被引用文献数
1

現代青年の「インタラクティブ・ツール」と生活意識の関連を検討するために,大学と専門学校の学生で女性384人に対して質問紙調査を実施した。その結果,第1に,ポケベルや携帯電話は,電車内や友人との会話中が授業中よりも寛容になるという場面差がみられた。また,自分のものが鳴った場合は,使用者や関心のある者が関心のない者よりも寛容だったが,他人のものが鳴った場合にはそのような違いはみられなかった。第2に,「インタラクティブ・ツール」への関心は親密さ・回避(自分が傷つきたくない)・多忙感・空虚感とプラスの方向に関係したが,ボランティアを中心とする関心は別の次元であり,しかも空虚感との関連の方向がマイナスであった。The purpose of this study was to clarify how contemporary female adolescents may commit on the "interactive tools" such as "Tamagocchi", "Puri-Kura", beepers, portable telephones, personal computer communications, body touching and volunteers, by examining the relationships between the commitment on them and life feelings. Three hundred eighty four samples answered a questionnaire in 1997. Findings showed that firstly, they felt free to use or hear beepers and portable telephones more in a train and during talking with friends than during a lesson at school. At the same time, those who used or were interested in them did so more than others only in the case of their calling but there was no statistically significant difference in the case of other people to use. Secondly, commitments on interactive tools related to needs to intimacy, narcissism, pressure of business and low self-fullness but another dimension particular to volunteers showed high self-fullness.
著者
安福 純子
出版者
大阪教育大学
雑誌
大阪教育大学紀要 4 教育科学 (ISSN:03893472)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.p377-386, 1994-02

本論は,卒業論文の準備にとりかかってから頻繁に「頭の中に割り込んでくる声」に困惑して相談室を訪れた男子学生の事例報告である。面接は8ヵ月にわたって24回持たれ,この間に68の夢の報告があった。この夢は面接を便宜上III期に分けると,第II期に溢れるように報告された。クライエントは第III期に再び卒業論文にとりかかり始め,母親が死ぬ夢を報告して後,面接は中断したが無事卒業していった。その後,卒業報告の手紙をもって終了とした。本症例を通して,青年の発達課題,夢が示唆したもの,中断の意味について考察した。This case study reports on the process of psychotherapy for a male student suffering from an inner voice disturbing his thinking.At the time,He was absorbed in preparing a graduation thestis.This process of treatment had three distinct stages,two of which are discussed in this paper.During the second stage,the client reported fifty seven dreams that suggested the relationship with his mother.In his dreams he modified his negative mother image to creat a posibive one.In the thirs stage,he tookd up work on his graduation thesis once again and began to see his real self.At this time,he was required to exercise the ability to cut off both inner and outer reality.After reporting a dream in which his moteher died,the client ceased coming to psychotherpy.Based on analyses of the series and content of the dreams,it was discussed that the devolopmental task of adolescents,the meaning of dreams,and the reason in this case for interrupting psychotherapy treatment.
著者
朝井 知 朝井 均 坂口 守男 朝井 栄
出版者
大阪教育大学
雑誌
大阪教育大学紀要. IV, 教育科学 (ISSN:03893472)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.33-42, 2005-09-30

20世紀を代表するピアニスト,ウラディミール・ホロヴィッツ(1903-1989)は,卓越した演奏技術に加え,19世紀以前の浪漫派の伝統を継承した,傑出した音楽家として,現在でも,コンサートピアニストの「指標」となっている。その一方で,広く知られているように,ホロヴィッツは,生涯を通じ,数回にわたって公の演奏活動を休止している。ここでは,活動休止に至る経緯に注目した症候学的考察を,そして,木村の論考に基づき,演奏における音楽性を検討した上で,精神病理学および人間学的考察を試みた。症候学的には,ホロヴィッツが,神経症性うつ病の範疇にあることが示唆された。また,多くの聴衆を熱狂に導くような彼の音楽性においては,木村のいう二重主体性の完全な重なりが志向されており,そのために彼の私的間主観性が,過剰なまでに動員されいるものと考えられた。さらに,音楽に呼応する精神病理の観点からは、音楽性,精神病理,音楽美の多元的な関係における均衡の破綻によって,その病理の表出に至った可能性が示唆された。
著者
堀 恵子
出版者
大阪教育大学
雑誌
大阪教育大学紀要. I, 人文科学 (ISSN:03893448)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.87-97, 2000-01

松谷みよ子の育児日記とそこに記された子供たちの感性豊かな言葉を母体として誕生した「モモちゃんとアカネちゃん」シリーズ。ママとモモちゃん,アカネちゃんの微笑ましい関係に読者の関心が集中しがちなこのシリーズにおいて,登場場面は少ないが,おおかみに変身するなど,一人,異彩を放っているのがパパである。本論文では,そのパパの存在に焦点を当て,パパと子供たちとの関係,そしてパパの描かれ方の変化と人間以外の存在への変身の背後にあるものは何かを考察したい。その際,事実関係を理解するために『松谷みよ子全エッセイ』全三巻と自伝的な『小説・捨てていく話』および神宮輝夫『現代児童文学作家対談』を参考にしたいと思う。This paper focusses on the unique character of Papa in "Momo-chan and Akane-chan" series by Matsutani Miyoko. Careful examinations of the author's essays, interview, and autobiographical novel, reveal that the metamorphoses of Papa in the series correspond with the changes of the author's feelings toward her former husband, and her consideration for the people concerned. The Papa Wolf, created by the author's second daughter's remark, enabled the author to depict her former husband without becoming sick or hurting anybody around her. As time went on, the Papa Wolf seemed to bear a more human-like character. But it was not until the author wrote a book of poetry which exposed all her indignation against her former husband that she could bring in a truly humane Papa who showed deep parental love to his daughters. The bond of affection between Papa and his daughters after the parents' divorce, is an important theme in the series, and Papa can be called a hidden hero. Having a divorce was not common in those days. Seeing a parent after the divorce was even more unusual. But they are becoming more and more common recently. There are more readers who could sympathize with the characters in the series from their own experience. The "Momo-chan and Akane-chan" series, in which Matsutani Miyoko dealt with those contemporary themes for thirty years, would be a perfect series of books for all the family members to read. The series would give them an opportunity to seriously think about their family ties.
著者
内藤 翔平 入口 豊 井上 功一 中野 尊志 大西 史晃
出版者
大阪教育大学
雑誌
大阪教育大学紀要. 第4部門, 教育科学 (ISSN:03893472)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.11-24, 2013-02

本研究は,サッカー発祥の地であり,世界最高峰のプレミアリーグを有するイングランドの地域サッカークラブにおけるユース育成の実情を検証するため,内藤がスタッフとして所属したセミプロリーグレベルのクラブ(5部リーグ)「AFCウィンブルドン」に焦点を当て,そのクラブがどのように誕生し,地域に根付いてきたのか,また実際の運営はどのように行われているのかを明らかにし,特にそのユースチームの指導体制や運営実態を筆者自身の体験を交えながら明らかにすることによって,イングランドのサッカークラブにおけるユース育成の内情を実証的に検証することを目的とする。特に,本稿ではイングランドの全体的なサッカー構造を明らかにするために,関連する文献やサイトから,リーグ,カップ戦,サッカークラブ,ユース育成システムなどの概要を明らかにし,長い年月をかけて構築されてきた組織の全容を明らかにする。The purpose of this study is to make the actual conditions of the Youth Training System of Football Club in England clear through the experience of the AFC Wimbledon in Wimbledon. Especially, before examining the case study of the AFC Wimbledon, the present study is to examine an outline of youth football training system in England. The finding and discussions on the following topics are presented in this paper: 1. The Structure of the Football League in England (1) An Overview of the Football League in England (2) About the Lower Football League 2. The Youth Training System in England (1) A History of the Youth Training System (2) The Standard of the Football Academy
著者
石川 聡子 山名 幸世
出版者
大阪教育大学
雑誌
大阪教育大学紀要. 総合教育科学 = Memoirs of Osaka Kyoiku University. Educational science (ISSN:24329630)
巻号頁・発行日
vol.69, pp.21-40, 2021-02

本研究の目的は,1950年代後半から2010年代後半の間に発行された2,000冊以上の子ども向け絵本を分析し,絵本に描かれた登場人物のキャリアとくに科学技術分野のキャリアとジェンダーの関係を明らかにすることである。女性登場人物の職業の多くが管理・サービス・事務系であり,保安・農林水産・運輸系も一定の割合で描かれており,科学技術系と文芸・スポーツ・メディア系は少数であった。科学技術分野以外の職業では登場人物の男女割合のアンバランスが解消される傾向が見られ,男女雇用機会均等法成立前後で統計的に有意に均等に近づいていたが,科学技術分野の職業ではそのような変化は見られなかった。
著者
藤田 裕司
出版者
大阪教育大学
雑誌
大阪教育大学紀要 第4部門 教育科学 (ISSN:03893472)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.145-158, 2008-02

表題の著書について,その構成と展開を示した後,その主題を,「上昇と下降」,「魂と肉体」,「知性と感情」,「我と没我」といった観点から考察し,最終的にそれが(A↔Ā)=Aの世界に収まることを明らかにして,その意義を論じた。This paper aimed at clarifying the theme of"Flowers for Algernon"written by Daniel Keyes. After an outline of the novel was given, the theme was examined from such viewpoints as`ascent vs. descent',`spirit vs. body',`intellect vs. emotion'and`ego vs. effaced ego'. As a result, the theme came into a world of"(A↔Ā)=A", and the meaning of it was explained.
著者
北川 純子
出版者
大阪教育大学
雑誌
大阪教育大学紀要. 第Ⅰ部門, 人文科学 = Memoirs of Osaka Kyoiku University (ISSN:03893448)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.25-43, 2015-02

明治大正期に中国革命を支えた運動家・宮崎滔天(本名・寅蔵,1871-1922)は,浪花節語りとしての一面をもつ。彼の生涯に関しては複数の先行文献があるが(たとえば上村 2001,渡辺 2006,榎本 2013),滔天が手がけ,「書かれたもの」の形で残されている浪花節台本の一本『天草四郎』は,ほとんど注目されてこなかった。この台本については,宮崎家に残されていたという自筆原稿の全体が『宮崎滔天全集』(以下,「全集」と表記)第四巻(宮崎;小野川(編)1973)に,また,冒頭「巻一」の部分が雑誌「祖国」第6巻第4号・宮崎兄弟特集号に,それぞれ収録されているが,自筆原稿に記された起稿の日付から約5年後,雑誌『講談倶楽部』に,滔天作「新浪花節 天草四郎」が連載されている。先行研究では連載・公開された『天草四郎』について,全くと言っていいほど触れられてこなかったが,自筆原稿と比較するとそこでは少なからず加筆修正が施されている。筆者は浪花節のSPレコードを調査する過程で,桃中軒一門の浪花節語り・蛟龍斎青雲によって滔天の没後に録音された〈天草四郎と由井正雪〉の詞章が,『講談倶楽部』に連載された『天草四郎』の「巻一」を用いたものであることに気づいた。本稿はこの発見を直接の契機とし,滔天と浪花節とのかかわりを概観した上で,浪花節台本『天草四郎』の検討を試みた小論である。MIYAZAKI Tôten(1871-1922), the Japanese activist supporting the China revolution in Meiji and Taishô era, became a pupil of TÔCHÔKEN Kumoemon(1873-1916), a naniwa-bushi narrator, at the age of 30. While Tôten wrote the naniwabushi-script "AMAKUSA Shirô" in 1910's, the script has attracted almost no attention until now. The author found out that the text of "AMAKUSA Shirô and YUI Shôsetsu", which KÔRYÛSAI Seiun, another pupil of Kumoemon, recorded on SP discs after Tôten's death, used the beginning section of the script "AMAKUSA Shirô" by Tôten. This article tried to examine Tôten's view to naniwabushi through discourse analysis and to consider the characteristics of the script "AMAKUSA Shirô"through the stylistic analysis.
著者
山内 友三郎
出版者
大阪教育大学
雑誌
大阪教育大学紀要. 第2部門, 社会科学・生活科学 (ISSN:03893456)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.79-90, 2012-02

Tokugawa Tsunayoshi was not only the fifth Shogun, but a learned scholar of Neo-Confucianism. He often gave lectures to his retainers on The I Ching and the Confucian classics. Tsunayoshi was a contemporary of the philosopher Ogyu Sorai, who developed Japanese Neo-Confucianism and part of shogun's advisory stuff. In this paper, I will closely examine Tsunayoshi's concept of `compassion for living beings' to show that his philosophy cannot be criticized from the perspective contemporary animal liberationism. The moral conflict between compassion for living beings and respect for humans addressed by Edo society, but their solution is not yet known in contemporary environmental ethics. Loyalty to one's own lord was considered a categorical imperative in the Chu Hsian fashion of the age. The forty seven ronin's act of revenge excited people and widely praised, yet it was illegal from the viewpoint of a social order that forbade private vendettas. Their action showed, accordingly, a sort of moral conflict between loyalty and social order. Tsunayoshi's solution was backed by Soraian ethico-politics that divides, as Hare did, moral thinking into two levels of intuitive and critical.永い戦国時代を経て,秀吉が達成した天下統一を家康が引き継いで,徳川政権が成立して,いわゆる「徳川の平和」が達成された。五代将軍,綱吉の時代には,ようやく政権も安定して,武断政治から文治政治へと転換期を迎えていた。朱子学が幕府のイデオロギーとして採用されて,幕府を支える思想的な背景となった。儒教は次第に土着化して独自の日本儒教が発展して徂徠学が成立した。本稿では,綱吉の「生類憐みの令」,に対する悪評がいわれのないものであることを検討する。綱吉は儒学の講義をした儒学者であったが,彼の「生類憐みの令」の思想的な背景は,特に仏教であるよりは,儒教の色彩の強いものであった。彼の政策に対する批判は,一つには彼の死後彼の政敵の意見が反映したものであり,他の一つは,西洋近代の人間中心主義に染まった後世の人たちによるものであった。西洋近代の人間中心主義批判に始まった動物解放は日本ではまだ十分に紹介されていないが,この方面から綱吉の見直しがなされて,現代では彼の名誉は相当挽回されている。しかし,人間を「万物の霊長」と見做す儒教的な人間尊重と,仏教的な有情に対する慈悲との対立・衝突をどう解決するかというモラルの葛藤の問題は,江戸時代の日本人は実際問題としては解決していたが,現代の環境倫理でも未だ十分に理論的には解決されていない。 他方,四十七士の問題は,主君に対する朱子学的な忠義のモラルと,徒党を組んだ武力闘争を禁ずる--安民安天下(社会幸福)のための--法秩序とが対立・衝突するモラルの葛藤と見ることができる。徂徠は「道」を,朱子学的な理によって決定される絶対的な道徳規範ではなく,安民・安天下のために,聖人が作った刑政礼楽(制度や教え)であるとした。綱吉は四十七士の問題に対して徂徠の意見を聞いて対処したが,忠孝のモラルを絶対のものと見ずに,社会幸福のために作られた二次的派生的なものと見て,社会幸福のための秩序を優先して,四十七士を処分した。綱吉は荻生徂徠の意見を取り入れたと言われているが,徂徠は「道」を天理自然のものではなく,制度や教え(刑政礼楽)として聖人である先王が人為的に作ったものであるとする。これはヘアの二層公利主義を先取する倫理学説であるが,綱吉のモラルの葛藤に対する解決法には,徂徠の理論が反映している。
著者
内藤 翔平 入口 豊 井上 功一 中野 尊志 大西 史晃
出版者
大阪教育大学
雑誌
大阪教育大学紀要. 第4部門, 教育科学 = Memoirs of Osaka Kyoiku University (ISSN:03893472)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.31-42, 2013-09

本研究は,サッカー発祥の地であり,世界最高峰のプレミアリーグを有するイングランドの地域サッカークラブにおけるユース育成の実情を検証するため,筆者(内藤)自身がスタッフとして所属したセミプロリーグレベルのクラブ(5部リーグ)「AFCウィンブルドン」に焦点を当て,そのクラブがどのように誕生し,地域に根付いてきたのか,また実際の運営はどのように行われているのかを明らかにし,特にそのユースチームの指導体制や運営実態を筆者(内藤)自身の体験を交えながら明らかにすることによって,イングランドのサッカークラブにおけるユース育成の内情を実証的に検証することを目的とする研究の第II報である。特に,本稿ではイングランド・セミプロリーグレベルのクラブ(5部リーグ)「AFCウィンブルドン」に焦点を当て,そのクラブがどのように誕生し,地域に根付いてきたのか,また実際の運営はどのように行われているのかを明らかにする。The purpose of this study is to make the actual conditions of the Youth Training System of Football Club in England clear through the experience of the AFC Wimbledon in Wimbledon, England. This is the continued study from the previous reports with the same title "A Case Study of the Youth Training System of Football Club in England (I)- An Outline of the Youth Training System in England -" (Memoirs of Osaka Kyoiku University, Ser IV. Vol.61-2., 2013.2., pp.11-24.). Especially, the purpose of the present study is to examine the following topics about the "AFC Wimbledon Football Club". The finding and discussions on the following topics are presented in this paper: 1.The Wimbledon FC (1)History of the Wimbledon FC(2)wining of the championship of FA Cup 2.Two Wimbledon FC "MK Dons" and "AFC Wimbledon" 3.About the first team of AFC Wimbledon