著者
安仁屋 政武 幸島 司郎 小林 俊一 成瀬 廉二 白岩 孝行 リベラ アンドレ カサッサ ジーノ 和泉 薫
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1998

1998年は北パタゴニア氷原のソレール氷河とソレール河谷を対象とした研究が行われ、以下のような知見を得た。完新世の氷河変動の研究では、ソレール氷河とソレール河谷のモレイン分布調査から、ヤンガー・ドライアス(約10,500前)と2000BPの氷期が推定されるが、詳しくは年代測定結果が出るのを待っている。ソレール氷河では流動、表面プロファイル、歪みを調査し、さらに水文観測と気象観測を行い、氷河のダイナミクスとの関係を考察した。これにより、底面辷りが流動に大きな割合を占めていることが示された。さらに表面プロファイルの測定から、1985年以来、42m±5m表面高度が減少したことが判明した。年平均に直すと3.2m±5mである。1998年撮影の北パタゴニア氷原溢流氷河末端の空中写真から、1995年(前回調査)以後の氷河変動を抽出した。これによると、1つの氷河(サン・ラファエル氷河)を除き全てが後退していた。さらに1999年撮影の空中写真からは興味深いことが判明した。それは1990年以降唯一前進していたサン・ラファエル氷河が、1998年から1999年にかけて後退したことである。このことから、1990年以降の前進は、従来考えられていた1970年代の雨量増加というよりも、フィヨルドの地形と氷河ダイナミクスによる公算が大きくなった。1999年度の調査は南氷原のティンダール氷河の涵養域(標高1760m)でボーリングを行い、現地観察に加えて46mのアイス・コアの採取に成功した。詳しい化学分析はこれからである。ペリート・モレーノ氷河では写真測量によるカーピング活動の記録と氷河流動の推定、さらに湖面の津波観測によるカービング量の推定を行った。また、氷河周辺の湖の水深を測定した結果、深いところで80m程度であった。同じく、ウプサラ氷河が流入しているBrazo Upsalaの水深を測定したが、深いところは700m近くあり、氷河のカービングとダイナミクス、後退などを解析する上で重要なデータとなる。
著者
菊地 正 椎名 健 森田 ひろみ
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

スクロール提示とは,限られたスペースに文字を右から左(あるいは下から上)に移動させることで,文章を提示する情報伝達手段を意味する。本研究では,観察者が読みやすいと感じるスクロール提示条件を明らかにするため,以下の研究を行った。1)同時に表示可能な文字数(以後,表示文字数)を1〜15文字の間で操作し,最も読みやすいと感じるスクロール速度(以後,快適速度)に調整するよう観察者に求めた。快適速度は表示文字数に伴って増加するが,表示文字数が5文字以上ではほぼ一定となった。また,街頭に実在するスクロール提示装置の平均スクロール速度(調査対象数242)は,本実験の各表示文字数条件の快適速度と比較して,およそ2倍遅いことが確認された。2)スクロール提示条件における,表示文字数(2,5,15文字)および速度(上記実験結果に基づき,快適速度,その2倍,あるいは1/2倍の速度のいずれかに設定)が操作された。観察者は,それぞれの提示条件から受ける印象について,14項目を7件法で評定するよう求められた。実験の結果,5および15文字条件では,観察者がほぼ同様の印象を受けることが明らかにされた。また全ての表示文字条件において,2倍速条件では,より"理解しにくいと"と評価されやすく,1/2倍速条件では,より"いらいらする"と評価されやすいことが明らかにされた。3)スクロール提示枠の,中央,左端,右端のいずれかの上または下に車仮名一文字が短時間提示された。観察者の課題は,文字刺激に対する無視または弁別反応を行いながら,スクロール提示文を快適速度に調整することであった。実験の結果,文字刺激が提示枠右端に提示される場合,文字刺激に対する課題の有無に関わらず,快適速度が低下することが明らかにされた。このことは,スクロール提示文の読みの最中の有効視野が,提示枠の右側に広く分布している可能性を示している。
著者
金森 修 杉山 滋郎 杉山 滋郎 小林 傳司 金森 修
出版者
筑波大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

金森修は、コンディヤックの『動物論』を分析する過程で、人間と動物との関係を巡る認識的議論にその調査対象が拡大した。その過程で、金森はフランスの重要な科学史家ジョルジュ・カンギレムの仕事に注目するようになった。そして結果としては、コンディヤックの『動物論』自体の分析は、擬人主義論の中ででてくることはでてくるが、副次的なものになり、より射程の広い擬人主義論、そしてカンギレム自体のさまざまな業績を扱った四つの論文、計5篇の論文の形で、その成果をまとめることができた。まず「擬人主義論」では、心理学が擬人主義を放擲かくするに及んで、もともとの研究プログラムを喪失していく過程の分析、比較心理学や動物行動学に伏在する擬人主義の剔抉などを中心に扱った。次の「主体性の環境理論」では、一八世紀から一九世紀初頭にかけて、環境という概念がどのようにその意味あいを変えていくかを巡る史的な分析を行い、それが一九世紀から二○世紀にかけて、主体を環境によって規定された受動的なものとしてではなく、それなりに環境を構成する能動的なものとして把握するという思潮がどのようにでてきたのか、またその考え方の環境倫理学的な意味あいについて分析した。次の「生命と機械」論では、古来からの生物機械論と生気論とが、現代的なバイオメカニックスや人間工学においては、対立ではなく、融合を起こしていること、そのため、人間がどこまで機械として説明できるのか、という問い自身がもはや成立しえないことを論証した。次の「生命論的技術論」では、技術的制作一般を巡る主知主義的な把握を破壊し、技術制作と創造者との間の相即的で相互誘発的な関係を分析した。 次の「美的創造理論」では、アランの美学をカンギレムが分析している文章を精密に分析する過程で、創造行為一般における創発性、規範の存在の重要性などを分析した。杉山滋郎は、平成2年度から4年度に収集した文献資料をもとに、当初の研究目的にそって考察を進めてきた。その結果、「生命観」の概念規定を明確にすることに努めつつ、わが国における「生命観」の時代的変化ならびにその特質について、概念が把握されつつある。現在のところまだ具体的な論考には結晶していないが、必要な資料をさらに収集して、今後しばらく検討を続けたうえで、すみやかに成果を公表する予定である。
著者
中村 逸郎
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究では、モスクワ市内に発生している住民紛争を調査しました。その内訳は、以下のとおりです。(1)共同アパートの住人の間での紛争(2)アパートを取り囲む鉄柵をめぐるアパート住人と周辺住民の間の紛争(3)高級分譲マンション建設と周辺住民の間の紛争(4)アパート修繕をめぐる住人の間の紛争(5)高層ビジネスビル建設をめぐる政財界と近隣住人の間の対立。以上の5つの住民紛争を具体的に取り上げ、関係者にインタビューし、文書と資料を入手しました。住人たちが身近な自治体に紛争の解決を要請しても、多くの場合自治体は権限がないことを理由に、問題を放置しています。今回の調査で判明したのは、住民たちが日常問題をロシア大統領府住民面会受付所に提出していることです。実際に大統領府を訪問すると、ロシア全土からたくさんの住民たちが直訴状を持参しているのです。そこで、住民たちにインタビューを行いました。人びとは身のまわりの地域社会で発生する社会問題をロシア大統領に直訴し、最終的には大統領に裁定を委ねています。地域社会でコミュニティーが登場し、地域社会の問題に深く関つてきていますが、そうした人びとの自立的な動きは皮肉にも、最高権力者の権力基盤を強化しているのです。本研究の成果は、中村逸郎著『帝政民主主義国家ロシアープーチンの時代-』岩波書店、2005年に収められています。
著者
荻野 綱男
出版者
筑波大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

現代日本語の名詞シソーラスを作成しながら、語彙の意味分類の多様性についての研究を行った。現在までに、シソーラスを通して現代日本語の名詞の意味分類ができあがりつつあるが、こうして似た意味の単語をまとめてみると、全体が不整号になる現象が発生する。そこで、ある単語のグループを取り出して、そのグループが確かにグループになっているかどうかを検討することにした。シソーラスに関するさまざまな処理はパソコンを用いて行っているが、プログラムなどの整備が進み、シソーラスの効率的な検索を行うプログラムができあがった。このプログラムの完成によって、パソコン上でわかりやすい形でシソーラスが検索でき、またそれを利用してシソーラスのチャックができるというような態勢ができあがった。また、シソーラス全体を圧縮してフロッピーに格納するコマンド、およびフロッピーからハードディスクに圧縮を解除しながら格納するコマンドも作成した。以上の結果、シソーラスをフロッピー版で公開する用意が整った。
著者
藤原 静雄
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究の目的は、民間部門を包括的に規律するわが国個人情報保護法の次なる課題(第2世代の個人情報保護法の立法課題)を探ることである。研究期間内に実施した研究の成果は大要以下のとおりである。1.比較法研究(1)個人情報保護をめぐる、イギリス、アメリカ、ドイツ、フランス、EU、APECの動向を一通り展望することができた。とくにドイツ、EUについては、現地調査をもとに、運用実態にまで立ち入った分析ができた。(2)諸外国の動向調査は、今後のわが国の立法資料となると考えるし、個人信用情報機関、犯罪と個人情報保護、外国人問題と個人情報保護、マーク制度などの研究は、今後のわが国の個別法制を考える上で参考となると思われる。 '(3)外国の実態調査をもとにしたイギリス・ドイツでの過剰反応問題の分析は、新聞等でも紹介したように、わが国の過剰反応問題を客観的にみることに貢献したと思う。2.国内法制の研究(1)個人情報保護法の各種ガイドライン等の検討を通じて、法の運用実態を分析した。第2世代の立法課題の主要なものは把握できた。(2)安全管理(セキュリティ)についても実態を調査等することで、民間部門を規制する法の在り方を探ることができた。(3)個別法制として重要な、教育、医療、金融についても調査を進めた。とくに、教育分野については、従来の判例答申などを網羅的に検討した。(4)公的分野・私的分野を問わず、法施行後の判例・審査会答申・苦情相談等をできる限り多く収集した。今後の法制の在り方を考える上での基礎作業としての意義は大きいと考える。(5)地方公共団体の個人情報保護条例も主要なもの、特徴のあるものはほぼ検討した。
著者
津田 和彦
出版者
筑波大学
雑誌
筑波フォーラム (ISSN:03851850)
巻号頁・発行日
no.69, pp.120-122, 2005-03

「バカ」 いきなりですが、これがあなたに向けられた言葉なら、あなたはどんな感情を発しますか? 大半の方は"不快"または"怒り"の感情を発すると思います。しかし、「今日は綺麗だよ」と言われた彼女は頬を染めながら言った。「バカ」の「バカ」はどうでしょう?
著者
小林 重雄 肥後 祥治 加藤 哲文
出版者
筑波大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

自閉症児は他者との間で社会的相互作用をもつことを困難としている。これは,他者から発せられる刺激が,強化刺激として機能していないことが第一の原因であると考えられる。つまり,自閉症児に社会的行動をとらせるためには,単純に必要とさせる社会的技能を形成するだけでは不十分で,他者とのやりとりが強化的(楽しい)になる必要がある。本研究では,自閉症児2名を対象として,大人との間の社会的相互作用を社会的強化刺激として機能させるために必要な条件の分析を行った。訓練は,要求文脈利用型指導手続きを用いた。具体的には,子どもの要求が生起しやすいような環境設定を準備し,要求が生起した場合にはすぐに訓練者がその要求を充足する手続きを繰り返し実施した。例えば,棚の上に自閉症児の好きなお菓子を並べておいたり,ひとりでは遊ぶことが困難なおもちゃを床の上に並べて置くなどの操作である。その結果,対象となった自閉症児は,単に要求的な反応を生起させるだけでなく,大人との間で社会的相互作用を求める反応が生起するようになった。つまり,大人に対して特定の物品や遊びを要求するのではなく,大人の注目そのものを求めるような反応が生起するようになった。これは,先行研究で示されているように,1次性強化刺激である要求対象物と,大人の発する刺激(中性刺激)とが対提示されることにより,大人の刺激が条件性強化刺激としての機能を獲得したためであると考えられた。
著者
森 芳樹 吉本 啓 稲葉 治朗 小林 昌博 田中 慎 吉田 光演 沼田 善子 稲葉 治朗 小林 昌博 高橋 亮介 田中 愼 沼田 善子 吉田 光演 中村 裕昭
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

文法理論の拡張にあたって実用論を援用しようとする試みは少なくない。本プロジェクトでは意味論を諸インターフェイスの中心に据えて、コンテクストと文法の相互関係についての研究を進めた。記述上の対象領域としては情報構造とアスペクト, 時制, モダリティー(ATM)を選択し、一方では, パージングを基盤に置いた構文解析を言語運用の分析と見なすDynamic Syntax(DS)の統語理論的な可能性を検討した。他方では、形式意味論・実用論と認知意味論・実用論の双方の成果を取り入れながらテクスト・ディスコースとコンテクストの分析を進めた。 なお本プロジェクト期間中に、当研究グループから4本の博士論文が提出された。
著者
五十殿 利治 井上 理恵 渡辺 裕 上村 清雄 木下 直之 古川 隆久 京谷 啓徳 大林 のり子 阿部 由香子 日比 嘉高 寺門 臨太郎 川崎 賢子 菊池 裕子 江 みなみ
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

芸術の受容者の鑑賞行動に関する史的な研究については、たとえば近代文学史におけるアンケートに基づく読者調査のような基礎的な資料を欠くところから、研究対象にどのようにアプローチするのか、学術的な方法論が問題である。これに関連して研究対象である受容者の様態を検証することも重要である。本研究においては、共同研究により、従来に顧みられなかったカメラ雑誌の月評など、資料の発掘を含めてその方法論が多様であることが明らかとなり、むしろ研究として今後十分な展開の可能性があることが明らかになった。
著者
西嶋 尚彦 長谷川 聖修 尾縣 貢 國土 将平
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

本研究は「子どもの体力低下要因について発育発達および社会生活的側面から体系的,総合的に調査研究し,体カ低下の要因」を究明することを目的とした先行研究プロジェクトを発展的に継承し,子どもの体力向上プログラムの実践的検証と,そのための運動,遊び,生活習慣改善に関する科学的根拠を総合的に解明するものであった.以下の4つのサブプロジェクトを実施した.課題a)走・跳・投などのスポーツに基礎的運動の成就と習熟を決定する主要動作実験協力校を依頼し,関連する単元で疾走向上プログラムを実践し,単元の前後に運動動作の成就と体力を測定した.構造方程式モデリングを適用して,小学生の疾走運動の成就と習熟を決定する主要動作と技能を分析した.課題b)健康のための体力つくり運動の運動特性と体力向上効果実験協力校を依頼し,体力つくりに関連する単元で体力向上プログラムを実践し,新体力テストを用いて体力測定を実施した.小学校と中学校での体力向上プログラムの効果を実践的に検証した.課題c)体力向上に有益な運動遊びの体力・運動特性基本運動の熟練者である体育専攻学生と未熟練者の一般学生男女を対象として,基本的運動遊びである蹴球の体力・動作・運動・戦術特性を検討するために,項目反応理論分析を適用して.蹴球動作・運動・戦術の成就と習熟のための達成度評価基準を分析した.課題d)体力向上のための主体的な生活習慣改善を決定する要因実験協力校を依頼し,体力つくりに関連する単元で体力向上プログラムを実践し,健康習慣,運動習慣,生活時間など健康生活に関する調査と体力測定を実施した.小学生と中学生の体力向上のための主体的な運動生活習慣の改善を決定する要因を分析した.
著者
岡崎 敏雄
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

平成7年度より9年度にわたる資料・先行研究・茨城県下の面接調査の結果、当研究の目的「海外における年少者言語教育研究・日本における帰国子女教育研究の蓄積の結果提出されたCumminsの相互依存の仮説および小野の小学校時代1言語の仮説が、日本的条件下で学習する外国人年少者の諸ケースでどのように妥当しているか、また妥当していない部分についてどのような新たな検討すべき要因があるかを明らかにすること」に関して、両仮説が前提として取り上げた要因群の中に含まれていない(従って海外言語教育研究・帰国子女教育研究では取り上げられて来なかった)「1.日本人教師の外国人年少者の受け入れ観、日本語・母国語教育観」および「2.外国人年少者の父母の日本語・日本社会に対する姿勢、母国。日本語の必要観」の2要因が日本の条件下における年少者言語習得・保持に高い影響度を持つことが示された。以上に基づき、本研究では前者の要因に焦点を当て、これらの教師の持つ言語教育観、またそれらに影響を与える教師・学校の属性それぞれの特色に関わる調査を当研究の一環としてなされた諸ケーススタディを踏まえ、日本語教育を必要とする外国人小中学生の日本語教育担当教師及びクラス担任に対し質問紙調査を実施し、重回帰、クラスター、分散の各分析により分析。考察した。その結果、日本的条件下の教師の言語教育観は、全体として「継続的二言語併行型」を示し、同時に「少数散在型」、「受容型」、「短期滞在注目型」、「滞在エンジョイ型」、「現行制度枠内型」の特徴を示し、属性では「指導した外国人年少者数」、「父母との懇談経験」、「外国人年少者指導研修経験」が大きな影響力を持つことが明らかにされた。
著者
首藤 もと子 小嶋 華津子 キンポ ネイサン サーベドラ ネアントロ フォーシェ キャロル ルイ ジャン=オーグスタン ALICE Sindzingre ANGELA Uforo Shanyo BRAHIMA Songore CLAUDE Sumata EDSON Kenji Kondo 江 時学 MBATIA Hiram Mwangi SAAVEDRA Neantro SEIFUDEIN Adem SHERLON Chi-yin Ip ZHANG Wei Wei
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、中国の開発援助がどのような分野で供与され実施されているか、それは受入側の社会でどのように評価され、どのような経済的、社会的変化をもたらしているかについて、主として受入国での現地調査を基に分析した。平成20~22年度に現地調査を行った国は、アフリカ(タンザニア、ケニア、エチオピア、コンゴ、マリ)、東南アジア(インドネシア、フィリピン、ベトナム、メコン流域諸国)および中南米諸国(ブラジル、ペルー、コスタリカ、キューバ)である。現地調査とは別に、中国の対外援助の政策決定過程についての研究も行った。本研究の成果は2011年中に編集作業を進めて英文で出版する計画である。
著者
斉 光
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

報告者は,平成21年度に実施した研究成果は以下のとおりである。(1)2009年6月20日~25日,北京市にある中央民族大学歴史学部・モンゴル学部を訪問した。(2)6月26日~29日,甘粛省夏河市に所在するゲルク派チベット仏教寺院ラブラン寺に赴き,該寺院が保管している清代青海ホシュート部右翼の有力王公チャガン=ダンジンと彼の子孫・王妃らのお墓,ダライ=ラマが授与した印章,遺物などを調査した。(3)6月30日~7月4日、青海省海南チベット族自治州河南モンゴル族自治県〓案館に行って、清代青海ホシュート部に関連する史料,及び右翼の右力者チャガン=ダンジンと彼の子孫らが使用していたダライ=ラマ授与の印章を収集した。また、河南モンゴル族自治県地方誌を購入した。該自治県は、清代では青海ホシュート部右翼4旗の領地であり,その首長層はほとんどチャガン=ダンジン一族であった。該旗における現地調査から、清朝と青海ホシュート部右翼間の境界線が非常に近くて、康煕・雍正年間において、清朝の軍事牽制策が容易に施行できる状況であったことが明らかになった。(4)7月6日~9日,青海省徳令哈市にある海西モンゴル族・チベット族自治州〓案館に行って,清代青海ホシュート部に関連する〓案史料を収集した。該自治州は清代青海ホシュート部左翼の領地であり,北部のチャイダム盆地ガス地帯はジューン=ガル部に通る軍事的要衝であった。(5)10日,青海湖南部のチャガン=トロガイという地に赴き、清代青海ホシュート部の首長らが会盟して湖神を祭っていた場所を確認した。(5)7月11日~17日,北京にある中国国家図書館善本部・北京大学図書館善太室に赴いて,清代モンゴル年代記・アラシャン=ホシュート旗行政区畫図を収集した。(6)2009年12月9日,筑波大学大学院東洋史研究演習において,博士論文構想発表を行なった。
著者
本田 靖 中井 里史 小野 雅司 田村 憲治 新田 裕史 上田 佳代
出版者
筑波大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2008

本研究は,東アジアにおけるエアロゾルの健康影響,特に死亡への影響を,疫学的手法を用いて明らかにしようとした.日本,韓国,台湾の主要都市における粒子状物質濃度,日別死亡数などのデータを収集した.福岡市など九州地域では粒子状物質濃度に越境汚染の影響が示唆されたが,東京などでは大きな影響は見られなかった.死亡への影響ははっきりしなかったが,福岡で大きいという可能性が示唆された.
著者
米田 真弓 (中川 真弓)
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本研究の柱の一つは、日本中世における願文執筆活動を明らかにすることである。その研究の始発として、中世菅家の礎を築いた菅原為長(1158~1246)に着目した。実用的・幼学書的性格を有するものが多く、作文集・作例集の存在も留意される為長の著作のうち、子孫・後世に影響を与えたと考えられる願文集である『菅芥集』(『続群書類従』所収「願文集」の本来の書名)を取り上げ、各願文を読み解くことによって為長の執筆活動を明らかにし、さらには願主ならびに供養対象者の伝記史料しての位置付けをおこなった。特に書写山円教寺関連の願文に着目し、為長による「性空上人伝」の文献的利用について明らかにして、これを論文にまとめた(「祖師の伝記-菅原為長と性空上人伝-」、阿部泰郎編中世文学と隣接諸学2『中世文学と寺院資料・聖教』竹林舎)。当論文によって、菅原為長の執筆活動だけではなく、中世初期における書写山円教寺の状況の一端が明らかになったと考える。また、研究のもう一つの柱としている寺院調査については、以前より参加している金剛寺科研調査(科研代表者:後藤昭雄氏成城大学)において、仁木夏実氏と共同で同寺所蔵の「無名仏教摘句抄」を閲覧・調査し、解題および影印と翻刻の紹介をおこなった(「金剛寺蔵『無名仏教摘句抄』-解題と影印・翻刻」)。さらに、岡山県倉敷市日差山宝泉寺の所蔵資料調査についても、引き続き現地での調査・検討をおこなった。今後も所蔵者の許可を得て、目録の作成作業を続ける予定である。
著者
木村 富士男 甲斐 憲次
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

雷雨がどこでいつ発生するか正確に予報することは,数値予報をもってしても難しい.気象レーダは現状をとらえる有効な手段であるが,雨粒からのエコーをとらえているため,降水が発生してからでないと観測できない.雲や降水になる前の水蒸気の動態をとらえることが,雷雨をはじめとするメソ擾乱のメカニズム解明と予報のための重要な鍵の一つになっている.本報告では山岳や海陸のコントラストによる熱的局地循環による水蒸気輸送と降水頻度の関係を,野外観測,既存データの解析,数値モデルにより解明しようとしたものである.この研究がスタートした時期にGPSによる可降水量の観測が気象学的解析に耐えうる十分な精度を持っていることが明らかになり,本研究でもこれらのデータを積極的に活用した.この結果,関東地域における夏の一般場が弱く,総観規模の擾乱が弱いときの局所的な降水には以下の特徴があることが示された.1. 内陸では午後から夜に降水頻度が最大となるような日変化を持っている.2. 降水頻度の分布は地形とよい対応が見られる.3. 特に起伏との対応が良く,海陸のコントラストの影響を上回る.4. 山岳地では午後になると降水頻度が高まり,その後次第に平野部に降水頻度の大きな領域が広がる.これらの結果から,夏の関東周辺の山岳地に発生する対流性降水と局地循環による水蒸気輸送は極めて深い関係があることが明確となり,局地循環の活動とそれによる水蒸気輸送を的確に把握することが夏の雷雨を予報する上で重要であることが明らかになった.今後,陸上ではGPS,海上ではSSM/1による可降水量の常時監視ができるようになると,局地循環による水蒸気輸送ばかりでなく,降水に関する短時間予報の精度が大幅に向上する可能性がある.
著者
高橋 宏和
出版者
筑波大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

研究目的:福島、栃木、茨城県にまたがる八溝山地の周辺には、新第三系の砕屑岩や火山砕屑岩が厚く堆積し、またこれらの地域は日本海の拡大に伴う、いわゆるグリーンタフ火成活動の縁辺部でもある。八溝由地の中央にある鷲ノ子山塊の東側、茨城県大子・山方地域の浅川層と大宮地域の桜本層および玉川層には、熱帯ないし亜熱帯性の門の沢貝類化石動物群中の内湾干潟を占めたArcid-Potamid群集カミ認められ、その年代は16Ma付近である。(高橋,2001)。今回、鷲ノ子山塊の北西側にある栃木県馬頭地域の小塙層におけるArcid-Potamid群集の内容とその年代を明らかにするのを目的とした。研究方法・内容:1981年以来数度にわたり馬頭地域の地質調査を行ってきた。これまで、小塙層最下部よりCrassostreaなどの潮間帯砂礫底種、下部の灰緑色凝灰質細粒砂岩からAcila submirabilisなどの浅海砂泥底種、上部の浮石質凝灰岩よりGloripallium crassiveniumなどの岩礁固着性種を採集した。研究成果:馬頭地域東部の冥賀に分布する小塙層最下部の火由礫を含む浮石質凝灰岩中に挟在する浮石を含む灰色泥岩より、Geloina sp., Terebralia sp., Vicarya yokoyamai,"Vicaryella" notoensis, Cerithideopsilla minoensis, Tateiwaia tateiwai, T. yamanariiなどのArcid-Potamid群集の主要構成種が産出し、栃木県側では初めての報告である。GeloinaやTerebraliaの現生種はマングローブ・スワンプに生息し、他の沿岸砂底種を伴わないことから、この貝化石群集は、マングローブ林の海側外縁部の潮汐低地付近を占めた現地性に近い群集であると考えられる。また、近くに植物根を含む泥岩も見られることから、後背湿地の存在も推定される。小塙層最下部のArcid-Potamid群集の産出年代は、宇佐美ほか(1996)による浮ノ遊性有孔虫のOrbulian datumと田中・高橋(1998)による石灰質ナンノ化石からN8/N9境界付近の15.2Maあたりと推定される。これは明らかに他地域のArcid-Potamid群集の産出年代より若く、グリーンタフ火成浩動の末期で日本海の拡大が終了に近づく頃である。一方、茨城県との県境である馬頭地域大山田の新第三系は茨城県大子地域から連続しており、今回、大山田下郷の浅川層下部のサンドパイプに富む砂質泥岩からCerithideopsilla sp.を、灰色泥岩から"Ostrea" sp.を、れきを含む凝灰質砂岩から門の沢貝類化石動物群の代表的な浅海砂底種のDosinia nomurai, Siratoria siratoriensisを採集した。また、上部の泥岩からは沖合泥底種のConchocele bisectaを得た。しかしながら、Arcid-Potamid群集の主要構成種は今のところ採集できていない。これらの地層の上位には巨礫を大量に含む礫岩が不整合に覆っている。この礫岩は馬頭地域の小塙層には見られないもので、おそらく小塙層の堆積前に形成されたものと思われ、大きな造構運動、たとえば棚倉破砕帯や日本海拡大の影響が示唆される。