著者
永原 陽子 鈴木 茂 舩田クラーセン さやか 清水 正義 平野 千果子 中野 聡 浜 忠雄
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、「植民地責任」という従来の歴史学になかった概念を試論的に提示し、脱植民地化研究におけるその可能性を探った。「植民地責任」論は、かつて植民地支配を受けた地域の人々から近年になって出されている、植民地支配にかかわって生じた大規模暴力に対する謝罪や補償への要求等の動きを、歴史学の問題として受け止めたものである。そこでは、植民地体制下、あるいは植民地解放戦争などの中でおこった大量虐殺等の大規模暴力が、「戦争責任」論において深化・発展させられてきた「人道に対する罪」として扱われている。そのような趣旨の訴訟等を比較検討した結果、植民地支配の歴史をめぐって、主体に解消されない、「個人」や「民族」主体、その他様々なアクターが形勢してきた新たな歴史認識を見て取ることができた。植民地主義の歴史にかんするこうした新たな歴史認識は、植民地支配の直接の前史としての奴隷貿易・奴隷制にも及ぶものである。こうした歴史認識・歴史意識の変化は、政治的独立とは別の意味での「脱植民地化」現象ととらえることができる。このことから、本研究では、「植民地責任」論を「脱植民地化」研究を主体論的にとらえるための方法と位置づけた。植民地体制下の大規模暴力の少なくない部分は、「人道に対する罪」に代表される、「戦争責任」論の論理によってとらえることが可能である。しかし、そのような法的議論が対象とすることのできない歴史的現象、また「罪」の指標には該当しない、日常化した植民地体制の問題も、植民地支配を経験した人々の生にとってはきわめて重要なことであり、本研究は、「平時」と「戦時」の連続性の中において大規模暴力を理解し、それを通じて、脱植民地化を16世紀以降の長い世界史の中でとらえ直すための方法として「植民地責任」論を提示し、その有効性を確認した。
著者
宮下 遼
出版者
東京外国語大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

採用最終年度である本年は、本研究の集大成として、これまでの宮廷詩人という研究対象から離れ、イスタンブル庶民の心性と人的社会結合の様態を「描写の書」と呼ばれ、庶民の行状を椰楡的に詠む文学作品群、および17世紀のムスリム系イスタンブル人であり、庶民的、通俗的社会観察を残すエヴリヤ・チェレビー『旅行記』と同じく17世紀のアルメニア系イスタンブル人であり、聖職者でありながらもアルメニア正教徒、ならびにギリシア正教徒の俗人社会の内情を記したエレミヤ・チェレビー・キョミュルジュヤン『イスタンブル史』という地誌的旅行記2点を用いつつ、研究を遂行した。まず、酒場、珈琲店、サロンといった人的社会結合の場で活動する庶民と、それについての王朝の支配階層の庶民像を検討した。そして前記の2点の地誌的旅行記史料に共通し、なおかつ両史料にのみ記載された庶民的要素としてイスタンブルの津々浦々に宿る「俗信」を抽出し、これを検討した。以上の成果については残念ながら年度内に発表することが叶わなかったが、王朝支配階層の庶民像を検討した論文「16世紀オスマン朝「描写の書」に見る古典詩人の庶民像」については年度末に投稿、現在掲載審査中であることを付記しておきたい。
著者
湯川 恭敏 BESHA Ruth M 加賀谷 良平
出版者
東京外国語大学
雑誌
海外学術研究
巻号頁・発行日
1988

今年度は、前年度の現地調査によって得られた以下のタンザニア諸言語(部族語)のデータについて、できる限り多くのものの整理と分析を目標とした。チャガ語マチャメ方言、同ヴンジョ方言、同キボソ方言、パレ語、ズィグア語、ザラモ語、ゴゴ語、ベナ語、マトゥンビ語、マコンデ語、マンダ語、ニャキュサ語、ニハ語、ニャトゥル語、ランギ語、ニランバ語、スクマ語、ニャムウェズィ語、ハヤ語、サンダウェ語また、タンザニアからの参加者ルス・Mベシャは、シャンバラ語(サンバー語)についての研究を整理した。その結果、以下の諸言語に関してかなりの水準の分析ができた。チャガ語マチャメ方言、パレ語、ザラモ語、ゴゴ語、マコンデ語、ニハ語、ニャトゥル語、ランギ語、ニランバ語、スクマ語、ハヤ語それらの分析結果の多くは、科学研究費補助金による出版『Studies in Tanzanian Languages』に、ベシャの論文とともに収録されている。バントゥ諸語のように互いに似通った文法構造を有し、かつ、欧米諸国の研究者によってある程度の研究がなされている言語については、個別言語の文法等についての初歩的事実を記述するのでは(仮にその言語についての研究としては初めてであったとしても)言語学的意味がほとんどないので、我々は各言語について、その全体的な音韻・文法構造を把握すると同時に、従来バントゥ諸語研究全体としてみて不十分であった分野のつっこんだ分析をめざした。その分野とは、主にアクセントの領域であり、日本語とよく似た高低アクセントを有するバントゥ諸語のアクセントの解明は、その言語そのものの研究にとって重要なものであるとともに、一般言語学的にも極めて重要なものである。その中でも、動詞のアクセントは、バントゥ諸語の動司の文法的複雑さ(動詞語幹にさまざまな接辞がくっついて数多くの活用形ができあがるという特徴)のために、その解明に特別の努力を要するものであり、また、それを解明するには、その言語の動詞にいかなる活用形が存在するのかを前もって知っている必要がある。すなわち、その言語の文法に関する総合的知識を必要とするため、各言語の全体的な構造の紹介と言語学的に高度な分析とを統一的に遂行するには恰好の領域といえる。我々の努力がこの線に沿ってなされたのは、こうした理由による。なお、タンザニアのバントゥ諸語には、チャガ語やスクマ語のようにかなり複雑なアクセント体系を有する言語がある一方、ザラモ語のようにアクセント対立がなくなっているもの、あるいはかなり簡単化しているものも相当ある。そのような言語についても、動詞組織の解明に意味がないわけではないので、そうした論文も発表した。また、ベシャの研究は、シャンバラ語の話し手としての言語感覚を生かした研究を行ってほしいという我々の要望に応えたものとなっている。こうした面での努力と同時に、我々は、二つの言語を選んで、その語彙集を同じく科学研究費補助金によって編纂し出版した(ニランバ語、パレ語)。これらは、従来この種の辞書類にはあまり見られないアクセント表記を付したものであるとともに、タンザニアの国語であるスワヒリ語の単語をも(今後のスワヒリ語と部族語との比較・対照研究の便宜をはかるために)つけ加えたものである。以上の研究は、タンザニア124部族のうちの約1割の言語を扱ったにすぎないという点では初歩的といわざるをえないし、今後の一層の研究(既存データの分析と新たな調査)を必要とするけれども、少数の研究者による短期の調査によるものとしては質量ともにおそらく世界的にも他に類を見ないものであり、これによって、タンザニアのバントゥ諸語の研究の発展に重要な寄与をなしたといえるのみならず、広くはバントゥ諸語の記述・比較研究にも一定の寄与をなしえたといえよう。バントゥ諸語比較研究との関連でいえば、そうした研究のレベルは個別言語の記述がどこまで正確であるかによって規定されるものであり、個別言語の言語学的分析を中心とした我々の今回の研究は、その小さな部分にすぎないけれども、それなりに極めて重要な意義を将来にわたって持ち続けることになろう。
著者
家島 彦一 黒木 英充 羽田 亨一 上岡 弘二 川床 睦夫 飯塚 正人 山内 和也
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1998

本調査の主たる目的は、イスラム圏における統合と多様性のメカニズムを理解する-助として、当地における交通システムの歴史的変容を解明することであった。この目的を達成すべく、1988年度から2000年度にかけて-連の現地調査と文献調査を実施した結果、以下のような重要な研究成果を得ることができた。1.1988年度から2000年度にかけて行った南イラン・ザグロス山脈越えの古いキャラバン道調査では、バーチューン、アーザーディガーン、ローハーニーなどの地で、これまで記録のなかったキャラバンサライ(隊商宿)、水場、拝火神殿、石碑、城塞等の新たな歴史的遺跡群を発見した。この調査によって初めて、シーラーズ・シーラーフ間の正確なルートが明らかになった。2.2000年初頭に行ったエジプト南部のクース/エドフー(ナイル渓谷)〜アイザーブ(紅海岸)を結ぶキャラバン道調査では、イブン・ジュバイル、アブー・カースィム・アル=トゥジービー、イブン・バットゥータといったアラビア語メッカ巡礼書に登場する地名の同定に成功するとともに、新たな歴史遺跡数か所を発見。時代と場所を確定し、GPSを用いて図面に記録した。また、アバーブダー部族のベドウィンから当地の聖者廟に関する情報を得た。3.2001年初めに行ったホルムズ海峡からオマーンにかけての現地調査では、カルハート、ミルバート、スハールなどの港市遺跡を訪れるとともに、外国人労働者ネットワークの最近の動向について調査を行った。その結果、港湾における諸活動や人間移動の構造と機能は過去も現在もそう変わっていないことが明らかになった。この地域ではまた、最近のダウ船による貿易とダウ造船業の現況に関する調査も実施した。以上の成果を総合した結果、イスラム圏における共生と接触のダイナミズムをより深く理解するためには、交通システムに関する調査が今後も必要不可欠であることが確認された。
著者
渡邊 啓貴 滝田 賢治 羽場 久美子 田中 孝彦 小久保 康之 森井 裕一
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

平成19年度は、研究代表者・分担者はそれぞれ3年計画の趣旨に沿って3年目の計画を無事に終了した。研究代表者、渡邊啓貴は、フランスに渡航し、フランスの立場について、パリ政治学院、フランス国際問題研究所、在フランス日本大使館を訪問、意見交換・情報収集を行った。また、韓国では梨花女子大学、延世大学、マレーシアではマレーシア大学、戦略研究所、経済研究センターをそれぞれ訪問し、意見交換・情報収集を行った。研究分担者、羽場久美子は、ロシア(ウラジオストク、アカデミー歴史学研究所)、ドイツ(ベルリン、フンボルト大学)、同小久保康之はベルギー、同滝田賢治は、米国(ワシントンDC)、同森井裕一は、ドイツを訪問し、研究課題に即したネットワーク形成と情報収集を行った。平成19年10月下旬には、パスカル・ペリノー教授(パリ政治学院・フランス政治研究所所長)、12月初旬には、ジャン・ボベロ教授(Ecole Pratique des hautes etudes)を招聘し、シンポジウムや研究会合を開催した。(10月23日「サルコジ政権の誕生と行方」(於日本財団)、12月11日科研メンバーとの会合(日仏会館))いずれも盛会で、フロアーなどからも多くの質問が出され、積極的な議論が行われた。以上のように研究計画第3年度としては、予定通りの実り大きな成果を上げることが出来、最終年度を締めくくることが出来たと確信している。
著者
土肥 秀行
出版者
東京外国語大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

初年度に行ったローマ国立図書館や国内における資料収集によって、テーマであるイタリアの短詩形における日本の詩の影響に関して、重要な役割を演じたのが下位春吉であることを確認した。その結果は「イタリア図書」誌上における2度の連載にあらわれている。今後、出版を目指していく下位についての単行本において、日本の詩の影響についてまとめられるだろう。初年度より継続して行ってきた、イタリアにおいてもっとも有名な歌人である与謝野晶子の受容についての調査は、その成果が論考「近代歌曲の詩人たち」にまとめられた。前衛である日本の詩歌の音楽との親和性について触れた論となった。年次計画に記したとおり、フィレンツェ大学の日本文献学講座の主任である鷺山郁子教授との共同研究「日本・イタリア詩の韻律の比較」(2001年より実施)の最終成果を、11月にボローニャ大で行われた国際シンポジウムの折に、鷺山教授の発表に協力するかたちで実現することができた。この国際シンポジウムでの発表において、パゾリーニの日本での受容を紹介するだけでなく、20世紀初頭から訳されてきた日本文学の少なからぬ恩恵をパゾリーニが受けたことを示せた。よってパゾリーニという特定の作家研究だけでなく、現代イタリア文学史の広い範囲に影響する重要な指摘としてイタリアの研究者に受けとめられた。また日本文学史家であるローマ大学のオルシ教授、マストランジェロ教授とは、11月のローマ大学でのワークショップの際に、下位の文学活動の実際の影響力について貴重な意見交換ができた。短詩形をもっとも革新的に用いた詩人ウンガレッティについての資料の精査は、これから一連の論考として発表していくが、まずは1月の口頭発表「初期ウンガレッティとハイク」に成果の一部が紹介された。2月にはボローニャ大学イタリア文学科にて、ステファノ・コランジェロ教授との共同研究の成果発表の場として、20世紀文学における翻訳の問題についての特別講義を行った。専門家の評価だけでなく学生の関心も高く、今後も継続してボローニャ大研究者との共同研究を続けていくことになった。
著者
稲山 円
出版者
東京外国語大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本研究は、イランの首都テヘランの宗教実践を事例として、イスラームとジェンダーの関係性を検証するものである。今年度は、前年度に引き続き、女性の性質、役割、義務、位置付けなどに関するペルシャ語の文献の分析、およびイランのジェンダーに関する先行研究の検証を進めた。また、12月下旬から約3週間、イランの首都・テヘランにおいてフィールドワークを実施した。イラン人の家庭に滞在し、日常生活を共にしながら宗教実践への参与観察や、家族の成員らへのインタビューを行った。特に調査の時期は、イランが国教とする12イマーム・シーア派の第3代イマームであるホセインが西暦680年にカルバラーで殺害されたこと哀悼する儀礼が行われるヒジュラ暦モハラム月が始まったところであり、今回のフィールドワークでは、この哀悼儀礼への関与に関して、男女によってどのような違いがあるのかに焦点を当てた。方法としては、モハラム月1目から哀悼儀礼がピークを迎える10日までの間の、滞在先の家族およびその親族の成員の行動について、誰とどこでどのように過ごしたかについてインタビューを行い、記録した。これにより、モハラム月に行われる様々な哀悼儀礼への関与に関して、男女という性別による違いだけでなく、世代による違いもあること、その違いは男性間の方が大きいことが明らかとなった。また、モハラム月の哀悼儀礼と親族間の紐帯が密接に関連していることも明らかとなった。帰国後は、これまでの研究成果をまとめ、博士論文の執筆を進めている。
著者
川田 順造 MAXIMIN SAMA BOUREHIMA KA 真家 和生 竹沢 尚一郎 嶋田 義仁 KASSIBO Bourehima SAMAKE Maximin
出版者
東京外国語大学
雑誌
海外学術研究
巻号頁・発行日
1986

62年度は前年度に行った第1回の現地調査の総括にあてられた. 現地調査には, 交付申請書に記した日本側4名, マリ側2名のほか, 日本側2名(山口大学講師安渓遊地, 東京大学教務補佐員中村雄祐), マリ側1名(マリ高等師範学校教授サンバ・ディアロ)が部分的に現地参加し, 報告書作成にも加わった. 現地調査第1年度の研究実積の概要は下記の通りである.1.物質文化の観点からみたニジェール川大湾曲部地方の特質(研究分担/川田順造):この地方は, 古くから北アメリカのアラブ・イスラム文化とサハラ以南の黒人アフリカ文化の大接点の一つであり, 両文化の相互交渉から数々の独自の文化が形成された. それらのうち文化史上重要な(1)騎馬文化, (2)織物と衣服の文化, (3)楽器, 特に弦楽器の発達と専門化した世襲の楽師集団, (4)非焼成の練り土によるモスクなどの大建造物等について, 系譜の解明と型式分類を試みた.2.身体技法と技術(研究分担/川田順造, 真家和生):身体の形質的・生理学的特徴・自然条件, 文化的条件に従って, 地域・社会により異なる身体技法は, 伝統的技術や物質文化と深いかかわりをもっている. 本研究では, この地方に顕著に見いだされる身体技法のうち, (1)両足をのばしたままの深い前倒姿勢による作業の意義, (2)頭上運搬と歩容の関係, (3)作業台としての足の使用及び足の技巧的使用について分析した.3.牧畜民社会の生態学的基盤と階層分化(研究分担/嶋田義仁):この地域で有力な牛牧民フルベ族の社会は, 氾濫原の稲作民などとの間に共生関係を作ってきた. その共生関係と自然条件との関わり, フルベ社会の階層分化のあり方を検討した.4.漁民・狩猟民と農耕民の共生関係(研究分担/安渓遊地):ニジェール川の大湾曲部には, 漁労とともにカバなど水生動物の狩猟も行ってきたボゾ族という集団がいる. 彼らと農耕民をはじめとする他の近隣集団との関係は, この地方の社会・文化を理解する一つの鍵となる. 安渓がこれまで長期間の調査を行ったザイール東部の漁民社会の研究成果をふまえて, 基本的な問題設定と検討を行った.5.市街地における小家畜飼育(研究分担/サンバ・ディアロ):この地域の都市に定着した牧畜民の中には, ヤギ, ヒツジなどの有蹄類小家畜を飼育するものが多い. この研究では, かつてのバンバラ王国の王都だったセグーにおける「都市的牧畜」の様相を, 実態調査によって明らかにした.6.ニジェール川大湾曲部デルタにおける漁業の変遷(研究分担/ブーレイマ・カシーボ):この地域の漁業は, 19世紀末のフランスによる植民地以前から現在まで大きな変遷を経ている. かつての大規模な集団網漁から, 原動機付き小型船, 個別化した小型の漁具による漁法の個別化, 漁業権の国有化, 組合の形成, 流通の組織化などがもたらした変化について具体的事例に基づいて分析した.7.漁民の技術的・社会的変化と宗教的変化(研究分担/竹沢尚一郎):この地域の漁民社会には, 水の精霊の信仰と, その儀礼を司り, 漁業権も掌握している「水の主」の制度があった. 漁法の個別化と漁業水域の拡大, 漁業権の国有化等によって, 水の主の存在が無力化され, 水の精霊への信仰も変化した. イスラムの侵透はこうした変化と呼応して, 漁民ボゾ族の宗教・儀礼体系を変えつつある.8.バンバラ族における結社(研究分担/マキシマン・サマケ):ニジェール川大湾曲部西部地方の農耕民であるバンバラ族の社会には, 入社式を伴うさまざまな結社が存在する. この研究ではその一つである「コテ」結社について宗教的側面とともに, 社会の下部組織としての機能を, 現地調査に基づいて分析した.9.村落社会における楽師の社会的位置(研究分担/中村雄祐):ニジェール川大湾曲部地方の社会には, 専門化した世襲の楽師集団がある. この研究は, サン地方での調査に基づき, 彼らの社会的役割, 歌による賛美という職能と, 社会によって彼らに公認されている物乞いとの関係を分析した.以上, 今回の調査では, 多面的な共生社会でありながら, 従来その多面性が明らかにされていなかったニジェール川大湾曲部のとくに西部諸地方の社会について, いくつかの重要な側面を, まだその第一歩ながら解明することができ, 国際学界の視野でも新しい貢献をなしえたと思われる. 今後この方向での調査研究を深めるとともに, ニジェール川大湾曲部の中部・東部にも研究対象を拡大してゆく考えである.
著者
高垣 敏博 ルイズ アントニオ 上田 博人 宮本 正美 福嶌 教隆
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

スペイン語圏都市でアンケート調査を実施することにより、スペイン語文法における重要な統語的テーマの地理的変異を明らかにし、統語研究に生かすのが目的である。それまでの6年間にわたる調査・研究に加え、新たにこの3年間の調査により、スペイン9地点、中南米12都市での調査を終え多くの事実が明らかになった。この成果は、本研究のHPhttp://lecture.ecc.u-tokyo.ac.jp/~cueda/kenkyu/bunpo/varigrama/で見ることができる。
著者
酒井 啓子 飯塚 正人 保坂 修司 松本 弘 井上 あえか 河野 毅 末近 浩太 廣瀬 陽子 横田 貴之 松永 泰行 青山 弘之 落合 雄彦 廣瀬 陽子 横田 貴之
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

9-11事件以降、(1) 米国の中東支配に対する反米意識の高まり、(2) イスラエルのパレスチナ攻撃に対するアラブ、イスラーム社会での連帯意識、(3) 国家機能の破綻に伴う代替的社会サービス提供母体の必要性、を背景として、トランスナショナルなイスラーム運動が出現した。それはインターネット、衛星放送の大衆的普及によりヴァーチャルな領域意識を生んだ。また国家と社会運動の相互暴力化の結果、運動が地場社会から遊離し、トランスナショナルな暴力的運動に化す場合がある。
著者
西谷 修 中山 智香子 米谷 匡史 真島 一郎 酒井 啓子 石田 英敬 土佐 弘之 石田 英敬 土佐 弘之
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

21世紀グローバル世界秩序の構造的要素である戦争・経済・メディアの不可分の様相を歴史的・思想的に解明し、前半部を「ドキュメント沖縄暴力論」(B5、171ページ)として、また後半部を「グローバル・クライシスと"経済"の再審」(B5、226ページ)としてまとめた。
著者
菅野 裕臣 菅原 睦 柳田 賢二 池田 寿美子 ムハメ フセーゾヴィチイマーゾフ ラシド ウマーロヴィチユスーポフ アリ アリーイェヴィチジョン マネ ダヴーロヴィチサヴーロフ マハンベト ジュスーポフ アジズ ジュラーイェフ ブルット インノケンチイェヴィチキム 劉 勲寧
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

クルグズスタンとウズベキスタンのドゥンガン人計4名を日本に招聘してドゥンガン人に関する国際集会を持ったが,これはドゥンガン人研究者の初めての日本訪問であり,これを基礎に日本ドゥンガン研究会が発足することになり,その論集を作成することが出来た.さらに研究組織は上記2国を訪れ,またウズベキスタンのウズベク人,カザク人,高麗人研究者を招聘して,中央アジアの多言語状況についての研究・報告を行った.
著者
飯塚 正人 大塚 和夫 黒木 英充 酒井 啓子 近藤 信彰 床呂 郁哉 中田 考 新井 和広 山岸 智子
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

ムスリム(イスラーム教徒)を反米武装闘争(「テロ」)に駆り立ててきた/いる,ほとんど唯一の要因と思われる「イスラームフォビア(ムスリムへの迫害・攻撃)」意識の広範な浸透の実態とその要因,また「イスラームフォビア」として認識される具体的な事例は何かを地域毎に現地調査した。その結果,パレスチナ問題をはじめとする中東での紛争・戦争が世界中のムスリムに共通の被害者意識を与えていること,それゆえに反米武装闘争を自衛の戦いとして支持する者が多く,反イスラエル武装闘争を支持する者に至っては依然増加を続ける気配であることが明らかになった。
著者
中山 俊秀 大島 稔 中山 俊秀
出版者
東京外国語大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2000

本研究最終年度である平成14年度は、研究成果の取りまとめに力を入れる一方、引き続き現地調査も行い、言語資料の量・質両面でのよりいっそうの充実をはかり、古アジア諸語研究の基盤整備をすすめることができた。また、これまで蓄積されてきた古アジア諸語の記述研究の成果をより広いコンテクストにおくべく、北太平洋を挟んで対峙する北米北西海岸地域の言語・文化の記述研究も並行して行った。チュクチ・カムチャツカ語族のアリュートル語に関しては、研究協力者の永山ゆかり(北海道大学大学院)が、ロシア連邦カムチャツカ州のコリヤーク自治管区においての現地調査を実施した。アリュート語については、研究協力者の大島稔(小樽商科大学教授;H14文部科学省在外研究員)がコマンドルスキー諸島ベーリング島においてアリュート語ベーリング島方言及びメドヌイ島方言に関する調査を実施した。研究代表者および研究協力者の中山久美子(カリフォルニア大学大学院)は北米北西海岸側の調査をカナダ、ブリティッシュ・コロンビア州のバンクーバー島西岸で行った。これらの現地調査で得られた言語の一次資料はこれまでの調査研究による資料とともに電子化した。語彙・文法データはデータベース化し資料の利用価値・利用効率を高め、音声はデジタル化し音質の劣化を防ぐとともにやはりデータとしての扱いやすさを向上させた。調査研究の成果刊行物としてはさらに文法概説およびテキスト集3編をまとめ、さらに、ロシア人研究者の著したアリュートルの言語と民話についての記述の翻訳作業を進めた。
著者
加藤 雄二
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究の課題は、アメリカの作家と作品とおもに日本におけるそれら受容史を、歴史的経緯と現代における文学の理論的理解を考慮に入れながら議論することであった。初年度平成15年度にはアメリカ作家ハーマン・メルヴィルと日本における受容史に焦点をあて、日本の第二次世界大戦前後の文学的風土がきわめてつよくロマン主義を思考しており、反ロマン主義的な側面を強く持つメルヴィルの作品とは相容れない本来的な齟齬をきたしていた様を描写した。次年度には、メルヴィルについての研究でその重要性があきらかになった1970年代以降の日本でのアメリカ文学の受容に焦点をあて、作家村上春樹によるアメリカ作家スコット・フィッツジェラルドの影響の源としての利用が、日本におけるアメリカ文学受容の理論的に重要な側面を代表していることを示そうとつとめた。16年度の後半には、アメリカの現在のアメリカ文学研究のありかたをよりよく知ろうとつとめると同時に、日本の戦後のコンテクストにおいて最も重要であると思われるアメリカ作家ウィリアム・フォークナーの受容と研究を、日本の文学の展開と並行するかたちで議論しようとつとめた。これらの研究によって、戦後開始された日本におけるアメリカ文学研究の問題点がいくぶんか明確になり、今後の研究に資することが可能となっただろう。
著者
荒 このみ
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

アメリカ合衆国の宗教組織「ネイション・オブ・イスラム」の前史から今日に至る<イスラーム>の文化表象を調査・研究し、その主要人物マルコムXについての考察を深めた。その成果を部分的にはすでに紀要論文に発表しているが、総まとめとしての研究成果は、単行本として発表することになっており、今年中に刊行予定である。
著者
家島 彦一 PETROV Petar GUVENC Bozku 鈴木 均 寺島 憲治 佐原 徹哉 飯塚 正人 新免 康 黒木 英充 西尾 哲夫 林 徹 羽田 亨一 永田 雄三 中野 暁雄 上岡 弘二 CUVENC Bozku
出版者
東京外国語大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

本プロジェクトは、広域的観点から、西は東欧・トルコから東は中国沿岸部までを調査対象とし、様々な特徴をもつ諸集団が移動・共存するイスラム圏の多元的社会において、共生システムがどのように機能しているかを、とくに聖者廟に焦点を当てて調査研究した。平成6年度はブルガリア・トルコの東地中海・黒海地域を重点地域とし、共生システムの実態について調査した。平成7年度は、ペルシア湾岸地域(イラン・パキスタン)を重点地域とし、主にヒズル廟に関する現地調査を実施した。平成8年度は、さらに東方に対象地域を広げ、中国沿岸部と中央アジア(新疆・ウズベキスタン)を中心に聖者廟などの調査を実施し、あわせてトルコとイランでヒズル信仰に関する補充調査を行なった。共生システムの様相の解明を目指す本研究で中心的に調査したのは、伝統的共生システムとして位置づけられる聖者廟信仰・巡礼の実態である。とくにヒズル廟に着目し、地域社会の共生システムとしていかに機能しているか、どのように変化しつつあるかについて情報を収集した。その結果、ヒズル信仰がきわめて広域的な現象であり、多様な諸集団の共存に重要な役割を果たしていることが明らかになった。まず、トルコでの調査では、ヒズル信仰が広範に見られること、それが様々な土着的ヴァリエイションをもっていることが判明した。ペルシア湾岸地域では、ヒズル廟の分布と海民たちのヒズル廟をめぐる儀礼の実態調査を行った結果、ペルシア湾岸やインダス河流域の各地にヒズル廟が広範に分布し、信仰対象として重要な役割を担っていることが明らかになった。ヒズル廟の分布および廟の建築上の構造・内部状況を相互比較し、ヒズル廟相互のネットワークについてもデータを収集した。興味深いのは、元来海民の信仰であったヒズル廟が現在ではむしろ安産・子育てなどの信仰となり、広域地域間の人の移動を支える機能を示している点である。さらに中国では、広州・泉州などでの海上信仰の検討を通じて、イスラムのヒズル信仰が南宋時代に中国に伝わり、媽祖信仰に影響を与えたという推論を得た。また、中央アジアの中国・新疆にも広範にイスラム聖者廟が分布しているが、墓守や巡礼者に対する聞き取り調査を行った結果、ヒズル廟などと同様、聖者廟巡礼が多民族居住地域における広域的な社会統合の上で占める重要性が明らかになった。聖者廟の調査と並行して、多角的な視点から共生システムの様相を調査研究した。一つは、定期市の調査である。イラン北部のウルミエ湖周辺における調査では、いくつかの定期市サークルが形作られていることが判明した。また、パキスタンではイスラマバ-ド周辺の定期市、新疆ではカシュガルの都市および農村のバザ-ルで聞き取り調査を実施し、地域的なネットワークの実態を把握した。他方、ブルガリアでは、聞き取り調査により伝統的な共生システムがいかに機能しているかについて情報収集を行い、宗教的ネットワークを中心として伝統的システムとともに、現在の共生システムがどのような状況にあるかについて興味深い知見を得た。キプロス・レバノン・シリアでは現在、宗教・民族対立をヨーロッパによる植民地支配の遺産ととらえ、かっての共生システムの回復を試みている様子を調査した。いま一つは、言語学的観点から共生システムをとらえるための調査で、多様な民族・宗教集団が共存するイスラエル・オマーン・ウズベキスタンで実施した。イスラエルでは、ユダヤ・イスラム・キリスト3教徒の共存に関する言語学的・民俗学的データを収集した。また、ウズベキスタンでは多言語使用状況の調査を行い、共和国独立後、ウズベク語公用語化・ラテン文字表記への転換といった政策にもかかわらず、上からの「脱ロシア化」が定着とはほど遠い実態が明らかになった。以上のように、イスラム圏の異民族多重社会においては、多様な諸集団の共存を存立させる様々なレベルにおける共生システムが広域的な規模で機能している。とくに、代表的なものとして、聖者廟信仰・巡礼の実態が体系的かつ具体的に明らかになった。
著者
陶安 あんど
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、出土簡牘資料によって齎された秦代と漢代初期の二つの司法文書集成を整理・分析し且つ通常の行政文書と比較研究することを通じて、行政文書の書式、行政的な「裁き」の構造、文書行政による労働負担と資源の配分原理、及び文書集成による法的知の形成と伝承の解明に努めた。中国で中国籍以外の研究者が出土資料の整理を担当するのが史上初めての試みで、日本の法制史研究及び簡牘研究の成果を国際的に発信し、日中学術交流にも画期的な貢献をした。