著者
鈴木 亨
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

結果構文など英語の非選択目的語が関わる構文は、その構文的イディオム性をもとに文脈に応じて多様かつ新奇な創造的表現の使用を支える文法的基盤となっている。本研究は、非選択目的語が関与する構文に通底する変化事象を表す文法のしくみを明らかにするとともに、統語論と意味論という狭義の文法のみならず、世界知識や文脈情報など語用論的要素が創造的な言語表現の認可に関与するしかたを含めて、言語使用における文法の創造性の一端を解明した。
著者
岡本 賢吾
出版者
山形大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

1.[本研究の主題]近世期の形而上学(ライプニッツ、ヴォルフ派、カント等)と現代の論理学(とりわけフレーゲ、ラッセル、ウィトゲンシュタイン等の論理哲学的考察)においては、「無限」「関係(秩序、順序)」「様相(必然性、可能性)」の概念が重要な共通の主題となっている。こうした共通性の背後にどのような哲学史的・概念的連関が含まれているかを、特に「可能性」の概念について検討した。2.[可能性と命題]ライプニッツからヴォルフ派に到る形而上学では「可能なもの(possibile)」の概念が体系全体の基礎となるが、これは〈矛盾律・排中律・同一律という伝統的な形式論理の諸原理を満たす限りの任意のもの〉として特徴付けられ、現実的なものをもその一部として含む包括的な領域を成すとされている。この「可能なもの」は、論理的原理によって形式的に規定され構造化されている限りで、実は、真偽の決定を受け入れうる客観的な判断内容(命題)に、あるいはそうした命題によって表象される「事態」に相当するものだと考えられる。この点は、既にB・ボルツァーノが「命題自体」の概念を提起する際にライプニッツに即して示唆したことであり、それ以降、フッサール、フレーゲ、ラッセル等を通じて様々に展開され、ウィトゲンシュタインの『論理哲学論考』において完成した形で叙述されることとなっている。以上は、拙論『「可能なもの」の形而上学の意義』で詳述した。3.[今後の課題]以上との関わりで見ると、命題(とりわけ、概念記法の言語における「文(Satz)」によって表現された思想ないし判断)を分析することによって「概念の形成」が行われるとするフレーゲの議論が重要性を持ってくる。このような分析こそが、論理的シンタクスに適合した(従って、まさに強い意味で「可能」な)概念を与えるとされるからである。拙論『概念形成の媒体としての「文」』参照。
著者
藤岡 久美子 渡辺 梢
出版者
山形大学
雑誌
山形大学教職・教育実践研究 (ISSN:18819176)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.19-26, 2011-03-15

本研究は引っ込み思案行動に対する幼児の受容度について,引っ込み思案行動の場面および種類の点で検討した。90名の幼児を対象に,七つの場面における3種類の引っ込み思案行動の合計21個の仮想場面を提示し,登場人物への受容度を尋ねた。七つの場面は仲間入り・あいさつ・会話・要求に対する応答2場面・援助2場面であり,引っ込み思案行動は,働きかけに対して消極的に反応するもの・躊躇するもの・無反応なものであった。消極的な反応に対する幼児の受容度は,すべての場面において高かったものの,年齢が上がるにつれて受容度は減少する傾向が示された。躊躇や無反応に対する受容度は,場面や年齢および性により異なっていた。要求に対する応答場面や援助場面で示される躊躇や無反応は,受容されにくく,また,年中より年長,男児より女児の受容度が低い場合があった。これらの結果から,自分から集団参加しない他者に対する幼児の評価は,利害のないやりとりの場面での消極的反応に対しては否定的ではないが,明確な応答や自発的な行動が期待される場面においてそれを示さない場合に否定的になることが示唆された。キーワード:引っ込み思案, 幼児, 対人認知
著者
中村 隆 原 英一
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

ディケンズの後期の小説と1860年代のセンセーション・ノヴェルの相互の影響関係は、従来考えられていたよりもはるかに密接である。主題に関する幾つかの局面を検証することにより、これら相互の影響関係は明白となる。それは以下のように記述できる。1.物語のヒーローよりもむしろヒロインが中心的な位置を占める。2.ヒロインは重婚、不倫などの性的な逸脱を犯す。3.ヒロインは、夫殺し、放火、毒殺などの犯罪を犯す。4.ヒロインに酷似したもう一人の女性が登場し、二重人格の主題が形成される。5.二人の女性のアイデンティティが混同され、「幽霊」の主題が形成される。6.ヒロインの犯罪・秘密を暴くものとして男性の「探偵」が登場する。7.男性の探偵は、ヒロインの秘密を暴き、ヒロインの破滅を目論む。このような一般的法則に近接するディケンズのセンセーション・ノヴェル的作品として、『ドンビー父子』、『ディヴィッド・コパフィールド』、『荒涼館』、『辛い時代』があり、同様にまたウッド夫人とメアリー・ブラッドンの幾つかの作品(『イースト・リン』、『ハリバートン夫人の難題』、『アシュリダットの影』、『オードリー夫人の秘密』、『医師の妻』、『ジョン・マーチモンの遺産』など)も上記の条件を満たすことが明らかにされた。ディケンズの作品とセンセーション・ノヴェルの密接な関係を示すさらなる証拠として1869年から70年にかけて、ディケンズによってなされた「サイクスとナンシー」の公開朗読がある。そこでは、センセーション・ノヴェルに通底する「夫殺し」と「幽霊」の主題が、娼婦ナンシーを通して前景化する。
著者
中島 勇喜 林田 光祐 阿子島 功 江崎 次夫 吉崎 真司 丸谷 知己 眞板 秀二 木村 正信 井上 章二 岡田 穣 小林 範之 坂本 知己 柳原 敦 阿子島 功 江崎 次夫 吉崎 真司 丸谷 知己 眞板 秀二 木村 正信 井上 章二 岡田 穣 小林 範之 坂本 知己 柳原 敦
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

2004年12月に発生したインド洋大津波および2007年4月に発生したソロモン諸島での津波による被害地を調査し、津波に対する海岸林の被害軽減効果を検証した。その結果、海岸林による漂流物の移動の阻止、津波の波力の減殺、よじ登り・すがりつき効果が確認できた。さらに、被害軽減効果と海岸林の組成や構造は海岸地形に大きく依存していることから、地形を考慮した海岸林の保全が津波被害軽減に有効であることがわかった。
著者
鈴木 和弘 鈴木 宏哉 中西 純 小磯 透 石井 好二郎 高木 誠一 中野 貴博 長野 敏晴 小山 浩 霜多 正子 溝口 洋樹 川村 徹 梅津 紀子
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究の目的は,幼児から中学生の子どもを対象にライフスタイル改善教育及び体力向上プログラムを幼児・学教教育に適用し,同一集団の子どもをそれぞれ縦断的に追跡しながら,その有効性を検証することであった.おもな成果は次の3点であった.1)体力向上プログラムに参加した幼児の体力は,小学校1年で極めて高く,体力A評価は50%を超え,持ち越し効果が確認された.2) 低学年児童を対象に基本的動作習得を目指した8時間の授業で,動作の改善と共に,50m走後半の疾走スピードに有意な改善が見られた.3) 中学校での3年間継続した体力向上への取り組みによって,生徒の遅刻回数や不定愁訴が有意に減少した.
著者
丹羽 健市 浅井 武 長井 健二 大貫 義人 笹瀬 雅史 竹田 隆一 曽 広新 李 宏玉 修 傳風 揚 振東
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

これは平成9年度〜平成11年度の3年間にわたって山形大学教育学部と中国・吉林師範学院体育分院の共同で行われた「日中東北地域におけるスポーツ科学の比較研究」の報告書である。近年、スポーツ科学の発展はめざましく、その国際化と多彩な分野の総合化は急務な課題となっている。そこで山形大学と吉林師範学院の体育・スポーツ研究者が、同じ東北地方に位置するという地理的条件などを考慮し、上記テーマを設定し、共同研究を通じて学術交流をすすめることになった。3年間にわたり、両大学の研究者が2名ずつ相互に訪問し、共同研究を実施した。この報告書には共同研究で得られた成果をもとに発表された論文・資料等を掲載した。また、共同研究会での発表の要旨も収録した。そこであきらかなように、この研究はバイオメカニクス、運動生理学、体育科教育、武道論、体育社会学などスポーツ科学がカバーする広範な分野に及んでいる。ここには、丹羽健市による運動時の水分摂取と体温調節の生理学的研究、大貫義人による低体温者の運動に関するスポーツ医科学研究、浅井武によるサッカーのバイオメカニクス研究。長井健二の体育科教育研究、曽広新の太極拳の運動生理学研究、竹田隆一、宮煥生の武道教育研究、笹瀬雅史の体育社会学的考察、などがまとめられている。また日本および中国の東北部という冬季寒冷な地城におけるスポーツ活動やスポーツ科学的トレーニングに関する知見の交流、さらに学佼やスポーツ施設などの実地見聞も共同研究をすすめるうえで有益であった。資料収集と情報交換は継続して行われた。こうして、同じように東北地方に位置し、教員養成系大学である山形大学と吉林師範学院の体育・スポーツ研究者の共同研究ならびに学術交流は一定の成果をあげたものである。今後は、この基礎作業を土台として、さらに共同研究を継続していくことが必要である。なお、この共同研究の実施と報告書の刊行は、「科学研究費補助金基盤研究(B)(2)」を得て行われたものである。
著者
松崎 学
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

平成7年度および8年度ともに、7月末から8月はじめの1週間、何らかの問題を抱えた子どもちた(小学生)が、STEP(Systematic training for effective parenting)を用いてサポ-ティヴなかかわりをすることができるように訓練されたスタッフとともに過ごした。合宿経験を通して、自分が抱えている問題(ストレッサー)に対する認知的評価や対処行動がどのように変容するかを、特に内藤(1993a,1993b,1994,1997)によって考案されたPAC分析(Personal attitude construct)を用いて追跡検討した。その結果、研究成果報告書に示したように、母親がLD(学習障害)かもしれないという男児(小4)は、他の子どもと比較して他の子どもがわかることが自分にはわからないということに気づき、その悩みを抱えていた。その年のゴールデンウィーク以降不登校気味であったが、合宿後の2学期は、いったん登校するようになったものの、12月の風邪による欠席をもとに3学期は完全な不登校となった。しかし、その問題に正面からぶつかることとなり、結果的には一種の障害受容、ないしは、自己受容を果たし、等身大の自分の生き方を見いだした。そして、4月以降、元気に登校している。その他のケースでも、大半の子どもがストレスフルな状況におかれていて、しかし、子ども自身ではそれを乗り越えることができないほどのストレスであっても、合宿という中でのかかわりを一つの契機として子ども自身が若干の変化を見せ、それを感じた親や教師がその子に対するかかわり方に変化を見せ、本来のサポート関係をつくり出してくれると、子どもは自分の問題としてなんとか乗り越えていく姿を見せてくれると言えよう。そういうことの積み重ねが、ハ-ディネス形成につながっていくであろうと考察された。
著者
内田 吉昭 足利 正 鳥巣 伊知郎
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

1.内田は(1)三次組み紐と三橋結び目上分岐する三次元球面分岐被覆空間を結び目のダイアグラムを利用しで決定ずる方法を発見した。そしてそれらの空間がそれぞれレンズ空間L(n,1)とL(n,m)となる事を示した.(2)三次元球面内のトーラス結び目上分岐する分岐被覆空間の研究で次の結果を得た.非正規三重分岐被覆空間を持つトーラス結び目はT(2x,3y)(x,yは互いに素な整数)の型であり、その被覆空間はザイフエルトファイバー空間になる.そして、2xβ_2+3yβ_1=±1となる整数β_1とβ_2に対して M(β_1/2x,β_1/x, β_2/y) となるザイフェルトレファイバー空間が被覆空間となる事を示した.また、トーラス結び目T(2,x)、T(3,x)の族に対しては結び目のダイアグラムだけを使用する証明方法でM(β_1/2x,β_1/x,β_2/y)となる事を示した.2.足利は(1)リーマン面の退化族の局所不変量、位相モノドロミー、分裂族やLefschetz fibrationの大域的性質に関する進展についての概説を論文にまとめた.(2)退化代数曲線束のファイバー芽に対するエータ不変量を経由する局所符号数に対しては、その安定還元芽め持つ同種の符号数との比較公式を与えだ.(3)負型連分数を用いてDedekind和を明示する新公式を提示し、これからDedekind相互律が導かれることを示した.3.鳥巣は(1)Howards-Lueckの定理を絡み目に拡張した. また、二橋絡み目のstrong trivialityについて研究を行い、(自明でない)すべての二橋絡み目はn≧1に対してstrongly n-trivialとならないことを示した. (2) strongly 1-trivial Montesinos結び目の族を与え、もし、有名なSeifert surgery予想が有効ならば、この族はすべてのstrongly n-trivial Montesinos結び目を含む事を示した.また、(3)Legendrian twist knotの分類、写像類群とcontact open bookなどの研究を行った.
著者
黒田 充紀
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

マイクロメートル寸法領域における金属材料の機械的性質の寸法依存性について実験的に調べ,それを,物理的合理性をもって再現可能な高次勾配結晶塑性論を定式化した.実験研究においては,板厚の異なる単結晶アルミニウム箔と単結晶銅箔を用いて,ひずみ勾配とともに蓄積される内部応力の挙動を明らかにした.理論研究においては,幾何学的必要転位密度の空間勾配によって発生する内部応力を考慮した高次勾配結晶塑性理論を定式化した.
著者
Izumi Ryotaro Takahashi Eikichi
出版者
山形大学
雑誌
山形大学紀要. 工学 (ISSN:0085834X)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.183-196, 1954-12-20

前回につづいてここでは硫黄釜のうち,特に丸釜と連続式精煉釜との揚合について理論的に解き,おのおのの場合の数値例を示し伝熱現象を判明させた。 この結果は「硫黄釜における伝熱問題について」と題し,昭和29年6月18日 日本機械学会盛岡地方講演会で発表したものである。 計算については実験データーを提供し,詳細の指導を戴いた当学部応用化学科篠崎平馬教授の御厚情に感謝する。 また数値計算を遂行された当研究室金子祝郎君に対し深謝する。
著者
田村 恒一
出版者
山形大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

本研究では、小型簡易風力発電機による雪庇生成阻止機能を考慮し、豪雪地域での人身事故の抑止効果に関する基礎的検討を行った。先ず、風力エネルギーの効率良い取り込みのために、風車翼と起動力の関係を検証した。風車翼の種類は翼面寸法が同じ9枚の平板翼と曲面翼とし、翼の傾き角度は風向に対して10、20、30、40度の場合、また、風車自体の向きを風向に対して正面、±22.5、±45度と変えた時の起動力データを測定した。測定結果から、平板、曲面翼とも翼角が大きくなると起動力も大きくなり、曲面翼は平板翼の25%増となった。風向に対する風車の対向角度変化の測定データより、風向に対して45°風車がずれていても平均で風力エネルギーの54%を取り込むことができるという結果を得た。さらに、米沢市のアメダス・データを検討した結果、冬季の風向発生頻度の約86%、頻度と風速の積値では93%が西北西を中心に±45度の範囲にあり、風車は風向追随型ではなく固定型で実用上十分で、雪庇対策効果や構造強度的にも好都合と考えられる。基礎実験データを参考に、ハブダイナモを用いた風車二機を試作した。風力発電機の直径は二機とも約1200mmで、ライト管210型9枚翼とVU管100型6枚翼とした。試作風車を二階屋根東側端(季節風の風下、雪庇の生成位置)外側に固定し、傍に風向・風速計を設置して、風速・風向と発電電圧のデータを収集し、加えて雪庇生成や積雪状況の観測を行った。試作した風力発電機は二機とも、起動風速は1m付近と自己起動性が良く、1.4m付近で発電電圧が6Vを超え、蓄電も十分行えることが確認できた。微風で風車が回転するため、風車設置位置での雪庇の生成が押さえられ、風車両脇の雪庇も支えを失い、早期に落下することが認められ、適切な風車の配置によって、雪庇生成が抑制されると考えられる。複数機設置することにより、より有効な抑制効果が期待できる。
著者
小林 淳子 赤間 明子 大竹 まり子 鈴木 育子 叶谷 由佳 藤村 由希子 右田 周平
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

平成17年度は,妊娠を契機に禁煙した、あるいは喫煙を継続した女性喫煙者の「たばこに対する思い」を因子探索的に分析した。その結果,出産後まで禁煙を継続した女性では「子どものため,自分のため,他の人のために喫煙はやめるべき」という規範的意職と,「出産後のいたずら喫煙,育児の負担がなければ喫煙しない」という将来の再喫煙を避けるための対策の因子が抽出された。一方,再喫煙した女性では「また吸ってしまうかもしれない」という再喫煙の予感,「止めたいが止められない」という禁煙困難,「禁煙は考えていない」という無関心の因子が抽出された。「子どもと喫煙」に関するラベル数の割合が,禁煙継統群は喫煙再開群よりも明らかに高く,PRECEDEPROCEEDモデルの「実現要因」である喫煙環塊への対策に加えて,「前提要因」である「喫煙による子どもへの影響の認知」を高めるために,「強化要因」である医療関係者の役割の璽要性が示唆された。平成18年度は,地域における禁煙サポート源として看護職者が機能するために,看護職者よる禁煙・防煙支援の実態と関連要因を解明を目的とする質問紙調査を実施した。Y県内の55施設,所属する看護職1414名を分析対象とした。その結果、禁煙・防煙支援が業務としての位置づけられている407名(28.8%)、禁煙・防煙支援の経験あり267名(18.9%)と低率であり、禁煙支援・防煙支援の困難は189名(70.8%)が感じていた。同時に、禁煙・防煙支援の講習会の参加は250名(17.7%)に留まった。業務の位置づけがある群で支援経験ありは38.3%,位置づけが無い群では11.0%,しかし位置づけがあっても支援経験なしが61.7%を占めた。禁煙支援の自己効力感は100点満点で平均14.4(±12.3)点と低かった。以上の結果から,看護職者は禁煙支援・防煙支援を業務として位置づけられていても実施していない割合が高く,支援の自己効力感が低い点が課題であることが明らかとなった。
著者
家串 哲生
出版者
山形大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本研究は、農業経営への環境会計導入を試みることを通じて、同経営に潜在的に隠れている可能性のあるコスト(potentially hidden cost)である環境コストを実証的に測定することを目的としたものである。研究初年度においては、主に対象事例の実態調査を行い、それに基づき、同事例の環境コストの集計範囲、事業活動に応じた分類、集計方法等の検討を行った。その具体的な研究内容は以下の通りである。(1)環境会計に関する内外の文献収集・検討を行った。また、同テーマの関連学会(日本農業経営学会、地域農林経済学会、日本社会関連会計学会等)に参加し、意見交換を行った。(2)前述した各学会において、それぞれ順に「農業経営における環境コスト及び環境資産の会計」、「農業経営における環境コストの認識・測定に関する-考察-農事組合法人Mにおける環境会計導入事例より-」、「農業経営における環境コスト及び環境資産の会計」の題目で学会報告を行った。最終年度となる次年度においては、(1)前年度の実態調査及び意見交換の結果に基づき、再度、対象事例の環境コストの集計範囲、事業活動に応じた分類、集計方法等の検討を行った。(2)それらの内容を勘案し、学会誌(『農業経営研究』)へ報告論文「農業経営における環境コスト及び環境資産の会計」を投稿し、掲載された。本研究では、対象事例の2004及び2005年度の農作業日誌データを用い、『環境会計ガイドライン2005』に基づいて環境会計を導入し、主に仮定按分法により6つの地域における環境保全コスト及び農業者当たり環境保全コスト、総費用に占める環境保全コストの割合を算出した。その結果、総費用に占める環境コストの割合は、いずれも2割前後をも占めており、その大部分は、「水質汚濁・土壌汚染防止」コストであること等を明らかにした。ただ、これらの結果には、対象事例の主観が多分に混入している。今後の課題として、いかに環境コストの認識・測定及びその方法の客観性の向上があげられる。
著者
中村 隆 原 英一
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

ウッド夫人とメアリー・ブラッドンの長編小説に関して、なお考察が不十分と考えられる3つの視点を提示した。(1)不倫小説としてのセンセーション・ノヴェル(2)探偵小説としてのセンセーション・ノヴェル(3)ウッド夫人、ブラッドン、ディケンズの小説の相互関連。(1)について:センセーション・ノヴェルの中枢に「反逆する娘」(subversive daughter)と「反逆する妻」(subversive wife)がいることを指摘し、彼女たちが「不倫小説」を生み出す原動力となっていることを解明した。(2)について:ドイルの前に位置するセンセーション・ノヴェルの「細部」を重視する探偵たちは、19世紀末葉に興隆する犯罪科学(犯罪人類学、顔写真、指紋、毒物学)を先取りしていることを指摘した。(3)について:ディケンズ、ウッド夫人、ブラッドンの小説との比較検討を通じて、そこに、夫への不信を抱く妻、不倫願望を持つ妻、不倫妻の秘密を暴き出す男の探偵というパタン化された構図があることを解明した。
著者
半澤 直人 玉手 英利 中内 祐二
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

ウケクチウグイは、分布が南東北の日本海に流入河川に局限され、生息密度が低いために生態や行動などが不明の絶滅危惧種である。本研究では、ウケクチウグイと比較対象のウグイが生息する山形県最上川水系と28年前に同種を調べた福島県阿賀野川水系を調査地として、ウケクチウグイの生息調査、飼育実験、およびDNA多型に基づく集団解析により、生態や集団構造を推定して絶滅の危険性を判定し、保全の方策を検討した。漁協、国交省河川事務所などの協力によりウケクチウグイの調査を進めた結果、最上川下流、阿賀野川上流ではかなりの個体数を確認したが、最上川上流ではほとんど確認できなかった。特に、唯一ウケクチウグイの産卵が確認されている最上川上流の産卵場では、平成18、19年春は前の冬が異常な暖冬だったせいか、産卵が確認できなかった。野外や飼育下での観察により、ウケクチウグイは魚食性が強いことが確認され、生息密度が低いのはこの食性に起因していると推察された。ミトコンドリアDNA解析では、最上川水系と阿賀野川水系のウケクチウグイ集団は明らかに遺伝的に分化し、全てのウケクチウグイ集団でウグイ集団より遺伝的多様性が著しく低かった。マイクロサテライト解析でもウケクチウグイ集団の遺伝的多様性は著しく低かった。2つの異なるDNAマーカーにより、最上川下流で始めてウケクチウグイとウグイの交雑個体が発見された。以上より、両水系のウケクチウグイ集団の個体数は激減して近親交配が進み、一部では種間交雑も生じて個体の適応度が低下し、絶滅の危険性がより高まっていると推察された。今後は、両水系のウケクチウグイ集団をそれぞれ別な保全単位として、産卵場や生息場所の保全対策を緊急に進めるべきである。
著者
西澤 隆 松嶋 卯月 川満 芳信 中西 友子
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

1.メロンの生理障害の一つである「水浸状果」の発生メカニズムについて調べ,トリガーとしてのエチレンの働きと,細胞壁の崩壊に伴う細胞壁間隙の乖離,水移動に伴う,果肉の透明化のメカニズムを明らかにした.2.メロンの「水浸状果」発生には,嫌気的呼吸に伴う果実内部における発酵物質(アセトアルデヒドやエタノール)の蓄積が直接的な要因として関与しているのではなく,細胞壁の乖離に伴う水移動が直接的要因として関与していることを明らかにした。3.メロンの「水浸状果」発生には,必ずしも細胞壁にイオン結合するカルシウムが不足することにより細胞壁同士の乖離が生じる必要はなく,共有結合性ペクチン分子の低分子化に伴う細胞壁同士の乖離が原因として働くこともあることを明らかにした.4.作物の水移動に伴う生理的変化を,切り花,食用作物,青果物を使って検討し,水移動の可視化,細胞の構造的変化とテクスチャーとの関係を明らかにすると共に,農産物の新たな貯蔵法について提唱した.5.近赤外分光分析法,中性子イメージング,レーザードップラー等を用いた,新たな作物内部の非破壊検査法,水移動のリアルタイムな追跡法について検討し,測定技術の改善と応用性を広げることができた.
著者
小沢田 正 中田 瑛浩 久保田 洋子
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

臓器の病変をいかに早期にかつ正確に把握するかは,今や医療診断の中心課題である.CTの発達した現在でも,高い信頼性を要求される臓器組織の確定診断においては生検またはポリペクトミ-による微小組織片の摘出とその組織病理検査に頼らざるを得ない.そこで本研究では,病理学とは全く異なる動力学の視点からの診断を考えた.すなわち摘出された微小組織の一部を用い,病変によって生じた力学特性の変化を検出することによって,その場で短時間に信頼性の高い臓器組織の病変情報を提供し得る新たな診断方法の開発を試みた.以下,本研究により新たに得られた知見の概要を述べる.1)ダイナミックダンパーの原理を応用し,臓器軟組織の動力学的な物性値測定を可能とする動的試験法を開発した.また,この手法を応用したヒト前立腺組織,ラット大動脈組織を始めとする泌尿器科臓器組織の迅速かつ高信頼性を有する新たな臨床病変診断システムの実現に一歩近づいた.2)ごく微小なはりに生体軟組織片をダイナミックダンパーとして作用させ,その振動吸収能を計測することにより逆問題的に生体軟組織の動的物性値評価を行う手法を初めて提示した.これにより,はり質量の百分の一以下,数mg大の超微小生体軟組織片の固有振動数,弾性係数,粘性減衰係数などの動的物性値測定が可能となった.3)シンプルな動的試験法であり大がかりな測定装置を必要とせず,その場で迅速な計画が可能なため,軟組織の臨床診断法として最適であることが分かった.