著者
佐藤 昌子 濱 裕光 和知 孝雄 土井 正 岡田 明
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

本研究課題は高齢化社会において高齢者自身が自活して生活するため,画像による情報伝達の効果を明らかにし,有効な利用方法を探索することを目的としている。薄暮時や夜間では,特に視覚や運動能力の機能低下している高齢者にとって危険度が増すことから交通安全施策が早急に必要とされる課題である。道路交通標識や高齢者衣服の設計に資するため,高輝度反射材料の構造特性と反射特性の関係を明らかにした。また,視覚刺激として伝えられる情報を記憶する場合,色と形がどのように影響するかを検討した(佐籐)。多機能化かつタッチパネル化した駅の切符券売機を例にとりあげ,その操作画面をシミュレートする装置を開発し,高齢者を含むユーザによる操作性評価の可能性について検討した(岡田)。大規模災害時の避難経路における照明の確保について、神戸、静岡、大阪を対象に広域避難所周辺の住宅地域において、街路照明の設置状況や路面照度の実態調査と非常時の街路照明の確保についての住民の意識調査を行った。その結果、街路照明について日常の防犯照明としての機能は最低限確保されているものの、広域停電を伴うな非常時には、照明の確保は困難で、避難経路を指示できる自照式案内表示も未整備であることが明らかになった(土井)。高齢者に多く見られる関節部位の疾患は、直ちに高齢者の歩行、寝起き、衣服の脱着、食事、排便、入浴など日常生活に必要な動作に障害を与える。そこで,股関節の障害で同病院に通院、入院する患者の歩行動作を3次元コンピュータ・モデル・シミュレーションで画像表示する方法を開発し,これらの画像情報から患者の個人差を配慮した生活補助システム,住宅や生活用具の開発などに有効利用しうることを示唆した(和知)。ヒトの3次元知覚原理を明らかにするため,あるシーンを撮影して3次元画像処理を行うことによりカメラ位置(ヒトの目の受光に対応)を理論的に検出する方法を検討した。その結果、基準となる三角形を導入し、その三角形からの相対位置を計算することによって世界座標を求め,カメラの動き検出が可能となることを明らかにした(濱)。
著者
橋川 裕之
出版者
大阪市立大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

今年度はビザンツ帝国末期における写本生産の問題を検討した。いわゆるビザンツ写本の研究は従来、美術史家と文献学者の独壇場であったが、近年、写本の作成経緯や利用のされ方が歴史学者の注目を集めている。言うまでもなく写本は書かれ、読まれ、さらには売買や貸借の対象となる中世の書物メディアであり、写本とそのコンテクストの関係を精査することで、研究者は同時代の社会や文化の知られざる諸側面に迫ることができる。本研究で具体的に取り上げたのは、現在、パリ国立文書館に所蔵されている一写本、パリ・ギリシア語写本857番(Codex Parisinus Graecus857)である。この写本は13世紀ビザンツのとある修道院で作成(コピー)されたものであり、11世紀の修道士パウロス・エウエルゲティノスの箸作『シュナゴゲ』(古代の修道文献のアンソロジー的作品)の第四部を内容とする。一部の学者は、この写本の作者(写字生)が写本末尾に書き込んだ韻文に現れるいくつかの固有名詞に注目し、13世紀から14世紀にかけて二度コンスタンティノープル総主教を務め、特異な教会改革を試みたアタナシオス(在位1289-93年、1303-9年)がその作者であると推測した。この特定の写本は二つの問題を提起する。一つは、一部の学者が推測するとおり、パリ写本の作者が総主教アタナシオスその人であるのかという問題、もう一つは、『シュナゴゲ』というテクストの普及度とその影響の大きさである。今年度の研究では、二つ目の問題を視野に入れたうえで、一つ目の問題に照準を合わせた。すなわち、従来の研究者が提示した状況証拠に加え、写本のテクスト『シュナゴゲ』の読書の痕跡が総主教アタナシオスの思想と行動に確認できる点から、ガレシオン(エフェソス近郊の山岳修道院共同体)のアタナシオスと名乗る写字生と後の総主教アタナシオスが同一人物である可能性が高いと結論づけた(拙稿「ガレシオンの修道士アタナシオスとは何者か」『史林』90巻4号)。一方、『シュナゴゲ』の写本は13世紀以降、大量に生産されており、ビザンツ末期の修道世界におけるその人気と、それが修道士らに与えた影響は甚大であったと考えられる。この問題については現在検討を進めている。
著者
曽根 良昭 廣田 直子
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

日本・大阪、ポーランド・ポズナンに観られた糖質の消化・吸収効率の季節変化は熱帯タイ・チェンマイでは観られなかった。夜間絶食後・朝空腹時に於ける糖質と脂質の代謝バランスを示すRQ値(呼吸商)は日本において有意な季節変化を示し、秋~冬季に上昇し(糖質代謝が優位)、夏季において低下(脂肪代謝が優位)することが分かった。ポーランドに於いては有意な季節変化は観られなかったが、日本と同様な傾向が観られた。タイでは季節変化は観られなかった。また食事摂取調査の結果、糖質と脂質の摂取比率には3カ国とも季節変化は観られなかった。
著者
寺本 吉輝
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

観測装置は宇宙線検出器用のガス封入型高抵抗板検出器(レジスティブ・プレート・チェンバー)と宇宙線のトリガー,波高値,到来時間などを測定する回路ボックス,全体をコントロールするパソコンなどから構成される.このうち最も困難な部分はガス封入型高抵抗板検出器の開発であった.高抵抗板検出器には二つの動作モードがあり,それぞれストリーマモードとアバランチモードと呼ばれている.我々はこの両方についてテストチェンバーを作りガスを封入してまず動くかどうか,それにさらにどの程度の寿命があるかどうかを調べた,ストリーマモードはアルゴン,イソブタン,テトラフルオロエタンの混合ガスを用いた,その結果1年間以上にわたり95%程度の検出効率を維持し,波高値,などにこれといった変化は見られなかった,しかしその後劣化がみられ,600日目の測定のころに接着剤の剥離が見られた,一方アバランチモードの信号はストリーマモードより二桁大きさが小さく,電極やガスに対する負担が少ないと考えられる,アバランチモードのテストチェンバーはストリーマモードのチェンバーより後に作ったためテスト期間が短いが,1年以上にわたって安定した検出効率を維持している.アバランチモードの方が信号が小さくチェンバーに対する負担が少ないので,本番用のチェンバーをアバランチモードで作った.本番用チェンバーはテストチェンバーの数倍の大きさがあり,信号電極が大きいためノイズが大きくそのままでは使えないことがわかり,信号電極を6分割すればノイズが落ちることがわかった.この本番用チェンバーは現在までに6台つくっている.これを戸外で雨風を防ぐステンレスのケースにいれて配線すれば一応完成であるが,現在完成までには達していない,回路ボックスの方は安価なコンポーネントの使用や,信号波高回路をマルチプレクスして1chで4ch分読み出せるようにするなどをしてコストをさげた,こちらのほうはすでに完成している.
著者
春木 敏 川畑 徹朗 西岡 伸紀 境田 靖子
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

ライフスキル形成を強化する第二次の食生活教育プログラム改訂,指導者マニュアル作成,授業担当者研修,意志決定スキル,目標設定スキル尺度開発,家族への働きかけを試み,以下の成果を得た.I.2005年6月〜2006年7月,大阪府下の6小学校と山口県2小学校を研究対象校とする準実験デザインのもと,健康的な間食行動と朝食行動を主題とするスキル形成に焦点をあてた食生活教育プログラム(18時間)を実施し,計810名が参加した.(i)プロセス評価より,意志決定の下位尺度「選択肢の列挙」「結果の予測」を踏まえたおやつ選択法を,「意志決定をすべき問題の明確化」を踏まえ,朝食で野菜を食べるために具体的な,実行可能な目標設定ができた.(ii)影響評価より,女子は,健康的な間食行動の態度,自己効力感が高まり,低油脂おやつの選択が増加した.野菜摂取に焦点をあてた朝食学習により,朝食の野菜摂取率はおよそ倍増し,栄養バランスを改善した.(iii)意志決定スキル形成群において介入校の児童は,広告分析に関する自己効力感や食品選択スキルに有意な成果が認められたが,対照校児童には規則性はみられなかった.II.大阪府下の3小学校と山口県3小学校を研究対象校とし,2007年5月〜7月に,保護者通信,朝食モニタリングシートの家族点検,家庭での朝食野菜料理など保護者への働きかけを強化した朝食プログラム(6時間)を実施した.計417名が参加した.(i)全児童は,目標達成率,朝食の栄養バランスともに有意に高くなった.(ii)授業実施6カ月後には,児童の学習成果は有意に低下したものの家族強化群は,対照群に比べ,朝食得点,野菜摂取率ともにやや高い維持率を示した.さらにプログラム効果を高め,持続するために,教材や指導者研修,家族強化の改善を図り,学校健康教育に普及していく.
著者
白木 邦彦 河野 剛也 安宅 伸介 永田 智
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

レーザースペックル眼底血流計はこれまで主に視神経乳頭での血流測定に使用されてきた。視神経乳頭上の太い網膜血管を測定領域から除外すれば、視神経乳頭の組織血流量をレーザースペックル眼底血流計のSBR値が反映する。眼底血流測定に際しては、レーザースペックル眼底血流計は網膜と脈絡膜の両者の組織血流を反映するとされる。そこで、網膜循環に影響を及ぼさない脈絡膜病変では脈絡膜循環の異常を反映すると考えられるが、微小な脈絡膜循環の異常を把握しているかは不明である。今回、網膜血管を有しない家兎眼底において、臨床で日常的に施行されている豆まき状の光凝固を施行し、凝固部位間の非凝固部位領域の脈絡膜血流量の変化を経時的に検討した。さらに、沃素酸ナトリウム投与によって網膜色素上皮を障害し、続発的に生じた脈絡膜毛細血管の変性・萎縮領域に関してレーザースペックル眼底血流計にて経時的にSBR値の変化を検討した。レーザー光凝固部位ではSBR値の顕著な低下が早期よりみられ、経過観察期間中持続していたのに加えて、凝固部位間の非凝固部位でも3ヶ月、6ヶ月後にSBR値の低下、すなわち血流の減少がみられた。また、沃素酸ナトリウム投与例での網膜色素上皮障害部では、投与1ヶ月後には71%にSBR値が低下し、6ヶ月後にはさらに58%にまで低下し、持続的な脈絡膜血流量の低下がみられた。以上より、レーザースペックル眼底血流計を用いて眼底の脈絡膜の微小循環変化の検討が可能であることが明らかとなった。
著者
吉田 勝
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

平成8年から10年の3年間にわたって、東ガート帯及び周辺の関連地域の全体像をつかみ、その造構史を明らかにする目的で、文献の組織的収集と整理、地質試料の分析、解析的研究を実施した。新規購入備品である流体包有物解析システム(YAGAIFLUID)は、これらの研究に利用された。主な研究成果の概要を下に記す。1)東ガート帯中部から北部にかけて詳しい岩石学的研究を実施し、この地域が高温高圧のグラニュライト相変成作用や中程度の角閃岩相変成作用を重複して受けていることを確認した。2)EPMAモナザイト年代やSm-Nd年代からは、20億年前から5億年前の間の数回の変動が推定された。主変成作用は約12〜14億年前のアルカリ深成岩類の貫入事件の前と認められ、約20億年前と約15億年前で関連火成岩の性質から、それぞれ圧縮場及び伸張場における変動であったと考えられる。その後、約10億年前にも圧縮場におけるグラニュライト変成作用があり、さらに約8億年前と約5億年前には、花崗岩の貫入を伴う再変動があった。東ガート帯西縁部分では約28〜26億年前の変成年代が得られており、この部分は基盤の再変動地帯と考えられる。3)東ガート帯のこのような多時階の変動は、そのすべてを周辺のゴンドワナ陸片に追跡することは出来ない。同帯の北東延長にあたる南西オーストラリアのアルバニー・フレイサー帯では、約10億年前変動とそれより古い事件が、南東延長である南極のピア・レイナー帯では、10億年変動とそれにより新しい事件が、よく追跡される。このことは、約10億年前頃に、東ガート帯周辺のゴンドワナ陸片地域に大きなテクトニクスの変換が生じたことを示していると考えられる。4)以上の研究成果は、国外誌や英文紀要等の学術論文59編、英文の学会メモア・学位論文などの書籍15冊、国際学会などにおける学術講演56題として発表された。
著者
中山 正昭 金 大貴
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

励起子状態が極めて安定な銅ハライドと ZnO を活性層として、薄膜型マイクロキャビティ(微小共振器)を作製し、励起子-光子強結合によるキャビティポラリトンの制御を行った。励起子-光子相互作用を反映するラビ分裂エネルギーを活性層厚と光子場形状によって系統的に制御することに成功し、室温においてもキャビティポラリトンが安定に存在することを実証した。さらに、ポラリトン凝縮に起因するポラリトンレーザー発振を確認した。また、 ZnO マイクロピラミッドの自己組織化成長を確立し、 発光増強効果を確認した。
著者
井川 憲男 赤坂 裕 石野 久彌 郡 公子 曽我 和弘 松本 真一
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

気象庁の20年間(1981〜2000年)の全国842地点のアメダスデータを利用して、欠測や非観測要素を補充して作成され、2005年に拡張アメダス気象データが公開された。拡張アメダス気象データを多目的に有効活用するには、人体や建材等への影響を予測するための紫外放射量(UV-A,UV-B)や、緑化に関連する光合成有効放射量(PAR)など、現状の拡張アメダスに収録されていない基礎データを増強する必要がある。気象要素推定モデルを開発するため、基礎データを収集することを目的として、これまでに日射量、気温、湿度、風向・風速などの気象観測を実施している秋田県立大学(由利本荘市)、首都大学東京(八王子市)、大阪市立大学(大阪市)、鹿児島大学(鹿児島市)、に、本補助金によって照度、UV-A、UV-B、PAR、赤外放射量などのセンサーを追加導入し、計測システムを再構築した。測定開始日を平成18年1月1日とし、1分間隔での測定を開始した。現在、1年間以上の測定データが蓄積され、さらに、測定を継続している。測定データを基に、紫外放射量と日射量の関係を詳細に比較検討し、晴天指標と澄清指標で天空状態を分類する方法が、日射量からUV-A、UV-Bを推定する数式モデルの開発に有力な手法であることが確認できた。また、日射量から照度を推定する既開発モデルを測定データにより比較検証し、その高い推定精度が再確認できた。日射の直散分離法についても基本モデルを提案した。また、風向・風速・降水量については長時間間隔のデータから、1分間隔のデータを推定するための手法を検討し、基本的方向性が見えてきた。今後、さらに測定を重ね、長期連続測定により取得した各種気象要素データを基に、拡張アメダス気象データをさらに増強、高精度化するための気象要素の推定法を開発する予定である。今後得られる成果より、さらに多目的利用が可能な、次世代の「拡張アメダス気象データ」を多数のユーザーに提供できると信じる。
著者
松浦 敏雄 西田 知博 石橋 勇人 安倍 広多 吉田 智子 西田 知博 石橋 勇人 安倍 広多 吉田 智子
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

プログラミングを容易にかつ短時間に体験的に習得できるプログラミング環境PENの機能拡張として, 図形描画機能, ファイルI/O機能, 関数呼出機能を設計・実装し, PENを用いた実験授業を繰り返し実施し, その有効性を明らかにした. また, PENの中国語版, 台湾語版, 韓国語版, 英語版を実装した. さらに, 授業中の個々の学生の課題進捗状況を教員が概観するためのモニタ機能を実装した
著者
石田 佐恵子
出版者
大阪市立大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

近年急速に映像メディアの文化、インターネットをはじめとする現代メディアの文化が、世界的な規模で共有されつつある。その状況は急速に変化しているが、個別の文化の具体的なありようや展開、人びとの日常生活に及ぼす影響については十分に明らかではない。本研究では、現代メディアが日常生活に占める位置とそれがどのような形で諸個人の日常生活に現れてくるのかという観点から、現代メディア文化のさまざまな諸相についてクロス・カルチュラルな研究を試みた。平成9年度は、世界規模で共有されつつある現代文化のグローバリゼーションの成立過程について考察した。特に受け手の意味構造と社会全体の変容とに着目した。平成10年度の研究は、その継続研究に当たる。西洋的な脈絡との比較で考える観点と、アジア・アフリカ諸国との比較から考える観点の2つを併用して行われた。その考察の結果、「現代メディアの文化」と呼ばれるものには、インターネットや携帯電話のように「無国籍文化」としてとらえられるものと、マンガやアニメ、コンピュータ・ゲームのように特に「〈日本〉文化」と関連づけられて語られるものとがあることが明らかになった。クロス・カルチャー、グローバリゼーションという視点から見た現代メディアの文化は、それぞれの国々の日常生活のレベルで個別に生きられるものであると同時に、国際的な文化商品の輸出入・翻訳という観点から考察されるべきであるとの結論に達した。
著者
古澤 賢治 路 林書 中川 信義 李 暁西 植田 政孝 LU Lin shu LI Shao Xi 路 林暑
出版者
大阪市立大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

1.本研究は、中国の産業立地と広域経済圏の発展可能性を主たる課題とした.調査対象としては,北京,天津,山東,遼寧を含む環渤海領域と上海デルタを「竜の頭」とする長江経済圏を軸にし,それらの比較をしたいと考えた.広大な中国の研究は対象を絞り込まねばならないが,同時に中国の多様性を実際に体験し,様々な状況を比較検討する素地を固めることも不可欠である.2.具体的な研究課題としてはまず,90年代前半の大幅な外資導入によって引き起こされた中国各地の変化についての状況認識し,その意義を分析することであった.外資導入により,中国各地の変化は確かに急速であり,投資環境の整備で産業立地の改善は大きく進展した.とはいえ,各地の一部の指導者には中央政府の援助と外資導入に依存することを望むだけの者もいる.3.次の研究課題は,企業間,地域間の協力関係の進展についてであった.我々は各地における地域連携システム確立による広域経済圏の形成を調査した.しかし,企業の自律性は依然として行政的に阻害されており,地域間の協力関係は展開できないでいるのを改めて認識させられた.社会経済構造の根本的変革は容易ではなく,市場経済の発展に不可欠な地域経済の自由往来は思ったほど進んでいない.4.今回の調査研究ではまた,自動車と家電産業を中心に外資企業の進出状況と中国各地の産業拠点政策についても認識を深めた.国際的技術水準における格差は別にして,外資企業の中にも現地化に努力し,中国の技術者を養成する姿勢を示すものも多い.さらに各地の指導者の多くが,それぞれの特色を生かした発展の重要性を自覚し始めているように見えた.
著者
小玉 徹 矢作 弘 北原 徹也 小長谷 一之 佐々木 雅幸 大場 茂明 桧谷 美恵子
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

研究代表は、2007年3月、「大不況以来で最悪の10年間」と表現されるニューヨークの深刻なホームレス問題について調査(自費)した。そこで明らかになったことは、1996年の福祉改革によるワークフェアへの移行により、住宅への補助が削減されるとともにジェントリフィケーションの影響で家賃が上昇し、ワークファーストを強いられたワーキングプアとなった母子世帯がシェルターでの生活を余儀なくされている、という事態であった。これに対してローカルな福祉システムが作動しているドイツでは、高い失業率にもかかわらず、失業扶助、社会扶助、住宅手当によりソーシャル・ミックスが維持されてきた。しかしながら2005年以降、ハルツ改革によりワークフェアへと移行したことで、住宅手当、就労支援の両方にかかわる変更がなされ、都市での社会的分離の進行が危惧されていることが、最近、刊行された論考で指摘されている(Kafner S.,2007,"Housing allowances in Germany".in Kemp P.A.ed.Housing allowances in comparative perspective,The Policy Press).。なおドイツでは1999年以降、問題地域の対応プログラムとして社会的都市(soziale stadt、全国200カ所)がスタートしている。ニューディール・コミュニティ、都市再生会社によるイギリスのインナーシティ再生では、ニュー・エコノミーによる雇用の拡大、住宅、雇用、小売り、コミュニティ・サービスとレジャー施設のコンパクトな配置、さまざまな住宅テニュアの混合によるソーシャル・ミックスが意図されている。しかしながらこうした主張は、物理的な改変が社会問題の解決につながる、というニュー・アーバニズムに依拠している。
著者
井上 正康 佐藤 英介
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本申請者は、不安定で短寿命の活性酸素やNOのクロストークが、循環エネルギー代謝、感染防御、発生分化、組織リモデリングなど、種を越えて生物の生存を保証する危機管理スーパーシステムを構築することを世界に先駆けて報告してきた。本研究は、本システムの全容解明とその特異的代謝制御法の開発により各種病態の予防治療法確立を目的として進められた。本研究により、短寿命の活性酸素やNOを個体レベルで組織特異的に代謝制御するシステムがが確立できた。例えば、虚血組織、血管内皮細胞、肝細胞、腎尿細管細胞、白血球や網内系細胞などをその特異的ターゲットとするSOD群、長時間循環型のアスコルビン酸オキシダーゼおよびチトクロムcなどの検出分子系の開発などがその例である。これらを利用し、活性酸素NO系のスーパーシステムが抵抗性血管と所属組織のミトコンドリアエネルギー代謝・活性酸素代謝系を総合的に制御している分子機構が判明し、高血圧やショック病態がその代謝の歪みである可能性も判明した。さらに、ミトコンドリア内膜分子群に対する本スーパーシステムの作用機構を明らかにし、その特異的制御によりアポトーシスのコントロールが可能となった。さらに、本スーパーシステムが細胞の増殖制御や昆虫の変態現象にも関与することが判明した。後者は、感染症との関係で変態時期を認知実行する機構を形成していることも明らかになった。これに関連し、NO代謝を主軸とする活性酸素スーパーシステムが両棲類(オタマジャクシ)、及び昆虫(クワガタ虫やカイコ)の変態(プログラム細胞死と組織リモデリング)、および神経筋疾患の発症の時期や進行速度を統御していることが明らかになった。また、ミトコンドリア依存性細胞死を抑制するカルニチンがミトコンドリア病態を介する神経・筋萎縮性病態の進行を抑制することが判明した。さらに、組織特異的な活性酸素代謝制御による抗ガン剤の副作用(特に腎と消化管上皮細胞のミトコンドリア依存性アポトーシス)の特異的抑制法が可能であることも判明した。
著者
中根 芳一 土井 正 永村 一雄
出版者
大阪市立大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

平成2年から4年にかけての本研究で得られた結果を以下に要約する。一般の集合住宅及び気密性の高い防音住宅について実測調査を行った結果、一般に集合住宅で結露が多発する原因の第一は、防音住宅は勿論のこと一般住宅でも換気回数が少な過ぎる点にあることが明白になった。また普段の生活、例えば炊事、入浴、洗濯物の乾燥や開放型暖房機等から多量の水蒸気の発生が認められた。以上の実験の結果、生活に伴う水蒸気の発生を極力抑え、更に顕熱交換型換気扇を有効に活用すれば、寒冷地を除いて我が国では結露を殆ど無くすことができることが分かった。一方、2室間の隔壁モデルを用いた壁体の熱貫流実験を行なうと共に、実験と同じ熱的条件における数値解析を行って結果を比較することにより、壁体隅角部の数値解析において筆者らが以前に学会誌に発表した隅角部対流熱伝達相当温度境界層の考えが、両室間の空気温にそれほど大きな差がない場合(40℃ほど)に、10種類に分類したそれぞれの隅角部対流熱伝達相当温度境界層実験式を組み合わせて、実際の壁体を通しての数値解析において、入隅側に対しても出隅側に対しても同時に適用できることを確認した。この結果より、隅角部対流熱伝達相当温度境界層は、壁体両側の空気温度差がそれほど大きくない場合において、短形部と平面部を組み合わせた多様な形態の部位における熱性状解析に対して適用でき、異形部の熱貫流現象を熱伝導方程式に統一して分析できることから、異形部の熱性状解析の一つの有効な指標となることを確認した。依って結露や汚れ等が生じ易い壁体の隅角部の熱貫流解析に活用できる。
著者
西尾 昌治 小松 孝 佐官 謙一 正岡 弘照 鈴木 紀明 下村 勝孝 竹内 敦司 山田 雅博 佐官 謙一 正岡 弘照 鈴木 紀明 下村 勝孝 竹内 敦司
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

熱方程式などの放物型方程式に対し,その解空間の構造および,底空間の幾何学的状況などとの関係を解の積分表示などポテンシャル論的手法を用いた詳細な解析を行った.方程式としては,ラプラシアンの分数ベキを含んだ微分積分方程式などを取り扱い,放物型ベルグマン空間の研究では,時間変数に関する分数ベキ微分を用いる新しい手法によって,トエプリッツ作用素や調和双対に関する結果が得られた.
著者
金山 良春 根来 伸夫 岡村 幹夫
出版者
大阪市立大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

自然発症高血圧ラット(SHl)およびWKYラットの大動脈由来の培養血管手滑筋細胞(VSMC)を用いて,各種成長因子,血管作働物質を作用させた場合のcーmyc protoーoncogene(cーmyc)の発現の程度を比較し,Ca培抗薬やα_1ブロッカ-により抑制されるかどうかを検討した。SHR由来のVSMCは,胎児血清PDGF,EGF,アンギオランシンII,エンドセリンー1,エンドセリンー2,エンドセンリンー3の刺激に対してWKY由来のVSMCに対し有意に高いcーmycの発現を示した。しかし,TGFーβに対してはcーmycの発現の増強は示さなかった。一方,SHR由来のUSMCの種々の成長因子やアンギオテンシンII,エンドセリンなどの血管作働物質によるcーmycの増強それた発現はCa拮抗薬である,ニフェジピン,ジルチアゼムによりWKY由来のVSMCのcーmycの発現の程度に抑制された。また,α_1ブロッカ-である塩酸プナソシンによっても抑制されることを認めた。cーmycの発現にはCa^<++>とプティンキナ-ゼCが関与すると考えられているが細胞内Ca^<++>の動員に重要とされているイノシト-ル1.4,5ー3リン酸(IP_3)のアンギオテンテンIIに対する反応性をSHR由来のVSMCとWKYのそれとを比較したが、SHR由来のVSMCのIP_3反応はWKYの4ー5倍の反応を示した。このことよりSHR由来VSMCのcーmyc発現の増強の要因の一つはアレギオテンシンIIに対するIP_3反応の増強とそれに続く細胞内Ca^<++>の上昇の増強が関与している可能性が考えられた。
著者
林 雄二 村井 章夫 野老山 喬 菅 隆幸 後藤 俊夫 磯江 幸彦 正宗 直
出版者
大阪市立大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1987

天然性のイリドイド、ゲニビンを原料にして、多くの多官能性イリドイド及びセコイリドイド類の合成を達成した(磯江)。皮膚刺戟性があり発癌プロモ-タ-として注目を集めているテレオシジンの全合成をおこなった。インド-ル環に直接置換基を導入する新しい方法で、インドラクタムVおよびテレオシジンB3及びB4を合成した(後藤)。環状モノテルペノイド生合成の際に、ゲラニル2-リン酸(GPP)は、(i)環化酵素内で2-リン酸基を引抜かれてリナリル状のカチオンを発生すること、(ii)酵素内で発生するカチオンは、植物種に特異的なConfigurationをもっていることを明らかにした(菅)。2-(6'-シリル-4'-キセニル)-3'、4'-ジメチル-2-シクロヘキセノンの2'位にかさ高い置換基(シリル基あるいはアルコキシカルボニル基)をもつ基質の環化による8,9-ジメチル基をもつクレロダン骨格の合成を検討した(野老山)。さきに開発した鎖状ポリエン環化剤を用いて、センダン科Lansium domesticumの抗アレルギ-性セコオノセラノイドのアグリコンLansiolic acidを合成した。同じ植物の種子の二重転位形リモノイドを構造決定し生合成経路を推定した。又、同植物の魚毒成分アファナモ-ルAを、分子内光環化により生じるブルボナン形中間体を経て合成する経路を検討した(林)。ジャガイモ塊茎組織はジャガイモ疫病菌あるいはアラキドン酸を接種されると過酸化水素を発生し、これに伴ってフィトアレキシンの蓄積が誘導される。人為的に過酸化水素で処理してもフィトアレキシン生成は誘導されるので、過酸化水素はジャガイモでのフィトアレキシン生成の直接の引金物質であることがわかった。同様の現象は、サツマイモ、インゲン、サトウダイコンでも見出された。ジャガイモを用いてフィトアレキシンの内因性エリシタ-の実在をはじめて証明すると共に、その単離研究をおこなった(村井)。