著者
剣持 三平 小泉 淳
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.4, pp.F5-0093, 2023 (Released:2023-04-20)
参考文献数
66

価値という言葉はさまざまな使い方をされており,その意味するところは必ずしも同じものとはなっていない.本研究は土木事業の合理的な整備のために,土木構造物のもつさまざまな価値を明らかにすることを目的としている.まず,土木構造物の現状を整理するとともに,一般的に考えられている価値を分類して,その中から土木構造物にとくに関係が深いと思われる価値を抽出した.つぎに,それらを実例とともに示し,土木構造物の価値構造を提示した.最後に,土木構造物の価値向上に向けた土木技術者の取組みについて言及したものである.
著者
貝戸 清之 竹末 直樹 水谷 大二郎 小林 潔司
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.4, pp.22-00255, 2023 (Released:2023-04-20)
参考文献数
43

近年,包括的民間委託による下水処理施設の管理事例が増加している.下水処理施設のアセットマネジメントの継続的改善を目指す場合,包括的民間委託による維持管理費用の低減や管理の効率化の効果を定量的に評価するとともに,ベストプラクティスを抽出し,管理・運営方法を改善することが重要となる.そこで本研究では,費用効率性に基づき下水処理施設の包括的民間委託導入効果を定量的に評価する.具体的には,確率的費用フロンティアモデルを用いて推定した費用効率性パラメータの分布をノンパラメトリック検定により比較することにより,包括的民間委託導入効果を定量化する方法論を提案する.当該方法論を全国の下水処理施設の維持管理費用や処理水量で構成されるデータベースに適用し,実際の包括的民間委託の導入効果を定量化する.
著者
平野 誠志 加賀谷 悦子 宮里 心一
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.4, pp.22-00238, 2023 (Released:2023-04-20)
参考文献数
7

著者が所属する道路関連会社において,2020年4月から5月にかけて20名の新型コロナウイルス感染者が発生し,クラスターと呼ばれる感染者の集団が発生した.本研究では,事前に策定された既存の感染症BCPに基づき実施した対策について,レジリエンスによる再評価を実施した.すなわち,感染症リスクを低減し感染拡大から回復する力を「レジリエンスの大きさ」,実際の感染者や濃厚接触者,自宅待機者などが通常業務に及ぼす影響を「損害の大きさ」と定義し,両者を比較した「総合評価」を用いて対策の妥当性の再評価を行った.さらに,再評価結果および既存の感染症BCPの準用結果を用いて,新型コロナウイルス感染症を対象にしたBCPに反映すべき対策の提案を行った.
著者
西澤 辰男 寺田 剛 藪 雅行 小梁川 雅 竹内 康
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.4, pp.22-00309, 2023 (Released:2023-04-20)
参考文献数
25

FWD試験によってコンクリート舗装の荷重支持性能を評価するための逆解析法において,重錘落下によるFWD荷重の動的効果が構造評価に及ぼす影響について調べた.土木研究所円形走行路にコンクリート舗装を建設し,49kN換算輪数520万輪を走行させながら定期的にFWD試験を行った.このFWD試験結果を静的逆解析法と本研究で新たに開発した動的逆解析法によって解析し,劣化Stage,層弾性係数,曲げ応力を求めた.中央部の劣化Stageはほぼ同様の評価となった.目地部においては動的逆解析法による方がやや厳しい判定となったが,劣化が進んだ場合はほぼ同様であった.曲げ応力については,動的逆解析法による方がやや大きな値となった.層弾性係数についてはばらつきが大きく両者に明確な相関は得られなかった.
著者
青木 宏明 高橋 秀明 田邉 成 前川 宏一
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.4, pp.22-00225, 2023 (Released:2023-04-20)
参考文献数
21

塩分を含む地下水の流入による地中RC構造物の鉄筋腐食が報告されている.地中構造には地盤沈下等の外荷重が作用する場合もあり,塩害劣化の影響が重畳した場合の予測は重要性を増してきている.本研究では鋼材腐食させたRC中空円形試験体の8割を地中に埋設した載荷実験を行い,地中拘束下における外荷重の影響を調べた.その結果,地中円形トンネル構造の変形能と耐力は鉄筋腐食の影響はあまり顕著ではないが,先行曲げひび割れに沿って断面を貫通するせん断破壊が生じる場合があることを示した.このせん断破壊形態は,鉄筋の腐食域に非対称性があると,腐食域以外の健全部で起こり得ることを示した.さらに,曲げひび割れに沿う後続のせん断破壊のせん断耐力は,先行の耐力式を下回る場合があり,維持管理における留意点を明らかにした.
著者
亀田 敏弘 岡本 健宏 新田 恭士 秋山 成央 二宮 建 森川 博邦
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
AI・データサイエンス論文集 (ISSN:24359262)
巻号頁・発行日
vol.1, no.J1, pp.554-559, 2020-11-11 (Released:2020-11-18)
参考文献数
11

センサ・通信デバイスの進歩により,社会基盤の多様なデータは,無線接続での取得が可能となっている.LPWA通信でのデータ取得方法は,設置に際して無線局免許が不要で,低消費電力かつ安価なハードウェアが供給されており,大量のセンサをローコストにて設置可能なため,大きな期待を集めている.しかし,社会基盤データの特徴として,災害時などの非常時にこそ昀も必要とされるものも多く,電源喪失の極限状況であってもデータ収集・配信の継続が求められる.著者らは,スーパー台風襲来による長時間停電が発生し公衆通信が途絶する危機的状況下であっても,複数の水門の開閉状況データを継続的に取得し一元監視可能なシステムの実現を目標に研究を進めており,LPWAネットワーク型データ取得における電源喪失時のレジリエンス向上について議論する.
著者
韓 旖睿 白 琳 孫 氷玉 湯淺 かさね 池邊 このみ
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.4, pp.D1-0112, 2023 (Released:2023-04-20)
参考文献数
68

雪形は「山腹の雪の消え具合によってできる形」として定義されているもので,かつては農事暦として利用されてきたが,農耕の進歩などにより各地で伝承が消えつつある.2005年の『農林水産業に関連する文化的景観の保護に関する調査研究報告書(文化庁)』では,「独特の気象によって現れる景観」と「複合景観」にて6座の山の雪形を文化的景観候補として選出されたが,文化的景観の条件との整合性から,まだ認定されているものはない.本研究では,a)全国の雪形とその分布の特徴の把握,b)雪形データベースの構築及び評価項目の設定,c)全国の雪形の景観特性の分析と類型化,d)雪形に関する産業・文化特性と景観特性の相関性の明確化,以上4つの目的を通して雪形の価値評価について検討したものである.
著者
杉本 達哉 高田 観月 高山 雄貴 髙木 朗義
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.4, pp.22-00115, 2023 (Released:2023-04-20)
参考文献数
34

近年,空間経済学に基づく理論の計量分析への応用が進められている.しかし,その分析枠組は,我が国の長期的な人口分布変化の傾向1)(e.g., 大都市の人口増加)とは真逆の“地域間輸送改善は必ず地方都市の人口を増加(大都市の人口を減少)させる”という結果しか出力しない2).これは,輸送改善の影響の適切な予測が不可能であることを意味する重要な課題である.本研究は,企業間の価格競争を考慮できる独占的競争理論3)を応用することで,この課題を解決する計量分析手法を開発する.そして,日本を対象とした計量分析により,本手法が“地域間輸送改善が大都市の人口を増加させる”という結果を出力できることを示す.
著者
福島 直樹 佐々木 邦明 上坂 克巳 小菅 英恵
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.4, pp.22-00031, 2023 (Released:2023-04-20)
参考文献数
13

高齢運転者が健康状態に問題を感じながらも,代替的な移動手段が確保できないことから,運転を継続しているとの報告がなされている.このことから,高齢運転者の運転頻度は,個人的な要因だけでなく,地域的な要因が影響していることが指摘されてきた.そこで本研究は,教習所での高齢者講習時のアンケート調査で得られた,高齢者の目的別の運転頻度データを用いて,高齢運転者の運転頻度とアクセシビリティ,ウォーカビリティなどの地域の移動環境との関係性について検証を行った.ロジスティック回帰分析によって両者の関係を分析したところ,複数の目的の運転頻度において,地域のアクセシビリティ指標やウォーカビリティ指標が有意な係数を持つことが確認され,地域移動環境と高齢運転者の運転頻度に関係性があることが示された.
著者
佐藤 顕彦 西崎 到 冨山 禎仁 北根 安雄 杉浦 邦征
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.4, pp.22-00138, 2023 (Released:2023-04-20)
参考文献数
19

本研究は,強化繊維に炭素繊維とガラス繊維を用いたハイブリッドFRP引抜成形材の屋外暴露による力学性能の低下と微細構造の変化を評価することを目的とした.CF/GFハイブリッドFRP引抜成形材を,茨城県つくば市にて2年および21年間暴露し,回収した供試体の外観観察,力学物性試験,SEM観察,IR分析を実施した.試験の結果,引張強度,せん断強度,曲げ強度が屋外暴露により低下し,その中でも90°方向の引張・曲げ強度の低下が顕著であった.さらに塗膜の有無による比較を行い,90°方向の引張強度と面内せん断強度で塗膜による保護効果を確認した.SEM観察からは,塗膜による樹脂脱落抑制効果が見られたが,暴露21年目では塗膜に微小な空隙が生じ保護効果が減少している可能性があることが明らかとなった.
著者
日下部 貴彦
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.71, no.5, pp.I_21-I_31, 2015 (Released:2015-12-21)
参考文献数
73

目覚ましい情報通信技術の発展によって交通分野におけるデータに対する関わり方が変りつつある.近年では,継続的・長期的に収集された大量の交通に関わるデータの蓄積が実際にみられるようになってきている.一方,これまでの交通分野では,空間的に広い範囲のデータを時間的に高密度でかつ長期的に収集することは困難であったことから,変動に対する理論的なフレームは必ずしも十分でなかったと推察される.本稿は,これまでの交通分野での研究について,データ取得と蓄積という視点から整理し,新たな枠組みであるデータオリエンテッドな交通研究に焦点をあて,蓄積データを背景とした交通変動の分析に関する展望についてまとめるものである.
著者
中谷 郁夫 早川 清 西村 忠典 田中 勝也
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集C (ISSN:1880604X)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.196-212, 2009 (Released:2009-02-20)
参考文献数
22

高架道路橋を振動源とする特に低周波域の地盤環境振動の遠距離伝播現象を検討するために,実際に振動問題が発生した高架道路橋での現地計測を行い,大型車両が高架道路橋を走行する際に発生された振動が地盤を経由して遠距離まで伝播されていることを確認した.この現象を検討するため,重力場における相似則を用いた模型実験および2次元FEMによる数値シミュレーション解析を実施した.その結果,ア)高架道路橋の橋脚下部構造である杭が鉛直・水平2方向に同時挙動し,その際の振動が支持層に入射されて深い位置から発せられること,イ)この振動入力が支持層と表層との波動インピーダンス比により増幅され,一部の振動数成分が地盤の波動分散特性から減衰されずに遠距離まで伝播されることが解明された.
著者
宮下 寿哉 中村 由行 比嘉 紘士 田中 陽二 伊藤 比伽留 池津 拓哉 金谷 一憲 鈴木 崇之
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集B2(海岸工学) (ISSN:18842399)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.I_1213-I_1218, 2017 (Released:2017-10-17)
参考文献数
9

2016年8月~9月に連続的な岸壁調査および計4回にわたる船上調査を実施し,東京湾湾奥部における複数の湧昇イベントを捉えた.4回の船上調査のうち一度は青潮発生の直前に対応し,残りのうち2回は青潮に至らない弱い湧昇の直前とそのピーク時に対応していた.各湧昇イベント時の水塊の起源推定を行ったところ,青潮発生時には千葉本航路内でも湾央側の航路底層から硫黄を含む水塊が岸壁まで湧昇し青潮に至ったものと推定された.一方,弱い湧昇時では比較的浅い層の湧昇にとどまり,水面の着色や濁度の上昇はなく青潮として確認されなかったが,その期間には航路内で硫化物や硫黄が活発に生成していたことが示唆された.
著者
岳本 秀人 工藤 謙 丸山 記美雄 三浦 宏 笠原 篤
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集E (ISSN:18806066)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.274-285, 2006 (Released:2006-03-30)
参考文献数
13

日本で初めてのアスファルト舗装の大規模機械化施工が行われたのは1953年に開通した北海道の国道36号札幌~千歳間 34.5 km であった.本報告では,この区間(通称:弾丸道路)が施工されるに至った経緯や,当時の最新技術として,また寒冷地対策工として用いられた各種工法,材料について解説している.また,この50年を経過した舗装体から現位置試験や供試体の採取を行い,性状,支持力や強度,組成分などの観点から,その劣化の程度を評価した.その結果,構造的に小規模な破壊を呈している箇所や材料の劣化傾向が見受けられたが,現在の規格を満足する性状も多く,今でも供用に耐えられていることが確認された.
著者
大平 幸一郎 高畠 知行 三上 貴仁 柴山 知也
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集B3(海洋開発) (ISSN:21854688)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.56-66, 2017 (Released:2017-09-20)
参考文献数
21

東北地方太平洋沖地震の直後,震源から遠く離れた山梨県の湖やノルウェーの湾など複数の場所で津波の様な異常な水位変動が目撃された.同様の水面変動はこれまでに稀に報告されてきた.しかしながら,具体的な波の発生機構や評価手法は確立されておらず,本現象そのものに対する認識や防災意識は低い.本研究では,定量的な影響評価手法の選定と本現象による水害リスクの把握を目的に,現地調査や目撃情報等の収集・整理により発生要因を実地形でのスロッシング現象と推定し,三次元解析での再現を試みた.実験結果との比較により解析手法の妥当性の検証を行った上で過去の事例の再現と将来予測を行った.その結果,本解析手法により異常な水面変動を再現できること,津波とは別の地震直後の内陸部の湖や湾奥部の運河における水害リスクを明らかにした.
著者
菊本 統 下野 勘智 伊藤 和也 大里 重人 稲垣 秀輝 日下部 治
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集F6(安全問題) (ISSN:21856621)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.43-57, 2017 (Released:2017-10-20)
参考文献数
53
被引用文献数
1 2

自然事象の頻度や程度を表す危険源,自然災害にさらされる人口割合を表す曝露,自然災害に対する社会や経済の脆さを表す脆弱性を定義し,規準化した過去の災害記録や統計データの重み付け線形和により計算し,それらの掛け合わせとして自然災害に対するリスクを評価する統合的指標を提案した.そして47都道府県を対象としてリスク指標を算出し,各都道府県が内包するリスクの特徴を考察するとともに,指標の意義を説明した.最後に,指標を用いたリスクの分析と管理の方法について議論した.
著者
猿渡 基樹 中尾 吉宏 片岡 正次郎
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集A1(構造・地震工学) (ISSN:21854653)
巻号頁・発行日
vol.74, no.4, pp.I_818-I_826, 2018 (Released:2018-11-01)
参考文献数
23

平成28年熊本地震で生じた道路橋の被害は,広い範囲で多数発生しており,様々な調査が実施されてきている.本検討では,道路橋の耐震性の向上による社会経済効果等の分析に用いる基礎資料とするため,熊本地震により被災した道路橋について,耐震設計の適用基準,橋長,損傷部位及び落橋防止対策に着目し,地震動や被災度との関係を整理し,統計分析を行った.その結果,複数径間となることにより損傷の発生率が大きくなること,道路橋被害は支承の損傷が大半を占めること,大きな地震動を受けることにより被災度も大きくなること等が統計的に明らかとなった.
著者
浜田 友康 宇津野 衞 松下 智昭
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集A1(構造・地震工学) (ISSN:21854653)
巻号頁・発行日
vol.73, no.4, pp.I_827-I_831, 2017 (Released:2017-09-21)
参考文献数
5

崩壊のおそれのある斜面に近接して施設構造物を設置する際は,斜面の崩壊状況を想定し適切な離間距離を確保しておく必要がある.土砂到達距離の簡易推定法は各種指針類に示されているが,各推定法には差がある.そこで,2016年熊本地震における代表的な崩壊斜面を調査し,土砂到達距離を各種指針類の斜面高さに基づく推定法と比較するとともに,到達距離に及ぼす斜面高さ以外の影響因子について検討した. その結果,最大到達距離/最大崩壊高さは,強度の小さい火山灰・軽石層の崩壊では指針類の簡易推定法を上回る事例もあるが,岩盤崩壊では指針類の推定法に比較して小さい.また,崩壊高さに比較して崩壊土量が多い程,崩壊土の強度特性が小さい程,到達距離は大きくなることがわかった.